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裁判例


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       主   文
一 原告の本件特許権に基づく差止請求の訴えを却下する。
二 原告の本件不法行為に基づく差止請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、平成一〇年七月二一日まで、別紙目録記載の医薬品を販売してはなら
ない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告の答弁
1 本案前の答弁
原告の訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二 事案の概要
本件は、原告が特許権に基づき、もしくは被告の不法行為を理由として、被告に対
し医薬品の販売の差止を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 原告も被告も、共に医薬品の製造販売を目的とする株式会社である。
2 本件特許権
原告は、メシル酸カモスタットの物質及び医学用途(膵臓疾患治療剤、抗プラスミ
ン剤)について次のとおり特許権を取得し(以下、これを「本件特許権」といい、
右権利に係る特許発明を「本件特許発明」という。)、右特許権に係るメシル酸カ
モスタット製剤(商品名フオイパン錠)の販売を行つている。
(一)特許番号第一一二二七〇八号
発明の名称 グアニジノ安息香酸誘導体及び該グアニジノ安息香酸誘導体を含有す
る抗プラスミン剤と膵臓疾患治療剤
出願日 昭和五一年一月二一日
公告日 昭和五七年三月二五日
登録日 昭和五七年一一月一二日
存続期間終了日 平成八年一月二一日
(二)本件特許発明の技術的範囲
特許公報における本件特許権の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
(1)一般式
<33180―001>
(式中Zは、炭素|炭素共有結合メチレン基及びビニレン基よりなる群から選択さ
れた基を表しR1とR2は同一でも異なってもよいが各々水素原子又は低級アルキ
ル基を表す)で示される化合物又は薬理学的に許容できる酸付加塩。
(2)カルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)ベンゾアート
又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)記載の化合物。
(3)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)ベ
ンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)記載の化合
物。
(4)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキ
シ)ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)記載の
化合物。
(5)N、N―ジ―n―プロピルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾ
イルオキシ)ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記
(1)記載の化合物。
(6)N―N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキ
シ)フェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)
記載の化合物。
(7)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキ
シ)シンナマート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)記載の
化合物。
(8)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキ
シ)フェニルプロピオナート又は薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)
記載の化合物。
(9)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)フ
ェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩である前記(1)記載の
化合物。
(10)一般式
<33180―002>
(式中、Zは炭素|炭素共有結合、メチレン基、エチレン基及びビニレン基よりな
る群より選択された置換基を表しR1とR2は同一でも異なってもよいが各々水素
原子又は低級アルキル基を表す)で示される化合物は又はその薬理学的に許容でき
る酸付加塩を含有する抗プラスミン剤。
(11)カルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)ベンゾアー
ト又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(10)記載の抗プラス
ミン剤。
(12)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)
ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(10)記載
の抗プラスミン剤。
(13)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(1
