弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中不当利得返還請求に係る部分につき本件上
告を棄却する。
2その余の本件上告を却下する。
3上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人水中誠三ほかの上告受理申立て理由第1,第3及び第4について
1原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人は,貸金業の規制等に関する法律3条所定の登録を受けて貸金業を
営む貸金業者である。
(2)上告人は,昭和63年6月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とす
るクレジットカード会員契約を締結し,被上告人に対し,「Aカード」という名称
のクレジットカードを交付した。上記契約には金銭消費貸借に関する契約の条項
(以下,この条項を「本件基本契約1」という。)が含まれていたところ,後記
(4)記載の期間における本件基本契約1の内容は,次のとおりである。
ア借入方法
会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借
入れをすることができる。
イ返済方法
指定された回数に応じて毎月同額の元本及び利息を分割して返済する方法(いわ
ゆる元利均等分割返済方式),毎月末日の借入残高に応じて定められる一定額を返
済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)又は1回払の方法の中から
会員が選択する。
ウ借入利率
元利均等分割返済方式による借入れにつき原則として年26.4%,それ以外の
返済方式による借入れにつき原則として年27.6%とする。
エ利息の計算方法
前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までの実質年利
(日割計算)を乗じて算出する。
オ返済金の支払方法
毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
(3)上告人は,平成3年12月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とす
るローンカード会員契約(以下「本件基本契約2」といい,本件基本契約1と併せ
て「本件各基本契約」という。)を締結し,被上告人に対し,「B」という名称の
ローンカードを交付した。後記(4)記載の期間における上記契約の内容は,次のと
おりである。
ア借入方法
会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借
入れをすることができる。
イ返済方法
翌月に一括して返済する方法又は毎月の借入残高に応じて定められる一定額を返
済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)のいずれかから会員が選択
する。
ウ借入利率年22.6%
エ利息の計算方法
前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までを1か月とし
て計算する。
オ返済金の支払方法
毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
(4)上告人は,被上告人に対し,平成3年8月2日から平成16年1月31日
までの間,本件基本契約1に基づき,原判決別紙計算表2②の「年月日」欄記載の
各年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し,
同計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った。
上告人は,被上告人に対し,平成3年12月24日から平成16年1月31日ま
での間,本件基本契約2に基づき,原判決別紙計算表2①の「年月日」欄記載の各
年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し,同
計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以
下,本件各基本契約に基づくそれぞれ一連の取引を「本件各取引」という。)。
2本件は,被上告人が,上告人に対し,本件各取引のそれぞれにつき,本件各
基本契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の
利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」とい
う。)を元本に充当すると,過払金が発生し,かつ,この過払金を同一の基本契約
において弁済当時存在する債務又はその後に発生する新たな貸付けに係る債務に充
当してもなお過払金が残存しているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件各
取引において発生した過払金の支払等を求める事案である。
3原審は,前記事実関係の下において,本件各取引はそれぞれが本件各基本契
約に基づいて反復して行われた融資取引であること,本件各基本契約においては借
入金の利息や返済方法等の基本的な事項が定められていること,本件各基本契約締
結の際に重要な事項に関する審査は終了しており,各貸付けの際には事故発生の有
無等の消極的な審査がされるにすぎないこと,貸付けと返済は利用限度額の範囲内
で頻繁に繰り返されることが予定されていることなどの本件各基本契約と各貸付け
の性質・関係に照らすと,本件各取引はそれぞれが全体として一個の取引であり,
各取引内において,被上告人が支払った制限超過部分が元本に充当された結果過払
金が発生し,その後に新たな貸付けに係る債務が発生した場合であっても,当該過
払金は上記貸付けに係る債務に当然に充当されるものと解すべきであると判断し
て,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を一部認容した。
4所論は,過払金の充当に関する原審の上記判断の法令違反をいうものであ
る。
よって検討するに,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付け
が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務に
つき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本
に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特
約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当
されると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1032号,第103
3号同15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁,最高裁平成1
2年(受)第1000号同15年9月11日第一小法廷判決・裁判集民事210号
617頁参照)。これに対して,弁済によって過払金が発生しても,その当時他の
借入金債務が存在しなかった場合には,上記過払金は,その後に発生した新たな借
入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし,この場合におい
ても,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意
が存在するときは,その合意に従った充当がされるものというべきである。
これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間
で締結された本件各基本契約において,被上告人は借入限度額の範囲内において1
万円単位で繰り返し上告人から金員を借り入れることができ,借入金の返済の方式
は毎月一定の支払日に借主である被上告人の指定口座からの口座振替の方法による
こととされ,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一
定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日
の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算することとされていたというので
ある。これによれば,本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別
的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契
約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象と
なるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうす
ると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制
限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁
済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債
務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を
含んでいるものと解するのが相当である。原審の前記判断は,これと同旨をいうも
のとして,是認することができる。論旨は採用することができない。
なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく慰謝料請求の敗訴部分
につき上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同
部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官
才口千晴裁判官涌井紀夫)

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