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平成20年1月21日宣告平成19年(わ)第998号傷害被告事件
主文
被告人は無罪。
理由
1本件公訴事実は「被告人は,平成19年8月18日午後11時45分ころ,,
「」,()神戸市a区b台c丁目d番e号のラウンジA店内においてB当時59年
と飲酒していたところ,同店での自己の飲食代金を上記Bから支払ってもらえな
いことに立腹し,同人に対し,その左示指にかみつき,よって,同人に加療約1
5日間を要する左第Ⅱ指(示指)爪剥離の傷害を負わせたものである」という。
のであり,弁護人は,被告人は,当時同店内において上記Bと飲酒していたこと
はあるものの,同店での自己の飲食代金を上記Bから支払ってもらえないことに
立腹したことも,同人に対し,その左示指にかみついたこともないから,被告人
は無罪であると主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。
当裁判所は,被告人が当時同店内において,上記Bに対し,その左示指にかみ
つき,よって,同人に加療約15日間を要する左第Ⅱ指(示指)爪剥離の傷害を
負わせた事実は認定できるが,被告人の本件傷害行為は,Bと同店のオーナーで
あるCとの共謀による暴行という急迫不正の侵害に対し,自己の身体を防衛する
ため已むことを得ざるに出た正当防衛に該当すると判断した。以下その理由を説
明する。
2前提となる事実等
関係証拠によると,以下の事実が認められる。
()被告人は,本件の数か月前に,本件ラウンジのオーナーであるC次いでB1
とラーメン店で知り合い,以後Cらの誘いで本件ラウンジ等で一緒に飲酒する
などしていた。なお,Bは,本件の17,8年前にCの経営する飲食店に客と
して出入りしたことからCと知り合い,友人としての付き合いをしていた。B
らは,被告人について氏素性等は知らなかったが,飲酒の際女性もいた方が面
白いということで継続的に被告人を誘い,被告人の飲食代を負担することが多
かった。
()被告人は,本件当日の昼ころ,Bらの誘いで,B及びCが飲食していたお2
好み焼き屋に合流し,Cらのおごりでカラオケ店,ラーメン店とはしご酒をし
た後,合流することになっていた居酒屋が休みであったことから一旦は別れて
帰宅したものの,再びBらの誘いで本件ラウンジに合流した。
そして,被告人,Bのほか,客として来ていたDらがカウンターで飲酒し,
同店の経営者であるEがその相手をしていた。
その後Cが客の写真を撮ることとなり,EとD,被告人とDらの写真を撮っ
ていた。
その後,時期がBの本件負傷の前か後かについて争いはあるものの,Cが撮
った被告人の胸(乳房が見える状態)の写真を巡って,被告人とCらとの間に
暴力沙汰になるトラブルが発生した。
()本件当時,各負傷の先後関係は別にして,店内において,Bが加療約153
日間を要する左第Ⅱ指(示指)爪剥離の傷害を負い,被告人が加療約11日間
を要する顔面・背部打撲,両下腿・両前腕打撲のほか,右手薬指の爪がはがれ
る傷害を負った。
()また,被告人が店の外に出て助けを呼んだことから,Cは,分が悪くなる4
ということもあって,前記Bの負傷につき警察に110番通報をした。
なお,店内で発生したトラブルについて,Bは,Bと被告人との間にBが被告
人から指をかまれる事件が生じた旨供述し,Eは,Bと被告人との間に前記事
件が生じた後,Cと被告人との間に被告人の胸(乳房が見える状態)の写真を
巡るトラブルが生じた旨供述し,被告人は,Cとの間に被告人の胸の写真を巡
るトラブルが生じた後,Cのほか,BさらにはEから暴行を加えられた旨供述
しており,これらの供述によれば,トラブルの内容や時期は別にして,Bに関
しては,被告人以外にトラブルの相手となる者はなく,被告人に関しては,B
又はCがトラブルの相手であったことになる。
そうすると,Bの負傷については,被告人の関与による可能性が高く,被告
人の負傷については,B又はCの関与による可能性が高いと認められる。
3Bの負傷及び被告人の負傷に関するBら関係者及び被告人の供述の信用性につ
いて
()各供述の要旨1
①Bの供述
Bは,店のカウンターで被告人と隣同士で座り飲酒しているうちに口論と
なり急に被告人から指をかまれて負傷し,かまれた指を外すため被告人に対
