弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金参千円に処する。
     右の罰金を完納することができないときは、金弍百円を壱日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人本人及び弁護人間宮三男也の各控訴趣意は別紙記載のとおりが、これに対
し次のように判断する。
 弁護人の控訴趣意について。
 論旨は、本件においては被告人は道路交通取締規則違反の被疑者として司法巡査
の取調を受けていたのであるから憲法上刑事訴訟法上默秘権を有していたのであ
り、従つてこの場合登録証明書の呈示を求められてもこれを拒否することかできる
わけである、それゆえ、被告人がその呈示を拒んだのは正当な行為であつて違法で
はない、と主張するのである。そこで、まず外国人登録法に定める登録証明書の呈
示要求と刑事訴訟法上の被疑者のいわゆる黙秘権との関係について考察してみる
と、刑事訴訟法第百九十八条によれば、被疑者は検察官、検察事務官又は司法警察
職員に対しその利益不利益を問わずなにごとをも供述する義務を負つていないので
あつて、それと同時に自己の所持するいかなる物をも提出又は呈示する義務を負つ
ていないことも刑事訴訟法の規定上明らかである。しかしながら、これは刑事訴訟
法の上でそうだというだけのことであつて、他の法令の<要旨第一>規定によりこの
種の義務を負うことを一概に妨げるものではない。しかるに、外国人かその所持携
帯する登録証明書の呈示を求められた場合にこれに応じなければならな
いのは、外国人登録法第十三条第二項の規定によつて生ずる義務であつて、これは
その外国人たる地位に基き刑事手続とは無関係に一般的に負つている義務だと解し
なければならないから、たとえその呈示要求が捜査手続の段階において捜査の任に
ある警察官、警察吏員からなされたとしても、その外国人としてはやはりこれに応
ずる義務があるものというべく、前記外国人登録法第十三条第二項はその限度にお
いては刑事訴訟法の規定に優先するものと解するのを相当とするから、本件におい
て司法巡査が被告人に対し登録証明書の呈示を求めたことは、刑事訴訟法との関係
においてはなんら違法だとはいえない。次に、右の呈示要求と日本国憲法第三十八
条第一項との関係について考えてみると同項には「何人も、自己に不利益な供述を
強要されない。」と規定されていて、ここにいう「供述」が狭い意味での供述に限
られるか、あるいはこれに物の提出、呈示等をも含むかについても説の分れるとこ
ろではあるが、一応広い見解を採つて本件の登録証明書の呈示のごときも右の「供
述」に含まれるとしても、本件においては、被告人がその所持する登録証明書を呈
示することが被告人にとつて不利益てあつたとは考えられない。なんとなれば、憲
法第三十八条第一項にいう「自己に不利益な供述」とは、自己を有罪に導く供述な
いしは自己の刑事責任に関する不利益な供述を指すと解すべきところ、外国人登録
証明書は氏名、年齢、住所その他主として同一性の識別に役立つ事項を記載したに
すぎないもので、本件におけるがごとく被告人が交通取締規則に違反したことが司
法巡査の現認によりすでに明らかとなつているような場合においては、たとえ右証
明書に記載された事項をその司法巡査に知られたとしても、被告人の交通取締規則
違反の刑事責任にそれ以上なにものをも附加するわけではないから、これをもつて
「自己に不利益な供述」だと見ることはできないからである。もつとも、このほか
に被告人がなんらかの罪を犯し、その犯人として指名手配されているような特殊の
事情か存する場合であつたら登録証明書を呈示することはすなわち自己か犯人であ
ることを示すことになるから、呈示拒否権があるということも考えられよう。しか
し、本件においてはかような特殊の事情は認められないのであるから、被告人の呈
示義務を認めたことは憲法第三十八条第一項に違反するものとはいえない。これを
要するに論旨の主張二よつては被告人の所為か正当なものであるとはいえないか
ら、論旨は理由がない。
 被告人本人の控訴趣意についてし
 論旨は種々主張しているように見えるが、その主張せんとするところは、要する
に、登録証明書の呈示は外国人登録法に関する職務の執行に当つてはこれを求める
ことかできるが、本件のような他の犯罪の捜査についてその呈示を求めることはで
きないものであり、従つて本件における呈示要求は違法であるから、これに応じ<要
旨第二>なくても違法ではない、というにあるものと解される。しかしながら、外国
人登録法第十三条第二項には「外国人は、入国審査官、入国警備官(出
入国管理令に定める入国警備官をいう。)警察官、警察吏員、海上公安官、鉄道公
安職員その他法務省令で定める国又は地方公共田体の職員がその職務の執行に当り
登録証明書の呈示を求めた場合には、これを呈示しなければならない。」と規定し
てあつて、そのいかなる種類の職務の執行に当つて呈示を求めうるかを別段限定し
ていないのであるから、そこに規定された者(特に警察官、警察吏員等)が行うこ
とのできる職務の執行に当つては、それが犯罪捜査であると否とを問わず、またそ
の嫌疑が出入国管理令又は外国人登録法違反のそれであると、あるいはその他の罪
の嫌疑であるとを問うことなく、登録証明書の呈示を求める権限があると解するの
ほかなく、所論のように一定の犯罪の場合に限ると解することはその根拠に乏しい
といわなければならない。本件においては、原審証人Aの証言によると、司法巡査
である同人は被告人の交通取締規則違反の取調に当つてその氏名、住所等を確認す
る必要上登録証明書の呈示を求めたというのであつて、右の呈示要求が違法なもの
といえないことは、右に述べたところから明らかであるから、この点の論旨も理由
がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 河原徳治 判事 中野次雄)

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