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平成18年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第3089号特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件
口頭弁論終結日平成17年12月27日
判決
原告チーメイオプトエレクトロニクス
同訴訟代理人弁護士大野聖二
同市橋智峰
同訴訟代理人弁理士片山健一
被告株式会社半導体エネルギー研究所
同訴訟代理人弁護士内田公志
同鮫島正洋
同後藤正邦
主文
1被告は,第三者に対し,文書又は口頭で,別紙物件目録記載の製品が特許番
号第3241708号の特許権を侵害し,又は侵害するおそれがある旨を告知又は
流布してはならない。
2被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成17年4月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3請求第3項に係る訴えを却下する。
4訴訟費用は,10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とす
る。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項と同じ。
2主文第2項と同じ。
3原告の顧客による別紙物件目録記載の製品の譲渡及び譲渡の申出につき,被
告が特許番号第3241708号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを確
認する(以下「本件不存在確認請求」という。)。
第2事案の概要
本件は,後記本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利とし,後記本件製品を
販売する原告の顧客を相手方として,販売禁止等の仮処分を申し立てる被告の行為
等が不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗行為に当たると主張し,原告が,被
告に対し,同法3条1項に基づく差止め,並びに同法4条に基づく損害金及び不法
行為後の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(いずれも一部請求)を求
め,さらに,被告の原告の顧客に対する上記差止請求権が存在しないことの確認を
求めた事案である。
1前提事実
()当事者1
ア原告
原告は,液晶パネル等の製造,販売を主たる業務とする台湾の会社である。
イ被告
,,,,被告は液晶トランジスタ及びそれを応用した薄膜半導体装置の研究開発製造
販売,工業所有権,著作権,ノウハウその他無体財産権の開発,仲介,取得,譲渡及
び貸与等を目的とする株式会社であるが,液晶ディスプレイ等に係る特許権の権利行
使を主たる業務としている。
(以上,争いのない事実)
()本件特許権2
被告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,対象となる特許を「本件特許」
といい,別紙特許公報の特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件特許発明」とい
う。また,本件特許権に係る特許明細書及び図面(別紙特許公報参照)を「本件特許明
細書」という)を有している。。
登録番号特許第3241708号
出願日平成3年3月25日
登録日平成13年10月19日
発明の名称アクティブマトリクス型表示装置
特許請求の範囲請求項1本件特許明細書の該当欄記載のとおり
(争いのない事実)
()構成要件の分説3
本件特許発明の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件を「構成
要件A」のように表記する。)。
A表示部及び保護回路を有するアクティブマトリクス型表示装置であって,
B前記保護回路は,薄膜トランジスタを有し,
C該薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方は,該薄膜トランジスタのゲ
ートに酸化物半導体膜を介して電気的に接続され,
D該薄膜トランジスタのソース及びドレインの他方は,基準の電圧の配線に電気
的に接続されること
Eを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置。
()原告の行為等4
ア原告モジュールの製造,販売
(ア)原告は,平成16年10月以前から,台湾において,液晶モジュール(型名V
270W1-L03。以下「原告モジュール」という。)を製造,販売していた。,
(争いのない事実)
(イ)また,原告は,平成16年10月以前から,台湾において,原告モジュール
と同一の構成及び動作をする30インチ液晶テレビ用のモジュール(以下「申立外30
モジュール」という。)を製造し,販売していた。
(甲8)
イ原告モジュールの構成及び動作
原告モジュールの構成及び動作は,別紙原告モジュール説明書のとおりである。
(争いのない事実)
ウ原告の顧客の行為
(ア)台湾法人TATUNG社(以下「TATUNG社」という。)は,平成16年
10月以前から,台湾において,原告モジュールを組み込んで別紙物件目録記載の液
晶テレビ(以下「本件製品」という。)を製造し,これを日本の輸入業者が輸入し,小
売業者である株式会社西友(以下「西友」という。)に販売した。,
西友は,同月28日,消費者に対し,本件製品の販売を開始した。
(争いのない事実)
(イ)また,TATUNG社は,平成16年10月以前から,台湾において,申立
外30モジュールを組み込んでDURAブランドの30V型液晶ワイドテレビ型名L
CD-SY30A(以下「申立外30テレビ」という。)を製造し,これを日本の輸入
業者が輸入し,西友に販売した。
西友は,同月28日,消費者に対し,申立外30テレビの販売を開始した。
(甲3,8)
()構成要件の一部充足5
本件製品は,構成要件A,B及びEを充足する。
(争いのない事実)
()被告の行為6
ア本件仮処分申立て
(ア)被告は,平成16年12月1日,東京地方裁判所に対し,西友を相手方とし
て,本件製品の販売等の差止めを求める仮処分命令の申立てをした(以下「本件仮処分
申立て」といい,この申立てに係る事件を「本件仮処分事件」という。)。
(争いのない事実)
(イ)西友は,同月15日,本件仮処分申立ての結果,本件製品及び申立外30テ
レビの販売を停止し,TATUNG社に対し,残っていたすべての製品を返品した。
(争いのない事実,甲8)
イ本件記者発表
(ア)被告は,本件仮処分申立後,本件仮処分申立ての事実や本件仮処分事件に
おける自己の申立内容や事実的主張,法律的主張の内容を説明するために,報道機
関への発表を行った(以下「本件記者発表」という。)。
(イ)日経BP社は,本件記者発表及び他の取材結果に基づき,同月15日に別
紙記事目録1記載の記事を,同月16日に別紙記事目録2記載の記事を,それぞれ
インターネット上で不特定又は多数の者に閲読可能な状態に置いた。
(ウ)日経新聞社は,本件記者発表及び他の取材結果に基づき,同月16日,別
紙記事目録3記載の記事をインターネット上で不特定の者に閲読可能な状態に置
き,別紙記事目録4記載の記事を掲載した全国紙を販売した。
(甲4,5,9,10,弁論の全趣旨)
2争点
()本件不存在確認請求について,訴えの利益が認められるか。1
()原告モジュールは,構成要件C(酸化物半導体膜)を充足するか。2
()原告モジュールは,構成要件D(基準の電圧)を充足するか。3
()本件特許権には,進歩性欠如等の無効理由が存在するか。4
()本件仮処分申立て及び本件記者発表は,不正競争防止法2条1項14号の5
営業誹謗行為に当たるか。
()原告の損害額はいくらか。6
3争点()(訴えの利益)に関する当事者の主張1
()被告の主張1
ア本件不存在確認請求において,原告の顧客は具体的に特定されていないか
ら,本件不存在確認請求は,確認対象としての適格性を欠いている。
イ原告が,他人間の権利義務である被告の原告の顧客に対する差止請求権の
有無について確認を求める必要性は認められない。他人間の権利義務につき確認を
求めることにより原告自身の利益につき救済を求めているものだとしても,そのよ
うな利益は,せいぜい反射的利益にすぎない。
ウ確認の訴えにおいては,原告の権利ないし法的地位につき危険ないし不安
が現存しており,その除去のため確認判決によって即時に権利ないし法的地位を確
