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平成13年合(わ)第7号,同第54号
判    決
 被告人に対する住居侵入,強盗殺人,強盗強姦未遂,窃盗,傷害,強姦未遂被告
事件について,当裁判所は,検察官勝山浩嗣及び弁護人山田史彦各出席の上審理
し,次のとおり判決する。
主    文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理    由
(被告人及び被害者A子の身上経歴等)
1 被告人の身上経歴
 被告人は,昭和46年6月29日,青森県三沢市で出生し,東京都内の中学校
を卒業した後,大工見習い,解体工,ホストクラブのホスト,大工,舞台設営等の
仕事を転々としたが,平成12年5月ころからは,定職に就かずに過ごしていた。
2 A子の身上経歴等
 A子は,昭和48年12月16日,東京都板橋区で出生し,東京都内の高等学
校を卒業後,会社員として稼働していた。なお,A子は,平成10年3月ころか
ら,後記第2記載の建物に1人で居住していたところ,この建物は,実父のBが居
住する家屋と同じ敷地内にあるが,同家屋とは別棟をなしていた。
(犯行に至る経緯等(1))
 被告人は,平成5,6年ころから,いわゆるキャバクラに頻繁に通うようにな
り,そのための遊興費等を捻出するため,消費者金融から多額の借金をするように
なった。もっとも,それらの借金は,被告人の父の退職金を充てるなどしてほとん
どをいったん返済し,その際,被告人は,両親との間で,今後キャバクラへは行か
ないことを約束したが,そのうち,またキャバクラ通いを始め,消費者金融からの
借金も新たに重ねるようになった。
 前記のように,被告人は,平成12年5月ころ仕事を辞めた以後は定職に就かず
に過ごしていたが,家族には,仕事に行くと言って,作業衣姿で毎朝外出し,その
際,仕事場へ行くための交通費が必要だなどとうそを言って,母親から小遣いをも
らい,日中は公園などで時間をつぶし,夜になると,仕事帰りを装って帰宅し,ま
た母親から小遣いをもらって外出してキャバクラへ行くなどする生活をするように
なった。
 また,被告人は,かねてから女性に対する関心が強く,上記のようにキャバクラ
通いを続ける一方,平成10年ころから,街頭で見かけた女性が気に入ると,その
女性の後をつけ,自宅を突き止めた上で,交際を求める手紙を書いて差し出すなど
するようになった。さらに,つけて行った先の女性方で,自己の存在を女性に気付
いてもらおうとして,玄関の呼び鈴を鳴らしたり,部屋の前に置いてある洗濯機の
スイッチを押したり,部屋の窓に泥を投げ付けたりするなどの行動をすることもあ
った。
 そうするうちの平成12年10月19日ころの夜,被告人は,コンビニエンスス
トアから出てきたA子をたまたま見かけ,同女が好みのタイプであったことから,
同女の前記自宅まで後をつけていった上,無施錠の玄関から屋内に入り込んだが,
A子に,出て行くよう懇願され,このときはその場から立ち去ったものの,A子に
ついて,以後も強い関心を持ち続けることになった。一方,A子は,被告人の不意
の侵入に驚き,翌20日にBに相談したところ,Bは工務店に依頼し,同女方玄関
に鎌錠を取り付けるなどした。
 被告人は,同年11月8日夕方,いつものように,当時行きつけにしていた東京
都豊島区巣鴨所在のキャバクラ「Z」に行こうと考え,母親に仕事に行くとうそを
つき,交通費名目で金をもらい,仕事に行くふりをして,「Z」へ行って遊興し
た。そして,被告人は,いったん「Z」を出たものの,まだ遊び足りず,再度同店
に入店したいと考えたが,所持金を使い果たしてしまったため,通行人から財布等
の入ったバッグをひったくって,遊興費を手に入れようと考えた。
(罪となるべき事実(第1ないし第3))
第1 こうして,被告人は,平成12年11月8日午後9時20分ころ,東京都豊
島区巣鴨a丁目b番先路上において,同所を1人で通行中のC子(当時69歳)を
見かけるや,同女が右手に持っていた同女所有の現金約1万4000円及び財布1
個ほか11点在中の手提げ袋1個(時価合計約7000円相当)を引っ張ってひっ
たくり窃取し,その際,その暴行により,同女を路上に転倒させ,よって,同女に
加療約2箇月間を要する左橈骨遠位端骨折の傷害を負わせた。
第2 被告人は,第1の犯行後,再度「Z」に入店して遊興し,同店を出た。そし
て,被告人は,公園でしばらく時間を過ごし,その後,町中を徘徊していたが,そ
のうちA子(当時26歳)のことを思い出し,同女方は奥まった場所にあって周囲
に人気がなく,また同女は1人暮らしのようであることなども分かっていたことか
ら,侵入することができれば同女を強姦できると考え,同女方に侵入して同女を強
姦しようと決意した。そこで,被告人は,翌9日午前2時ころ,東京都板橋区c町
d番e号の前記A子方1階便所高窓引き戸を外して家屋内に侵入し,そのころ,同
家屋内2階和室において,同女に対し,仰向けに押し倒して馬乗りになり,その着
衣をはぎ取って全裸にするなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,強いて同女
を姦淫しようとした
