弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人臼杵祥三の上告趣意第一点について、
 原判決は所論B油化工業株式会社のためにする判示行為に関し被告人C等が被告
人A等に判示の如く賄賂を提供し、被告人A等においてその情を知り乍らこれを収
受した事実を確定判示しているのであつて、所論のようにD企業株式会社のために
する行為に関し同会社が判示の如く贈賄をしたことは認定したものでないことは判
文上極めて明かである。そして原判決の判示は贈収賄罪の判示として欠くるところ
なく、しかもその認定事実はその挙示する証拠を綜合してこれを肯認するに足りる
のである。されば原判決には何ら所論の如き違法はなく論旨は理由がない。
 同第二点について、
 賄賂が何人の犠牲又は出捐においてなされるかは何ら賄賂罪の成立に消長を及ぼ
すものではない。従つて仮りに所論のように本件贈賄の金品の交付又は饗応が所論
D企業株式会社の損失においてなされたとしても(原判決は左様な事実まで認定し
ていない)その損失に対してB油化工業株式会社が之を補填したか否か及び補填す
るの意思があつたか否か等の事実は本件賄賂罪の成否には全く関係のない事柄であ
る。従つて原判決がかかる事実についてまで証拠に基く判断を示さなかつたことは
当然であつて原判決には何ら所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 被告人E弁護人宮崎直二の上告趣意第一、二点について、
 原判決は被告人Eが昭和二一年四月商工事務官(三級)に任命され、本件犯行当
時商工省化学局化政課勤務を命ぜられていたものであることを認定しており、この
認定はその挙示する証拠によつて肯認することができる。そして明治二六年勅令第
一六六号「各省官制通則」第一三条一項に基く昭和二二年六月一九日附商工大臣の
省中一般達「商工省分課規程」第二五条によれば、本件犯行当時商工省化学局化政
課においては、一、局内の綜合事務に関する事項、二、ソーダ灰、苛性ソーダ及塩
素製品に関する事項、三、無機薬品に関する事項(以下四乃至八の事項省略)等を
管掌すべき旨規定されていたのであるから、(右分課規程第二五条は昭和二三年三
月三日以降改正せられ化政課においては、一、局内の綜合事務に関する事項、二、
ソーダ及びその誘導品に関する事項、四、無機薬及び試薬に関する事項等を管掌す
ることに定められた)被告人Eは右化政課に勤務する商工事務官として同課の所掌
事項につき、法令上、之を処理すべき一般職務の権限を有していたものと解するを
相当とする(昭和二二年法律第六九号行政官庁法第八条、昭和二一年勅令第一八九
号各庁職員通則第二条)。面して硫化ソーダ製造の原料たる所論苛性ソーダ等の割
当事務は前記分課規程第二五条第二号年に、又所論含アルミナ苛性ソーダ溶液の出
荷依頼書の発行事務は同条第三号(改正後は第四号)に該当するものと認められる
から、(右溶液については証人Fの供述参照)同被告人は前記一般的職務権限に基
き上官の命を承けてこれらの事務を処理し得べき地位にあつた訳である。ただ、当
時の実情を見ると同課の事務分担一覧表(記録一六八丁以下)に明かな如く右化政
課は内部的事務分配により局長附、技術室及びソーダ班外数班に分れていたのであ
つて、前記苛性ソーダ等の割当事務については右ソーダ班において被告人Aが責任
担当官としてこれを処理し、前記溶液の出荷依頼書の発行事務は同じくソーダ班に
おいて同班庶務の補佐官を命ぜられていた被告人Eが臨時的にこれを担当していた
ものであることは所論のとおりである。しかし右事務分担一覧表の如きは、ただ、
便宜に従い化政課の内部における事務分配の標準を定めたものにすぎないのであつ
て、被告人Eが同課に勤務する商工事務官として法令上有する前記職務権限を何ら
制限するものではないから、同被告人が当時たとえ、前記苛性ソーダ等の割当事務
を現実に自ら担当していなかつたとしても、又前記溶液の出荷依頼書の発行事務に
ついては一時臨時的に担当したにすぎないものであつたとしても、それは同被告人
がその職務権限に基き上官の命を承けてこれらの事務を処理し得べき地位に消長を
