弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 被告が原告に対し昭和六三年三月三一日付でした私立各種学校Aの設置を認可
しない旨の処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は学校法人であり、被告は福岡県内の私立各種学校の設置を認可する権限
を有するものである。
2 原告は、被告に対し、昭和六二年七月三一日、同六四年四月開校予定の私立各
種学校「A」(北九州市<地名略>所在。以下「小倉校」という。)の設置認可申
請をしたが、被告は、原告に対し、同六三年三月三一日、これを認可しない旨の決
定(以下「本件処分」という。)をした。
3 しかし、本件処分は、以下のとおり、違法であるので、その取消しを求める。
(一) 旧憲法下では、私立学校は、国家的独占にかかる学校教育権の特許を受け
てのみ設置することができるものと解されていた。しかし、学問の自由ないし教育
の自由が認められている現行憲法下では、私人にも原則的に私立学校設置の自由が
存するものと解される。無認可の各種学校の存在が禁止されていないことはその例
証である。
また、教育を受ける権利の保障のため、国民は、自ら志望する大学・高校へ進学す
ること及びそのために最も自分にふさわしいと考える予備校に入学することも等し
く保障されるべきである。
(二) 学校教育法(以下「学教法」という。)八三条二項、四条によれば、各種
学校の設置については監督庁の認可を受けなければならないこととされる。同法に
は認可を拒絶することのできる場合の定めはないのであるが、同法の趣旨に鑑みれ
ば、この認可制度は、教育を受ける権利を実質的に保障するため、設置される各種
学校の設備及び編制等が一定の水準を満たすようにするため設けられたものと解さ
れる。
すなわち、学校設置は、原則として何人も自由になしうべき行為と解すべきである
が、これを無制限に認めると、物的設備や人的配置などが劣悪不十分な学校の設置
により、学生に多くの不利益を与え、公益に反することとなるところから、国は、
一定の基準に満たない学校の設置を例外的に認可せず、また、不認可にも拘らず教
育を続ける者に対して教育の禁止を命令することができる(学教法八四条二項)。
しかしながら、右認可制度は、公益保護のため、教育の自由を例外的に制限するも
のであるから、その解釈と運用も、その観点から制限的に行われなくてはならな
い。従つて、水準を満たす限り、学校の設置を認可しなければならないことは当然
であり、そうとすると、学校の設置認可の法的性質は、基本的には行政法学上の認
可と解すべきである。このことは、学教法八四条一項本文が、いわゆる無認可校の
存在を前提として、これに対して専修学校又は各種学校としての認可申請を勧告す
べきものとしていること、すなわち、学校形態による教育が行われることを当然の
前提とし、これを積極的に学校として認可しようとしていること(特許と解すると
きは、そのような教育を行うことを禁止しなければならない。)からも明らかであ
る。
(三) 小倉校は、各種学校規程(昭和三一年一二月五日文部省令第三一号)等に
定める基準をすべて充足している。
(四) 本件処分において、被告がその理由として挙げるのは、(1)福岡県内の
大学等に進学する予備教育を行うことを目的とする専修学校及び各種学校の状況、
(2)今後の中学校卒業予定者の見込みから予測される入学予定者の推移等、の二
点である。
しかし、右の二点はいずれも本件処分の理由とはなりえない。
(1) 右(1)は、福岡県内の既存予備校の経営の安定をいうものと解されると
ころ、前記認可制度の目的は、右(二)にみたとおりであつて、既存予備校の経営
利益の保護にあるのではない。私立学校の経営基盤の安定については、私立学校振
興助成法が制定されて配慮がなされているうえ、私立学校の競業設置を認めること
は、かえつて、各校に教育の独自性や特色を備えさせ、教育水準が向上することが
考えられる。他方、既存予備校の経営利益の保護を考慮すると、独占的利益を安易
に容認し、既存予備校の教育水準を維持する努力を損わせるおそれすら生じる。北
九州市についてこれをみるに、同市の既存予備校の認可定員計三八五〇名中北九州
予備校(二校)が三三〇〇名を占めているのであつて、本件処分が北九州予備校の
独占的利益を安易に容認する結果となることは明らかである。
以上のとおりであるから、右(1)を設置認可の基準として考慮することは許され
ない。