が,同女に抵抗されて声を上げて泣き出されたため,その目的を遂げなかった。
第3 さらに,被告人は,同月10日,また前記「Z」で遊興した後,自宅に帰ろ
うとしていた途中,折から帰宅途中のD子(当時16歳)を見かけ,その後ろ姿を
見ているうちに劣情をもよおし,同女を強姦しようと企て,同日午後11時ころ,
同区板橋f丁目g番h号空き地に差し掛かった際,同女に対し,その頸部に右腕を
巻き付けて引っ張って空き地内に引きずり込んだ上,仰向けに押し倒して馬乗りに
なるなどの暴行を加え,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女に抵抗されて悲鳴
を出されたため,逃走し,その目的を遂げなかった。
(犯行に至る経緯等(2))
 被告人は,その後もA子のことが忘れられず,同女を強姦し,また,キャバクラ
等へ行く遊興費等を手に入れるため,同女から金品を奪い取ろうと考えて,平成1
2年11月30日ころの昼過ぎ,また同女方に入り込んだところ,同女は仕事に行
って不在であったが,その機会に同女名義の預金通帳とパスポート2通を盗み取っ
た。そして,その際,被告人は,預金通帳に残高が約14万円と記帳されているの
を見て,同女が銀行に約14万円の預金をしていることを知った。もっとも,被告
人は,その通帳を使って銀行から預金を下ろそうと考えたものの,その後すぐ,知
人から,印鑑がないと預金通帳のみでは預金を下ろせないと教えられたため,再度
A子方に入り,盗み取った預金通帳とパスポート2通を部屋の中へ投げ込んでおい
た。
 他方,A子は,何者かに侵入されたことに気付き,Bに相談して,同月30日,
警視庁板橋警察署に被害届を提出した。また,Bは,そのころ,工務店に依頼し
て,1階東側掃き出し窓に板を張り付け,1階便所の高窓に錠前を取り付けるとと
もに格子を付けるなどの工事を行った。
 同年12月15日夜,被告人は友人とともに「Z」で遊興し,更に巣鴨駅前の屋
台で飲食したため,所持金が約200円のみとなった。被告人は,更に別のキャバ
クラへ遊びに行き,遊興したいと考えたが,所持金がわずかであったため,遊興費
を得るため,通行人からその所持金をひったくろうと企て,通行中の女性の後をつ
け,同女の居住するマンションの玄関に入ったが,同女の家族が同マンション内か
ら出てくる気配がしたため,ひったくりを断念し,逃走した。
 その後,被告人は,友人と別れ,歩いて自宅へ向かったが,途中でまたA子のこ
とを思い出し,今度こそA子を強姦し,同女から金品を強取しようと決意して,A
子方へ向かった。
(罪となるべき事実(第4))
第4 こうして,被告人は,A子を強姦するとともに,同女から金品を強取しよう
と企て,平成12年12月16日午前1時30分ころ,前記第2のA子方1階玄関
のガラスを割り,そこから手を差し入れ,施錠を外して家屋内に侵入したが,その
際被告人は,今度はA子も以前と異なって被害を警察に通報するだろうし,自分は
同女に顔を見られている上,かつて警察に指紋を採られたこともあり,また今まで
同女方に入り込んだときにも指紋を遺留しているはずだから,同女に通報されれば
自分が犯人であると発覚してしまうのでないかなどと考えるうち,この際同女を殺
害し,その上で同女を姦淫して金品を強取しようと決意するに至った。そして,被
告人は,A子方2階和室に至り,折から就寝していたA子が目を覚ますと,室内に
あったタオルをつか
み取り,殺意をもって,仰向けに寝ている同女の胸部付近に馬乗りになり,その頸
部を上記タオルで絞め付け,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫に
より窒息死させて殺害した上,同女の下着を下げるなどして強いて同女を姦淫しよ
うとしたが,陰茎が勃起しなかったためその目的は遂げなかったものの,同女所有
又は管理に係る携帯電話1個(時価約5000円相当)並びに現金約1500円,
キャッシュカード及びクレジットカード各1枚在中の財布1個(時価約500円相
当)を強取した。
(証拠の標目)
 省略
(法令の適用)
 省略
(弁護人の主張に対する判断)
第1 判示第2の犯行における侵入経路について
 1 弁護人は,判示第2の犯行の際,被告人はA子方1階便所高窓の引き戸を外
して家屋内に侵入したのではなく,無施錠の玄関から侵入したと主張する。
 2 そこで,検討すると,被告人は,捜査段階において,判示第2の犯行の際,
A子方に侵入しようとしたが,玄関にはかぎがかかって引き戸が動かなかったの
で,トイレのある場所の辺りに移動し,トイレの高窓の引き戸を外し,その内側に
あった鉄パイプを押し上げて,そこから中に入った旨供述している。また,被告人
は,屋内に入った後,鉄パイプの位置を戻し,玄関のかぎを外していったん外に出
て,外してあったトイレの引き戸をもとに戻した,玄関のかぎは,その後逃げるこ
とを考えて開けたままにしておいたなどと,侵入直後の状況等についても供述をし
ている。
 この供述は,自然かつ具体的で,捜査段階において一貫しており,トイレ高
窓には平成12年12月1日ころまでかぎがついておらず,同月17日から同月1
9日にかけて実施された検証当時,高窓内側の金属製パイプが変形している状況が
