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平成29年5月17日判決言渡
平成28年(行ケ)第10029号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年2月15日
判決
原告株式会社三共
訴訟代理人弁理士小原博生
小堀益
堤隆人
松本正孝
被告特許庁長官
指定代理人瀬津太朗
長崎洋一
富澤哲生
金子尚人
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2014-3707号事件について平成27年12月14日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,進歩性判断(相違点の認定及び判断)の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「遊技機」とする発明につき,平成20年9月30日に特許出願
(特願2008-254467号。以下「本願」という。甲8の2)をしたが,平
成25年11月20日付けで拒絶査定を受けた。
原告は,平成26年2月27日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2014-3
707号),平成27年8月26日,手続補正(本願補正)をした。
特許庁は,平成27年12月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をし,その謄本は,平成28年1月5日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本願補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりで
ある(甲9の2。以下,本願の明細書及び図面を「本願明細書」という。)。
「複数種類の識別情報を変動表示させ,表示結果を導出させる変動表示装置に特
定表示結果が導出されたときに遊技者にとって有利な有利状態に制御する遊技機で
あって,
変動表示の表示結果が導出されるまでに前記変動表示装置において行われる識別
情報の変動表示の態様を選択する変動態様選択手段と,
前記変動態様選択手段により選択された変動表示の態様に従って前記変動表示装
置において識別情報を変動表示させ,表示結果を前記変動表示装置に導出させる変
動表示演出を含む演出の実行を制御する演出制御手段とを備え,
前記演出制御手段は,
変動表示の態様として再変動態様が選択されたときに,識別情報の変動表示が
開始されてから表示結果が導出されるまでに一旦仮停止させた後に全ての識別情報
を再度変動表示させる再変動表示を所定回実行する再変動表示実行手段と,
変動表示の態様として前記再変動態様が選択されたときにおいて仮停止される
よりも前に,該仮停止の後に識別情報が再度変動表示される可能性を予告する所定
の情報を遊技者に報知する仮停止前情報報知手段と,
前記再変動態様が選択されたときにおいて1回目の仮停止よりも前において,
前記仮停止前情報報知手段により前記所定の情報を報知することを制限可能な報知
制限手段と,
前記仮停止前情報報知手段により前記所定の情報を報知する報知態様を,複数
種類の報知態様のうちから選択するとともに,前記仮停止前情報報知手段により前
記所定の情報を報知するタイミングを,所定の第1タイミングと該第1タイミング
よりも遅く仮停止よりも早い第2タイミングとのうちから選択する報知態様選択手
段とを備え,
前記変動態様選択手段は,前記再変動表示の回数が特定回である第1再変動態様
を選択するときよりも前記再変動表示の回数が前記特定回よりも多い第2再変動態
様を選択するときの方が前記特定表示結果の導出される期待度が高くなるように,
前記再変動態様を選択し,
前記報知態様選択手段は,何回目の前記再変動表示かに応じて異なる割合により,
前記複数種類の報知態様のうちから何れかの報知態様を選択するとともに,前記再
変動表示が実行されるか否かに応じて異なる割合により,前記第1タイミングと前
記第2タイミングとのうちから前記所定の情報を報知するタイミングを選択する
ことを特徴とする遊技機。」
3審決の理由の要点
本願発明は,特開2008-194069号公報(甲1。以下「刊行物1」とい