(2) 今後予測される入学予定者の推移(前記(2))を考慮してみても、福岡
県内ないし北九州市内の予備校の定員が、小倉校の設置によつて過剰になるような
ことはなく、既存予備校に影響を与えるようなことはない。
まず、福岡県内の予備校に入学する生徒の出身地は山口県と九州全県に及ぶもので
あるところ、原告が設置している予備校B全校の昭和六三年の生徒のうち、北九州
市周辺の出身者が七〇〇名、山口県の出身者が四〇〇名、大分県出身者が二〇〇名
で、その合計が一三〇〇名であり、小倉校の申請定員一二六〇名を上回つている。
また、B全校の生徒のうち、山口県及び九州全県の出身者は合計三七三二名である
ところ、このうちC(以下「福岡校」という。)の在籍者一八〇七名を除いた一九
二五名が小倉校に入学可能であり、従つて、仮に将来二五%の生徒減(全国の一八
歳人口は、平成四年に二〇五万人、同一四年には一五〇万人と予測される。)が生
じるとしても、なお一四四三名の入学が確保されることとなる。
なお、福岡県内の予備校の立地としては、福岡市と北九州市の二地区があるが、福
岡市と北九州市とは人口がほぼ同じであるにも拘らず、前者における予備校数七
校、認可定員合計九七八〇名(久留米市を含めると、それぞれ一〇校、一万一〇〇
〇名余)に対し、北九州市では、それぞれ四校、三八五〇名に過ぎず、いずれの点
においても、北九州市は福岡市に比べて極めて少ないのであり、このような具体的
状況を無視して、福岡県全体をひとまとめにして論ずべきではない。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
(認否)
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 (一)同3(一)前段は争い、後段は認める。
(二) 同3(二)、(三)はいずれも争う。
(三) 同3(四)のうち、福岡市及び北九州市の予備校数及び認可定員並びに北
九州予備校の認可定員がそれぞれ原告主張のとおりであることは認め、その余は、
本件処分において、処分理由として、福岡県内の大学等に進学する予備教育を行う
ことを目的とする専修学校及び各種学校の状況並びに今後の中学校卒業予定者の見
込みから予測される入学予定者の推移等の二点を挙げたこと、Bの在籍者数及びそ
の内訳並びに小倉校の申請定員数を除き、すべて争う。
なお、福岡市における認可定員が北九州市におけるそれよりも多いのは、伝統的な
都市としての発展経過や都市圏としての人口、地域色を反映してのことであつて、
単純に両市の人口比率に応じた定員を認可しなければならないものではない。
(主張)
1 各種学校認可の法的性質は、行政法学上の特許である。
私立各種学校の設置については、監督庁たる都道府県知事の認可を受けなければな
らないとされているが、その法的性質は、行政法学上の分類による特許(設権行
為)と解される。なぜなら、学教法一条に定める学校(以下「一条校」という。)
を設置することが本来何人でも自由になしうべき行為とは解されないものであると
ころ、各種学校についても、一条校と同様認可が要求されている以上は、同様に解
すべきであり殊に、本件における認可の対象は予備校であつて、一条校である高等
学校とその教育内容においても重複ないし補完する関係にあるからである。
ただし、私立学校の設置は、私学教育を受ける自由に対応することが考えられるた
め、右の認可は、特許といいながらも、いわゆる羈束裁量行為に属するものと解さ
れる。
2 (一)各種学校については、学教法施行規則七九条に基づいて定められた各種
学校規程の適用があるところ、同規程二条は「各種学校は、この省令に定めるとこ
ろによることはもとより、その水準の維持、向上を図ることに努めなければならな
い。」と、同九条一項は「各種学校の位置は、教育上及び保健衛生上適切な環境に
定めなければならない。」と、それぞれ定めている。また、同規程の趣旨につい
て、文部事務次官通達(昭和三一年一二月二七日文管振第四五三号)は、「1制度
の趣旨」の(4)において、「一部の各種学校について、従来批判のあつた営利的
傾向について規制を加え、各種学校が良心的教育的に運営されるべきことを規定し
たこと。」としている。
以上の規定等を総合すると、各種学校の設置にあたつては、適正配置を考慮すべき
であり、この適正配置の重要な要素として、同種の各種学校間の過当競争の防止が
包含されているものと解される。過当競争によつて地元中小予備校の経営不振に伴