し顔面を殴るなどしたかもしれないし,Bが負傷後腹立ちの余り被告人の足
を蹴ったりしたため被告人が負傷した可能性がある。EがBの指をかんだ被
告人を制止するためカウンターの外に出て被告人とつかみ合いになった。C
やEが被告人に暴行を加えたかどうか分からないし,被告人の負傷への関与
については見ていないので分からない。被告人が横になったり転んだりした
ことは全然見ていない。また,Bがかまれる前被告人がどういう文句を言っ
たか覚えていないし,Bが被告人の飲食代を支払わないと言ったが,その理
由は分からない。
,,なおBの負傷のトラブルの前にCが客Dらの写真を撮る場面はあったが
そのトラブル後そのような写真を撮るような場面はなかった。
被告人が本件で逮捕・勾留された後,Bが頼んだことはないが,CからDが
被告人との接見に行ったと聞いた。
②Eの供述
Eは,被告人が店のカウンターでBと隣同士で飲酒しEはカウンター内で
接客していた。被告人がBに絡み暴言を吐いていた。その後,Cが客Dの求
めによりDとEの写真を撮り,これに被告人も加わりDと被告人の写真を撮
った。その後,Eがカウンター内でDの応対をしていると,被告人とBの双
方が立ち上がって被告人がBの指をかんでいるのを目撃し,双方を引き離そ
,。うとしたが離れずその後はカウンターで飲酒していたDの相手をしていた
被告人がBをかむのをやめ双方が離れた後Cが2階から降りてきて被告人の
希望により乳房が見える状態で被告人の胸の写真を撮ったところ,被告人が
その写真の消去を求めCからカメラを引ったくり壁にぶつけた上,再びBに
襲いかかろうとした。そこで,Eがそれを制止すると,カウンター上にあっ
たビールのジョッキを持ってEに殴りかかり,Cがそれを見て制止し被告人
を店の外に連れ出した。EやCが被告人に暴行を加えたことも被告人との間
でつかみ合いになったこともない。Bが被告人を殴ったり蹴ったりしたのは
見ていない。
③被告人の供述
店のカウンターで隣同士で飲酒していたBが被告人に一緒に寝てくれと何
度も言い,被告人がこれを断ると,被告人の飲食代を支払うのをやめると言
い,被告人は,Bから離れDの隣の席に移動した。その後,Cが客Dらの写
真を撮っているうちに,被告人の乳房が見える状態の胸の写真を撮ることを
求め,顔を写さないことを条件にしぶしぶ応じた。ところが,約束に反し被
告人の下向きの顔も写っていたことから消去を求めたところ,胸をアップに
しただけで消去しなかったことから,何度も消去を求めた。すると,Cが,
「お前しつこいんじゃ」などと言って,5,6回カウンターの前の椅子に座
っている被告人の両耳や頬を手の平ではたいた上,10回くらい被告人の髪
を持ち頭部をカウンターの上に落として額をぶつけるなどの暴行を加えた。
その途中でCがBの名前を呼ぶや,Bもこれに加わり被告人の後ろから両肩
や腕の辺りを押さえ付けた。その後Bが被告人がかみついたと言って被告人
,。,を押さえるのをやめたがその時被告人はBの指をかんではいないその後
EがCと替わり,被告人の髪を持ち引っ張り,被告人を椅子ごと床に転倒さ
,,,。せさらに被告人の髪を持ちトイレの前まで仰向けの状態で引きずった
被告人が四つんばいの状態で逃げようとすると,Bが被告人の腰を蹴り,E
が被告人の首をゴルフのパターで引っかけた上,被告人の背中を叩くなどの
暴行を加えた。その後店の外に出て110番通報をしようとしたり,外にい
た通行人等に助けを呼んだりした。
なお,本件の初公判の数日前Dが接見に来てBが被告人がかんだことを認
めれば告訴を取り下げると言っていると被告人に伝えた。
()各供述の信用性の検討2
各供述の信用性を検討する前に,各供述者の立場や利害関係を見ると,Bと
被告人の双方が負傷していることから,その原因や責任を巡って各関与者と思
われる者が自己の責任を矮小化しようとする可能性があり,また,被告人と比
べてCとEやBとの親密度から,C・EとBが互いにかばい合う可能性がある
と思われる。
そこで,まずBの供述の信用性を検討すると,被告人とBがカウンターの隣
同士で飲酒しているうちに被告人がBの指をかんだ点においてEの供述と一致
しているが,被告人の犯行の経緯・態様があいまいであり,動機にも疑問が残
ること,被告人の負傷の原因について必ずしも説明できておらず,C・Eの関
与があいまいで肯定していない点について同人らをかばっているのでないかと