う。)記載の発明(以下「刊行物発明」という。)に対して周知技術を適用して,当
業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項に基づいて
特許を受けることができない。
(1)刊行物発明の認定
刊行物発明は,次のとおりである。
「始動条件の成立にもとづいて各々を識別可能な複数種類の識別情報の変動表示
を行い,表示結果を停止表示する複数の可変表示部を有する可変表示装置を備え,
変動表示の停止結果として特定の識別情報の組み合せが停止表示されたときに遊技
者にとって有利な特定遊技状態に制御可能な遊技機であって,
停止表示以前に停止結果を特定の識別情報の組み合せとするか否かを決定する事
前決定手段と,
事前決定手段の決定にもとづいて,可変表示装置における識別情報の変動パター
ンを決定する変動パターン決定手段と,
変動パターン決定手段が決定した変動パターンにもとづいて,可変表示装置の識
別情報を変動表示させ,表示結果を停止表示させる表示制御手段と,を備え,
表示制御手段は,受信した変動パターンコマンドの内容が擬似連続変動を伴う変
動パターンである場合,
通常変動の停止時にチャンス目が仮停止表示されるか,すべり演出が実施され
た後に所定の図柄が仮停止表示され,その後にスーパーリーチに発展する演出が実
行され,
全ての可変表示部の識別情報を仮停止させた後,全ての可変表示部の識別情報
の再変動を開始させる全再変動態様を1回または複数回行う複数回変動パターンを
実行させる複数回変動パターン実行手段を備え,
さらに,すべり演出を伴う変動パターンであると判定されると,識別情報の変
動中であって,全ての識別情報が仮停止していないときに,全再変動態様が行われ
るか否かを擬似連続予告演出図柄を表示させることで予告する全再変動継続予告手
段を備え,
仮停止図柄決定処理において,N(初期値は0である)+1番目の飾り図柄の
仮停止の後で,かつ,N+2番目の飾り図柄が仮停止する前に,擬似連続予告演出
を実施するか否かを決定し,擬似連続予告演出を実施することに決定された場合に
表示する擬似連続予告演出図柄を,抽出した乱数値に従って,擬似連続予告演出図
柄選択用テーブルを用いて決定し,
全再変動継続予告手段は,第1全再変動継続予告手段(擬似連続変動が継続する
信頼度が50%である第1擬似連続予告演出図柄により擬似連続予告演出を実施す
る部分)と,該第1全再変動継続予告手段による予告が行われた場合よりも全再変
動態様が実施される割合の高いことを予告する第2全再変動継続予告手段(擬似連
続変動が継続する信頼度が100%である第2擬似連続予告演出図柄により擬似連
続予告演出を実施する部分)とを備え,
表示制御手段は,抽出した乱数値により,第1擬似連続予告演出図柄(「まだまだ
続くかもー」というメッセージとともにキャラクタを表示させる)と第2擬似連続
予告演出図柄(「まだまだ続くよー」というメッセージとともにキャラクタを表示さ
せる)とのうちから,いずれかの擬似連続予告演出図柄を決定し,可変表示装置9
に表示させ,
全再変動継続予告手段により実施される,第1擬似連続予告演出図柄,及び,第
2擬似連続予告演出図柄による擬似連続予告演出を,可変表示装置9において飾り
図柄が変動中であって,全て(左中右)の図柄が仮停止していないときに行い,
擬似連続変動は最大4回まで実施され,擬似連続変動を含む変動パターンでは,
擬似連続変動の回数が多いほど大当りの発生する割合が高くなり,
擬似連続予告演出図柄選択用テーブル(はずれ用)と擬似連続予告演出図柄選択
用テーブル(大当り用)とでは,表示結果が大当りであるときにはずれであるとき
よりも第2擬似連続予告演出図柄を選択する割合が高くなるように判定値が割り振
られている
遊技機。」
(2)一致点の認定
本願発明と刊行物発明とを対比すると,両者は,次の点で一致する。
「複数種類の識別情報を変動表示させ,表示結果を導出させる変動表示装置に特
定表示結果が導出されたときに遊技者にとって有利な有利状態に制御する遊技機で
あって,
変動表示の表示結果が導出されるまでに前記変動表示装置において行われる識別
情報の変動表示の態様を選択する変動態様選択手段と,
前記変動態様選択手段により選択された変動表示の態様に従って前記変動表示装
