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         主    文
     原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。
     被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
     本件附帯控訴を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人。以下単に「控訴人」という。)代理人は、「原判決中、
控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審
とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに附帯控訴棄却の判決を求め、被控
訴人(附帯控訴人。以下単に「被控訴人」という。)代理人は、控訴棄却の判決を
求め、附帯控訴について、当審において請求を減縮し、「原判決を次のとおり変更
する。控訴人は被控訴人に対して金二〇万二三七八円及びこれに対する昭和三九年
一〇月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、
二審とも控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。
 被控訴人代理人は、請求原因として、
 「一、 国の公権力の行使に当る公務員である訴外島田税務署長Aは、その職務
を行なうについて、故意又は過失により違法に被控訴人に損害を加えた。すなわ
ち、
 (一) 被控訴人は、訴外三栄建設株式会社(以下単に「訴外会社」という。)
に対して和解調書に基づく金銭債権三五万円を有していたが、その執行保全のた
め、昭和三九年五月二八日静岡地方裁判所において、訴外会社が訴外静岡県に対し
て有する同県昭和三七年災害査定第四三二号地頭方海岸災害復旧工事請負代金二三
一万五〇〇〇円の残債権六五万八〇〇〇円(以下単に「本件債権」という。)の内
金三五万円の仮差押決定を得、同決定は同日第三債務者静岡県に送達された。
 (二) ところが、島田税務署長Aは、昭和三九年九月二八日、訴外会社が滞納
した源泉所得並びに法人税、同延滞税合計金九万三七六〇円を徴収するため、前記
のとおり一部仮差押中の本件債権の全額六五万八〇〇〇円につき国税徴収法に基づ
いて第三債務者静岡県に債権差押通知書を送達して差し押えた。
 (三) そして、同税務署長は、同年一〇月一二日静岡県から本件債権全額を取
り立て、前記滞納国税九万三七六〇円と交付要求により配当した静岡県地方税四万
一四七〇円との合計一三万五二三〇円を差し引いた残余金五二万二七七〇円を、被
控訴人に後れて本件債権の仮差押をし且つ控訴人を第三債務者として右残余金還付
請求権の仮差押をしていた訴外Bが後者の仮差押を取り下げた後、訴外会社(滞納
者)に交付した。
 二、 しかし、島田税務署長が滞納国税に優先する債権について交付要求されて
いる等の特段の事情がなく、本件債権のうち滞納国税と同額の金九万三七六〇円を
超えるその余の金五六万四二四〇円は差押を解除すべきであつたのに、あえてこれ
を取り立てたのは違法である。このような徴収職員が差し押えた可分の金銭債権の
全額を取り立てるか一部を取り立てるかの決定は、その自由裁量行為ではなく、羈
束裁量行為である。仮に自由裁量行為であるとしても、本件債権の全額取立ては、
その必要がなく、何らの公益目的に奉仕するものではなく、徒らに被控訴人の仮差
押による既得権を侵害するに止まるから、裁量権の範囲を逸脱したものであり、違
法である。
 仮に右全額取立てが不問に付されるとしても、国税徴収後の残余金を生じたとき
は、被控訴人の仮差押は右取立てにより失効していないから、たとえBの前記残余
金還付請求権仮差押が介在しても、島田税務署長が残余金を執行機関に供託するこ
となく訴外会社(滞納者)に交付したのは違法である。
 三、 被控訴人の蒙つた損害の額は、金二〇万二三七八円である。すなわち、被
控訴人は、前記税務署長の違法取立てにより、法律上保護に値する自己の仮差押に
よる利益を事実上覆滅され、又は島田税務署長が残余金を供託せずに訴外会社(滞
納者)に交付したため仮差押の利益を害され、本件債権により前記和解調書に基づ
く債権三五万円の満足を得ることができなくなつた結果、本件違法取立て額五六万