定する必要がなければならないところ,本件仮処分事件は,紛争として解決済みで
あるし,被告がTATUNG社を相手方として,本件特許権に基づき,特許権侵害
行為差止請求又は同仮処分申立てを行った事実はなく,今後行う予定もない。
したがって,本件不存在確認請求につき,確認の利益は存在しない。
エ原告は,本件不存在確認請求ではなく,本件特許権につき無効審判請求を
することにより,被告との間の紛争を解決することができる。
()原告の主張2
ア本件製品は,別紙物件目録の記載により特定されており,物件の特定につ
いて何ら疑義はない。また,原告の顧客とは,原告から原告モジュールを購入し,
それを搭載した本件製品を製造したTATUNG社,又は本件製品を購入する者で
ある。
イ他人間の権利関係の確認であっても,確認の利益が認められる。
ウ確認の利益の判断に当たり,被告からの特許権侵害行為差止請求又は同仮
処分申立てという法的手段が現に執られたことが要求されるものではない。
,,,,さらに本件においては被告は本件製品を販売していた西友を相手方として
本件仮処分申立てを行っているから,西友に本件製品を納品していたTATUNG
社を含めた顧客,及びTATUNG社に原告モジュールを販売した原告における不
安・危険は既に現実化していることに疑問の余地はない。
エ無効審判請求制度の利用で足りる旨の被告の主張は,特許権侵害差止請求
権不存在確認の訴えと無効審判請求の制度とが併存していることを否定するに等し
い。
また,原告は,構成要件の充足性についても争っているから,無効審判請求だけ
で適切な救済を得ることができない。
4争点()(構成要件Cの充足性)に関する当事者の主張2
()被告の主張1
ア「酸化物半導体膜」の解釈
(ア)酸化物半導体膜は,一般的に,酸化錫,酸化インジウム,酸化錫インジウ
ム又はそれらの合金や化合物を意味する。
(イ)したがって,構成要件Cの「酸化物半導体膜」も,その文言の意味すると
おり,酸化錫,酸化インジウム,酸化錫インジウム又はそれらの合金や化合物を意
味すると解釈すべきである。
(ウ)本件特許発明において「酸化物半導体膜」を用いる意義は,本件明細書の
【0010】に「また,表示部分の薄膜トランジスタの作製と同時に作製すること
が望まれる」と記載されているとおり,表示部の薄膜トランジスタと保護回路部。
の薄膜トランジスタの同時作製という目的を達成することにあるから,構成要件C
の「酸化物半導体膜」の意義を,その他の要件を付加して限定解釈すべき理由はな
い。
イ本件ITO膜
(ア)別紙接続図面のTFT1のドレインDに接続されたドレイン電極とゲート
電極(E)は,本件ITO膜を介して電気的に接続されている。
(イ)ITOは,酸化物半導体の一具体例である。
(ウ)よって,本件ITO膜は,構成要件Cの「酸化物半導体膜」に当たる。
(エ)後記原告の主張イ(イ)(本件ITO膜の抵抗値等)は不知。
()原告の主張2
ア「酸化物半導体膜」の解釈
(ア)被告の主張アのうち,(ア)は認め,(イ)及び(ウ)は否認する。
(イ)abないしdの本件特許明細書の記載を合理的に解釈すると,本件特許発
明は,ソース・ドレイン間の抵抗に比べて相対的に抵抗の大きい酸化物半導体膜を
用い,酸化物半導体膜に電圧の一部を負担させることによって,保護回路部の薄膜
トランジスタ等のゲート絶縁膜の破壊を防止するという効果を奏するものであると理
解される。
また,eのとおり,ITO膜は,抵抗として機能するものに限定されている。
したがって,構成要件Cの「酸化物半導体膜」は,薄膜トランジスタのソース・ド
レイン間の抵抗をほとんど無視できる程度の大きな抵抗値を持つ酸化物半導体膜と限
定して解釈すべきである。
b「薄膜トランジスタのソース・ドレイン間に過大な電圧がかかることによっ
ても,それはゲイト電極とチャネル形成領域との間の電圧が大きくなり,間接的にゲ
イト絶縁膜の破壊につながる」(【0008】)
c「図6および図7ではソース・ドレイン間の抵抗については何ら記述がない
が,この値を考慮することはソース・ドレイン間の電圧を決定する上で重要である。
一般的な薄膜型トランジスタにおける値としては,例えば,チャネル長が10μm,
チャネル幅が10μmのNチャネル型薄膜トランジスタで10~10Ωが得られて811
いる。この値はかなり大きいように思えるが,抵抗率10Ω・cmの高抵抗多結晶シ6
リコン,あるいはアモルファス(セミアモルファス)シリコンを用いて,長さ10μ
m,幅1μm,厚さ0.1μmの線状体の抵抗は10Ωとなり,上記の薄膜トラン12
ジスタの抵抗はほとんど無視できる」(【0025】)。
d「これらの保護回路で使用される抵抗としては,このように珪素を主とする
材料を用いてもよいし,金属材料や金属と珪素との合金,各種化合物半導体(例えば
酸化錫,酸化インジウム,酸化錫インジウム等)を用いてもよい」(【0026】)。
eまた,本件特許明細書の【0038【0065】及び【0069】に】,
おいて,ITO膜は抵抗として機能する配線として挙げられている。
イ本件ITO膜
(ア)被告の主張イ(ア)及び(イ)は認め,(ウ)は否認する。
(イ)a本件ITO膜の抵抗値は,約44Ωである。
bTFT1のソース・ドレイン間の抵抗値は約10~10Ωである。811
cよって,本件ITO膜の抵抗値は,TFT1のソース・ドレイン間の抵抗に
比べて,極めて小さい抵抗値を有するにすぎない。
5争点()(構成要件Dの充足性)に関する当事者の主張3
()被告の主張1
ア「基準の電圧」の解釈
(ア)構成要件Dの「基準の電圧」とは,保護回路の薄膜トランジスタのソース
又はドレインと電気的に接続され,表示部の素子の破損を発生させるような過大なサ
ージ(静電気)が加わった場合に保護回路を介してこれを導く配線のことである。
(イ)後記原告の主張ア(イ)(意見書の記載)は認める。ただし,当該箇所は,本
件特許の請求項11に係る発明についての記載である。
イ配線L
原告モジュールにおける配線LとTFT1との接続(別紙接続図面参照)は,構成
要件Dを充足する。
()原告の主張2
ア「基準の電圧」の解釈
(ア)被告の主張ア(ア)は否認する。構成要件Dの「基準の電圧」は,薄膜トラ
ンジスタのソース又はドレインと直接的に接続され,かつ,電圧が固定されたもの
と解釈されるべきである。
(イ)被告が特許庁に提出した平成13年7月10日付け意見書(甲11)には,
基準の電圧は「基準となるように固定された電圧」であるとの記載(5頁)がある。
イ配線L
(ア)被告の主張イは否認する。
(イ)配線LとTFT1のソース電極との間にTFT3が存在しているから,直
接的に接続されていない。
(ウ)配線Lの電圧は,液晶モジュールのスキャンライン及びデータラインの双
方の電圧に依存して変動するから,電圧が固定されていない。
6争点()(無効理由の存否)に関する当事者の主張4
()原告の主張1
ア進歩性欠如の無効理由その1
。「」。,(ア)甲36(特開平2-115826号公報以下引用例1という)には
アクティブマトリクス型表示装置において「絵素部」と「ソース配線終端部」にお,
いてITO透明電極(4)とMoSi層(11)とを電気的に接続するための開口部が同2
一の製造工程で形成され,かつ「ソース配線終端部」のITO透明電極(4)は「絵素,
部」のITO透明電極(4)と同一材料であるから「絵素部」とは離間された「ソース,
配線終端部」における電気的な接続に,画素電極と同じ材料を用いることで,絵素部の
作製と同時に周辺領域の回路が作製できるというプロセス的な作用効果を有する発明が
記載されている(以下,この発明を「引用発明1」という。)。
(イ)また,このような電気的接続手段としてのITO膜が引用例1に開示され
ている以上,薄膜トランジスタのゲートに電気的に接続するための配線として「酸
化物半導体膜」を用いることに何らの困難性も認められない。
(ウ)まとめ
よって,本件特許発明は,引用例1に記載された発明と当業者の技術常識に基づ
いて,当業者が容易に発明できたものである。
イ進歩性欠如の無効理由その2
(ア)引用発明等
a引用発明2
甲20の1(特開昭63-10558号公報。以下「引用例2」という。)の第1図
には,表示部及び保護回路を有するアクティブマトリクス型表示装置であって,同保
護回路は,薄膜トランジスタ(第1図のTFT1やTFT2)を有し,同薄膜トランジ
スタのソース及びドレインの一方は,同薄膜トランジスタのゲートに電気的に接続さ
れ,同薄膜トランジスタのソース及びドレインの他方は,基準の電圧の配線に電気的
に接続されることを特徴とするアクティブマトリクス型表示装置が記載されている(以
下,この発明を「引用発明2」という。)。
b周知技術
次の特許文献等によれば,本件特許の出願当時,ITOを導電膜として用いるこ
