弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 原判決挙示の証拠によれば、所論の点について、原判決の認定した事実を肯認す
ることができるところ、右事実関係のもとにおいては、本件建物の使用関係につい
て、上告人と被上告人(会社)との間の雇傭関係の終了した時をもつて本件建物の
使用貸借の返還時期と定めた旨の原判決の判断は正当として、当審もこれを支持す
る。
 所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、
または、原審において主張・立証しない事実を前提として原判決を非難するもので
あつて、採るを得ない。
 同第二点について
 原判決が適法に認定したところによると、本件建物(部分)の使用貸借は雇傭関
係の終了した時に終了したものというのであるから、その返還時期については不確
定期限の定めがあつたというべきであつて、合意などの特別の事情のないかぎり、
民法四一二条二項により債務者たる上告人において右の不確定期限である雇傭関係
の終了を認識した時、すなわち、昭和三〇年七月二日の経過により、建物の返還(
明渡)債務の履行について遅滞の責に任ずべきものといわなければならない。
 原判決は、建物使用貸借終了が使用者の一方的通告による解雇に起因する場合に
は、借主において即時に建物を明け渡すことが事実上できないのが通常であるから、
借主の住居移転に必要とみられる相当の期間は明渡猶予されるべきである旨説示す
るが、当事者間にそのような趣旨の暗黙の合意が成立していた場合等、特別の事情
があれば格別、右は債務者において履行期に返還(明渡)債務を事実上履行するこ
とが困難であるというにすぎず、このような事情だけで前記民法の条文と異なる解
釈をとるべきいわれはない。原判決は、この点において、法令の解釈を誤つている
ものというべきであるが、この誤りは原判決の結論になんら影響を及ぼすものでな
いところ、所論は、原判決の前記判示の正当なことを前提とするものであるから、
所論は前提を欠き、採用しがたい。
 同第三点について。
 所論は、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するに帰し、
採用しがたい。
 同第四点について。
 原判決がその挙示の証拠により適法に認定した事実関係のもとにおいては、被上
告人(会社)の本訴請求は正当であるとしてこれを認容した原判決の判断は、当審
も正当としてこれを支持しうる。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は採用しがたい。
 上告代理人西田信義、同阿川琢磨の上告理由第一、二点について。
 原判決挙示の証拠に照らせば、所論の点についてした原判決の認定事実は、これ
を肯認することができる(とくに所論の甲第五号照および同第一二号証の一ないし
三に関する原判決の説示部分もこれを正当として支持することができる)。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠
の取捨・選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    下   村   三   郎

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