弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人の被上告人B1工業株式会社に対する上告を棄却する。
     上告人の被上告人B2に対する上告を却下する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告人の被上告会社に対する上告について
  上告代理人櫻木武、同佐藤典子の上告理由について
 1 本件は、上告人がアメリカ合衆国のカリフォルニア州裁判所の判決について
の執行判決を求める訴えであるところ、原審が適法に確定した事実等は、次のとお
りである。
  (一) カリフォルニア州民法典には、契約に起因しない義務の違反を理由とす
る訴訟において、被告に欺罔行為などがあったとされた場合、原告は、実際に生じ
た損害の賠償に加えて、見せしめと被告に対する制裁のための損害賠償を受けるこ
とができる旨の懲罰的損害賠償に関する規定(三二九四条)が置かれている。
  (二) カリフォルニア州上位裁判所は、昭和五七年(一九八二年)五月一九日、
上告人と被上告会社の子会社である同州法人Dとの間の賃貸借契約締結について被
上告人らが上告人に対して欺罔行為を行ったことを理由として、被上告人らに対し、
補償的損害賠償として四二万五二五一ドル及び訴訟費用として四万〇一〇四ドル七
一セントを支払うよう命ずるとともに、被上告会社に対し、これに加えて、右規定
に基づく懲罰的損害賠償として一一二万五〇〇〇ドルを上告人に支払うよう命ずる
判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡した。
  (三) 上告人及び被上告人らは、本件外国判決に対してカリフォルニア州控訴
裁判所に控訴したが、同裁判所は、昭和六二年(一九八七年)五月一二日、各控訴
を棄却する旨の判決を言い渡し、本件外国判決が確定した。
 2(一) 執行判決を求める訴えにおいては、外国裁判所の判決が民訴法二〇〇条
各号に掲げる条件を具備するかどうかが審理されるが(民事執行法二四条三項)、
民訴法二〇〇条三号は、外国裁判所の判決が我が国における公の秩序又は善良の風
俗に反しないことを条件としている。外国裁判所の判決が我が国の採用していない
制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件を満たさな
いということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相
いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反す
るというべきである。
  (二) カリフォルニア州民法典の定める懲罰的損害賠償(以下、単に「懲罰的
損害賠償」という。)の制度は、悪性の強い行為をした加害者に対し、実際に生じ
た損害の賠償に加えて、さらに賠償金の支払を命ずることにより、加害者に制裁を
加え、かつ、将来における同様の行為を抑止しようとするものであることが明らか
であって、その目的からすると、むしろ我が国における罰金等の刑罰とほぼ同様の
意義を有するものということができる。これに対し、我が国の不法行為に基づく損
害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償
させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったとき
の状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和六三年(オ)第一七
四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)、加害者
に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とする
ものではない。もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結
果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、そ
れは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせた
ことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的
な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国
においては・加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑
事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。そうしてみると、不法行為の
当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁
及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国
における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないも
のであると認められる。
  (三) したがって、本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用に加え
て、見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払
を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものとしな
ければならない。
 3 以上によれば、本件外国判決のうち懲罰的損害賠償としての金員の支払を命
ずる部分について執行判決の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、是認する
ことができる。論旨は、原判決が憲法前文及び日本国とアメリカ合衆国との間の友
好通商航海条約六条一項に違背するという点も含め、独自の見解に立って原審の法
令の解釈適用を非難するものにすぎず、採用することができない。
 二 上告人の被上告人B2に対する上告について
  上告人の被上告人B2に対する本件訴えは、本件外国判決のうち、補償的損害
賠償及び訴訟費用の支払を命ずる部分並びに右金員に対する利息の支払について、
執行判決を求めるものであるところ、原判決は、右請求を全部認容した第一審判決
に対する控訴を棄却したものであるから、上告人には上告の利益がなく、被上告人
B2に対する上告は、不適法として却下すべきものである。
 よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、三九九条一項一号、九五条、八九条に
従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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