の疑いを払拭できないこと,特にCと被告人との被告人の胸の写真を巡るトラ
ブルについて被告人やEと異なり全く言及していない点において不自然であ
り,Cとの従前の関係から同人をかばっているのでないかとの疑いを払拭でき
ないことからすると,その信用性に疑問が残る。
次に,Eの供述の信用性を検討すると,前記のとおり,Bの供述と一致する
部分があるが,被告人の犯行の経緯等が明確でなく,一旦Dと機嫌良く写真を
撮ってもらっていた被告人が事に及ぶ動機も不可解であること,被告人の負傷
の原因について全く説明できておらず,自己やCのみならずBの暴行を否定し
ている点についてもBの暴行を認めるBの供述と異なる上,自己の責任の矮小
化やCらをかばっているのでないかとの疑いを払拭できないこと,被告人がB
をかんでいる最中にEが再びDの接客をしている点や被告人がBをかんだとい
うトラブルが発生した後に何もなかったかのようにCが被告人の希望により被
告人の胸の写真を撮るという点も不自然であり,後者の点はBの供述と異なっ
ていることからすると,その信用性に疑問が残る。
他方,被告人の供述については,Bの負傷について説明がつかず,前記のと
おり,Bの負傷については,被告人の関与による可能性が高い情況と合わない
こと,CやBらから暴行を加えられて全く抵抗らしい抵抗をしていないという
のも不自然であることから,その信用性に問題はあるものの,被告人の負傷の
経緯,態様については具体的で臨場感に富み傷害結果とも符合していることか
らすると,ある程度の信用性が認められる。
4Bの負傷の原因等について
Bの負傷の原因についてみると,前記のとおり,被告人の関与による可能性が
高い情況があることからすると,その経緯・態様はともかくこれに合致する限度
でB及びEの供述の一部は信用できるのであり,被告人がBの指をかんで傷害を
負わせたこと自体は明らかである。
しかし,その経緯については,前記のとおり,BやEの供述を信用することは
できず,前記のとおり,当時店内においてCが撮った被告人の胸(乳房が見える
状態)の写真を巡って,被告人とCらとの間に暴力沙汰になるトラブルが発生し
ており,その発生時期について,被告人とBとの間のBの負傷に関するトラブル
の後新たに生じたというEの供述は信用できず,むしろ唯一のトラブルであった
という被告人の供述の方が流れが自然であって信用できる。そして,この点に関
する被告人の供述のうち,Bが被告人への暴行に及ぶCに加勢して被告人を押さ
えた際に被告人からかまれたと述べていることを合わせ考慮すると,この時点で
被告人がBの指をかんだものと認定するのが相当である。もっとも,被告人の供
述については,Cらから受けた暴行の回数・態様・程度について誇張の嫌いがあ
,,り一方的で被告人のほうで抵抗らしい抵抗をしていない点で不自然さが否めず
Eが供述するように,被告人がその写真の消去を求めてCからカメラを引ったく
り壁にぶつけるなどの実力行使に出た可能性も否定できない。しかしながら,被
告人がCらから暴行を加えられる前の段階において,Cらと殴り合い等身体に対
する直接的な暴行を伴う喧嘩争闘に発展することを予想して積極的加害意思で行
為に出たと認めるに足る証拠はなく,被告人の供述を全面的に排斥することがで
きない以上,被告人の弁解をある程度基にして判断せざるを得ない。そして,そ
の弁解によれば,被告人の本件Bに対する傷害行為は,Bと同店のオーナーであ
るCとの共謀による暴行に対応する形でなされている上,被告人とBの双方の負
傷の部位・程度及び受けた加害行為の危険性との間にそれほど遜色がなく防衛行
為としての相当性も認められることからすると,Bらの共謀による暴行という急
迫不正の侵害に対し,自己の身体を防衛するため已むことを得ざるに出た正当防
衛に該当するといえる。
5よって,被告人の本件傷害行為は,刑法36条1項に該当し,正当防衛として
罪とならないものであるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪を
言い渡すこととし,主文のとおり判決する。
平成20年2月5日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判官岡田信

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