弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人中村一作、同本谷康人の上告理由について
 論旨は、要するに、被上告組合がその組合員であつた上告人らに対して請求する
本件各臨時組合費のうち、原判示の各スト資金積立金、昭和三六年度春闘資金、昭
和三八年三月臨時徴収費及び臨時闘争費(炭労D最終資金を除く。)(以下これら
を「スト資金等」という。)は、被上告組合が公共企業体等労働関係法一七条一項
により禁止された争議行為を実施するための資金であつて、目的において違法なも
のであり、また、原判示の炭労カンパ、昭和三七年度年末臨時徴収費及び炭労D最
終資金(以下これらを「支援資金等」という。)は、被上告組合が他の労働組合の
闘争を支援し又はいわゆる水俣病患者を救済するための資金であつて、被上告組合
自身の組合員の経済的地位の向上という目的の達成に必要なものではないから、以
上の各臨時組合費徴収の決議にはいずれも組合員を拘束する法的効力がないと解す
べきであるのに、原審がその効力を認めて被上告組合の請求を認容したのは、法令
の解釈を誤り、かつ、憲法一三条、一四条、二九条に違反する、というのである。
 そこで、まず、本件スト資金等について考えるに、原審の認定するところによれ
ば、右スト資金等は、あるいはスト資金積立金という名目を付し、あるいはストラ
イキ実施の方針樹立と関連づけて徴収が決定されてはいるが、ストライキの実施は
あくまでもいわばプログラムにすぎず、現実にこれを行うかどうかは流動変転する
労使交渉の帰すうにより影響を受けるもので、被上告組合が右徴収を決定した時点
において既にストライキの実施を確定不動のものとして企図していたわけではなく、
要するに、右スト資金等は、必ずしも違法な争議行為を実施することを意味しない
一連の闘争やそれによつて不利益処分を受ける組合員の救済等の費用に充てるため、
通常組合費では負担にたえない財政上の不足を補う趣旨で、あらかじめ闘争のプロ
グラムとの一応の関連づけをして徴収される臨時の組合費であつて、違法な争議行
為の実施と直接に結びつけて徴収が決定されたものではない、というのであり、右
認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないものではない。
以上のような事実関係のもとにおいては、本件スト資金等は、将来の情況いかんに
よつては違法な争議行為の費用に充てられるかも知れないという未必的可能性があ
るにとどまり、その法律違反との関連性はいまだ微弱なものというを妨げないから、
これを直ちに違法行為を直接の目的とする資金と同視することは相当でなく、組合
員に対してその拠出を義務づけても違法行為の実行に対する積極的な協力を強制す
ることになるものではないというべきである。したがつて、被上告組合が正規の手
続によつてした右資金等徴収の決定につき組合員に対する法的拘束力を否定すべき
理由はなく、上告人らはこれを納付する義務を免れないといわなければならない。こ
の点に関する原審の判断は正当であつて、所論の違法はない。
 次に、本件支援資金等について考えるに、一般に、労働組合が他の友誼組合の闘
争を支援することはしばしばみられるところであるが、組合の主たる目的とする組
合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他
の組合との相互協力と連帯行動によつて実現されるものであるから、右支援のため
の資金を拠出することをもつて組合の目的と関連性のないものであるとすることは
できないし、また、それはなんら組合員の一般的利益に反することでもないのであ
る。それゆえ、組合において右支援資金の拠出を決定した場合には、それが法律上
許されない等格別の場合でないかぎり、その費用徴収の決定は組合員に対して拘束
力を及ぼすものと解すべきである。また、本件支援資金等のうちに所論のいうよう
にいわゆる水俣病患者救済のための資金が含まれているとしても、一の社会的存在
としての労働組合が右救済のような活動を行うことは、今日における組合の社会的
役割に照らしてもとより是認されるべきであり、組合にとつて決して無用のことで
はないから、かかる救済資金を拠出することもまた、間接ではあつても、組合の目
的遂行のために必要なものとして、その費用徴収の決定は組合員を拘束すると解す
るのが相当である。この点に関する原審の判断も正当であつて、所論の違法はない。
 論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実又は独自の見解を前提として原
判決の違法、違憲をいうものにすぎず、すべて採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
 裁判官小川信雄は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男

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