認められているなどの客観的事実関係とも符合している。
 また,関係証拠によると,前記のとおり,A子が同年10月19日ころ,見
知らぬ男性である被告人に侵入された後,実父のBに相談し,Bが工務店に依頼し
て,玄関の扉に鎌錠を取り付けるなどし,A子もBも同女方の特に夜間の施錠に一
層気をつけている状況がうかがわれることなどに照らしても,玄関が施錠されてい
たのでやむなくトイレの高窓から侵入したという被告人の捜査段階供述の信用性は
高いといえる。
 もっとも,被告人は,公判では,判示第2の犯行の際は,トイレの高窓から
ではなく,玄関から中に入った,このとき玄関は簡単に開き,かぎはかかっていな
かったと思うという趣旨を供述している。また,被告人は,トイレの窓から入った
というのは,昼間にA子方に入って預金通帳等を盗んだときのことであるとも供述
している。しかし,被告人のこの公判供述は,上記捜査段階供述と対比しても,内
容にあいまいで不明確な点が多いし,捜査段階で上記のような供述をした理由につ
いても合理的な説明ができていない。特に,被告人は,公判で,捜査段階における
供述の経緯として,逮捕された当初は玄関から侵入したと捜査官にも述べていた
が,その後,トイレの窓から入ったと供述を変えることになったという趣旨を供述
しているが,どのよう
な経緯で供述を変えることになったというのか,具体的な説明ができていないし,
そもそも,被告人は,逮捕された当日である平成12年12月20日に既に,判示
第2の犯行の際のこととして,玄関のかぎがかかっていたからトイレの扉を外して
中に入った旨を述べ(被告人作成の同日付け書面。乙42),この供述は,捜査段
階において一貫していたことが認められるのであって,被告人の上記公判供述部分
は,その前提が首肯できないといわざるを得ない。
 また,その他検討しても,トイレの高窓から侵入したという被告人の上記捜
査段階供述の信用性について疑いをいれるような事情があるとは認められない。
 そうすると,判示のとおり,被告人は,判示第2の犯行の際,A子方1階便
所高窓の引き戸を外して屋内に侵入したと優に認定することができるから,弁護人
の前記1の主張は採用することができない。
第2 判示第2の強姦の未遂事由(中止未遂の成否)について
 1 判示第2の強姦未遂の点について,弁護人は,被告人はA子が泣き出したの
でかわいそうになり,自己の意思で強姦をやめたのであるから,中止未遂が成立す
ると主張する。
 2 しかしながら,被告人は,捜査段階で,判示第2の強姦行為に及んだ状況に
ついて供述するとともに,A子を全裸にして,陰茎を挿入しようとしたら,同女は
両腿に力を入れ足を閉じて必死の抵抗をし,そのうち外にも聞こえるほどの大声で
泣き始め,被告人の陰茎が縮んでしまった旨を供述し(乙34等),公判でも,A
子の泣き声が外に漏れるのではないかとけっこう気になった旨を述べ,また,性器
が縮んで性交できなくなったのかという質問に対し,これを肯定する趣旨の供述を
している。
   被告人のこの供述は,具体的で,関係の状況に照らしても,自然な内容のも
のということができる。そして,被告人のこの供述にも照らすと,要するに,被告
人は,A子の抵抗にあい,同女が大声を上げるなどするのを気にするうち,それま
で勃起していた性器が勃起しなくなり,姦淫を遂げることができなくなって,強姦
を遂行することができなかったものであり,結局,本件は自己の意思によって強姦
を中止したというのではなく,障害未遂の場合に当たることが明らかというべきで
ある。
   ただし,補足すると,被告人の公判供述中には,これと異なり,A子の声が
外に聞こえて自分の犯行が分かってしまうとは全く考えなかったとか,強姦を続け
ようと思えば続けられたが,A子がかわいそうになり,自分の意思でやめたなど
と,弁護人の前記主張に沿う趣旨を述べる部分もある。しかし,A子の声がかなり
大きなものであったことは被告人自身が公判でも認めているところであり(もっと
も,被告人の公判供述中にはこれと異なる趣旨を述べる部分もあるが,信用できな
い。),その声が外に漏れるとはおよそ心配しなかったというのは,A子方の周囲
の状況等に照らしても不自然といわざるを得ないなど,この供述部分は,不自然で
不合理と思われるところが多く,前摘示の捜査段階供述等と対比して,にわかに信
用することができない
。そうすると,被告人のこの公判供述部分は,その信用性を肯定することができ
ず,本件の強姦が未遂に終わった事情に関する上記認定を左右するような証拠価値
を持つものではないといわざるを得ない。なお,被告人の捜査段階供述の中にも,
特に当初の時期のものには,この点で趣旨が必ずしも明確でないところがあるなど
の事情も認められないではないが,これも特に上記認定を左右するような事情には
当たらない。また,その他関係証拠を精査しても,判示第2の強姦が未遂に終わっ
た事情に係る上記の認定に疑いをいれるような点があるとは認めることができな
い。
   以上の次第であるから,判示第2の強姦未遂の点が中止未遂に当たるという
弁護人の前記主張は採用することができない。
第3 判示第4の犯行における殺意及び強盗の意思の存否について
 1 弁護人は,判示第4の犯行について,被告人にはA子を殺害する意思はな