四二四〇円から配当された地方税額四万一四七〇円を差し引いた金五二万二七七〇
円を、被控訴人の債権額三五万円と前記競合仮差押債権者Bの債権額五五万四〇九
八円とに按分した被控訴人分金二〇万二三七八円の損害を蒙つた。
 右損害額の算定に当り、たとえ被控訴人がその後訴外会社に対して前記和解調書
に基づき有体動産強制執行をした際に、訴外会社の給料債権者Cが配当要求をした
事実があるにせよ、同人が本件債権の存在を知つていたか否かも明らかでないか
ら、本件債権に対する強制執行の場合にも同人からの配当要求があるものとして計
算するのは失当であり、又、被控訴人は、その後訴外会社から金一三万六八三四円
の弁済を受けたけれども、これは本件違法行為との関連性がないから、これを前記
損害額二〇万二三七八円から差し引くのは妥当でなく、右弁済金は、被控訴人の債
権額三五万円から右金二〇万二三七八円を差し引いた金一四万七六二二円の一部の
弁済に充当されたものである。
 四、 よつて、被控訴人は控訴人に対して金二〇万二三七八円及びこれに対する
本件違法行為の翌日である昭和三九年一〇月一三日から完済まで民法所定の年五分
の割合による遅延損害金の支払を求める。」と述べ、
 過失相殺の適用について、
 「本件は、滞納処分と保全処分が競合する法律的にも難問に属する事案であるか
ら、仮に被控訴人に何程かの過失があつたとしても、本件違法行為はこれを遙かに
上廻るものがあるので、過失相殺を適用するのは法律的に妥当でない。」と述べ
た。
 控訴人代理人は、答弁等として、
 「一、 請求原因一のうち、島田税務署長がその職務の執行について故意又は過
失により違法に被控訴人に損害を加えたとの主張は争い、(一)及び(二)の各事
実、(三)の事実中島田税務署長が本件債権を取り立てた日の点を除くその余の事
実は、いずれも認める。
 右取立ての日は、昭和三九年一〇月一九日である。被控訴人主張の地方税四万一
四七〇円は、同月一三日静岡県藤枝県税事務所から交付要求があつたものである。
被控訴人主張の残余金還付請求権仮差押の決定が島田税務署長に送達された日は、
同月二六日であり、その取下書が同税務署長に送達され、同税務署長が訴外会社
(滞納者)に被控訴人主張の残余金を交付した日は、同年一一月二日である。
 二、 請求原因二の主張は争う。
 (1) 国税徴収法(以下単に「法」という。)第六三条、第六七条第一項は、
債権に対する滞納処分は全額差押、全額取立てを原則とし、特に全額差押の必要が
ない場合のみ一部差押、一部取立てが法第六三条但書等により許されるが、その選
択は徴収職員の自由裁量に委ねられている。
 すなわち、法第四八条第一項が債権以外の財産の差押について超過差押を禁止し
ながら、法第六三条において債権については原則としてその全額を差し押えること
を要するとし、例外的に徴収職員が全額差押の必要がないと認めるときは、その一
部を差し押えることができると規定したのは、有体動産、不動産等債権以外の財産
はその客観的価値が容易に把握できるのに対し、債権はその実質的な価値が第三債
務者の資力、弁済意思、債務者の他債権者との関係、その他種々の要素に左右さ
れ、徴収職員が差押債権の価値を確実に把握することが殆んど不可能であるからに
ほかならない。したがつて、法第六三条は国税徴収の確実を期して原則として滞納
税額にかかわらず債権全額を差し押えることを要するとし、徴収職員が当該債権の
実質的価値を判断して、その一部差押によつて滞納税額を徴収するに十分であると
認めた場合は例外的に一部差押ができるとしたものと解すべく、当該債権の一部を
差し押えるか全部を差し押えるかの決定は徴収職員の自由裁量に委ねられたもので
あつて、仮にその判断に誤があつても不当であるに止まり、違法となるものではな
い。そして、法第四九条は、滞納処分の執行に支障がない限り、第三者の権利を尊
重すべきことを定めた訓示規定であつて、滞納処分の執行に支障を生ぜしめる制約
をする趣旨の規定ではなく、同条を根拠として、債権の全額差押、一部差押に関す
る徴収職員の選択権行使を制限するものとなし覊束裁量処分と解するのは当らな
い。
 本件において、滞納者(債務者)訴外会社と第三債務者静岡県とは取引関係にあ
つたから、徴収職員が静岡県に対して滞納者の債権について仮差押や差押の有無等
を照会すれば、滞納者やその債権者らに近く国が本件債権を差し押えることを察知
され、相通じて債権を処分される等差押が不可能になる危険を生ずる虞れがあり、
