弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成29年5月11日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成28年(ワ)第6268号商標権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日平成29年2月28日
判決
原告ビジネスラリアート株式会社
同訴訟代理人弁護士木村圭二郎
同松井亮行
同訴訟代理人弁理士柳野隆生
同補佐人弁理士大西裕人
被告株式会社ロックオン
同訴訟代理人弁護士川内康雄
主文
1被告は,「ADEBiS(アドエビス)」,「THREe(スリー)」,「SOLUTION(ソリュー
ション)」及び「EC-CUBE(イーシーキューブ)」に係る役務を提供するに当たり,イ
ンターネット上のホームページ,パンフレット及び看板等の広告に別紙「標章目録」
記載3ないし6の各標章を使用してはならない。
2被告は,インターネット上のホームページ,パンフレット及び看板等から,
別紙「標章目録」記載3ないし6の各標章を抹消せよ。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担
とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は,商品又はサービスを提供するに当たり,インターネット上のホーム
ページ,パンフレット及び看板等の広告に別紙「標章目録」記載1ないし6の各標
章を使用してはならない。
2被告は,インターネット上のホームページ,パンフレット及び看板等から,
別紙「標章目録」記載1ないし6の各標章を抹消せよ。
3訴訟費用は被告の負担とする。
4第1項及び第3項につき仮執行宣言。
第2事案の概要
本件は,別紙「商標権目録」記載の商標権を有する原告が,被告が別紙「標章目
録」記載の各標章をインターネット上のホームページ等の広告に使用する行為が同
商標権を侵害すると主張して,被告に対し,同商標権に基づき,同広告に同標章を
使用することの差止め及び同ホームページ等からの同標章の抹消を請求した事案で
ある。
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,コンピュータ・システム及びソフトウェアの開発,販売,レンタル並び
に保守,インターネットを利用した各種情報処理サービス及び情報提供サービスの
提供等を目的とする株式会社である。
被告は,コンピュータに関するシステム開発・販売,情報処理サービス業,情報
提供サービス業等を目的とする株式会社である。
(2)原告の商標権
原告は,別紙「商標権目録」記載1及び2の商標権(以下「本件商標権1」,「本
件商標権2」といい,併せて「本件商標権」という。また,これらの商標権に係る
登録商標を「本件商標」という。)を有している。
(3)本件商標権の役務区分
本件商標権の各商標登録出願時点での商標法施行令1条別表に規定された第9類,
第35類及び第42類の商品及び役務並びにこの商品及び役務に属するものとして,
同時点での商標法施行規則6条別表に規定された商品及び役務の内容は,別紙「役
務区分」のとおりである(以下,これら時点での上記政令及び省令の別表によるも
のを,単に「第9類」,「第35類」,「第42類」のようにいう。)。
(4)被告の行為
ア被告は,ASPサービスを営む業者として,「ADEBiS(アドエビス)」,「THREe
(スリー)」及び「SOLUTION(ソリューション)」(以下「被告3サービス」という。)
という役務を提供している(これらの役務と本件商標権の指定商品・指定役務との
同一・類似性には争いがある。)。
また,被告は,ダウンロード可能なソフトウェアである「EC-CUBE(イーシーキュ
ーブ)」(以下,被告3サービスと「EC-CUBE」を併せて「被告4サービス」という。)
をインターネット等のネットワークを介して,需要者に提供している。「EC-CUBE」
による役務は第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当し,同役務によ
って提供されるソフトウェアは第9類の「電子応用機械器具及びその部品」に該当
し,本件商標権の指定商品・役務と同一である。
イ被告は,ホームページのトップ画面(甲7の1頁)並びにトップ画面の
「企業情報」,「事業内容」,「採用情報」,「ブログ」,「ニュース」及び「IR情報」
の項目をそれぞれ選択して表示される画面(甲8,22ないし27の各1頁)にお
いて,左上に別紙「標章目録」記載6の標章(以下「被告標章6」といい,同目録
記載の他の各標章も同様に呼称する。また,被告標章1ないし同6を併せて「被告
各標章」という。)を使用し,被告標章6の表示の中に被告標章1が含まれている。
また,被告は,ホームページの「プレスリリース」の画面であり,EC-CUBEを広
告宣伝するページ(甲28の1頁)及びホームページの「採用情報」の画面に表示
されるYouTubeにアップロードされた動画(甲10の1,10の2)において,被
告標章1を,その上に「L」字様の図形を,その下に「ImpactOnTheWorld」との
文字を配する態様で使用している。
さらに,被告は,パンフレット(甲15)の表紙に,被告標章6を使用している。
ウ被告は,フェイスブックの公式ページ(甲11)において,被告標章2
を使用している。
エ被告は,「SOLUTION」を紹介するホームページ(甲9の4)の上部に,被
告標章3を使用している。
オ被告は,被告標章4を,事務所の正面玄関口(甲12,13)に表示し,
看板として利用している。また,被告は,被告のサービスに関する説明会(甲14
の2頁)において,同標章を使用した。
カ被告は,ホームページのトップ画面の下部の「OFFICIALBLOG」という項
目及び「ブログ」のページで掲載した写真(甲7の4頁,甲25の2頁,3頁,甲
30の1頁ないし3頁)において,被告標章5を使用している。
(5)本件商標と被告各標章の対比
被告各標章は,本件商標と類似する。
2争点
(1)被告3サービスの役務は,本件商標権の指定役務と同一又は類似するか(争
点1)
(2)被告は,被告4サービスについて被告各標章を使用しているか(争点2)
(3)商標法26条1項1号により,本件商標権の効力が被告各標章に及ばない
か(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告3サービスの役務は,本件商標権の指定役務と同一又は類似す
るか)について
【原告の主張】
以下のとおり,被告は,ASPサービスを営む業者として,被告3サービス(「ADEBiS」,
「THREe」及び「SOLUTION」)において,アプリケーション・プログラムと言われる
コンピュータ・プログラムを,インターネット等のネットワークを経由し,需要者
に提供しているところ,これらの役務は,本件商標の指定役務である「電子計算機
用プログラムの提供」(第42類)に該当する。
したがって,被告は,被告各標章を本件商標の指定役務と同一又は類似の役務に
使用している(商標法2条3項8号)。
(1)被告3サービスがASPサービスに当たること
第42類の「電子計算機用プログラムの提供」とは,「電気通信回線を通じて,電
子計算機用プログラムを利用させるサービス」であり,ASP(ApplicationService
Provider)サービスとは,ソフトウェア(電子計算機用プログラム)をインターネ
ット等を通じて利用者に遠隔から利用させるサービス(SaaS:Softwareasa
Service)のことをいう。ASPサービスにおいて,利用者は,ブラウザソフト等を使
用してインターネット等のネットワークを経由し,遠隔地から事業者のサーバにア
クセスし,そのサーバ内に格納された各種アプリケーションソフト(電子計算機用
プログラム)を利用する。すなわち,顧客は,電子計算機用プログラムを手段とし
て利用するのではなく,ASP事業者が管理するサーバ内のアプリケーションソフト
を利用することそのものを目的とする。
この点,被告3サービスにおいて,顧客が利用することのできるアプリケーショ
ンソフトは,全て被告の管理するサーバ内にあり,当該アプリケーションソフトの
内容は被告側で決定されるが,当該アプリケーションソフトの稼働のための指令は
被告の顧客側で行われ,被告の顧客は,被告によってあらかじめ準備されたアプリ
ケーションソフト(電子計算機用プログラム)の利用を目的として被告と取引をし
ている。
また,被告の事業のセグメントは,マーケティングプラットフォーム事業と商流
プラットフォーム事業に分けられ,「ADEBiS」と「THREe」に関する事業が前者に,
「EC-CUBE」と「SOLUTION」に関する事業が後者に,それぞれ属する。「プラットフ
ォーム」とは,ハードウェアやソフトウェア,サービスが動作する基盤となる環境
を意味し,それ自体が「電子計算機用プログラム」であり,当該プラットフォーム
の使用を認める行為は,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当する。
「ADEBiS」及び「THREe」に関する利用契約約款においても,被告が提供する役務
がASPサービスである旨が定められている。
したがって,被告3サービスは,ASPサービスとして第42類の「電子計算機用
プログラムの提供」に該当する。
(2)「ADEBiS」に係る役務
「ADEBiS」に係る役務は,マーケティング効果の「測定」サービスと,そこで得
られたデータの「活用」サービスに分類できる。「測定」サービスでは,PC,マーケ
ティング,タブレット,モバイルに表示される広告の投資効率を分析することがで
きるほか,SEO効果測定,ランディングページ測定等の様々なマーケティング効果
測定が可能である。同役務はSaaS方式として提供され,SaaS方式とは,Softwareas
aServiceの略であり,必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるよう
にしたソフトウェアを意味し,「インターネットを通じてアプリケーションを提供す
るもの」である。
具体的には,被告の顧客は,広告計測対象サイトの指定,サイトのうちどのペー
ジを広告計測対象とするかの指定,どの広告の効果を計測するかの指定を行う。「AD
EBiS」というシステムにおける広告効果計測用の電子計算機用プログラムは,被告
の顧客の指令に基づいて,①エンドユーザーの行動に関する情報を「取得WEB」で
収集し,②「取得アーカイブ」に蓄積し,③蓄積されたデータを一定の頻度により
「取得分析パッチ」で分析し,④顧客(利用者)がその成果を閲覧することができ
るように「参照DB」で保管し,⑤顧客(利用者)は「参照WEB」で,「ADEBiS」と
いう電子計算機用プログラムの処理結果(成果物)を閲覧することができる。要す
るに,「ADEBiS」に係る役務は,被告の顧客が「ADEBiS」に必要な情報を入力し指
令をすれば,その後は,人手を介することなく,自動的に「ADEBiS」システムとし
ての電子計算機用プログラムによって,情報の収集解析等が実施され,被告の顧客
は,当該電子計算機用プログラムの処理結果を取得して閲覧することができるとい
うものである。
社会的な実態として,「ADEBiS」の顧客(ユーザー)は,インターネット回線を
通じ,被告が被告のサーバ内にあらかじめ用意し,利用可能な状態で管理している
広告効果計測用の電子計算機用プログラムを被告の利用規約に基づいて利用し,当
該プログラムの仕事の結果としての成果を得ることができ,自己の手段として,自
らインターネット広告の効果測定を行っている。
被告の指摘する広告効果に関する情報を取得する仕組みの構築と維持は,被告の
サーバ内の「広告効果計測」に関するアプリケーションソフト(電子計算機用プロ
グラム)を提供する「ADEBiS」に係る役務の前提としてのシステムの構築,設定及
び管理に関する作業にすぎず,ASPサービスの事業者が通常行っている事柄である。
したがって,被告が「ADEBiS」に関して提供する役務は,被告が開発・設定・管
理等を行った被告サーバ内の「広告効果計測」に関するアプリケーションソフト(電
