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平成22年9月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第3344号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成22年7月16日
判決
英国ロンドン市<以下略>
原告A
同訴訟代理人弁護士金塚彩乃
同中村誠一
同近藤誠一
同千川原公一
東京都目黒区<以下略>
被告ジャス・インターナショナル
株式会社
同訴訟代理人弁護士仲村晋一
主文
1被告は,原告に対し,金58万7413円及びこれに対する平成20年2月
23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の,その余を被告の各負担とす
る。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金4000万円及びこれに対する平成20年2月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
本件は,スマイリーマークと呼ばれる図形と文字とを組み合わせた標章につ
き商標権を有する原告が,被告は,原告との間の当該商標権についての専用使
用権設定契約が終了したにもかかわらず,第三者との間で当該商標権につきサ
ブライセンス契約を締結し,当該商標権に係る登録商標を使用させてサブライ
センス料4400万円を受領したとして,不当利得返還請求権に基づき,受領
したサブライセンス料の一部である4000万円及びこれに対する訴状送達の
日の翌日である平成20年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者及び商標権
ア原告は,英国在住のフランス人であり,別紙商標権目録記載1及び2の
商標権(以下,同目録記載1の商標権を「原告商標権1」と,同目録記載
2の商標権を「原告商標権2」と,原告商標権1に係る登録商標を「原告
登録商標1」と,原告商標権2に係る登録商標を「原告登録商標2」とい
い,それぞれ「原告各商標権」,「原告各登録商標」と総称する。)を有
している。
イ被告は,日本において,海外企業と日本企業との間の提携の斡旋,海外
服飾デザイナー及び海外メーカーのブランド・デザインによる日本国内で
のライセンス製造の斡旋業務等を業とする株式会社である。
⑵原告各商標権についての被告の専用使用権等
ア原告の商標を管理する会社であるスマイリー・ライセンシング・コーポ
レーション(現商号スマイリーワールド・リミテッド。以下「SLC」と
いう。)と被告は,平成12年10月30日,原告商標権1その他のSL
C及びその関連会社が有する商標権並びにその後に取得する商標権につい
て,契約期間を4年間,被告はサブライセンシーから受け取ったロイヤリ
ティの40%をコミッションとしてSLCに支払うこと,契約の解除後も
6か月間は在庫商品の売却処分を行うことができるが,当該期間中に売却
された在庫商品についてもロイヤリティを受け取ることができることとし
て,被告に再許諾の権利を認める内容の専用使用権設定契約(以下「本件
設定契約」といい,これに基づく専用使用権を「本件専用使用権」とい
う。)を締結した(契約条件につき甲2)。
被告は,これに基づき,原告商標権1については平成13年2月8日に,
原告商標権2については平成15年4月28日に,それぞれ専用使用権の
設定登録を受けた。なお,当該設定登録においては,その期間は,原告商
標権1については平成22年5月19日まで,原告商標権2については原
告商標権2の存続期間の満了日まで(平成24年11月22日まで)とさ
れていた(甲1の1の1,1の2の1)。
イ被告は,ライター類を製造販売する株式会社廣田(現商号株式会社ライ
テック。以下「ライテック」という。)及び菓子類を製造販売する株式会
社ベストカンパニー(以下「ベスト」という。)との間で,それぞれ「SM
ILEYFACE」のマークデザインの使用を許諾する契約(以下,それぞれの
各契約を総称して,「本件各サブライセンス契約」という。)を締結した。
被告は,本件各サブライセンス契約に基づき,平成15年度には,ベス
トから952万円,ライテックから191万5924円のロイヤリティを
受領した。
ウ本件設定契約は,平成16年10月30日,期間満了により終了し,平
成19年5月9日,本件専用使用権につき,設定登録の抹消がされた。
エなお,原告商標権1は,特許庁の平成21年6月25日付け審決におい
て,不使用を理由として商標登録を取り消す旨の審決がされ,同審決に対
する審決取消訴訟につき,知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」とい
う。)は,平成22年4月27日,原告の請求を棄却する旨の判決をした
(乙147。同判決の確定の有無については,本件記録上,明らかではな
い。)。また,原告商標権2については,特許庁の平成21年4月22日
付け審決において,不使用を理由とする登録取消審判請求は不成立と判断
されたが,同審決に対する審決取消訴訟につき,知財高裁は,平成21年
11月30日,同審決を取り消す旨の判決をした(乙143)。これに対
し,原告は,上告及び上告受理の申立てをした(弁論の全趣旨)。
2争点
被告が,本件設定契約終了後にベスト及びライテックからロイヤリティを受
領したことが,原告に対する関係で,法律上の原因を欠く不当利得となるか,
不当利得となる場合,返還すべき金額はいくらか。
第3争点についての当事者の主張
1原告の主張
(1)概要
被告は,本件設定契約終了後も,ベスト及びライテックに原告各登録商標
を使用させて,ベスト及びライテックは,原告各登録商標を使用した商品を
製造販売し,被告は,ロイヤリティを受領している。
そして,本件各サブライセンス契約によるミニマム・ロイヤリティが,ベ
ストにつき年間1000万円,ライテックにつき年間100万円であったこ
とからすれば,本件設定契約が終了した後である平成17年から平成20年
までの4年間に被告が取得したロイヤリティの額は,合計4400万円を下
らない。
被告が取得した当該ロイヤリティは,原告各商標権の商標権者である原告
が受領すべきものであり,被告が法律上の原因なくこの利得を受けたことに
より,原告は,同額の損失を被った。
よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,内金400
0万円を請求する。
(2)ベスト及びライテックが原告各登録商標を使用していること。
ア原告各登録商標は,別紙商標権目録記載のとおり,顔の輪郭を表す丸の
中に一対の目と円弧状の口が配置された図形を大きく表し,原告登録商標
1はその下に「SMILEY」の欧文字を,原告登録商標2はその下に「SMILE
&SMILEY」の欧文字を,それぞれ配した構成から成るものである。
イベストによる原告登録商標2の使用
ベストは,少なくとも平成20年5月ころまで,原告登録商標2を付し
た菓子類及び菓子類包装商品を製造販売していた。
そして,本件設定契約終了後に発行されたベストのカタログに記載され
た全商品(2004年ないし2009年の製品カタログ記載の商品)には,
原告登録商標2の図形部分単独,当該図形部分と同一の図形及び文字部分
の一部である「SMILEY」の文字又は原告登録商標2と同一の図形部分及び
文字部分のいずれかが付されている(甲39ないし42)。
また,ベストの商品のうち,当該図形部分に円輪郭のない商品は,球状
又は立体のものであり,その外延が縁取り又は円輪郭の代わりになってお
り,円図形の表現方法の差異にすぎないから,これをもって円輪郭のない
有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッドの商標を使用したもの
ということはできない。
ウライテックによる原告登録商標1の使用
(ア)平成19年11月7日の時点におけるライテックのホームページに
は,原告登録商標1の図形部分と同様の図形が付されたライター「スマ
イリーLED」が掲載され,その上部に大きく,原告登録商標1の文字
部分である「SMILEY」と付して,原告登録商標1を使用している(甲7
の1)。
また,このほか,丸形ライター(商品名「スマイリー/シルバーカラ
ビナ付」。甲7の2),5色の種類があるライター(商品名「メロー/
スマイリー」。甲7の1),灰皿(商品名「メラミン灰皿/丸/スマイ
リー」。甲7の3)にも原告登録商標1の図形部分を付して,原告登録
商標1を使用している。
これらの商品に付された図形は,目の大きさ,口の線の太さ,口の両
端の形,口の下のあごの部分の広さ等に照らして,被告が「使用不可」
としている図形である(甲16,53)。
このように,ライテックも,平成20年1月末まで,原告登録商標1
を使用した商品を販売している。
(イ)被告は,これらはライテックが宣伝用に掲載したにすぎないと主張
するが,ホームページに掲載された製品を販売していないというのは余
りりに不自然である。
(3)被告とベストとの間の契約について
ア本件設定契約が終了する平成16年10月30日に先立つ同年9月10
日付けで被告とベストとの間でライセンス契約が締結されているところ
(甲12),本件設定契約が有効であったこの時点で使用が許諾されてい
たのは,原告登録商標2である。
また,被告は,原告に対し,原告との本件設定契約期間中であるためベ
ストとの契約を締結した旨及びベストからのロイヤリティの40%を原告
へのコミッションとして支払う旨の通知をしていること(甲3の2),被
告は,平成16年10月15日付け及び同年11月18日付けファックス
で,原告との契約更新を強く希望していること(甲36,37)からして
も,前記の同年9月10日付けのベストとの契約は,原告登録商標2の使
用許諾契約を更新したものといえ,そうすると,被告が,本件設定契約の
終了を見据えて,Xの商標の使用のみをベストらに指示したということは
あり得ない。
現に,ベストからのロイヤリティの支払の根拠となる商品で,原告登録
商標2以外のものを使用している商品は,一切存在しない。
イ被告の主張について
(ア)被告は,被告とベストとの間の契約書には,SMILEYCOMPANYとの間
で取得した商標の使用権が許諾されており,SMILEYCOMPANYとは,有限
会社スマイル・カンパニーであって,SLCではないと主張する。しか
しながら,SMILEYCOMPANY又はスマイリー・カンパニーの名称は,有限
会社スマイル・カンパニーが設立された平成15年7月22日より前に
被告とベストとの間で締結された平成15年5月28日付け契約書で使
用されており(甲10),また,その1週間前に,被告は,ベストに対
し,許諾する権利であるとして原告登録商標2を送付していること等か
らすれば(甲11),当該契約によって使用が許諾されているのは,原
告登録商標2であるといえ,当該契約書に表記された「SMILEYCOMPAN
Y」が,原告の関連会社であるSLCを意味することは明らかである。
その後,本件設定契約終了前の平成16年9月10日付けの被告とベ
ストとの間の契約書においても,「SMILEYCOMPANY」の名称が用いられ
ており(甲12),さらに,本件設定契約終了後の平成17年6月24
日付けの契約書においても,原告登録商標2を対象とする平成15年5
月28日付けの契約書と同じ文言である「SMILEYCOMPANY」の名称が用
いられている(甲13)。
他方で,被告が,ベストとの間の契約書中にハーベイ・ボール・ワー
ルド・スマイル財団(以下「財団」という。)の名称を用いるのは,原
告との間で専用使用権の設定登録の抹消の交渉が本格化した平成18年
11月22日付け契約書になってからであるが(乙59の2),ベスト
に対しては,この変更について何らの説明も行っておらず,原告登録商
標2と異なる商標の使用許諾であるとの体裁を整えるために,契約書の
文言の変更を行ったものと推認される。また,ベストは,原告登録商標
2を使用するための契約であるとの前提で当該契約を締結しており,財
団が著作権を有する図形の使用を希望しておらず,その許諾も受けてい
ない(甲64)。
(イ)被告は,ベストに対し,原告登録商標2を使用しないように指示し
ていたと主張する。
しかしながら,被告は,本件設定契約終了後は,本来,従前の使用許
諾契約を破棄し,新たに契約を締結すべきところ,従前の使用許諾契約
が破棄されて,別個の契約が締結されたという事実はない。
また,当初の契約書で合意された内容を,被告のみのイニシアティブ
で変更することも不可能である。本件においては,被告は,ベストに対
し,平成15年5月28日付けの契約で原告登録商標2の使用を許諾し
(甲10,11),これが全く同じ文言の契約書により更新されており