く,また同女から金品を強取する意思もなかった旨主張する。すなわち,被告人が
A子の頸部をタオルで絞めたのは,騒がれないように脅すためであって,殺害する
ためではなく,また被告人はあらかじめA子の金品を強取する意思で同女方に入っ
たのではなく,被告人が同女の金品を領得しようという意思を生じたのは姦淫行為
を断念した時点のことであるというのである。
 2 まず,関係証拠によると,以下の諸事情を認めることができる。
 (1) 前記認定のとおり,被告人は,平成12年10月19日ころA子を初め
て見かけて,同女の家までついて行き,屋内に勝手に入り込むという行動に出て以
来,同女に対して強い関心を持ち,同年11月19日未明には強姦目的で同女方に
侵入して強姦を遂げようとしたが,前記の経緯で未遂に終わったという判示第2の
犯行を犯した。さらに,被告人は,同月30日ころにも,また同女方に入り込み,
同女が不在であったため性的な欲望を遂げることはできなかったが,その預金通帳
等を盗み出し,その口座に約14万円の預金があるのを知って,その預金を引き出
そうと考えたものの,印鑑がなかったため断念したということもあった。
 (2) 同年12月15日夜,被告人は,「Z」で遊興した後,所持金が200
円くらいしかなくなり,たまたま見かけた女性を相手にひったくりをしようとした
が,それも成功せず,結局,そのまま歩いて自宅に帰ろうとした。しかし,被告人
は,その帰宅途中にまたA子のことを思い出して,同女方に赴き,玄関が施錠され
ていた上,便所の高窓にも格子が設けられて侵入できないようにされていたのを見
て,判示第4の日時ころ,折から所持していた携帯電話を玄関引き戸のガラスにた
たきつけてガラスを割った。そのとき大きな音がしたので,被告人は,いったんそ
の場を離れて様子をうかがったが,だれも気付いた様子がなかったので,また玄関
に戻り,ガラスの割れた部分から手を差し入れて玄関のかぎを開け,屋内に侵入し
て,2階の和室に行
った。
 (3) 被告人が2階の和室に行くと,A子は室内で寝入っていたが,そのうち
目を覚まし,被告人を認めて,驚いた様子で,「あれーっ,何やってんの。玄関の
かぎ開いてた。」と聞き,被告人がかぎは開いていたとうそを言うと,「私ってだ
めね。」と言ったが,同女はまだ寝ぼけた様子で,大きな声を出したり騒いだりす
る様子はなかった。
 (4) すると,被告人は,室内にタオルがあるのを認めてそれをつかみ取り,
A子の両腕を持ち上げるようにして同女の体を少し移動させた上,仰向けに寝てい
る同女の体の上に馬乗りになりながら,四つ折りにしたタオルを同女の首の下に通
して,同女の首を絞めようとした。それを知ったA子は,「それだけはやめ…」と
言ったが,被告人は,それにもかまわず,タオルの両端を両手で持ちながら,同女
の首の前で交差させるなどして約5分間にわたり力を込めて絞め続けた。A子は,
絞められている間,顔色がだんだん青くなり,口や鼻から出血し,口が半開きにな
って舌の先が出てくるなどの状態になって,結局動かなくなり,そのころ,頸部圧
迫により窒息死するに至った。
 (5) 被告人は,A子が動かなくなると,同女のスカートをまくり上げ,パン
ティを下ろすなどして,同女を姦淫しようとしたが,同女の顔の出血した状態など
を見るうち,陰茎が勃起しなくなって姦淫を遂げることはできなかった。
 (6) 被告人は,姦淫をあきらめると,それに引き続き,金品を捜して室内を
物色し,バッグの中から判示の現金やキャッシュカード,クレジットカードの入っ
た財布を取り上げ,また携帯電話も発見してこれも取り上げるなどした上,同女方
から逃走した。
   以上の(1)から(6)までの各事実は,被告人自身の供述の関係部分を含
む関係証拠によって十分認定することができる(被告人の公判供述も,判示第2の
強姦が未遂に終わった事情に関する部分を除き,おおむね以上の(1)から(6)
までの認定に沿うものということができる。)。
 3(1) 次に,判示第4の犯行に係る被告人の犯意の内容に関する被告人の捜
査段階供述についてみると,その概要は,次のとおりである。
 私は,帰宅する途中,またA子のことを思い出し,同女を強姦して金目の
物を奪い取ろうと考えて,同女の家に行き,玄関の引き戸のガラスを割ってかぎを
開け,家の中に入ったが,そのとき同女を殺そうと考えた。11月上旬ころの約束
を破って再び強姦するのだから(判示第2の事件の際に,被告人がA子方を去るに
当たり,A子は,被告人に対し,被告人がこのまま同女方から出て行けば,自分は
警察にも届けない旨を言ってくれていたのに,また強姦をしに行ったら,被告人は
同女との約束を破ることになる,との意),A子を生かしておいては今度こそ同女
が警察に届け出ると思った。そうしたら,私は,かつて警察に指紋を採られたこと
があり,また以前A子方に入ったときも今回も素手だったので,指紋から私が犯人
だと分かってしまうと
思った。それに,私は,前にA子に顔をはっきりと見られていた。そこで,この
際,A子を殺して,それからすぐに強姦し,更に金目の物を奪い取ろうと考えた。
殺す方法は漠然とA子の首を絞めて殺すことが頭にあったが,それ以上に具体的な
ことを考えたかは思い出せない。A子方の2階の部屋に入り,横たわって寝ていた
