弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年(あ)第703号傷害,傷害致死被告事件
平成28年3月24日第三小法廷決定
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人Aの弁護人坂根真也,被告人Bの弁護人田中伸明の各上告趣意は,単なる
法令違反,事実誤認の主張であり,被告人Cの弁護人山田基幸の上告趣意は,事実
誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
被告人Aの弁護人坂根真也,被告人Bの弁護人田中伸明の各所論に鑑み,職権で
判断する。
1原判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1)被告人A及び同Bは,犯行現場となった本件ビルの4階にあるバーの従業
員であり,本件当時も,同店内で接客等の仕事をしていた。被告人Cは,かねて同
店に客として来店していたことがあり,本件当日(以下,日時は,特に断らない限
り,本件当日である。),被告人Bの誘いを受け,同店で客として飲食していた。
被害者は,午前4時30分頃,女性2名とともに同店を訪れ,客として飲食して
いたが,代金支払の際,クレジットカードでの決済が思うようにできず,午前6時
50分頃までに,一部の支払手続をしたが残額の決済ができなかった。被害者は,
いらだった様子になり,残額の支払について話がつかないまま,同店の外に出た。
(2)被告人A及び同Bは,被害者の後を追って店外に出て,本件ビルの4階エ
レベーターホールで被害者に追い付き,午前6時50分頃から午前7時10分頃ま
での間,相互に意思を通じた上で,こもごも,次のような暴行(以下「第1暴行」
という。)を加えた。すなわち,被告人Aが,4階エレベーターホールで被害者の
背部を蹴って,3階へ至る途中にある階段踊り場付近に転落させ,さらに,被害者
をエレベーターに乗せた際,その顔面をエレベーターの壁に打ち付け,4階エレベ
ーターホールに引きずり出すなどし,被告人Bが,同ホールにあったスタンド式灰
皿に,被害者の頭部を打ち付けるなどした。その上,被告人Aは,床に仰向けに倒
れている被害者の顔面を拳や灰皿の蓋で殴り,顔面あるいは頭部をつかんで床に打
ち付けるなどし,被告人Bも,被害者を蹴り,馬乗りになって殴るなどした。
(3)被告人Cは,午前7時4分頃,4階エレベーターホールに現れ,同店の従
業員のDが被告人A及び同Bを制止しようとしている様子を見ていたが,Dと被告
人Aが被害者のそばを離れた直後,床に倒れている被害者の背部付近を1回踏み付
け,被告人Bに制止されて一旦同店内に戻った。その後,被告人Cは,再度4階エ
レベーターホールに現れ,被告人A及び同Bが被害者を蹴る様子を眺め,午前7時
15分頃,倒れている状態の被害者の背中を1回蹴る暴行を加えた。
(4)被告人Aは,被害者から運転免許証を取り上げて,同店内に被害者を連れ
戻し,飲食代金を支払う旨の示談書に氏名を自書させ,運転免許証のコピーを取る
などした。その後,被告人A及び同Bは,同店内で仕事を続け,被告人Cも同店内
でそのまま飲食等を続けた。
(5)被害者は,しばらく同店内の出入口付近の床に座り込んでいたが,午前7
時49分頃,突然,走って店外へ出て行った。Dは,直ちに被害者を追いかけ,本
件ビルの4階から3階に至る階段の途中で,被害者に追い付き,取り押さえた。
一方,被告人Cは,午前7時50分頃,電話をするために本件ビルの4階エレベ
ーターホールに行った際,Dが被害者の逃走を阻止しようとしているのを知り,D
が被害者を取り押さえている現場に行った。被告人Cは,その後の午前7時54分
頃までにかけて,次のような暴行(以下「第2暴行」という。)を加えた。すなわ
ち,被告人Cは,階段の両側にある手すりを持って,自身の身体を持ち上げ,寝て
いる体勢の被害者の顔面,頭部,胸部付近を踏み付けた上,被害者の両脚を持ち,
3階まで被害者を引きずり下ろし,サッカーボールを蹴るように被害者の頭部や腹
部等を数回蹴り,いびきをかき始めた被害者の顔面を蹴り上げるなどした。
(6)午前7時54分頃,通報を受けた警察官が臨場した時には,被害者は,大
きないびきをかき,まぶたや瞳孔に動きがなく,呼びかけても返答がない状態で倒
れていた。被害者は,午前8時44分頃,病院に救急搬送され,開頭手術を施行さ
れたが,翌日午前3時54分頃,急性硬膜下血腫に基づく急性脳腫脹のため死亡し
た。
第1暴行と第2暴行は,そのいずれもが被害者の急性硬膜下血腫の傷害を発生さ
せることが可能なものであるが,被害者の急性硬膜下血腫の傷害が第1暴行と第2
暴行のいずれによって生じたのかは不明である。
2(1)第1審判決は,仮に第1暴行で既に被害者の急性硬膜下血腫の傷害が発
生していたとしても,第2暴行は,同傷害を更に悪化させたと推認できるから,い
ずれにしても,被害者の死亡との間に因果関係が認められることとなり,「死亡さ
せた結果について,責任を負うべき者がいなくなる不都合を回避するための特例で
ある同時傷害致死罪の規定(刑法207条)を適用する前提が欠けることになる」
と説示して,本件で,同条を適用することはできないとした。
(2)しかし,同時傷害の特例を定めた刑法207条は,二人以上が暴行を加え
た事案においては,生じた傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が
多いことなどに鑑み,共犯関係が立証されない場合であっても,例外的に共犯の例
によることとしている。同条の適用の前提として,検察官は,各暴行が当該傷害を
生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等
しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち,同一の機会に行わ
れたものであることの証明を要するというべきであり,その証明がされた場合,各
行為者は,自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限
り,傷害についての責任を免れないというべきである。
そして,共犯関係にない二人以上による暴行によって傷害が生じ更に同傷害から
死亡の結果が発生したという傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提と
なる前記の事実関係が証明された場合には,各行為者は,同条により,自己の関与
した暴行が死因となった傷害を生じさせていないことを立証しない限り,当該傷害
について責任を負い,更に同傷害を原因として発生した死亡の結果についても責任
を負うというべきである(最高裁昭和26年(れ)第797号同年9月20日第一
小法廷判決・刑集5巻10号1937頁参照)。このような事実関係が証明された
場合においては,本件のようにいずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定され
るときであっても,別異に解すべき理由はなく,同条の適用は妨げられないという
べきである。
以上と同旨の判断を示した上,第1暴行と第2暴行の機会の同一性に関して,そ
の意義等についての適切な理解の下で更なる審理評議を尽くすことを求めて第1審
判決を破棄し,事件を第1審に差し戻した原判決は相当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官木内道祥裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦裁判官
大橋正春裁判官山崎敏充)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