う教育水準の低下がもたらされることは避け難く、さらに、地元中小予備校が休・
廃校に追い込まれるようなことになれば、生徒の選択の幅を狭めることにもなるか
らである。
(二) また、高等学校については、高等学校設置基準(昭和二三年一月二七日文
部省令第一号)が定められているが、具体的な基準の設定については、都道府県監
督庁に、学教法の目的を実現するため、当該地域の実情に応じた比較的ゆるやかと
も思える裁量権が認められている(同基準二、三条参照)。このことは、当該監督
庁が知育をはじめとする人格の完成をめざす高等学校教育(学教法四二条参照)に
おいて、当該地域民に対し、適切な就学の機会を確保するとともに、健全な高等学
校教育の発展のために適切な措置を講じうることを示している。
ところで、高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、
高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする(学教法四一条)ものである。
他方、各種学校は、学校教育に類する教育を行う教育施設であり、その一である予
備校は、一次的には、大学受験生に対し大学受験に必要な学科を教授し、これに合
格できる学力の完成を目的とするものであるが、併せて、生徒の教養を高めること
をもその目的としているものである(B学則一条参照)。従つて、予備校における
教育の目的及び内容は、高等学校におけるそれと重複ないしはそれを補完するもの
といえるのであり、このことに照らせば、予備校の設置については、形式的には高
等学校設置基準の直接の適用はないにしても、これを十分に考慮して行うべきもの
と解される。
(三) そこで、小倉校の設置が福岡県内の予備校における教育に及ぼす影響につ
いて検討する。
いわゆる地元校は、全国規模の予備校(以下「大手校」という。)が福岡県に進出
する以前の昭和五五年には一九校あつたが、大手校進出後の昭和五六年及び同五八
年には地元校がそれぞれ一校廃校し、また、同五九年、同六〇年及び同六二年には
それぞれ一校が休校したため、昭和六三年教育活動をしている地元校は一四校に減
少した。また、県内の予備校生の総数は、ほぼ一万一〇〇〇ないし一万二〇〇〇名
で推移しているが、福岡県内の大手校が二校となつた昭和六一年には、大手校の在
校生が約三九〇〇名に対し地元校が約八〇〇〇名、同六二年には大手校約四四〇〇
名に対し地元校が約八一〇〇名と、大手校が三分の一を占めるに至つており、特
に、大手校の位置する福岡地区においては、大手校が約六〇パーセントを占めるに
至つている。
以上の状況に加え、予備校に入学する生徒の数は将来大幅に減少することが予想さ
れるのであるから、この上さらに小倉校の設置を認めることは、地元校の衰退に拍
車をかけ、福岡県内の受験生の選択の幅を狭めてその学ぶ自由を抑制するととも
に、教育の質の低下を招くことは避けられない。
なお付言するに、原告は、Cの設置にあたつて認可された定員を著しく超えて生徒
を入学させている。すなわち、原告は、昭和六一年に福岡校を設置する際、被告に
対し、認可定員を厳守する旨確約したにも拘らず、設置当初から別科を利用して定
員を潜脱し、別科の定員七五〇名に対し、八六二名の入学を許し、うち五〇〇名前
後(推定)については本科同様の扱いをしていた(本科については、認可定員七五
〇名に対し八九七名を入学させている。)。さらに、本科定員七五〇名に対し、昭
和六二年には一七九八名、同六三年には一八〇七名を入学させ、別科を用いること
もせずに堂堂と定員破りをしている。
3 福岡県内には、すでに、原告の設置した福岡校が存在し、福岡県内でBの教育
を受けることは現状でも可能である。北九州地区から福岡校への通学時間は一時間
余であるから、通学圏内にあるといえる。従つて、小倉校の設置不認可が北九州地
区の学生に特に不利益を与えるものとは思われない。
4 被告は、私立学校法八条に基づいて、小倉校の設置認可につき、福岡県私立学
校審議会に意見を求め、同審議会は昭和六三年三月二九日、全員一致で、認可する
ことは適法でない旨の答申をした。
5 以上によれば、本件処分は適法であつて、何ら取り消す理由はない。
三 被告の主張に対する認否及び原告の反論
1 被告の主張1は争う。
2 (一)同2(一)は主張の規則、規程、通達の存することは認め、その余は争
う。
まず、被告主張の文部事務次官通達の条項と被告主張の適正配置との間には何の関
連もない。
次に、各種学校規程二条に定める「水準の維持・向上」を被告主張の適正配置の根