また本件債権は工事の請負残代金であるから、工事の内容如何によつては工事に瑕
疵があつたとして減額されることもあり得るのである(現に差押時には、その査定
中であつた。)。このように第三債務者に照会することは適切でなく、更に滞納者
の当時の経営状態から他にも相当の債権者からの交付要求ないし配当要求が予測さ
れる事情にあつたのであつて、本件債権については滞納税額に見合う弁済の確実性
があることを把握することが不可能であつたから債権全額を差し押えたのは当然
で、非難されるべきところはない。
 (2) 島田税務署長は、第三債務者静岡県から昭和三九年一〇月一六日付で本
件債権全額の送金通知書の送付を受けたが、同税務署長が右弁済の提供についてそ
の一部のみを受領し他を拒否することは受領遅滞に陥るもので、到底許されないも
のである。
 (3) 徴収職員が第三債務者から滞納国税額を超過する債権を取り立てた場合
でも、当該第三債務者は弁済額を限度として債務を免れるのであり、法第七九条の
差押の解除に関する規定を適用することは、第三債務者の地位を不安定にすること
になるから許されないのであつて、本件債権中滞納国税額を超える部分について差
押を解除して、これを第三債務者に返戻することなく全額取立てをしたことを以て
違法とすることはできない。
 (4) ちなみに、第三債務者静岡県は、普通地方公共団体として財務処理上一
たん本件債権の支払をした後、その一部を返納金として収納することができなかつ
たのであり、したがつて、島田税務署長も同県から本件債権の弁済提供を受けた
際、その一部を返戻することは不可能であつた。すなわち、普通地方公共団体の一
会計年度における一切の収入及び支出は、すべて歳入歳出予算に編入されていなけ
ればならず(地方自治法第二一〇条)、出納長は、普通地方公共団体の長の命令に
よつて支出を行ない、その場合でも当該支出負担行為が法令又は予算に違反してい
ないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでな
ければ、支出をすることができないとされ(同法第二三二条の四)、隔地払の方法
による支出は、現金の交付に代え指定金融機関を支払人とする小切手を振り出し、
又は公金振替書を指定金融機関に交付して、その旨を債権者に通知することによつ
てなされるが(同法第二三二条の五、六、同法施行令第一六五条第一項、第一六五
条の四)、静岡県においては、株式会社静岡銀行を指定金融機関として同県の公金
の収納及び支払事務を取り扱わせており(同令第一六八条)、同銀行は、公金の収
納又は支払の事務につき同県に対して責任を課せられ(同令第一六八条の二第二
項)、法定の書類又は通知等に基づかなければ公金の収納又は支払をすることがで
きないとされ、公金の支払については必ず出納長の通知に基づくことを要するとさ
れている(同令第一六八条の三)。そして、静岡県においては、地方自治法第一五
条に基づいて昭和三九年静岡県規則第一三号静岡県財務規則が制定されているとこ
ろ、隔地払による支払の場合は、担当公金取扱店の作成した小切手受領書をもつて
債主の領収書に代えるものとするとしている(同規則第一三六条第一項)。したが
つて、前記地方自治法、同法施行令、静岡県財務規則の各規定の趣旨によれば、静
岡県における隔地の債権者に対する公金の支払は、出納長が指定金融機関に対して
小切手を交付し、債権者に対して送金通知書を送付したときに支出行為が完了した
ことになり、会計処理上、その後これを返戻金として収納する方法はなく、これを
取り消すことができるのは、県が指定金融機関に小切手等の資金を交付したが、そ
の交付の日から一年を経過してもまだ支払を終わらない場合に限られるのである
(同令第一六五条の六第三項)。
 本件の場合、本件差押により、静岡県支出命令者の支出決定に基づき出納長が本
件債権の債務が確定していることを確認したうえ、隔地払の支出方法によつて指定
金融機関株式会社静岡銀行を受取人とし本件債権額を額面とする小切手を振り出
し、同銀行に資金を交付するとともに、島田税務署長に対して送金通知書を送付し
て支出行為を完了したものであるところ、右送金通知書は、金券と同視さるべき性
質のものであつて、同税務署長は、同県から債務の本旨に従つた弁済の提供を受け
たことになり、一通の送金通知書に対してその金額の一部について差押解除をする
ことは不可能であつたのであり、又、同銀行としても、仮に同税務署長が差押の一