置において識別情報を変動表示させ,表示結果を前記変動表示装置に導出させる変
動表示演出を含む演出の実行を制御する演出制御手段とを備え,
前記演出制御手段は,
変動表示の態様として再変動態様が選択されたときに,識別情報の変動表示が
開始されてから表示結果が導出されるまでに一旦仮停止させた後に全ての識別情報
を再度変動表示させる再変動表示を所定回実行する再変動表示実行手段と,
変動表示の態様として前記再変動態様が選択されたときにおいて仮停止される
よりも前に,該仮停止の後に識別情報が再度変動表示される可能性を予告する所定
の情報を遊技者に報知する仮停止前情報報知手段と,
前記再変動態様が選択されたときにおいて1回目の仮停止よりも前において,
前記仮停止前情報報知手段により前記所定の情報を報知することを制限可能な報知
制限手段と,
前記仮停止前情報報知手段により前記所定の情報を報知する報知態様を,複数
種類の報知態様のうちから選択するとともに,前記仮停止前情報報知手段により前
記所定の情報を報知するタイミングを,仮停止よりも早いタイミングとする報知態
様選択手段とを備え,
前記変動態様選択手段は,前記再変動表示の回数が特定回である第1再変動態様
を選択するときよりも前記再変動表示の回数が前記特定回よりも多い第2再変動態
様を選択するときの方が前記特定表示結果の導出される期待度が高くなるように,
前記再変動態様を選択し,
前記報知態様選択手段は,何回目の前記再変動表示かに応じて異なる割合により,
前記複数種類の報知態様のうちから何れかの報知態様を選択する
遊技機。」
(3)相違点の認定
本願発明と刊行物発明とを対比すると,両者は,次の点で相違する。
ア相違点1
仮停止前情報報知手段による所定の情報の報知を制限可能な報知制限手段に関し
て,
本願発明は,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を報知することを制限
可能であるのに対して,
刊行物発明は,2番目以降の仮停止よりも前において所定の情報を報知すること
を制限可能である点。
イ相違点2
仮停止前情報報知手段により所定の情報を報知するタイミングに関して,
本願発明は,所定の情報を報知するタイミングを,所定の第1タイミングと該第
1タイミングよりも遅く仮停止よりも早い第2タイミングとのうちから選択する報
知態様選択手段を備え,報知態様選択手段は,再変動表示が実行されるか否かに応
じて異なる割合により,第1タイミングと第2タイミングとのうちから所定の情報
を報知するタイミングを選択するのに対して,
刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミングで所定の情報を報知し,そのタイミ
ングを第1タイミングと第2タイミングとに区別しているが,第1タイミングと第
2タイミングとを,全ての識別情報の仮停止後に再変動表示が実行されるか否かに
応じて,異なる割合により選択することは特定されていない点。
(4)相違点についての判断
ア相違点1についての判断
特開2001―224786号公報(甲2の1。以下「甲2の1公報」という。
【0042】及び【図4】),特開2004-49881号公報(甲2の2。以下「甲
2の2公報」という。【0160】ないし【0164】及び【図6】ないし【図8】)
によれば,遊技機の技術分野において,1番目の仮停止よりも前に再変動が発生す
ることを予告報知することは,周知の技術事項である(以下「周知の技術事項1」
という。)。そうすると,刊行物発明に対して,周知の技術事項1を適用し,1番目
の仮停止よりも前についても,擬似連続変動に伴う再変動が行われることに関する
情報を報知することを制限したり,制限しなかったりすることを決定し,相違点1
に係る本願発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
イ相違点2についての判断
刊行物発明の第2全再変動継続予告手段は,第1全再変動継続予告手段による予
告が行われた場合よりも全再変動態様が実施される割合の高いことを予告するとと
もに,第2擬似連続予告演出図柄は,第1擬似連続予告演出図柄よりも,表示結果
がはずれであるときよりも大当たりであるときに選択される割合が高くなるように
判定値が割り振られている。
また,刊行物1(【0479】)には,「例えば,左図柄が仮停止したときや左右図
