弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人中島忠三郎他四名の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、実質は事実誤認、
単なる法令違反の主張に帰し、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし、職権をもつて調査すると、原判決および第一審判決は、後記のように、
同法四一一条一号により破棄を免れないものと認められる。
 本件公訴事実について、原判決に示された事実関係とこれに対する法律判断は、
おおむね次のとおりである。すなわち、被告人は、A株式会社池袋線保谷駅に駅務
手として勤務し、本件事故発生の当夜は、乗客係をも命ぜられて旅客の誘導、案内、
整理、乗降の危険防止などの業務に従事していたものであるところ、昭和三六年五
月一一日午前零時三三分同駅に到着した四両編成の第四六九電車の後部の第三、四
両を担当して乗客の降車整理に従事中、第四両目中央部座席にB(当時二九年)が、
酒の匂いをさせて居眠りをしていたので、その肩を三回位叩いて起こすと、同人は
目を覚まし、一寸ふらふらしながら中央ドアーからプラツトホーム(以下単にホー
ムという)に出て行つたので、これを見送つたのみで、そのまゝ車両の連結部から
第三両目に赴き、居眠り客二名に降車を促し、またはこれを助けて車外に連れ出す
などして乗客の整理に当つた。右電車は、客扱い終了後同駅の車庫に入庫するもの
であり、後続の最終電車が到着するのは同日午前零時四三分で、深夜のため、混雑
時とは異なり乗客も少なく客扱いには充分時間的余裕があつた。このような場合に
は、乗客係たる被告人としては、前記のように酩酊していたBを下車させるに当つ
ては、同人が単独でホームにある待合室などの安全な場所に行くことができるかど
うかを確認すべきであり、また客扱い終了後車掌に対しその旨の合図をするに当つ
ては、自己の担当する車両の連結部またはホームとの近接部を点検注視して線路敷
に転落者などが無いかどうかを確認すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠
つたため、Bが第三両目と第四両目の連結部とホームとの間隙から線路敷に転落し
ていたのに気付かず、客扱いを終了するや、その旨の合図を車掌Cに送り、同人を
して戸閉操作をなさしめたうえ、運転士Dをして右電車を発進させたため、右転落
箇所においてホームに這い上ろうとしていたBをして、車両とホームの間で圧轢死
させるに至つたというのである。
 そこで、叙上の事実関係を基礎として、被告人の注意義務に関する原判断の当否
につき考えるに、原判示の職責を有する乗客係がその業務に従事するに当つて、旅
客のなかに酩酊者を認めたときは、その挙措態度等に周到な注意を払い、車両との
接触、線路敷への転落などの危険を防止する義務を負うことは勿論である。しかし、
他面鉄道を利用する一般公衆も鉄道交通の社会的効用と危険性にかんがみ、みずか
らその危険を防止するよう心掛けるのが当然であつて、飲酒者といえども、その例
外ではない。それ故、乗客係が酔客を下車させる場合においても、その者の酩酊の
程度や歩行の姿勢、態度その他外部からたやすく観察できる徴表に照らし電車との
接触、線路敷への転落などの危険を惹起するものと認められるような特段の状況が
あるときは格別、さもないときは、一応その者が安全維持のために必要な行動をと
るものと信頼して客扱いをすれば足りるものと解するのが相当である。また、右係
員が客扱いを終了し、その旨の合図を車掌に送るに当つても、線路敷などに転落者
があることを推測させるような異常な状況が認められない限り、このような特殊な
事態の発生をつねに想定して、ホームから一見して見えにくい車両の連結部附近の
線路敷まで逐一点検すべき注意義務があるとまで考えるのは相当でない。これを本
件についてみるに、前示事実関係に照らせば、本件被害者は、座席に眠つていて酒
の匂いをさせていたが、被告人から肩を三回位叩かれて目を覚まし、一寸ふらふら
しながらもみずからホームに出て行つたというのであり、右の程度では線路敷への
転落などの危険性または転落などの事実を推測させるような特段の状況があつたも
のと断ずることはできない。しからば、被告人が原判示のように、前記Bを起こし、
下車させただけで、同人の下車後の動向を注視することなく、他の乗客の整理に移
り、さらにこれを終えた後にも、とくに線路敷などを点検することなく客扱い終了
の合図をしたとしても、前記の如き事情の下では、本件事故の結果について、被告
人に対し業務上の過失責任を認めることは酷に失するものといわねばならない。そ
して、原判決の指摘するように、本件電車が入庫車であり、かつ深夜であつてその
客扱いには、混雑時に比し時間的余裕があつたとしても、このことは、右の判断を
左右するに足りるほどの事由とは認められない。してみると、本件につき、被告人
に対し前記の過失責任を認めた原判決および同判決の維持した第一審判決は、法律
の解釈を誤り、被告事件が罪とならないのにこれを有罪とした違法があるものとい
うべきで、右の違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、刑訴法四一一条
一号によりこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、同法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和四一年六月一四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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