弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人角恒三の上告趣意第一点の(一)について。
 所論は、本件は必要的弁護事件であるのに、第一審の裁判手続において弁護人不
出頭の際にも公判を開き実体審理を行つた不法があるから、憲法三七条二項、三項
に違反すると主張する。しかし所論の理由は、原審において控訴趣意として主張さ
れず、従つて原判決のなんら判断を加えなかつた事項に関する主張であるから、適
法な上告理由にあたらない。(のみならず所論にかんがみ記録を調べてみると、第
一審の第二八回公判〔昭和二八年八月四日〕において被告人の弁護人弁護士角恒三、
同佐野千秋の両名は、次回期日昭和二八年九月一二日午前一〇時の告知を受けなが
ら〔記録一八一四丁以下〕、右両名ともその第二九回公判に出頭せず、また正当の
理由によつて出頭できなかつたと認めるに足りる資料もない。ところが裁判所は右
両弁護人の立会なくして実体審理に入り、職権をもつてAの鑑定書の証拠調をする
旨決定しこの取調をするとともに、検察官の請求にかかる証人Bを次回に喚問する
旨を決定し、〔相被告人の主任弁護人はこれに同意している〕、次回公判期日を昭
和二八年九月一五日午前一〇時と指定告知した〔同一八三九丁以下〕。そしてその
第三〇回公判期日には、角弁護人の期日請書は出ているが〔同一八七二丁〕、公判
調書〔同一八七三丁以下〕には、佐野弁護人のみ出頭し角弁護人は不出頭となつて
いる。しかしその記載によれば、前回の審理手続について裁判長は関係人の意見を
求め、「裁判長、弁護人不出頭の時も証拠調を行つているが、その時にしたことに
ついて異議はないか」「各弁護人及び各被告人、同意」なる問答があつたことが認
められ、本件被告人の弁護人佐野千秋もまたこの中に含まれているこというまでも
ない。そしてその公判期日は検察官の論告をもつて終つているが、その後第三一回
〔昭和二八年一〇月六日〕、第三二回〔同年一〇月八日〕、第三三回〔同年一〇月
一〇日〕の三回は弁護人の弁論と被告人の最終陳述に充てられ、それぞれ弁論と陳
述があつたが、本件弁護人も被告人も第二九回の公判手続については格別の異議そ
の他の申立をした形跡は全く認められない。この経過からいつても所論は採用のか
ぎりでない。)
 同第一点の(二)について。
 所論は、原判決は、詐欺罪の成立と被害者の財産上の損害との関係について大審
院判例に違反する判断をしたと主張する。しかし原判決は、中古品である本件中間
配線盤電器架一組は、判示のように、差し当つての通信目的には支障がないとして
も、新品より修理を要することも早く、その品質の劣るものであることは、鑑定人
Aの鑑定書によつて明らかであるから、かかる品物の納品を受けた電気通信局に財
産上の損害がなかつたものとはいえない、と明示している。従つて被害者に財産上
の損害のないことを前提とする所論は、原判決と異なる独自の事実に立つものであ
つて、判例違反について判断するまでもなく、前提において失当であり、採用のか
ぎりでない。同第二点について。
 所論(一)は法令違反の主張、同(二)は事実誤認、量刑不当の主張に過ぎず、
いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。その他記録を調べても同四一一条を
適用すべき事由があるとは認められない。よつて同四〇八条により裁判官全員一致
の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三二年一一月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己

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