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平成19年5月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第4398号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月14日
判決
熊本県八代市<以下略>
原告(1)A
(以下「原告A」という。)
福島県郡山市<以下略>
原告(2)B
(以下「原告B」という。)
福島県郡山市<以下略>
原告(3)C
(以下「原告C」という。)
宮城県仙台市<以下略>
原告(4)D
(以下「原告D」という。)
北海道空知郡<以下略>
原告(5)E
(以下「原告E」という。)
山形県酒田市<以下略>
原告(6)F
(以下「原告F」という。)
神奈川県川崎市<以下略>
原告(7)G
(以下「原告G」という。)
神奈川県足柄上郡<以下略>
原告(8)H
(以下「原告H」という。)
神奈川県津久井郡<以下略>
原告(9)I
(以下「原告I」という。)
千葉県千葉市<以下略>
原告(10)J
(以下「原告J」という。)
上記原告10名訴訟代理人弁護士国保修敏
東京都八王子市<以下略>
被告株式会社デージーエス・コンピュータ
同訴訟代理人弁護士福田照幸
主文
1()被告は,原告Aに対し,7万7760円及びこれに対する平成18年31
月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
()同原告のその余の請求を棄却する。2
2()被告は,原告Bに対し,7万7760円及びこれに対する平成18年31
月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
()同原告のその余の請求を棄却する。2
3()被告は,原告Cに対し,7万7760円及びこれに対する平成18年31
月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
()同原告のその余の請求を棄却する。2
4原告Dの請求を棄却する。
5原告Eの請求を棄却する。
6()被告は,原告Fに対し,7万7760円及びこれに対する平成18年31
月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
()同原告のその余の請求を棄却する。2
7()被告は,原告Gに対し,40万円及びこれに対する平成18年3月181
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()同原告のその余の請求を棄却する。2
8()被告は,原告Hに対し,次の金員を支払え。1
ア7万7760円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みま
で年6分の割合による金員,
イ20万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5
分の割合による金員
()同原告のその余の請求を棄却する。2
9()被告は,原告Iに対し,次の金員を支払え。1
ア7万7760円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みま
で年6分の割合による金員,
イ20万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5
分の割合による金員
()同原告のその余の請求を棄却する。2
10()被告は,原告Jに対し,次の金員を支払え。1
ア15万5520円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済
みまで年6分の割合による金員,
イ40万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年
5分の割合による金員
()同原告のその余の請求を棄却する。2
11訴訟費用は,原告D及び原告Eと被告との間においては,被告に生じた費
用の各15分の1を原告D及び原告Eの各負担とし,その余を各自の負担とし,そ
の余の原告らと被告との間においては,その余の原告らに生じた各費用の2分の1
を被告の負担とし,その余を各自の負担とする。
12この判決の第1項(),第2項(),第3項(),第6項(),第7項(),11111
第8項(),第9項()及び第10項()は,仮に執行することができる。111
事実及び理由
第1請求
別紙1ないし12の各「請求」欄に記載のとおり。
1人の原告が複数の登山ガイドの作成に関与している場合は,各登山ガイドごと
に請求の趣旨を分けた。
第2事案の概要
本件は,被告が出版した登山ガイドの案内文や写真の著作者である原告らが,執
筆契約に基づいて,未払の印税の支払を求めるとともに,英語版の登山ガイドを出
版した被告の行為が一部の原告の翻訳権を侵害すると主張して民法709条に基づ
,,,,く損害賠償を求めたのに対し被告が執筆契約の成立を争うとともに予備的に
一部の登山ガイドについて,原告らの誤記により印刷した登山ガイドを廃棄しなけ
ればならなかったとして,原告らに対する執筆契約の債務不履行に基づく損害賠償
請求権をもって相殺の主張をした事案である。
1前提事実
()当事者1
ア原告らは,山岳家,山に造詣の深い写真家,著者,プロガイド等であり,
後記本件ガイドマップに掲載された文章を執筆し,写真を撮影した者である。
イ被告は,情報処理に関するソフトウェア及びハードウェアの研究開発並び
,。に販売等を目的とする株式会社であり後記本件ガイドマップを出版した者である
被告の代表取締役は,平成15年12月26日まではK(以下「K」という。),
平成16年5月12日以降はL(以下「L」という。)である。
(争いのない事実)
()本件ガイドマップの内容2
ア被告は,平成16年3月以降現在までに,ジョイフルマップシリーズ「山
歩き編」と称する登山ガイド(以下「ジョイフルマップ」という。)を,50巻以上
出版している。
(争いのない事実)
イジョイフルマップは,国土地理院作成の地図画像にデジタル化した等高線
を入れたデータを使用し,B2版の1枚の用紙の表面に対象となる山域全体の地図
(縮尺5万分の1)をはめ込み,地図上に登山口や山の名前,登山口までのルート等
を記入し,地図以外の部分に対象地域の紹介文や写真,交通アクセス等を掲載し,
裏面に登山コースの地図(縮尺2万5000分の1)をはめ込み,地図上に登山口や
山の名前,登山コース等を記入し,地図以外の部分に登山コースの案内文や写真を
掲載している登山ガイドであり,折りたたまれて,紙のケースに入っている。
(争いのない事実)
ウ(ア)ジョイフルマップのうち,本件訴訟で印税支払の対象となっているもの
は,別紙1ないし12の12種類の日本語版である(以下「本件ガイドマップ」と
いい,各ガイドマップは「屋久島」のように略称する。)。
(イ)本件ガイドマップの各著作権主張の対象となっている部分は,別紙13に
記載のとおりである。これらは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,
言語又は写真の著作物に当たる。
(ウ)別紙1ないし12の各執筆・写真欄に記載された者は,上記別紙13の著
作権主張の対象となっている部分の文章を作成し,写真を撮影した。各執筆・撮影
者は,これらの著作物の著作者であり,著作権者である。
(甲2∼13,31∼39,42,証人M,原告H,弁論の全趣旨)
()本件ガイドマップの各印刷日と印刷部数は,別紙1ないし12の各「日本3
語版印刷日等」欄に記載のとおりである。
(争いのない事実,甲2∼16,弁論の全趣旨)
()印税の支払4
被告から各原告への印税の支払状況は,別紙1ないし12の各「印税の支払」欄
に記載のとおりである。
これにより支払済みとなったものについては,別紙1ないし12の各「日本語版
印刷日等」の各版の右側に「全部済み「3千済み」(「3000部分支払済み」」,
の意味である。)のように記載する。
(争いのない事実)
()英語版5
被告は,本件ガイドマップのうち「富士山「箱根」及び「上高地」を英語に」,
翻訳し,別紙7,9及び12の各「英語版印刷日等」欄記載の日に同記載の部数を
印刷し,そのころ配布を開始した(各英語版を「Mt.Fuji」のように表示す
る。)。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
()相殺関係6
ア誤記の存在
本件ガイドマップのうち「屋久島「裏磐梯「鳥海山「丹沢「白馬岳」」,」,」,」,
及び「上高地」には,別紙1,2,6,8,10及び12の各「誤記」欄に記載の