柄が仮停止した時点で行うようにしてもよい。」と記載されていることからすれば,
第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬似連続予告演出図柄による擬似連続予告演出
を行うタイミングは,仮停止より早いタイミングの中で,「全ての図柄が仮停止して
いないとき」とは異なるタイミングにすることについて示唆されている。
他方,特開2004-290294号公報(甲3の1。以下「甲3の1公報」と
いう。【0005】,【0006】,【0085】,【0089】,【0117】ないし【0
119】,【図10】)及び特開2005-58273号公報(甲3の2。以下「甲3
の2公報」という。【0009】,【0010】,【0069】,【0070】,【0079】,
【図4】(b),【図6】)によれば,遊技機の技術分野において,大当たりの可能性
が高いことを,大当たりの信頼度の異なる種類の予告演出を用いて報知するに際し
て,予告演出の報知タイミングとして,図柄の変動中の早いタイミングの予告演出
と遅いタイミングの予告演出の少なくとも2種類のタイミングの予告演出を設け,
遊技者の期待感を持続させ,興趣を向上させるために,大当たりの結果になる場合
(大当たり信頼度が高い場合)には,はずれの結果になる場合(大当たり信頼度が
低い場合)よりも高い割合で,遅いタイミングでの予告演出を選択することは,周
知の技術事項である(以下「周知の技術事項2」という。)。
そして,刊行物発明は,遊技者の興趣が向上する遊技機を提供することを目的と
するものであるから,刊行物発明と周知の技術事項2は,遊技者の興趣を向上させ
るという同一の課題を解決するものであるとともに,遊技機という同一の技術分野
に属するものである。さらに,刊行物発明の第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬
似連続予告演出図柄は,再変動が継続することの信頼度の大小を予告するものであ
ることに加えて,大当たり信頼度の大小を予告するものであるのに対し,周知の技
術事項2は,大当たり信頼度の大小を予告するものであるから,刊行物発明と周知
の技術事項2は,大当たり信頼度の大小を複数種類の演出を用いて予告する点でも
共通する。
以上によれば,刊行物発明における第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬似連続
予告演出図柄を用いた擬似連続予告演出を実施する全再変動継続予告手段に対し,
周知の技術事項2を適用することにより,再変動表示への期待感を持続させて遊技
者の興趣を向上させるために,再度変動表示される可能性があることを予告する所
定の情報の報知タイミングとして,仮停止よりも早い第1タイミングと第1タイミ
ングよりも遅い第2タイミングとのうちのいずれかを選択可能にし,かつ,第2全
再変動継続予告手段により予告どおりに再変動される変動表示の態様(全再変動の
継続する信頼度が高いとともに大当たり信頼度の高い態様)については,早い第1
タイミングに比し遅い第2タイミングを多い割合で選択し,他方,第1全再変動継
続予告手段により予告どおりに再変動される確率の低い変動表示の態様(全再変動
の継続する信頼度が低いとともに大当たり信頼度の低い態様)については,遅い第
2タイミングに比し早い第1タイミングを多い割合で選択するようにして,相違点
2に係る本願発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
第3原告主張の審決取消事由
原告主張の審決取消事由は多岐にわたるところ,弁論準備手続による主張整理の
結果,取消事由1,2,4,11及び12は,審決取消事由としてではなく,その
事情として主張するものであるとして整理され(第1回弁論準備手続調書参照),主
たる争点は,審決取消事由のうち取消事由8ないし10(相違点2の判断の誤り)
であると整理された。また,原告は,実質的に同一の理由について複数の取消事由
を主張するので,以下これらの事由をまとめて整理する。
1相違点1の認定に関する取消事由
(1)取消事由3(相違点1の前提となる一致点の認定の誤り)
刊行物発明は,1番目の仮停止より前に擬似連続予告演出図柄を表示させないも