(甲12ないし14),他方で,許諾商標を変更する旨の合意書等が締
結された事実もなく,許諾される商標の変更を認める条項もない。
したがって,被告が,ベストに対し,X及びその承継団体指定のロゴ
(以下「公式マーク」ということがある。)なるものを送付していたと
しても,ベストが,その使用を合意しない限り,ベストが公式マークを
使用する義務はない。そして,統一デザインの使用が指定されたのは,
平成20年5月中旬以降である(甲16,53)。
さらに,被告は,ベストに対し,原告登録商標2の専用使用権がなく
なったことを告げたり,原告登録商標2を使用してはならないと告知す
ることはなく,送付又は交付された書面にも,そのことは記載しておら
ず,むしろ原告登録商標2を使用することを許諾していた。そして,ベ
ストは,被告との間でサブライセンス契約を締結するに当たって,期間
を平成24年11月22日までとする専用使用権設定登録がされている
ことを示され,平成24年まで原告登録商標2を使用することができる
との説明を受けたのであるから,専用使用権が消滅したと告げられなけ
れば,その消滅に思い至らないのは無理のないことであり,被告は,ベ
ストをして,依然として本件設定契約に基づく専用使用権を有している
と誤信させて,サブライセンス契約を締結して,ロイヤリティを受領し
ていたものである。
(ウ)被告は,ベストが原告登録商標2を使用しているのであれば被告と
無関係に行ったものであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告は,原告登録商標2の使用を許諾
する契約の内容を変更することなく継続し,これに基づきロイヤリティ
を収受していたであるから,ベストによる原告登録商標2の使用は,被
告との間の原告登録商標2の使用を許諾する契約に基づき行われたもの
といえる。
そして,かつて被告を通じての原告のサブライセンシーであった株式
会社能産プロダクツにおいても,原告の登録商標を用いた灰皿をHPに
掲載しているところ(甲28),ベスト及びライテックを加えて3社も,
被告とは無関係に勝手に原告の登録商標を使っているというのは,不自
然であり,むしろ被告が従前どおり原告各登録商標を使用させていたこ
とを推認させる。
(エ)被告は,ベストがどのような商標を使用していたか知らなかったと
主張する。
しかしながら,被告が,ベストの商標使用状況に関心を有しないはず
がなく,ベストの商品は,日本中で販売されていたのであるから,被告
は,これらを目にしたはずである。
そして,ベストが製造販売している商品は,すべてカタログに掲載さ
れているところ,ベストは,被告に対し,カタログを送付するとともに,
毎年の製造に先駆けて,毎年2回,商品名及びカタログに対応する商品
番号で商品が特定された生産計画書と版権シール注文書を送付していた
こと(甲43ないし47),被告は,その生産計画書に基づいて版権シ
ールを送付したり,ロイヤリティを計算し,ベストは,被告に対し,そ
の満額を支払っていること(甲48ないし51),ベストは実際に生産
計画書に基づいた商品を製造販売していること(甲52ないし59)か
ら,被告は,ベストが製造販売している商品内容についての知識に欠け
るところはなかった。
さらに,ベストの製品の中には,本件設定契約期間中である平成16
年から一貫して原告登録商標2を使用して製造されている商品(例えば,
商品番号60059の「スマイリーキャンディーファスナー缶」)もあ
ることから,被告は,ベストが原告登録商標2を使用した商品を製造販
売していたことを知った上で,原告登録商標2のみを使用したベストの
商品の売上げからロイヤリティを収受していた。
(オ)被告が主張する平成16年9月22日付け「同意書」(乙142。
以下「本件同意書」という。)についても,これに基づく合意は成立し
ておらず,被告が本件設定契約の期間延長の交渉をする義務を負う旨の
記載もない。さらに,その後,被告は,原告に対し,本件同意書に記載
された6か月ではなく,1年間の本件設定契約の延長を申し入れている
こととも矛盾する。
したがって,本件同意書は,被告従業員が,ベストに対し,書面だけ
のことと言って作成させたものであり,ベストから被告に対する原告登
録商標2の使用延長の申入れによって作成されたものではない。
なお,被告は,平成17年5月末までにベストに原告登録商標2を使
用させて,同日までの分として,ベストから1000万円の支払を受け
た事実を認めており,この限度で自白が成立している。
(4)被告とライテックとの間の契約について
ア被告とライテックとの間の平成17年2月3日付け商標使用許諾契約
(乙57の3)及び平成18年1月19日付け商標使用許諾契約(乙57
の2)においては,商標元が「SMILEYCOMPANY」とされているところ,前
記(3)のとおり,被告は,契約書上,SLCを「SMILEYCOMPANY」と表記し
ていたのであるから,これらの契約は,原告商権権1に係るものであると
いうことができる。
なお,平成19年2月13日付け商標使用許諾契約(乙57の1)にお
いては,商標元の記載は「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」
と変更されているが,前記(3)のとおり,被告は,ベストとの間の契約につ
きこのように契約書の文言を変更した後も,ベストに対し,原告登録商標
2の使用を許諾していたのであるから,ライテックに対しても,ベストに
対するのと同様に,原告登録商標1の使用を許諾していたものと推測され
る。
イ被告の主張について
被告は,ライテックに原告登録商標1を使用しないように告げていたと
主張するが,前記(2)のとおり,ライテックは,平成19年11月7日の時
点で,原告登録商標1を使用しており,被告が図柄の変更を求めたのは,
平成20年5月中旬ころからである(甲16,53)。
また,ライテックは,原告からの通知に対し,被告から許諾を受けてい
る権利が原告の商標権であったとの認識を示しており(甲21,22),
被告との間の商標使用許諾契約に基づき,原告の登録商標を使用していた
こと及び被告から本件設定契約の終了を知らされていなかったことを認め
ている。
したがって,被告が,ライテックとの間で,新たな契約を締結したと考
えることはできない。
ウこのほか,前記(3)の被告とベストとの間の契約について述べた事情は,
ライテックについても,同様に当てはまる。
(5)被告の利得及び原告の損失
本件各サブライセンス契約によるミニマム・ロイヤリティが,ベストにつ
き年間1000万円,ライテックにつき年間100万円であったことからす
れば,本件設定契約が終了した後である平成17年から平成20年までの4
年間に被告がベスト及びライテックから取得したロイヤリティの額は,合計
4400万円を下らない。
(6)以上のとおり,被告は,本件設定契約終了後も,法律上の原因がないこと
を知りながら,ベスト及びライテックに対し,原告各登録商標の使用を許諾
し,ベスト及びライテックは,原告各登録商標を使用した商品を製造販売し,
被告は,それによるロイヤリティを取得しているから,被告は,原告に対し,
当該ロイヤリティ相当額4000万円につき,不当利得として返還する義務
がある。
2被告の主張
(1)概要
被告が,本件設定契約終了後に,ベスト及びライテックとの間で締結して
いる契約は,財団からの使用許諾に基づき,原告各登録商標とは別個の商標
の使用を許諾したものであり,その対価として,ベスト及びライテックから
ロイヤリティを受領したものであるから,法律上の原因がある。
そもそも,スマイリーフェイスに関する商品の製造販売は,原告各登録商
標の使用権の確保だけで行えるものではなく,X又はその承継団体に由来す
るスマイリーフェイスというキャラクター自体に関するライセンスがあって
初めて行えるものである。そして,本件各サブライセンス契約の対象となっ
たのは,原告各登録商標だけではなく,財団の著作権等を含んでおり,原告
各登録商標は,その一部にすぎない。
したがって,被告がサブライセンシーから受領するロイヤリティは,キャ
ラクター自体のサブライセンスの対価が主であり,原告各登録商標の使用の
対価がサブライセンシーからのロイヤリティのすべてを占めることはなく,
本件設定契約終了後にベスト及びライテックから受領したロイヤリティは,
X又はその承継団体をライセンス元とするものに基づくものである。
(2)ベスト及びライテックによる原告各登録商標の使用について
ベストやライテックの商品カタログ(甲6の1ないし3,7の1ないし
3)を見ても,原告各登録商標を使用した商品は見当たらない。また,ライ
テックのホームぺージ(甲7の1ないし3)は,本件設定契約終了前に宣伝
用として掲載したものを削除し忘れたにすぎず,これをもって,ライテック
が,本件設定契約終了後も原告登録商標1を使用していたということはでき
ない。
両社の商品に付されたものは,円輪郭のない2つの目と円弧状の口が配置
された図形が多いが,このような図形の商標権は,有限会社ハーベイ・ボー
ル・スマイル・リミテッドが有している(乙65の1及び2)。そして,当
該図形と原告各登録商標とは,顔の輪郭の役割をなす円輪郭の有無に顕著な
差異があり,両者は類似しない旨の審決もされている(乙66)。また,ス
マイル・マークの範疇に属する商標権については,禁止権の範囲は限定され,
完全に同一の図形以外は類似とみなされないと解すべきであるところ,公式
マークと原告各登録商標とは,目の形状や大きさ,位置等,口の太さや円弧
の角度,両端の端部の形状等が異なっていることから,両者は類似していな
い。
仮に,ベスト及びライテックが原告各登録商標を使用した商品を販売して
いるとしても,被告とは無関係に,勝手に使用したものであるか,又は,ロ
イヤリティを支払済みの在庫処分にすぎないと思われる。本件設定契約7条
⒝は,「本契約の解除後も6ヶ月間は在庫商品の売却処分を行うことがで
き」る旨明記されており,そのもちろん解釈として,解除以外の事由による
契約終了の場合にも同様の取扱いが予定されていると解される。したがって,
サブライセンシーが,本件設定契約終了後6か月間在庫品の処分を行うこと
があったとしても,被告において,本件設定契約の違反は生じない。
(3)被告とベストとの間の契約について
ア被告は,ベストに対し,財団やSMILEYCOMPANYとの間で取得した,原告
登録商標2とは別個の商標等の使用権に基づき,従前の契約とは別個に,
当該商標を使用した商品の製造販売権等を付与したものであり(乙59の
1ないし3),同契約に基づく対価として,ベストからロイヤリティ等を
受領したものであって,原告登録商標2の使用に基づく対価を受領したも
のではないから,法律上の原因がある。
そして,被告は,ベストに対し,本件設定契約終了前である平成16年
8月から9月中旬にかけて,X及びその承継団体指定のロゴを使用するよ
うに指示し,その後も一貫してその旨を指導している(乙40の1及び2,
63の1ないし6)。また,被告は,ベストに対し,原告との間の本件設
定契約が終了したことを通知している。
さらに,ベストは,本件同意書(乙142)にサインしており,これに
は,平成17年8月1日以降に企画販売する商品については,財団をライ
センス元とし,その指定のロゴ,ブランドロゴを使用することを約束する
記載があったことからすれば,原告と被告との間の本件設定契約が終了し,
原告登録商標2を使用してはならないことを認識していたということがで
きる。なお,ベストは本件同意書に押印せず,また,これに記載された5
00万円の支払もされなかったため,被告は,原告に対し,本件同意書に
基づく原告に対する原告登録商標2の使用許可の要請は行わなかった。原
告は,被告が,ベストに対し,6か月間使用を許諾したことにつき,自白
が成立したと主張するが,自白は成立していない。
したがって,ベストが原告登録商標2を使用していたとしても,それは
被告との間の契約に違反して使用したものであって,被告がベストに原告
登録商標2の使用を許諾していたことにはならない。
イ原告の主張について
(ア)被告が,本件設定契約終了後にベストとの間で締結した契約書にお
いて「SMILEYCOMPANY」の名称を使っている(甲13,乙59の3)の
は,従前の契約書(甲12)の体裁をそのまま使用した際に書き換える
のを失念した事務処理上のミス(又は業務として大量の契約書を締結し
ている状況において,一から新たな契約書を起案する時間的余裕がなか
ったこと)によるものであり,原告登録商標2を使用することを許諾し
ていたからではない。また,「SMILEYCOMPANY」とは,財団の別法人を
指す(乙62)ものであり,原告を指すものではない。
実際,本件設定契約終了後のベストとの間のライセンス契約(乙59