とおりの誤記があった。
(乙17の1∼11,弁論の全趣旨)
イ相殺の意思表示
被告は,平成18年6月23日の第2回弁論準備手続期日及び平成19年1月2
3日の第6回弁論準備手続期日において,後記3()イ(被告の主張)に記載の執筆3
契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権をもって,原告A,原告B,原告F,原
,,。告H原告I原告Jの印税の支払請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした
(顕著な事実)
2争点
()争点1執筆契約の成否及び内容1
()争点2翻訳権侵害の不法行為2
ア翻訳の許諾の有無
イ故意又は過失の有無
ウ損害の発生及び額
()争点3相殺の抗弁3
ア誤記の原因
イ損害の発生及び額
ウ原告らの責めに帰すべき理由
3争点に関する当事者の主張
()争点1(執筆契約の成否及び内容)について1
(原告らの主張)
ア本件企画書面の交付等
(ア)平成14年12月28日LはKの紹介によりM(以下Mという),,,「」。
,,,,。と会いMに対しジョイフルマップの制作編集を依頼しMはこれを承諾した
(イ)LとMは,平成15年1月,数回打合せを行った。
(ウ)Mは,Lとの打合せの内容に沿って「大人の遠足(仮題)」発刊につい,「
て」と題する書面(甲1の一部変更前の書面。以下「本件企画書面」という。)を作
成した。現在の甲1の書面の題が「新企画「J・MAP<ジェイマップ」<仮題>
発刊について」となっているのは,同年2月18日のLとの話し合いにより登山ガ
イドのタイトルが変更になったため,Mが,それに合わせて自己のパソコンに保存
していた文書の表題を変えたためである。
(エ)本件企画書面には,印税として「本体価格×制作部数×6%」と記載さ,
れている。
(オ)平成15年2月1日,被告事務所において,ジョイフルマップの企画会議
,,,,。が行われKLデザイナーのN原告Hほか2名の執筆予定者とMが集まった
(カ)Mは,その場で,本件企画書面を全員に交付し,原告Hは,同原告が本件
企画書面に沿った「丹沢」の執筆等を約し,被告が本件企画書面に記載された印税
の支払を約した。
(キ)その後,Mは,原告らに対し,次のとおり,本件企画書面を交付し,各原
告と被告は,各原告が本件企画書面に沿った各ガイドブックの執筆等を約し,被告
が本件企画書面に記載された印税の支払を約した。
a原告A平成15年2月,
b原告B平成15年6月,
c原告C平成15年9月,
d原告D平成15年9月,
e原告E平成16年1月,
f原告F平成15年9月,
g原告G平成15年11月,
h原告I平成15年2月(丹沢),
i原告H及び原告I平成15年12月(箱根),
j原告J平成15年2月(白馬岳,北岳),
平成15年12月(上高地)
イ印税の請求
(ア)被告が前提事実()のとおり印税を支払う前に,被告の担当者であったO4
らは,被告名で,原告らに対し,本体価格(648円)×被告の指定部数×6%で算
出した印税を請求するよう書面で催促した。
(イ)被告の指定部数は,印刷部数が3000部までは印刷部数,印刷部数が3
000部を超える場合は3000部であった。
(ウ)原告らは,上記催促どおりに印税の支払を請求した。
ウ被告の反論に対する認否及び反論
(ア)M契約
後記被告の主張ウ(ア)a(被告の計画)は知らない。
同b()(M契約)は認め,()(著作権買取義務)は否認する。ab
同c(原告らからの著作権買取り)は否認する。
同d(Mからの著作権買取り)は否認する。
(イ)本件企画書面
被告の主張ウ(イ)のうち,柱書は否認する。
同a(タイトル名)は認める。上記ア(ウ)のとおりである。
同b(定価)は否認する。
同c(刊行予定)は否認する。
同d(代表取締役)は認める。本件企画書面の被告代表取締役の名前がLとなって
いるのは,Mは,平成14年12月28日にKからLをチェアマンと紹介されたた
め,Lが被告代表取締役であると誤解していたためである。
エ印税の算定基準
(ア)「制作」の意味
a被告が印刷したものは,すべて本件企画書面中の「本体価格×制作部数×
6%」の「制作部数」に当たる。
bすなわち「制作部数」とは作った部数であるが,商品の印刷を終え,製,
本,組立をしたものだけでなく,すぐできる組立部分を販売の都合で組み立てない
で保管している状態のものを含む。
c本件ガイドマップについては,印刷により,すぐできる組立部分を販売の
都合で組み立てないで保管している状態にあった。
(イ)時機に後れた攻撃防御方法
a原告らは,当初より,印税は「本体価格×印刷部数×6%」と主張してい
た。
bそれにもかかわらず,被告は,人証調べを経て,弁論終結間際になった平
成19年1月16日「制作部数」を基準とすべきである旨主張した。,
c被告の「制作部数」を基準とする旨の主張は,故意又は重大な過失により
後れ,訴訟の完結を遅延させるものであるから,却下されるべきである。
(ウ)印刷部数への変更合意
仮に,本件企画書面の交付を受けた時点では「制作部数」を基準とする旨合意し
ていたとしても被告担当者のOらが印刷部数に応じた印税を請求するよう求め(甲,
17∼27,乙8),原告らがこれに応じた時点で,原告らと被告の間で「印刷,
部数」を基準として印税を算定するという合意が成立した。
(被告の主張)
ア本件企画書面の交付等
(ア)原告らの主張ア(ア)のうち,同日K,LがMと会った事実は認め,その余
は否認する。
(イ)同(イ)は認める。
(ウ)同(ウ)は否認する。
(エ)同(エ)は認める。
(オ)同(オ)のうち,平成15年2月1日に,被告事務所に,K,L,M,原告
Hらが集まったことは認めるが,その余は否認する。同日の会合は,MがMの協力
者として原告Hらを被告に紹介しただけである。
(カ)同(カ)は否認する。本件企画書面がその場で交付されたことはない。
(キ)同(キ)は否認する。
イ印税の請求
(ア)同イは認める。
(イ)Mは,平成15年3月から被告会社内に机を提供され,編集作業等を行っ
ていた。Mは,被告の従業員であるOらに対して印税の支払に関する書面を作成さ
せ(乙8)印税と称して過分な支払をさせたものであり被告は錯誤により支払っ,,,
たものである(乙12)。
ウ被告の反論
(ア)M契約
a被告は,等高線のデジタル化に成功し,平成14年ころ,国土地理院の許
可を得て,国土地理院作成の画像にデジタル化した等高線を入れた地図を作成し,
これに交通アクセスや登山ルート,季節ごとの見所の説明等を記載した1枚の地図
の登山ガイドを作成することを計画した。
b()被告は,平成15年1月ころ,Mとの間で,上記登山ガイド(ジョイフa
ルマップ)のデザイン,資料や写真等のデータ収集,編集校正等の作業を,1点当
たり29万円(消費税別)で請け負わせる旨の契約を締結した(以下「M契約」とい
う。乙3の1)。
()M契約では,Mが各原告から翻訳権を含め著作権をすべて買い取ることb
になっており,Mへの報酬の中には,著作権の買取費用が含まれていた。
cMは,各原告から,翻訳権を含め著作権を買い取った。
d被告は,Mから,その著作権を買い取った。
(イ)本件企画書面
本件企画書面には,以下の誤りがある。これらの誤りは,本件企画書面が本件訴
訟の提起後に作成されたことを示している。
aタイトル名
,「」()平成15年2月1日当時の登山ガイドのタイトルは大人の遠足(仮題)a
であった(乙1の3)。
()これを本件企画書面に記載された「ジョイフルマップ(J・MAP)」にb
改題したのは,平成15年4月以降である(乙1の6,3の1・2・6)。
b定価
()平成15年2月1日当時の定価は,543円(消費税別)であった(乙1のa
3)。
()これを本件企画書面に記載された650円(実際は648円)に変更したb
のは,平成15年5月20日のことである。
c刊行予定
()平成15年2月1日当時の刊行予定は,平成15年4月以降31種類でa
あった(乙1の3・5)。
()これを本件企画書面に記載された「第1期は2003年5月から20冊b
程度」に変更したのは,その後である。
d代表取締役
,,()前提事実()イのとおり平成15年2月1日当時の被告の代表取締役はa1
Kであった。
()前提事実()イのとおり,製作・発行元の被告代表取締役と記載されたLb1
が代表取締役になったのは,平成16年5月である。
エ印税の算定基準
(ア)「制作」の意味
a原告らの主張エ(ア)は否認する。
,,,,b()本件ガイドマップは印刷した後蛇腹折りにし更に三つ折りにしa
ケースを印刷して組み立て,三つ折りにした地図をケースに入れて製品化する。
()「制作部数」は,上記のように製品化された地図の部数のことを意味しb