とは周知の技術であった。
甲36(特開平2-115826号公報),
甲37(特開昭54-127598号公報),
甲38(特開昭59-149605号公報),
甲39(特開昭60-39710号公報),
甲40(特開昭61-190808号公報),
甲41(特開昭62-157618号公報),
甲42(特開昭63-81975号公報),
甲43(特開昭64-90560号公報),
甲44(技術文献「岩波理化学事典第5版」953頁),
甲45(技術文献「よくわかる最新ディスプレイ技術の基本と仕組み」93頁),
甲46(技術文献「液晶ディスプレイ技術」68頁),
甲47(技術文献「透明導電膜の技術」81頁)
(イ)一致点及び相違点
a本件特許発明と引用発明2とは,薄膜トランジスタのソース及びドレインの
一方と薄膜トランジスタのゲートとの接続につき,本件特許発明は酸化物半導体膜を
介した接続と限定しているのに対し,引用発明2にはその旨の記載がない点で相違し
(以下「相違点1」という。),その余の点で一致する。
b被告は,相違点2の存在を主張するが,本件特許発明の要旨を認定するに当
たって「酸化物半導体膜」を表示部で用いられる酸化物半導体膜と同一材料の酸化,
物半導体膜に限定して解釈すべき理由はない。
(ウ)相違点についての判断
,。a引用発明2に周知技術を組み合わせることは当業者にとって容易である
,,,b仮に被告主張の相違点2があるとしても引用発明2及び引用発明1は
いずれも液晶表示装置における静電破壊防止技術に関するものであるから,両者を組み
合わせることは,当業者にとって容易である。
(エ)まとめ
よって,本件特許発明は,引用発明2に周知技術又は引用発明1を組み合わせること
によって,当業者が容易に発明できたものである。
ウ実施可能要件又は記載要件違反
(ア)本件特許明細書の【0010】には「薄膜トランジスタの保護回路は,,
・・・正常な駆動電圧は通過させるが,過大な電圧は通過させず,適切にバイパス
させる必要がある」との記載があり,同【0022】には「適切な抵抗R1,。,
R2を選択することによって,ソース・ドレイン間の電圧とゲイト電極の電位を適
切な値にすることができる」との記載がある。。
本件特許明細書中のこれらの記載は,一貫して2つの抵抗を用いてゲート電極の
電位を適切な値にすることについて開示するものであって,表示部で用いられる酸
化物半導体膜と同一材料の酸化物半導体膜を介して電気的に接続して,同時製作に
よるプロセス的効果を得るための実施例等を開示するものではない。
(イ)したがって,被告が2つの抵抗を備えていなくても上記効果を奏すると主
張するのであれば,本件特許発明は実施可能要件(平成6年法律第116号による
改正前の特許法36条4項)に違反し,被告が2つの抵抗を備えていなければなら
ないと主張するのであれば,本件特許発明は記載要件(同改正前の特許法36条5
項1号)に違反する。
エ記載要件違反その2
(ア)本件特許発明は,薄膜トランジスタのソース又はドレインとゲート間の電気
的接続において,その経路の一部のみに酸化物半導体膜が用いられるもの,例えば,
配線金属膜と酸化物半導体膜の直列接続によりソース又はドレインとゲート間が電気
的に接続されるもののように,本件明細書の【0025【0065,図13及び】,】
図15等に記載されるものからは想定し難い態様のものが含まれることになり,特許
を受けようとする発明が明確ではない。
,,。(イ)したがって本件特許発明は記載要件(特許法36条6項2号)に違反する
オ産業上利用することができる発明でないこと
(ア)薄膜トランジスタ等の素子をサージ電圧から保護するための保護回路には,サ
ージ電圧の速やかな低下を可能とするために高い導電性が求められる。仮に,本件特許
明細書中の図6(A)に図示されている回路において,薄膜トランジスタと直列に接続さ
れる抵抗R1及びR2の抵抗値が,薄膜トランジスタのソース・ドレイン間の抵抗をほ
とんど無視できる程度に大きい値(例えば,10Ω)であるとすれば,図6(A)のA12
.,点の電圧が初期値の10%にまで低下するまでに約38分という長い時間を必要とし
サージ電圧を速やかに取り除くことができない。
(イ)さらに,本件特許明細書の【0017】の「図6(A)は,正の過大電圧がかか
ったときにのみ動作して過大電圧をバイパスする回路である・・・一方,A点におけ。
る電位が+50V以下であれば,薄膜トランジスタは高い抵抗として機能し,・・・・」な
る記載は技術的に誤りであり,保護回路として機能し得ない。
(ウ)よって,本件特許発明は,産業上利用することができる発明とは認められず,
特許法29条1項柱書に違反する。
()被告の主張2
ア進歩性欠如の無効理由その1
(ア)原告の主張ア(ア)(引用発明1)は不知。
(イ)同(イ)(酸化物半導体膜を用いることの容易性)は否認する。
本件特許発明は,次の点で,引用発明1と相違する。
a本件特許発明は,薄膜トランジスタを有した保護回路を有すること,
b本件特許発明の同薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方は,同薄
膜トランジスタのゲートに酸化物半導体膜を介して電気的に接続されること,
c同薄膜トランジスタのソース及びドレインの他方は,基準の電圧の電線に
電気的に接続されること
(ウ)同(ウ)(まとめ)は否認する。
イ進歩性欠如の無効理由その2
(ア)原告の主張イ(ア)(引用発明等)は不知。
(イ)同(イ)a(一致点及び相違点)のうち,相違点1は認め,その余の点で引用発
明2と一致することは否認する。本件特許発明の「酸化物半導体膜」は,本件特許
明細書の【0010【0069】及び図15(B)の記載から,本件特許発明の表示】,
部で用いられる酸化物半導体膜と同一材料の酸化物半導体膜を意味するものと解す
べきであるから,本件特許発明は,ソース及びドレインの一方と薄膜トランジスタ
のゲートとの接続につき,表示部と同一材料の酸化物半導体膜を介した電気的接続
に限定している点でも,引用発明2と相違する(以下「相違点2」という。)。
(ウ)a同(ウ)(相違点についての判断)a及びbは否認する。
b()引用例1は,ソース配線又はゲート配線をショート配線に,薄膜トラa
ンジスタを介することなく,直接かつ常時,接続させることにより,静電破壊を防
止する技術を開示する。これは,製造の過程においてのみ機能する静電破壊防止対
策であることから,単純な構成で静電破壊の防止を実現するものである。
他方,引用例2は,走査線又は信号線とアースラインとの間に薄膜トランジスタを
設けることで,薄膜トランジスタという電子素子を回路上に作り込む手間と費用をか
けることと引換えに,製造の過程のみならず,製品として表示装置を駆動させる場合
にも,静電破壊の防止を実現するものである。このように引用例1と引用例2とは,
作用,機能及び構成が異なるものであり,作用,機能及び構成の異なる発明を組み合
わせることは容易になし得ることではない。
()また,引用例1のITO透明電極が,引用例2にある金属材料からなるb
複数の配線のどの部分に置き換えられるかの示唆はないから,引用発明1と引用発
明2とを組み合せることは到底できない。仮に,引用発明1と引用発明2とを組み
合わせたとしても,引用例1には「ITO層の替わりにゲート配線を用いてもよ,
い(3頁右上欄16,17行目)とあるから,引用発明2の配線の一部に,あえ」
て画素電極と同一材料のITO透明電極を用いる必然性は開示されていないと評価
すべきである。
したがって,引用発明1と引用発明2を組み合わせることは容易ではなく,本件特
許発明は,当業者であっても,容易に発明できたものではない。
()原告が指摘する周知技術は,液晶表示装置における透明電極にITOをc
採用することを開示しているが,表示装置を静電気から保護するための保護回路に
おいて,TFTのソース又はドレインのいずれかと,ゲートの間を電気的に接続す
るための配線材料としてITOを用いることは開示していない。
よって,原告が指摘する周知技術により,保護回路のTFTの「ソース及びドレ
インの一方」と「ゲート」の2点間の配線材料としてITOを用いることが一般的
であると結論づけることはできない。
(エ)同(エ)(まとめ)は否認する。
ウ実施可能要件又は記載要件違反
(ア)原告の主張ウは否認する。
(イ)本件特許発明は「該薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方は,該,
薄膜トランジスタのゲートに酸化物半導体膜を介して電気的に接続され(構成要件C)」
との構成を採用することにより,保護回路領域における当該酸化物半導体膜を表示素
