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平成29年5月17日判決言渡
平成28年(ネ)第10076号商標権侵害差止等請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成27年(ワ)第20338号)
口頭弁論終結日平成29年2月13日
判決
控訴人(1審原告)X
控訴人(1審原告)有限会社マス大山エンタープライズ
両名訴訟代理人弁護士笠原静夫
被控訴人(1審被告)株式会社国際空手道連盟極真会館
訴訟代理人弁護士鳥飼重和
渡辺拓
神田芳明
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従い,原判決で付され
た略称に「原告」とあるのを「控訴人」に,「被告」とあるのを「被控訴人」と,適宜読み替え
る。
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙被控訴人ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトに別紙被
控訴人標章目録記載の各標章を付してはならない。
3被控訴人は,空手の教授を受ける者の利用に供する道着に別紙被控訴人標章
目録記載の各標章を付してはならない。
4被控訴人は,別紙被控訴人標章目録記載の各標章が付された空手道着,帯,
帯留,Tシャツ,トレーナー,ベンチコート,トレーニングウェア等の販売をして
はならない。
5被控訴人は,控訴人Xに対し,2160万円及びこれに対する平成27年7
月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被控訴人は,控訴人有限会社マス大山エンタープライズに対し,405万円
及びこれに対する平成27年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
7訴訟費用は,第1審,第2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1訴外A(以下Aという。)は,フルコンタクトルールを特徴とする極真空手を
創設した上,昭和39年6月,国際空手道連盟極真会館(以下「極真会館」という。)
を設立し,その館長ないし総裁と称された。そして,被控訴人の代表取締役を務め
る訴外B(以下Bという。)は,昭和51年,極真会館に入門し,平成4年5月,極
真会館浅草道場を開設してその支部長に就任し,極真会館を示す別紙被控訴人標章
目録記載の各標章(以下「被控訴人各標章」という。)を使用していた。その後,A
が平成6年4月26日に死亡したことから,その後継者と称されていたBは,平成
6年5月,極真会館の館長に就任し,同年10月3日,被控訴人を設立したものの,
極真会館は,その後極真空手を教授する多数の団体に分裂するに至った。
2他方,控訴人X(以下「控訴人X」という。)は,Aの子であり,相続により
同人の権利義務を単独で承継したものの,A死亡当時,極真会館の事業活動には関
与していなかった。しかしながら,控訴人Xは,平成11年2月17日に成立した
裁判上の和解に基づき,同年3月31日,Bらから極真会館総本部の建物の引渡し
を受け,その後当該建物を利用して極真会館の事業を行うようになった。そして,
控訴人Xは,同人が代表取締役を務める控訴人有限会社マス大山エンタープライズ
(以下「控訴人会社」という。)と共に,本件各商標権を取得した。
3本件は,控訴人らが,被控訴人において被控訴人各標章を使用する行為が本
件各商標権を侵害すると主張して,控訴人Xが,被控訴人に対し,商標法36条1
項に基づき,別紙被控訴人標章目録1-1ないし3-3記載の各標章の使用等の差
止めを求めるとともに,不法行為に基づき,2160万円及びこれに対する平成2
7年7月31日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求め,また,控訴人会社が,被控訴人に対し,商標法36
条1項に基づき,別紙被控訴人標章目録4ないし6記載の各標章の使用等の差止め
を求めるとともに,不法行為に基づき,405万円及びこれに対する同日(訴状送
達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求めた事案である。
原審は,控訴人らが,被控訴人に対し,本件各商標権に基づき極真関連商標であ
る本件各商標やこれと類似する商標の使用を禁止することは権利の濫用に当たると
して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。控訴人らはこれを不服としていずれも
控訴した。
4なお,控訴人らは,一般社団法人国際空手道連盟極真会館世界総極真に対し
ても,本件各商標権に基づき,差止請求を求めて反訴を提起していたところ,東京
地方裁判所は,原審が上記に説示するところと同様に,平成28年11月24日,
本件各商標権に基づき極真関連商標である本件各商標の使用を禁止することは権利
の濫用に当たるとして,上記差止請求をいずれも棄却した(平成28年(ワ)第1
6340号商標権侵害差止等反訴請求事件)。控訴人らは,これを不服として控訴し,
現在上記事件も当審に係属している(平成29年(ネ)第10012号)。
5前提事実
原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1前提事実」記載のと