ており,印刷部数とは異なる。
()一被告は,委託販売出荷数実数(販売数を含んだ店頭在庫数)の10%程c
度を常に製品在庫として保管し,出荷に備えていた。
二返品された製品は,そのまま再度出荷する場合がほとんどであるが,返
品数の約10%はケースを取り替えて製品在庫とし,約5%は本体の損傷があるた
め焼却処分した。
三総返品数は,店頭在庫の2倍以下である。
,,,四よって制作部数は下記の計算式により計算することができる(乙19
31)。
制作部数=店頭在庫×(1+0.1+0.05×2)
五これによると,本件ガイドブックの制作部数は,下記のとおりとなる。
①「屋久島」1749冊
②「裏磐梯」1422冊
③「飯豊連峰」972冊
④「早池峰山」1017冊
⑤「大雪山Ⅰ」1234冊
⑥「鳥海山」1348冊
⑦「富士山」1844冊
⑧「丹沢」1918冊
⑨「箱根」1191冊
⑩「白馬岳」1144冊
⑪「北岳」1163冊
⑫「上高地」957冊
(イ)時機に後れた攻撃防御方法
a同(イ)のうち,a及びcは否認し,bは認める。
b()原告らは,制作部数と印刷部数を区別しない主張をし,制作部数と印a
刷部数が同じである旨主張したのは,被告がこの点を明らかにした後であるから,
被告の主張は,時機に後れたものではない。
()また,被告は,制作部数の主張をすることは,故意や重大な過失によりb
遅れたものではない。
(ウ)印刷部数への変更合意
同(ウ)は否認する。
()争点2(翻訳権侵害の不法行為)について2
ア翻訳の許諾の有無
(被告の主張)
前記()(被告の主張)ウ(ア)のとおり1
(原告らの主張)
前記()(原告らの主張)ウ(ア)のとおり1
イ故意又は過失の有無
(原告らの主張)
被告代表者であるLには,原告G(富士山),原告H及び原告I(箱根)並びに原告
J(上高地)の翻訳権の侵害につき,故意があり,少なくとも重大な過失がある。
(被告の主張)
原告らの主張は否認する。
ウ損害の発生及び額
(原告らの主張)
,,(ア)被告の翻訳権侵害により原告Gが被った精神的苦痛を慰謝するためには
150万円が相当である。
(イ)被告の翻訳権侵害により,原告H及び原告Iが被った精神的苦痛を慰謝す
るためには,各75万円が相当である。
,,(ウ)被告の翻訳権侵害により原告Jが被った精神的苦痛を慰謝するためには
150万円が相当である。
(被告の主張)
(ア)原告らの主張は否認する。
(イ)前記()(被告の主張)エの算定方法により算出した制作部数は,次のとお1
りであるから,慰謝料としては,次の金額が相当である。
a()「Mt.Fuji」の制作部数は,735冊である。a
()慰謝料としては,648円×735冊×6%=2万8577円の3倍のb
8万5731円が相当である。
b()「HAKONE」の制作部数は,506冊である。a
()慰謝料としては,648円×506冊×6%=1万9674円の3倍のb
5万9020円が相当である。
c()「KAMIKOUCHI」の制作部数は,456冊である。a
()慰謝料としては,648円×456冊×6%=1万7730円の3倍のb
5万3188円が相当である。
()争点3(相殺の抗弁)について3
ア誤記の原因
(被告の主張)
,。前提事実()アの誤記はいずれも各執筆者の行為に起因して生じたものである6
(原告らの主張)
被告の主張アは否認する。
イ損害の発生及び額
(被告の主張)
(ア)「屋久島」初版
a()被告は「屋久島」初版2000部について,平成16年3月から販売a,
委託を開始した。
()被告は,同年5月ころに誤記に気付き,訂正を指示した。b
()被告は,平成17年1月19日,2版を印刷した。c
b初版2000部は,平成16年5月以降少しずつ廃棄し,平成17年1月
から5月にかけて,店頭在庫とサンプルを残して,すべて焼却した。
c初版2000部の印刷代は,42万4000円である(乙9の4)。
d()よって,被告は,原告Aに対して,同原告との執筆契約の債務不履行a
に基づき,同額の損害賠償請求権を有する。
()1枚の地図であるから,訂正表を入れて訂正することはあり得ない。b
(イ)「裏磐梯」初版
a()被告は「裏磐梯」初版2000部について,平成16年3月から販売a,
委託を開始した。
()被告は,同年10月ころ,年号の誤記や等高線の消失,誤字を発見し,b
訂正を指示した。
()被告は,平成17年1月19日,2版を印刷した。c
b初版2000部は,平成16年10月から少しずつ廃棄し,平成17年3
月から5月にかけて,店頭在庫とサンプルを残して,すべて焼却した。
c初版2000部の印刷代は,42万円である(乙9の5)。
dよって,被告は,原告Bに対して,同原告との執筆契約の債務不履行に基
づき,同額の損害賠償請求権を有する。
(ウ)「鳥海山」初版
a()被告は「鳥海山」初版2000部について,平成16年3月から販売a,
委託を開始した。
()被告は,同年8月ころ,コースタイムの誤記,誤字の指摘を受け,またb
薄い紙で印刷されていたため,訂正を指示した。
()被告は,平成17年1月19日,2版を印刷した。c
b初版2000部は,平成16年8月から少しずつ廃棄し,平成17年1月
から5月にかけて焼却処分した。
c初版2000部の印刷代は,45万1900円である(乙9の5)。
dよって,被告は,原告Fに対して,同原告との執筆契約の債務不履行に基
づき,同額の損害賠償請求権を有する。
(エ)「丹沢」初版
a()被告は「丹沢」初版2000部について,平成16年3月から販売委a,
託を開始した。
()被告は,その後まもなく「清水岳」の誤記に気付き,直ちに訂正を指b,
示した。
()被告は,同月31日に2版6000部を印刷し,初版と差し替えた。c
b初版2000部については,平成16年3月以降少しずつ廃棄した。
c初版2000部の印刷代は,32万2000円である(乙9の3)。
dよって,被告は,原告H及び原告Iに対して,同原告らとの執筆契約の債
務不履行に基づき,同額の損害賠償請求権を有する。
(オ)「白馬岳」初版及び2版
a()被告は,平成15年5月末ころ「白馬岳」初版3200部について,a,
地図のSとWの取り違いに気付き,訂正を指示した。
()被告は,同年9月17日,2版2000部を印刷した。b
()被告は,2版2000部について,平成16年3月から販売委託を開始c
した。
,,,。()被告はその直後花の名前の誤記を指摘されたので訂正を指示したd
()被告は,同月31日に3版6000部を印刷して2版と差し替えた。e
b()初版3200部は,平成15年6月ころから焼却処分にした。a
()2版2000部は,平成16年3月ころから少しずつ焼却処分した。b
c2版2000部の印刷代は,37万6000円である(乙9の2)。
dよって,被告は,原告Jに対して,同原告との執筆契約の債務不履行に基
づき「白馬岳」分につき,同額の損害賠償請求権を有する。,
(カ)「上高地」初版
a()被告は「上高地」初版5500部について,平成17年1月に印刷をa,
終えたが,販売委託前に旅館名が記載されている誤記を発見した。
()被告は,同年2月7日,2版を印刷した。b
b初版5500部は,サンプル30冊を残し,すべて焼却処分した(乙7の
3∼6)。
c初版5500部の印刷代は,28万8000円である(乙9の12)。
dよって,被告は,原告Jに対して,同原告との執筆契約の債務不履行に基
づき「上高地」分につき,同額の損害賠償請求権を有する。,
(原告らの主張)
(ア)「屋久島」初版
,。同イ(ア)a()(販売委託開始)及び()(再印刷)は認め()(誤記発見)は否認するacb
被告は,他のガイドマップも含め,2版又は3版を発行するまで,誤記に気が付
かず,販売を継続していた。廃棄は,旧年度のままでは売れ行きが悪いので,年度
が変わって2版又は3版を発行したためであり,誤記があったためではない。
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d()(まとめ)は否認する。a
この程度の誤記であれば,他のガイドマップの誤記を含め,訂正表を同封して済
ませるのが通常であり,廃棄するまでの必要はない。
(イ)「裏磐梯」初版
,。同イ(イ)a()(販売委託開始)及び()(再印刷)は認め()(誤記発見)は否認するacb
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d(まとめ)は否認する。
(ウ)「鳥海山」初版
,。同イ(ウ)a()(販売委託開始)及び()(再印刷)は認め()(誤記発見)は否認するacb
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d(まとめ)は否認する。