A子の頭の上をそっと通り,同女の体のすぐそばにしゃがみ込んだ。私は,しゃが
んだ状態で,寝ているA子の顔を眺めていた。そして,首を絞めてA子を殺そうか
などとその殺し方を考えていた。私の考えがまとまらないうちに,A子が私の気配
に気づいたのか,目を開けた。そして,前記2(3)のようなやり取りを同女との
間で交わした。その間,A子は,大きな声を出して騒いだり,起き上がって逃げ出
したりする素振りは見
せなかったが,私は,同女が目を覚ましたことから,早く同女を殺して強姦し,金
目の物を奪おうと考えた。その瞬間,A子の頭の斜め上の方に位置する物入れの開
き戸が約10センチ開いていて,その物入れの中の上段から,タオルがぶら下がっ
た状態で出ているのが目に入った。私は,とっさにそのタオルでA子の首を絞めて
殺そうと考え,立ち上がってそのタオルをつかんだ。そして,私は,前記2(4)
のようにして,A子の体の上に馬乗りになり,同女の首をタオルで絞めた。A子
は,首の後ろにタオルを通されたとき,「それだけはやめ…」と声を出したが,私
は,そのときはとにかく早く殺さなければならないと考えていたので,同女の首を
縛り上げた。私がこのときにした縛り方は,私がとびをやっていたとき,建築用の
外壁の足場を組む際に
,安全用のネットを足場のパイプに固定するのに,ネットの穴にビニールひもを通
して結びつける縛り方だった。私がさっとそのタオルの縛り方で首を絞めると,A
子は,声も出さず,ただのどからヒューヒューという音を出した。私は,A子の首
を完全に絞めたと思った。後は,無茶苦茶に力を入れてギューギューと絞めなくて
も,ある程度力を入れてギュッとタオルの両端を引っ張り続ければ,A子が全く息
ができない状態が続き,しばらくすれば窒息死すると思った。それで,私は,しば
らくA子の首に巻き付けたタオルの両端を左右両手でそれぞれギュッと引っ張り続
けた。そうすると,A子は,ピクリとも動かないで,何の音も聞こえない状態にな
り,私は,同女が死んだと思い,タオルから手を離した。そして,前記2(5)の
とおり,同女を姦淫
しようとしたものの,青くなって口や鼻から血が出ているA子の顔を見ると,気持
ちが悪く,また怖くなり,性器が勃起しなかった。私は,A子を殺してからすぐ強
姦すれば生きている人を強姦するのと違わないだろうと考えていたのだが,実際に
同女の様子を見ると,気持ちが悪くて,本当に驚いた。A子を強姦することをあき
らめて,次に,最初から考えていたとおり,A子から金目の物を奪い取ることにし
て,室内を物色した。私は,とにかく財布を捜した。というのは,11月終わりこ
ろ,A子の家の中に侵入して預金通帳とパスポートを盗み出し,それらを公園で見
たが,そのとき,同女の銀行口座に14万円くらいの残高があることが分かってい
たので,キャッシュカードを手に入れたら,その金を引き出せることから,キャッ
シュカードが入って
いると思われる財布を捜したのである。以前パスポートを盗んだ際に,A子の誕生
日も知ったので,暗証番号もおそらく誕生日の日付けであろうと考え,キャッシュ
カードで金を下ろせると考えた。こうして,前記2(6)のとおり,A子方の財布
を奪い取り,携帯電話も奪い取った(乙5,6等)。
 (2) 被告人の前記捜査段階供述は,弁護人が争う被告人の殺意及び金品強取
の意思の点を含め,内容が具体的かつ明確,合理的で,前記2で認定した本件の状
況等とも基本的によく符合し,これらの状況に照らしても自然で無理がない。
    もっとも,被告人は,公判では,A子の頸部をタオルで絞めたのは黙らせ
るためとっさにしたことで,殺害しようとしてしたことではないし,同女がそのた
めに死亡するとも思わなかったとか,あらかじめ金品を取ろうと思っていたのでは
なく,強姦をあきらめた後で同女の金品を取ろうという意思を生じたなど,前記1
の弁護人の主張に沿う内容の供述をしている。しかし,被告人のこの公判供述は,
内容があいまいかつ不合理,不自然で,たやすく信用し難い点が多い。例えば,被
告人は,A子の頸部を絞めている際も同女が死ぬとは思わなかったなどとも供述す
るのであるが,被告人の絞頸行為が極めて強度のもので,それ自体同女の生命を奪
うに足りるものであったことは,被告人の公判供述に照らしても明らかであるの
に,同女が死ぬなどと
は思わなかったというその供述内容は,余りにも不自然でおよそ首肯するに足りる
ものではない。このように,被告人の公判供述は,不自然,不合理な点が多く,し
かも,被告人は,自己が捜査段階では前記(1)のような供述をした理由について
結局首肯できる説明ができていないこともまた明らかである。このように,被告人
の上記公判供述は,(1)の捜査段階供述と対比して,その信用性が低く,上記捜
査段階供述の信用性を左右するような証拠価値を持たないといわざるを得ない。
    また,その他関係証拠を精査しても,被告人の前記捜査段階供述の信用性
について疑いをいれるような事情があるとは認められない。
    若干補足すると,弁護人は,被告人には死体に性的関心を持つような性癖
はなかったから,A子を殺害してから姦淫しようと考えたという被告人の捜査段階
供述の内容は極めて不自然であるという趣旨をもいうが,A子に対する殺害行為を