のであるから,仮停止よりも前において,擬似連続予告演出図柄を表示することを
制限可能とするものでないことは明らかである。そうすると,刊行物発明と本願発
明は,「仮停止前情報報知手段により所定の情報を報知することを制限可能な報知
制限手段」を備える点で共通するにすぎない。
したがって,刊行物発明と本願発明が「仮停止よりも前において,仮停止前情報
報知手段により所定の情報を報知することを制限可能な報知制限手段」を備える点
で共通するとした審決の一致点の認定には,誤りがある。
(2)取消事由5(相違点1の認定の誤り)
上記(1)のとおり,刊行物発明と本願発明は「仮停止前情報報知手段により所定の
情報を報知することを制限可能な報知制限手段」を備える点で共通するにすぎない
から,相違点1は,「仮停止前情報報知手段による所定の情報の報知を制限可能な報
知制限手段に関して,本願発明は,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を
報知することを制限可能であるのに対して,刊行物発明は,1番目の仮停止よりも
前には所定の情報を報知しない点。」と認定すべきである。
したがって,相違点1に係る審決の認定には誤りがある。
(3)取消事由7(相違点1の判断の誤り)
上記(1)及び(2)のとおり,相違点1は認定されるべきであるから,相違点1が容
易想到であるというには,周知の技術事項として「1番目の仮停止よりも前に再変
動が発生することを予告報知するか否かを決定すること」が認定される必要がある。
しかしながら,審決は,甲2の1公報及び甲2の2公報に基づき,周知の技術事項
1として「遊技機の技術分野において,1番目の仮停止よりも前に再変動が発生す
ることを予告報知すること」を認定するにとどまるから,刊行物発明に対し周知の
技術事項1を適用しても,刊行物発明は,1番目の仮停止よりも前に再変動が発生
することを予告報知するか否かを決定する相違点1に係る本願発明の構成に至らず,
当業者が当該構成を容易に想到できるものとは認められない。また,本願発明の効
果は,「最初の仮停止までの先疑似予告が実行されないことがあることから,選択さ
れていた変動パターンが疑似連なしの場合であっても,飾り図柄の変動表示の結果
が確定するまで依然として再変動表示が行われることを遊技者に期待させることが
でき,遊技の興趣を向上させることができる」というものであり,最初の仮停止ま
での先疑似予告が実行され又はこれが実行されないことによって初めて生じるもの
であるから,刊行物発明に周知の技術事項1を適用したとしても,本願発明の効果
を奏するものとはならない。
したがって,相違点1に係る審決の判断は,認定すべき周知技術とは異なる周知
技術を前提とするものであり,誤りがある。
2取消事由6(相違点2の認定の誤り)
審決は,相違点2につき,「刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミングで所定の
情報を報知し,そのタイミングを第1タイミングと第2タイミングとに区別してい
るが,第1タイミングと第2タイミングとを,全ての識別情報の仮停止後に再変動
表示が実行されるか否かに応じて,異なる割合により選択することは特定されてい
ない点」と認定する。しかしながら,審決が「刊行物発明は,第1擬似連続予告演
出図柄,及び,第2擬似連続予告演出図柄による擬似連続予告演出を行うタイミン
グを,同じタイミングとするが,仮停止するより早いタイミングとしたものである」
と正しく認定するとおり,刊行物発明は,擬似連続予告演出を同じタイミングで行
うものであるから,「第1タイミングと第2タイミングとに区別している」という相
違点2に係る審決の認定には誤りがある。そのため,「第1タイミングと第2タイミ
ングとを,全ての識別情報の仮停止後に再変動表示が実行されるか否かに応じて,
異なる割合により選択することは特定されていない点」で相違するという審決の認
定も,「第1タイミングと第2タイミングとに区別している」という上記の誤った認
定を前提とするものであり,同様に誤りがある。
そうすると,相違点2は,次のように認定されるべきである。
「仮停止前情報報知手段により所定の情報を報知するタイミングに関して,本願
発明は,所定の情報を報知するタイミングを,所定の第1タイミングと該第1タイ