部解除をし滞納国税額に見合う額の金員の受領を申し出ても、このような方法を講
ずることは許されず、全額を支払わざるを得なかつたのであるから、以上の点から
しても、島田税務署長のなした本件債権の全額取立てに何ら違法はないというべき
である。
 (5) 島田税務署長が国税徴収後の残余金を供託しないで滞納者訴外会社に交
付したのは、被控訴人の訴外会社に対する債権が、法第一二九条第一項、第一三四
条第一項により供託の対象とならないからであつて、同税務署長が供託をしなかつ
たのは何ら違法ではない。
 三、 請求原因三の事実中、被控訴人が訴外会社から一部弁済を受けた事実は不
知、その余の事実は争う。
 仮に島田税務署長のなした本件債権の超過取立てが違法であるとしても、被控訴
人には、これによる損害が生じていない。すなわち、右取立て当時、訴外会社に対
しては、本件債権についてBから売掛代金債権五五万四〇九八円による仮差押がな
されており、しかも、静岡県は地方税四万一四七〇円、同県榛原郡a町は地方税八
万七三三〇円、訴外高橋県一ほか三〇名は弁済期の到来した給料六五万八五四〇
円、訴外大石建設ほか二二名は貸付金等合計七四五万八六四三円の各債権を有して
いたものであつて、本件取立てがなく、被控訴人が本執行に及んだとしても、右債
権者らの配当要求が予想され、被控訴人が弁済を受けたと自認する金一三万六八三
四円をこえて、弁済を受け得る余地は全くなかつたはずである。
 四、 過失相殺の適用について。
 仮に控訴人に損害賠償義務があるとしても、被控訴人は徴収職員が国税徴収後の
残余金五二万二七七〇円を訴外会社に対する以前に、本件債権全額取立ての事実を
知悉していたものであり、右残余金返還請求権について再度仮差押をして自己の債
権を保全する機会が十分あるのに、これをなさず、放置していたものであるから、
本件損害の発生について被控訴人にも過失がある。」と述べた。
 証拠として、控訴人代理人が新たに乙第一四、一五号証を提出し、被控訴人代理
人が右乙号各証の成立を認めたほか、当事者双方の証拠関係は原判決事実摘示のと
おりであるから、これを引用する。
         理    由
 一、 被控訴人は訴外会社に対し裁判上の和解調書に基づく金三五万円の金銭債
権を有し、その執行を保全するため昭和三九年五月二八日静岡地方裁判所において
本件債権六五万八〇〇〇円の内三五万円について仮差押決定を得たが、同決定は同
日第三債務者静岡県に送達されたこと、島田税務署長Aは同年九月二八日訴外会社
に対する昭和三九年度滞納国税合計金九万三七六〇円を徴収するため国税徴収法に
基づき被控訴人が右のように一部仮差押中の本件債権全額を差し押え、同日第三債
務者静岡県に債権差押通知書を送達し、同年一〇月中に本件債権全額を静岡県から
取り立てたこと、訴外Bは右取立て前の同年九月一日被控訴人に後れて本件債権に
つき仮差押決定を得その執行中右のように島田税務署長が本件債権を差押えその取
立てをしたので、Bは更に訴外会社が控訴人に対して有するに至つた後記残余金五
二万二七七〇円の内五二万円の還付請求権について控訴人を第三債務者として仮差
押をしたこと、その後Bは右仮差押を取り下げたところ、島田税務署長は右取立に
係る金六五万八〇〇〇円から、前記滞納税額九万三七六〇円、交付要求により配当
した静岡県税四万一四七〇円の合計金一三万五二三〇円を差し引いた残余金五二万
二七七〇円を訴外会社に交付したことは、いずれも当事者間に争いがない。
 そして、成立に争いのない甲第三号証の一、乙第一号証から第四号証まで、乙第
五号証の一ないし三、乙第一一号証、乙第一四号証、原審証人Bの証言を総合する
と、島田税務署長が第三債務者静岡県に送達した債権差押通知書には、昭和三九年
一〇月八日までに差押債権の債務の履行をなすべき旨の記載があつたこと、同税務
署長が本件債権を取り立てた日は同年一〇月一九日であること、前記静岡県税の交
付要求は同月一三日同県藤枝県税事務所から島田税務署長に対してなされたもので
あり、その配当金を交付した日は同月二七日であること、Bは同月二六日前記還付
金請求権の仮差押決定を得たが、同決定は同日島田税務署長に送達されたこと、右
仮差押が取り下げられ、その取下書が島田税務署長に送達され、同税務署長が訴外
会社に残余金を交付した日は、いずれも同年一一月二日であることが認められ、ほ
かに右認定に反する証拠はない。
 二、 そこで、本件取立処分ないしこれに先行する差押処分が違法であるか否か