及ぼすべきものではない。従つて被告人Eが所論の各事務について原判示の如く金
員の供与又は饗応を受けるにおいては、それは同被告入の法令上の職務に関するも
のとして収賄罪を構成するものと云わなければならない。されば原判決が判示事実
を認定して同被告人を収賄罪に問擬したことは相当である。論旨は職務に基く事務
と雖も現実に担当していない事項及び既に担当を終つた臨時的な事項に関しては収
賄罪が成立しないという独自の見解に立つて原判決の擬律錯誤を主張するものであ
つて採用することができない。なお原判決は判示収賄行為が被告人Eの職務に関す
るものであることを判示しており(職務に関する所以までで判示することは法律上
要求されていない)、原判決の判示事実はその挙示の証拠によつてこれを認めるに
十分であるから、原判決には所論の如き理由不備等の違法はない。従つて論旨は理
由がない。 同第三点について、被告人Eが商工省化学局化政課の所掌事項につい
て、法令上、一般的な職務権限を有していたこと及び、同被告人が担当していた所
論含アルミ苛性ソーダ溶液の出荷依頼書の発行事務が、同被告人の右職務権限に基
く行為と認めるべきであることは、前段に説示したとおりである。従つて、右発行
事務は論旨設例の如き文部省職員がその一般的職務権限を離れた行為をした場合と
同一に論ずべきものではない。而して、右溶液に関して商工省当局が商工省化学局
長の名を以て、所論の如く出荷差止、割当及び出荷指示等の行政措置を行つたこと
の当否は暫く措くも、右措置が何ら法律上の強制力を伴うものでなかつたことは原
判決の証拠説明に徴して明かであるから、右措置を目して所論の如く個人の所有権
を制限する物資統制の措置であると即断することはできないばかりでなく、この事
実上の行政措置を前提とする所論出荷依頼書の発行がたとえ違法のものであると仮
定しても、被告人Eの担当した右依頼書の発行事務が、同被告人の前記の如き一般
的職務権限に基く行為たることに消長を来たすものではない。従つて、同被告人が
右発行事務に対して原判示の如く金員を収受し或は饗応を受けた以上、それは同被
告人の職務に関するものとして収賄罪を構成するものと云わなければならない。蓋
し公務員がその一般的職務権限内の事項に関する行為につき原判示の如く違法な報
酬を収受した以上、右行為が正当のものたると不正違法のものたるとを問わず収賄
罪が成立するものと解すを相当とするからである。されば、所論発行事務を以て法
律に根拠なき行為即ち被告人Eの職務権限外の行為なりとなし、原判決の擬律錯誤
を主張する論旨は当らない。なお原判決は本件収賄行為が被告人Eの職務に関する
ものであることを判示している以上、所論の如き理由不備の違法もない。従つて論
旨は理由がない。
 被告人Cの弁護人沢誠二、同游田多聞の上告趣意第一点について、
 被告人Eの担当した所論含アルミナ苛性ソーダ溶液の出荷依頼書の発行事務が、
同被告人の一般的職務権限に属する行為であることは宮崎弁護人の上告趣意につい
て説示したとおりである。そして、商工省が右溶液を統制するために為した出荷指
示が所論のごとく法律上の根拠なき単なる行政措置に過ぎないものであるとしても
かかる行政行為は裁判上これが無効又は取消の宣言のない以上当然無効であるとい
えないこと多言を要しないから、その無効を前提として被告人の職務確限が無効又
は不存在であるとの所論も是認することができない。従つて、原判決が被告人C等
の判示行為を贈賄罪に問擬したことは相当であつて、論旨は理由がない。
 同第二点について、
 しかし、前論旨で説明したとおり含アルミナ苛性ソーダ溶液が重要化学薬品であ
るか否かについては本件贈収賄罪の成否に関し判断すべき事項とは認められないか
ら、本論旨は採用できない。
 よつて旧刑訴四四六条によつて主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二六年一月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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