拠とすることもできない。学校間の良い意味での競合・競争が水準の維持・向上を
もたらすのであつて、特定の予備校が行政に働きかけて他の予備校の認可をさせな
いことにより独占的経営をするならば、その予備校は水準の維持・向上を怠り、受
験生に不利益をもたらすことになる。
さらに、同規程九条一項に定める「位置」の条項は、教育を受けるに相応しい環境
の場所に学校を設置すべしという都市環境的配慮を求めているに過ぎず、これをど
のように読んでも、中小予備校の経営不振を配慮すべしとしたものとは到底いえな
い。
各種学校が自由な競争により切磋琢磨し、その結果ある各種学校が廃校に至つたと
しても、それは止むを得ないものであつて(文部省高官も同意見である。)、その
結果受験生は何らの迷惑を被るはずがないのであり、逆に合理的根拠のない適正配
置なる基準を理由に自らが学びたい学校での授業を受けられないこと以上の不利益
はない。
(二) 同2(二)は争う。
高等学校設置基準に適正配置条項が存在するかの議論は措くとしても、予備校と高
等学校との教育内容が同質であるからその配置基準も十分に考慮しなければならな
いという議論は、監督庁が学校教育のあらゆる分野で「同質」という極めて曖味な
基準によつて対応することを容認することになり、教育の自由への行政の介入の危
険があるばかりでなく、予備校に対する公的助成も、高等学校に対すると同様に行
うべきことになるなど、現場に大きな混乱を生じさせるおそれがある。
また、一条校は、各種学校とはその目的・規制が異なる。
(三) 同2(三)のうち、Cの本・別科の認可定員及び入学者数は認め、別科生
のうち五〇〇名前後の実態が本科生と同様との事実は否認する。その余はすべて争
う。福岡校の昭和六一年の本科入学者は県の指導方針の許容範囲内であるし、同六
二年、六三年については、原告が予め被告に対してした定員増申請及びこれに関す
る交渉経過を踏まえたものである。また、仮に被告主張のような休・廃校があつた
としても、それが直ちに大手校の設置に起因するものとはいえない。
3 同3は争う。小倉駅から博多駅までの普通電車による所要時間は片道一時間二
七分であり、駅までの時間を考慮すると往復四時間は要することとなるうえ、定期
代が一か月一万五〇五〇円必要となり、このような時間的・経済的負担は受験生に
とつて著しい不利益というべきである。
4 同4の事実は認める。
しかし、同審議会の答申も被告主張と同様適正配置を理由とするものと考えられる
から、本件処分の理由に対する批判がそのままあてはまる。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。
二 学校教育法(学教法)は、四条で一条所定の学校(一条校)の設置等について
監督庁の認可を要するものと定め、八三条二項でこれを同条一項の各種学校に準用
し、私立各種学校にあつては、同法三四条、私立学校法四条二号、六四条一項及び
五条一項一号により、都道府県知事が右認可等の権限を持つものとされている。
ところで、この各種学校の設置認可の実体的要件について、学校法及び私立学校法
は具体的な基準を定めておらず、学教法及び同法施行規則を受けて制定された各種
学校規程(昭和三一年一二月五日文部省令第三一号)が、各種学校の施設、設備、
教員組織等について基準を定めているのみである。
そこで、この点につき検討するに、まず、一条校における教育は、教育基本法六条
にいう公の性質をもつものとして国が相当程度その運営に関与することが同法及び
学教法上予定されているのに対し、各種学校における教育は学教法上これと明確に
区別されていること、即ち、一条校においては、学教法が、これを設置できるもの
を国、地方公共団体及び学校法人に限定するとともに(同法二条)、各学校の種類
ごとにその目的、性格、修業年限、組識編制等について体系的に規定しているのに
対し、各種学校については、同法の雑則中に規定を置き、設置の認可等一条校に関
する若干の規定を準用するほか、必要な事項は監督庁がこれを定めるものとしてお
り(同法八三条)、設置についての人格上の制限もない(各種学校には同法二条の
準用がない。)等一条校に比べその取扱いに格段の差異があること、そして、同法
及び各種学校規程の趣旨に照らせば、各種学校の設置等を監督庁の認可にかからせ
たのは、その教育水準の維持、向上を図ることによつて、そこに学ぶ生徒の教育を
受ける権利を実質的に保障することにあると解されること、更に、憲法上職業選択
の自由が原則的に認められ、また、公の性質をもつ教育にあつても私学教育の自由