0)記載の抗プラスミン剤。
(14)N、N―ジ―n―プロピルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベン
ゾイルオキシ)ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前
記(10)記載の抗プラスミン剤。
(15)N、N-ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)フェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記
(10)記載の抗プラスミン剤。
(16)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)シンナート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(10)
記載の抗プラスミン剤。
(17)N、N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキ
シ)フェニルプロピオナート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前
記(10)記載の抗プラスミン剤。
(18)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)
フェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(1
0)記載の抗プラスミン剤。
(19)一般式
<33180―003>
(式中、Zは炭素-炭素共有結合、メチレン基、エチレン基及びビニレン基よりな
る群から選択された置換基を表し、R1とR2は同一でも異なつてもよいが各々水
素原子又は低級アルキル基を表す)で示される化合物又はその薬理学的に許容でき
る酸付加塩を含有する膵臓疾患治療剤。
(20)カルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)ベンゾアー
ト又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(19)記載の膵臓疾患
治療剤。
(21)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)
ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(19)記載
の膵臓疾患治療剤。
(22)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)ベゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(19)
記載の膵臓疾患治療剤。
(23)N、N―ジ―n―プロピルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベン
ゾイルオキシ)ベンゾアート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前
記(19)記載の膵臓疾患治療剤。
(24)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)フェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記
(19)記載の膵臓疾患治療剤。
(25)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)シンナマート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(1
9)記載の膵臓疾患治療剤。
(26)N、N―ジメチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオ
キシ)フェニルプロピオナート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する
前記(19)記載の膵臓疾患治療剤。
(27)N―メチルカルバモイルメチルp―(p―グアニジノベンゾイルオキシ)
フェニルアセタート又はその薬理学的に許容できる酸付加塩を含有する前記(1
9)記載の膵臓疾患治療剤。
3 被告は、別紙目録記載の医薬品(以下、「被告製剤」という。)につき、平成
八年三月五日、薬事法一四条に定める製造承認を受け現在、右製剤の製造・販売の
準備をしており、被告製剤は、本件特許権と同一のメシル酸カモスタットを含む医
薬品である。
4 被告製剤は、いわゆる医療用の後発医薬口品に属すものであり、その製造承認
の申請には、薬事法施行規則(以下、「施行規則」という。)一八条の三により次
の資料を添附することが必要である。
(一)物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料として規格及び試
験方法に関する資料
(二)安定性に関する資料として加速試験に関する資料
(三)吸収、分析、代謝及び排泄に関する資料として生物学的同等性に関する資料
(四)当該有効成分の毒性、薬理作用、吸収分布、代謝、排泄及び臨床試験等に関
する文献等のリスト及びその内容、概要並びに評価結果の資料
5 右加速試験については、六か月以上の試験期間が要求されている。
6 被告は、本件特許権の存続期間満了前から被告製剤の販売に向けて準備を開始
した。
二 争点
1 特許権者は、特許権の存続期間満了後においても、当該特許権に基づく差止請
求権を有するか。
2 不法行為の効果として差止を請求することは、可能であるか。
3 被告製剤は、本件特許発明の技術的範囲に含まれるか。
三 当事者の主張
1 原告