子計算機用プログラム)を,被告の顧客をしてインターネット回線を通じ利用させ
ている点でASPサービスであり,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に
当たる。
(3)「THREe」に係る役務
「THREe」は,「ADEBiS」や媒体側に蓄積している膨大なビッグデータを独自に最
適化エンジンにより解析し,広告の自動最適化を行い,自動入稿までを行う広告運
用プラットフォームをSaaS方式で提供している。被告の顧客(ユーザー)は,被告
が提供する電子計算機用プログラムである「THREe」を用いて,自らリスティング広
告の運用最適化を行っている。
「THREe」は,リスティング広告入札最適化を図るためのアプリケーションソフト
(電子計算機用プログラム)であり,リスティング広告入札最適化を図るためのア
プリケーションソフトを利用するための被告の顧客の指令は「参照WEB」における
情報入力に基づいて行われ,その後,①「参照DB」が設定情報を保管し,②「バッ
チサーバ」が,被告が決定した最適化のロジックに基づき,リスティング広告の最
適化を実行し,③最適化に関する処理結果が「ログDB」に蓄積され,④「参照WEB」
で処理結果が表示される。要するに,「THREe」に係る役務においても,被告の顧客
が「THREe」に「最適化」の判定に必要な情報(広告予算や方針)等を入力して指令
をすれば,その後は自動的に「THREe」のシステムにおける電子計算機用プログラム
によって,リスティング広告の最適化に関する処理が実施され,その結果,被告の
顧客は,当該電子計算機用プログラムの処理結果を閲覧できる。
被告の指摘する計測先の広告媒体やリスティング広告提供事業者から定期的に情
報を取得する作業や,当該情報の分析結果をリスティング広告の出稿に反映させる
作業は,被告サーバ内の「リスティング広告入札最適化」に関するアプリケーショ
ンソフト(電子計算機用プログラム)を提供する「THREe」に係る役務の前提作業に
すぎず,「THREe」というシステムの開発,設定,管理等についての作業は,ASPサ
ービスの事業者が通常行っている事柄である。
したがって,被告が「THREe」に関して提供する役務は,被告が開発・設定・管理
等を行った被告サーバ内の「リスティング広告入札最適化」に関するアプリケーシ
ョンソフトを,被告の顧客をしてインターネット回線を通じ利用させている点で
ASPサービスであり,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に当たる。
(4)「SOLUTION」に係る役務
「SOLUTION」に係る役務は,主としてECサイトのコンサルティングサービスや受
託開発であり,ECサイトを構築し,開発された電子計算機用プログラムを顧客に対
し提供するものである。
被告は,「SOLUTION」という役務として,被告の顧客ごとの要望に応じ,インター
ネット広告媒体の利用状況と効果を蓄積・統合して分析するシステムを構築し(「カ
スタマイズ」),そこで構築されたインターネット広告の分析システムを目的とする
電子計算機用プログラムをインターネット回線を通じて提供している。顧客(ユー
ザー)は,被告が提供する「SOLUTION」という,広告戦略展開を可能とするプログ
ラムを手段として利用し,自らデータ等の分析を行っている。「ADEBiS」や「THREe」
との違いは,当初に人の関与に基づくシステム構築作業(カスタマイズ。被告はこ
れを「コンサルティング」と呼ぶ。)があるか否かという点のみである。
したがって,「SOLUTION」という役務の本質的部分は,被告サーバ内に構築された
電子計算機用プログラムを,インターネット回線を通じ,被告の顧客をして利用さ
せることを内容とするため,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当
する。
仮に,役務の付随的部分である「カスタマイズ」の局面を役務と捉えるとしても,
当該役務は「電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」あるいは「情報技術
(IT)に関する助言(コンサルティング)」として第42類に属する。
(5)被告の主張に対する反論(第42類の「電子計算機用プログラムの提供」
と第35類の「広告業」の区別)
ある役務の提供の手段として電子計算機用プログラムが用いられている場合の当
該役務の商標登録上の分類は,当該役務の内容に応じて判断される。ユーザーが事
業主の運営するWEBシステムを用いてユーザーの顧客(潜在顧客)へ広告情報を配
信しようとする場合,ユーザーが広告事業主に広告情報を提供し,広告事業主が,
ユーザーの委託を受けて,当該広告情報をユーザーの不特定の顧客(潜在顧客)に
対して配信している(「媒介」している)と判断されれば第35類の「広告業」であ
り,当該事業主が広告用電子計算機用プログラム(ソフトウェア)をユーザーに提
供するだけで,ユーザーが自ら顧客(潜在顧客)に広告情報を配信していると判断
されれば,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」である。ここで,「広告の
委託」は,社会的な実態に基づき判断されるべきであり,例えば,ユーザーの広告
情報の発信に伴い,機械的・形式的に事業者のサーバで暫時蓄積されることは,「広
告の委託」という社会的実態を有しない。
【被告の主張】
以下のとおり,被告3サービス(「ADEBiS」,「THREe」及び「SOLUTION」)は,第
42類の「電子計算機用プログラムの提供」には該当せず,第35類の「広告業」
又は「市場調査又は分析商品の販売に関する情報の提供」に該当する。
(1)被告3サービスが第35類に該当すること
被告3サービスでは,インターネット上の広告をクリックしたユーザを被告のサ
ーバが,適宜,選定・選別し,そのユーザに表示させるランディングページを変化
させる。広告主は,この「①クリック」,「②判別」,「③誘導」の過程に関与する必
要がなく,広告主が使用するアプリケーションが利用されることはない。被告は,
役務の提供に際して,サーバやシステムを運用,利用し,アプリケーションを自ら
使用しているが,顧客に対しては,被告がシステムを利用して得た結果を提供する
にすぎず,アプリケーションの提供を行っていないため,被告3サービスは第42
類に該当しない。
役務の提供にインターネットWEBシステムが含まれている場合に,その役務が第
42類であるか否かは,その役務が「インターネットWEBシステムを利用しなくて
も成立するか」によって判断すべきである。役務の分類は,提供者の需用者に対す
る訴求と需用者が実際に得られるサービスの本質で判断され,役務の提供に人手が
関与するかは,第42類への該当性を確定させる要素ではない。
このように,役務提供の過程においてインターネットが関与している点において
被告のサービスは「SaaS」であるが,その実態は「ソフトウェアの提供」(42X1
1)ではない。つまり,被告3サービスにおいて,ソフトウェア以外の役務が必須
の要素であり,また需用者としてもその点に着目して,利用している。
したがって,被告3サービスは第35類に該当する。
(2)「ADEBiS」に係る役務について
「ADEBiS」はインターネット広告効果の測定を中心とするサービスであり,被告
は,被告のサーバにおいて計測プログラムを稼働させ,顧客の広告出稿先から顧客
ホームページ等への遷移状況を計測し,その結果を顧客に報告する。その際,計測
対象の設定と計測結果の報告のためにWEB画面が利用されるものの,電話や文書に
よることも可能である。
また,「ADEBiS」は,サービスの提供の過程においてソフトウェアが関与してい
るが,当該ソフトウェアとそれを稼働させる提供基盤であるサーバコンピュータだ
けではサービスは成立しない。「ADEBiS」が計測の対象とする広告はインターネッ
ト上に出稿されている広告であるから,その広告効果に関する情報を取得する仕組
みの構築と維持が必要である。具体的には,広告の遷移結果が被告のサーバに送信
されるようにするための広告媒体側での措置,当該媒体から被告のサーバへのデー
タ送信が必要であり,被告は,これらの措置やデータ送信を実施できるようにする
ために各広告メディアとの折衝や調整を行っている。
このように,「ADEBiS」は,被告の顧客が出稿した各種メディア上の広告の効果
を調査し,費用や時間対効果,広告間の比較結果を分析して,その結果を報告する
ものであり,「(商業)企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助」に当たる。
したがって,「ADEBiS」に係る役務は,第42類ではなく,第35類に該当する。
(3)「THREe」に係る役務について
「THREe」はリスティング広告の運用最適化システムであり,リスティング広告と
は,検索エンジンで一定の検索キーワードで検索をした際に当該検索キーワードに
関連して表示される広告である。被告は,「THREe」のサービスとして,被告のサー
バにおいて運用プログラムを稼働させ,顧客のリスティング広告を最適化させてい
る。
また,「THREe」において,被告は,顧客に代わって広告効果を分析し,顧客のた
めにどのような出稿が最適であるかを判断し,その結果に従って広告予算,出稿頻
度,出稿時間を調整して広告出稿を行い,キーワードや予算の設定と出稿結果の報
告のため,WEB画面を利用するものの,電話や文書によることも可能である。
そして,「THREe」は,その提供過程にソフトウェアが関与しているが,ソフトウ
ェアやサーバーコンピュータだけでは,サービスが成立しない。「THREe」の場合,
被告は,リスティング広告による広告効果を計測しなければならないが,そのため
には計測先の広告媒体やリスティング広告提供事業者から,定期的に情報を取得し,
その情報の分析結果を,リスティング広告の出稿に反映させる必要がある。
したがって,「THREe」は第42類に属する役務ではなく,第35類に属する。
(4)「SOLUTION」に係る役務について
「SOLUTION」は,被告が提供している各種サービスを統合し,その上でいわゆる
プライベートDMPを実現するサービスを提供する際のサービスブランドである。DMP
とはDataManagementPlatformの略であり,データの総合的な活用基盤を指し,プ
ライベートDMPとは,広範な需要者に提供されるDMPではなく,特定のユーザのた
めにカスタマイズされ,当該ユーザのニーズに応じたデータ集積や分析を行える
DMPである。
また,「SOLUTION」によるサービスの中心は,データを収集するデータ基盤,業界
の動向に応じたデータ分析,これらを踏まえた広告に関するコンサルティングであ
り,インターネット広告出稿を総合的に管理分析し,その結果を提供するものであ
る。
そして,「SOLUTION」は,「ADEBiS」等のサービスが複合的に構成されているため,
そのサービス内容は,これを構成する各種のサービスごとに異なるが,総合的に見
れば,広告戦略展開の支援が提供目的であり,ソフトウェアだけでは成立しない。
「SOLUTION」を構成するサービスは「ADEBiS」と広告に関するコンサルティングで
あるから,第35類に該当し,DMP固有の部分も広告出稿の支援が目的であるので,
第35類に該当する。サービス提供過程においてWEB画面が介在することはあるが,
業務指示や結果報告の手段でしかなく,その他の手段によって代替可能である。
2争点2(被告は,被告4サービスについて被告各標章を使用しているか)に
ついて
【原告の主張】
以下のとおり,被告によるホームページでの被告各標章の使用は,被告4サービ
ス(「ADEBiS」,「THREe」,「SOLUTION」及び「EC-CUBE」)について,その広告に標章
を付して,顧客に提供する行為といえるため,「商品若しくは役務に関する広告・・・
を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項
8号)に該当し,パンフレット,看板での被告各標章の使用は,被告4サービスに
