弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    原判決中、上告人に関する部分を破棄する。
    前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
    控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井義夫の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 株式会社D銀行は、E建設株式会社に対し、昭和五三年三月二五日に五〇〇
万円を、昭和五四年二月二二日に四〇〇万円を、昭和五五年一二月二五日に六〇〇
万円を、それぞれ貸し付けた。
 2 被上告人は、E建設から、被上告人が代位弁済したときは、その代位弁済額
及びこれに対する代位弁済の日の翌日から支払済みまで年一八・二五パーセントの
割合による損害金を支払う等の約定で、保証の委託を受け、右各貸付日ころ、D銀
行との間で、右各貸金債務を保証する旨約した。
 3 上告人は、被上告人との間で、右各貸付日ころ、右各保証の委託に基づきE
建設が被上告人に対して負担すべき求償金債務について、連帯保証する旨約した。
 4 E建設は、昭和五六年七月六日に破産宣告を受けた。
 5 D銀行は、同年八月一日、E建設の破産手続において、前記各貸付金の残金
について債権の届出をした。
 6 被上告人は、同年九月三日、D銀行に七四〇万〇二四一円を代位弁済し、前
記各貸付金の元利金を完済した。
 7 右5のD銀行の届出債権については、同年一一月九日の債権調査期日におい
て破産管財人らから異議が述べられなかったので、その旨債権表に記載された。
 8 被上告人は、昭和五七年九月二七日、破産裁判所に債権の届出をした者の地
位を承継した旨の届出名義の変更の申出をし、破産管財人が右承継の事実を承認し
た旨が債権表に記載された。
 9 E建設の破産手続については、同年一二月三日、破産終結決定がされた。
 二 被上告人の本訴請求は、右求償金債務の連帯保証人である上告人に対し、求
償残元金等とその遅延損害金の支払を求めるものである。これに対し、上告人は、
本訴提起特においては、被上告人のE建設に対する求償権、ひいては、上告人に対
する連帯保証契約上の債権は時効消滅していたと主張して争っている。
 原審は、前記一の事実関係の下において、(1) D銀行がE建設の破産手続にお
いて前記各貸金債権の届出をした後に、これを代位弁済した被上告人が破産裁判所
にその承継を届け出れば、求償権自体について届出をしなくとも、その消滅時効が
中断する、(2) そして、債権表に右承継届出の事実及び破産管財人が承継の事実
を承認した旨が記載されたことにより、求償権の消滅時効期間は、前記各貸金債権
と同様に、民法一七四条ノ二第一項により一〇年に変更されると判断した上、破産
終結決定の日の翌日から起算して本訴が提起された平成四年一一月一二日までに一
〇年が経過していないことは明らかであるから、被上告人の上告人に対する連帯保
証契約上の債権の消滅時効はいまだ完成していないとして、本訴請求を認容した。
 三 そこで検討するに、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)
の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 債権者が主たる債務者の破産手続において債権全額の届出をし、その後、債
権者に債権全額を代位弁済した保証人が、破産裁判所に右債権の届出をした者の地
位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときは、右代位弁済により保証人が
破産者に対して取得する求償権の消滅時効は、求償権自体について届出をしなくと
も、右求償権の全部につき右届出名義の変更の申出の時から破産手続の終了に至る
まで中断すると解するのが相当である(最高裁平成三年(オ)第一四九三号同七年
三月二三日第一小法廷判決・民集四九巻三号九八四頁参照)。そうすると、前記一
のとおり、E建設の破産手続において、D銀行が債権全額の届出をし、その後、D
銀行に債権全額を代位弁済した被上告人が、破産裁判所に債権の届出をした者の地
位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたことによって、被上告人のE建設に
対する求償権の消滅時効は中断し、その結果、上告人に対する連帯保証契約上の債
権についても消滅時効の中断の効力が生じたものというべきである(民法四五七条
一項)。
 したがって、これと同旨の原審の前記(1)の判断は、正当として是認することが
でき、原判決に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものでは
ない。この点に関する論旨は採用することができない。
 2 しかし、右の場合において、保証人による届出名義の変更の申出が債権調査
期日の後にされたときは、債権調査期日において届出債権につき破産管財人、破産
債権者及び破産者に異議がなかったときであっても、求償権の存在及び内容につい
て確定する手続がとられたとみることはできないから、求償権の消滅時効の期間は、
民法一七四条ノ二第一項により一〇年に変更されるものではないと解するのが相当
である(前記第一小法廷判決参照)。そうすると、被上告人が前記の代位弁済によ
りE建設に対して取得した求償権については、被上告人が破産裁判所に届出名義の
変更の申出をした昭和五七年九月二七日に消滅時効が中断し、破産手続が終了した
同年一二月三日から更に五年の消滅時効が進行するものといわなければならない。
このことは、上告人に対する連帯保証契約上の債権についても同様であって、他に
消滅時効の中断事由に関する主張立証はないから、本訴が提起された平成四年一一
月一二日には、右債権について既に五年の消滅時効が完成していたことが明らかで
ある。
 したがって、これと異なる前記(2)の原審の判断には、法令の解釈適用を誤った
違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この趣
旨をいう論旨は理由があるから、原判決中、上告人に関する部分は破棄を免れない。
そして、以上に説示したところによれば、被上告人の上告人に対する本訴請求は失
当として棄却すべきものであり、これと結論を同じくする第一審判決は正当である
から、右部分についての被上告人の控訴は棄却すべきである。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    山   口       繁
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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