(一)原告は、本件特許権の存続期間満了後においても、被告に対し、本件特許権
に基づき、被告製剤の販売差止請求権を有する。
(1)被告は、加速試験を実施するため、本件特許権の対象であるメシル酸カモス
タットを製造、輸入又は購入して・被告製剤を製造した。
 そして、加速試験については、六か月以上の試験期間が要求されており、医療用
の後発医薬品の製造承認の標準的処理期間は、都道府県知事が承認申請を受理した
日から二年を要するので、右試験に着手して製造承認を得るまでには少なくとも二
年六か月を要する。したがつて、被告は被告製剤について薬事法一四条の製造承認
を得た平成八年三月一五日の二年六か月以上前から販売に向けて準備を開始した。
(2)特許法六九条においては、特許権の効力は試験又は研究のためにする特許発
明の実施には及ばないと定められているが、右規定は技術の進歩を目的とした規定
であるから、本件のように専ら販売を目的とし、それに必要な製造承認を得るため
の試験は、右の「試験又は研究」には当たらない。したがつて、被告が行つた試験
は、本件特許発明の実施そのものであつて、違法に本件特許権を侵害するものであ
る。
(3)被告が本件特許権を侵害することなく被告製剤の製造・販売の準備を行うた
めには、本件特許権の存続期間満了日の翌日である平成八年一月二二日以後に製造
承認申請を受けるための各種試験を開始することとなるから、製造承認を受けるこ
とが可能となるのは、早くとも、その二年六か月後である平成一〇年七月二一日で
ある。
(4)被告は、本件特許間中に侵害行為を行い、その侵害行為の結果に基づき製造
承認を取得し、特許期間満了直後から被告製剤を販売して利益を得ようとするもの
である。このように特許期間中の違法な行為により特許期間満了後にその成果を得
ようとする場合には、原告は、本来特許期問中の侵害行為がなかつたとすれば、現
在あるであろう姿に戻すという限度において、いわば特許期間満了後の特許権の余
後効力として、特許期間満了後も差止講求権を行使できると解すべきである。
 このような効力が認められる理由は、次のとおりである。
① 本件特許権の対象は、製造販売の開始について薬事法の規制を受ける医薬品で
あるから、原告は、特許期間満了後も、試験及び製造承認の事務処理ために必要な
期間である、少なくとも二年六か月間は、他業者による後発品医薬品の参入を受け
ず、市場を独占できる利益を有している。ところが、被告は、本来特許期間満了後
に着手すべき後発品発売のための準備行為を、特許期満了に合わせて二年六か月以
上前から行い、いわばフライングスタートを切つているのであつて、このまま推移
すれば、被告の侵害行為がなければ得られたであろう特許期間満了後約二年六か月
間の原告の独占的利益が侵害される。このよう侵害行為(フライングスタート)に
対しては、侵害行為のなかつた状態すなわち特許期間満了後からスタートした状態
に戻させることが最も有効かつ合理的である。そこで、原告は、特許権侵害行為が
なかつた状態に戻すため、平成一〇年七月二一日までの間の販売差止を求めている
に過きず、それ以上のものではない。
② 新薬を研究開発し、薬事法上の製造承認を得て販売に到るまでには、多大な労
力、年月、費用を必要とするのであり、本件特許権に係る製剤を原告が販売するに
ついても、昭和五一年一月二一日に特許出願をしてから、同六〇年一月三一日に製
造承認を取得するまでに九年を要している。これに対して、他の業者が後発医薬品
を開発する場合、準備期間は概ね一年間、これに要する費用は約二〇〇〇万円程度
で済むといわれており、原告の払つた労力に対比すれぱ格段に容易である。それに
もかかわらず、被告は、製造承認申請に必要な各種の試験・研究を原告に察知され
ないように秘密裡に行つていたため、原告は、被告が製造承認を取得するまで被告
の侵害行為を知ることすらできなかつた。仮に、特許期間中に侵害行為が発見され
ていれば、特許法一〇〇条に基づき、製造・販売の差止と侵害行為を組成した物の
廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求する
ことができる結果、被告は特許期間満了後少なくとも二年六か月間は被告製剤の販
売を行えないこととなる。本件のように特許期間満了後に初めて侵害行為が発覚し
た場合に差止請求ができないとすれば、被告の権利侵害を追認する結果となるとと
もに、特許期間満了の前後で救済内容に不均衡が生ずる。そして、被告は被告製剤
の製造・販売について何らの制約も受けないことになつてしまい、多大な労力と費
用を投じて新薬を開発する者と後発医薬品を開発する者との間に著しい不公平が生
じ、また、特許法を遵守し、特許期間満了後から新薬を開発しようとする後発品メ
ーカーとの間でも著しい不公平を生じ、特許法がその目的としている発明の保護が
不十分なものとなつてしまう。更には、秘密裏に準備行為を行つてきた被告が、偶
々期間中に発見されなかつたことを奇貨として、特許期間の満了後であることを理
由に差止請求権は認られないとの主張を行うこと自体、クリーンハンドの原則や信
義則に照らして、許されないものである。
(二)被告は本件特許権侵害という不法行為を行い、これによつて原告の利益は著
しく損なわれるのであるから、原告は、被告に対し、不法行為に基づく差止請求と
して、平成一〇年七月二一日まで、被告製剤の販売の差止を求める。
 前記のように、原告は本件特許権の存続期間満了後少なくとも二年六か月間は後
発医薬品メーカーの参入を受けず市場を独占できるという利益を有している。被告
は、本件特許の存続期間中に各種の試験・研究を行い、その成果に基づいて製造承
認を取得し、期間の満了を待つて市場に参入しようとしているのであつて、これら
一連の違法行為によつて原告の独占的利益が侵害されたのであるから、原告は不法
行為の効果として被告製剤の差止を請求することができる。