子領域における画素電極と同一のプロセスによって形成することができるという工程
上の利点を有するものであり(本件特許明細書の【0010】参照),その具体的な実
施例は,本件特許明細書の【0069】及び図15(B)に記載されている。
したがって,本件特許発明は実施可能要件も記載要件も,具備している。
エ記載要件違反その2
同エは否認する。
オ産業上利用することができる発明でないこと
(ア)同オ(ア)及び(イ)は,明らかに争わない。
(イ)同オ(ウ)は争う。本件特許発明の構成要件Cにおける「酸化物半導体膜」
は,保護回路における薄膜トランジスタのソース又はドレインとゲートとを接続す
る配線として機能し,保護回路領域における当該酸化物半導体膜を表示素子領域にお
ける画素電極と同一のプロセスによって形成することができるという従来技術には存
在しない作用効果の奏功に寄与するものであるから,産業上利用することができる
発明である。
7争点()(営業誹謗行為性)に関する当事者の主張5
()原告の主張1
ア競争関係
原告と被告とは,競争関係にある。
イ告知,流布
(ア)本件仮処分申立てにより,東京地方裁判所をしてその申立書を西友に送達
させた行為は,西友に対し,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実を告知する
行為である。
(イ)さらに,被告は,本件記者発表により,本件製品が本件特許権を侵害する
との事実を広く世間に流布した。
ウ虚偽の事実
本件製品は本件特許権の技術的範囲に属さず,又は本件特許権には無効理由が存
在するから,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実は,原告の営業上の信用を
害する虚偽の事実である。
エ本件仮処分申立等の違法
(ア)仮に,本件仮処分申立て及び本件記者発表(以下「本件仮処分申立等」と
いう。)が裁判制度の利用として保護されるべきであるとしても,本件製品が本件
特許権の技術的範囲に属さず,又は本件特許権に無効理由が存在することは,一見
して明らかであるから,被告は,本件仮処分の申立等に事実的,法律的基礎を欠く
ことを容易に知ることができた。
(イ)よって,本件仮処分申立等は,不正競争防止法2条1項14号の不正競争
行為に当たり,故意過失も認められる。
オ仮処分申立権等の濫用
(ア)仮に,被告が本件仮処分申立等に事実的,法律的基礎を欠くことを容易に
知ることができなかったとしても,次の(イ)の事実によれば,被告は,不当な条件
で原告に特許ライセンスを受諾させることを目的として,本件仮処分申立等を行っ
て原告に圧力をかけようとしたものであり,本件仮処分申立等は,濫用的なものと
して,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たり,故意過失も認めら
れる。
(イ)a交渉経過
原告は,被告から,原告の製造,販売する製品が被告の保有する特許権を侵害す
るとの警告を受け,平成13年以降,被告との間で,断続的に書簡による意見交換
を行った。
被告が,書簡において,曖昧かつ抽象的に,原告の製造,販売する製品が被告の
保有する特許権を侵害すると主張するだけであったため,原告は,議論を促進する
ために,被疑物件,対象特許,及び侵害の根拠について情報提供をするように求め
たが,被告は情報提供を拒否し,本件特許権についての言及はなかった。
被告のこのような対応は,企業間の特許紛争において通常のものではない。
b告知の方法
西友を相手方とする本件仮処分申立ては,原告に事前の予告をすることなく行わ
れたものであり,本件仮処分申立後,直ちに本件記者発表が行われた。
c告知の範囲
本件仮処分申立てによって,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実の告知を
受けたのは西友だけであるが,その後の本件記者発表によって,同事実は広く世間
の知るところとなった。
d西友の地位等
()西友は,小売業者にすぎないから,本件製品の詳細を把握しておらず,a
特許侵害仮処分への対応能力はないか,又は極めて小さい。
()また,本件仮処分申立ての約半年前の平成16年6月に,シャープ株式会社b
(以下「シャープ」という。)が台湾東元電機製の液晶テレビを対象として仮処分の申立
てを行ったが,イオン株式会社(以下「イオン」という。)は,迅速に当該液晶テレビを
店頭から撤去した。この事件は,マスコミによって大きく報道された。
()これらの事実によれば,被告は西友が直ちに商品撤去に動くことを十分に予c
期して本件仮処分申立てを行ったことが,強く推認される。
e他の仮処分申立て
被告は,本件仮処分申立後においても,別の小売業者であるバイ・デザイン株式
会社(以下「バイ・デザイン」という。)を相手方として,本件特許権に基づき,原
告モジュールと実質的に同一構造の液晶パネルを搭載する液晶テレビの製造,販売
行為の差止めを求める仮処分の申立てを行った。
f原告を相手方とする提訴の可能性
後記被告の主張オ(イ)fは否認する。
()被告の主張2
ア競争関係
原告の主張アは否認する。
被告は,液晶ディスプレイを製造,販売していない。
イ告知,流布
(ア)同イ(ア)は否認する。
(イ)同イ(イ)は否認する。本件記者発表は,本件仮処分申立ての事実及び同申
立てにおける申立ての内容や一方当事者である被告の事実的主張及び法律的主張の
内容を説明するものにすぎず,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実を流布す
るものではない。
ウ虚偽の事実
同ウは否認する。
エ本件仮処分申立等の違法
同エは否認する。
本件特許権は,特許庁の処分によって権利化されたものであるから,仮に,無効
理由があったとしても,それを容易に知り得たものではない。
オ仮処分申立権等の濫用
(ア)同オ(ア)(権利濫用)は否認する。
(イ)a同(イ)a(交渉経過)のうち,被告と原告が書簡による意見交換を行った
,,。事実及び被告が原告に対する情報提供を拒否したことは認めその余は否認する
被告が原告に対する情報提供を拒否したのは,原告に被告とのライセンス契約を締
結する意思がないことが判明したためである。
b同(イ)b(告知の方法)は認める。
c同(イ)c(告知の範囲)のうち,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実
が広く世間の知るところとなったことは否認し,その余は認める。
d同(イ)d(西友の地位等)()は否認する。()は不知。()は否認する。abc
e同(イ)e(他の仮処分申立て)は認める。
f原告モジュールを製造,販売する原告の行為は,台湾において完結してい
るため,被告は,原告の製造,販売行為につき,日本国内において直接権利行使を
することができない。そのため,被告は,西友等の日本国内の小売業者を相手方と
して本件仮処分申立てなどを行わざるを得なかったものである。
8争点()(損害額)に関する当事者の主張6
()原告の主張1
ア財産的損害
(ア)TATUNG社に対する販売減少による損害
a本件仮処分申立てを受けて,西友は,本件製品及び申立外30テレビの販売
を中止したため,原告のTATUNG社に対する原告モジュール及び申立外30モジ
ュールの販売数量が減少した。
b原告モジュール及び申立外30モジュールの販売単価,販売減少数及び販売
減少額は,次のとおりである。
()原告モジュールa
販売単価380米ドル
販売減少数3万1600台
販売減少額1200万8000米ドル(平成17年5月当時の外国為替取引の
レートである1米ドル105円で換算すると,12億6084万円に相当する。)
()申立外30モジュールb
販売単価480米ドル
販売減少数4400台
販売減少額211万2000米ドル(平成17年5月当時の外国為替取引の
レートである1米ドル105円で換算すると,2億2176万円に相当する。)
,c原告モジュール及び申立外30モジュールの利益率は26%を下らないから
。原告が本件仮処分申立てによって失った利益は3億8547万6000円を下らない
(12億6084万円+2億2176万円)×26%=3億8547万6000円
(イ)TATUNG社に対する補償問題
a原告は,TATUNG社との間で,西友からTATUNG社に返品された
本件製品及び申立外30テレビの補償について係争中であり,TATUNG社から
93万4357.80米ドル(平成17年5月当時の外国為替取引のレートである1
米ドル105円で換算すると,9812万8569円に相当する。)の損害金の支払を
求められている。
b仮に,TATUNG社の原告に対する上記請求が認められたとすれば,原告
