弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに対する原判決を破棄する。
     同被告人を罰金一万五千円に処する。
     同被告人において右罰金を完納することができないときは金五百円を一
日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
     同被告人に対する公訴事実一、二及び四につき同被告人は無罪。
     被告人Bの本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人両名の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は被告人両名の弁護人臼木豊寿提出の各控訴趣意書記載のとおり
であるから、いずれもこれをここに引用する。
 被告人Aに関する控訴趣意第一点及び第二点(事実誤認及び法令適用の誤)。
 所論は被告人AはCの依頼によつて写真の複製又は焼付をし出来上つた写真を同
人に交付し又は所持したのみであつて、同人以外の何人にも交付する意思もなかつ
たのであるが、刑法第一七五条にいう販売とは頒布と同様多数人に交付する目的を
有する場合をいうのであつて、一人の特定人にのみ交付する目的の場合は処罰の対
象とならないから、被告人の行為をもつて同条の販売又は所持に該るものとした原
判決は事実を誤認<要旨>したか又は法令の解釈適用を誤つたものであると主張す
る。よつて右所論について考えるに、刑法第一七五条にいう販売とは不特定
又は多数の者に対してなす目的をもつてする有償譲渡をいうものと解するのが相当
であるから、特定人からその持参した猥せつ写真の複製を依頼されてこれを複製し
依頼者に複製写真を交付したのみで、右複製写真を依頼者以外の第三者には交付す
る意思のなかつた場合は、たとい有償で複製した場合においても刑法第一七五条に
いう猥せつ図画の販売には該らないものと解すべきところ、原判決挙示の証拠を綜
合しても被告人Aは依頼者Cの注文に応じて同人に交付する目的を以つて本件写真
を複製又は焼付をし、これを同人に交付し又は所持していた事実を認定しうるに止
まり、同被告人が不特定又は多数の者に交付する目的をもつて、これを交付し又は
所持したものとは到底認定することができない。そして原判示第一乃至第三の事実
の判文と右事実認定の各証拠とを対比すると、原判決は右のような目的の点を深く
検討することなく特定人よりその持参した猥せつ写真の複製を依頼されてこれを複
製し依頼者に複製写真を代金を受領して交付したときは直ちにそれだけで猥せつ図
画の販売に該当するものと解して、被告人AがCに猥せつ写真を販売し又は販売の
目的で所持したとの原判示第一乃至第四の犯罪を認定したことが明かであるから、
原判決は刑法第一七五条の解釈適用を誤つたものであること所論のとおりであつ
て、右法令適用の誤は判決に影響を及ぼすこと明かであるから、被告人Aに関する
控訴趣意第三点(量刑不当)についての判断をするまでもなく同人に対する原判決
は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 被告人Bに関する控訴趣意第一点(事実誤認)。
 所論は被告人Bは本件の春画及び猥せつ写真についていずれもせり売の仲介をし
たものにすぎず、自ら売主となつて販売したものではないから、同被告人がこれを
販売したとの原判示各事実を認定した原判決は事実を誤認したものであると主張す
る。しかし同被告人の検察官に対する供述調書によれば、同被告人は原判示の各猥
せつ図画について、いずれも所論の如くせり売の仲介をしたものであつて自己の所
有する猥せつ図画を販売したものではないけれども、原判示の各共犯者と共謀しそ
の所有する各猥せつ図画を各原判示の相手方に販売する実行行為に加担したことが
明かであるから、原判決には何ら所論のような事実誤認はない。論旨は理由がな
い。
 同第二点(量刑不当)。
 本件記録並に原裁判所で取調べた証拠によつて認められる被告人Bの本件犯行の
回数、販売した猥せつ図画の数量その他諸般の事情を綜合すると、所論を考慮に容
れても、原判決の量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。
 よつて被告人Aに関しては刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条但書によ
り原判決を破棄した上更に当裁判所において左のとおり判決し、被告人Bの本件控