おりである。
6争点及びこれに対する当事者の主張
争点は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「2争点」記載
のとおりであり,争点についての当事者の主張は,下記(1)及び(2)において当審に
おける当事者の主張を付加するほかは,「3争点に関する当事者の主張」記載のと
おりである。
(1)控訴人らの補充主張
ア極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
原判決は,Aが極真関連標章に係る商標登録出願をしなかったことから,極真関
連標章の主体たる地位が相続の対象となる財産権であるとはいえないことなどを一
つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利の濫用に当
たるとしている。しかしながら,極真関連標章はA個人の活動を示すものとして周
知・著名となったのであり,極真関連標章に関する法的利益はA個人に帰属するも
のであるから,極真会館の総裁に帰属する法的利益ではない。したがって,原審の
判断には,その前提において誤りがある。
イ極真会館の社団性の有無
原判決は,極真会館の組織及び運営に照らせば,少なくとも極真会館は社団性を
有することなどを一つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利行
使が権利の濫用に当たるとしている。しかしながら,極真会館には,社員又は構成
員の資格の得喪に関する規定,内部的又は外部的執行機関の選任に関する規定,代
表の選任に関する規定等が存在しないのであるから,極真会館が社団性を有するこ
とはない。したがって,原審の判断には,その前提において誤りがある。
ウ被控訴人各標章の周知性等に対するBらの寄与の有無
原判決は,被控訴人各標章の周知性及び著名性の形成等に対し,Aの生前にあっ
てはA及び同人から認可を受けたBその他の支部長の寄与があり,Aの死後にあっ
ては国内外において大規模に極真空手の大会を開催するなど,極真空手の普及に努
めたB及び同人が代表取締役を務める被控訴人の寄与があったことなどを一つの事
情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利の濫用に当たると
している。しかしながら,Aの生前において,被控訴人各標章の周知性及び著名性
の形成等にBの寄与はなく,Aの死後においても,Bは生前に周知性,著名性を獲
得した極真関連標章につき後継者と僭称して利用したにすぎず,B及び被控訴人の
大きな寄与があっとはいえない。したがって,原審の判断には,その前提において
誤りがある。
エ被控訴人による極真空手に関する活動の性質
原判決は,控訴人らは極真会館を称して極真空手の教授等を行う複数の団体の一
つにすぎず,被控訴人もそのような一団体であることなどを一つの事情として,控
訴人らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利の濫用に当たるとしている。し
かしながら,極真会館の分裂状態を作り出し,これを奇貨として極真会館の代表を
僭称するB及び被控訴人は,実質的に極真会館を離脱したというべきであり,控訴
人らはその離脱団体に権利行使しているにすぎない。したがって,原審の判断には,
その前提において誤りがある。
オ控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
原判決は,控訴人らはB及び被控訴人が国内外で被控訴人各標章を使用して大規
模に極真空手の教授等を行っていたことを認識していたにもかかわらず,控訴人ら
が合理的な理由もなく早期に本件各商標権に係る商標登録出願を行っていないこと
などを一つの事情として,控訴人らによる本件各商標権に基づく権利行使が権利の
濫用に当たるとしている。しかしながら,控訴人らが上記商標登録出願を行わなか
ったのは,Bが極真関連標章を個人として商標登録していたことから,その無効が
確定するまで混乱を避けるため商標登録出願を留保したにすぎず,上記事情には合
理的な理由が存在する。したがって,原審の判断には,その前提において誤りがあ
る。
(2)被控訴人の反論
ア極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
控訴人らは,極真関連標章はA個人の活動を示すものとして周知・著名となった
のであり,極真関連標章に関する法的利益は,A個人に帰属するものであるから,
極真会館の総裁に帰属する法的利益ではないなどと主張する。しかしながら,極真
関連標章が極真会館又はその活動を示すものであることからすると,極真関連標章
に関する法的利益は,極真会館の活動の主体である極真会館の総裁に帰属するとい
うべきである。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は理由がな
い。
イ極真会館の社団性の有無
控訴人らは,極真会館には,社員又は構成員の資格の得喪に関する規定,内部的
又は外部的執行機関の選任に関する規定,代表の選任に関する規定等が存在しない
のであるから,極真会館が社団性を有することはないなどと主張する。しかしなが
ら,極真会館は,少なくともAの個人事業ではなかったのであるから,社団性を有