(エ)「丹沢」初版
,。同イ(エ)a()(販売委託開始)及び()(再印刷)は認め()(誤記発見)は否認するacb
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d(まとめ)は否認する。
(オ)「白馬岳」初版及び2版
同イ(オ)a()(SとWの取り違い)()(再印刷)()(販売委託開始)及び()(再々abce,,
印刷)は認め,()(花の誤記発見)は否認する。d
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d(まとめ)は否認する。
(カ)「上高地」初版
同イ(カ)a()(誤記発見)は不知,()(再印刷)は認める。ab
同b(焼却処分)は不知。
同c(印刷代)は不知。
同d(まとめ)は否認する。
ウ原告らの責めに帰すべき理由
(原告らの主張)
(ア)執筆者の原稿の作成に当たり,誤記を零にすることは困難であり,この程
度の誤記をもって,原告らの責めに帰すべき理由があるとすることはできない。
(イ)Mは,被告に対し,校正刷りをして著者や編集者が確認してから印刷に回
すように提言したが,被告はこれに応じなかった。
(ウ)したがって,誤記の発生につき,原告らに責任はない。
(被告の主張)
(ア)原告らの主張(ア)(誤記零の困難性)は否認する。
本件ガイドマップは,山歩きのガイドブックであるから,誤記があると地図自体
の信用性が失われるだけでなく,読者の生命に関わる。
(イ)同(イ)(校正刷り)は否認する。
,,,現在の印刷では印刷の段階で校正刷りをすることはないからデータの段階で
著者が誤字脱字等を完全にチェックすべきである。
(ウ)同(ウ)(まとめ)は否認する。
第3当裁判所の判断
1事実認定
前提事実,各項に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実を認めるこ
とができる(一部は,当事者間に争いがない。)。
()執筆契約の成否及び内容1
ア被告による企画
,,。(ア)被告は平成11年ころ地図の等高線をデジタル化することに成功した
Lは,平成14年夏ころから,デジタル化をした地図を利用して,1枚の紙の表裏
に地図とコースガイド等を記載した登山ガイドを作成することを思い付き,同年8
月26日に,デジタル等高線作成のため,国土地理院から測量成果の使用承認を得
た。
(乙1の4,27,被告代表者L)
(イ)Lは,同年12月ころ,白馬岳の山域について,B2版の用紙の表面に5
万分の1の縮尺の地図をプリントアウトし,その横の部分に交通アクセスなどを記
載するための空欄を設け,裏面に2万5000分の1の縮尺の地図をプリントアウ
トして,その横の部分に登山コースについて案内文などを記載するための空欄を設
けた試作品を作成した。
(乙5の1・2,27,被告代表者L)
イMへの協力依頼
,,,(ア)Lは交通アクセスや案内文写真等の収集を第三者に委託しようと考え
当時の被告代表取締役であったKに相談した。
,,「」,Kは同年12月28日山と渓谷社に勤務した経歴のあるMをLに紹介し
Lは,Mに対し,ジョイフルマップの編集を1点当たり29万円で依頼し,Mは,
これを承諾した。
その際,KがLを「チェアマン」と紹介したため,Mは,Lのことを被告の代表
取締役であると誤信した。
(争いのない事実,甲41,42,乙27,証人M,被告代表者L)
(イ)被告はMに対して本件ガイドマップ1冊当たり29万円の報酬を支払っ,,
た。
Mの請求書(乙3の2∼9)には名目としてデザイン・編集コーディネイター,「,
料「編集・デザイン,プロデュース料」などと記載されていた。また,被告の」,
購入伝票(乙3の1)には,発注内容として「デザイン料パッケージデザイン=,
¥30,000,本体デザイン=¥60,000,計¥90,000,アートディ
レクション編集・ネーム校正=¥100,000,データ年収(注:収集の誤記)
=¥50,000,制作経費・管理費=¥50,000計¥200,000デ
ザイン料+アートディレクション=¥290,000」と記載されている。
(甲41,42,乙3の1∼9,証人M)
ウLとMとの打合せ
(ア)LとMは,平成15年1月中に数回,企画意図,紙面構成,執筆内容,タ
イトル,定価,部数,山域,刊行予定等についての打合せを行った。
(争いのない事実,甲41,42,乙27,証人M,被告代表者L)
(イ)被告は同月16日国土地理院に対して登山地図大人の遠足シリー,,,「」
ズ(全31巻)作成のため,測量成果使用承認申請をし,同年2月6日に承認を受け
。「」,た同申請書に添付された大人の遠足シリーズの商品の概要と称する書面には
価格は543円(消費税別),販売予定数25万部(31種合計)と記載されていた。
(乙1の3・5,27,被告代表者L)
エ本件企画書面
(ア)Mは,同年1月31日,Lとの打合せの内容をまとめて,本件企画書面を
作成した。
(甲41,42,証人M)
,「「」」(イ)甲1には新企画J・MAP<ジェイマップ<仮題>発刊について
と題して,ジョイフルマップの企画意図,構成内容,印税等について,下記の内容
が記載されている。
a企画意図
()地図とガイドブックの一体化a
1枚の用紙に山域全体図(縮尺5万分の1)とコースルート図(縮尺2万5000
分の1)を挿入し,コースガイド情報を加えることで,歩きながら自分の位置を確
認し周辺状況を知ることができる。
()国土地理院発行の地図をデジタル化した素材を使用した登山ガイドであb
り,範囲を自由自在にトリミングでき,登山コースに沿って距離と高度差を簡単に
引き出すことができる。
b構成内容
()表面a
山域全体図(縮尺5万分の1)に登山口までのルートなどを記入する。
登山口までの交通アクセスを記載する。
()裏面b
縮尺2万5000分の1の地図に登山コースなどを記入する。
登山口から山頂までのコースの概要は,コースの見所,注意点などを簡略に分か
りやすく紹介する。
c定価650円部数3000部以上(定価・部数とも4月上旬決定)
d印税
本体価格×制作部数×6%
e刊行予定
第1期は平成15年5月から20冊程度
f製作・発行元
被告(代表取締役L)
g編集・コーディネーター

(争いのない事実,甲1)
(ウ)Mは,Lとの打合せの内容に沿って「大人の遠足(仮題)」発刊につい,「
て」と題する書面(甲1の一部変更前の書面。本件企画書面)を作成した。現在の甲
1の書面の題が「新企画「J・MAP<ジェイマップ」<仮題>発刊について」と
なっているのは,Mが,同年2月18日のLとの話し合いにより登山ガイドのタイ
トルが変更になったため,それに合わせて自己のパソコンに保存していた文書の表
題を変えたためである。
(甲41,42,証人M)
オ平成15年2月1日の打合せ
同年2月1日,原告Hほか2名の執筆予定者と被告のデザイナーのN,K,L,
Mが被告事務所に隣接する会議室に集まった。
その席でMは本件企画書面を出席者全員に配布しMやLがジョイフルマッ,,,,
プの企画意図,執筆内容,刊行予定,印税などについて説明をした後,原告Hは,
本件企画書面に沿ったガイドブック「丹沢」の執筆等を約し,被告が本件企画書面
に記載された印税の支払を約した。
(争いのない事実,甲38,40∼42,証人M,原告H)
カ被告の主張に対する判断
(ア)被告は,本件企画書面の表示に誤りがあることを指摘して,本件企画書面
が後日作成された旨主張する。
a本件企画書面のタイトル名が合わない点については,証人Mの説明に不自
然な点はないし,平成15年2月1日の席に本件企画書面が存在したことは,原告
H本人尋問の結果(甲40を含む。)によっても裏付けられている。
b被告代表取締役がLとなっている点については,証人Mは,当時Lのこと
を代表取締役であると誤解していたためであると弁解するところ,証拠(乙27,
被告代表者L)及び弁論の全趣旨によれば,Lは,画像処理等につき専門的知識を
有し,平成14年12月ころにも被告の実質的経営者として行動していたことが認
められるから,KからLを被告のチェアマンと紹介された旨の証人Mの証言(甲4
1,42を含む。)は信用することができる。したがって,Lを被告の代表取締役
であると誤信していた旨の同証言を不自然なものとして排斥することはできない。
c定価や刊行予定数は,前記カのとおり平成15年1月16日付けの申請書
添付書類の記載と異なっているが,企画の段階では,種々の検討が重ねられ,定価
等がしばしば変更されたとしても不自然ではない。
dよって,被告の上記主張は,採用することができない。
(イ)また,被告は,平成15年2月1日は,MがMの協力者として原告らを被
告に紹介しただけであったと主張し被告代表者L本人尋問の結果(乙27を含む),。