の1及び2)においては,①新製品を製造する場合,財団の了解を得る
こと(第3条),②契約書に添付したマークを使用し,それ以外のマー
クを使用して発生した問題については,被告は一切責任を負わないこと
(第4条),③「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」の表示
をすること(第6条)等,本件設定契約終了前の契約書には定められて
いない条項が設けられており,被告が原告登録商標2の使用を許諾して
いたのであれば,このような規定が設けられることはあり得ない。そし
て,被告が,原告登録商標2を使用した商品の製造販売を許諾したこと
もない。
(イ)原告は,被告が一方的に使用するマークを変更することはできない
と主張する。
しかしながら,そもそも,ベストとの間のライセンス契約においては,
使用商標として,原告登録商標2を指定していないし,そのライセンス
元も財団の別法人である「SMILEYCOMPANY」であり,原告ではない。
そして,ライセンス契約においては,流行に応じて,ライセンス元が
使用する商標を一方的に指示するのが一般的である。
また,本件設定契約終了後に締結されたベストとの契約書(乙59の
1及び2)では,前記のとおり,原告登録商標2以外のマークを使用す
ることを前提とする合意事項(3条,4条,6条)が盛り込まれており,
許諾商標の変更は,この合意によって承諾されており,一方的に行われ
たものではない。
さらに,被告による公式マークの使用の指示(乙40,63の1ない
し6)に対し,ベストは異議をとどめることなくライセンス契約(乙5
9の1ないし3)を締結していることからしても,許諾商標の変更が合
意によってなされたものであることは明白である。
(ウ)原告は,被告がベストからカタログ掲載の商品番号が記載された生
産計画書の送付を受けていたと主張するが,被告は,ベストの商品カタ
ログを見たことがなく,その存在も知らなかった。また,原告がベスト
のカタログとして提出するもの(甲38ないし42)も,年代の記載が
ないか,あってもその記載を信用することができない。ベストが,被告
との契約に違反して,被告に秘密裏に,原告登録商標2を使用した可能
性がある。
被告は,契約企業にはすべてのデザインを提出してもらい,承認・非
承認の回答をしていたところ,ベストからは一度もデザインの承認を求
める申請はされておらず,被告がこれを承認したこともない。また,被
告は,カタログについても,事前に企画内容を提示してもらい,チェッ
クした上で製作を許可しているが,ベストについては,事前にカタログ
が提出されたことはない。そして,生産計画書のみでは,ベストがどの
ような商標を使用しているか,被告は知ることができない。
したがって,被告は,ベストがどのような商標を使用していたかにつ
いて,確認することができなかった。
(エ)原告は,被告が,ベストに対し,平成24年まで原告登録商標2を
使用することができると説明したと主張するが,被告とベストとの間の
契約の期間は1年であり,それが毎年更新されて継続していたにすぎず,
被告は,そのような説明を行っていない。
(4)被告とライテックとの間の契約について
ア被告は,ライテックに対し,財団やSMILEYCOMPANYとの間で取得した原
告登録商標1とは別個の商標の使用権に基づき,当該商標を使用した商品
の製造販売権等を付与したものである(乙57の1ないし3)。そして,
被告は,同契約に基づく対価としてライテックからロイヤリティ等を受領
したものであって,原告登録商標1の使用に基づく対価を受領したもので
はないから,法律上の原因がある。
また,被告は,ライテックに対し,本件設定契約終了前である平成16
年8月から9月中旬にかけて,公式マークを使用するように指示している
(乙64の1ないし5)。その後も,被告は,ライテックからX及びその
承継団体指定のロゴを使用した新デザインの申請を受け,これを承認する
(乙41の1及び2,乙64の6及び8)等,X及びその承継団体指定の
ロゴを使用するように一貫して指導している(乙64の7)。
イ原告の主張について
(ア)原告は,ライテックが許諾を受けている権利が原告のものであった
との認識を示したと主張するが,被告は,ライテックに対し,前記アの
とおり指導していたから,ライテックが,被告から許諾を受けている権
利が原告のものであったと認識していたはずがない。ライテックからの
回答(甲21,22)からもそのような認識は読み取れない。
なお,被告が,ライテックに許諾したのは,「SMILEYFACE公式ブラン
ドとマーク」に記載されたものである(乙64の7。一部につき,乙6
4の1)。
そして,原告が,ライテックが原告登録商標1を付した商品を販売し
ている証拠として提出するホームページの記載は,削除し忘れたものに
すぎず,実際に商品は販売していない。
(イ)本件設定契約終了後にSMILEYCOMPANYの名称を使っている(乙57
の2及び3)のは,従前の契約書の体裁をそのまま使用した際に書き換
えるのを失念した(又は業務として大量の契約書を締結している状況に
おいて,一から新たな契約書を起案する時間的余裕がなかった)ことに
よるものであり,原告登録商標1を使用することを許諾していたからで
はない。
実際,本件設定契約終了後のライセンス契約(乙57の1)において
は,①新製品を製造する場合,財団の了解を得ること(第3条),②
「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」の表示をすること(第
6条)等,本件設定契約の終了前の契約書には定められていない条項が
設けられており,原告登録商標1の使用を許諾していたのであれば,こ
のような規定が設けられることはあり得ない。そして,被告が,ライテ
ックに対し,原告登録商標1を使用した商品の製造販売を許諾したこと
はない。
(ウ)また,原告は,被告が一方的に使用するマークを変更することはで
きないと主張する。
しかしながら,ライセンス契約においては,流行に応じて,ライセン
ス元が使用する商標を一方的に指示するのが一般的である。
また,本件設定契約終了後のライテックとの契約書(乙57の1及び
2)では,原告登録商標1以外のマークを使用することを前提とする前
記のような合意事項(3条,6条)が盛り込まれており,許諾商標の変
更は,この合意によって承諾されており,一方的に行われたものではな
い。
そして,被告による公式マークの使用の指示(乙64の1ないし4)
に対し,ライテックは異議をとどめることなくライセンス契約(57の
1ないし3)を締結していることからしても,許諾商標の変更が合意に
よってなされたものであることは明白である。
(5)公式マークと原告各登録商標とは類似していないこと。
アスマイル商標は,完全に同一の図形以外は類似とみなされないというべ
きであり(乙123,131),原告各登録商標と公式マークは類似して
いない。
イ大阪地方裁判所平成13年10月26日判決(乙18の2)は,スマイ
ル・マークの範疇に入る商標権については,禁止権の効力が及ぶ範囲は,
商標権に示された具体的外観を備えるスマイル・マークに限定されるとし
ており,本件においても,これらと同様に,類似の範囲を限定し,類似の
有無を厳格に解釈すべきであるから,原告各登録商標と公式マークとは類
似していない。
(6)以上のとおり,被告は,本件設定契約終了後にベスト及びライテックに対
し,原告各登録商標の使用を許諾しておらず,被告は,財団からの使用許諾
に基づき商品化事業を行っているから,被告が,ベスト及びライテックから
ロイヤリティを受領したことには,法律上の原因がある。
第4当裁判所の判断
事案の性質にかんがみ,まず,被告が,本件設定契約終了後も,ベスト及び
ライテックに対して,原告各登録商標の使用を許諾していたか否かについて判
断する。
1被告が,本件設定契約終了後も,ベスト及びライテックに対して,原告各登
録商標の使用を許諾していたといえるか。
(1)被告が有している権利について
証拠(乙1ないし3,5,7ないし9,32ないし35,44,48(い
ずれも枝番があるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実が認められる。
アメリカ合衆国等においては,いわゆるスマイル・マークは,1963年
に米国人であるX(2001年4月12日死亡)によって創作されたといわ
れているところ,被告は,平成10年2月2日,Xとの間で,同人が創作し
たとするスマイル・マークについての商品化事業のため,被告が当該マーク
に関するサブライセンス契約を行うことを認める契約を締結した。同契約は,
平成12年12月23日付けの契約書により更新され,Xの死亡後は,当該
契約関係は,同人から財団に承継された。
(2)被告とベストとの間の関係について
ア事実経過について
前記争いのない事実等,証拠(甲3ないし5,10ないし14,36,
37,48ないし54,64,67,乙12,40,58,59,61な
いし63,140ないし142(いずれも枝番があるものは枝番を含
む。),証人B(以下「B証人」という。))及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
(ア)ベストは,平成11年6月ころ,当時,原告との間で日本における
独占的総代理店契約を締結していた株式会社イングラム(以下「イング
ラム」という。)との間で,商標使用許諾契約を締結し,ベストが製造
販売する菓子等にスマイル・マークの使用を開始した。当該契約の締結
の際,イングラムは,ベストに対し,当該契約が締結された当時,原告
商標権2は登録査定を受けていなかったが,イングラムがサラヤ株式会
社が有するスマイル・マークに類する商標(乙58の4)の譲渡を受け
たことから,当該契約を締結することによって,ベストは,スマイル・
マークを使用することができるとの説明をした。
(イ)その後,イングラムと原告との間の前記代理店契約が終了し,被告
が原告との間で本件設定契約を締結したことから,ベストと被告との間
で商標の使用許諾契約を締結することとなった。被告は,ベストに対し,
平成15年5月21日,当該契約の締結に先立ち,原告商標権2につき
被告の専用使用権の設定登録がされた登録原簿を送付し,それによって
被告の有する「法律的な権利を確認」するよう伝えた(甲11,67)。
その上で,平成15年5月28日,被告が「SMILEYCOMPANYとの間で締
結した商標の使用とこれによるライセンス商品等の商品化に関する契約
に基づき取得した権利」について,ベストに対して再使用許諾をする契
約を締結した(甲10)。同契約の契約書には,①被告は,ベストに対
し,「許諾商品に付するSMILEYFACEの名称及びマーク・デザインの日本
国内における使用権」を提供し(第1条Ⅰ.2)),その使用を許諾す
ること(第3条本文),②ベストは,新製品を製造する場合は,前もっ
てデッサン等の形で被告を通してSMILEYCOMPANYの了解を得ること(同
条ただし書),③ベストが許諾商品に付するマーク等のロゴ・タイプ,
色指定は被告が提案するものを使用すること(第4条),④許諾商品に
「SMILEYCOMPANY」の表示をすること(第6条),⑤契約期間は平成1©
5年6月1日から同16年5月31日までとすること(第11条),⑥
ミニマム・ロイヤリティは952万円,ロイヤリティは一般価格(小売
値)の4%とし,ミニマム・ロイヤリティに達するまで,これをロイヤ
リティの支払に充当することができること(第12条,第13条)等が
契約条項として定められている。
被告は,SLCに対し,平成15年7月3日,同契約によりベストか
ら受領するミニマム・ロイヤリティに基づき原告に支払うべきコミッシ
ョンは380万8000円である旨,連絡した(甲4の1及び2)。
(ウ)a被告とベストとの間の平成15年5月28日付け契約は,契約期
間を平成16年6月1日から同17年5月31日までとして更新され,
同16年9月10日付けで契約書が作成された(甲12,乙140)。
同契約書においては,同15年5月28日付け契約書と同様に,①被
告が「SMILEYCOMPANYとの間で締結した商標の使用とこれによるライ
センス商品等の商品化に関する契約に基づき取得した権利」をベスト
に対して再使用許諾すること(頭書),②被告は,ベストに対し,
「SMILEYFACEの名称及びマーク・デザインの日本国内における使用
権」を提供し(第1条Ⅰ.2)),その使用を許諾すること(第3条
本文),③ベストは,新製品を製造する場合には,前もってデッサン
等の形で被告を通してSMILEYCOMPANYの了解を得ること(第3条ただ
し書),④ベストが許諾商品に付するマーク等のロゴタイプ,色指定
は,被告が提案するものを使用すること(第4条),⑤許諾商品に
「SMILEYCOMPANY」の表示をすること(第6条),⑥ミニマム・ロイ©