するというべきである。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は
理由がない。
ウ被控訴人各標章の周知性等に対するBらの寄与の有無
控訴人らは,Aの生前において,被控訴人各標章の周知性及び著名性の形成等に
Bの寄与はなく,Aの死後においても,Bは生前に周知性,著名性を獲得した極真
関連標章につき後継者と僭称して利用したにすぎず,B及び被控訴人の大きな寄与
があったとはいえないなどと主張する。しかしながら,Aの生前において極真会館
の活動に関与しなかった控訴人Xの寄与は認められないのに対し,Bその他の支部
長らの極真会館の国内外にわたる活動実績からすれば,同人らの多大な寄与が認め
られ,Aの死後においてもB及び被控訴人はAの生前を上回る規模で極真空手に関
する活動を行っていることからすれば,B及び被控訴人の寄与は大きいといえる。
したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は理由がない。
エ被控訴人による極真空手に関する活動の性質
控訴人らは,極真会館の分裂状態を作り出し,これを奇貨として極真会館の代表
を僭称するB及び被控訴人は,実質的に極真会館を離脱したというべきであり,控
訴人らはその離脱団体に権利行使しているにすぎないなどと主張する。しかしなが
ら,被控訴人がAの死後20年以上経過しても極真会館を名乗る団体の中で最大の
規模で活動しているのに対し,控訴人らはごく小規模で活動するにすぎず,多数派
を形成することすらできないのであるから,B及び被控訴人が極真会館を離脱した
ものではないことは明らかである。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人
らの主張は理由がない。
オ控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
控訴人らは,極真関連標章の商標登録出願を行わなかったのは,Bが極真関連標
章を個人として商標登録していたことから,その無効が確定するまで混乱を避ける
ため商標登録出願を留保したにすぎず,合理的な理由が存在するなどと主張する。
しかしながら,そもそも控訴人Xが上記商標登録の無効審判を請求したのはAの死
後から10年後の平成16年になってからであり,既にその時点で合理的な理由は
存在しない。したがって,原審の判断に誤りはなく,控訴人らの主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,
下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人らの主張に対
する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」に
記載のとおりである。
1原判決の補正
(1)原判決14頁12行目の末尾に「極真会館は,世襲制を採用するものでは
なく,Aは,生前「私はこの空手の組織を自分の子どもに譲ることも考えていない。
武道の修行をし,この道を極めるものでなくては,この道の指導はできぬ。もし,
自分の血縁にこれを譲るようなことをすれば,それは自分の歩んできた道を汚すこ
とになる。」と述べていた(乙13)。」を加える。
(2)同頁13行目の「本件遺言書」を「本件遺言」に改める。
(3)同15頁9行目の末尾に「被控訴人は,極真会館を名乗る団体の中で最大
の規模で活動している。」を加える。
(4)同16頁11行目の「平成15年9月30日,」の次に「極真関連標章はA
の死亡後も極真会館を表すものとして需要者の間に広く知られており,極真会館内
部の構成員に対する関係では,Bが極真関連標章の商標登録を取得して商標権者と
して行動できる正当な根拠はないなどと認定した上で,」を加える。
(5)同頁13行目の「同旨の理由により」を「極真関連標章に関し自己名義で
商標登録を受けたとしても,極真会館の外部の者に対する関係ではともかく,極真
関連標章の周知性・著名性の形成に共に寄与してきた団体内部の者に対する関係で
は,少なくとも極真関連標章の使用に関する従来の規制の範囲を超えて権限を行使
することは不当であるというべきであり,Bによる上記商標登録に係る商標権の行
使は権利の濫用に当たり許されないなどとして,」に改める。
(6)同頁26行目から17頁26行目までを次のとおり改める。
「(2)ア前記事実関係によれば,被控訴人の代表取締役を務めるBは,昭和51
年,極真会館に入門し,平成4年5月,極真会館浅草道場を開設してその支部長に
就任し,極真会館の許可を得て極真会館を示す被控訴人各標章を継続的に使用して
いたのであり,Aが平成6年4月26日に死亡した後も,平成6年5月,その後継
者であると自称して極真会館の館長に就任し,同年10月3日,被控訴人を設立し,
被控訴人各標章の使用を継続したことが認められる。その後,極真会館は極真空手
を教授する複数の団体に分裂するに至ったものの,極真会館を示す被控訴人各標章
は,本件各商標の商標登録出願当時はもとより,Aの死亡後にあっては,極真会館
又はその活動を表すものとして広く一般に知られていたことが認められる。
他方,控訴人Xは,Aの子であり,相続により同人の権利義務を単独で承継した
ものの,A死亡当時,極真会館の事業活動に全く関与せず,Aが後継者を公式に指
定せず又は極真会館において世襲制が採用されていなかったことからすると,極真