はこれに沿うものである。しかし,前記のとおり,1月中に打合せを重ね,関係者
が一堂に会して2時間程度話をした理由としては,不自然不合理であり,被告代表
者L本人尋問の結果の一部(乙27を含む。)は,証人Mの証言及び原告H本人尋問
の結果に照らし,採用することはできない。
(ウ)さらに,被告は,Mとの間で著作権買取合意をしていた旨主張し,原告ら
との間で印税支払合意をすることはあり得ない旨主張し,被告代表者Lは,それに
沿う供述をする。
しかしながら,証拠(乙8の6)によれば,被告担当者OからMに対する平成16
年9月15日付け連絡文書には,Mから原告Iに対し,2回目の印税の支払ができ
ないことを伝えてほしいと依頼し,その理由として「前回(注:平成16年)8月,
17日の打ち合わせ(Mさま,L社長,O)においてMさまにもお伝えしましたよう
に,販売数に対してお支払いしていくということに決定したため」と記載されて。
いることが認められる。この事実によれば,支払額の算定が制作部数,印刷部数,
販売部数に基づくかはともかく,被告が本件ガイドマップの執筆者に印税を支払う
こと自体は,Lも了解していたことが認められる。したがって,原告Hらとの印税
支払合意の成立自体を否定する被告代表者L本人尋問の結果(乙27を含む。)の一
部は,到底採用することができず,他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
キその余の原告らとの執筆契約
各原告は,Mから,次のとおり執筆を依頼され,各原告は,執筆等を約し,被告
が本件企画書面に記載された印税の支払を約した。
(ア)原告A,平成15年2月「屋久島」,
(甲31,41,証人M)
(イ)原告B,平成15年6月「裏磐梯」,
(甲32,41,証人M)
(ウ)原告C,平成15年9月「飯豊連峰」,
(甲33,41,証人M)
(エ)原告D,平成15年9月「早池峰山」,
(甲34,41,証人M)
(オ)原告E,平成16年1月「大雪山Ⅰ」,
(甲35,41,証人M)
(カ)原告F,平成15年9月「鳥海山」,
(甲36,41,証人M)
(キ)原告G,平成15年11月「富士山」,
(甲37,41,証人M)
(ク)原告I,平成15年2月「丹沢」,
(甲38,41,証人M)
(ケ)原告H及び原告I,平成15年12月「箱根」,
(甲38,41,証人M,原告H)
(コ)原告J,平成15年2月「白馬岳」及び「北岳,,」
同年12月「上高地」,
(甲39,41,証人M)
クその後の決定事項等
(ア)ガイドブックのタイトルは,平成15年2月18日ころ「大人の遠足」,
から「J・map(ジェイマップ)」に変更され,さらに,同年3月ころ「ジョイ,
フルマップ(J・MAP)」に変更され,定価についても,680円(消費税込み)と
決定された。
(甲41,42,証人M)
(イ)被告は,同年4月21日「ジョイフルマップ」について商標登録申請を,
し,同年10月17日商標登録された。
(乙6)
,,,「」「」(ウ)また被告は同年6月26日大人の遠足からジョイフルマップ
に,国土地理院の使用承認変更届けをした。
(乙1の6)
()制作部数の意味2
アジョイフルマップ完成までの工程
ジョイフルマップ完成までの工程は,次のとおりである。
(ア)Mは,被告に指示し,対象の山域の地図の範囲を確定してデータからB2
の用紙の表と裏にプリントアウトする。
(イ)Mは,地図以外の白い部分に記載する紹介文,交通アクセス,登山コース
の案内文の原稿の文字数や写真の枚数などの紙面構成を作成し,原告ら執筆者に原
稿の執筆や写真の提供を依頼する。
(ウ)Mは,原告らから提出された原稿や写真を紙面に組み込み,表面の地図の
,。,中に登山口に至るまでのルートを赤線で引き地名や山名を大きく表記するまた
裏面の地図に登山コースを赤色の破線で引き,地名や山名を大きく表記する。
(エ)この紙面を被告のデザイナーに依頼してコンピュータにデータを入力し,
紙面にプリントアウトして,初稿として被告と執筆者に交付して校正を依頼する。
(オ)Mは,訂正箇所があれば訂正をした上で,再度デザイナーに依頼してコン
ピュータにデータを入力し,データをコンパクトディスクに保存して,最終稿とし
て被告に提出する。
(カ)被告が内容を確認し,印刷を発注する。
(キ)印刷された紙面は蛇腹折りにした状態で被告の倉庫に保管し,注文に応じ
て,被告の工場でさらに三つ折りにし,ケースを組み立てて,ケースに収納し,商
品として完成し,出荷する。
(甲41,乙27,31,証人M,被告代表者L)。
イ本件ガイドマップの印刷日及び印刷部数
本件ガイドマップの印刷日及び印刷部数は,前提事実()のとおりである。3
ウ委託販売の開始
被告は,平成16年1月10日,日本地図共販株式会社との間で委託販売に関す
る取引契約を締結し,同年3月3日から販売委託を開始した。
(乙13,19,20)
エ印税の請求及び支払
(ア)平成16年2月16日,被告担当者であるOは,被告名で,原告A,原告
H,原告I,原告Jに対して,印税の請求をするよう促す旨の書面を送付した。
同書面には,以下の記載があった。
「・・・印税のお支払いについて下記のとおりお願い申し上げます」。
「なお,追加重版が予定されております。編集責任者M氏と相談のうえ,重版数量
等はお知らせ申し上げます」。
「1商品あたりのご請求頂く金額について
〈印税〉
648円(本体価格)×2,000部(印刷数)×0.06(印税)=77,760.円
*本年度はどの商品も一律で2,000部印刷いたしました。
〈ご請求頂く金額〉
77,760×0.9=69,984円
,。」源泉徴収として10%引かせていただきました69984円をご請求ください
(争いのない事実,甲17,24∼26)
(イ)原告A,原告H,原告I及び原告Jは,上記書面のとおり,被告に印税の
支払を請求し,被告は,平成16年5月6日,原告Aに屋久島初版2000部分の
印税として源泉徴収後の金額6万9984円,原告H,原告Iに丹沢2版2000
部分の印税として源泉徴収後の金額各3万4992円,原告Jに白馬岳2版200
0部分の印税として源泉徴収後の金額6万9984円を支払った。
(前提事実(),争いのない事実)4
,,,,,(ウ)被告は平成16年9月ころ同月14日付けの原告B原告C原告D
原告Fあてに印税の請求をするよう促す書面の原案を作成した。
これには,
「・・・印税のお知らせについて下記のように御連絡いたします。今回は印刷部数
とは関係なく一律3000部として計算させていただきます」。
「1商品あたりのご請求いただく金額について
3000部刷った場合の印税から10%引いた(源泉徴収)金額をご請求くださ
い。
例)1商品ご担当頂いた場合
,..648円(本体価格)×3000部(印刷部数)×006(印税)×1(商品数)×0
9(源泉徴収10%分)
=648×3,000×1×0.9
=104,976」
と記載されていた。
被告の従業員Oは,上記原案をMに見せたところ,Mは,執筆者に対して印刷部
数を明確に示してやるよう求めるとともに,印税支払を2000部については20
00部,3000部については3000部,3000部以上のものは3000部と
し,3000部分を支払う理由として,第1回の配本が3000部となったためと
記載するよう伝えた(乙8の6)。
(甲41,乙8の1及び3∼7,証人M)
(エ)a被告が原告Fに対し,同月15日付けで交付した書面には「鳥海山」,
初版2000部につき,全部数分の印税の請求をするよう求める旨の記載がある。
(甲22,乙8の11)
b被告が原告Bに交付した同月15日付けの「裏磐梯」初版2000部の印
税の請求をするよう促す旨の書面(甲18,乙8の15)や原告Cに交付した同月2
1日付けの「飯豊連峰」初版2000部等の印税の請求をするよう促す書面(甲1
9,乙8の12)にも,同旨の記載がある。
(オ)aまた,被告が原告Dに交付した同月22日付けの「早池峰山」初版の印
税の請求をするよう促す旨の書面(甲20)には「早池峰山」初版を5000部印,
刷したが,第一回配本(書店,直販)は3000部となるので,3000部分につい
て印税を請求することを求める記載がある。
b被告が原告Eに交付した同月22日付けの「大雪山Ⅰ」初版の印税等の請
,「」求をするよう促す旨の書面(甲21)原告Gに交付した同月22日付けの富士山
初版の印税の請求をするよう促す書面(甲23),原告Jに交付した同月22日付け
「」,。の北岳初版の印税の請求をするよう促す書面(甲27)にも同旨の記載がある
(カ)a原告らはそれぞれ上記書面に記載された金額を印税として請求した。
b被告は,平成16年9月,次のとおり支払った。
原告Bに対して「裏磐梯」初版2000部分の印税として源泉徴収後の金額6万9