ヤリティは1000万円,ロイヤリティは一般価格(小売値)の4%
とし,ミニマム・ロイヤリティに達するまで,これをロイヤリティの
支払に充当することができること(第13条,第14条)等が契約条
項として定められている。
これらのほか,同契約書においては,新たに第7条が追加され,同
条には,「乙(ベスト)は本件マーク又はそれに類似した「スマイリ
ー・フェイス」の商標を乙(ベスト)自ら又は関係者によって,申請
・登録・保持をしないものとする。」と定められている。
被告は,同契約に基づき,ベストから平成16年12月27日に5
6万7040円,同17年3月8日に217万7360円の支払を受
けた(乙61)。
bなお,被告は,ベストに対し,当該契約書の作成に前後して,次の
ような内容の書面を交付又は郵送し,ベストは,これらを受領した。
⒜平成16年8月7日付け「デザイン統一のお願い」と題する書面
(乙63の1)。当該書面には,これに添付した「SMILEYFACE公
式ブランドとマーク」(公式マークとして5個,付属マークとして
6個のマークが記載されている。)に統一したいと記載され,その
理由として,スマイリー・フェイスのマークがいろいろあるのはお
かしいとの指摘があること,スマイル商品の流行の継続は,被告ら
が多額の費用を投入して行っている財団の「スマイル国民運動」に
よるものであること等が挙げられている。
⒝同月9日付け「マークの刷新のお願い」と題する書面(乙63の
2)。当該書面には,「スマイルの再生の為」,マークの一新を決
めたこと,従来のマークを財団の存在と一致させるものであること,
今後の商品企画から「過日指定のマーク」に変更すること,既に許
可済みの商品についても,今後の販売から変更すること等が記載さ
れている。
⒞同日付け「立体マークへの変更を」と題する書面(乙63の3)。
同書面には,「「斬新さ」と「驚き」の連続」等のために,立体マ
ークに変更することに決めた旨の記載がされている。
⒟同月18日付け書面(乙40の1)。当該書面には,資料として,
別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」と題する書面が添付さ
れ,同書面には,公式マークとして9個,付属マークとして6個の
マークが記載されている。
⒠同年9月13日付け「スマイル・チョコレートの件」と題する書
面(乙40の2)。当該書面には,①ブランドは「SMILEYFACE(ス
マイリー・フェイス)」又は「SMILE(スマイル)」を使用すること,
②絵柄,デザインの事前確認の要請,③タグ等に「この商品は米国
X氏の著作権に基づいて製造しました」と書き入れること,④「De
signedbyX」を入れること等が記載されている。©
⒡同月14日付け「契約書変更のお願い」と題する書面(乙63の
5)。当該書面には,同月10日付け契約書について,矛盾点があ
ったとして,これに添付した「契約書付属文書」に押印して返却す
ることを求めるものであり,「契約書付属文書」には,①同契約書
の第1条Ⅰ.2)の被告が提供する権利に「SMILE」を追加すること,
②同契約書第6条の許諾商品に付す表示を「SMILECOMPANY」から©
「HARVEYBALLWORLDSMILEFOUNDATION」と変更するとともに,©
「DESIGNBYX」を追加すること等が記載がされている。ベストは,©
当該書面の送付は受けたものの,当該「契約書付属文書」に記名押
印をしなかった。
なお,これらの書面のいずれにおいても,本件設定契約の終了につ
いては,何ら記載されていない。
c平成16年9月10日,被告は,SLCに対し,ベストとの契約を
1年間更新したこと及びベストから受領するロイヤリティの支払見込
額1000万円の40%である400万円を支払うことを連絡し(甲
3の2),同月13日,これを支払った(乙141の1及び2)。こ
れに対し,SLCは,被告に対し,平成16年9月20日,本件設定
契約が解除済みであって,これを更新するつもりもないこと及び被告
とベストとの間の契約をSLCに譲渡することを求めた(甲5の1)。
その後も,被告は,SLCに対し,本件設定契約の延長を希望する旨
の書面を送付する等したが,SLCはこれに応じなかった(甲5の2
及び3,36,37)。
d被告は,平成16年9月22日ころ,ベストとの間の同月10日付
け契約に関して,平成17年3月末までに販売する商品について原告
登録商標2を使用することを容認すること,ベストはその対価として
500万円を支払うこと,平成17年8月1日以降に企画販売する商
品については,財団をライセンス元とし,その指定するロゴ,ブラン
ドロゴを使用することを内容とする本件同意書を作成し,ベストに対
し,記名・押印を求めた。ベストは,これに会社名及び代表取締役氏
名を記載したものの押印はしなかった。。
(エ)被告とベストとの間の契約は,契約期間を平成17年6月1日から
同18年5月31日までとして更新され,同17年6月24日付けで契
約書が作成された(甲13,乙59の3)。同契約書の条項は,前記
(ウ)aの平成16年9月10日付け契約書と同一であり,前記(ウ)b⒡
の「契約書付属文書」のような契約条項の変更はされていない。
被告は,同契約に基づき,ベストから,平成17年10月,ミニマム
・ロイヤリティとして合計1050万円の支払を受けた(甲49の1及
び2,乙61)。
(オ)被告とベストとの間の契約は,契約期間を平成18年6月1日から
同19年5月31日までとして更新され,平成18年11月22日付け
で契約書が作成された(甲14,乙59の2)。同契約書の契約条項は
従前の契約書とは契約条項が変更されており,①被告が「財団との間で
締結した商標の使用とこれによるライセンス商品等の商品化に関する契
約に基づき取得した権利」をベストに対して再使用許諾すること(頭
書),②被告は,ベストに対し,「SMILEYFACEの名称及びマーク・デザ
イン(以下「本件マーク」という。)の日本国内における使用権」を提
供し(第1条Ⅰ.2)),その使用を許諾すること(第3条本文),③
ベストは,新製品を製造する場合は,前もってデッサン等の形で,被告
を通して財団の了解を得ること(同条ただし書),④ベストが付するマ
ーク等のロゴ・タイプ,色指定は被告が提案するものを使用すること,
許諾商品に付するマークは本契約書に添付した「マーク」を使用するも
のとすること,本「マーク」以外のデザインを使用し,発生した問題に
ついて被告は一切の責任を負わないこと(第4条),⑤許諾商品に「ハ©
ーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」の表示をすること(6条),
⑥ミニマム・ロイヤリティは1000万円,ロイヤリティは一般価格
(小売値)の4%とし,ミニマム・ロイヤリティに達するまで,これを
ロイヤリティの支払に充当することができること(第13条,第14
条)等が契約条項として定められている。また,同契約書には,別紙
「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」と題する書面(前記(ウ)b⒟の
書面に添付されたものと同一のものと認められる。)が添付されていた。
なお,同契約書の作成に先立って,被告は,ベストに対し,平成18
年9月11日付け書面を送付した(乙63の4,63の6)。当該書面
は,添付した「契約書付属文書」に押印して返却するように求めるもの
であり,「契約書付属文書」には,許諾商品には「公式マーク」を使用
し,これ以外のデザインを使用して発生した問題について,被告は責任
を負わないことが記載されるとともに,別紙「SMILEYFACE公式ブラン
ドとマーク」と題する書面(前記の平成18年11月22日付け契約書
に添付されたものと同一のものと認められる。)が添付されている。
被告は,同契約に基づき,ベストから,ミニマム・ロイヤリティとし
て,平成18年12月20日に500万円(甲50の1),同19年8
月14日に500万円の支払を受けた(甲50の1ないし3,乙61)。
(カ)被告とベストとの間の契約は,契約期間を平成19年6月1日から
同20年5月31日までとして更新され,同19年9月7日ころ,契約
書(乙59の1)が作成された。同契約書には,ミニマム・ロイヤリテ
ィの額が750万円に変更されたほかは,前記(オ)の同18年11月2
2日付け契約書の契約条項①ないし⑥と同一の条項が定められている。
なお,「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」と題する書面は添付され
ていない。
被告は,同契約に基づき,ベストから,ミニマム・ロイヤリティとし
て,平成20年2月6日に393万7500円,同月18日に50万円
の支払を受けた(甲51,乙61)。
(キ)本件訴訟が提起された後である平成20年5月,被告は,ベストに
対し,ベストが原告の商標を使用していることにつき失望した旨等を記
載した書面を送付するとともに,必ず「X」と入れること,使用するマ©
ークと使用してはいけないマーク等を記載した書面を送付する等した
(甲52ないし54)。被告とベストとの間の前記(カ)の契約関係も,
平成20年5月31日,期間満了により終了した。
(ク)ベストは,本件設定契約終了後においても,被告に対し,商品名,
商品番号,生産数量,上代価格等を記載した生産計画書を送付している
(甲44ないし46(枝番を含む。))。
また,被告は,ベストに対してロイヤリティを請求するに当たって,
本件設定契約終了の前後にかかわらず,その請求書に,ブランド名とし
て「SMILEYFACE」と記載している(甲48ないし51)。
イ検討
(ア)被告が,ベストとの間で契約を締結した当初から本件設定契約終了
前までの間に使用を許諾していたマークについて
a前記ア(イ)のとおり,被告とベストとの間の契約は,原告とイング
ラムとの間の総代理店契約の終了を契機として締結されたものである
こと,被告とベストとの間の契約締結当初に,被告からベストに対し
原告商標権2につき専用使用権設定登録がされたことを示す登録原簿
が示されていること,被告から,SLCに対して,ベストから受領し
たミニマム・ロイヤリティにつきコミッションを支払う旨通知し,現
にこれを支払っていることからすれば,被告がベストと契約を締結す
るに当たって,ベストに対して使用を許諾した商標には,原告登録商
標2が含まれると認められる。
b被告は,ベストに対して使用を許諾したのは,財団や「SMILEYCOM
PANY」との間で取得した別個の商標等であると主張する。
確かに,被告がベストとの間で契約を締結した時点においては,被
告は,原告各登録商標についての専用使用権のほか,X及び財団から
許諾を受けた権利を有していたと認められる。
しかしながら,前記aのとおり,被告とベストとの間の契約締結に
当たって被告からベストに対して示されたのは,原告登録商標2のみ
であって,平成16年8月より前に,ベストに対して,財団が有する
商標の使用が許諾されたと認めるに足る証拠はない。また,「SMILEY
COMPANY」とはいかなる会社をいうのか,被告の主張によっても明ら
かではなく,仮に,それが有限会社スマイル・カンパニー(乙62)
を指すとすれば,同社が設立される平成15年7月22日より前に締
結・作成されたベストとの間の契約書において,設立前の会社名が示
されるというのは,不自然である。
したがって,「SMILEYCOMPANY」との契約書の記載をもって,被告
がベストに対して許諾した権利には,原告商標権2が含まれないとい
うことはできない。
よって,被告の前記主張は理由がない。
(イ)平成18年11月22日前の被告による使用マークの変更の権限の
有無
前記(ア)のとおり,本件設定契約終了前に被告とベストとの間で締結
された契約においては,原告登録商標2が使用許諾の対象とされていた
ものと認められる。そして,前記アのとおり,被告とベストとの間の契
約は,平成17年6月24日付け契約書まで,契約の基礎となった被告
の権利は「SMILEYCOMPANYとの間で締結した商標の使用とこれによるラ
イセンス商品等の商品化に関する契約に基づき取得した権利」と記載さ
れたまま変更されておらず,平成18年11月22日付け契約書に至っ
て初めて財団の権利を基礎とすることが明示されていることからすれば,
契約書上は,平成17年6月24日付け契約書による契約期間が終了す
る同18年5月31日までは,原告登録商標2を許諾の対象としており,
被告が,ベストが使用する商標につき,契約期間中にこれを変更したと
認められない限り,被告は,ベストに対し,原告登録商標2の使用を許
諾していたと認めるのが相当である。
そこで,以下,被告が,ベストに対し使用を許諾する商標につき変更
したか否かを検討する。
a使用する商標を変更する権限について