を判断する。
 国税徴収法は、国税の滞納処分における財産の差押に関する通則として、法第四
八条第一項により、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押えるこ
とができないとし、超過差押を禁止しているが、債権の差押については、右の特則
として、法第六三条が滞納国税の額にかかわらず全額差押を原則とし、徴収職員が
全額差押の必要がないと認めるときは一部差押をすることができると規定してい
る。これは、債権の実質的な価値が第三債務者の支払能力、第三債務者の滞納者に
対する反対債権その他抗弁権、その他種々の事情に左右されるものであつて、名目
上の債権額からこれを把握することが困難であり、どれ程の債権額を差し押えれば
国税徴収に支障がないかを予め知り難いという他の種類の財産とは異なる債権特有
の事情から全額差押を原則とし、ただ徴収職員が差押債権の実質的な価値を把握
し、一部差押によつて国税徴収に支障がなく、従つて全額差押の必要がないと認め
た場合には一部差押をすることができることをも認めたものと解せられるのであつ
て、このような差し押えるべき債権の範囲をその一部とするか否かの決定は当該徴
収職員のいわゆる自由裁量行為というべきであるから、その裁量権の範囲内の行為
である限り、これを違法行為とすることはできない。
 <要旨>そして、徴収職員は、差し押えた債権の取立てをすることができ、その取
立てに必要な滞納者(債権者)の有する権利の行使をすることができるけれ
ども(法第六七条第一項)、徴収職員がこれにより金銭を取り立てたときは、その
限度において滞納者から差押に係る国税を徴収したものとみなされるのであるから
(同条第三項)、たとえ全額差押をした債権であつても、それが金銭債権であつ
て、その一部の取立てによつて、取立ての日までに交付要求のあつた国税、地方税
または公課に配当するに足るだけの金銭を取得することができるときは、それ以上
に債権の取立てをする必要はないと解せられるから、そのような場合に必要の限度
を超えて債権全額を取り立てることは訂されないというべきであり(旧国税徴収法
第二三条ノ一第二項参照)、差押債権の全額を取り立てるか否かの決定までも当該
徴収職員の自由裁量に委ねられているとは到底解することができない。
 本件の場合、前記のとおり滞納国税九万三七六〇円と交付要求のあつた静岡県税
四万一四七〇円との合計額が金一三万五二三〇円に過ぎないから、島田税務署長
は、本件債権中右同額の金一三万五二三〇円を取り立てれば国税の徴収を確保でき
たのに、本件債権全額六五万八〇〇〇円を取り立てたのであるから、差引金五二万
二七七〇円は、同税務署長が国税徴収法の解釈を誤つた過失により違法に超過取立
てをなしたものというのほかはない。
 控訴人は、本件のように第三債務者静岡県が本件債権の全額の弁済の提供をした
場合、その一部のみを受領し他の受領を拒むことは受領遅滞に陥り許されないと主
張するが、取立権の範囲を超える部分の受領を拒むことは固より正当であつて受領
遅滞の問題を生ずる余地はなく、同主張は主張自体失当である。
 又、控訴人は、第三債務者が徴収職員に対し全額の弁済提供をした場合に徴収職
員がその一部の取立てしかしないで残余額について法第七九条の差押解除の規定を
適用することは、弁済額の限度で債務を免れる立場にある第三債務者の地位を不安
定にし許されないと主張するが、たとい、このような場合に第三債務者の地位が不
安定になるようなことがあるにしても、このことから逆に違法な全額取立までも、
これを適法としなければならないとする理由はなく、同主張は主張自体失当であ
る。
 更に、控訴人は、第三債務者静岡県が本件債権について債務履行をするにつき、
地方自治法、同施行令、静岡県財務規則(昭和三九年静岡県規則第一三号)に従
い、隔地払の方式により一通の送金通知書をもつて本件債権全額の弁済の提供をし
たため、その一部を取り立て、その余について差押を解除する方法がなく、又、仮
に右一部差押解除がなされたとしても同県が一旦なしたその支出を取り消すことは
できなかつたから、本件債権の全額取立ては違法でない旨主張するが、たとえ本件
債権の弁済提供が一通の送金通知書をもつてその全額についてなされたとしても、
可分の金銭債権である本件債権についてその一部取立てが不可能と断定できる根拠
はなく、又、第三債務者である静岡県が、同県の財務処理の規則上、本件のような
