弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
被申請人が昭和五二年三月三〇日申請人に対してなしたA及びBについてのa保育
所への入所措置決定処分の効力を本案(当庁昭和五二年(行ウ)第一〇号)判決確
定に至るまで停止する。
申請費用は被申請人の負担とする。
○ 理由
(申請の趣旨及び理由)
申請の趣旨は主文掲記のとおりであり、その理由は別紙一に記載のとおりである。
(被申請人の意見)
別紙二に記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
一 当事者双方の一致した主張及び本件各疎明資料(申請人C、同人の妻D各審尋
の結果を含む。)によれば、申請人は長男A(昭和四八年九月三日生)、長女B
(昭和五〇年一二月三日生)の両名(以下「本件児童」という。)を児童福祉法所
定の措置として保育所に入所させるよう被申請人に申込んだところ、被申請人は昭
和五二年三月三〇日本件児童をa保育所に入所させて保育する旨の措置決定をした
こと、申請人は同和地区内に居住し、その住居から約三メートルの道路を隔てた真
向いにE市立b市民館保育所(以下「本件保育所」という。)があつて、従前より
同和地区住民の児童が多く入所していたが、E市においては昭和四九年四月本件保
育所を他に五個所の保育所とともに同和保育所と定め、同和地区住民の児童のみを
これに入所させることとし、同和地区児童であるかどうかの判別の資料とするた
め、同和保育所への入所を希望するものに対し部落解放同盟c地区協議会(以下
「解同c地協」という。)の確認を得させる(具体的には、用紙欄外に解同c地協
の確認印が押捺された保育料滅免申請書を提出させる)という取扱いを始めたこ
と、申請人は解同c地協b支部に所属し、その役員をつとめたこともあり、従前長
男Aを本件保育所に入所させるにあたつては、E市の定めた右のような取扱いに従
つて保育申込みをしていたこと、昭和五一年五月二二日いわゆる「狭山差別裁判」
反対のための同盟休校が実施された際、これに先だつて解同c地協の役員が同b支
部に来て中央の方針について意見を徴したのに対し、申請人及び妻Dは、このよう
な運動に幼児を巻き込むのは好ましくないとの考えから反対意見を述べ、同盟休校
の当日もAを本件保育所に通園させたこと、ところが、b同和地区住民の中には申
請人と意見を同じくして子弟、児童を休校させなかつた者が相当数居たのである
が、その後間もなく申請人のみがみせしめと称して解同c地協を除名され、しか
も、右除名なるものは本人の不知の間に行われて正式の通知もなく、申請人として
は不服を申立てる有効な方途もないまま事実上の不利益を甘受せざるをえない状況
であつたこと、そこで、申請人は、昭和五二年二月、Aの保育所継続入所及びBの
同新規入所を被申請人に申込むに際し、右の事情を告げて相談をしたところ、本件
保育所への入所を希望するなら解同c地協の確認印を得て来るよう担当職員から勧
められたのであるが、申請人は、自ら不当と信ずる解同c地協の処置に屈する結果
となることを潔しとせず、右確認印を得て来なかつたため、被申請人は、本件児童
をa保育所に入所させる旨の本件措置決定をなすに至つたこと、本件保育所は申請
人の住居に真近く、Aは既に二年間本件保育所に通園して来たことは前記のとおり
であつて、いまa保育園に移るとなれば近所の子供達や、これまで親しんで来た保
母等とも別れなければならず、その幼い心に与える影響は憂慮すべきものがあるこ
と、新規に入所するBについても、兄や近所の子供達と一諸に直ぐ近くの本件保育
所に通園するにつき他に何らの支障がないのにかかわらず、遠方のa保育所に通園
しなければならない不利益は大きいこと、
以上の各事実を一応認めることができる。
右認定事実に照らして考えれば、回復の困難な損害を避けるために本件入所措置決
定処分の効力を停止する緊急の必要があるとするのが相当である。
二 被申請人は、本件処分は被申請人の裁量権の範囲内においてなされた適法なも
のである旨種々主張するが、前認定のような理由と経緯でなされた申請人の団体除
名が不当であることは明瞭であり、かつ本件児童がいわゆる属地属人的にも同和事
業所象者であることに疑いがないのにもかかわらず、なお解同c地協との協議、確
認がなければ本件児童を同和保育の対象とすることができない旨の被申請上の主張
については、本件全疎明によるもこれを首肯するに足る根拠を見出し難いのであつ
て、そうである以上、本件をもつて本案につき理由がないとみえる場合に該るとな
すのは相当でない。
なお、被申請人は、本件処分の効力が停止されると本件児童を保育すべき保育所が
存在しないこととなり、却つて回復困難な損害を生ずると主張するけれども、本件
児童について保育所入所措置が必要であること自体は争いがないところであるか
ら、本件児童をa保育所に入所させる旨の本件処分の効力が停止された暁には、被
申請人において更に本件児童を適切な保育所に入所させる措置をとるにつき法律上