終えてから同女を姦淫しようとした被告人の本件における現実の行動内容に照らし
ても,被告人の上記供述内容が不自然で信用し難いとはいえない。また,弁護人
は,被告人がA子に対する殺意を有していたのなら,殺害の道具を準備して行かな
かったのは不自然であるともいう。しかし,弁護人のこの主張は,A子方に赴いて
から殺意を生じたという被告人の捜査段階供述の内容を必ずしも正確に理解してい
ないきらいがある上,1人暮らしの女性を襲って絞頸の手段によって殺害しようと
考えた者があらかじめ
絞頸の手段を準備して行かなかったとしても,弁護人がいうほど不自然であると
も,あり得ないことであるとも,いうことはできない。その他,弁護人の主張にか
んがみ慎重に検討しても,被告人の捜査段階供述の内容に特段の疑問をいれる点が
あるとは認められない。
    結局,前記(1)の被告人の捜査段階供述は,その信用性を十分肯定でき
ることが明らかである。
 4 以上の検討結果に照らすと,判示第4のとおり,被告人は,A子を強姦する
とともにその金品を強取する意思で,A子方に赴き,同女方に侵入したが,その際
同女に対する殺意を生じ,同女を殺害した上で同女を姦淫してその金品を奪う意思
で,判示のとおりの強盗殺人,強盗強姦未遂の犯行に及んだという事実を優に認定
することができるから,弁護人の前記1の主張は採用することができない。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が平成12年11月8日から同年12月16日までの間に敢行し
た一連の犯行,すなわち,C子に対する窃盗,傷害(判示第1),A子に対する住
居侵入,強姦未遂(判示第2),D子に対する強姦未遂(判示第3)と,A子に対
する住居侵入,強盗殺人,強盗強姦未遂(判示第4)とから成る事案である。
 本件の量刑に当たり最も重要な位置を占めるA子に対する各犯行の内容は,既に
詳述したとおりである。すなわち,被告人は,かねてキャバクラに頻繁に通った
り,町中で見かけた女性の家までついて行っては,交際を求める手紙を送るなどの
行動を繰り返していたところ,平成12年10月19日ころの夜,A子をたまたま
見かけて同女が気に入り,同女の家までついて行って,中に入り込むことまでし,
同女に懇願されてその場はいったん立ち去ったものの,同女のことが忘れられず,
また同女方に侵入して同女を強姦しようと企てて,同年11月9日午前2時ころ,
同女方の便所高窓の引き戸を外して侵入し,同女を押し倒して馬乗りになり,その
着衣をはぎ取って全裸にするなどの暴行を加えたが,同女に抵抗されて,前記の経
緯で強姦は未遂に終わ
った(判示第2の住居侵入,強姦未遂)。被告人は,強姦が未遂に終わり,A子か
らも,警察にもだれにも言わないから出て行ってくれと言われて同女方を立ち去っ
たものの,その後も同女のことが忘れられず,同女に対する強姦をまた試みようと
考えるとともに,キャバクラへ行く遊興費等を手に入れるため同女から金品を奪い
取ろうとも考え,同月30日ころにまたも同女方に入り込んだところ,A子は在宅
していなかったが,同女の居室から預金通帳やパスポートを盗み取ったということ
もあった(もっとも,被告人は,印鑑がなければ通帳を使っても預金を引き出すこ
とができないと知り,その後また同女方に入って,通帳とパスポートを戻しておい
た。)。そして,被告人は,同年12月15日夜,行きつけのキャバクラで遊興し
た後,帰路に就いた
が,途中でまたA子のことを思い出し,今度こそは同女を強姦してその金品を強取
しようと考え,同女方に赴き,玄関が施錠され,判示第2の犯行の際の侵入経路で
ある便所の高窓にも格子が設けられて侵入できなかったことから,翌16日午前1
時30分ころ,携帯電話を玄関引き戸のガラスにたたきつけてガラスを割り,そこ
から手を差し入れ,かぎを開けて,屋内に侵入した。ところが,被告人は,自分が
またも強姦しに来たことが分かれば,A子は今度は警察に届け出るだろうし,その
ときは指紋を照合されるなどして自分が犯人であることが分かってしまうだろうな
どと考えるうち,この際同女を殺害し,その上で同女を姦淫して金品を強取しよう
と決意するに至り,2階の和室で就寝中のA子が被告人の様子に気付いたためか目
を覚ますと,その場
にあったタオルを同女の首に巻き付け,同女が「それだけはやめ…」と懇願するの
もかまわず,力を込めて首を絞めつけ,その場で同女を窒息死するに至らせた。さ
らに,被告人は,その場で同女の下着を下げるなどして同女を姦淫しようとしたも
のの,首を絞められて死亡した同女の様子を見て気持ちが悪くなって性器が勃起し
なくなり,強姦は未遂に終わったが,引き続き室内を物色し,同女の携帯電話及び
現金約1500円,キャッシュカード,クレジットカード在中の財布を強取したも
のである(判示第4の住居侵入,強盗殺人,強盗強姦未遂)。
 これら各犯行の罪質はいずれも悪質であり,殊に判示第4の犯行の罪質が誠に凶
悪で重大であることはいうまでもない。
 また,これらの各犯行は,被告人がたまたま見かけたA子によこしまな欲望を抱
き,深夜同女の住居に侵入した上,その欲望を遂げようとしたというもので,動機
が誠に悪質である。殊に判示第4の犯行は,被告人が,判示第2の強姦が未遂に終