984円,
原告Cに対して「飯豊連峰」初版2000部分の印税として同6万9984円,
原告Fに対して「鳥海山」初版2000部分の印税として同6万9984円,
原告Jに対して「北岳」初版3000部分の印税として同10万4976円
c被告は,同年11月,次のとおり支払った。
原告Dに対して「早池峰山」初版3000部分の印税として源泉徴収後の金額10
万4976円,
原告Eに対して「大雪山Ⅰ」初版3000部分の印税として同10万4976円,
原告Gに対して「富士山」初版3000部分の印税として同10万4976円
(前提事実(),争いのない事実)4
(キ)被告は,上記印税を請求するよう促した書面は,いずれもMが従業員に作
成させ,被告は誤って印税を支払ったものである旨主張するが,前記()カ(ウ)と同1
旨の理由により,書面の作成や印税の支払が錯誤であったことを認めるに足りる証
拠はない。
オ被告の試算
(ア)証拠(乙19,31)によれば,被告の本件ガイドマップの販売委託数の推
移は,被告作成の「ジョイフルマップ販売数(店頭在庫を含む)」(乙19)のとおり
であることが認められる
(イ)被告は,この推移に基づき,①被告は,委託販売出荷数実数(販売数を含
んだ店頭在庫数)の10%程度を常に製品在庫として保管し,出荷に備えていた,
②返品された製品は,そのまま再度出荷する場合がほとんどであるが,返品数の約
10%はケースを取り替えて製品在庫とし,約5%は本体の損傷があるため焼却処
分した,③総返品数は,店頭在庫の2倍以下であるので,④制作部数=店頭在庫×
(1+0.1+0.05×2)の計算式により計算することができる,⑤これによる
と,本件ガイドブックの制作部数は「丹沢」1918冊から「上高地」957冊,
までの範囲になる旨主張する。
しかし,被告の計算方法は,版の違いを考慮せずに行っているものであり(乙3
1別紙「注文数・返品数合計一覧」),版ごとの出荷数を知ることができない。ま
た,同計算方法は,店頭在庫を単純に1.2倍したものを制作部数としているが,
その数値は,被告作成の「ジョイフルマップ販売数(店頭在庫を含む)」(乙19)の
販売委託数と矛盾する。例えば,被告は「上高地」の制作部数を957冊と主張,
,「」,,するがジョイフルマップ販売数(店頭在庫を含む)(乙19)によれば被告は
平成17年2月26日に1150部を販売委託し,平成18年4月6日には更に3
00部を企画委託している。さらに,上記①製品在庫10%,及び②ケースの取り
替え率10%,焼却率5%の点は,被告代表者Lの陳述書(乙31)のみでは,その
数値の妥当性に疑問の余地がある。
これらの点を併せ考慮すれば,印刷部数が3000部以上の版については,20
00部は制作部数と認められるが,それを超える部数が制作部数に当たることの立
証はないといわなければならない。
()誤記の点3
ア誤記の存在
前提事実()アのとおり,本件ガイドマップのうち「屋久島「裏磐梯「鳥海6」,」,
山「丹沢「白馬岳」及び「上高地」には,別紙1,2,6,8,10及び1」,」,
2の各「誤記」欄に記載のとおり,誤記があった。
イ「屋久島」(原告A)
前記()アのジョイフルマップ完成までの工程によれば,本件ガイドマップ「屋2
久島」の完成までには,原告Aによる原稿の作成に引き続いて,Mの編集作業,被
告デザイナーによるコンピュータ入力作業の工程があり,Mの編集作業やデータ入
力作業の段階で誤りが生じた可能性があるところ,被告主張の誤記が原告Aが作成
した原稿の誤りに起因することを認めるに足りる証拠はない。
ウ「裏磐梯」(原告B)
(ア)被告主張の誤記のうち,等高線の消失が原告Bの作成した原稿の誤りに起
因することを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(甲32)及び弁論の全趣
旨によれば,等高線の消失は原告Bが作成した原稿の誤りに起因するものではない
ことが認められる。
(イ)前記()アのジョイフルマップ完成までの工程によれば,本件ガイドマッ2
プ「裏磐梯」の完成までには,原告Bによる原稿の作成に引き続いて,Mの編集作
業被告デザイナーによるコンピュータ入力作業の工程がありMの編集作業やデー,,
タ入力作業の段階で誤りが生じた可能性があるところ,被告主張の年号及び地名の
誤記が原告Bが作成した原稿の誤りに起因することを認めるに足りる証拠はない。
エ「鳥海山」(原告F)
前記()アのジョイフルマップ完成までの工程によれば,本件ガイドマップ「鳥2
海山」の完成までには,原告Fによる原稿の作成に引き続いて,Mの編集作業,被
告デザイナーによるコンピュータ入力作業の工程があり,Mの編集作業やデータ入
力作業の段階で誤りが生じた可能性があるところ,被告主張の誤記が原告Fが作成
した原稿の誤りに起因することを認めるに足りる証拠はない。かえって,少なくと
もコースタイムの逆表示については,その誤りの内容自体から,その後の編集作業
又は入力作業の誤りに起因する可能性の方が高いと認められる。
オ「丹沢」(原告H及び原告I)
前記()アのジョイフルマップ完成までの工程によれば,本件ガイドマップ「丹2
沢」の完成までには,原告H及び原告Iによる原稿の作成に引き続いて,Mの編集
作業,被告デザイナーによるコンピュータ入力作業の工程があり,Mの編集作業や
データ入力作業の段階で誤りが生じた可能性があるところ,被告主張の誤記が原告
H及び原告Iが作成した原稿の誤りに起因することを認めるに足りる証拠はない。
かえって,被告主張の誤りは,存在しない山の名前が地図上に存在するとの誤りの
内容自体から,その後の編集作業又は入力作業の誤りに起因する可能性の方が高い
と認められる。
カ「白馬岳」初版(原告J)
被告主張の方位記号の誤りが原告Jが作成した原稿の誤りに起因することを認
めるに足りる証拠はない。かえって,被告主張の方位記号の誤りは,その誤りの内
容自体から,その後の編集作業又は入力作業の誤りに起因するものと認められる。
キ「白馬岳」2版(原告J)
被告主張の「白馬岳」2版は,花の名前の誤りという誤りの内容自体から,その
後の編集等の工程で誤った可能性は低く,原告Jが作成した原稿の誤りに起因する
ものと認めざるを得ない。これに反する原告Jの陳述書(甲39)は,同原告の原稿
を具体的に示したり,他の原因によることを具体的に指摘するものではないから,
上記認定を左右するに足りるものではなく,他に上記認定を左右するに足りる証拠
はない。
ク「上高地」(原告J)
原告Jが被告の主張する旅館の写真や温泉旅館名を記載した原稿を提出したこと
を認めるに足りる証拠はない。
ケ誤記があった場合の対応
証拠(甲41,証人M)及び弁論の全趣旨によれば,本や地図の出版の世界では,
校正にいかに努力しても誤記や誤植を完全になくすことはできないところ,誤記の
内容がひどかったり,数が極めて多い場合は,絶版にすることや改訂の上印刷し直
,,,すことがされることがあるが誤記の内容がさほどひどくなく数も多くなければ
訂正表を添付することで対応され,その場合,著者に対し,訂正表の作成や挿入に
要する費用を請求されることはないことが認められる。
()英語版4
ア英語版の発行について
前提事実()のとおり,被告は,本件ガイドマップのうち「富士山「箱根」5,」,
及び「上高地」を英語に翻訳し,平成17年2月から9月の間に各5500部印刷
し,そのころ配布を開始した。
イMは,Lから「富士山「箱根」及び「上高地」の英語版を出版したい,」,
と連絡を受け,Lに対し,各著者から了解を得るよう伝えたが,Lは,各著者から
了解を得ることはしなかった。
(甲41,証人M)
ウ原告らの抗議
原告G,原告H,原告I及び原告Jは,同年11月ころ,被告に対し,同原告ら
の許諾なしに翻訳したことに対して抗議文を送付したが,被告は,その後も英語版
の販売を継続した。
(甲37,38,39,原告H,弁論の全趣旨)
エ廃棄
被告は,平成19年3月を目途に改訂版を作成して,上記英語版の販売を止める
こととし,平成18年8月ころ,次のとおりの冊数を残して,残りを廃棄した。
「Mt.Fuji」店頭在庫612冊及び今後の出荷予定冊数400冊,
「HAKONE」店頭在庫421冊及び今後の予定出荷冊数400冊,
「KAMIKOUCHI」店頭在庫380冊及び今後の出荷予定冊数400冊
(乙7の7∼9,25の1・2,28,被告代表者L)
2判断
()争点1(執筆契約の成否及び内容)について1
ア執筆契約の成立
前記1()に認定のとおり,原告らと被告は,各原告が各ガイドマップの執筆等1
を約し,被告が本件企画書面に記載された「本体価格×制作部数×6%」の計算式
で算定される印税を支払うことを約したものである。
イ制作部数の意味
