弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人松井稔、同小町谷一博、同今井克治の上告理由について
 一 原審が確定した事実関係は次のとおりである。
 1 上告人は、昭和六三年九月九日、D産業株式会社(以下「D産業」という。)
から、同会社所有の第一審判決添付物件目録記載一の建物(以下「旧建物」という。)
及びその敷地(以下「本件土地」という。)を共同担保として、同会社に対する上
告人の貸金債権等を被担保債権とする順位一番ないし三番の根抵当権及び抵当権(
以下「旧抵当権」という。)の設定を受け、同日、その登記を得た。
 2 D産業は、平成元年三月二〇日ころから四月初めころにかけて旧建物を取り
壊し、本件土地上に新たに前記物件目録記載二の建物(以下「新建物」という。)
を建築した。上告人は、同年六月三〇日、D産業から、新建物について、前記債権
を被担保債権として本件土地との共同担保とする順位一番ないし三番の根抵当権及
び抵当権(以下「新抵当権」という。)の設定を受け、同二年三月六日、同会社名
義で所有権保存登記がされると同時に、新抵当権の設定登記を得た。
 3 本件土地及び新建物は、上告人の申立てにより、競売に付され、一括して売
却された。執行裁判所が配当期日である平成四年五月二九日に作成した配当表は、
新抵当権が把握した交換価値は新建物の価額及び新建物のための法定地上権の価額
の合計額であり、当該売却代金の配当について、被上告人のD産業に対する同元年
三月二八日を法定納期限とする国税債権が上告人の前記債権に優先するとし、右国
税債権額に相当する一億〇八八九万八八四八円を被上告人に配当することを内容と
するものであった。上告人は、右配当期日に配当異議の申出をした。
 二 本件は、上告人が前記配当表のうち被上告人に対する配当額の変更を求める
配当異議の訴えであり、上告人は、旧建物が取り壊されて新建物が建築された場合、
原則として法定地上権は成立しないから、被上告人が国税債権として新建物から優
先的に弁済を受けられるのは最大限で新建物の材木価額にとどまるなどと主張した。
 原審は、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却すべきものとした。
 1 新抵当権は、被上告人の国税債権の法定納期限である平成元年三月二八日よ
り後の同年六月三〇日に設定されたから、新抵当権によって担保される債権は、国
税徴収法八条、一六条により被上告人の国税債権に劣後する。このことは、旧建物
が右法定納期限の時に存在していたか否かによって左右されるものではない。
 2 同一所有者に属する土地及びその地上建物に共同抵当権が設定された後、右
建物が取り壊され、新建物が建築された場合でも、土地所有者が新建物を建築し、
かつ、新建物に土地の抵当権と同順位の共同抵当権が設定された場合には、新建物
に法定地上権が成立する。右の場合には、旧建物が新建物に変わるだけで、旧建物
について共同抵当権が設定された当時と同じ状況になるからである。
 3 本件においては、新建物について、旧抵当権と同順位の新抵当権が本件土地
との共同担保として設定されたから、新建物のために法定地上権の成立が認められ
る。したがって、本件係争の配当額は、被上告人に配当すべきものである。
 三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおり
である。
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右
土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一
であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地
の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建
物のために法定地上権は成立しないと解される(最高裁平成七年(オ)第二六一号
同九年二月一四日第三小法廷判決・民集五一巻二号登載予定)。そして、新建物の
所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵
当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けた場合で
あっても、新建物に設定された抵当権の被担保債権に法律上優先する債権が存在す
るときは、右の特段の事情がある場合には当たらず、新建物のために法定地上権が
成立しないものと解するのが相当である。けだし、新建物に土地と同順位の共同抵
当権が設定された場合は、抵当権者は、旧建物に抵当権の設定を受けていたときと
同様に土地全体の価値を把握することができるから、新建物のために法定地上権の
成立を認めても不利益を被ることがない。しかし、新建物に設定された抵当権の被
担保債権に法律上優先する債権が存在する場合は、新建物に右抵当権に優先する担
保権が設定されている場合と実質的に異なるところがなく、抵当権者にとっては、
新建物に抵当権の設定を受けないときは土地全体の担保価値を把握することができ
るのに、新建物に抵当権の設定を受けることによって、かえって法定地上権の価額
に相当する価値を把握することができない結果となり、その合理的意思に反するか
らである。なお、このように解すると、建物を保護するという公益的要請に反する
結果となるが、抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視
すべきであるとはいえない。
 これを本件について見ると、上告人は、本件土地の所有者であるD産業によって
建築された新建物に本件土地と同順位の共同抵当権である新抵当権の設定を受けた
が、被上告人の国税債権は国税徴収法八条、一六条によりこの新抵当権の被担保債
権に優先するから、右の特段の事情がある場合に当たらず、新建物のために法定地
上権は成立しないものというべきである。そうすると、新抵当権によって把握され
る担保価値は、法定地上権のない新建物自体の価値にすぎず、本件土地全体の担保
価値は、本件土地に設定された抵当権によって把握されているということができ、
本件配当において、被上告人の国税債権が上告人の債権に優先するのは、新建物自
体の価値についてだけであるといわざるを得ない。したがって、これと異なる原審
の判断には民法三八八条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に
影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、本件について更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻
すのが相当である。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄

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