(三) 被告製剤は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
2 被告
(一)「特許権に基づく差止請求について
(1) 本件特許権は、平成八年一月二一日に存続期間が終了したことにより消滅
したのであるから、本件特許権に基づく差止請求は、成立する余地がない。したが
つて、本件特許権に基づき差止を求める訴えは、訴えの利益を欠くものである。
 原告は期間満了前の準備行為の違法を主張するが、本件特許権の期間満了前に被
告がどのような行為を行つていようとも、右期間満了に伴つて差止請求権が消滅す
ることに何ら影響を及ぼすものではない。
(2) 何人も特許期間満了後における発明の実施は自由であつて、期間満了直後
から市場へ参入するためにその準備行為をしておくことは当然であつて、特許法及
び行政上もこのような準備行為を肯定としている。すなわち、
① 平成六年の特許法の改正により、特許権の存続期間が一律に二〇年に改正さ
れ、これに伴い右改正法施行の際存続し従来公告から一五年で満了していた特許権
の期間が自動的に延長されることになつた。そこで、右改正法附則は、その五条二
項において、「この法律の施行がないとした場合におけるその特許権の存続期間満
了日後、その準備をしている発明及び事業の範囲内において、通常実施権を有す
る。」と定め、旧法下の権利満了に備えて実施準備行為をしていた者に通常実施権
を認める利益権衡の規定を設けている。
② 厚生省は、従前より、特許期間後の実施に向けての製造承認申請を特許期間中
に受理していたが、平成七年六月二八日付けの各都府県薬務主管春課宛の連絡によ
り、先発品の特許期間満了日前の後発品の承認申請の取扱について、「特許期間の
終了を見込み、承認審査の標準的事務処理期間を考慮して後発品の承認申請を行う
ことは差し支えないものとする。」との通知を出している(ちなみに、製造承認の
標準的処理期間は、現在においては二年ではなく、約一年半である。)。
 したがつて、特許期間の終了前の申請準備行為が法的に問題にならないことが明
白である。
(3)特許法六八条は、特許権者は、業として特許発明の実施する権利を専有する
と規定しており、特許権者が専有する権利は「業としての実施」であるから、第三
者の行為が「業としての実施」に該当しなければ、特許権を侵害するとはいえな
い。そして、第一二者が特許間中に市場に参入しない限り、他製品の開発のために
試験研究をしたり、特許期問終了後の実施に向けて各種の準備行為をしたとして
も、特許権者は法が授与した権利を何一つ侵されるものではない。
 本件のような製造承認申請のための準備行為は、当該医薬品を患者に投与するの
ではなく、健康な人間に投与し先発医薬品と比較して有効成分の血中濃度を測定す
る試験であり、先発医薬品と競合して患者に投与して治療する行為ではないから、
市場競争に参画するものではなく、この点において個人的実施と変わるところがな
い、したがつて、製造承認申請のための準備行為は特許法六八条にいう「業として
の実施」に当たらない。
(4) 準備行為は、特許法六九条にいう「試験は研究のためにする特許発明の実
施」に該当する。同条は、「試験又は研究」の目的まで限定している訳ではなく、
その目的は種々雑多であつて一定の概念に固定することはできないのであつて、例
えば後発医薬品の製造販売業者が先発医薬品とその薬効成分を同一にする製剤を製
造する場合も、単に承認申請の目的のみで製造するのはなく、服用しやすいように
剤型を工夫したり、安定化を図つたりするなど諸々の研究や試験を行うのであり、
その過程で、製剤化に関する新たな技術が開発されることも少なくない。そして、
製薬産業における後発会社が行う準備行為は、
たとえそれが製造承認申請に向けてのものであつたとしても、自ら製造し来市場に
出そうとしている製品の内容、性状、機能などを調べるものであるから、まさに典
型的な試験行為である。
(5) 仮に、特許期間満了後における製造販売に備え、特許間中に行う製造承認
に向けての準備行為が特許法六八条の「業としての実施」に該当し、かつ、同法六
九条の「試験又は研究のための実施」に該当しないとしても、特許権者が独占の利
益を享受するのは権利存続期間中における市場競争の場においてであり、被告製剤
が市場で原告製剤と競合することはないから、原告に何ら損害は生ぜず、したがつ
て、被告の準備行為は実質的違法性を欠くものである。
(二) 不法行為の効果としての差止請求について
不法行為は、特許権が存在しその侵害行為があつて初めて成立するものであつて、
特許権消覆の行為が特許権侵害という不法行為を構成するということは背理であ
る。本件特許権は、平成八年一月二一日に存続期間が満了したことにより消滅した
のであるから・差止の対象となるべき不法行為は存在せず、したがつて不法行為の
効果としての差止請求を求めることも許されないのであつて、本件差止を求める訴
えは、訴えの利益を欠くものである。
(三) 被告製剤の内容は、「融点が一九四度から一九八度であつて、式(請求原
因2(一)記載のものと同じ。)で示されるN、N―ジメチルカルバモイルメチル
四―(四―グアニジノベンゾイルオキシ)フェニルアセタート モノメタンスルネ
ート(一般名・メシル酸カモスタット)を有効成分として含有し、慢性膵炎におけ
る急性症状の緩解を効能又は効果とする経口蛋白分解酵素阻害剤(商品名・オーメ
ット錠一〇〇)」である。したがつて、被告製剤は、本件特許発明の技術的範囲に
含まれない。
第三 争点に対する判断
一 本件特許権に基づく差止請求の可否について
1 本件特許権の存続期間の終了日は、平成八年一月二一日であるから、本件特許
権は、同日の経過をもって消滅したものである。
2 特許法一〇〇条一項は、特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用