ミングよりも遅く仮停止よりも早い第2タイミングとのうちから選択する報知態様
選択手段を備え,報知態様選択手段は,何回目の再変動表示か否かに応じて異なる
割合により,第1タイミングと第2タイミングとのうちから所定の情報を報知する
タイミングを選択するのに対して,刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミングで
所定の情報を報知し,そのタイミングは,全ての識別情報の仮停止後に再変動表示
が実行されるか否かによらず,同じである点。」
したがって,相違点2に係る審決の認定には,誤りがある。
3相違点2の判断の誤りをいう取消事由
(1)取消事由8(周知技術の認定及び適用並びに格別の効果の認定の誤り)
審決は,甲3の1公報及び甲3の2公報に基づき,周知の技術事項2を認定する。
しかしながら,上記各公報は,原告出願に係るものであり,一般に又は同業他社に
知れ渡っていたものではなく,本件審判の合議体も,審理中に上記各公報の存在を
把握していたにもかかわらず,本件審判において上記各公報を周知例とする進歩性
欠如の拒絶理由を通知しなかったことからすれば,周知の技術事項2は,本願の出
願前において周知であったとはいえない。
仮に周知の技術事項2が周知であったとしても,上記各公報は,大当たり予告や
リーチ予告に関するものであり,また,刊行物発明には再変動表示が実行されるか
否かについての所定の情報を異なるタイミングで報知するという発想がないことか
らすると,当業者が刊行物発明に対し周知の技術事項2を適用し,相違点2に係る
本願発明の構成を容易に想到できるとはいえない。
また,相違点2に係る本願発明の構成は,再変動表示中に再変動表示が連続して
実行されるか否かに興味を抱いた遊技者が,所定の情報の報知タイミングを注視す
ることになるため,単なる大当たり予告やリーチ予告とは異なる興趣を遊技者に対
して与えることができる格別な効果を奏するものであり,当該効果は,刊行物発明
に周知の技術事項2を適用しても,当業者が予測できないものである。
したがって,相違点2に係る審決の判断には,誤りがある。
(2)取消事由9
審決は,刊行物発明の擬似連続変動が継続するか否かの予告に関する技術事項に
対し周知の技術事項2を適用することには,十分な動機付けがあると判断する。し
かしながら,周知の技術事項2の周知性には疑問がある上,当該判断は,刊行物発
明が,第1タイミングと第2タイミングとに所定の情報を報知するタイミングを区
別しているという誤った認定を前提とするものであるから,その前提を欠くもので
ある。
したがって,相違点2の動機付けに関する審決の判断には誤りがある。
(3)取消事由10
原告は,刊行物発明には再変動するかしないかの報知情報の表示タイミングを選
択するという発想はない旨主張していたところ,審決は,刊行物1(【0479】)
によれば,擬似連続予告演出を行うタイミングを当該タイミングと異なるタイミン
グとすることが示唆されていると認定する。
しかしながら,刊行物1(【0479】)には,予告演出のタイミングを,全ての
飾り図柄が変動中であるときに行うのに代えて,左図柄が仮停止したときや左右図
柄が仮停止した時点で行うようにしてもよいと読み取ることができるにとどまり,
予告演出のタイミングを第1タイミングと第2タイミングとに区別し,また,状況
によって変化させるなど予告演出のタイミングを異なるタイミングとすることまで
読み取ることはできない。
したがって,相違点2に係る審決の判断には誤りがある。
第4被告の反論
1相違点1の認定に関する取消事由
(1)取消事由3(相違点1の前提となる一致点の認定の誤り)
審決は,「刊行物発明は,1番目の仮停止より前に擬似連続予告演出図柄を表示さ
せないものであるが,2番目以降の仮停止より前に擬似連続予告演出図柄が表示さ
れることを制限するときと制限しないときとがあるものである。」という認定を前
提として,「仮停止よりも前において,仮停止前情報報知手段により所定の情報を報
知することを制限可能な報知制限手段」を備える点で共通すると認定する。上記に
いう「仮停止」とは,1番目の仮停止であることを具体的に特定するものではなく,
「仮停止」よりも前に制御可能であることを抽象的にいうものにすぎないから,審