ついて,「商品若しくは役務に関する広告・・・に標章を付して展示し,若しくは頒
布」(同号)する行為に該当する。
(1)ホームページでの被告各標章の使用
ホームページは,様々な情報を渾然一体として提供する媒体であり,被告のホー
ムページにおいても,「企業情報」,「事業内容」,「採用情報」,「ブログ」,「ニュース」,
「IR情報」のアイコンが羅列され(甲22),当該アイコンをクリックすれば,あ
る箇所から別の箇所に瞬時に移動することができ,そこでの情報を閲覧することが
できる構造となっている(甲22ないし27)。具体的には,トップ画面の「What's
MRC」という項目又は「事業内容」という項目(甲7)から「事業内容」という項目
(甲8)へアクセスし,被告サービス等の概要を確認することができ,さらに各サ
ービスの項目から各サービスの詳細な内容を知ることができるほか,各サービスの
資料請求,見積書の確認,問い合わせ等を行うことができる(甲9の1ないし9の
4)。
このようなホームページの構造に照らし,パンフレットと同様に,ホームページ
を構成する情報群が全体として一つの媒体であると評することができ,被告のホー
ムページは,全体として,本件商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品・
役務である被告4サービスを紹介するものであり,被告のホームページに付された
被告各標章は,被告4サービスと関連する態様で用いられているというべきである。
そのようなホームページのいかなる場所にせよ,特別に顕著な方法で被告の名称を
記載すれば,被告各標章が付された当該ページにおいて直接に被告4サービスを紹
介する内容が掲載されていなくとも,商品若しくは役務に関する広告等を内容とす
る情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為に該当する。
(2)「採用情報」のページ上の動画(甲10の1,10の2)における被告標
章1の使用
「採用情報」のページで表示されている,YouTube上にアップロードされた動画
(甲10の1,10の2,20の1,20の2)において,被告が「マーケティン
グロボット」を提供,展開する企業であることが紹介されている。
ここで,「マーケティングロボット」とは,被告が展開する既存の被告のサービス
を利用して,企業と顧客のコミュニケーションの円滑化(自動化・効率化)を図る
ことを意味すると考えられる。
したがって,YouTube上にアップロードされた動画において,被告4サービスに
関連して,被告標章1が使用されている。
(3)事務所の正面玄関口(甲12,13)における被告標章4の使用
写真において被告標章4が表示されている被告の事務所の正面玄関口(甲12,
13)は,電話及び4台の椅子が設置されており,来客を予定している。
また,仮に,顧客が被告の事務所を訪問しなかったとしても,被告は,事務所の
正面玄関口の写真をホームページやフェイスブックに公開している(甲11)から,
被告標章4は,被告4サービスの広告宣伝活動の一環として表示されている。
(4)ホームページのトップ画面上の写真(甲7の4頁)における被告標章5の
使用
被告のホームページにおいて写真(甲7の4頁)が掲載されたトップ画面のペー
ジには,被告4サービスを紹介するバナーが存在し,被告のホームページを閲覧し,
上記の写真を閲覧した顧客は,画面上で少しスクロールするだけで,被告4サービ
スを紹介するバナーを閲覧することが可能となる。したがって,当該バナーと上記
の写真での被告標章5の使用には関係性がある。
【被告の主張】
以下のとおり,「株式会社ロックオン」という文字列だけからでも法人名であるこ
とが理解できるが,被告が開設するいずれのホームページにおいても,被告の「企
業情報」,「会社概要」のページ(乙8)等へのリンクが設けられており,被告は,
商標権者である原告が出所でないことを殊更に明示し,説明している。
(1)被告標章1及び同6について
ア被告のホームページのトップ画面(甲7)の1頁
被告のホームページのトップ画面(甲7)の1頁の被告標章1及び同6の表示に
ついて,「株式会社ロックオン」(被告)以外の「ロックオン」が提供者であると認
識することはなく,原告が提供元ではないと積極的に表示されており,出所の誤認
が生じることはない。
イ「企業情報」のページ(甲22)の1頁
上記アと同様である。
また,「企業情報」のページ(甲22)の1頁には被告の役務に関する表示が存在
せず,「マーケティングプラットフォームのアドエビス」との記載があるが,これは
社歴を説明しているにすぎず,被告標章1及び同6は役務の出所を示すためには用
いられていない。
ウ「事業内容」のページ(甲23)の1頁
上記アと同様である。
また,「事業内容」のページ(甲23)の1頁は企業の事業紹介のページであり「企
業→役務」という方向での関係性の表示であって,「役務→企業」という関係性を示
すことが意図されたものではない。
エ「採用情報」のページ(甲10の1,甲10の2,甲24)の1頁
上記アと同様である。
また,「採用情報」のページ(甲24)の1頁には被告の役務に関する表示が存在
せず,「ADEBiS」,「EC-CUBE」との記載があるが,採用情報における担当職務の説明
にすぎず,被告標章1及び同6は役務の出所を示すためには用いられていない。ま
た,「採用情報」のページでは,被告の企業理念,メンバー紹介等が記載されている
が,ASPサービスに分類され得る役務の紹介はされていない。
オ「ブログ」のページ(甲25)の1頁
上記アと同様である。
また,「ブログ」のページ(甲25)の1頁には被告の役務に関する表示が存在せ
ず,「EC-CUBE」との記載があるが,ベトナムでの開発の開始を告知しているにすぎ
ず,被告標章1及び同6は役務の出所を示すためには用いられていない。
カ「ニュース」のページ(甲26)の1頁
上記アと同様である。
キ「IR情報」のページ(甲27)の1頁
上記アと同様である。
また,「IR情報」のページ(甲27)の1頁には被告の役務に関する表示が存在
せず,「アドエビス」との記載があるが,金融商品取引法上要求される事業上の重要
事実の開示にすぎず,被告標章1及び同6は役務の出所を示すためには用いられて
いない。
ク「プレスリリース」のページ(甲28)の1頁
上記アと同様である。
また,「プレスリリース」のページ(甲28)の1頁には被告の役務に関する表示
が存在せず,被告標章1及び同6は,「独自ECサイト立ち上げワンストップセミナ
ー」の出所として明示されているにすぎず,「プログラムの提供サービス」の出所を
示すためには用いられていない。
(2)被告標章2について
上記(1)アと同様である。
また,被告のフェイスブック(甲11,29)において,被告標章2が記事の出
所を示すために表示されているが,記事には役務の表示がなく,「・・・さんの投稿
をシェアしました」とあるとおり,第三者の記事をリンクする方法によって共有し
た体裁をとり,自己の役務であるという意図を含んでいないから,被告標章2は,
役務の出所を示すためには用いられていない。
(3)被告標章3について
上記(1)アと同様である。
また,「SOLUTION」のページ(甲9の4)において,「株式会社ロックオン」との
記載があり,通常人であれば,提供者を「株式会社ロックオン」であると認識する。
そして,提供者の名称が明示されているため,タイトルとして掲げられている
「SOLUTION」との記載は,役務の名称として認識される。このように名称と提供元
が明示されている場合,「サービスの名称が『ロックオン』である」とか,「サービ
スの提供元が『株式会社ロックオン』以外の『ロックオン』である」という誤解が
生じることはない。
つまり,「株式会社ロックオン」という表示は,その会社種別の表記があることに
よって,他の商標である「ロックオン」とは異なるものであることを,需要者に認
識させ,違う出所であることを積極的に明示している。
(4)被告標章4について
ア被告の事務所の入口の写真(甲12,13)
被告の事務所入口,受付の電話横の壁面に掲げられた,企業ロゴを撮影した写真
(甲12,13)については,一見しただけでは,会社の事業内容を判別できない。
被告が提供するインターネット広告効果測定システムやインターネットマーケテ
ィング支援システムは,インターネットを用いてのみ提供が可能であり,物理的・
技術的にも,事務所入口では提供されない。
また,被告の顧客はインターネットや広告代理店を通じて募集され,顧客が事務
所に訪問して申し込むことはない。被告の営業担当社員が業務上接触することはあ
るが,サービスの性質上,利用者が全て事業主であるため,営業担当社員が顧客に
訪問する形をとる。
つまり,被告の事務所では,被告のサービスについて,提供も,広告宣伝活動も,
行われていない。
イブースセッションの写真(甲14)
ブースセッションの写真(甲14)は,平成25年に数日間にわたって開催され
た広告技術に関するイベントにおいて被告が出展した際のブーススペースを撮影し
たものであるが,被告は同年の途中に被告標章4の使用を停止し,イベント終了後
直ちに,当該ブーススペースや同標章が付された什器を撤去,廃棄しており,同標
章の使用行為が存在しない。
(5)被告標章5について
ア被告のホームページのトップ画面(甲7の4頁)の写真
被告のホームページのトップ画面(甲7の4頁)の写真は,社員旅行の集合写真
であり,製品・サービスに関する情報は含まれていない。また,トップ画面には,
「EC-CUBE」等に関する情報がバナーとして掲載されているが,これらのバナーと写
真の関係性を示すような,配置や文字情報は存在しない。このように,上記の写真
内の被告標章5は,被告のサービスのバナーの出所を示す用途として使用されてい
ない。
イ「ブログ」のページ(甲30の1頁ないし3頁)の写真
「ブログ」のページ(甲30の1頁ないし3頁)において,被告標章5が写真内
においてのみ使用されていること,「LOCKONCO.,LTD.COMPANYTRIP2016」と一連
の文字列とされていること,写真が社員の集合写真やイベントの写真であること,
写真外に「社員旅行記」と付記されていることから,「LOCKONCO.,LTD.」との表記
は,「この社員旅行がどの会社の社員旅行であるのか」を示すために用いられている。
この写真の外部にも役務の表示がなく,何らかの役務との関係性を看取することは
できない。
3争点3(商標法26条1項1号により,本件商標権の効力が被告各標章に及
ばないか)について
【被告の主張】
以下のとおり,被告は,被告各標章について,一般的なゴシック体を用い,「株式
会社」の標記と同じ大きさで,ホームページのテーマカラーと同一の配色を用いて
いる。また,被告各標章は企業スローガンや「L」のロゴ部分に近接しているが,
混合した図案とはなっていない。企業のホームページの場合,企業ロゴや企業スロ
ーガンを会社名と離して別に記載することはなく,ホームページ上部のベルト幅の
部分に配置するのが通常であり,一見して,相互に独立した要素として看て取るこ
とができる。
したがって,被告各標章は,被告の名称を普通に用いられる方法で表示するもの
にすぎない。
(1)被告標章1及び同6
ア被告のホームページのトップ画面(甲7),「企業情報」(甲22),「事業
内容」(甲23),「採用情報」(甲24),「ブログ」(甲25),「IR情報」(甲27),
「プレスリリース」(甲28)のページの各1頁
被告標章1は,ゴシック体という一般的字体,えんじ色という謙抑的な色調,本
文と同様の文字サイズで表示され,えんじ色は被告のいわゆるコーポレートカラー
として多用されている。そのため,企業ロゴのみが突出する字体,サイズ,色使い
とはなっていない。
被告標章1は,ページ左上部分という,企業のホームページにおいて企業名を表
示する際に一般的である位置に表示されている。
企業のホームページでは,企業名を閲覧者に認知させなければならず,冒頭部に
企業名を表示させることが一般的である。
イ「ニュース」のページ(甲26)の1頁
上記アと同様である。
また,被告標章1は,企業プレスリリースの見出しに表示されている。企業プレ
スリリースは,報道各社へ配信する都合上,フォーマットが限定され,概ね100