羅を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請
求ることができると定めているから、現在特許権を有している者又は専用実施権を
有している者が、現在その権利を侵害され、又は将来においてその権利を侵害され
るおそれがある場合にその侵害の停止又は予防を請求することができると解するの
が文理上素直な解釈である。
 次に、特許法六七条が特許権の存続期間を一定期間限つた趣旨は、特許権の付与
によつて発明を保護するとともに、定期間経過後は発明を自由に利用できるように
することによつて産業の発達を阻害しないように配慮したものである。
 そして、特許法一〇〇条に定める差止請求権は、特許権によつて発明者の利益を
保護するための最も直載的かつ効果的な手段であり、特許権に付与された主要な効
力の一つである。したがつて、仮に特許権の存続期間を過ぎてもなお特許権に基づ
き差止請求権を行使することができるとすれば、特許法六七条に定められた特許権
の存続期間を越えて特許権の効力の存続を認めることに他ならず、右法定期間を延
長することと同様の結果をもたらすものである。しかし、このような結果は、特許
権の存続期間が法定され、これを延長し得る場合も特許法に定める場合に限定され
ている(特許法六七条二項参照。)ことと矛盾することは明らかである。
 そこで、以上のような特許法一〇〇条の文言、特許権に存続期間が定められてい
る趣旨、差止請求権の本質等に基づけば、特許権の存続期間の満了後は、最早特許
権に基づく差止請求を認めることはできないというべきである。
3 ところで、原告は、被告は特許期間中の違法な行為により特許期間満了後にそ
の成果を得ようとするものであるから、本来特許期問中の侵害行為がなかつたとす
れば、現在あるであろう姿に戻すという限度において、いわば特許期間満了後の特
許権の余後効力として、差止請求権を有すると主張する。
 しかし、原告が主張するような特許権の余後効力は、本件特許期間中に行つた被
告の準備行為の適法性を検討するまでもなく、これを認め得るような法的根拠は全
くないから、独自の見解として採用することはできない。
 また、原告は、特許権の存続期間満了後に準備を始めた場合、他の業者が後発医
薬品について製造承認を得るためには少なくとも二年六か月を要するのであるか
ら、その期間中は、原告が本件特許に係る医薬品の製造・販売について市場を独占
できる利益を有するとし、その独占的利益の侵害を防止するために侵害行為のなか
つた状態に戻すことを特許権の効力として認めるべきであると主張する。
 しかし、特許法が特許権の存続期間を法定しているのは、特許権者が有する経済
的利益も、右期間内に限つて法的に保護する趣旨であり、特許権の存続期問満了後
における利益までも保護するものではなく、また、医薬品につき製造承認を得るた
めに通常二年六か月が必要であり、そのため医薬品につき特許権を有していた者が
後発医薬品の発明者かこれにつき将許を取得するまで、その存続期間満了後も右期
間に相当する間利益を受けることがあるとしても、右利益は事実上のものにすぎな
いから、これをもつて、特許権に存続期間満了後も差止請求を認める根拠とするこ
とはできない。
原告が本件差止請求を認めるべき根拠として挙げるその他の事由は、すべて事実上
の利害関係にすぎないのであつて、いずれも、本件特許権の存続期間の満了後に差
止請求を認めるべき理由とはなりえないものである。
 なお、原告は、被告は本件特許期間中に秘密裡に瀧行為を行つてきたのであるか
ら、特許期間の満了後であることを理由に差止請求権は認められないとの主張を行
うことは、クリーンハンドの原則や信義則に照らして許されない主張するけれど
も、そもそも被告が原告に対し本件特許期問中に準備行為を行つていることを報告
すべき義務はなく、また本件特許権の存続期間の満了後は、原告は最早差止請求権
を有しないのであるから、原告の右主張は、失当として、採用することができな
い。
4 したがつて、本件特許権に基づく差止請求の訴えは、不適法である。
二 不法行為の効果としての差止請求について
 不法行為の効果として差止請求が認められるためには、不法行為による権利の侵
害が現に継続しているか、又は将来において存在するおそれが高い場合でなければ
ならないが、原告が主張する権利侵害の内容は本件特許権の侵害であるところ、前
記.のように本件特許は存続期間の満了により既に消滅しているのであるから本件
において不法行為の効果としての差止請求を認める余地はない。
 なお、原告は、特許の存続期間満了後二年六か月は市場を独占できる利益を有す
る主張しているが、原告の主張する右利益は、前記のように事実上のものであつ
て、法的に保護された利益と認めることはできないから右利益の侵害を理由とし
て、被告が不法行為を行うものと認めることはできない。
 したがつて、不法行為に基づく差止請求は、理由がない。
三 よつて、本件特許権に基づく差止請求の訴えは、不適法として却下し、不法行
為に基づく差止講求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから棄却する
こととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決
する。
(別紙)目録
左式で示されるN、Nージメチルカルバモイルメチル四―(四―グアニジノベンゾ
イルオキシ)フエニルアセタートモノメタンスルホネートの化合物(一般名「メシ
ル酸カモスタット」を含む医薬品(商品名「オーメット錠一〇〇」)。
<33180―004>

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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