会館の事業を承継した者ではないことが認められる。
そうすると,控訴人Xは,平成11年2月17日に成立した裁判上の和解に基づ
き,同年3月31日,Bらから極真会館総本部の建物の引渡しを受け,その後当該
建物を利用して極真空手に関する事業を行うようになったものの,控訴人らの活動
は,A死亡後に分裂して発生した極真会館の複数団体のうちの一つにとどまるもの
と認められる。
これらの事情の下においては,本件各商標は,Bも相当な寄与をして形成された
極真会館という団体の著名性を無償で利用しているものに外ならないというべきで
あり,客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなってい
ることに照らすと,控訴人らが,極真会館の許諾を得て被控訴人各標章を使用して
極真会館としての活動を継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,客
観的に公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用であると認めるのが相当であ
る(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集
44巻5号876頁参照)。
現に,Bは,平成6年ないし平成7年までの間,複数の極真関連標章について商
標登録出願をし,自己名義の商標登録を受けたものの,Aの生前に極真会館に属し
ていた者らが,平成14年,Bを被告として,空手の教授等に際して極真関連標章
を使用することにつき,Bの商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認等
を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起し(同庁同年(ワ)第1018号),同裁判所は,
平成15年9月30日,極真関連標章はAの死亡後も極真会館を表すものとして需
要者の間に広く知られており,極真会館内部の構成員に対する関係では,Bが極真
関連標章の商標登録を取得して商標権者として行動できる正当な根拠はないなどと
して,Bの上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不存在確認請求を認容し,
その控訴審である大阪高等裁判所(同庁同年(ネ)第3283号)も,平成16年9
月29日,極真関連標章に関し自己名義で商標登録を受けたとしても,極真会館の
外部の者に対する関係ではともかく,極真関連標章の周知性・著名性の形成に共に
寄与してきた団体内部の者に対する関係では,少なくとも極真関連標章の使用に関
する従来の規制の範囲を超えて権限を行使することは不当であるというべきであり,
Bによる上記商標登録に係る商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないなどと
して,Bの控訴を棄却している。上記の理は,本件についても当てはまるものとい
える。」
2当審における控訴人らの補充主張に対する判断
(1)極真関連標章の主体たる地位の相続の可否等
控訴人らは,極真関連標章はA個人の活動を示すものとして周知・著名となった
のであり,極真関連標章に関する法的利益はA個人に帰属するものであるから,極
真会館の総裁に帰属する法的利益ではないなどと主張する。
しかしながら,現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に
関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一
定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護
を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活
動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的
財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範
囲,限界を明確にしている(最高裁平成13年(受)第866号,第867号同1
6年2月13日第二小法廷判決・民集58巻2号311頁)。
上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,Aの生前において極真関連標章が顧客
吸引力等を有していたとしても,法令等の根拠なく当該標章の利用権その他の法的
利益を認めることは相当ではない。そうすると,上記法的利益がAに帰属していた
ことを前提として,当該法的利益がその相続人である控訴人Xに帰属するという控
訴人らの主張は,その前提を欠くものである。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(2)極真会館の社団性の有無
控訴人らは,極真会館には,社員又は構成員の資格の得喪に関する規定,内部的
又は外部的執行機関の選任に関する規定,代表の選任に関する規定等が存在しない
のであるから,極真会館が社団性を有することはないなどと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,控訴人らが主張する極真関連標章の利用権そ