の妨げとなるものはないと解すべきであり、被申請人の右主張は採るをえない。
三 以上の理由により、申請上の本件申請を理由ありと認め、申請費用は被申請人
に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 南 新吾 小川良昭 辻 次郎)
別紙一
申請の理由
1 申請人は児童A及びBの保護者として児童福祉法二四条により右両者の保護委
託をなしうる者であり、被申請人は同法三二条二項、E市福祉事務所長事務委任規
則(昭和三八年規則三〇号)により児童を保育所に入退所させる等の措置権限を有
するものである。
2 申請人は昭和五二年二月一〇日被申請人に対し、Aにつき保育所入所の継続
(同児童は昭和五〇年四月一日以降E市立b市民館保育所に入所していた。)、B
につき新規入所の申込をなし、入所すべき保育所を右b市民館保育所に希望したと
ころ、被申請人は、右保育所は同和地区保育所である関係上、これに入所するには
入所申込書のほかに部落解放同盟c地区協議会の確認印を付した保育料滅免申請書
の提出が必要であると称して申請人の右希望を容れず、昭和五二年三月三〇日申請
人に対し右児童両名について私立a保育所への入所措置決定をなした。
3 申請人は昭和五一年五月二二日の「狭山裁判同盟休校」に反対し、部落解放同
盟を除名されたものである。
部落解放同盟の確認印がなければ同和地区の保育所に入所できないとのことは、も
とより法令上の根拠を有するものではなく(なお、申請人の世帯は生活保護を受け
ており、保育料は当然に免除されるので、保育料免除申請書の提出を求めるのは右
確認印を得させるための手段にすぎない。)、E市がとつているいわゆる「窓口一
本化」の方針に基づく。しかし、この方針によれば、部落解放同盟の方針に従わな
い者は事実上同和行政の恩恵から締め出されることとなる。本件はまさにこの場合
に該当し、かくては行政当局が自らなすべき業務を部落解放同盟に売り渡し、これ
を私物化させるに等しいと言わなければならない。
従前、同和地区の児童が同和保育所への入所を拒否された事例はなかつたし、市立
保育所に通園していた児童が当局の一方的な措置により転所させられた例もない。
また、b市民館保育所の定員は一二〇名であるのに対し、昭和五二年四月二日現在
の入所者は一〇〇名であつて、本件児童二名を入所させるのに何の問題もない。
以上のとおり、被申請人がなした申請人の児童らのa保育所への入所措置決定は、
明らかに同和対策事業特別措置法の目的に反し、憲法一四条一項、地方自治法一〇
条二項、一三八条の二に違反することが明らかであり、仮に保育所の指定が被申請
人の裁量に属するとしても、裁量の範囲を逸脱した違法がある。
4 Aが昭和五二年三月末日まで満二年間b市民館保育所に通園していたことは前
記のとおりであり、同人の友達はすべて同保育所に通園している。しかも、本件児
童らの住居は約三メートルの道路をへだてて同保育所のすぐ前にある。Bはまだ幼
いが、近所の子供が全部同保育所へ行くのに何故自分だけがa保育所に行くのかを
考える日が必ず来る。
保育所は単に子供を預ける場所ではなく、養護と教育を一体化し、人間性豊かな児
童の育成を目的とするものであり、被申請人の本件措置決定は児童福祉法一条二
項、二条、二四条に違反することが明らかである。
5 申請人は本件保育所入所措置決定の取消を求める訴えを提起したが、右決定が
本件児童らに与える影響はもとより金銭をもつて償うべくもなく、また、本案訴訟
が確定するまでに本件児童らが保育所入所の年齢を超えるならば、本件訴えの目的
を達しえないこととなる。
よつて、右のような回復困難な損害を避ける緊急の必要があるので、主文掲記のと
おりの裁判を求める。
別紙二
被申請人の意見
1 申請の理由第1、2項は認める。ただし、被申請人がAについての入所申込を
受けたのは昭和五二年二月一六日、Bについてのそれは同月九日である。
同第3項中、申請人が部落解散同盟を除名されたことは知らない。b市民館保育所
の定員及び入所者数、同和保育所への入所を拒否した事例がない(従前、すべての
場合について後記関係団体の確認が存在した。)ことは認める。本件処分が違法で
あるとの主張は争う。
同第4項中、Aが申請人主張の期間b市民館保育所に通園していたこと、申請人の
住居がその主張の場所にあることは認めるが、その余の事実は知らない。本件処分
が違法であるとの主張は争う。
2 本件児童二名に対するa保育所入所措置決定は適法であり、申請人の本案の訴
えは理由がない。
(一) E市における児童福祉法による保育所への入所の措置は、厚生省児童局長
昭和三六年二月二〇日児発第一二九号通達に則り、毎年四月と一〇月に六か月の期
間を定めて保育所入所措置決定をなし、期間満了後更に保育に欠ける事由がある場
合は再度入所申込をさせ、措置理由があると認められるときは新たに六か月の期限
を定めて入所措置決定をすることにしている(ただし、一〇月の時点での引き続い
ての入所措置決定は、措置継続通知書という様式で申込者に通知している。)。
申込者の児童につきどの保育所に措置するかは、あくまで被申請人の裁量事項であ