(ア)各当事者の主張
原告らは「制作部数」は「印刷部数」と同視すべきであると主張し,被告は,,
「制作部数」と「印刷部数」は異なり,飽くまで「制作部数」を基準とすべきであ
る旨主張する。
(イ)時機に後れた防御方法
被告は,平成19年1月16日に陳述された準備書面において「制作部数」と,
「印刷部数」との違いを明確に主張したが,それ以前においても,印刷部数=制作
,。,部数との点は少なくとも弁論の全趣旨では争っていたものと認められるしかも
「制作部数」と「印刷部数」との違いを明確に主張することは,原告が平成18年
11月7日付け訴えの変更(追加)申立書により,印刷部数すべてにつき印税の支払
を求めたことにより,必要性が高まったものと認められる。
したがって,被告の上記主張をもって,時機に後れたものであるとか,後れたこ
とについて故意又は重大な過失があるものと認めることはできない。
(ウ)制作部数の意味
前記1()に認定の事実に,弁論の全趣旨によれば,本件企画書面における「制2
作部数」とは,製本を完了していつでも出荷できる状態にある部数を意味し,出版
者が書店に配布をしたものだけでなく,出版者の倉庫にあっていつでも注文に応じ
られる状態にあるものを含んでいること,より具体的には,印刷後蛇腹折りにした
状態で倉庫で保管していたものは制作部数に含まれないが,更に三つ折りにし,そ
れをケースに入れたものは制作部数に含まれることが認められる。
これに反するMの陳述書(甲42,43)の記載は,説得的な理由が何ら述べられ
ていないから,採用することができず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はな
い。
(エ)印刷部数への変更合意
原告らは,被告担当者のOらが印刷部数に応じた印税を請求するよう求め(甲1
7∼27,乙8),原告らがこれに応じた時点で,原告らと被告の間で「印刷部,
数」を基準として印税を算定するという合意が成立した旨主張する。
しかしながら,前記1()エのとおり,被告は,印刷部数ですべて支払っている2
ものではなく,3000部までは印刷部数どおりに印税の支払を行っているが,3
000部を超えるものについては,第一回配本(書店,直販)は3000部である等
の理由を付して,3000部についてのみ印税の支払を行っているから,原告らと
被告の間で「印刷部数」を基準として印税を算定するという合意が成立したと認め
ることは,到底できない。
よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
ウ被告が制作した部数
(ア)制作部数の認定
a前記1()オに説示したとおり,2000部印刷された版については,す2
べて制作され,3000部又はそれを超えて印刷された版については,2000部
は制作されたものと認められるが,それを超えて制作されたことの立証はない。
bただし,上記を超えて被告が任意に支払ったものは,被告が制作を認めて
支払ったものと認められるから,その支払分を返還したり,他の版の支払に振り替
える必要はない。
(イ)具体的認定
上記算定方法により印税を算定すると,未払印税額は下記のとおりとなる。
①原告Aにつき「屋久島」2版2000部の印税7万7760円,
②原告Bにつき「裏磐梯」2版2000部の印税7万7760円,
③原告Cにつき「飯豊連峰」2版2000部の印税7万7760円,
④原告Dにつき「早池峰山」初版2000部の印税0,
⑤原告Eにつき「大雪山Ⅰ」初版2000部の印税0,
⑥原告Fにつき「鳥海山」2版2000部の印税7万7760円,
⑦原告Gにつき「富士山」初版2500部の印税0,
原告H,原告Iにつき,
⑧「丹沢」2版4000部の印税0
3版2000部の印税各3万8880円
(訴状請求分2000部)
⑨「箱根」初版2000部の印税各3万8880円
合計各7万7760円
原告Jにつき,
⑩「白馬岳」3版2000部の印税7万7760円
⑪「北岳」2000部の印税0
⑫「上高地」2版2000部の印税7万7760円
合計15万5520円
エまとめ
よって,被告は,各原告に対し,上記金額及びそれらに対する訴状送達日の翌日
である平成18年3月18日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅
延損害金の支払義務がある。
()争点2(翻訳権侵害の不法行為)について2
ア翻訳許諾の有無
,,,,「」「」前記認定の事実によれば原告G原告H原告I原告Jが富士山箱根
「上高地」の翻訳をM又は被告に許諾したことの立証はない。
イ故意又は過失
前記()イ及びウに認定の事実によれば,原告Gらの翻訳権侵害につき,被告代4
表者であるLには故意があったことが認められる。
ウ損害の発生及び額
被告は原告Gらの許諾を得ていないことを知りながら英語に翻訳し,英語版を出
版したこと,原告Gらが抗議をした後も販売を続けていたこと,印刷部数は550
0部であるが,その後一部は廃棄されたこと,本件において,原告らは,慰謝料請
求とは別に,印刷部数等に応じた許諾料相当の損害の賠償を求めていないことから
,,すると原告らが無断で翻訳されたことにより精神的苦痛を被ったことが認められ
さらに,上記の諸事情を総合すれば,慰謝料額を,原告Gについては40万円,原
告Hと原告Iについては各20万円,原告Jについては40万円と認めるのが相当
である。
エまとめ
,,,,,よって被告は原告Gに対して40万円原告H原告Iに対して各20万円
原告Jに対して40万円及びこれらに対する不法行為後である平成18年3月18
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
()争点3(相殺の抗弁)について3
ア誤記の原因について
前記1()イないしクに説示のとおり「白馬岳」2版を除き,被告主張の誤記3,
が原告らの作成した原稿の誤りに起因することを認めるに足りる証拠はない。
イ「白馬岳」2版の花の写真
(ア)前記1()キに認定のとおり,原告Jは「白馬岳」2版の花の写真の名3,
前を誤ったものと認められるが,登山の安全性に関係する点についての誤りではな
く,登山のガイドブックとして販売ができないほどの重大な誤りであるとはいえな
い。そして,前記1()ケのとおり,この程度の誤りは,出版の世界では,通常訂3
正表を挿入することで対応され,著者に対し,訂正表の作成等に要する費用を請求
されることはない。
(イ)したがって,原告Jの誤記を生じさせた行為が違法であると認めることは
できず,また,被告主張の3版の印刷代が原告Jの誤記を生じさせた行為と相当因
果関係のある損害であると認めることもできない。
ウまとめ
したがって,被告の相殺の主張は,いずれも理由がない。
3結論
よって,原告らの請求は,主文第1項(),第2項(),第3項(),第6項(),1111
第7項(),第8項(),第9項()及び第10項()に掲記の限度で理由があるが,1111
その余は理由がないのでこれを棄却することとし,原告ら勝訴部分について仮執行
宣言を付することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市川正巳
裁判官
大竹優子
裁判官杉浦正樹は転勤のため署名押印することができない。
裁判長裁判官
市川正巳
別紙1「屋久島」
執筆・写真原告A
請求
被告は,原告Aに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(3000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(2500部)2
9万7200円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成15年10月31日2000部全部済み
2版平成17年1月19日5500部
印税の支払平成16年5月6日7万7760円
誤記初版(乙17の4∼7)
()地図上の地名「淀川(ヨドゴウ)」の振り仮名が「ヨドガワ」と誤っていa
る。
()地図上の地名「坪切岳」が「坪切山」と誤っている。b
()表面の案内文中の「桃平」が「桃山」と誤っている。c
()裏面の案内文中の3と4の文章が取り違えている。d
()裏面のコースの距離表示の距離や地名が欠けている。e
()地図上の花のマークが欠けている。f
()地図上の湯泊歩道入口,ゲートの位置が誤っている。g
別紙2「裏磐梯・磐梯山・安達太良山」(以下「裏磐梯」という。)
執筆・写真原告B
請求
被告は,原告Bに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(3000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(2500部)2
