弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人榊原富士子、同林陽子、同福島瑞穂の上告理由第一及び第四について
 上告人甲野花子及び同乙野太郎の被上告人武蔵野市長に対する訴えは、いずれも
同被上告人が上告人甲野一郎の住民票に世帯主である上告人甲野花子との続柄を記
載する行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提として、その取消
し及び義務付けを求めるものである。
 しかしながら、市町村長が住民基本台帳法七条に基づき住民票に同条各号に掲げ
る事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれら
の事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体に
よって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有する
ものではない。もっとも、同法一五条一項は、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に
記載されている者で選挙権を有するものについて行うと規定し、公職選挙法二一条
一項も、右登録は住民票が作成された日から引き続き三箇月以上当該市町村の住民
基本台帳に記録されている者について行うと規定しており、これらの規定によれば、
住民票に特定の住民の氏名等を記載する行為は、その者が当該市町村の選挙人名簿
に登録されるか否かを決定付けるものであって、その者は選挙人名簿に登録されな
い限り原則として投票をすることができない(同法四二条一項)のであるから、こ
れに法的効果が与えられているということができる。しかし、住民票に特定の住民
と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人名簿に登録される
か否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであり、住民票に右続柄を記載す
る行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はない。したがって、住民票に
世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない
ものというべきである。
 そうすると、上告人甲野花子及び同乙野太郎の被上告人武蔵野市長に対する訴え
は、いずれも住民票への続柄の記載という抗告訴訟の対象とならない行為を対象と
するものであり、不適法であって、却下を免れないものというほかはない。これと
結論において同旨の原審の判断は、是認するに足り、所論の訴えの利益に関する原
審の判断や訴訟指揮の適否いかんにかかわらず、論旨は理由がないことに帰する。
 同第二及び第三について
 市町村長が住民票に法定の事項を記載する行為は、たとえ記載の内容に当該記載
に係る住民等の権利ないし利益を害するところがあったとしても、そのことから直
ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、市町
村長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と右行為をしたと認め
得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である
(最高裁平成元年(オ)第九三〇号、第一〇九三号同五年三月一一日第一小法廷判
決・民集四七巻四号二八六三頁参照)。
 住民票は、選挙人名簿の作成の基礎資料となるほか、住民に関する記録として様
々な手続に広く利用される書類であるから、各市町村が独自の法令解釈に基づいて
区々な事務処理をすることは望ましいとはいえず、できる限り統一的に記録が行わ
れるべきものである(住民基本台帳法一条参照)。そのため、国が市町村に対し住
民基本台帳に関する事務について必要な指導を行うものとされている(同法三一条
一項)ところ、被上告人武蔵野市長が上告人甲野一郎の住民票に世帯主との続柄の
記載とした昭和六〇年八月当時、国により住民基本台帳の記載方法等に関して住民
基本台帳事務処理要領(以下「事務処理要領」いとう。)が定められていたのであ
るから、各市町村長は、その定めが明らかに法令の解釈を誤っているなど特段の事
情がない限り、これにより事務処理を行うことを法律上求められていたということ
ができる。そして、原審の適法に確定したところによれば、当時の事務処理要領は、
平成六年一二月に改正されるまで、世帯主の嫡出子の続柄は「長男」、「二女」等
と、非嫡出子のそれは「子」と、それぞれ記載することと定めており、これに従わ
ない市町村もなかったわけではないが、一般的にはこれに従って続柄の記載がされ
ていたものと認められ、被上告人武蔵野市長も、右の定めに従って本件の続柄の記
載をしたというのである。右の定めは、戸籍法が嫡出子と非嫡出子とを区別して戸
籍に記載すべきものとしており(同法四九条二項一号、同法施行規則三三条一項、
附録六号)、住民票と戸籍とが多くの記載事項を共通とする密接な関係を有するも
のである(住民基本台帳法一九条、同法施行令一二条二項等参照)ことにかんがみ
て、住民票においても戸籍と同様に嫡出子と非嫡出子とを区別して続柄の記載をす
ることとしたものと考えられるのであり、憲法一四条や所論引用の条約等の規定を
考慮に入れるとしても、右の定めが明らかに住民基本台帳法の解釈を誤ったものと
いうことはできない。
 以上によれば、所論指摘の事情を併せ考慮したとしても、被上告人武蔵野市長は、
職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と本件の続柄の記載をしたというこ
とはできないものというべきである。したがって、右記載が上告人らの権利ないし
利益を害するか否かにかかわりなく、同被上告人の右行為には国家賠償法一条一項
にいう違法がないというべきであるから、上告人らの同項に基づく請求は、理由が
ない。これと結論において同旨の原審の判断は、是認するに足りる。論旨は、独自
の見解に立って又は原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法を主張
するものであって、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   出   峻   郎
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