前記アのとおり,被告とベストとの間の契約においては,ベストは,
新製品を製造する場合は,前もってデッサン等の形で,被告を通して
SMILEYCOMPANYの了解を得ること(第3条),ベストが許諾商品に付
すマーク等のロゴ・タイプ,色指定は,被告が提案するものを使用す
ること(第4条)との契約条項が定められている。
しかしながら,前記のとおり,平成18年11月22日付け契約書
に至って初めて財団の権利を基礎とすることが明示されたこと,その
間,前記ア(ウ)dのとおり,平成16年9月22日ころ,被告とベス
トの間では本件合意書の作成が検討され,ベストが同合意書に会社名
及び代表者名まで記載したものの押印せず,その後に作成された平成
17年6月24日付けの契約書(甲13,乙59の3)においても,
契約の対象は,従前どおり,被告が「SMILEYCOMPANYとの間で締結し
た商標の使用」とされていたことからすれば,前記平成18年11月
22日付け契約書が作成されるまでの間は,使用許諾の対象とされた
商標は,従前どおり,原告登録商標2であって,少なくとも,被告の
一方的意思表示によって,それを他の商標に変更することは許されな
いものというべきである。
bベストが使用する商標の変更の効果について
前記ア(ウ)bのとおり,被告は,ベストに対し,平成16年8月か
ら9月にかけて,複数回にわたって,使用すべきマークを変更する旨
の書面を送付し,使用すべきマークとして「SMILEYFACE公式ブラン
ドとマーク」と題する書面(乙63の1)を送付し,以後,これに記
載されたマークを使用するよう指示していたのであるが,前記aのと
おり,これによって,使用許諾商標が被告が指示するものに限定され,
原告登録商標2を使用することができないようになったと解すること
はできない。
c被告の主張について
⒜被告は,本件設定契約の終了後にベストとの間で締結した平成1
7年6月24日付け契約書(甲13,乙59の3)において「SMIL
EYCOMPANY」の名称を使用したのは,従前の契約書の体裁をそのま
ま使用した事務処理上のミスであると主張する。
しかしながら,前記ア(ウ)bのとおり,被告は,平成16年9月
10日付け契約書の締結前後に,複数回にわたって使用するマーク
についての書面を交付又は送付し,また,同日付け契約を締結した
後に「契約書変更のお願い」を送付して契約条項の変更を求めてい
るところ,このような慎重な対応をとっていた被告が,平成17年
6月24日付け契約書において,単に,事務処理上のミスや時間的
余裕のなさから従前の契約書と同一のものを使用したというのは,
不自然である。そして,被告が,同日付け契約書を締結した後に,
契約条項の内容について,特段の対応を取っていないことからすれ
ば,その不自然さは尚更である。
⒝被告は,また,ベストとの間のライセンス契約においては,使用
商標として,原告登録商標2を指定していないし,そのライセンス
元も財団の別法人である「SMILEYCOMPANY」であり,原告ではない
と主張する。
しかしながら,ベストとのライセンス契約において,原告登録商
標2が許諾の対象となったとみるべきことは,前記(ア)のとおりで
ある。
また,契約書にライセンス元と記載されている「SMILEYCOMPAN
Y」が個人である原告でないことはもとより被告の主張するとおりで
あるが,前記(ア)のとおり,被告がベストから得たロイヤリティの
一部をSLCに支払っていることからすれば,少なくとも,原告登
録商標2が許諾の対象となっていたことは明らかというべきである。
⒞被告は,ライセンス契約においては,ライセンス元が使用する商
標を一方的に指定するのが一般的であると主張する。
しかしながら,契約によって使用が許諾された商標について,そ
の使用態様をライセンス元が指示する権限があるとしても,使用許
諾している商標そのものについてライセンス元がこれを使用するこ
とができないとの指示をする権限までが契約上与えられているもの
と解することはできない。
⒟被告は,さらに,本件設定契約終了後に締結された契約書には原
告登録商標2以外のマークを使用することを前提とする合意事項
(第3条,第4条及び第6条)があり,被告の公式マークの使用の
指示に対し,ベストは,異議をとどめることなくこれらの契約(乙
59の1ないし3)を締結しているから,許諾商標の変更が合意に
基づいてなされたものであると主張する。
しかし,このうち,平成17年6月24日付け契約書の第6条は,
商品に「SMILEYCOMPANY」と表示するというものであって,これを©
もって原告登録商標2以外のマークを使用することを前提とする合
意事項ということはできない。そして,同契約書第3条及び第4条
の定めは,許諾された商標の使用を前提として,その使用態様を指
示する権限を被告に与えたものにすぎないものと解され,それを超
えて,被告が一方的に許諾商標の使用を禁止する権限までを与えた
ものとは解されず,これらの条項が,原告登録商標2以外のマーク
を使用することを前提としたものということもできない。
もっとも,許諾対象の商標が「被告がハーベイ・ボール・ワール
ド・スマイル財団との間で締結された商標」とされた平成18年1
1月22日付け契約以降(乙59の1,2)については,原告登録
商標2以外のマークを使用することを前提とする合意事項が存在す
るということができ,被告が,原告登録商標2の使用を許諾したと
は認められないことは,後記(ウ)のとおりである。
さらに,被告の公式マークの使用の指示に対し,ベストが異議を
とどめることなくライセンス契約を締結しているとする点について
も,契約書において,許諾対象の商標が被告が「SMILEYCOMPANY」
との間で締結した商標とされている間は,契約による許諾の対象は
原告登録商標2と解されるのであるから,公式マークの使用につき
ベストが異議をとどめることなくライセンス契約を締結したという
ことはできない。
⒠以上によれば,被告の主張はいずれも理由がない。
(ウ)平成18年11月22日以降における被告による変更権限の有無
a前記ア(オ)及び(カ)のとおり,平成18年11月22日付けで被告
とベストとの間で締結された契約書(乙59の2)及び平成19年9
月7日ころに両者間で締結された契約書(乙59の1)においては,
使用許諾の対象となる商標が,「被告がハーベイ・ボール・ワールド
・スマイル財団との間で締結した商標」とされた。
したがって,これ以降は,原告登録商標2は使用許諾の対象から除
外されたものと解され,被告は,ベストに対し,許諾商標である財団
から許諾を受けた商標について,その使用態様を指示する権限を有す
るようになったというべきである。
そして,この間,被告による公式マークの使用の指示が撤回された
形跡は見当たらないから,以後,ベストは,公式マークの使用を義務
付けられ,また,被告との契約に基づいて,許諾の対象外である原告
登録商標2を使用することはできなくなったものというべきである。
b原告の主張について
⒜原告は,ベストが,被告から,被告との間の商標権使用許諾契約
の締結に当たって,原告登録商標2を今後10年間使用することが
できると言われ,本件設定契約の終了も告げられなかったから,ベ
ストは,本件設定契約の終了に思い至らず,被告は,なお本件設定
契約に基づく専用使用権を有しているとベストを誤信させて,ベス
トとの間の契約を締結したと主張し,B証人もこれに沿った証言を
する。
しかしながら,ベストと被告との間の契約の契約期間は,いずれ
も1年間であって,このような契約条項とは異なり,被告が,ベス
トに対し,原告登録商標2を今後10年間使用することができると
言ったと認めるに足る証拠はない。
⒝また,原告は,被告が,本件設定契約終了後にベストが原告登録
商標2を使用していることを知りながら,ベストからロイヤリティ
を受領していたと主張する。
しかしながら,ベストが,被告に対し,製造する商品のデザイン
につき承認を求めるためのアプルーバルシートを送付していないこ
とは,B証人自身が認めるところである。また,ベストが,被告に
対し,カタログを送付する等自己が製造する商品のデザインを通知
していたことや,被告がベストが製造する商品のデザインを認識し
ていたと認めるに足る客観的証拠はない。なお,前記ア(ク)のとお
り,ベストは,被告に対し,自己が製造する商品の生産計画書を送
付しているが,これには,商品名及び商品番号が記載されているの
みであって,これのみによって商品のデザインを把握することは,
困難である。
以上のことからすると,ベストに対して,複数回にわたって,使
用すべきスマイル・マークを通知し,また,ベスト以外の他社につ
いては,商品のデザインについてのアプルーバルシートの提出を求
めていた被告が,ベストが製造する商品のデザインを把握せず,か
つ,これを把握するために何らの措置も講じなかったということに
ついては疑義があるものの,被告がベストが使用している商標を認
識していたと認めることはできない。
(エ)小括
以上のとおり,被告は,平成18年11月22日付け契約書によって,
許諾商標の対象を原告登録商標2から財団の商標に変更するまでの間は,
ベストに対して使用を許諾する商標を,別紙「SMILEYFACE公式ブラン
ドとマーク」に記載されたマークに変更する権限を有せず,被告の指示
をベストが承諾したとも認められないから,ベストは,それまでの間は,
被告との間の使用許諾契約に基づいて,被告との間で,原告登録商標2
を使用する権限を有していたものと認められ,平成18年11月22日
付けの契約書によって許諾の対象が財団の商標に変更された後は,被告
の指示する商標のみを使用する権限を有し,被告との間で,原告登録商
標2を使用する権限を失っていたものと認められる。
(3)被告とライテックとの間の関係について
前記争いのない事実等,証拠(甲4,21,22,乙39,57,61,
64,69(枝番があるものは,枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
ア事実経過
(ア)被告とライテックは,平成13年2月ころ,ブランド名を「SMILEY
FACE(スマイリー・フェイス)」,商品範囲をライター,契約期間を1
年間とする等の契約条件を交渉の上(乙39),スマイル・マークに関
する商標の使用許諾契約を締結した。
被告は,平成15年7月3日,SLCに対し,ライテックから受領し
たオーバー・ロイヤリティの合計91万5942円につき,その40%
である36万6377円をコミッティとして支払う旨の通知をした(甲
4の1,3及び4)。
(イ)被告とライテックとの間の契約は,1年ごとに更新されていたが,
本件設定契約終了前に,被告は,ライテックに対し,次のような内容の
書面を送付又は交付した。
a平成16年8月7日付け「デザイン統一のお願い」と題する文書
(乙64の1)。その内容及び添付書面は,前記(2)ア(ウ)b⒜のベス
トに対して送付された同日付け「デザイン統一のお願い」と題する書
面と同一である。
b同月9日付け「マークの刷新のお願い」と題する書面(乙64の
2)。その内容は,前記(2)ア(ウ)b⒝のベストに対して送付された同
日付け「マーク刷新のお願い」と題する書面と同一である。
c同日付け「立体マークへの変更を」と題する書面(乙64の3)。
その内容は,前記(2)ア(ウ)b⒞のベストに対して送付された同日付け
「立体マークへの変更を」と題する書面と同一である。
d同日付けの書面で,「「SMILEYFACE」の顔を「X」のものにして下
さい。」との理由で,ライテックが承認を求めていたデザイン案を非
承認とする旨連絡した(乙64の4)。
(ウ)被告とライテックとの間の契約は,平成17年2月3日付け契約書
により,契約期間を同月1日から同18年1月末日までとして,更新さ
れた(乙57の3)。同契約書には,①被告が「THESMILEYCOMPANYと
の間で締結した商標の使用とこれによるライセンス商品等の商品化に関
する契約に基づき取得した権利」をライテックに対して再使用許諾する
こと(頭書),②被告は,「SMILEYFACEの名称及びマーク・デザインの
日本国内における使用権」を提供し(第1条Ⅰ.2)),ライテックが
当該マークを使用することを許諾すること(第3条本文),③ライテッ
クは,新製品を製造する場合には,前もってデッサン等の形で,被告を
通してTHESMILEYCOMPANYの了解を得ること(第3条ただし書),④ラ
イテックが許諾商品に付すマーク等のロゴタイプ,色指定は,被告が提
案するものを使用すること(第4条),⑤許諾商品に「SMILEYCOMPA©
NY」の表示をすること,⑥ミニマム・ロイヤリティは100万円,ロイ
ヤリティは一般価格(小売値)の4%とし,ミニマム・ロイヤリティに
達するまで,これをロイヤリティの支払に充当することができること