は,本件仮処分申立てによって,9812万8569円の損害を被ったことになる。
(ウ)イーヤマに対する販売減少による損害
a株式会社イーヤマ(以下「イーヤマ」という。)は,本件記者発表後,原告
に対し,本件仮処分申立てを理由として,イーヤマの日本市場向け液晶テレビにつ
いては原告の液晶モジュールの購入を中止する旨口頭で通知し,それまで購入して
いた17インチの液晶モジュール(以下「17インチモジュール」という。)及び1
9インチの液晶モジュール(以下「19インチモジュール」という。)の購入を中止
した。
b17インチモジュール及び19インチモジュールの販売単価,販売減少数及
び販売減少額は,次のとおりである。
()17インチモジュールa
販売単価180米ドル
販売減少数1万0624台
販売減少額191万2320米ドル(平成17年5月当時の外国為替取引の
レートである1米ドル105円で換算すると2億0079万3600円に相当する),。
()19インチモジュールb
販売単価270米ドル
販売減少数2544台
販売減少額68万6880米ドル(平成17年5月当時の外国為替取引の
レートである1米ドル105円で換算すると,7212万2400円に相当する。)
c17インチモジュール及び19インチモジュールの利益率は26%を下らな
,。いから原告が本件記者発表によって失った利益は7095万8160円を下らない
(2億0079万3600円+7212万2400円)×26%=7095万8160

イ無形損害
,,,本件仮処分申立て及び本件記者発表によって原告の顧客の多くは原告の製造
販売する液晶モジュールに特許問題があるとの危惧を抱くようになり,原告の営業
上の信用は大きく毀損された。
本件仮処分申立て及び本件記者発表によって毀損された原告の営業上の信用を填
補するための金額は2億円を下らない。
ウ弁護士・弁理士費用
原告は,本訴訟を追行するため,本訴訴訟代理人弁護士及び弁理士をそれぞれ訴
訟代理人として選任し,相当額の報酬を支払うことを約束した。
事案の複雑さ及び原告が台湾の法人であることなどを考慮すると,被告の不法行
為と相当因果関係を有する弁護士・弁理士費用の損害額は,合計2000万円を下
らない。
エ請求額
以上のとおり,本件仮処分申立て及び本件記者発表により,原告が被った損害の
合計額は,7億7456万2729円を下らない。
原告は,本訴において,一部請求として,1000万円及び不法行為後である平
成17年4月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める。
()被告の主張2
原告の主張はいずれも否認する。
第3当裁判所の判断
1争点()(訴えの利益)について1
()本件不存在確認請求は,確認の利益を欠き,却下を免れない。1
()アすなわち,他人間の権利又は法律関係の確認を求めることが許される場2
合があるが,その場合は,原告の法律的地位に対する危険又は不安を除去するため
,。に他人間の権利又は法律関係の確認を求めることが有効適切でなければならない
イ確かに,被告が,日本において原告モジュールを使用した製品の販売業者
に対し,その販売禁止等の仮処分を求めれば,当該販売業者が事実上をその販売を
取り止め,その結果,台湾における原告モジュールの販売量が減少することが考え
られ,本件不存在確認請求が認容されれば,被告の日本における販売業者に対する
差止等の請求が行われなくなり,台湾における原告モジュールの販売量が回復する
ことが考えられる。
しかしながら,仮に本件不存在確認請求につき判決がされたとしても,被告と日
本における販売業者との間に何らかの法的効果が生ずるものではなく,同判決の既
判力により,被告が日本における販売業者に対して差止等を求める判決を得ること
を阻止し得るものでもない。このように,本件不存在確認請求が認容されれば,被
告の日本における販売業者に対する差止等の請求が行われなくなることは,事実上
又は反射的な効果にすぎない。
ウよって,他人間の法律関係である被告の日本における販売業者に対する差
止請求権の不存在を求める本件不存在確認請求が,原告の法律的地位に対する危険
又は不安を除去するために有効適切であると認めることはできない。
2争点()(構成要件Cの充足性)について2
()「酸化物半導体膜」の解釈1
ア酸化物半導体膜が,一般的に酸化錫,酸化インジウム,酸化錫インジウム
又はそれらの合金や化合物を意味することは,当事者間に争いがない。
イ被告は,本訴において,原告から技術上の問題点を指摘されたため,構成
要件Cにおける「酸化物半導体膜」が抵抗として機能するものであることを主張し
ないが原告の主張ア(イ)bないしeで原告が指摘する本件特許明細書の記載(甲2),
においては,酸化物半導体膜は,一貫してソース・ドレイン間の抵抗に比べて相対
的に抵抗の大きいものとして記載されているものであるから,構成要件Cの「酸化
物半導体膜」は,ソース・ドレイン間の抵抗に比べて相対的に抵抗の大きいものを
意味すると解釈すべきである。
これに反する被告の主張は,採用することができない。
()本件ITO膜2
アITOは酸化物半導体の一具体例であることは,当事者間に争いがない。
イ証拠(甲2,14,15)及び弁論の全趣旨によれば,本件ITO膜の抵抗

値は約44Ωであるのに対し,TFT1のソース・ドレイン間の抵抗値は約10
~10Ωであることが認められるから,本件ITO膜の抵抗値は,TFT1のソー11
ス・ドレイン間の抵抗に比べて,極めて小さい抵抗値を有するにすぎない。
()結論3
よって,原告モジュールは,構成要件Cを充足しない。
3争点()(無効理由の存否)について4
()進歩性欠如の無効理由その21
アはじめに
構成要件Cの充足性が認められる場合に備え,進歩性欠如の無効理由その2につ
いて判断する。
イ引用発明等
(ア)引用発明2
証拠(甲20の1)によれば,引用例2の第1図には,表示部及び保護回路を有する
アクティブマトリクス型表示装置であって,同保護回路は,薄膜トランジスタ(第1図
のTFT1やTFT2)を有し,同薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方は,
同薄膜トランジスタのゲートに電気的に接続され,同薄膜トランジスタのソース及び
ドレインの他方は,基準の電圧の配線に電気的に接続されることを特徴とするアクテ
ィブマトリクス型表示装置が記載されていることが認められる。
(イ)周知技術
証拠(甲14,16,17,36~47)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許発
明の出願当時,ITO膜を導電膜として用いることは周知の技術であったことが認
められる。
(ウ)引用発明1
証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば,引用例1は「アクティブ・マトリック
ス型の液晶パネルの製造方法」に関するものであり,引用例1の第1図ないし第3
図には表示部で用いられる酸化物半導体膜と同一材料で,表示部とは離間した領域
に同時形成され,配線(電気的接続手段)として用いられる酸化物半導体膜が記載さ
れていることが認められる。
ウ一致点及び相違点
(ア)本件特許発明と引用発明2とを対比すると,薄膜トランジスタのソース及
びドレインの一方と薄膜トランジスタのゲートとの接続につき,本件特許発明は酸化
物半導体膜を介した接続と限定しているのに対し,引用発明2にはその旨の記載がな
い点(相違点1)で相違し,その余の点で一致することが認められる。
(イ)被告は,本件特許明細書の【0010【0069】及び図15(B)の記載】,
に基づき,本件特許発明の「酸化物半導体膜」は,表示部で用いられる酸化物半導
体膜と同一材料のものであるとして,相違点2の存在を主張する。
確かに,本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0010【課題を解決しようと】
する手段】には「また,表示部の薄膜トランジスタの作製と同時に作製すること,
が望まれる」と記載され,本件特許明細書の【0069】及び図15(B)に,同一。
,,材料の酸化物半導体膜を使用した実施例が記載されているがこれらの記載のみでは
「酸化物半導体膜」が表示部で用いられる酸化物半導体膜と同一材料のものである
と明示的又は黙示的に定義されているものと認めることはできず,被告の上記主張
は,採用することができない。
エ相違点1についての判断
(ア)引用明2における薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方と薄膜トラ