が一定限度認められること(最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三
〇巻五号六一五頁参照)に鑑みれば、少なくとも私立各種学校に関する限り、その
教育活動は原則として自由と解され、さすれば、設置認可を受けるための要件とし
ては、学校教育に類する教育を行うもの(専修学校の教育を行うものを除く。)
で、原則として各種学校規程に定められた基準を満たすものであることをもつて足
りるというべきであり、同規程に定める要件を満たすか否かの判断につき、各種学
校に学ぶ生徒の教育を受ける権利を実質的に保障するとの観点から知事に一定の裁
量権のあることは当然であるが、それ以外の事情を考慮することは許されないもの
というべきである。
三 以上の判断をもとにして、以下本件処分の違法性の有無を検討する。
1 (一)成立に争いのない甲第二号証によれば、被告が原告に対し通知した本件
処分の理由は、「福岡県内の大学等に進学する予備教育を行うことを目的とする専
修学校及び各種学校の状況並びに今後の中学校卒業予定者の見込みから予測される
入学予定者の推移等から勘案すると、当該設置計画は現状では適当でないものと認
められる。」とするものであつたことが認められる。
右の理由の趣旨は、それのみでは必ずしも明確でないが、被告の主張によれば、県
内における認可定員の過剰をもたらすような予備校の設置、殊に原告申請の小倉校
のような大手校の設置は、将来入学対象者の減少が見込まれる現状においては、予
備校間の過当競争による大手予備校の独占経営ないし生徒の大手校への偏在となつ
て中小規模の地元校の経営難、延いてはその休廃校をもたらし、これらは教育水準
の低下、生徒の選択の幅を狭める等の結果を招来し、生徒の教育を受ける権利を実
質的に阻害するおそれが存するから、認可にあたつてはその点を考慮した「適正配
置」を考えるべきであるという点にあるもののようである。そこで、以下、これを
本件処分の理由とみて、このような事柄を予備校設置の認可の可否を決するに当た
つて考慮することが許されるかどうかという観点から、検討することとする。
(二) まず、小倉校の設置が福岡県内の予備校における教育の水準に及ぼす影響
について検討するに、小倉校の設置によつて福岡県内の予備校間に現在より激しい
競争がもたらされ、その結果仮に一部の予備校について経営難が生じたとしても、
そのことによつて直ちに県内の予備校の教育水準が全般的に低下するとは考え難
く、むしろ、競争が生じることにより、既存の各予備校においても生徒獲得のため
の努力が必要となるため、各予備校の特色が明らかになり、あるいは教育水準が向
上することが期待される。また、仮に一部の予備校について経営難から教育水準の
低下が生ずることがあるとしても、予備校においては他校に転学することは容易で
あり、総体的には競争による利益がこれに優るものと思料される。
次に、被告の主張は、小倉校が設置されると、従来なら地元校に入学するはずであ
つた相当数の生徒が、小倉校を選択することを前提にしたものと解するほかはない
ところ、小倉校の設置が認可されないことによつて、これらの生徒の選択の幅が狭
められることになることを考えれば、本件処分が生徒の選択の幅を保障するもので
ある旨の被告の主張は、合理的とは解されない。
また、被告は、小倉校の設置が大手校による独占をもたらす旨の主張をするが、そ
もそも、独占の有無は、特定の一校の全体に対する割合をもつてはかるべきもので
あるから、被告の主張するように、県内の予備校を大手校と地元校に分類してその
比率をみることは意味のないものというほかないうえ、北九州市内の予備校の現在
の認可定員合計三八五〇名のうち、北九州予備校の認可定員が三三〇〇名であるこ
とは当事者間に争いがないので、結局この点についての被告の主張も不認可の理由
として肯認することのできるものとはいい難い。
(三) 次に、被告は、各種学校規程二条、九条一項及びその存在及び内容につい
て当事者間に争いのない文部事務次官通達(昭和三一年一二月二七日文管振第四五
三号)「1制定の趣旨」(4)を根拠として、設置認可に関する処分に際し前述し
たように「適正配置」を考慮すべき旨主張する。もつとも、被告の主張する処分理
由は、福岡県全体の認可定員を問題にするものであり、右主張による限り、福岡県
内では、その場所のいかんに拘らず、設置の認可は受けられないこととならざるを
得ないのであるから、これをもつて「適正配置」の問題であるというのは用語とし