字以内で表現する必要がある。そして,どの企業がリリースをするかは,配信する
報道各社,リリースの閲覧者にとって肝要な事実であり,通常,冒頭部に企業名が
記載される。これらのプレスリリースでは「株式会社ロックオン」と記載されてい
るが,冒頭部に一度記載されているだけである。
加えて,企業プレスリリースは,読み手としても「企業」が配信するものである
ことを前提として読み取っており,冒頭部の企業名が,企業名から離れた他人の商
標であると誤認する可能性もない。
ウ「採用情報」のページ(甲10)の1頁の動画
被告標章1は,ゴシック体という一般的字体,えんじ色という謙抑的な色調で表
示され,文字サイズは行の高さとして見ると画面全体に対し10分の1程度である。
そのため,企業ロゴのみが突出する字体,サイズ,色使いとはなっていない。
「採用情報」のページの動画は企業紹介の動画であり,動画というメディアの性
質上,画面は全て一瞥できる範囲内にあり,この種の動画において企業名を中心に
表示することは通常のことである。また,企業名を表示する必要があり,文字サイ
ズが同じである場合には,表示位置によって目立ち方は変わらない。
企業紹介の動画では,冒頭部に企業名を表示しなければ,これを閲覧する者は,
どの企業の動画か分からないまま,動画を認識することとなるため,動画の冒頭部
分に企業名を表示するのが通常である。
(2)被告標章2
被告標章2は,フェイスブックのページ(甲11,29)の記事のタイトル部分
に表示されている。フェイスブックの個別の記事について,ユーザーが名称の表示
方法を変更することはできず,記事の冒頭部分には投稿者の氏名・名称が表示され
る。そのため,フェイスブックの個別の記事の冒頭部分に,アカウント名が表示さ
れるのは,普通のことである。
被告標章2は,本文と同等の文字サイズで,字体も本文と同じゴシック体で表示
されており,若干太字となっているのは,インターネットブラウザが,当該文字が
リンクであることを認知して設定しているものであり,被告が特別に操作をしたも
のではない。また,リンクが若干太字となるのは,インターネットホームページに
おいては通常のことである。
フェイスブックのページのタイトルと同様,フェイスブックは実名制であるから,
アカウント名は企業名を表し,利用者としても,アカウント名が企業名であると認
識している。そのため,一般の閲覧者が記事冒頭部分の企業名を,別のサービス名
であると誤認することもない。
(3)被告標章3
上記(1)アと同様である。
また,「SOLUTION」のページ(甲9の4)の1頁において,被告標章3は,ゴシッ
ク体という一般的字体,黒という文字色で,最も一般的な色調,本文より小さい文
字サイズで表示されている。そのため,企業ロゴのみを特に目立たせる字体,サイ
ズ,色使いとはなっていない。
(4)被告標章5
「ブログ」のページ(甲30)の1頁,2頁において,被告標章5は,社員旅行
を紹介するための記念写真中に記載された「2016年の社員旅行」であることを
表示するための記載である。「LOCKONCO.,LTD.」は被告の名称そのものではないが,
被告が定款に定めている被告の名称の英文表記である。「CO.,LTD.」はCompany
Limitedの略であり,「会社」を表す標記であることは周知であり,会社名の本体部
分の英文標記に「CO.,LTD.」を付記することは,企業名を表示するために必要な方
法である。この写真は,被告の社員がベトナム支社を訪問した際の現地採用従業員
との記念写真であり,文字入れ編集後の写真を現地での企業PRに使用する目的で作
成された。そのため,ベトナムの閲覧者がどの企業のPR写真であるかを判別できる
ように,英文字で記載することには合理性がある。
また,被告標章5は,一般的なゴシック体で表示され,「K」の先が若干伸びてい
るが,注目を集める機能を有するような特異性はない。また,被告標章5は,「ロッ
クオン社員旅行」という意味のタイトル部分に表示されているため,ブログ記事の
本文より文字が大きいことには必然性がある。大きさもブログ記事の本文の縦幅と
して10分の1以下,横幅も半分以下であり,特別に大きくはない。
【原告の主張】
被告の名称は,一般的な書体による黒文字で,「株式会社ロックオン」と表示すれ
ば足り,特殊な色や書体を用い,特殊な図形と組み合わせて,殊更に需要者の注意
を惹く場所に配置する等して,表示する必要はない。
むしろ,以下のとおり,被告各標章は,自らの事業主体としての名称を表示する
ことを目的とするのではなく,会社名に赤色等の目立つ色を用い,殊更に需要者の
注意を惹く場所に配置し,他の図形と組み合わせて目を惹くようにし,他の文字と
組み合わせて会社のブランドを強く印象づけ,殊更に出所表示機能を企図するもの
であり,そのような使用は商標法26条1項1号の「普通に用いられる方法で表示
する」ものとはいえない。
(1)被告標章1について
ア被告ホームページでの表示方法
被告はホームページ(甲7,8)の左上に,被告標章1を使用している。ホーム
ページは,自社の商品,役務を広告宣伝する機能を有し,その左上の箇所は,当該
ホームページにアクセスする需要者の注意を最も惹きやすい箇所であり,需要者は,
当該箇所に表示される標章を,当該企業の出所表示機能を有するコーポレートロゴ
等のハウスマークとして認識する。それゆえ,各企業は,そのような需要者への出
所表示機能を企図して,ホームページの左上に自社のコーポレートロゴ等のハウス
マークを表示している。
被告標章1は,出所表示機能を有する場所に表示され,コーポレートカラーであ
る濃い赤色で着色を施されている。加えて,被告は,被告標章1の傍らに,いずれ
も登録商標である「L」字様の図形(商標登録第5450134号)及び「ImpactOn
TheWorld」(商標登録第5450135号)の文字を配し,これらの登録商標が被
告の出所表示機能を有するため,これらの登録商標と組み合わされた被告標章1の
表示方法は,1つのコーポレートロゴ等のハウスマークとして見ることができる。
したがって,このような表示方法は,殊更に出所表示機能を企図するものである。
イYouTubeでの表示方法
事業概要等を記載したYouTube上にアップロードされた動画(甲10の1,10
の2)における表示方法は,配置の仕方及び色がやや異なるものの,ホームページ
上での表示方法と同様に,被告標章1の傍らに,いずれも登録商標である「L」字
様の図形(商標登録第5450134号)及び「ImpactOnTheWorld」(商標登録
第5450135号)の文字を配している。
したがって,この表示方法も,殊更に出所表示機能を企図するものである。
(2)被告標章2について
各企業は,広告宣伝の効果を期待して,フェイスブックのページに,出所表示機
能を有する自社のコーポレートロゴ等のハウスマークを表示し,需要者は,フェイ
スブックのページに表示される標章を,当該企業の出所表示機能を有するコーポレ
ートロゴ等のハウスマークとして認識する。
被告は,自らのサービスを広告宣伝するためにフェイスブック(甲11)を利用
し,被告標章2を,その傍らに,登録商標である「L」字様の図形(登録第545
0134号)を配置して表示している。
被告の出所表示機能を有する登録商標と組み合わされた被告標章2の表示方法は,
殊更に出所表示機能を企図するものであり,とりわけ,フェイスブックの被告のペ
ージの冒頭左上において,「L」字様の図形が殊更に強調されており,被告のページ
を見た需要者は,「L」字様の図形と組み合わされた被告標章2を,被告の事業に係
る商品・サービスの出所を表示するものとして認識する。
(3)被告標章3について
ホームページは,自社の商品,役務を広告宣伝する機能を有し,その左上の箇所
は,当該ホームページにアクセスする需要者の注意を最も惹きやすい箇所であり,
需要者は,当該箇所に表示される標章を,当該企業の出所表示機能を有するコーポ
レートロゴ等のハウスマークとして認識する。
「SOLUTION」のサービスを紹介するホームページ(甲9の4)の真ん中やや左上
において,被告標章3が表示され,その傍らに,登録商標である「L」字様の図形
(商標登録第5450134号)が配され,被告の出所表示機能を有する登録商標
と組み合わされている。このような表示方法は,殊更に出所表示機能を企図するも
のである。
(4)被告標章4について
被告は,被告標章4を事務所の正面玄関口に表示し,看板として利用している(甲
12,13)。
商標法26条1項1号の適用を受ける前提として,当該標章が会社商号と同一で
ある必要があるが,被告標章4は,「LOCKON」のみで株式会社が付されていない。
したがって,被告標章4の使用については,同号は適用されない。
(5)被告標章5について
被告は,ホームページのトップ画面(甲7)の下部の「OFFICIALBLOG」という
項目において,被告標章5を掲載する必要性のない写真に使用し,欧文字の「K」
に丸みを持たせた上で,「K」の右下部分を通常より長く描くという特徴的な書体を
用いており,出所表示機能を殊更に企図して使用している。
(6)被告標章6について
アホームページでの表示方法
上記(1)アのとおり,被告標章6の表示方法は,殊更に出所表示機能を企図するも
のである。
イパンフレットでの表示方法
パンフレットは,ホームページと同様に,自社の商品,役務を広告宣伝する機能
を有し,その表紙は,需要者がまず目にする,注意を最も惹きやすい箇所であり,
需要者は,当該箇所に表示される標章を,当該企業の出所表示機能を有するコーポ
レートロゴ等のハウスマークとして認識する。それゆえ,各企業は,そのような出
所表示機能を企図して,パンフレットの表紙に自社のコーポレートロゴ等のハウス
マークを表示している。
したがって,被告4サービスを広告宣伝する内容が含まれたパンフレット(甲1
5)の表紙に表示されている被告標章6は,出所表示機能を有する場所に表示され,
その上,コーポレートカラーである濃い赤色を背景とする着色を施している。
加えて,被告標章6は,被告の出所表示機能を有する登録商標である「L」字様
の図形(商標登録第5450134号)及び「ImpactOnTheWorld」(商標登録第
5450135号)の文字と組み合わされている。このような表示方法は,殊更に
出所表示機能を企図するものである。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告3サービスの役務は,本件商標権の指定役務と同一又は類似す
るか)について
(1)認定事実
前提事実及び後掲証拠によれば,被告3サービスについて,以下の事実が認めら
れる。
ア被告の事業
被告の「有価証券報告書」によれば,被告のセグメントには,マーケティングプ
ラットフォーム事業と商流プラットフォーム事業があり,「ADEBiS」及び「THREe」
は前者に,「EC-CUBE」及び「SOLUTION」は後者に,それぞれ属し(甲32の6頁),
「プラットフォーム」とは,「ハードウェアやソフトウェア,サービスが動作する基
盤となる環境のこと」である(甲32の8頁)。
イ「ADEBiS」に係る役務
(ア)「ADEBiS」は,インターネット広告効果計測サービスであり,顧客が
利用するインターネット広告がどれだけの成果をあげているか計測するものである
(乙18の1頁,2頁)。
具体的には,被告の顧客が広告を掲載したサイトにおいて,閲覧者が当該広告を
クリックし,被告の顧客が計測対象とするサイトに遷移する際に,被告のADEBiS
サーバを経由するようにする(リダイレクト方式)。そして,計測対象サイトにおい
て,成果を計りたい箇所にコンバージョン(CV)タグを埋め込み,それを通じてAD
EBiSサーバが遷移に係るID,UA,日時等の情報を取得し,遷移の計測データが管理
画面に反映される。(乙18の別紙1)
このために,被告の顧客は,どのサイトのために計測を行うかを設定し(乙18
の別紙1),閲覧者が遷移先のサイト内のどのページを見た時に広告効果があったと
判断するかを設定し(乙18の別紙2),コンバージョンを計測するためのコンバー
ジョンタグを設定し,どの広告の効果を計測するかを設定する(乙18の別紙3)。
(乙18の2頁)
「ADEBiS」において,閲覧者の行動に関するデータは「取得WEB」で受信されて