ンジスタのゲートとの接続につき,酸化物半導体膜を介した接続にすることは,その
こと自体では格別の効果を生ずるものではなく,設計事項として適宜行う程度のもの
であるから,当業者が引用発明2に周知技術を組み合わせて,容易に発明すること
ができたものと認められる。
(イ)被告は,原告が指摘する周知技術は,液晶表示装置における透明電極にI
TOを採用することを開示しているが,表示装置を静電気から保護するための保護
回路において,TFTのソース又はドレインのいずれかと,ゲートの間を電気的に
接続するための配線材料としてITOを用いることは開示していない旨主張する
が,上記に説示したところに照らし,採用することができない。
オ相違点2について
(ア)仮に相違点2が存在するとしても,上記エで説示したとおり,薄膜トラン
ジスタのソース及びドレインの一方と薄膜トランジスタのゲートとの接続に酸化物
半導体膜を用いることは,適宜行い得ることであり,液晶表示部に透明なITO膜
を電極として用いることは,周知である。そして,ITO膜は,酸化物半導体膜で
ある。
さらに,引用発明2における薄膜トランジスタのソース及びドレインの一方と薄膜
トランジスタのゲートとの接続に用いられる酸化物半導体膜を表示部で用いられる
酸化物半導体膜と同一材料とすることは,引用発明2及び引用発明1はいずれも液
晶表示装置における静電破壊防止技術に関するものであることを考慮すると,当業者で
あれば,引用発明2に引用発明1を組み合わせて,容易に発明することができたも
のと認められる。
そして,保護回路領域における当該酸化物半導体膜を表示素子領域における画素電
極と同一のプロセスによって形成することができるとの効果も,上記のように構成す
ることから予測される範囲のものである。
(イ)引用例1は,ソース配線又はゲート配線をショート配線に,薄膜被告は,
トランジスタを介することなく,直接かつ常時,接続させることにより,静電破壊
を防止する技術を開示するが,これは,製造の過程においてのみ機能する静電破壊
防止対策であることから,単純な構成で静電破壊の防止を実現するものであるのに
対し,引用例2は,走査線又は信号線とアースラインとの間に薄膜トランジスタを設
けることで,薄膜トランジスタという電子素子を回路上に作り込む手間と費用をかけ
ることと引換えに,製造の過程のみならず,製品として表示装置を駆動させる場合に
,,,も静電破壊の防止を実現するものでありこのように引用発明1と引用発明2とは
作用,機能及び構成が異なるものであり,作用,機能及び構成の異なる発明を組み合
わせることは容易になし得ることではない旨主張する。
しかしながら,引用発明1と引用発明2の機能や構成をすべて組み合わせるので
はなく,引用発明2の構成の一部に,トランジスタを破壊する電流を他の場所に流
すための配線(電気的接続手段)として酸化物半導体膜を使用するとの引用発明1の
技術思想を組み合わせることには,共に表示装置の静電破壊防止に関する技術であ
るから阻害理由はないと考えられる。よって,被告の上記主張は採用することがで
きない。
(ウ)また,被告は,引用例1のITO透明電極が,引用例2にある金属材料か
らなる複数の配線のどの部分に置き換えられるかの示唆はないから,引用発明1と
引用発明2とを組み合せることは到底できないし,仮に,引用発明1と引用発明2
とを組み合わせたとしても,引用例1には「ITO層の替わりにゲート配線を用,
」,,,いてもよい(3頁右上欄1617行目)とあるから引用発明2の配線の一部に
あえて画素電極と同一材料のITO透明電極を用いる必然性は開示されていないと
評価すべきである旨主張する。
しかしながら,表示部で用いられる酸化物半導体膜と同一材料の酸化物半導体膜
を配線として用いることで同時形成することが引用例1に開示されている以上,引
用例2にある金属材料からなる複数の配線のどの部分に置き換えるかは,設計事項
として当業者が適宜行うことであるし,引用例1の「ITO層の替わりにゲート配
線を用いてもよい」との記載も,トランジスタを破壊する電流を他の場所に流すた
めの配線(電気的接続手段)として酸化物半導体膜を使用するとの技術思想が引用発
明1の他の箇所に開示されている以上,何ら組合せの阻害理由とはならないと考え
られる。よって,被告の上記主張は採用することができない。
()まとめ2
以上のとおり,本件特許発明は,特許無効審判により無効にされるべきものと認
,,。められ特許法104条の3により被告は本件特許権を行使することができない
4争点()(営業誹謗行為)について5
()競争関係1
ア前提事実によれば,原告は,液晶パネル等の製造,販売を主たる業務とする
台湾の会社であり,その製造に係る原告モジュールを組み込んだ本件製品が小売業者
によって日本において販売されたところ,液晶トランジスタ及びそれを応用した薄膜
半導体装置の研究,開発,製造,販売等を目的とする被告が,原告とのライセンス交
渉が決裂したとして,上記小売業者に対して本件仮処分申立てを行ったものであるか
ら,原告と被告は,不正競争防止法2条1項14号にいう「競争関係」にあるとい
うべきである。
イ被告は,液晶ディスプレイを被告は製造,販売していないから,原告と競
争関係にはない旨主張する。
しかしながら,被告は,その目的として「工業所有権,著作権,ノウハウその他,
無体財産権の開発,仲介,取得,譲渡及び貸与」だけでなく「液晶トランジスタ及び,
それを応用した薄膜半導体装置の研究,開発,製造,販売」を掲げ,自ら市場で本件
製品と競合関係に立つ製品の製造,販売に乗り出すことができるものであるから,被
告の地位を個人の発明家のような純然たる特許権者と同視することはできない。
したがって,市場における競合が生ずるおそれがあるものとして,不正競争防止法
2条1項14号にいう「競争関係」にあると認めるべきである。
()告知,流布2
ア本件仮処分申立て
本件仮処分申立てにより,東京地方裁判所をしてその申立書を西友に送達させた
行為は,不正競争防止法2条1項14号にいう告知する行為に当たる。
イ本件記者発表
また,本件記者発表については,同発表を受けた新聞記者らが自らの責任と判断
に基づいて記事にするかどうかを判断するものであるが,そこで発表された事項が
記事となって本件製品の需要者を含む読者に伝達されることは通常の事態であり,
本件においても,前提事実のとおり,原告の需要者も目にする新聞等に本件仮処分
申立等の事実が掲載されたものであるから,本件記者発表は,不正競争防止法2条
1項14号にいう流布する行為に当たる。
()虚偽の事実3
ア本件仮処分申立て
前記説示のとおり,本件製品は本件特許発明の構成要件を充足しないし,本件特
許権には進歩性欠如の無効理由が存在するから,本件仮処分申立てにより西友に告
知した本件製品が本件特許権を侵害するとの事実は,原告の営業上の信用を害する
虚偽の事実である。
イ本件記者発表
(ア)前提事実のとおり,被告は,本件記者発表により,本件仮処分事件の提
起の事実や当該事件における自己の申立内容や事実的主張,法律的主張の内容を説
明したものであり,本件記者発表をもって「虚偽の事実」を告知したものと認め,
ることはできない。
(イ)確かに,原告の需要者は,本件記者発表を受けて作成された記事に接す
ることによって,本件仮処分事件の提起の事実や当該事件における自己の申立内容
や事実的主張,法律的主張の内容を知った結果,知的財産権紛争に巻き込まれるこ
とを避けるために,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実の告知を受けた場合
と同様の行動を採ることが考えられる。また,上記(ア)のように解することは,競
業者が無理矢理訴訟を提起し,訴訟提起の事実や当該訴訟事件における自己の主張
内容の形式を採ることによって,実質的に虚偽の事実の告知を行ったと同様の事態
を惹起することを可能にしてしまうことがある。
(ウ)しかしながら,不正競争防止法2条1項14号が,民法の不法行為法理
とは異なり「虚偽」の事実と規定している以上,本件仮処分事件の提起の事実や,
当該事件における自己の申立内容や事実的主張,法律的主張の内容を陳述するにと
どまる本件記者発表をもって,不正競争防止法2条1項14号の「虚偽」の要件を
満たすものと認めることはできない。
()本件仮処分申立ての違法4
ア(ア)訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が
事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人
であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど,裁判制度の趣旨目的