る。申込者から希望がある場合は希望保育所を三箇所まで申出させることにしてい
るが、被申請人はこれに拘束されることなく、これを参考としながらも、当該児童
の保育の面での配慮並びに保育行政全般の適切な運用を図る観点から、被申請人の
権限において、措置する保育所が決定されるのである。
申請人は、A及びBの保育所入所申込に際し、いずれもb市民館保育所を希望し
た。しかし、同保育所は同和保育所であつて、ここに入所措置決定するためには、
その判断資料として、申込者及び児童が同和教育になじむかどうかについて地区の
関係団体との話合い協議が行われていることが必要であるため、これを証するもの
として関係団体の確認印の押捺された書類(保育料減免申請書を併用し、これに押
捺させる取扱にしている。)の提出を求めたが、申請人からその提出がされなかつ
た。
そこで、被申請人は、本件児童につき同和教育になじむかどうかの確認が得られな
いので、同和保育所への入所措置は適当でないと判断したが、措置理由はあるもの
と認め、右保育所以外で定員計画上三歳未満児(B)と三歳以上児(A)が同時に
入所できる保育所のうち本件児童にとつて通園距離が最も近いa保育所に入所措置
の決定をしたのである。
右のとおり、本件入所措置決定は被申請人の裁量の範囲内で適正に行われたもので
あり、何らの違法はない。
(二) 同和問題の解決はE市政の重要課題の一であり、同対審答申及び同和対策
事業特別措置法に則り同和対策事業を積極的に推進しているが、その一環として保
育行政の面でも同和地区に特に同和保育所を設置している(同和保育所の建設には
同和対策事業における特別の補助金が国からも支給され、保母の定数も一般保育所
より多い。)。同和地区においては、親が受けて来た差別が乳幼児に受け継がれる
結果としてその心身の発達が阻害されており、同和保育所はこの乳幼児を取りまく
部落差別を積極的に解消して行くことを使命とし、目標としている。その保育内容
は、その乳幼児が置かれた生活の現実を踏まえ、系統的かつ科学的に創造して行く
必要がある。
同和保育所における保育は単に保育所内における一定時間保育(八時間保育)のみ
によつてなしうるものでなく、家庭と地域と保育所とが三位一体となつて始めて達
成できるものである。したがつて、保育の内容も、保育所と親と地域の三者が望ま
しい人間像を描き、統一した目標のもとに定められるものであり、乳幼児の一日二
四時間の生活を通して、しかも保育所と地域と親集団とが一貫して保育に取り組む
必要がある。同和保育所における保育は、地域と親集団との深い理解と協力がなけ
れば到底実施できないのである。
そこで、同和保育所への入所にあたつては、児童と保護者とが同和対象地域の人で
あり(属地属人主義)、かつ、同和保育に理解と協力を得られることが必要不可欠
となるのであるが、これらの事項は被申請人において判断することが不可能であ
り、地域の関係団体との協議がどうしても必要となるのである。そのために、被申
請人としては、保護者とその地区の関係団体との間でこれらの点につき協議が行わ
れ、そして関係団体によつてその確認がなされることをもつて、右の要件の有無に
ついての判断資料とせざるをえないのである。このことは、その関係団体に所属し
ているかどうかを問うものではなく、あくまでも右の趣旨での確認であつて、関係
団体に所属していない者でも、この確認を得て同和保育所に入所している例はいく
らもある。
(三) 被申請人は、申請人に対し、同和保育所を希望する以上は同地区の関係団
体である部落解放同盟c地区協議会と協議をするように再三指導したのにもかかわ
らず、申請人はその協議すら行わない。このことは、申請人が同和保育に全く理解
を示さず、協力もしないことの証左であり、被申請人としては、このような本件児
童につき同和保育所であるb市民館保育所に入所措置をすることは、前記のような
同和保育の趣旨に鑑み到底できないところである。
3 申請人には回復困難な損害はない。
被申請人が申請人の児童二名を入所措置したa保育所は申請人住居から約八〇〇メ
ートルの距離にあり、これはE市における保育所通園距離の平均である一、五〇〇
メートルよりもはるかに近く、また、同保育所は私立ではあるが、保育内容その他
すべての面において公立の保育所と何らの差異はない。
本件児童らは、新しい保育の場において、新しい友達と保母のもとで、更に人間性
豊かな成育が十分期待できるのである。それよりも、同和保育に理解と協力の得ら
れない保護者のもとで同和保育所に入所させられることの方が、却つて本件児童の
ために悪影響を与えることは明らかと言わねばならない。
更に、万一本件執行停止がなされたとすれば、本件児童を保育すべき保育所は全く
存在しないこととなるが、このような事態こそ、本件児童にとつて回復困難な損害
と言わなければならない。
以上の理由により、本件申立は理由がなく、却下されるべきである。

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