訴は同法第三九六条によりこれを棄却すべきものとする。
 (罪となるべき事実)
 被告人Aは肩書住居地において写真業を営むものであるが、昭和三十三年六、七
月頃古物商を営むCより同人の持参した男女性交の姿態又は男女の陰部を撮影した
写真約九十枚につきその複製を依頼され、その頃これを複製して各一枚宛の複製写
真を同人に交付したが、同年十二月上旬頃再び右Cより右複製写真各二、三枚の焼
増方を依頼されるや、その頃肩書自宅において先に複製したとき作成したフィルム
を用いて、右の如く男女性交の姿態又は男女の陰部を撮影した複製写真約二百三十
枚を作成した上、同月下旬頃右肩書自宅において右Cに対し同人が他に販売の目的
をもつて所持するに至ることを知りながら、右複製写真のうち約百二十枚を、一枚
につき金二十円の複製代金を受領して交付し、もつて即時同所において同人が猥せ
つ図画を他に販売する目的で所持することを容易ならしめて、これを幇助したもの
である。
 (証拠の標目)
 一、 Cの検察官に対する供述調書。
 一、 被告人Aの検察官に対する供述調書。
 一、 当審公判廷における同被告人の供述(但し約二百三十枚の写真は七月に作
成を頼まれたとの供述部分を除く)。
 一、 押収にかかるフィルム二十枚(昭和三四年領第九号検六号)及び複製写真
百十枚(同検二号)。
 (法令の適用)
 被告人Aの判示所為は刑法第一七五条後段罰金等臨時措置法第二条第三条刑法第
六二条第一項に該当するところ、所定刑中罰金刑を選択し、同法第六三条第六八条
により減軽した罰金額の範囲内で同被告人を罰金一万五千円に処し、同法第一八条
により同被告人において右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に
換算した期間同被告人を労役場に留置する。
 (一部無罪)
 被告人Aに対する公訴事実の要旨は「同被告人は、一、昭和三十三年六月下旬頃
肩書自宅においてCに対し男女性交の姿態又はその陰部を撮影した写真三十枚位を
代金一枚につき二十円の割合で販売し、二、同年七月上旬頃前同所において前同人
に対し前同様の写真六十枚位を前同様の代金で販売し、三、同年十二月下旬頃前同
所において前同人に対し前同様の写真百二十枚位を前同様の代金で販売し、四、同
年十二月下旬頃前同所で販売の目的で前同様の写真百十枚を所持したものである」
というのであるが、同被告人が右写真を不特定又は多数の者に対してなす目的をも
つて右Cに譲渡し又はその目的をもつてこれを所持していたことを認めるに足りる
何らの証拠がないことは、前記の如く同人に関する控訴趣意についての判断におい
て説示したとおりである。また当審において検察官が追加した右公訴事実一及び二
に対する予備的訴因の要旨は「同被告人は、一、昭和三十三年六月下旬頃肩書自宅
においてCに対し同人が販売の目的をもつて所持するに至ることを知りながら男女
性交の姿態又は男女の陰部を撮影した複製写真三十枚位を代金一枚につき二十円の
割合て交付し同人をして右目的をもつて所持するに至らしめて幇助し、二、同年七
月上旬頃前同所において前同人に対し同人が販売の目的をもつて所持するに至るこ
とを知りながら前同様の写真六十枚位を前同様の代金て交付し同人をして右目的を
もつて所持するに至らしめて幇助したものである」というのであるが、当審公判廷
における同被告人の供述によると同被告人は当時Cが右複製写真を他に販売する目
的であることを知らず従つて同人の販売目的の所持を幇助する犯意がなかつたもの
と認められ、他に右犯意の存在を認めるに足りる適確な資料がない。よつて右公訴
事実一、二及び四についてはいずれも犯罪の証明がないことに帰着するから、刑事
訴訟法第三三六条に則り右各公訴事実につき被告人に対し無罪の言渡をする。
 なお、同被告人に対する公訴事実三の訴因については右の如く犯罪の証明がない
けれども、検察官は当審において右公訴事実三について前記判示の如き猥せつ図画
の販売目的所持幇助の訴因を予備的に追加し、右予備的訴因については判示の如き
認定の下に同被告人を処罰するものであるから、右主たる訴因については特に主文
において無罪の言渡をしない。
 よつて当審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適
用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 安久津武人 裁判官 今村三郎)

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