ての正確性を欠くというべきではあるが、この点はともかく、右の各規定中、設置
の位置について直接定めているのは各種学校規程九条一項(「各種学校の位置は、
教育上及び保健衛生上適切な環境に定めなければならない。」)のみであるとこ
ろ、同条項は、個々の各種学校が、それ自体として、適切な環境の中に設置される
べきことを定めたに止まるのであつて、他の同種校との関係についてまで定めたも
のと解することは到底できない。また、同規程二条(「各種学校は、この省令に定
めるところによることはもとより、その水準の維持向上を図ることに努めなければ
ならない。
」)や前記文部事務次官通達「1制定の趣旨」(4)(「一部の各種学校につい
て、従来批判のあつた営利的傾向について規制を加え、各種学校が良心的教育的に
運営されるべきことを規定したこと。」)も、各種学校それぞれが、各自の経営努
力によつて、その水準の維持、向上や良心的教育的運営を図るべきことを定めたも
ので、これを設置することが同種校の水準や運営姿勢に影響を及ぼすことを理由
に、否定的な評価をする余地を残した規定であるとは考えられないところである。
なお、被告は、予備校における教育の目的及び内容は、高等学校における教育の目
的及び内容と重複し、あるいはそれを補完するものであるから、予備校の設置認可
に関する処分にあたつては、高等学校設置基準(昭和二三年一月二七日文部省令第
一号)を十分考慮すべき旨主張する。しかし、高等学校設置基準中に、被告の主張
する適正配置の根拠となるべき規定を見出すことはできないうえ、そもそも、高等
学校を含む一条校と各種学校とは、前記のとおりその法的地位に明確な差異があ
り、この差異に応じて、これらに対する規制も異なるべきことを法が当然に予定し
ているものと解せられるのであるから、高等学校設置基準を各種学校たる予備校の
設置認可に関する処分にあたつて当然に考慮すべきものということはできない。
以上のとおり、被告が挙げる各規定は被告の主張を支えるものではなく、各種学校
規程上、他に被告主張の処分理由を積極的に基礎づける規定を見出すことはできな
い。
2 なお、本件処分の理由は、実質的には、福岡県においては予備校の定員が十分
であるから新しく設置する必要がないこと、あるいは、小倉校の設置によつて影響
を受けるべき地元校の経営基盤の保護にあるものと解されないではない。
しかしながら、被告は、福岡県においてすでに予備校の定員を充足する状態にある
ことについて具体的な主張をしていないばかりか、そもそも前述したように各種学
校設置認可の制度は、その教育水準の維持、向上を図ることによつて、そこに学ぶ
生徒の教育を受ける権利を実質的に保障することをその目的とするものと解される
から、単に必要がないとの理由で設置を不認可とすることは、いたずらに生徒の選
択の幅を狭めるものとして許されるものではなく、また、他の各種学校の経営基盤
の保護をその目的とすることが許されないこともすでに述べたところから明らかで
ある。
3 被告は、原告が設置した福岡校において、認可定員を大幅に超過する生徒を入
学させている旨主張しているところ、その主張の趣旨は明確ではないが、強いて善
解すれば、原告には各種学校の設置者としての適格がないとの主張とみられないで
もない。
そこで検討するに、福岡校における認可定員(本科生)が昭和六一年から同六三年
まで七五〇名であつたこと、これに対し、原告が実際には、同六一年には八九七
名、同六二年には一七九八名、同六三年には一八〇七名を入学させたこと及び同六
一年には別科の定員七五〇名に対し八六二名を入学させたことはいずれも当事者間
に争いがないが、そもそも各種学校の設置者としての適格の有無は過去の教育の実
績その他諸事情を総合して判断されるべき事柄であつて、右認定の事実のみをもつ
て原告につき適格がないものとすることはできない。
4 以上によれば、被告の主張する本件処分の理由は、各種学校規程に根拠を有せ
ず、結局本件処分は、考慮すべきでない事項を考慮してなされたものとして、違法
のものというべきである。
四 以上によれば、原告の本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負
担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 堂薗守正 倉吉 敬 久保田浩史)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