決の上記認定には誤りはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)取消事由5(相違点1の認定の誤り)
刊行物発明は,2番目以降の仮停止より前に擬似連続予告演出図柄が表示される
ことを制限するときと制限しないときとがあるものであり,この場合にいう「制限
するときと制限しないときとがある」とは「制限可能である」ことを意味すると認
められる。そうすると,「刊行物発明は,2番目以降の仮停止よりも前において所定
の情報を報知することを制限可能である」とした相違点1についての審決の認定に
誤りはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)取消事由7(相違点1の判断の誤り)
再変動が発生することを予告報知するタイミングについて,1番目の仮停止より
も前に再変動が発生することを予告報知することは,原告も認めるように周知の技
術事項(周知の技術事項1)である。また,刊行物発明は,2番目以降の仮停止よ
りも前において,擬似連続予告演出図柄が表示されることを制限可能なものである。
そうすると,当業者は,刊行物発明に周知の技術事項1を適用して,予告報知のタ
イミングに関して,1番目の仮停止よりも前に再変動が発生することを予告報知す
るものとすることを容易に想到することができるといえる。このような場合におい
て,上記予告報知の態様につき,2番目以降の仮停止よりも前において所定の情報
を報知する場合と同様に,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を報知する
ことを制限可能とすることは,当業者が適宜なし得たことにすぎないから,相違点
1に係る審決の判断に誤りはない。
また,本願発明は,本願明細書(【0222】)によれば,「先疑似予告が実行され
ずに(さらに後疑似予告も実行されずに),疑似連の変動パターンではないと思って
いた遊技者に対して,そこから飾り図柄の再変動表示が行われることで意外性を与
えることができ」るという効果が得られるものである。このような効果は,2番目
の仮停止よりも前において,擬似連続予告演出図柄が表示されることを制限すると
きと制限しないときとがある刊行物発明においても,同様に奏される効果である。
そして,刊行物発明では,2番目の仮停止よりも前において,擬似連続予告演出図
柄が表示されることを制限するときと制限しないときとがあることから,2番目の
仮停止がされたときに,再度飾り図柄の変動表示がされるかどうかに遊技者の関心
が向けられるといえる。そのため,刊行物発明に周知の技術事項1を適用して,1
番目の仮停止よりも前に再変動が発生することを予告報知するものとし,かつ,予
告報知を制限するときと制限しないときとがあるものとすることで,遊技者の関心
が向けられるのが「2番目の仮停止がされたときに」ではなく「初めて(仮)停止
がされたときに」となることは明らかである。
そうすると,刊行物発明に周知の技術事項1を適用して,初回の仮停止よりも前
において所定の情報を報知することを制限可能とすることにより得られる効果は,
当業者において予測し得る範囲内のものであって,格別のものではないから,相違
点1に係る審決の判断に誤りはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
2取消事由6(相違点2の認定の誤り)
刊行物発明は,第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬似連続予告演出図柄による
擬似連続予告演出を行うタイミングを異ならせるものではないから,「第1タイミ
ングと第2タイミングとに区別している」という審決の相違点2の認定には,不明
瞭なところがあるといえる。
しかしながら,審決は,本願発明との対比をする上で表現を揃えるため,第1擬
似連続予告演出図柄を表示するタイミングを「第1タイミング」,第2擬似連続予告
演出図柄を表示するタイミングを「第2タイミング」とし,第1擬似連続予告演出
図柄と第2擬似連続予告演出図柄を区別していることを「第1タイミングと第2タ
イミングとに区別している」と表現したにすぎず,刊行物発明が第1擬似連続予告
演出図柄及び第2擬似連続予告演出図柄による擬似連続予告演出を行うタイミング
を異ならせるものでないことを当然の前提とするものである。そうすると,相違点