(第13条,第14条)等が契約条項として定められている。
被告は,ライテックから,当該契約に基づくロイヤリティとして,平
成17年2月21日に100万円,同年5月25日に132万6400
円の支払を受けた(乙61)。
なお,当該契約の契約期間中である平成17年4月26日,ライテッ
クから被告に対し,デザインの承認申請がされており(乙41の1),
当該デザインには,スマイル・マークの横に「HarveyBallWorldSm©
ileFoundation」との表記がされている。
(エ)被告とライテックとの間の契約は,平成18年1月19日付け契約
書により,契約期間を同年2月1日から同19年1月末日までとして,
更新された(乙57の2)。同契約書の条項は,ロイヤリティの率を3
%に変更する(第13条)ほかは,前記(ウ)の平成17年2月3日付け
契約書の契約条項①ないし⑥と同一の契約条項が定められている。
被告は,ライテックから,当該契約のロイヤリティとして,平成18
年2月15日に100万円,同年9月2日に126万2250円の支払
を受けた(乙61)。
なお,被告は,ライテックに対し,平成18年6月22日付け「ご通
知」と題する書面を送付した(乙64の7)。同書面には,2004年
度から再三お願いしていることとして,ライセンス商品に使用するもの
は,同書面に添附した別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」と題
する書面に記載されたものとすること等が記載されている。
(オ)被告とライテックとの間の契約は,契約期間を平成19年2月1日
から同20年1月末日までとして更新され,同19年2月13日付け契
約書が作成された(乙57の1)。同契約書においては,従前の契約書
とは契約条項が一部変更されており,①被告が「財団との間で締結した
商標の使用とこれによるライセンス商品等の商品化に関する契約に基づ
き取得した権利」をライテックに対して再使用許諾すること(頭書),
②被告は,「SMILEYFACEの名称及びマーク・デザインの日本国内におけ
る使用権」を提供し(第1条Ⅰ.2)),ライテックが当該マークを使
用することを許諾すること(第3条本文),③ライテックは,新製品を
製造する場合には,前もってデッサン等の形で,被告を通して財団の了
解を得ること(第3条ただし書),④ライテックが許諾商品に付すマー
ク等のロゴタイプ,色指定は,被告が提案するものを使用すること(第
4条),⑤許諾商品には「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財©
団」の表示をすること,⑥ミニマム・ロイヤリティは100万円,ロイ
ヤリティは一般価格(小売値)の3%とし,ミニマム・ロイヤリティに
達するまで,これをロイヤリティの支払に充当することができること
(第13条,第14条)等が契約条項として定められている。
被告は,ライテックから,当該契約のロイヤリティとして,平成19
年2月1日に100万円,同年10月1日に54万5160円,同月3
1日に62万5800円の支払を受けた(乙61)。
(カ)原告は,ライテックに対し,平成19年12月28日付け内容証明
郵便によって,本件設定契約の終了を告知するとともに,原告登録商標
1の使用の即時中止等を求めた(乙69)。これに対し,ライテックは,
原告に対し,平成20年1月15日付け内容証明郵便により,被告の
「専用使用権が抹消登録された以上,…通知人殿(原告)の商標権と抵
触する行為は当然避けなければ」ならない旨通知するとともに(甲2
1),同年2月14日付け内容証明郵便により,「ジャス社(被告)の
専用使用権がすでに抹消登録されたこと,弊社(ライテック)とジャス
社(被告)の使用許諾契約も平成20年1月31日に終了したこと」か
ら,今後の商品展開につき検討した結果,ライテックは「今後,SMILEY
関連の商品は一切取り扱わないという結論になりましたので,すでに商
品の生産は中止し,ジャス社(被告)に対しては契約の継続は行わない
旨の通知を行」った旨通知した(甲22)。
イ検討
(ア)被告が,ライテックとの間で契約を締結した当初から本件設定契約
終了前までの間に使用を許諾していたマークについて
a前記ア(ア)のとおり,被告は,SLCに対し,ライテックから受領
したオーバー・ロイヤリティについてのコミッティの支払を通知して
いること,被告がライテックと契約を締結した時期(平成13年2月
ころ)と原告商標権1につき専用使用権の設定登録がされた時期(平
成13年2月8日)とが近接していることからすれば,被告が,ライ
テックと契約を締結するに当たって,ライテックに対して使用を許諾
していた商標には,原告登録商標1が含まれると認められる。
b被告は,ライテックに対して使用を許諾したのは,財団や「SMILEY
COMPANY」との間で取得した別個の商標等であると主張する。
被告とライテックとの間の平成17年2月3日付け契約書の契約期
間である同月1日ないし平成18年1月末日より前の期間における契
約の契約書は証拠として提出されていないが,前記(2)アのとおり,被
告とベストとの間の契約の契約条項は,平成18年11月22日付け
契約によって変更されるまでは,ほぼ同一のまま契約が更新されてい
たこと,被告とベストとの間の契約の契約条項と被告とライテックと
の間の契約の契約条項とは,ほぼ同一であることからすれば,平成1
7年2月3日付け契約書より前の期間における契約書も,同日付け契
約書と同様の内容であったと推認される。この契約条項中の「SMILEY
COMPANY」とはいかなる会社をいうのか,被告の主張によっても明ら
かではなく,仮に,それが有限会社スマイル・カンパニー(乙62)
を指すとすれば,同社が設立される平成15年7月22日より前に締
結・作成されたライテックとの間の契約書において,設立前の会社名
が示されるというのは,不自然であることは,前記(2)イ(ア)と同様で
ある。したがって,「SMILEYCOMPANY」との契約書の記載をもって,
被告がライテックに対して許諾した権利には,原告商標権1が含まれ
ないということはできず,他に前記aの認定を覆すに足る証拠はない。
よって,被告の前記主張は理由がない。
(イ)被告による使用マークの変更の権限の有無
a使用する商標を変更する権限について
前記(ア)のとおり,本件設定契約終了前に原告とライテックとの間
で締結された契約においては,原告登録商標1が使用許諾の対象とさ
れていたものと認められる。そして,前記アのとおり,被告とライテ
ックとの間の契約は,平成18年1月19日付け契約書まで当該契約
の基礎となった被告の権利に関する文言は「SMILEYCOMPANYとの間で
締結した商標の使用とこれによるライセンス商品等の商品化に関する
契約に基づき取得した権利」と記載されたまま変更されておらず,平
成19年2月13日付け契約書に至って初めて財団の権利を基礎とす
ることが明示されていることからすれば,ベストの場合と同様,被告
は,平成19年2月13日前においては,原告登録商標1の使用を許
諾しており,これをライテックの承諾無く,一方的に公式マークの使
用のみに限定する権限を有せず,平成19年2月13日以降の契約に
おいて初めてそのような権限を有するに至ったものと解される。
bライテックが使用する商標の変更の効果について
前記ア(イ)のとおり,被告は,ベストに対するのと同様に,ライテ
ックに対し,平成16年8月から9月にかけて複数回にわたって,使
用するマークを変更する書面を送付し,使用すべきマークとして「SM
ILEYFACE公式ブランドとマーク」と題する書面(乙64の1)を送
付し,以後,これに記載されたマークを使用するよう指示していたの
であるが,前記aのとおり,被告がそのような変更権限を有するに至
るのは,平成19年2月13日以降のことであるから,ライテックが,
被告との間で,原告登録商標1の使用権限を喪失し被告のライテック
に対する指示に基づき公式マークの使用のみが許諾されたことになる
のは,平成19年2月13日以降のことであり,同日前においては,
ライテックは,被告との間で,原告登録商標1を使用する権限を有し
ていたものというべきである。
なお,原告は,被告が図柄の変更を求めたのは,平成20年5月中
旬ころであると主張する。しかしながら,前記(2)ア(ウ)bのとおり,
被告は,ベストに対して,平成16年8月から9月にかけて,使用す
べきマークの変更を求めていることからすれば,前記ア(イ)のとおり,
ライテックに対しても,これと同様の時期に使用すべきマークの変更
を求める書面を送付又は交付していたと認めるのが相当である。そし
て,契約書においても,平成19年2月13日契約書において財団の
権利を基礎とすることが明示されているから,同日以降,許諾の対象
とされたものが変更されたと認められる。したがって,原告の主張は,
理由がない。
(ウ)原告の主張について
原告は,ライテックが,原告からの通知に対し,被告から許諾を受け
ていた権利が原告の商標権であったとの認識を示しており,被告との間
の契約に基づき,原告の登録商標を使用していたことを認めていると主
張する。しかしながら,原告がその主張の根拠とするライテックからの
回答書(甲21,22)の記載は,前記ア(カ)のとおりであり,当該記
載内容に照らして,ライテックは,ライテックが使用している「SMILEY
関連の商標」が原告登録商標1であるか否かについては,何ら明確に回
答していないと認められるから,原告の前記主張は,理由がない。
(エ)被告が,平成19年2月13日以降において,ライテックが使用し
ている商標を認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
(オ)小括
以上のとおり,被告は,平成19年2月13日付け契約書によって,
許諾商標の対象を原告登録商標1から財団の商標に変更するまでの間は,
ライテックに対して使用を許諾する商標を,別紙「SMILEYFACE公式ブ
ランドとマーク」に記載されたマークに変更する権限を有せず,被告の
指示をライテックが承諾したとも認められないから,ライテックは,そ
れまでの間は,被告との間の使用許諾契約に基づいて,被告との間で,
原告登録商標1を使用する権限を有していたものと認められ,平成19
年2月13日付けの契約書によって許諾の対象が財団の商標に変更され
た後は,被告の指示する商標のみを使用する権限を有し,被告との間で,
原告登録商標1を使用する権限を失っていたものと認められる。
(4)小括
ア以上のとおり,被告は,ベストに対し,平成18年11月22日前にお
いて,原告登録商標2の使用を許諾しており,また,ライテックに対し,
平成19年2月13日前において,原告登録商標1の使用を許諾していた
ものと認められる。したがって,本件設定契約が終了した後から当該許諾
期間内については,被告は,原告との間で,法律上の原因なくして,ベス
ト及びライテックからロイヤリティを取得し,原告に損失を与えていたも
のというべきである。
イもっとも,平成18年11月22日以後においても,ベストが使用した
標章が原告登録商標2又はこれに類似する標章であったとすれば,被告が
ベストから受領したロイヤリティは,当該使用の範囲において,ベストが
原告登録商標2を使用したことについての対価であると評価することがで
きるから,被告が原告登録商標2の使用を許諾していなかったとしても,
被告が当該ロイヤリティを受領したことは,被告が悪意である場合には,
法律上の原因がないものと解される余地があるというべきである。しかし,
前記(2)イ(ウ)bのとおり,被告が,ベストが使用している商標を知ってい
たとは認められない。
ウまた,被告がライテックから受領したロイヤリティについても,平成1
9年2月13日以後,ライテックが,原告登録商標1又はこれに類似する
標章を使用した商品を販売したことに対応する額については,ライテック
が原告登録商標1を使用したことについての対価であると評価することが
できるから,被告が原告登録商標1の使用を許諾していなかったとしても,
被告がこれを取得する権利を有しないものであり,被告がこれを取得する
ことは,被告が悪意である場合には,法律上の原因がないものと解される
余地があるというべきである。しかし,前記(3)イ(エ)のとおり,被告が,
ライテックが使用している商標を知っていたとは認められない。
エそこで,以下,ベスト及びライテックが,それぞれ,本件設定契約終了
後から平成18年11月22日前及び平成19年2月13日前に使用した
標章が,原告各登録商標と同一又は類似しているか否かについて,検討す
る。
2ベスト及びライテックによる原告各登録商標の使用の有無について
(1)ライテックによる本件設定契約終了後かつ平成19年2月13日前の原告
登録商標1の使用の有無について
ア原告登録商標1は,別紙商標権目録記載1のとおりであり,円図形内の