の他の法的利益は,そもそも認められないのであるから,当該法的利益の帰属先に
係る控訴人らの主張は,同じくその前提を欠き,本件の結論を左右するに至らない。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(3)被控訴人各標章の周知性等に対するBらの寄与の有無
控訴人らは,Aの生前において,被控訴人各標章の周知性及び著名性の形成等に
Bの寄与はなく,Aの死後においても,Bは生前に周知性,著名性を獲得した極真
関連標章につき後継者と僭称して利用したにすぎず,B及び被控訴人の大きな寄与
があったとはいえないなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人らは,Aの死亡
当時極真会館の事業活動に全く関与していなかったのに対し,Bは,昭和51年,
極真会館に入門し,平成4年5月,極真会館浅草道場を開設してその支部長に就任
し,極真会館の許可を得て極真会館を示す被控訴人各標章を継続的に使用していた
のであり,Aが平成6年4月26日に死亡した後も,平成6年5月,その後継者で
あると自称して極真会館の館長に就任し,同年10月3日,被控訴人を設立し,被
控訴人各標章の使用を継続し,被控訴人は,極真会館を名乗る団体の中で最大の規
模で活動していることが認められる。
これらの事情の下においては,被控訴人各標章の周知性及び著名性については,
Aの寄与なくては形成されなかったものの,B及び被控訴人についてもその形成に
大きな寄与があったと認めるのが相当である。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(4)被控訴人による極真空手に関する活動の性質
控訴人らは,極真会館の分裂状態を作り出し,これを奇貨として極真会館の代表
を僭称するB及び被控訴人は,実質的に極真会館を離脱したというべきであり,控
訴人らはその離脱団体に権利行使しているにすぎないなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,被控訴人は,平成22
年時点において,日本国内においては,101か所の支部(直轄道場を含む。),9
00の道場,実働会員数5万人,累計会員数60万人の規模で,海外においては,
170か所の支部,6500の道場,実働会員数80万人,累計会員数1250万
人の規模で,極真空手の教授等を行うなど,極真会館を名乗る団体の中で最大の規
模で活動していることが認められる。そうすると,Bが極真会館の分裂状態を作り
出したとしても,被控訴人は,極真会館を称する団体の中で最大の規模で活動して
いるのであるから,実質的に極真会館を離脱したということはできない。
かえって,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人らは,Aの死後初め
て極真会館の活動を行い,平成28年3月6日時点において,日本国内において,
総本部のほか,7か所の国内道場(友好道場を除く。)を運営し,極真空手の教授等
を行うにとどまるのであるから,実質的にみても極真関連標章に対する周知性及び
著名性の寄与は,B及び被控訴人と比較して低いものといわざるを得ず,Bが極真
会館の分裂状態を作り出したという控訴人らの主張を十分に考慮しても,前記判断
を左右するに至らない。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(5)控訴人らが本件各商標に係る商標登録出願をしなかった事情
控訴人らは,極真関連標章の商標登録出願を行わなかったのは,Bが極真関連標
章を個人として商標登録をしていたため,その無効が確定するまで混乱を避けるた
め商標登録出願を留保したにすぎず,合理的な理由が存在するなどと主張する。
しかしながら,前記引用に係る原審の認定事実によれば,控訴人XにおいてBが
商標登録を受けた極真関連商標の一部について無効審判を請求したのは,平成16
年であって,その時点においてもAの死亡から既に約10年が経過しているのであ
るから,控訴人らが主張する上記の事情は,控訴人らが早期に本件各商標権に係る
商標登録出願を行わなかった合理的な理由とまでいうことはできず,控訴人らの主
張は,その前提を欠くものである。
したがって,控訴人らの主張は,採用することができない。
(6)その他
控訴人らのその他の主張を十分に検討しても,控訴人らの主張は,極真関連標章
の利用権その他の法的利益が相続により控訴人Xに帰属するというものに帰し,当
該主張が採用できないことは,上記(1)で説示したとおりである。かえって,前記引
用に係る原審の認定事実によれば,Aは,その生前において,極真会館を極真空手
の道を極める者に譲ることを希望していたと認められるのであるから,極真会館を
相続した趣旨をいう控訴人らの主張は,実質的にみても,Aの相続に関する意思に
照らし,採用し得るものではない。
第4結論
以上によれば,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件
控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中島基至
裁判官
岡田慎吾
被控訴人ホームページサイト
被控訴人オフィシャルショップサイト
 
(別紙)
被控訴人標章目録

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