弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を大阪高等裁判所へ差戻す。
         理    由
 被告人Aおよび弁護人中島武雄の各上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りで
ある。
 (一) 中島弁護人論旨第一点は、被告人が盗んだ煙草につき原判決が証拠によ
らずして事実を認定したと非難する。しかし原判決は「被告人はきんし八十余本コ
ロナ二箱及手巻煙草若干を窃取した」と判示し、これを認定した証拠として強制処
分による被疑者訊問調書中被告人の供述として判示同旨の記載を採用しているから、
証拠なくして事実を認定したものとは言えない。そして論旨は右の証拠は被告人の
唯一の自白だと主張するが、右の自白は証拠物たる煙草の現存、それを発見した顛
末についての証人Bの証言等の補強証拠によつて裏附けられているのであつて、論
旨は理由がない。(昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決昭和
二三年(れ)第六一号同年一一月五日大法廷判決参照)
 (二) 同論旨第二点は、原判決は検証調書の記載ならびに同調書添附の図面を
証拠に引用しながら右の図面を被告人に示していないと非難する。しかし検証調書
に添附した図面は調書と一体を成すものであるから、調書を読み聞けまたはその要
旨を告げればよいので、必ずしも図面を示す必要はない、というのが大審院時代の
判例である。(昭和六年(れ)第一八〇六号同七年三月一七日大審院判決昭和九年
(れ)第五二六号同年七月二日大審院判決参照)論旨は右の判例を「条文の末節に
捕われた形式的議論」と非難するが、調書全部を必ず見せなければならないという
のこそ形式的議論である。当裁判所には検証調書中の図面を示してもよいという判
例があるが(昭和二三年(れ)第一八一三号同二四年四月一四日第一小法廷判決参
照)それは調書の読聞けまたは要旨説明だけで証拠調は適法だということを前提と
しているのであつて、要するに必要の有無により図面を見せてもよし見せなくても
よいのであつて、論旨は理由がない。
 (三) かくして弁護人の上告論旨は、いずれも理由なきのみならず、本件とし
てはむしろ余罪である窃盗についての枝葉の論であるが、被告人本人の論旨は主罪
たる殺人に関するもので、老婆Cを殺害したのは自分ではないと陳弁するのである。
非常な長文であつて、その大部分は原裁判所の自由心証による証拠価値の判断と事
実の認定に対する非難にほかならず、上告の適法な理由にならないが、冒頭の一段
には、見のがしがたい法律論を含んでいる。しろうとの記述なので、法条も引用さ
れていないが、問題は刑訴応急措置法第一二条違反の裁判ではないかということで
ある。
 (四) 論旨はまず、実地検証に同行させてもらいたいと願つたのに許されなか
つた、と訴える。しかし、旧刑訴法第一七八条および第一五八条第一項但書によれ
ば、拘禁中の被告人は検証に立会う権利はないのであつて、被告人(上告人)は拘
禁中であつたから、原裁判所が被告人を検証に立会わせなかつたとしても、何らの
違法はない。
 (五) 論旨はさらに、右の検証に弁護人を同行させなかつた、と主張する。し
かし、原審弁護人野口政治郎は、原審第一回公判期日(昭和二四年九月三日)に出
頭して検証ならびに証人喚問を申請し、これが採用されて裁判長から同年一〇月一
三日に検証ならびに証人訊問をする旨を告げられているのであるから、右検証に同
弁護人が立会わなかつたのは同弁護人の任意に出たことであつて、裁判所がわには
何らの違法もない。
 (六) 論旨は、検証ならびに現場における証人訊問後の公判期日に被告人は裁
判長から証人の証言についてどう思うかとの質問もなかつた、と主張する。しかし、
原審第二回公判調書には「裁判長は被告人及弁護人に対し検証調書、各証人訊問調
書の各要旨を告げ、その取調を終る毎に被告人の意見弁解の有無を問うた」と記載
されているから、右検証調書および証人訊問については適法に証拠調が行われてい
るのであつて、論旨は理由がない。
 (七) 論旨は最後に、その提出した「公判再開願」とB、D、E三名の「証人