上部に,目と解される縦長の楕円形を2つ並行に配し,その下に円図形の
下弦の内側にそって,口と解される,両端が上がり,かつ,両端部に短い
線を配したなめらかな円弧状の曲線から成る図形部分(以下「原告図形部
分」という。)と,原告図形部分の下に,通常のアルファベット大文字で
横一列に「SMILEY」と表された文字部分とから成る。
イ原告は,平成19年11月7日に,ライテックが販売する商品としてラ
イテックのホームページ(甲7の1ないし3)に掲載されていたものにつ
き,原告登録商標1が使用されていると主張する。
(ア)このうち,商品名「スマイリーLED」(甲7の1)は,ライテッ
クが販売するライターに,スマイル・マークと称される図形が記載され
ているであろうことは認められるものの,図形の正確な特徴は不明であ
り,原告図形部分と対比して,その類否を判断することは困難である。
また,その商品自体に,原告登録商標1中の「SMILEY」の文字部分が付
されているか否かも明らかではない。
また,商品名「メロー/スマイリー」(甲7の1)についても,同様
である。
したがって,これらの商品に原告登録商標1又はこれに類似した標章
が付されていると認めることはできない。
(イ)また,商品名「スマイリー/シルバーカラビナ付」(甲7の2)及
び商品名「メラミン灰皿/丸/スマイリー」(甲7の3)は,いずれも
「SOLDOUT」と記載され,これらの商品が売り切れであることが表示さ
れており,ライテックがどの時点までこれらの商品を販売していたのか,
明らかではない。また,これらの商品には,原告登録商標1中の「SMIL
EY」の文字部分が付されていると認めることはできず,商品名「メラミ
ン灰皿/丸/スマイリー」に記載された商品に付された図形については,
その正確な形態は不明であり,原告図形部分と対比して,その類否を判
断することは困難である。
(ウ)他に,ライテックが,本件設定契約終了後に,原告登録商標1を付
した商品を販売していたと認めるに足る証拠はない。
ウ以上のとおり,ライテックが,平成19年2月13日前に,原告登録商
標1を付した商品を販売していたと認めることはできないから,被告が,
ライテックが原告登録商標1を付した商品を販売したことによってロイヤ
リティを受領していたと認めることもできない。
したがって,被告がライテックから受領したロイヤリティにつき,不当
利得が成立するとは認められない。
(2)ベストによる本件設定契約終了後かつ平成18年11月22日前の原告登
録商標2の使用の有無について
ア原告登録商標2について
原告登録商標2は,別紙商標権目録記載2のとおりであり,原告図形部
分と,その図形部分の下に,図形部分の横幅よりも若干広く,アルファベ
ット大文字で横一列に「SMILE&SMILEY」と表された文字部分とから成る
ものである。
イベストが使用する標章について
(ア)前記争いのない事実等,証拠(甲6,38ないし42(いずれも枝
番を含む。),B証人)及び弁論の全趣旨によれば,ベストのカタログ
中,本件設定契約が終了した平成16年10月30日より後で平成18
年11月22日より前に発行されたものと認められるものは,平成18
年バレンタインデイ用,ホワイトデイ用及びパーティ用のカタログ(甲
6の1,40の1及び2)である。平成19年バレンタインデイ用及び
ホワイトデイ用のカタログ(甲41の1及び2)については,バレンタ
イン商品の製造が前年の11月ころから製造されること(B証人)から
すれば,平成18年11月22日よりも前に発行されたものと認められ
るが,同カタログに基づく製品の販売は,商品の性格からみて平成18
年12月以降と推認され,ライセンス料は売上げに対して課されるもの
であることから,検討の対象外と認められる。
なお,平成17年バレンタインデイ用,ホワイトデイ用及びパーティ
用のカタログ(甲39の1ないし3)は,その発行時期は,原告によれ
ば,平成16年9月及び10月であって,本件設定契約終了前であると
認められる。しかしながら,ベストにおいては,カタログに掲載した商
品は,バレンタインデイ用のものは前年の11月から,ホワイトデイ用
のものはその年の1月から製造していたこと(B証人)からすれば,こ
れらに記載された商品は,本件設定契約終了後に製造されたものである
と認められる。したがって,これらの商品の販売は,本件設定契約終了
前に製造された在庫品の販売とは認められないことから,これらの商品
の販売が,たとえ本件設定契約終了後6か月以内に行われていたとして
も,本件設定契約書7条ただし書(契約の解除後6か月間の在庫商品の
売却処分を許容している。)によってその販売が許容されたものと認め
ることはできない。
よって,平成17年用のカタログに掲載された商品についても,原告
登録商標2の使用の有無を検討する必要があると認められる。
(イ)そして,前記(ア)の各カタログ(甲6の1,39の1ないし3,4
0の1及び2)の記載によれば,本件設定契約終了後から平成18年1
1月22日前までに販売されたベストの商品は,スマイル・マークの図
形部分(円図形がないものを含む。)のみ又は当該図形部分とその左右
若しくは下部に「SMILELY」の文字を組み合わせたものがほとんどであり,
原告登録商標2と同様,スマイル・マークの図形部分の下に,アルファ
ベット大文字で横一列に「SMILE&SMILEY」と記載された標章が付され
たものが存在するとは認められない。
また,スマイル・マークの図形部分と「SMILE&SMILEY」との文字部
分を組み合わせた標章が付された商品(証拠上,これが明確なものに限
り,カタログに掲載されている文字の大きさ等から文字の記載が判然と
しないものは除く。)としては,平成17年バレンタインデイ用カタロ
グ(甲39の1)に掲載された商品のうち,セット商品を除く40商品
の中の⑫スマイリーファスナーカン,同年ホワイトデイ用カタログ(甲
39の2)に掲載された商品のうち,セット商品を除く28商品の中の
④スマイリーキャンディーファスナー缶,平成18年ホワイトデイ用カ
タログ(甲6の1)に掲載された商品のうち,セット商品を除く25商
品の中の④スマイリーキャンディーファスナー缶,同年バレンタインデ
イ用カタログ(甲40の1)に掲載された商品のうち,セット商品を除
く34商品の中の⑩スマイリーミラーケース,⑭スマイリーラッピング
スクエアー,<28>スマイリーファスナーカンがあるが,これらの商品に
おいては,当該文字部分は,いずれも,スマイル・マークの図形部分の
顔の輪郭を形成する円図形の右下部分,又は,当該円図形がないものは
円形の容器の外縁内側の右下部分に右肩上がりで記載されている。
なお,平成17年バレンタインデイ用カタログ(甲39の1)中の<2
1>及び<22>のスマイリーゲームチョコS及びLの箱には,スマイル・マ
ークの図形部分と「SMILE&SMILEY」の双方の記載があるが,当該文字
部分は,図形とは異なる位置に記載されており,両者を組み合わせた標
章と認めることはできない。また,平成17年ホワイトデイ用カタログ
(甲39の2)中の⑪スマイリープチタオルギフトには,スマイル・マ
ークの横に,「SMILE」と「&」と「SMILEY」を三段に表して成る文字部
分が記載されているが,これは,タオルに付されたものと認められ,原
告商標権2の指定商品である「菓子及びパン」と類似した商品に付され
た標章と認めることはできない。
ウ原告登録商標2とベストが使用する標章との類否について
(ア)原告登録商標2と同一の標章の使用の有無
前記イのとおり,ベストが使用する標章には,原告登録商標2と同一
のものがあるとは認められない。
(イ)原告登録商標2と類似する標章の使用の有無
原告登録商標2と類似する商標については,本件設定契約終了後にお
いては,原告商標権2による禁止権の範囲に含まれるものとして,本来
使用できないものであるが,ベストが被告との間の契約に基づいてこれ
を使用していたのは,少なくとも,被告との間においては,同契約(原
告登録商標2のライセンス契約)により使用を許諾されているとの理解
の下に使用しているものと解されるから,これによる被告の利得は同ラ
イセンス契約による利得であり,原告との間では,被告の不当利得とな
るものと解される。そこで,以下,原告登録商標2との類否について判
断する。
a類否判断に当たっての基本的考え方
原告図形部分又はこれに類似する図形は,スマイル・マーク,スマ
イリー・フェイス,ピース・マーク,ニコちゃんマーク等と一般に称
されているものであって,1971年ころにアメリカ合衆国において
大流行し,日本においても,昭和40年代に流行し,これを付した様
々な商品が,様々なメーカーによって製造され,その図形も,各メー
カーによって,若干の差異があった。その当時,スマイル・マークに
は,アメリカにおいても特定の者に権利が帰属するものとは認識され
ておらず,日本においても,株式会社リリック及びサンスター文具株
式会社が中心になって「ラブピースアソシエーション」を作り,スマ
イル・マークを「ラブピース」と称して,1業種1社という原則で,
これを使用した商品を展開した。その後,いったん流行は収束したも
のの,現在に至るまで,洋服,バッジ,文房具等の様々な商品にスマ
イル・マークは付され,平成20年ころには再度流行する等しており,
その図形も,販売するメーカーによって,円図形がないもの,目と解
される部分につき,その一方を目をつむるように表して成るものやこ
れをハート型に表して成るもの,口と解される円弧状の曲線に,舌と
解される図形を付加したもの等,様々なバリエーションがある(以上
につき,乙7ないし9,13,14,16,17,19,54,56,
77,79ないし83(いずれも枝番があるものは,枝番を含
む。))。
このようなスマイル・マークのこれまでの使用状況に照らして,ス
マイル・マークは,それ自体としては,特定の商品又は役務の出所識
別標識としての機能は乏しいものと認められ,原告図形部分は,前記
(1)アのとおり,極めて単純な構成を有していることや,前記のとおり,
様々なメーカーが様々なバリエーションのスマイル・マークを使用し
ていることも考慮すれば,顔の輪郭部分を構成する円図形がないもの,
目と解される部分につきその一方を目をつむるように表して成るもの,
口と解される円弧状の曲線に,舌と解される図形を付加したもの等,
原告図形部分の構成要素の一部を削除したり,他の構成要素を付加す
る等して,一見して異なるバリエーションのスマイル・マークである
と認められるものについては,時間と場所を異にして隔離的に観察し
ても,外観において両者を混同するおそれがあるとは認められないか
ら,原告図形部分と類似するとは認められないというべきである。
また,原告登録商標2の文字部分である「SMILE&SMILEY」は,
「スマイル・アンド・スマイリー」との称呼,「笑顔とスマイリー」,
「スマイル(・マーク)とスマイリー(・マーク)」等との観念が生
じ得るところ,当該文字部分は,原告図形部分の一般的な名称(又は
その一部)である「SMILE」及び「SMILEY」を「&」でつないで記述し
たものであって,それ自体としての出所識別標識としての機能は乏し
いものであると認められる。したがって,単に「SMILE」又は「SMILE
Y」の一方のみを表記したものについては,スマイル・マークの一般的
な名称を表記したにすぎないものであって,外観及び称呼が異なり,
原告登録商標2の文字部分とは類似しないというべきである。
さらに,このような原告図形部分と文字部分とから成る原告登録商
標2は,原告図形部分と文字部分がともに出所識別標識としての機能
が乏しいことからすれば,原告図形部分の下部にアルファベット大文
字で「SMILE&SMILEY」と書したものを組み合わせて初めて,特定の
商品又は役務の出所識別機能を有するものということができる。
したがって,原告登録商標2と他の標章との類否の判断に当たって
は,原告図形部分の類似性及び文字部分の類似性のほか,原告図形部
分と文字部分の具体的な位置関係の類似性があって初めて,原告登録
商標2と類似しているというべきである。具体的には,①原告図形部
分とは類似しているとは認められない図形が用いられている標章,②
原告図形部分と類似する図形が使用されていても,文字部分として,
単に「SMILE」又は「SMILEY」の一方のみが表記された標章,③原告図
形部分及び文字部分のそれぞれは類似しているが,原告図形部分と文
字部分の位置関係において,距離が大きく異なるものについては,原
告登録商標2と類似していると認めることはできないというべきであ
る。
b原告登録商標2とベストが使用する標章との類否
前記aのとおり,前記イのベストが使用する標章のうち,文字部分
の表記がないものや,顔の輪郭を形成する円図形があるスマイル・マ
ークと併記されている文字が「SMILEY」のみであるものは,原告登録