事例を予測した規定まで制定していなかつたからといつて逆に本件債権の全額取立
てを違法でないとするのは本末を顛倒した論議であつて、同主張もまた主張じたい
失当というべきである。
 三、 次に被控訴人が島田税務署長の違法行為として主張する国税徴収後の残余
金を執行機関に供託しなかつた点についてみるに、税務署長は取り立てた金銭を法
第一二八条、第一二九条の規定により、法第一二九条所定の順序によつて配当すべ
く、残余金は滞納者に交付するものとされるのであつて、右金銭を供託すべき場合
は法第一三三条第三項、国税徴収法施行令第五〇条、法第一三四条第一項の場合に
限られるのであつて、被控訴人主張の場合にこれを執行機関に供託すべき根拠はな
く、(なお、本件は国税通則法第九三条の適用される場合ではない。)この点島田
税務署長において、前記違法取立てのほかに重ねて違法の点があつたということは
できない。
 四、 そこで、前記二のように島田税務署長の本件債権全額取立てにより本件債
権すなわち訴外会社の静岡県に対する金六五万八〇〇〇円の請負残代金債権は消滅
し、したがつて被控訴人のなした仮差押の効力も消滅したというべきであるが、こ
れにより被控訴人主張の損害が発生したか否かを判断する。
 (一) 前示理由第一項記載の事実、前示乙第一号証、乙第一一号証、乙第一四
号証、成立に争いのない甲第一号証、甲第四号証の一、二、乙第八号証の一、乙第
一三号証の一ないし三、原審証人D、同B、同E、同Fの各証書(ただし、D、
B、Eの各証言中、後記信用しない部分を除く。)、原審における被控訴本人尋問
の結果、弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、静岡県榛原郡a町で金物商をす
る者で、土木建築請負業者である訴外会社に対する建築用工具、金具類売掛代金に
ついて前記和解調書を得ていたものであるが、同和解調書に基づく債権の残元本三
五万円は、すでに昭和三九年四月末日の経過とともに、その遅滞のときは期限の利
益を失なう旨の特約条項により弁済期が到来していたものであつて、本執行をする
こともできたのであるが、訴外会社の工事施行が遅れたので本件債権の支払も遅れ
ていたため、被控訴人は同年五月二八日右債権三五万円の執行保全のため本件債権
の一部三五万円に仮差押をしていたこと、なお被控訴人は訴外会社に対する右債権
の取立てについでは元家庭裁判所職員で不動産業者の事務員をする訴外Fに相談を
し、右仮差押の手続も同人にして貰つていたこと、他方、Bは、同町でセメント等
建築材料の販売商をする者であるが、被控訴人は同人とも多少の取引のある間柄で
あり、同人に訴外会社との取引を続けることを警告し、自己が前記仮差押をしてい
ることまで打ち明けていたところ、Bは、訴外会社から代金支払のために交付され
た手形が不渡りとなるや急拠訴外会社に対する売掛代金債権五五万四〇九八円の執
行保全のため同年九月一日に本件債権の仮差押をしたこと、ところが島田税務署長
が同月二八日に本件債権の差押をし、被控訴人もBも間もなく第三債務者静岡県か
らその旨の通知を受け、また訴外会社代表取締役Dからもこれを知らされたこと、
同年一〇月一日現在本件債権に関しては県において工事出来高査定中であつたが、
同月一六日頃ようやく静岡県支出命令権者によるその支出命令があつたこと、そし
て、前記の通り島田税務署長が静岡県より取り立てた金六五万八〇〇〇円から訴外
会社の滞納国税額及び県税額を差引いた残余金について島田税務署から訴外会社に
対して同月二七日これを交付をする旨の連絡があり、被控訴人は、これを知つたF
からの連絡により同日島田税務署に出向いたところ、Bがもと地元商工会長で税務
に明るい訴外Eに教えられ同人の協力を得て一日前の二六日に右残余金の還付請求
権のうち金五二万円について仮差押をしていたため、被控訴人は徒労に終つたこ
と、そこで、被控訴人は島田税務署職員に対しては、訴外会社の者、被控訴人、B
の三者立会の席上訴外会社に対する残余金の交付をするよう申し入れる一方(もと
より同税務署職員は右申入れに対して承諾を与えるなど確約はしなかつた。)、
B、Dに迫つて交渉し、Bからは、前記還付金請求権仮差押は取り下げるべく、そ
の際はこれを被控訴人に連絡することとし、訴外会社が島田税務署から残余金の交
付を受けたときには、これを被控訴人とBの二者で半々に分配し、以後右二者は共
同戦線を張り他の債権者を排して各自の債権の完済を得べく協力する旨の約を得