に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,不法行為法上違法な行為となる(最高
裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号
1頁)。したがって,不正競争防止法2条1項14号の関係においても,債権者が
その主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら又は
通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて競業者の取引先を相手方と
する販売禁止等の仮処分の申し立てた場合には,同仮処分の申立ては違法となると
解すべきである。
(イ)さらに,債権者が当該仮処分申立てにおいて主張した権利又は法律関係
が事実的,法律的根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たもの
とまでいえない場合であっても,権利の濫用は許されないから,権利の行使に名を
借りて競業者の取引先に対する信用を毀損し,市場において優位に立つことを目的
としてされたと認められる場合には,同仮処分の申立ては違法となるというべきで
ある。当該仮処分の申立てが権利の濫用となるか否かは,当該申立てに至るまでの
競業者との交渉の経緯,当該申立ての相手方の業種・特許侵害仮処分への対応能力
等の事情を総合して判断するのが相当である。
イ前提事実,証拠(各項に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実
が認められる。
(ア)本件特許権の無効理由等
a本件特許権の無効理由
本件特許権に無効理由が存在すること及びその無効理由は,前記説示のとおりで
ある。
b本件仮処分申立前の検討
()本件特許発明が保護回路として機能しないこと(前記第2,6()エ(産業上利a1
用することができる発明でないこと)(ア)及び(イ))は,被告において明らかに争わないか
ら,これを自白したものとみなす。したがって,被告の主張によっても,本件特許発明
における「酸化物半導体膜」は,抵抗としてではなく,保護回路における薄膜トラ
ンジスタのソース又はドレインと,ゲートとを接続する配線として機能し,せいぜ
い薄膜トランジスタからなる保護回路を,表示部分の薄膜トランジスタと同時に作
製することができるという作用効果のみを奏するものにすぎない。
()本件特許発明がこの程度のものであるにもかかわらず,被告が本件仮処b
分申立てに当たって,そもそも無効理由がないかどうか検討したのか,検討したの
であれば,どのような検討を行ったのかについて,被告は,何ら説得的な主張をし
ていない。
被告は,本件特許権は特許庁の処分によって権利化されたものであるから,仮に
無効理由があったとしても,それを容易に知り得たものではない旨主張する。
しかしながら,無効審判請求における無効率,審決取消訴訟における取消率等を
考慮すると,単に特許庁でいったん特許査定がされたことは,本件仮処分申立てに
当たって無効理由がないかどうかの検討を不要とするものではないから,被告の上
記主張は,採用することができない。
(イ)被告の業態
被告は,現在,液晶ディスプレイの製造,販売は行わず,液晶ディスプレイ等に
係る特許出願を行い,取得した複数の特許権を背景に液晶ディスプレイ等の製造業者
との間で,ライセンス契約を締結するように交渉し,ライセンス料収入を得ることを
業態としている。
(前提事実,弁論の全趣旨)
(ウ)交渉の経緯
a被告は,原告に対し,平成13年7月27日付けの書面(甲7)をもって,
被告が日本においてアモルファスシリコンTFT及び液晶に関する多数の特許権を
有すること,原告の製品の少なくとも1つが被告の有する特許権の技術的範囲に属
すること,及び原告が適切に対応しない場合には原告の顧客に対して権利行使をす
ることを警告した。
被告は,同書面の中で,原告のどの製品が,被告の有するどの特許権を侵害する
のかを明らかにしなかった。
b原告は,被告に対し,同年8月23日付け回答書(甲24)をもって,特許
権の侵害問題を更に検討するために,原告のどの製品が被告のどの特許権を侵害し
ているのかを明らかにしてほしい旨依頼した。
c被告は,原告に対し,同年9月11日付け書面(甲25)をもって,原告の
どの製品が被告のどの特許権を侵害しているのかを明らかにしなければ検討を進め
られない旨の原告の上記bの回答は,この問題の解決の遅延を意図したものであっ
て,前向きな解決を不可能にするものであること,被告は,そのような状況に鑑み
て,原告の顧客であるアドテック社に対して警告の書簡を送付したこと,当該書簡
には被告の有する特許(40個)のリストが添付されているから,原告において参照
することができること,及びアドテック社以外の原告の顧客に対しても同様の手段
を執る用意があることを回答した。
d原告は,被告に対し,同年10月5日付け書面(甲26)をもって,被告の
有する特許権の内容は明らかになったが,いまだに原告のどの製品が,どのように
して被告の有する特許権を侵害しているかが明らかでないこと,そのような状況下
では,日本向けの原告の製品の製造,販売を停止するように求める被告の要求に応
じることはできないこと,被告は原告の姿勢を非難するが,特許権侵害の有無を明
らかにするためには相当の時間を要し,特許権者が分析のために情報提供をするの
が通常であって,原告は通常の手続を履践しているにすぎないこと,及び被告の原
告の顧客に対する行為は不正競争行為を構成する可能性があることを指摘した。
e被告は,原告に対する情報提供を拒否したのは,原告に被告とのライセン
ス契約を締結する意思がないことが判明したためである旨主張するが,原告のどの
製品が被告のどの特許権をどのように侵害しているかを明らかにするよう求めるこ
とは,特許権侵害紛争の話し合いによる解決及びそれに引き続くライセンス交渉上
当然のことであり,前記原被告間の書簡のやり取りから,原告に被告とのライセン
ス契約を締結する意思のないことや,交渉の長期化を目論む意図があったことを認
定することは到底できない。
(甲7,23~26)
(エ)本件仮処分申立ての経緯等
西友を相手方とする本件仮処分申立ては,前記(ウ)の書簡のやり取りから3年以
上経過後,原告に事前の予告をすることなく行われたものであり,本件仮処分申立
後,直ちに本件記者発表も行われた。
本件仮処分申立てによって,本件製品が本件特許権を侵害するとの事実の告知を
受けたのは西友だけであるが,その後の本件記者発表によって,同事実は広く世間
の知るところとなった。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(オ)西友の地位等
a西友は,小売業者であり,液晶テレビに関しては,完成品を仕入れて一般
消費者に販売することしか行っていなかった。したがって,西友には,本件仮処分
事件のような特許侵害事件への対応能力はなく,本件仮処分申立てを受けて,直ち
に本件製品を店頭から撤去し,販売を中止した。西友は,現在まで,本件製品の販
売を再開していない。
bまた,本件仮処分申立ての約半年前の平成16年6月,シャープが台湾東元
電機製の液晶テレビを対象として仮処分の申立てを行ったが,イオンは,迅速に当該液
晶テレビを店頭から撤去した。この事件は,マスコミによって大きく報道された。
c西友が小売り業者にすぎないこと及びイオンの対応の例からすると,被告は,
西友が直ちに商品撤去に動くことを十分に予期して,本件仮処分申立てを行ったものと
認められる。
(争いのない事実,甲27,28,乙2,弁論の全趣旨)
(カ)他の仮処分申立て
被告は,本件仮処分申立後においても,別の小売業者であるバイ・デザインを相
手方として,本件特許権に基づき,原告モジュールと実質的に同一構造の液晶パネ
ルを搭載する液晶テレビの製造,販売行為の差止めを求める仮処分の申立てを行っ
た。
(争いのない事実)
(キ)被告を相手方とする仮処分申立ての可能性
,,,原告モジュールを製造販売する原告の行為は台湾において完結しているため
被告は,原告に対し,日本国内において直接権利行使をすることができない。
被告が,原告に対してではなく,西友等の小売業者を相手方として仮処分の申立
てを行ったことには,一面でやむを得ない点がある。
(弁論の全趣旨)
ウ検討
(ア)上記イ(ア)に説示の事実によれば,被告が本件仮処分申立前に,構成要件
の充足性及び無効理由の有無について通常必要とされる事実調査を行えば,本件特
許権に進歩性欠如の無効理由が存在することを容易に知り得たものというべきであ