商標2と類似すると認めることはできない。
また,文字部分につき「SMILE&SMILEY」と表記されているものに
ついては,円図形がないもので,容器の外縁が円形でないものは,そ
の外観全体から受ける印象は,原告登録商標2の外観から受ける印象
とは異なっており,原告登録商標2と類似すると認めることはできな
い(なお,顔の輪郭を形成する円図形がない球形又は円形の製品につ
いては,当該製品の外縁をもって顔の輪郭を形成する円図形と認識す
ることが可能であるから,原告図形部分と外観が類似していると認め
ることができる。)。
エしたがって,ベストが,本件設定契約終了後で平成18年11月22日
前に販売していた商品のうち,以下の商品に付された標章については,ス
マイル・マークにつき原告図形部分と同一又は類似の構成を有しており,
文字部分につき「SMILE&SMILEY」と表記されており,また,文字部分の
位置についてもスマイルマークの右下部分であって,原告図形部分の下に
文字部分が表記されている原告登録商標2における位置関係と大きく異な
るものではないから,原告登録商標2に類似すると認めることができる。
(ア)平成17年用カタログ
①平成17年バレンタインデイ用カタログ(甲39の1)に掲載され
た商品のうち,セット商品を除く40商品の中の⑫スマイリーファス
ナーカン
②平成17年ホワイトデイ用カタログ(甲39の2)に掲載された商
品のうち,セット商品を除く28商品の中の④スマイリーキャンディ
ーファスナー缶
(イ)平成18年用カタログ
①平成18年ホワイトデイ用カタログ(甲6の1)に掲載された商品
のうち,セット商品を除く25商品の中の④スマイリーキャンディー
ファスナー缶
②平成18年バレンタインデイ用カタログ(甲40の1)に掲載され
た商品のうち,セット商品を除く34商品の中の⑩スマイリーミラー
ケース,⑭スマイリーラッピングスクエアー,<28>スマイリーファス
ナーカンの3商品
(3)原告各登録商標と別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマーク」記載のマ
ークとの類否
アなお,付言するに,被告は,ベストに対しては平成18年11月22日
以降,ライテックに対しては平成19年2月13日以降,別紙「SMILEYF
ACE公式ブランドとマーク」記載のマークの使用を許諾していたことから,
当該マークと原告各登録商標との類否について,検討する。
イ原告登録商標2と他の標章との類否判断に当たっての基本的考え方は前
記(2)ウ(イ)のとおりである。
そして,原告登録商標1は,前記(1)アのとおりの構成を有するところ,
原告図形部分は,原告登録商標2と同一であり,また,「SMILEY」との文
字部分が原告図形部分の一般的な名称(又はその一部)を記載したもので
あることも原告登録商標2と同一である。
したがって,原告登録商標1と他の標章との類否を判断するに当たって
も,前記(2)ウ(イ)の原告登録商標2と他の標章との類否の判断と同様と解
すべきである。したがって,①原告図形部分の構成要素の一部を削除した
り,他の要素を付加する等して,原告図形部分とは類似しているとは認め
られない図形が用いられている標章,②原告図形部分と類似する図形が使
用されていても,文字部分として,「SMILEY」以外のスマイル・マークの
一般的な名称をいずれかを表記したにすぎないもの,③原告図形部分及び
文字部分のそれぞれは類似しているが,原告図形部分と文字部分の位置関
係が大きく異なるものについては,原告登録商標1と類似しているとは認
められないというべきである。
ウこれを前提に,原告各登録商標と別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマ
ーク」記載のマークとを対比すれば,当該マーク中,何ら文字部分の記載
がないもの(公式マークの③ないし⑨,付属マークの①,②及び④)は,
原告各登録商標と類似していると認められない。
また,図形部分と文字との記載があるものは,文字部分について,筆記
体により「HarveyBall」と書して成るもの(別紙中の公式マーク①及び
②),「SMILEANGEL」と書して成るもの(別紙中の付属マーク③),「L
OVEPEACE」と書して成るものであり(別紙中の付属マーク⑤及び⑥)であ
る。このうち,別紙中の付属マーク③,⑤及び⑥については,それぞれス
マイル・マークに羽と解される図形を左右に付し,又は,左側後部若しく
は左側前部にハートマークを組み合わせたものであって,本件図形部分と
は別途の構成が付加されており,一見してその構成が異なり,外観が異な
ることから,原告各登録商標と類似していると認めることはできない。ま
た,別紙中の公式マーク①及び②については,「HarveyBall」との文字部
分からは,「ハーベイ・ボール」との称呼及び人名である「X」との観念
が生ずるところ,原告各登録商標の文字部分である「SMILEY」及び「SMIL
E&SMILEY」とは外観,観念,称呼のいずれにおいても類似していると認
めることはできない。
したがって,原告各登録商標と別紙「SMILEYFACE公式ブランドとマー
ク」記載の各マークとが類似していると認めることはできない。
(4)小括
以上のとおり,ベストが販売した前記(2)エの各商品に付された標章は,原
告登録商標2に類似しており,かつ,ベストによる当該標章の使用は,被告
の許諾に基づくものと認められる。
したがって,ベストが当該商品を販売したことにより,被告がベストから
支払を受けたロイヤリティは,法律上の原因がないものと認められる。
3原告登録商標2の使用により原告に生じた損失
(1)ベストが本件設定契約終了後から平成18年11月22日前までに使用し
た商標のうち,原告登録商標2に類似する商標は前記2(2)エの各商品に付さ
れたものである。
ところで,前記1及び2のとおり,被告はベストに対し原告登録商標2の
使用を許諾し,ベストが現にこれを使用することによりミニマム・ロイヤリ
ティとしてロイヤリティの支払を受けているのであるから,ミニマム・ロイ
ヤリティの限度においては,たとえベストによる原告登録商標2に類似する
商標の使用が少数であっても,そのロイヤリティの全額が契約による利得で
あるとみることができる。
(2)しかしながら,原告の損失についてみると,本件設定契約終了後において,
原告がベストによる原告登録商標2の使用によって被った損失は,ベストが
実際に原告登録商標2の使用又はこれに類似する商標を使用することにより
得ることのできた使用料相当額であって,被告が取得したミニマム・ロイヤ
リティの額が原告の損失となるものではないと解される。
そこで,このような観点から,原告の損失について検討する。
アベストが支払ったロイヤリティの額
ベストは,被告との契約において,売上げの4パーセントの額をロイヤ
リティとして計算して,それがミニマム・ロイヤリティの額を超える場合
には,その超える額を支払うものとしていたところ(前記1(2)のとおり,
契約期間を通じて,当該約定の変更はされていない。),ベストから被告
に対して支払われたロイヤリティは,平成16年6月1日から平成17年
5月31日までの間に支払われた額は274万4400円,平成17年6
月1日から平成18年5月31日までの分として支払われた額は1050
万円,平成18年6月1日から平成19年5月31日までの分として支払
われた額が1000万円である(甲49ないし51,乙61(枝番のある
ものは枝番を含む。))。
一方,ベストが被告に提出した生産計画書(甲43ないし甲46(枝番
を含む。))によれば,平成15年9月1日付けの生産計画書における売
上予定高の4パーセントの額は1031万5360円(2億5788万4
000円×0.04。甲43の1の1及び2。),平成16年に提出した
生産計画書における同額は1223万8440円(3億0596万100
0円×0.04。甲43の2及び44の1(孫番を含む。)),平成17
年に提出した生産計画書における同額は936万3680円(2億340
9万2000円×0.04。甲44の2の1及び2並びに45の1の1及
び2(孫番を含む。)。),平成18年に提出した生産計画書における同
額は800万6240円(2億0015万6000円×0.04。甲45
の2並びに46の1及び2(孫番を含む。)。)である。
これらの証拠関係からみると,平成16年6月1日から平成17年5月
31日までの間にベストから被告に対して支払われたロイヤリティの額が
274万4400円にすぎないのは不自然な感はあるが,ここでは,提出
されている証拠に基づき,前記支払の額が同期間の分として実際に支払わ
れたロイヤリティの額であると認める。
イ本件設定契約終了から平成18年11月22日前までのロイヤリティの

本件設定契約が終了した平成16年10月30日より後から平成17年
5月31日までの間のロイヤリティの額は,平成16年6月1日から平成
17年5月31日までの分として支払われた274万4400円の12分
の7の160万0900円と認めるのが相当である。
平成17年6月1日から平成18年5月31日までの間のロイヤリティ
の額は,この期間の実際の支払額である1050万円と認めるのが相当で
ある。
平成18年6月1日から許諾商標の内容が変更された平成18年11月
22日までの間のロイヤルティの額は,実際の支払額の半額である500
万円と認めるのが相当である。
ウ原告登録商標2と類似した商標を使用した商品の売上比率
平成16年10月30日より後から平成17年5月31日までの間にお
ける原告登録商標2と類似する商標を使用した商品(スマイリーファスナ
ー缶及びスマイリーキャンディーファスナー缶)の売上比率は,同期間と
概ね対応する期間についての前記生産計画書(甲44(枝番を含む。))
に基づいて算出すると,1.45パーセント〔432万円(324万円+
108万円)÷2億9779万円(1億0164万8000円+8824
万8000円+5346万円+3733万4000円+1710万円)〕
である。
平成17年6月1日から平成18年5月31日までの間における原告登
録商標2と類似する商標を使用した商品(スマイリーキャンディーファス
ナー缶,スマイリーミラーケース,スマイリーラッピングスクエアー,ス
マイリーファスナー缶)の売上比率は,同期間に概ね対応する期間につい
ての前記生産計画書(甲45(枝番を含む。))に基づいて算出すると,
3.64パーセント〔792万円(60万円+144万円+480万円+
108万円)÷2億1719万8000円(8556万円+9409万8
000円+3248万4000円+505万6000円)〕である。
平成18年6月1日から平成18年11月22日までの間における原告
登録商標2と類似する商標を使用した商品(前記平成17年6月1日から
平成18年5月31日までの商品と同一と認められる。)の比率は,前記
と同様の3.64パーセントであったと推認される。
エ原告の損失の額
前記イ及びウから,被告がベストから受け取ったロイヤリティの額のう
ち,以下の(ア)ないし(ウ)の合計額58万7413円が原告登録商標2に
類似した標章を使用した商品に対応する額であって,同額がベストによる
原告登録商標2に類似する商標の使用により得ることができた使用料相当
額として原告の損失額となると認められる。
(ア)平成16年10月30日より後から平成17年5月31日までの間
の損失の額は,2万3213円(160万0900円×0.0145)
となる。
(イ)平成17年6月1日から平成18年5月31日までの間の損失の額
は,38万2200円(1050万円×0.0364)となる。
(ウ)平成18年6月1日から平成18年11月22日までの損失の額は,
18万2000円(500万円×0.0364)となる。
(3)小括
以上のとおり,原告の損失額である58万7413円の範囲で,原告の被
告に対する不当利得返還請求権が成立すると認められる。
4結論
以上のとおり,原告の請求は,被告がベストから受領したロイヤリティのう
ち,58万7413円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年
2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があるから,その範囲で認容し,その余の請求は,いずれ
も理由がないから,これを棄却することとし,また,訴訟費用については,本
件訴訟の経過にかんがみて,その9を原告の,その余を被告の負担とするのが
相当であるから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官菊池絵理
裁判官坂本三郎

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