わった後も,なおも執ようにA子をつけねらった挙げ句,強姦と金品強取の意図で
深夜同女方の玄関ガラスを毀して屋内に侵入し,その際,あろうことか自己の犯行
の発覚の防止等のため同女を殺害しようと決意して,その実行に及んだというもの
であって,自己の性欲や金銭欲の実現のために他人の生命さえ奪うこともためらわ
ないというその非情さには,人を慄然とさせるに十分なものがある。
 各犯行の態様をみても,殊に判示第4の犯行は,被告人が,上記経緯で深夜A子
方自宅に侵入した上,就寝中の同女が目を覚ますと,その首にタオルを巻き付け,
同女が被告人の意図を悟って最後までは言えないまま必死に「それだけはやめ…」
と懇願するのもかまわず,力強くその首を絞め続け,ついに同女を絶命するに至ら
せ,更に引き続き同女の下着を下ろして姦淫しようとするなどの陵辱行為を働き,
また,その金品を奪い取ったというものであって,誠に冷酷残虐で,その悪質さは
言葉に尽くし難い。判示第2の犯行も,深夜A子方に侵入した上,いきなり前記の
ような暴行を加えて強姦を遂げようとしたというものであって,態様は誠に放縦
で,悪質というほかない。
 これらの各犯行の結果,A子は,判示第2の住居侵入,強姦未遂の被害にあった
上,ついには判示第4の犯行により,自宅で就寝中に上記態様でいきなり首を絞め
られ,その生命さえ奪われるに至ったものであって,その結果が誠に重大であるこ
ともまたいうまでもない。A子は,若年性糖尿病の持病を抱えながらも,会社員と
して働き,本件当時いまだ26歳で今後の人生にも多くの可能性があったのに,前
記のような経緯で就寝中被告人に突然襲われ,首を絞められて窒息死させられ,そ
の後その身体を陵辱する行為にまで及ばれたのであって,その苦痛と無念の気持ち
には察するに余りあるものがあるし,遺族や親しい人たちが本件により被った精神
的衝撃にも誠に大きなものがあったとうかがえる。A子の実父のBは,同女を失っ
た衝撃について述べ
るとともに,被告人については極刑を希望すると述べているところ,その心情もも
とより十分に理解することができる。なお,弁護人は,A子が判示第2の犯行の被
害を受けたことを警察に届け出ていれば判示第4の犯行は防げたと考えられるの
に,そうしなかった点で同女にも落ち度があったという趣旨を主張する。しかし,
A子は,判示第4の犯行に至るまでも,自己が受けた被害について,Bや知人に相
談し,玄関に鎌錠を取り付けたり,便所高窓の侵入口をふさぐなどの対処をし,ま
た,平成12年11月30日ころの窃盗被害については,(もとより,その犯人等
に関する事情はよく分からないまま,)警察に届け出るなどのこともしていたと認
められるのであって,玄関のガラスをたたき割り,かぎを外してまで同女方に入っ
た判示第4の被告人の
侵入態様等にも照らすとき,弁護人指摘の点を同女の落ち度として重視するのは相
当ではないというべきである。
 なお,被告人は,判示第4の犯行によりキャッシュカード等を強取し,以前A子
の預金通帳を盗んだ際に同女の口座に約14万円の残高があることを知っていたこ
とから,このキャッシュカードを使って預金を引き下ろそうと考え,成功はしなか
ったものの犯行の翌朝早速金融機関に行って,預金の引き下ろしを試みることなど
もしているのであって,このように犯行後の事情にもまた甚だ悪質なところがあ
る。また,本件が社会に与えた不安感やその他の影響などにも軽視し難いものがあ
ったとうかがえる。
 次に,判示第1の犯行についてみると,この犯行は,要するに,被告人がキャバ
クラで所持金を使い果たし,再度キャバクラで遊興するための金を得るため,通行
人を相手にひったくりをしようと企て,たまたま見かけたC子(当時69歳)が高
齢で足も不自由なように見えたことから,夜間人気のない路上を1人で歩行中の同
女にいきなり近づいて手提げ袋のひもを力任せに引っ張ってひったくり,その際同
女を転倒させて加療約2箇月を要する傷害を負わせたというものである。動機に酌
む点がなく,態様も粗暴,危険で,金品を失った上に上記のような傷害を被ったC
子の被害は大きく,その被害感情にもまた大きなものがあることがうかがえる。
 また,判示第3の犯行は,被告人が,深夜女子高校生のD子(当時16歳)が路
上を歩いているのをたまたま認めて,同女を強姦しようという気を起こし,同女の
後をつけた上,人気のない路上で同女に駆け寄って,いきなり近くの空き地に引き
ずり込み,仰向けに押し倒し馬乗りになるなどして姦淫しようとしたが,抵抗され
て目的を遂げなかったというものであって,これまた被告人がその性的欲望につい
て抑制が乏しいことを端的に示す犯行であることが明らかであり,動機にも酌む点
がないし,態様も誠に放縦で粗暴かつ悪質である。本件によってD子が被った衝撃
に大きなものがあったこともまた明らかなところである。なお,弁護人は,D子及
びその両親は現段階では被告人を宥恕していると主張するが,弁護人指摘に係るD
子の両親名義の書面
の内容に照らしても,宥恕の意思が表されているとまでみるのは相当ではない。
 さらに,判示第1から第4までの全犯行を通じ,(被告人の実父が苦しい家計の
中から被告人のため80万円を支出して贖罪寄附をしたという事情はうかがえる
が,)損害賠償等の措置は講じられていない。また,被告人は,前記「弁護人の主