9万7200円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年1月30日2000部全部済み
2版平成17年1月21日5500部
印税の支払平成16年9月30日7万7760円
誤記初版(乙17の8・9)
()表面の案内文の冒頭の年号「1888年」が「1891年」と誤っていa
る。
()等高線の消失部分がある。b
()地図上の地名「渋谷分岐」が「渋沢分岐」と誤っている。c
別紙3「飯豊連峰」
執筆・写真原告C
請求
被告は,原告Cに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(3000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(2500部)2
9万7200円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年1月30日2000部全部済み
2版平成17年1月19日5500部
印税の支払平成16年9月30日7万7760円
別紙4「早池峰山・焼石岳」(以下「早池峰山」という。)
執筆・写真原告D
請求
被告は,原告Dに対し,次の金員を支払え(訴状請求分2000部)。
7万7760円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年7月2日5000部3千済み
印税の支払平成16年11月30日11万6640円
別紙5「大雪山Ⅰ旭岳周辺」(以下「大雪山Ⅰ」という。)
執筆・写真原告E
請求
被告は,原告Eに対し,次の金員を支払え(訴状請求分2000部)。
7万7760円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分の
割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年4月19日5000部3千済み
印税の支払平成16年11月1日11万6640円
別紙6「鳥海山」
執筆・写真原告F
請求
被告は,原告Fに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(3000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(2500部)2
9万7200円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年1月30日2000部全部済み
2版平成17年1月19日5500部
印税の支払平成16年9月30日7万7760円
誤記初版2000部(乙17の10)
()地図上の裏面「滝の小屋」コースタイムの登山と下山を逆に表示していa
る。
()裏面地図の施設の名前「自然実習体験館さんゆう」が「自然実習体験館b
さんしゅう」と誤っている。
別紙7「富士山」
執筆・写真原告G
請求
被告は,原告Gに対し,次の金員を支払え。
()印税請求分(2500部)1
9万7200円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分
の割合による金員,
()翻訳権侵害分2
150万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割
合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年7月2日5500部3千済み
印税の支払平成16年11月1日11万6640円
英語版印刷日等初版平成17年2月7日5500部
別紙8「丹沢」
執筆・写真原告H及び原告I
請求
被告は,原告Hに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(2版4000部,3版2000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(3版3500部)2
6万8040円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
被告は,原告Iに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(2版4000部,3版2000部)1
11万6640円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(3版3500部)2
6万8040円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成15年10月31日2000部請求せず
2版平成16年3月31日6000部2千済み
3版平成17年4月7日5500部
印税の支払平成16年5月6日各7万7760円
誤記初版(乙17の3)
地図上に,存在しない山の名前「清水岳」の記載がある。
別紙9「箱根」
執筆・写真原告H及び原告I
請求
被告は,原告Hに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(5000部)1
9万7200円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分
の割合による金員,
()請求拡張分(500部)2
9720円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割
合による金員,
()翻訳権侵害分3
75万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割合
による金員
2被告は,原告Iに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(5000部)1
9万7200円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分
の割合による金員,
()請求拡張分(500部)2
9720円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分の割
合による金員,
()翻訳権侵害分3
75万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割合
による金員
日本語版印刷日等初版平成16年11月30日5500部
英語版印刷日等初版平成17年9月6日5500部
別紙10「白馬岳」
執筆・写真原告J
請求
被告は,原告Jに対し,次の金員を支払え(訴状請求分6000部)。
23万3280円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成15年5月20日3200部請求せず
2版同年9月17日2000部2千済み
3版平成16年3月31日6000部
印税の支払平成16年5月6日7万7760円
誤記初版(乙17の1)
地図上の方位記号のWとSが逆である。
2版(乙17の2)
裏面の花の写真の下の花の名前ミヤマタンポポイブキジャコウソウがウ「」「」「
サギギク「オヤマノエンドウ」と誤っている。」
別紙11「北岳・甲斐駒ヶ岳」(以下「北岳」という。)
執筆・写真原告J
請求
被告は,原告Jに対し,次の金員を支払え(訴状請求分2000部)。
7万7760円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6分
の割合による金員
日本語版印刷日等初版平成16年5月11日5000部3千済み
印税の支払平成16年9月30日11万6640円
別紙12「上高地」
執筆・写真原告J
請求
被告は,原告Jに対し,次の金員を支払え。
()訴状請求分(2版5000部)1
19万4400円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年6
分の割合による金員,
()請求拡張分(2版500部)2
1万9440円及びこれに対する平成18年11月9日から支払済みまで年6分
の割合による金員,
()翻訳権侵害分3
150万円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割
合による金員
日本語版印刷日等初版平成17年1月21日5500部請求せず
2版同年2月7日5500部
英語版印刷日等初版平成17年9月6日5500部
誤記初版(乙17の11)
表面の旅館の写真の上部に,指定外の温泉旅館名の記載がある。

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