て、右仮差押取下書も作成させ、Dからは、島田税務署から残余金の交付を受ける
ことを右二者に委任する旨の約を得て、同税務署長宛の右委任状を徴したこと、こ
のような交渉に介在したEは被控訴人に対し謝礼ないし手数料の趣旨で被控訴人が
右残余金より取得する金員の一割五分を要求したが、被控訴人はこれを拒否したた
め、Eは被控訴人に対する態度を硬化したこと、被控訴人は、以上のような経過や
Fから云われるまま和解調書や自己のなした仮差押により自己の債権は確保されて
いるものと軽信し、Bが執つたような還付金請求権仮差押或いはその他の法的手段
は何ら施さず安心していたこと、ところが、B、Dは前記被控訴人との約旨に背
き、DがBに組し、Bは被控訴人に内密にDと談合を進め、同年一一月二日、ひそ
かに前記還付金請求権仮差押を取り下げ、その取下書が島田税務署長に送達され、
同税務署に出頭待機させていたDが同税務署長から残余金五二万二七七〇円を額面
とする小切手一通の交付を受けるや、その場でDからこれを受け取り独占して取得
したこと、そのため被控訴人は右残余金により自己の債権の満足を何ら得ることが
できなかつたこと、訴外会社は、すでに同年九月頃倒産廃業し事業再開の見込は絶
無に等しいところ、被控訴人は、その後同年一二月一四日、昭和四〇年一月一五日
の二回にわたり前記和解調書に基づき訴外会社に対する有体動産強制執行をした
が、右二回目の際には先取特権を有する給料債権者訴外Cが金三万三五三〇円の配
当要求をしたため、結局、右一、二回の執行により合計金一三万六八三四円の弁済
を受けたにとどまることが認められ、原審証人D、同B、同Eの各証言中これに反
する部分は信用せず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
 (二) 島田税務署長が本件債権中滞納国税並びに配当要求に係る地方税の合計
額を超過する部分について差押を解除することなく違法な超過取立てをしたため被
控訴人のなした本件債権の内金三五万円についての債権仮差押はその効力を失なわ
しめられたということができよう。しかし右(一)の事実関係からすると、たとい
島田税務署長が右のような違法な全額取立てをすることなく本件債権額の内前記訴
外会社の滞納国税並びに県税の合計額を超える部分、すなわち金五二万二七七〇円
に相当する部分につき一旦なした債権差押を解除したとしても、この債権について
はさきに被控訴人より債権額三五万円につき仮差押がなされていた外Bよりも債権
額五五万四〇九八円につき仮差押がなされ両者が競合していた関係上、被控訴人と
しては右仮差押をした訴外会社の静岡県に対する債権に対し更に進んで強制執行を
しても直ちに自己の債権の満足を得ることは困難な状況であつたので、そのような
強制執行の措置に出ることなく、むしろ右(一)に認定したところと同様に訴外会
社及びBと話合いの上、被控訴人及びBはそれぞれ前記の仮差押の執行を取り消し
静岡県より訴外会社に対し右金五二万二七七〇円の任意支払を受けこれを被控訴人
とBとで折半する趣旨の協定が成立していたであろうことは容易に推測できるので
あつて、結局被控訴人は、たといその主張する本件債権に対する仮差押の効力が島
田税務署長の債権取立てにより消滅することなく存続していたとしてもその仮差押
の利益を主張するようなことはなかつたものと認められるのである。そうすれば、
被控訴人が右(一)で認定したような経緯により自己の債権の満足を得られなかつ
たとしても、そのことと島田税務署長の違法な超過取立てによる被控訴人主張の仮
差押の効力の消滅との間には法律上相当因果関係がないものと解するのが相当であ
る。
 したがつて、被控訴人の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、失当とし
て棄却すべきである。
 五、 よつて、被控訴人の請求を一部認容した原判決は失当であるから同部分を
取り消して被控訴人の請求を棄却し、本件附帯控訴の理由がないことは上叙判断よ
り自ら明らかであるのでこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八六条、第三八
四条、第九六条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 横地恒夫 裁判官 平田孝)

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