収集され,取得されたデータは「取得アーカイブ」に蓄積され,VTバッチ,取得分
析バッチ,バッチサーバにおいて,一定の頻度で取得データが解析,出力され,被
告の顧客が閲覧するための解析データが「参照DB」に蓄積管理され,「参照WEB」に
解析データが表示され,被告の顧客は,これを閲覧する(乙18の2頁,別紙4)。
被告の顧客が「参照WEB」を通じて閲覧できる画面では,表示回数(広告が表示
された回数),クリック数(対象の広告がクリックされた回数),流入回数(ランデ
ィングページに設置されている「計測タグ」が反応した回数),CV(対象の広告から
発生したコンバージョンの数),広告コスト(広告出稿にかけたコスト),売上総額,
ROAS(広告の費用対効果)等が表示される(乙18の3頁,別紙5)。
(イ)「ADEBiS」の提供方法としては,「ADEBiS利用契約約款」(甲39)
の「第2条(本サービス)」の第1項において,「本サービスとは,当社が提供する
ASP(ApplicationServiceProvider)サービスである『ADEBiS/アドエビス』並
びに『アカウントセンター』,その他の付加サービス(以下,『本サービス』)のこと
をいいます。」と定められている。
なお,ASP(ApplicationServiceProvider)とは,「インターネットを通じて顧
客にビジネス用アプリケーションをレンタルするサービスのこと」(甲32の9頁),
「ASPとはアプリケーション・サービス・プロバイダ(ApplicationService
Provider)の略で,インターネット上でアプリケーションを提供するサービスの提
供者(事業者)のことを言い,提供されるソフトウェアやサービスのことをASPサ
ービスと言います。」(甲36),「ASPとは,ソフトウェアをインターネットなどを
通じて利用者に遠隔から利用させる事業者のこと。また,そのようなサービス(ASP
サービス,SaaS:SoftwareasaService)。」,「ASPは利用者の提供するソフトウェ
アを,インターネットなどのネットワークに接続されたサーバコンピュータに展開
する。利用者はWEBブラウザや専用のクライアントソフトなどを通じてサーバにア
クセスし,これを利用する。」(甲38)と説明されている。
ウ「THREe」に係る役務
(ア)「THREe」は,リスティング広告入札最適化のサービスである。リステ
ィング広告とは,検索エンジンにおいて,一定のキーワードで検索した際に表示さ
れる,当該キーワードに関連する広告であり,「THREe」は,「ADEBiS」や媒体側に
蓄積している膨大なビッグデータを独自の最適化エンジンにより解析し,リスティ
ング広告の出稿や入札を最適化するものである(甲32の7頁,乙18の3頁,4
頁)。
具体的な仕組みとしては,被告の顧客は,「参照WEB」の管理画面において,広告
の予算や方針等,広告出稿に関する概括的な情報を設定し,その情報が「参照DB」
に蓄積管理される。そして,「バッチサーバ」において,媒体通信及び広告最適化計
算が行われ,一定の頻度で,被告が設定した最適化のロジックに基づいてバッチ処
理が行われ,処理結果が「ログDB」に蓄積管理され,顧客は,「参照WEB」を通じて
最適化や運用の結果を閲覧する。(乙18の4頁,5頁,別紙6,別紙7)
(イ)「THREe」の提供方法としては,「THREe利用契約約款」(甲40)の「第
2条(本サービス)」の第1項において,「本サービスとは,当社が提供するASP
(ApplicationServiceProvider)サービスである『THREe/スリー』および付加サ
ービス(以下,『本サービス』)のことをいいます。」と定められている。
また,「THREe」のホームページ(甲9の2,乙11)には,「AIによる自動運用
『ヒト型ポートフォリオ』で,面倒な運用管理を簡単に行えますまるで人が考え
ているかのような運用を自動で行ってくれる機能を搭載。完全自動運用により,
運用管理の時間短縮と高率改善が同時に狙えます!」,「月予算に基づき,日予算を
自動調整。安心・確実に予算管理を行えます予算管理に必要な設定は『月予算』
のみ!これだけで,ポートフォリオが毎朝,残予算から適切な日予算を算出して,
効果的なキャンペーンに予算を寄せて配信します。」と記載されている。
エ「SOLUTION」に係る役務
(ア)「SOLUTION」は,デジタル戦略総合支援サービスであり,多数の広告
媒体の利用状況及び効果を蓄積し,統合して分析し,効果的な広告戦略を策定する
ものである。被告は,顧客との間で,データの収集,活用のためのコンサルティン
グを行い,どのようなデータの蓄積が必要かを検討し,「ADEBiS」等に基づいてシ
ステムを構築し,提供する。このことについて,被告のホームページでは,「お客様
に最適化したプライベートDMPを構築いたします。」とされており(乙12の1ペ
ージ),DMPとは,DataManagementPlatformの略語であり,「様々なサーバに蓄
積されるビッグデータや自社サイトのログデータなどを一元管理・分析し,広告配
信などのアクションプランの最適化を実現するデータ統合管理ツールのこと」とさ
れている(甲32の9頁)。その一例では,被告の名義でサーバを取得,管理し,顧
客は閲覧用に設定されたデータを閲覧する。(乙18の6頁,7頁,別紙8)
(イ)導入事例として,ライオン株式会社の生活情報「LIDea(リディア)」
では,訪問ユーザーの行動や趣味嗜好等の特性情報を元に,個々のユーザーの顕在
ニーズ・潜在ニーズにマッチしたコンテンツを提供し,「LIDea」とブランドサイト
で共通の統合基盤を利用している。また,株式会社NTTデータが展開するデジタ
ル・マーケティング総合支援サービス「BizXaaSBAforマーケティング」のデータ
統合管理基盤の肝であるデータ連携基盤として,「アドエビスを利用したロックオン
のソリューション」が採用されている。(乙12)
(2)以上に基づき,被告が提供する上記役務が,本件商標権の指定役務に属す
るか否かを検討する。
ア商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は,商標法
施行令別表の区分に付された名称,商標法施行規則別表において当該区分に属する
ものとされた商品又は役務の内容や性質,国際分類を構成する類別表注釈において
示された商品又は役務についての説明,類似商品・役務審査基準における類似群の
同一性などを参酌して解釈するのが相当である(最高裁判所平成23年12月20
日判決・民集65巻9号3568頁参照)。
本件商標権2の場合,原告が本件で主張する第42類は,その名称を「科学技術
又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び
開発」とするものであるところ,その出願時の商標法施行規則別表では,「電子計算
機のプログラムの設計,作成又は保守」と並んで,「電子計算機用プログラムの提
供」が属するものとされ,その出願時に用いられていた国際分類(第10版)を構
成する類別表注釈では,第42類に属する役務について,「第42類には,主として,
個別的又は集団的に人により提供されるサービスであって,諸活動のうちの複雑な
分野の理論的又は実用的な側面に関連するものが含まれる。当該サービスは,科学
者,物理学者,エンジニア,コンピュータプログラマー等のような専門家によって
提供されるものである。」とされており,特許庁による解説では,「電子計算機のプ
ログラムの設計,作成又は保守」について,「このサービスには,いわゆる,ソフト
ウェアの開発業者等が提供するサービスが含まれます。」とされ,「電子計算機用プ
ログラムの提供」については,「電気通信回線を通じて,電子計算機用プログラムを
利用させるサービスです。」とされ,類似商品・役務審査基準では,「電子計算機用
プログラムの提供」は,第9類の「電子計算機用プログラム」に類似するとされて
いる。
そして,第9類では,「電子応用機械器具及びその部品」として,「電子計算機用
プログラム」が含まれるとされ,国際分類を構成する類別表注釈では,「この類には,
特に,次の商品を含む。」,「記録媒体又は頒布方法の如何に拘わらず,全てのコンピ
ュータプログラム及びソフトウエア,すなわち,磁気媒体に記録されたソフトウェ
ア,又はコンピュータネットワークからダウンロードされるソフトウエア」とされ
ている。(以上,甲33)
これらからすると,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」とは,コンピ
ュータプログラマーによって設計開発されたコンピュータ用プログラムを,電気通
信回線を通じて利用させる役務であると解するのが相当であり,「電子計算機用プロ
グラムの設計・作成又は保守」とは,コンピュータプログラマー等のソフトウェア
の開発業者が電子計算機用プログラムを設計ないし作成し,又はその手直し等をす
る役務であると解するのが相当である。そして,第9類の「電子計算機用プログラ
ム」がそれによって提供される目的ないし機能を問わないものであることからする
と,第42類の役務における上記のプログラムも,その利用により達成される目的
ないし機能を問わないものであると解するのが相当である。そして,これは,本件
商標権1についても同様であると解される。
イ「ADEBiS」に係る役務について
「ADEBiS」においては,被告の顧客がインターネットを通じて計測対象サイトを
設定し,どのような効果を計測するか等を設定すると,被告が構築したシステムに
より,エンドユーザーの行動に関するデータが取得,蓄積,分析され,顧客は分析
結果を閲覧することができる。被告は,利用契約約款等により,対外的に,「ADEBiS」
がASPサービスである旨を説明しており,上記の処理はソフトウェア(電子計算機
用プログラム)によってなされる。
このように,被告の顧客は,電気通信回線を通じて,広告効果計測の条件を指定
し,その条件に従ってソフトウェアによる処理がなされた後に,その結果を閲覧し
ており,そのような態様によって被告が提供するソフトウェアを利用していると認
められる。
そうすると,被告は,顧客に「ADEBiS」のソフトウェア,すなわち,電子計算機
用プログラムを利用させるサービスを提供していると認められ,被告の「ADEBiS」
に係る役務は,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当するというべ
きである。
ウ「THREe」に係る役務について
「THREe」において,被告の顧客が広告出稿に関する情報を設定すると,この情報
が保管されて最適化計算が行われて運用され,顧客は,最適化や運用の結果を閲覧
することができる。被告は,利用契約約款等により,対外的に,「THREe」がASPサ
ービスであり,「ADEBiS」のデータを活用しながら最適化を行っている旨を説明し
ている。また,「THREe」は,「ADEBiS」等のデータを活用して,リスティング広告
の出稿や入札を行うところ,被告は,ホームページ等において,入稿や入札が自動
的になされる旨を説明しており,上記の処理はソフトウェアによってなされる。
このように,被告の顧客は,電気通信回線を通じて,広告出稿に関する情報を設
定し,その情報に従ってソフトウェアによる処理がなされた後に,その結果を閲覧
しており,そのような態様によって被告が提供するソフトウェアを利用していると
認められる。
そうすると,「ADEBiS」と同様に,被告は,顧客に「THREe」のソフトウェア,
すなわち,電子計算機用プログラムを利用させるサービスを提供していると認めら
れ,被告の「THREe」に係る役務は,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」
に該当する。
エ「SOLUTION」に係る役務について
「SOLUTION」は,被告が,顧客との間で,多数の広告媒体でのデータの収集,活
用のためのコンサルティングを行った上で,顧客に最適な広告戦略を策定するため
のプライベートDMP(データ統合管理ツール)を「ADEBiS」等に基づいて構築し,
提供するものであり,それによるデータの蓄積及び分析は,ソフトウェアによって
行われるものである。そうすると,「SOLUTION」は,特定の顧客向けにソフトウェ