喚問願」が許されなかつたことを不服とする。すなわち原審は第一回公判期日にお
いて、検証および検証現場における証人訊問をする旨の証拠決定をし、同年一〇月
一三日に検証をし、その現場等で証人F、B、G、H、D、Eを訊問し、同年一〇
月二九日の第二回公判期日法廷で右検証調書および各証人訊問調書の証拠調をし、
検事の意見をきいたのであるが、弁護人から検証ならびに証人訊問に立会つていな
いから弁論準備のため公判期日の続行を求めるとの請求があつてこれを容れ、次回
公判期日を同年一一月一〇日に指定した。ところがその直前の一一月七日に被告人
から「公判再開願」「証人の喚問願」と題する二通の書面により「裁判は延びても
よいから証人B、D、Eを法廷に喚問し、被告人の面前で訊問し、顔と顔とを合せ
て話をさせて下さい」と申し出た。然るに第三回公判期日(同年一一月一〇日)は
延期となり、同年一一月一九日の第四回公判期日には、弁護人がした証人I警部補
J巡査部長の喚問申請を却下して結審した。そして原判決は被告人が法廷に喚問を
求めて原審がそれを許さなかつた証人E同D、同Bの前記法廷外の(検証現場での)
証人訊問調書を証拠として事実を認定したのであつて、それが刑訴応急措置法第一
二条第一項の問題になり得るのである。そこで今一応右三証人の訊問関係について、
本件訴訟進行の各段階(本件は一度当裁判所に上告されて破毀差戻になつたのであ
る)について右三証人の訊問関係をしらべて見たい。
 (八) 第一審では昭和二二年九月一日の検証当日証人E同Bを検証現場附近の
生野警察署でそれぞれ訊問している。そして右検証には被告人および弁護人藤田尚
一が立会つているが、右証人訊問に被告人および弁護人が立会つたことは、右各証
人訊問調書に記載されていない。
 (九) 差戻前の第二審では、昭和二三年五月二七日に現場なるD方を検証して、
同所で証人D同Eを訊問し、また証人Bをa町K鉱業所附属職員倶楽部で訊問して
いる。そして右訊問にはいずれも弁護人野口政治郎が立会い、EとBに対しては裁
判長の許可を得て自ら訊問している。
 (一〇)ところが差戻後の第二審では、昭和二四年一〇月一三日現場を検証する
と共に、証人D同EをD方で、また証人BをK鉱業所力泉寮でそれぞれ訊問してい
るが、右検証ならびに各証人訊問には被告人も弁護人も立会つていない。そして原
判決が証拠に採つたのは右差戻後の第二審(原審)が法廷外で被告人弁護人の立会
なくして為した右各証人訊問調書であるから、刑訴応急措置法第一二条第一項違反
の問題を生ずる。すなわち「刑訴応急措置法第一二条第一項に規定する書類の供述
者につき証人として訊問申請があつた場合これを必要なしとして却下しながら判決
にその書類を証拠として採ることは違法である」旨の当裁判所大法廷判例(昭和二
二年(れ)第八四号同二三年四月二一日言渡)は正に本件の場合に当るのである。
(昭和二三年(れ)第一一五三号同年一二月一四日第三小法廷判決参照)。そして
前記三名の証人中Eは、犯行直後の犯人にたまたま出会つてその顔に見覚えがあり
その首実検によつて犯人が被告人であると認定されるに至つたという最も大切な証
人であるところ、記録によれば終始一回も同証人を被告人の面前で取調べて被告人
に訊問の機会を与えることをしていないのであるから、被告人がこの同人に取つて
最も不利益な証人を「法廷に喚問し被告人の面前で訊問し顔と顔とを合せて話をさ
せて下さい」と熱望するのも、至極もつともな次第である。しかるに願書まで提出
した被告人の請求についてその採否の決定さえもしないで、応急措置法第一二条第
一項但書にあたる事由がないにもかかわらず、被告人を立会わせなかつた各証人供
述を録取した書類を公判期日に右各証人を訊問する機会を被告人に与えないで証拠
に採つた原審の裁判は、いかにしても適法となしがたく、原判決はこの一点によつ
て破毀をまぬかれ得ない。
 よつて、旧刑訴第四四七条第四四八条ノ二第一項に従い主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年五月三〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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