張に対する判断」の項でも指摘したように,公判で,犯行に及んだ際の自己の意思
の内容などについて不合理で容易に首肯できない弁解に固執しているところがある
など,本件で自己が行った行為に正面から向き合い,真しに反省しようという気持
ちになっているのか,疑問をいれる余地があることも決して否定することができな
い。
 以上の諸事情に照らすとき,本件は犯情が誠に重大,悪質で,自己の性的,金銭
的欲望の赴くまま他人の人格や生命さえも軽視してはばからない被告人の反社会的
性向には顕著なものがあり,被告人の刑事責任は重大というほかはないのであっ
て,被告人を死刑に処すべきとする検察官の主張にも傾聴に値するところがある。
 ところで,死刑選択の許される基準としては,最高裁第二小法廷昭和58年7月
8日判決・刑集37巻6号609頁が,「死刑制度を存置する現行法制の下では,
犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性こ
とに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯
行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑
の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合に
は,死刑の選択も許されるものといわなければならない。」と判示しているとおり
である(弁護人は,死刑という刑罰自体が残虐な刑罰を禁ずる憲法の規定に違反す
ると主張するが,この主張は理由がなく,採用することができない。最高裁大法廷
昭和23年3月12
日判決・刑集2巻3号191頁等をも参照)。
 この観点に立って更に検討すると,本件,殊に判示第4の犯行は,その罪質,動
機,態様が甚だ悪質で,A子の生命まで奪ったその結果もまた重大であり,遺族の
被害感情も峻烈で,被告人の犯行後の情状等にも芳しくないところがあるなどの点
は,既に詳細に説示したとおりである。
 他方,本件は殺害された被害者が1名の事案であるという点は,もとよりこれを
過大視することはできないとはいえ,死刑選択の当否という点では,一定の考慮を
要する事情であることは否定できないところである。また,判示第4の犯行は,前
記のようなその経緯,態様等にかんがみ,場当たり的で衝動的な犯行にとどまると
いうことが到底できないことは明らかであるが,他面,被害者の殺害までをあらか
じめ意図して,計画的に殺害に及んだという類型の犯行とは異なる面があり,この
点はその限りで被告人のため考慮する余地があると考えられる。また,被告人は,
前記のようなその生活歴等に照らし,これまで通常の社会生活を営んできたなどと
はおよそいうことができないとはいえ,少年時に家裁で不処分になった経歴があっ
たことなどはうかが
えるものの,29歳の犯行時に至るまで,前科がなく過ごしてきたという事情も認
められる。この点に,被告人の成育歴や家庭環境等に種々問題があったことなどを
も併せてみると,被告人は,これまで前記のようなその問題点について適切な矯正
教育等を受ける機会がないまま,その反社会的性向をつのらせてきたといった事情
があることもまた必ずしも否定することはできない。これに加え,被告人が真に自
己の行為に向き合って本件を真しに反省しているか疑問とすべき点もあることは前
記のとおりではあるが,被告人が,自己のよこしまな欲望のため,A子の生命を奪
うことになったほか,他の被害者らにも大きな被害を与えたことを被告人なりに自
覚し,また,判示第4の犯行について逮捕勾留された後,その他の犯罪についても
進んで供述してきた
といった事情もうかがうことができる(ただし,弁護人は,判示第1,第3の各事
件について被告人に自首が成立すると主張するが,被告人の供述等の関係証拠によ
ると,被告人は,余罪の嫌疑を持った捜査官の取調べに応じ,これを契機として上
記各事件についても供述するに至ったという事情が認められるから,この点を自首
に当たるとまで評価することはできない。)。また,そうすると,被告人の反社会
的性向には既に誠に高度のものがあるとはいえ,検察官が主張するように,被告人
についてはもはや改善更生の余地は見いだせず,その矯正は不可能であるとまでい
うことには,いささか疑問とする余地があることも否定することはできない。
 そうすると,被告人の罪責は誠に重大ではあるが,上記事情を含む諸般の事情及
び近年の我が国における同種事犯に対する量刑の事情をも併せ考慮した結果,被告
人に対し極刑を科することが誠にやむを得ない場合であるとまでは認められない。
 よって,被告人には無期懲役刑を選択し,自己の犯した罪の重さを改めて自覚さ
せつつ,終生被害者A子の冥福を祈るとともに,被害者らに対する贖罪の日々を送
らせるのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
平成14年9月4日
東京地方裁判所刑事第11部
裁判長裁判官   木 口 信 之
裁判官   幅 田 勝 行
裁判官   北 村 治 樹

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