弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人別城遺一の上告趣意について。
 所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決が是認した第一審判決は、「第
一審相被告人Bは、ビニール靴材料の製造販売を業とするC株式会社の代表取締役
であり、被告人Aは、貸金業者で、昭和三八年二月五日までに約四、五八〇万円の
金員(元本)を右会社に貸し付けていたところ、右会社は、同月五日一般支払を停
止し、同年五月二七日破産宣告を受け、この決定は同年六月二二日確定した。右B、
被告人の両名は、これにさきだち、昭和三八年二月四日頃、右会社が債務超過とな
り、Dほか約五〇名の一般債権者に対して支払不能となることを認識しながら、共
謀のうえ、被告人の利益を図る目的をもつて、大阪市西成区a通b丁目c番地の被
告人方において、被告人に対し、右会社の破産財団に属する現金五〇〇万円を支払
つたほか、同じく破産財団に属する受取手形金額合計七四一万六、九一五円、受取
小切手金額合計二五二万三、六九〇円、ビニールスポンヂ、コール天その他商品(
価格約二〇〇万円)ならびに信用組合Eに対する出資金返還請求権、預金債権等五
四二万九、四三四円、株式会社F銀行(I支店)に対する預金債権一二九万二、五
六五円、株式会社H銀行(I支店)に対する預金債権一四三万七、〇九六円を弁済
のため譲渡した」旨の事実を認定したうえ、Bと被告人との共謀による右行為が、
破産法三七四条一号の破産財団に属する財産を「債権者ノ不利益ニ処分スルコト」
にあたるものとして、同号の罪の成立を認めているのである。
 しかしながら、破産法三七四条一号にいう、債務者が破産財団に属する財産を「
債権者ノ不利益ニ処分スルコト」とは、同号の列挙する「隠匿」、「毀棄」との権
衡上からも、たとえば法外の廉売、贈与等のように、「隠匿」、「毀棄」にも比す
べき債権者全体に絶対的な不利益を及ぼす行為をいうのであつて、単に債権者間の
公平を破るにすぎない行為は、これにあたらないものと解するのを相当とする。し
たがつて、特定の債権者に対する弁済は、他の債権者に不利益な結果をもたらすと
しても、右の「債権者ノ不利益ニ処分スル」行為にあたらないというべきである(
とくに、債務の本旨に従つた弁済は、元来、債務者にとつては義務であり、債権者
にとつては権利であるから、債務者の義務に属しない弁済等の行為を処罰する同法
三七五条三号にも該当しないことは明らかである。)。特定の債権者に対する代物
弁済または弁済のためにする譲渡もまた、これと同様の理由により、債務者が提供
した給付がこれに対応する債務と著しく権衡を失する高価なものであると認められ
るような特段の事由がある場合を除き、同法三七四条一号の、債務者が破産財団に
属する財産を「債権者ノ不利益ニ処分スルコト」にはあたらないものと解すべきで
ある。この見解に反し、支払を停止した債務者が、たとい弁済期の到来した債務で
あつても、破産財団に属する財産をもつて特定の債権者に弁済するにおいては、右
弁済は一般債権者の不利益を招来するものであり、代物弁済においてもまた同様で
あつて、特定の債権者に代物弁済をしたときは、同法三七四条一号の罪を構成する
とした昭和一〇年三月一三日大審院判決(刑集一四巻四号二二三頁)の見解は、こ
れをとらない。
 そうだとすれば、前示認定事実の下においては、被告人に対する本件現金五〇〇
万円の支払は、特定の債権者に対する弁済として、同法三七四条一号の罪を構成し
ないものである。また、被告人に対し弁済のためになされた本件手形、小切手、商
品、出資金返還請求権、預金債権等の讓渡については、弁済の充当に関する当事者
の意思表示の有無、もし、右意思表示があつたとすれば、債務者であるBの提供し
たこれらの各給付が弁済に充当されるべき各債務の額と著しく権衡を失する高価な
ものであるなどの特段の事由の存否について審理判断をとげなければ、これらの給
付が同号の、債務者が破産財団に属する財産を「債権者ノ不利益ニ処分スルコト」
に該当するか否かを決することはできないものであるところ、記録に徴しても、第
一審および原審において、この点につき必要な審理が尽くされた形跡はなく、その
いずれかを判断するに足りる証拠もない。したがつて、前示大審院判決と同一の見
解に基づき、漫然被告人に対する本件弁済および弁済のためになされた譲渡の行為
がただちに同号の罪を構成するものとした第一審判決およびこれを是認した原判決
は、法令の解釈を誤り、ひいては審理不尽による理由不備の違法を犯したものであ
つて、右の違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、これを破棄しなけれ
ば著しく正義に反するものと認める。
 よつて、論旨につき判断を加えるまでもなく、刑訴法四一一条一号により、原判
決および第一審判決中被告人Aに関する部分を破棄し、当裁判所の前示見解に即し
て、前示の点につきさらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により、本件
を第一審裁判所である大阪地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
 検察官平出禾 公判出席
  昭和四五年七月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷

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