る。
よって,被告の本件仮処分の申立ては,この点で違法となると解すべきである。
(イ)さらに,上記イに説示の事実,特に,原告のどの製品が被告の有するどの
特許権をどのように侵害しているかを個別に指摘することなく,ライセンス契約の
締結を求める交渉態度(上記イ(ウ))によれば,原告を相手方として日本で提訴する
適切な方法がなかったことを考慮しても,被告は,専ら自己の有する複数の特許権
を背景に原告に圧力をかけ,被告に有利な内容の包括的なライセンス契約を締結さ
せることを目的として本件仮処分申立てを行ったものと認められ,本件仮処分申立
ては,権利の濫用として違法となるというべきである。
エ差止請求の当否について
以上によれば,本件仮処分申立ては,不正競争防止法2条1項14号の営業誹謗
,,。行為に当たるものというべきであり原告の請求第1項の差止請求は理由がある
オ損害賠償請求について
前記ウに説示の事実によれば,被告には,不正競争防止法4条による損害賠償請
求の要件である故意過失も認められる。
5争点()(損害額)について6
()TATUNG社に対する販売減少による損害1
ア因果関係
被告は,西友による本件製品の販売停止を求めて本件仮処分申立てを行い,小売
業者にすぎない西友がその申立ての趣旨に沿って本件製品の販売を中止したもので
あるから,西友の本件製品の販売停止によって原告に生じた原告モジュールの販売
,。減少の損害は本件仮処分申立てと相当因果関係を有する損害であると認められる
イ1台当たりの利益額
証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告が本件仮処分申立てをした
ころ,TATUNG社に対し,原告モジュールを1台当たり380米ドルで販売し
ていたこと,被告が本件仮処分申立てをした後の為替レートは,被告に最大限有利
に選定しても1米ドル101円であること,原告モジュール1台当たりの利益率は
少なくとも26%であることが認められる。
ウ販売減少数
証拠(甲8)及び弁論の全趣旨(西友の規模等)によれば,西友の本件製品の販売停
止により,原告は,訴え変更の申立書が被告に送達された平成17年4月6日まで
に,少なくとも2000台の原告モジュールの販売減少の被害を受けたことが認め
られる。
エ販売減少額
以上によれば,原告は,被告の違法な本件仮処分申立てにより,西友における原
告モジュールの販売減少だけで,1000万円を超える損害を被ったことが認めら
れる。
380米ドル×2000台×26%×101円=1995万7600円
()まとめ2
よって,原告の請求第2項の損害賠償請求は,その余の点について判断するまで
もなく,すべて理由がある。
6結論
よって,原告の請求第1項及び第2項の請求は理由があるから認容し,本件不存
在確認請求は不適法であるから却下し,仮執行宣言は相当でないので付さないこと
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市川正巳
裁判官
杉浦正樹
裁判官
高嶋卓
(別紙)
物件目録
商品名:DURABRAND27V型液晶ワイドテレビLCD-SY27A
(別紙)
特許公報
甲2
(別紙)
原告モジュール説明書
1構成
原告モジュールは,表示部及び保護回路を有するアクティブマトリクス型表示装置
である。
2接続関係
原告モジュールの保護回路は,別紙接続図面のとおり,接続されている(以下,
。。A~Lのアルファベットは後記各図面のアルファベットの付された箇所を指す)
TFT1及びTFT3はいずれも薄膜トランジスタである。
TFT1のドレイン(D)に接続されたドレイン電極とゲート電極(E)は,それぞ
れC及びBで酸化インジウム・酸化錫系透明導電物(IndiumTinOx
ide。以下「ITO」といい,ITOで形成された膜を「ITO膜」という。)
の膜(別紙接続図面において,Cの右側にある赤枠。以下「本件ITO膜」といい
う。)に電気的に接続されている。
TFT1のソース(F)に接続されたソース電極は,TFT3を介して,配線Lに
接続されている。
3動作説明
()Aに過大な電圧が加わる(別紙動作図面()参照。)11
()Aに加わった電圧の一部がTFT1のゲート電極(E)にゲート電圧として2
加わる(別紙動作図面()参照。)2
()TFT1のDF間が導通して電流が流れる(別紙動作図面()参照。)33
()TFT3のゲート電極(I)にもゲート電圧が加わる(別紙動作図面()参44
照。)
()JK間が導通して電流が流れる(別紙動作図面()参照。)55
4作用・効果
Aに加わった過大電圧は,AとLが導通することによって,バイパスルートが発
生し,過大電圧の多くが放出され,Aの下にある液晶画面の画素を駆動する薄膜ト
ランジスタの破損を防止することができる。
(別紙)
接続図面
(別紙)
動作図面
()1
()2
()3
()4
()5
(別紙)
記事目録1
1見出し
「半導体エネルギー研が西友・・・を提訴,液晶テレビ・・・が対象」
2本文
「半導体エネルギー研究所は,同社が保有する液晶パネル関連の特許を侵害する
製品を販売しているとして,2004年12月1日に西友を・・・東京地方裁判所
に提訴した・・・当該製品の販売の差し止めを求める。半導体エネルギー研究所。
によれば,西友では独自ブランドで販売する27インチ型の液晶テレビが対象。こ
のテレビに搭載する台湾ChiMeiOptoelectronicsCo
rp.(CMO)製のアモルファスSiTFT液晶パネルが,半導体エネルギー研究
所の特許に抵触しているという」。
「半導体エネルギー研究所がCMOに侵害された(ママ)主張する特許は,液晶パ
ネルの画素を静電気から保護する回路技術に関する。特許番号は第3241708
号。半導体エネルギー研究所は,この特許以外にも同社保有の特許をCMOが侵害
しているとする「アモルファスSiTFT液晶パネルに関する特許のライセンス。
に関し,CMOと2001年ごろから断続的に話をしてきた。しかし,一向にライ
センスに応ずる気配がなかった。CMO以外の大手液晶パネル・メーカーのほとん
どに対し,当社はアモルファスSiTFT液晶パネル関連技術をライセンス供与し
ている」(半導体エネルギー研究所)という」。
以上
(別紙)
記事目録2
1見出し
「半導体エネルギー研,西友・・・を特許侵害品の販売で提訴」
2本文
「半導体エネルギー研究所は,同社が保有する液晶パネル関連の特許を侵害する
製品を販売しているとして,2004年12月1日に西友を・・・東京地方裁判所
に提訴した・・・当該製品の販売の差し止めを求める。半導体エネルギー研究所。
によれば,西友では独自ブランドで販売する27インチ型の液晶テレビが対象。こ
のテレビに搭載する台湾ChiMeiOptoelectronicsCo
rp.(CMO)製のアモルファスSiTFT液晶パネルが,半導体エネルギー研究
所の特許に抵触しているという」。
以上
(別紙)
記事目録3
1見出し
「半導体エネ研,西友を特許侵害で提訴」
2本文
「薄型ディスプレーなどの研究開発を手掛ける半導体エネルギー研究所(神奈川
県厚木市)が西友・・・を特許侵害で東京地裁に提訴したことが15日,明らかに
なった」。
「西友に対しては・・・,同社が・・・発売した液晶テレビ「DURA」の27
型モデルの販売差し止めの仮処分を東京地裁に申請した。台湾の大手パネルメーカ
ー,奇美電子が製造したTFT(薄膜トランジスタ)液晶パネルを搭載しているが,
表示部の保護回路に関する特許を奇美が侵害していると主張」。
以上
(別紙)
記事目録4
1見出し
「半導体エネ研特許侵害,西友を提訴」(大見出し)
「台湾製パネルTV搭載で」(小見出し)
2本文
「薄型ディスプレーなどの研究開発を手掛ける半導体エネルギー研究所(神奈川
県厚木市)が西友・・・を特許侵害で東京地裁に提訴したことが15日,明らかに
なった」。
「西友に対しては・・・,同社が・・・発売した液晶テレビ「DURA」の27
型モデルの販売差し止めの仮処分を東京地裁に申請した。台湾の大手パネルメーカ
ー,奇美電子が製造したTFT(薄膜トランジスタ)液晶パネルを搭載しているが,
表示部の保護回路に関する特許を奇美が侵害していると主張」。
「提訴について奇美電子は「ノーコメント」(広報)・・・」,
以上

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激動の時代に
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お気軽にお問い合わせ下さい。
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