アを用いたシステムを開発して提供するものといえるから,第42類の「電子計算
機用プログラムの設計,作成又は保守」に当たるというべきである。
オ被告の主張について
(ア)被告は,被告3サービスが第35類の「広告業」又は「市場調査又は
分析商品の販売に関する情報の提供」に該当する旨主張する。
確かに,「ADEBiS」及び「THREe」においてソフトウェアによって処理される内容
は,広告効果の測定やリスティング広告入札の最適化等であり,「広告」や「市場調
査又は分析」の機能を有するものではある。しかし,前記のとおり,第42類の「電
子計算機用プログラムの提供」は,それによって達成される目的や機能を問わない
と解されるから,上記の処理が,被告のソフトウェアによって自動的になされ,ソ
フトウェアによる動作で全てが行われている以上,そのソフトウェアが広告や市場
調査等の機能を有するものであるとしても,同役務に当たるというべきである。
また,「SOLUTION」についても,被告が開発して提供するシステムの目的ないし
機能が広告出稿の支援にあるとしても,第42類の「電子計算機用プログラムの設
計,作成又は保守」は,そのプログラムによって達成される目的や機能を問わない
と解されるから,同役務に当たるというべきである。なお,「SOLUTION」には,コン
サルティング業務が含まれるが,これは,当該顧客向けにシステムを開発すること
に必然的に伴う業務であるから,上記の「電子計算機用プログラムの設計,作成又
は保守」の一部を構成すると解するのが相当であり,これだけを取り出して第35
類の「市場調査又は分析」等に当たると解することは相当でない。
(イ)また,被告は,自らが広告効果測定の仕組みを構築,維持することに
より,リスティング広告の最適化のための情報を自らが取得し,分析しており,顧
客に対してはシステム利用の結果を提供しているにすぎない旨主張し,被告の取締
役であるP1は,顧客は,WEB画面を通じて条件や情報を設定し,処理結果を閲覧
するにすぎない旨を述べる(乙18の2頁ないし7頁)。
しかし,被告3サービスはプラットフォーム事業として位置づけられ,ソフトウ
ェア等が動作する基盤となる環境を整えて顧客に利用させることが目的とされてお
り,システムの構築,維持は,「ADEBiS」及び「THREe」においては被告の役務の提
供の前提となる事項であって,これらの作業をもって提供される役務の本体部分で
あると認めることはできない。また,それらにおいては,被告の顧客は,条件や情
報を設定し,処理結果を閲覧するという態様により,被告の提供するソフトウェア
(電子計算機用プログラム)を利用していると認められ,むしろ,「電子計算機用プ
ログラムの提供」の役務においては,ユーザーは,当該プログラムそれ自体の運用
には関与しないのが通常であるから,被告がシステムを構築,維持しているからと
いって,被告がリスティング広告最適化のための情報を取得して,結果を顧客に提
供していると捉えることはできない。
また,「SOLUTION」においては,システムの構築,維持は,第42類の「電子計算
機用プログラムの設計,作成又は保守」の一部を構成する業務というべきであるか
ら,上記と同様である。
したがって,被告の上記主張は,採用できない。
(ウ)さらに,被告は,役務の提供にインターネットWEBシステムが含まれて
いる場合に,その役務がインターネットWEBシステムを利用しなくても成立するも
のである場合には第42類に該当しないとの考え方を前提として,被告3サービス
において顧客に対して計測,分析等の結果を報告するには,電話や文書等の他の手
段によることも可能である旨主張し,前記P1は,実施すべき調査,分析の対象の
設定や,結果の送付を電話等によることも可能であると述べる(乙18の7頁)。
しかし,まず,第42類における「電子計算機用プログラムの提供」が,コンピ
ュータプログラマーによって設計開発されたコンピュータ用プログラムを,電気通
信回線を通じて利用させる役務であり,そのプログラムの利用により達成される目
的ないし機能を問わないと解するのが相当であることは前記のとおりであるから,
ある役務がインターネットWEBシステムを利用しなくても成立するものである場合
には第42類に該当しないとの主張は採用できない。
また,仮に被告4サービスについて上記のような態様での役務の提供が可能であ
るとしても,「SOLUTION」が「電子計算機用プログラムの設計,作成又は保守」に該
当することを左右するものではない。また,「ADEBiS」及び「THREe」についても,
それらによる実際の処理が,ソフトウェアによって自動的に行われている以上,顧
客がソフトウェアを利用していることに変わりはないというべきである。もっとも,
前記P1の陳述書では,WEB画面での入力が面倒な顧客のために,被告の担当者が
希望を聞いて必要な設定情報を預かること等があるとされているが,同陳述書によ
っても,そのような事態が多いわけではないとされている上,被告が対外的に自ら
の役務がASPサービスであるとうたっていることを併せ考慮すると,電話等の他の
手段が用いられることは,ごく限られた例外的な場合にしか,想定し難いところで
あり,それによって「ADEBiS」及び「THREe」の基本的性質は左右されない。した
がって,被告の上記主張は,採用できない。
カ小括
以上によれば,被告3サービス(「ADEBiS」,「THREe」及び「SOLUTION」)は本件
商標権の指定役務である第42類の「電子計算機用プログラムの提供」又は「電子
計算機用プログラムの設計,作成又は保守」に該当し,前提事実のとおり,「EC-CUBE」
に係る役務が本件商標権の指定商品である第9類の「電子応用機械器具及びその部
品」及び指定役務である第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当する
ことは当事者間に争いがないから,被告4サービス(「ADEBiS」,「THREe」,「SOLUTION」
及び「EC-CUBE」)は,本件商標権の指定商品又は指定役務に該当する。
2争点2(被告は,被告4サービスについて被告各標章を使用しているか)及
び争点3(商標法26条1項1号により,本件商標権の効力が被告各標章に及ばな
いか)について
(1)認定事実
前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告による被告各標章の使用態
様について,以下の事実が認められる。
アホームページでの使用態様
(ア)被告のホームページでは,トップ画面(甲7)から,下位の階層であ
る「企業情報」(甲22,乙8),「事業内容」(甲8,23),「採用情報」(甲24),
「ブログ」(甲25,30),「ニュース」(甲26),「IR情報」(甲27)のページ
に移ることができる。これらのトップ画面及びページの各1頁の左上において,被
告標章6が表示され,そのうち「株式会社ロックオン」の部分及び「L」字様の図
形がえんじ色(濃い赤色)で着色されている(この着色部分のうちの「株式会社ロ
ックオン」の部分が被告標章1である。)。なお,被告は,上記の「L」字様の図形
の商標(商標登録第5450134号)及び「ImpactOnTheWorld」との商標(商
標登録第5450135号)を登録している(弁論の全趣旨)。
(イ)上記トップ画面の「NEWS」の項目においては,「アドエビス」,「EC-CUBE」
の販売等の記載が見られ(甲7の1頁),同「PICKUP」の項目においては,バナー上
に「EC-CUBE」が広告宣伝されている(甲7の3頁)。
また,上記トップ画面の下部の「OFFICIALBLOG」という項目で掲載されている社
員旅行の写真(甲7の4頁)には,上部の約4分の1ないし3分の1のスペースに,
2行にわたって,被告標章5と「COMPANYTRIP2016」とが表示されている。
(ウ)トップ画面の下位の階層にある「企業情報」のうちの「代表挨拶」の
ページ(甲22)では,「株式会社ロックオンを設立した理由」に,「私たちのこう
した願いを,企業理念である『ImpactOnTheWorld』という言葉に込めました。」
と記載され,「経営基本方針」に,「世の中へ何かを働きかけたいという強い想いを,
企業理念である『ImpactOnTheWorld』という言葉に込め,企業価値の最大化を図
ります。」と記載されている。「2016年度年頭所感」では,「一つ目の『広告プ
ラットフォーム事業の拡充』に関しては,広告効果測定のアドエビスから,マーケ
ティングプラットフォームのアドエビスへとブランドも大きく刷新し,外部サービ
スとの連携も始まりました。」と記載されている。
また,上記の「企業情報」のうちの「会社概要」のページ(乙8)では,「事業内
容」の欄に,「マーケティングプラットフォーム」として「アドエビス」,「THREe」
が,商流プラットフォームとして「EC-CUBE」,「SOLUTION」が列挙されている。
(エ)トップ画面の下位の階層にある「事業内容」ページ(甲8,23)で
は,「マーケティングプラットフォーム」に属する「ADEBiS」及び「THREe」が広告
宣伝され,「商流プラットフォーム」に属する「EC-CUBE」及び「SOLUTION」が宣伝
広告されている。
また,被告4サービスについて,個別にサービス又は商品の内容が説明され,広
告宣伝されたページの閲覧が可能である(甲9の1ないし9の4,乙10ないし1
2)。
このうち,「SOLUTION」の広告宣伝がされたページ(甲9の4)では,各頁の上部
の位置において,「SOLUTION」との名称の右隣に,「デジタル戦略の総合支援パート
ナー」との記載の真下に被告標章3が表示されている。
(オ)トップ画面の下位の階層にある「採用情報」のページでは,YouTube
上にアップロードされた事業概要等を紹介する動画を閲覧することができる。被告
標章1は,動画の冒頭場面及び終了場面に,その上にえんじ色(濃い赤色)で着色
された「L」字様の図形を,その下に灰色で着色された「ImpactOnTheWorld」の
文字を配する態様で表示されている(甲10の1及び10の2の各1頁)。同ページ
のうち,「技術系職種」の「プロダクトマネジメント」では,「ADEBiS」及び「EC-CUBE」
が主力製品であると紹介されている(甲10の1及び10の2の各4頁,甲24の
2頁)。
(カ)トップ画面の下位の階層にある「ブログ」のページ(甲25)には,
「ロックオンベトナムEC-CUBE開発チーム誕生」の記事があり,「EC|CUBE」
との表示も付されている(甲25の1頁)。同ページには,「2016年社員旅行記」
の記事が2件掲載され,いずれも,写真の上部の約4分の1ないし3分の1のスペ
ースに,2行にわたって,被告標章5と「COMPANYTRIP2016」とが表示されている
(甲25の2頁,3頁,甲30の1頁ないし3頁)。
(キ)トップ画面の下位の階層にある「ニュース」のページ(甲26)では,
「プレスリリース」として,「EC-CUBE」,「ADEBiS」,「THREe」の項目があり,最新
版のリリースやサポート期限延長が告知されている。
また,「プレスリリース」中の平成28年8月23日の記事のページでは,
「EC-CUBE」の導入等に関する無料セミナーの開催が発表されており,そのうちの四
角囲いの箇所(甲28の1頁)には,左上の部分に,被告標章1が,その上に「L」
字様の図形を,その下に「ImpactOnTheWorld」との文字を配する態様で表示され
ている。このページの「『EC-CUBE』について」(甲28の5頁)には,「EC-CUBE」の
説明が掲載され,「株式会社ロックオン概要」(甲28の5頁)には,「事業内容」の
中で,「マーケティングプラットフォーム」として,「アドエビス」,「THREe」が,「商
流プラットフォーム」として,「EC-CUBE」,「SOLUTION」が列挙され,「Category」の
「プレスリリース」には,「ADEBiS」,「THREe」,「EC-CUBE」が列挙されている。ま
た,「このカテゴリの新着記事」(甲28の6頁)には,「EC-CUBE」の最新版のリリ
ース,サポート期限延長,「アドエビス」の新サービスのリリースが告知されている。
(ク)トップ画面の下位の階層にある「IR情報」のページ(甲27)では,
「IR情報」の「2016.05.25」に,「リリース」として,「『アドエビス』
の一部サービスに関する料金改定のお知らせ」が告知されている。
イフェイスブックでの使用態様
被告のフェイスブックの公式ページにおいては,投稿された各記事の冒頭に,投
稿者名として,「L」字様の図形とともに「株式会社ロックオン(公式ページ)」と
記載され,その中で被告標章2が表示されている。被告が同ページで紹介している
記事には,「EC-CUBE」等のサービス又は商品を広告宣伝する内容も掲載されており,
被告が「マーケティングメトリックス研究所」及び「EC-CUBE公式ページ」の投稿
をシェアした場合には,転載されたこれらの記事の冒頭の投稿者の表示も同じ青色
のゴシック体で表示されている(甲11,29)。
ウ事務所及びセッションでの使用態様
事務所の正面玄関口には,「L」字様の図形と被告標章4並べた看板が表示されて
おり,それらはえんじ色(濃い赤色)又は金色で着色され,金色のものにはその下
に「ImpactOnTheWorld」の文字が配されており,「ADEBiS」及び「THREe」の広
告物が陳列されている(甲12,13)。
また,被告のセッションでは,壁面に,被告標章4がえんじ色(濃い赤色)に着
色されて表示され,この壁面には,「ADEBiS」及び「THREe」が広告宣伝されている
(甲14の2頁)。
エパンフレットでの使用態様
被告4サービスの概要等の説明や広告宣伝が掲載されたパンフレットの表紙(甲
15の1頁)の中央部には,被告標章6が,えんじ色(濃い赤色)を背景とした白
抜き文字として表示されている。
パンフレットの「ImpactOnTheWorld」とのページ(甲15の2頁)では,「私
たちも同じように,高い理想を胸に走り続けることで,世の中へ何かを働きかけら
れると信じています。その想いを企業理念である『ImpactOnTheWorld』という言
葉に込めました。」と説明されている。
(2)以上に基づき判断する。
ア被告標章6について
(ア)前記のとおり,被告標章6は,ホームページ及びパンフレットにおい
て表示されているところ,それらホームページ及びパンフレットでは,被告4サー
ビスの項目,説明又は広告宣伝が掲載されている。そうすると,それらにおいて,
被告標章6は,被告4サービスの出所表示として機能していると認められるから,
被告は,ホームページ及びパンフレットにおいて,被告標章6を被告4サービスの
広告に使用しているといえる。(争点2)
この点について,被告は,①被告のホームページの「企業情報」,「採用情報」,「I
R情報」,「プレスリリース」のページには,被告標章6が被告4サービスの出所を
示すためには用いられておらず,また,②その他の箇所では「株式会社ロックオン」
と出所を明記しているから被告各標章の表示によって原告との間で出所の誤認が生
じることはない旨主張する。
しかし,①については,確かに,被告のホームページ内の「企業情報」等のペー
ジは,会社としての被告自身の広告を行うことを主たる目的とするページであると
は認められるが,同じホームページ内の「事業内容」等のページでは,被告4サー
ビスの広告がなされている上,被告が指摘するページでも,前記認定のとおり被告
4サービスのいずれかに言及されている。そして,被告のホームページは,トップ
画面から下位の階層の各ページまでの全体がひとまとまりの広告媒体を構成し,各
ページ間を自由に移動できるものであるから,ホームページ内で提供役務の広告が
行われているときには,ホームページの他の箇所で表示された被告標章6であって
も,被告4サービスの出所を表示するものとして機能していると認めるのが相当で
ある。
また,②については,前提事実のとおり被告各標章が本件商標と類似しており,
被告が原告と異なる「株式会社ロックオン」であることが需要者の間で周知となっ
ていると認めるに足りる証拠もないことからすると,被告各標章の表示によって出
所の誤認混同が生じるおそれはあると認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用できない。
(イ)そして,被告標章6は,ゴシック体の「株式会社ロックオン」との文
字に,被告の登録商標であり企業ロゴと思われる「L」字様の図形と,被告の登録
商標であり,かつ,企業理念ないし企業スローガンである「ImpactOnTheWorld」
との文字がバランスよく組み合わされており,外観上ひとまとまりに把握されるも
のである。そして,このような企業ロゴ及び企業スローガンと組み合わせられるこ
とにより,「株式会社ロックオン」との文字は,それが単体で使用される場合に比べ
て,特に需要者の注意を惹く態様となっている。したがって,被告標章6の使用は,
殊更にその部分に需要者の注意を惹きつけることにより,役務の出所を表示させる
機能を発揮させる態様での使用というべきであって,自己の名称を「普通に用いら
れる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)
この点について,被告は,被告標章6は,冒頭部等の一般的な位置に,目立たな
いようにして表示され,被告の会社名が「L」字様の図形や企業理念とは独立して
読み取れるから,被告の会社名の表示は,自己の名称を「普通に用いられる方法」
で表示したものである旨主張するが,被告標章6は,「L」字様の図形や企業理念と
外観上ひとまとまりに把握されるものであるから,被告の同主張は採用できない。
イ被告標章1について
被告標章1は,被告標章6の中に含まれる態様のほかに,「採用情報」のページの
動画や「プレスリリース」のページにおいて,上側に「L」字様の図形を,下側に
「ImpactOnTheWorld」の文字を組み合わされる態様で表示されている。
しかし,本件において,被告標章1が他の図形や文字と組み合わされずに単独で
使用されている実例は見当たらないから,被告が被告標章1を単体で使用するおそ
れがあるとはいえない。また,仮に上記の使用態様において被告標章1を単体で把
握するとしても,被告標章1は被告の商号を赤色のゴシック体で表記したものであ
り,自己の商号を自社のホームページ等で着色して表示することは一般的に行われ
るものである。また,被告標章1のうち被告標章6に含まれる態様のものは,被告
のホームページの左上に小さく標記されているにすぎず,それ以外の態様のうち,
セミナーの開催告知中で表示されているもの(甲28の1頁)はさほど大きな表示
ではなく,被告のホームページ内の「採用情報」のページでYOUTUBEの動画に表示
されるもの(甲10の1及び2)は画面中央に目立つ態様で表示されるものの,こ
の動画は需要者というよりは主に求職者を対象とするものであり,求職者に対して
社名をアピールすることは通常行われるものである。したがって,被告標章1は,
自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものというべきである。(争
点3)
したがって,争点2について判断するまでもなく,被告標章1に係る原告の差止
請求は理由がない。
ウ被告標章2について
(ア)被告標章2は,被告のフェイスブックの投稿記事において,投稿者名
として,「L」字様の図形とともに表示されているものである。
しかし,本件において,被告標章2が他の図形や文字と組み合わされずに単独で
使用されている実例は見当たらないから,被告が被告標章2を単体で使用するおそ
れがあるとはいえない。また,仮に上記の使用態様において被告標章2を単体で把
握するとしても,被告標章2は,被告の商号をゴシック体で表記し,かつ,記事の
投稿者であることを示すために他の投稿者と同じく青色で着色したにすぎないから,
自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものというべきである。(争
点3)
したがって,争点2について判断するまでもなく,被告標章2に係る原告の差止
請求は理由がない。
エ被告標章3について
(ア)被告標章3は,被告のホームページ中の「SOLUTION」の広告ページに
おいて使用されており,「デジタル戦略の総合支援パートナー」との標語の真下に表
示されているものである。
このように,当該ページにおいて「SOLUTION」について広告宣伝されていること
に加え,被告標章3の表示態様に鑑みると,被告は,「SOLUTION」について被告標章
3を使用していると認められる(争点2)。
(イ)また,被告標章3は,「株式会社ロックオン」の文字に被告の登録商標で
ある「L」字様の図形を組み合わされて表示されており,当該ページに接した需要
者の注意を特に惹くような態様で表示されているから,自己の名称を「普通に用い
られる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)
オ被告標章4について
(ア)被告標章4は,まず,被告の事務所の正面玄関口の看板として表示さ
れているところ,通常,企業の事務所においては当該企業の商品又は役務に関する
需要者向けの業務が,あるいは,そのための広告宣伝がなされるのであり,現に「AD
EBiS」と「EC-CUBE」の広告物が陳列されている。そうすると,被告の事務所の正面
玄関口における被告標章4の使用は,少なくとも「ADEBiS」と「EC-CUBE」につい
ての使用であると認められる。
また,被告標章4は,セッションの壁面においても表示されているところ,そこ
には同時に,「ADEBiS」及び「THREe」の広告の表示があるから,被告は,セッショ
ンにおいて,「ADEBiS」及び「THREe」について被告標章4を表示して使用している
と認められる。(争点2)
また,これらからすると,被告4サービス中の他のものについても被告標章4を
使用するおそれがあるというべきである。
(イ)そして,被告の商号の英訳は「LOCKONCO.,LTD.」であり(甲32の1
頁,乙2の1頁,乙8),「LOCKON」との被告標章4はその略称であるから,被告標
章4が「自己の名称」を表示するものとはいえない。なお,この略称が著名である
ことを認めるに足りる証拠はないから,被告標章4が「著名な略称」を普通に用い
られる方法で表示する場合に当たるものともいえない。(争点3)
カ被告標章5について
(ア)被告標章5は,被告のホームページのトップ画面とブログのページで
掲載された社員旅行の写真に表示されているものであり,この写真自体には被告4
サービスに関連する表示はされていない。しかし,上記トップ画面では,他の項目
において,「アドエビス」及び「EC-CUBE」について広告宣伝がされており,「ブログ」
のページには「EC-CUBE」に関する記事が掲載されているから,先に被告標章6につ
いて述べたのと同様に,被告は,被告4サービスについて被告標章5を使用してい
ると認めるのが相当である。(争点2)
(イ)そして,被告標章5は,被告の商号をそのまま英訳したものではある
が,トップ画面やブログに掲載された写真の上部の4分の1ないし3分の1のスペ
ースにおいて,2行のうちの1行を占める大きさにより,需要者の目に留まりやす
い位置,大きさによって表示され,丸みを帯びたデザイン文字から成り,特に「K」
の文字には,右下部分が通常よりも長く伸びているという特徴があって,被告のホ
ームページのトップ画面やブログに接した需要者の注意を特に惹くような態様で表
示されている。したがって,被告標章5の使用は,殊更にその部分に需要者の注意
を惹きつけることにより,役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様での使用
というべきであって,自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当
たるものとはいえない。(争点3)
キ小括
したがって,被告標章3ないし6は被告が被告4サービスについて使用している
と認められ,かつ,その使用について商標法26条1項1号により本件商標権の効
力が及ばないものということはできない。
第5結論
以上によれば,被告による被告標章3ないし6の使用に関し,被告4サービスに
ついての使用の限りで,本件商標権の侵害及び使用のおそれが認められるから,原
告の差止請求はその限度で理由があり,また,被告各標章のホームページ等からの
抹消請求は,被告標章3ないし6についての限度で理由がある。なお,原告は,被
告4サービスとの関連の有無に関係なく,被告が商品又はサービスを提供するに当
たっての被告各標章の使用の差止めを請求するが,被告が現に提供しているのが被
告4サービスである以上,その提供の限度を超えて原告の請求を認めることは相当
でない。また,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官田原美奈子及び同林啓治郎は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官
髙松宏之
(別紙)
商標権目録
1登録番号第4839624号
出願日平成16年3月29日
登録日平成17年2月18日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第9類耳栓,加工ガラス(建築用のものを除く。),アーク
溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,オゾン発生器,
電解槽,検卵器,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別
用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製
図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイム
レコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,
ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,
自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用
硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火
ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,火災報知
機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,保安用ヘルメット,
鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光
式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,業務用テ
レビゲーム機,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能
訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレータ
ー,理化学機械器具,配電用又は制御用の機械器具,
回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及
びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電
気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及び
その部品,磁心,抵抗線,電極,消防艇,ロケット,
防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服,
レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログ
ラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,計算尺,
映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム
用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテー
プ,電子出版物
第38類電気通信(放送を除く。),放送,電気通信(放送を
除く。)・データ通信及び放送に関する情報の提供,報
道をする者に対するニュースの供給,電話機・ファク
シミリその他の通信機器の貸与,携帯電話その他の移
動体電話の加入契約の取次ぎ又は媒介
第42類気象情報の提供,建築物の設計,測量,地質の調査,
機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又
はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザ
インの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又
は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機・
自動車その他その用途に応じて的確な操作をするた
めには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とす
る機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,医
薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又
は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又
は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試
験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査
又は研究,機械器具に関する試験又は研究,工業所有
権の調査又は工業所有権に関する情報の提供,著作権
の利用に関する契約の代理又は媒介,社会保険に関す
る手続きの代理,計測器の貸与,電子計算機の貸与,
電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸
与,製図用具の貸与
登録商標
2登録番号第5704605号
出願日平成26年3月10日
登録日平成26年9月26日
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第9類電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,
レコード,インターネットを利用して受信し,及び保
存することができる音楽ファイル,インターネットを
利用して受信し,及び保存することができる画像ファ
イル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電
子出版物
第16類ITに係る各種情報を掲載する雑誌,印刷用インテ
ル,活字,プラスチック製包装用袋,紙類,文房具類,
印刷物
第35類携帯電話その他の移動体電話の加入契約の取次ぎ又
は媒介
第37類コンピュータネットワーク用装置及び情報技術用装
置の設置工事・保守及び修理,建設工事,建築工事に
関する助言,事務用機械器具の修理又は保守,電子応
用機械器具の修理又は保守,電気通信機械器具の修理
又は保守
第38類電気通信(放送を除く。),放送,電気通信(放送を
除く。)・データ通信及び放送に関する情報の提供,報
道をする者に対するニュースの供給,電話機・ファク
シミリその他の通信機器の貸与
第42類電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,ウ
ェブサイトの作成又は保守,電子計算機の貸与,電子
計算機用プログラムの提供,情報技術(IT)に関す
る助言,情報技術に関するエンジニアリング,情報技
術の分野における品質管理及び品質検査,機械・装置
若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの
機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,
電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操
作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験
を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及
び説明,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止
に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,
土木に関する試験又は研究,機械器具に関する試験又
は研究
登録商標
(別紙)
標章目録
被告標章1及び同2は,当該色彩で表示された標章を特定するものであり,同3
ないし同6は,色彩を問わずに特定するものである。
1被告標章1
2被告標章2
3被告標章3
以下の態様で,「L」字様の図形と組み合わされて用いられた「株式会社ロッ
クオン」の標章
4被告標章4
5被告標章5
6被告標章6
以下の態様で,「L」字様の図形及び「ImpactOnTheWorld」という文字と
組み合わされて用いられた「株式会社ロックオン」の標章
(別紙)役務区分
1商標権目録記載1の商標権関係
(1)商標法施行令(平成15年政令第398号による改正前のもの)
9類科学用,航海用,測量用,写真用,音響用,映像用,計量用,信号用,検査
用,救命用,教育用,計算用又は情報処理用の機械器具,光学式の機械器具及び電気の伝
導用,電気回路の開閉用,変圧用,蓄電用,電圧調整用又は電気制御用の機械器具
42類科学技術又は産業に関する調査研究及び設計,電子計算機又はソフトウェ
アの設計及び開発並びに法律事務
35類広告,事業の管理又は運営及び事務処理
(2)商標法施行規則(平成18年経済産業省令第95号による改正前のもの)
9類十六電子応用機械器具及びその部品
(五)電子計算機用プログラム
42類二電子計算機のプログラムの設計,作成又は保守
ウェブサイトの作成又は保守
三電子計算機用プログラムの提供
35類一広告
(一)雑誌による広告の代理新聞による広告の代理テレビジョンによ
る広告の代理ラジオによる広告の代理
(二)車両の内外における広告の代理
(三)屋外広告物による広告
アドバルーンによる広告看板による広告はり紙による広告
(四)街頭及び店頭における広告物の配布商品の実演による広告郵便
による広告物の配布
(五)広告文の作成ショーウインドーの装飾
2別紙商標権目録記載2の商標権関係
(1)商標法施行令(平成27年政令第26号による改正前のもの)
9類科学用,航海用,測量用,写真用,音響用,映像用,計量用,信号用,検査
用,救命用,教育用,計算用又は情報処理用の機械器具,光学式の機械器具及び電気の伝
導用,電気回路の開閉用,変圧用,蓄電用,電圧調整用又は電気制御用の機械器具
42類科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフト
ウェアの設計及び開発
35類広告,事業の管理又は運営,事務処理及び小売又は卸売の業務において行
われる顧客に対する便益の提供
(2)商標法施行規則(平成26年経済産業省令第63号による改正前のもの)
9類十五電子応用機械器具及びその部品
(五)電子計算機用プログラム
42類二電子計算機のプログラムの設計,作成又は保守
ウェブサイトの作成又は保守
三電子計算機用プログラムの提供
35類一広告
(一)折り込みチラシによる広告雑誌による広告新聞による広告
テレビジョンによる広告ラジオによる広告インターネットによる広告
(二)交通広告
車両の内外における広告
(三)屋外広告物による広告
(四)街頭及び店頭における広告物の配布商品の実演による広告ダ
イレクトメールによる広告
(五)広告文の作成ショーウインドーの装飾
(六)広告宣伝物の企画及び制作広告の企画広告のための商品展示
会,商品見本市の企画又は運営
以上

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