2の認定に不明瞭な表現があったとしても,審決は,相違点2の判断において,刊
行物発明は,第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬似連続予告演出図柄による擬似
連続予告演出を行うタイミングが同じであることを前提として判断しているのであ
るから,上記不明瞭な表現は,審決の結論に影響するものではない。したがって,
原告の上記主張は理由がない。
3相違点2の判断の誤りをいう取消事由
(1)取消事由8(周知技術の認定及び適用並びに格別の効果の認定の誤り)
原告は,周知の技術事項2が大当たり予告やリーチ予告に関する技術を開示する
ものであるのに対し,刊行物発明は仮停止の後に識別情報が再度変動表示される可
能性を予告するものであり,予告演出の内容が相違するものであるから,刊行物発
明に周知の技術事項2を適用することが容易想到であるとはいえないと主張する。
しかしながら,刊行物発明と周知の技術事項2は,いずれも大当たりの信頼度の
大小を複数種類の演出を用いて予告するという点において予告演出の内容が共通す
るものであり(刊行物1【0354】),刊行物発明の「擬似連続変動」は,大当た
りとなるときに擬似連続予告演出を実施する割合を高くしていることからすると
(刊行物1【0067】,【0352】),刊行物発明の擬似連続予告演出は,大当た
り予告とも,リーチ予告ともいえる。そうすると,刊行物発明と周知の技術事項2
の予告演出の内容は,大当たり信頼度の大小を複数種類の演出を用いて予告する点
で共通するものである。そして,周知の技術事項2の周知性に疑義はない上,刊行
物発明と周知の技術事項2とは,遊技者の興趣を向上させるという同一の課題を解
決するものであるとともに,遊技機という同一の技術分野に属するものであること
などを勘案すると,当業者は,刊行物発明に対し周知の技術事項2を適用し,相違
点2の構成を容易に想到することができるというべきである。また,相違点2に係
る効果は,刊行物発明及び周知の技術事項2から予測し得る範囲内のものであって,
格別のものではない。そうすると,相違点2に係る審決の判断には誤りはない。し
たがって,原告の上記主張は理由がない。
(2)取消事由9
上記(1)のとおり,周知の技術事項2の周知性に疑義はなく,相違点2に係る審決
の認定は結論に影響するものではないから,相違点2の動機付けに係る審決の判断
には誤りはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)取消事由10
刊行物1(【0479】)によれば,第1擬似連続予告演出図柄及び第2擬似連続
予告演出図柄による擬似連続予告演出を行うタイミングを,仮停止より早いタイミ
ングの中で,「全ての図柄が仮停止していないとき」とは異なるタイミングにすると
いう示唆があることに加え,周知の技術事項2の技術内容及び刊行物発明に周知の
技術事項2を適用することに十分な動機付けがあることを踏まえ,審決は,当業者
が相違点2に係る構成を容易に想到し得たものであると判断する。
そうすると,刊行物1(【0479】)の記載から,予告演出のタイミングを異な
るタイミングとすること(予告演出のタイミングを第1タイミングと第2タイミン
グとに区別したり,状況によって変化させたりすること)を読み取ることができな
いという原告の上記主張は,審決の上記判断を左右するものではなく,相違点2に
係る審決の判断には誤りはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本願発明について
本願明細書(甲9の2)によれば,本願発明は,次のとおりのものと認められる。
ア本願発明は,パチンコ遊技機,スロットマシン等の遊技機であって,表
示結果を導出させる変動表示装置に特定表示結果が導出されたときに遊技者にとっ
て有利な状態に制御する遊技機に関するものである。(【0001】)
イパチンコ遊技機は,遊技領域に打ち出された遊技球の始動入賞口への入
賞を契機として大当たり抽選を行い,それに当選すると,大入賞口が一定期間断続
的に開放される大当たり遊技状態に制御され,遊技者にとって有利な状態になる。
大当たり抽選に当選したことは,特図ゲーム(液晶表示器などの変動表示装置で図
柄の変動表示を行い,所定の図柄を導出させること)によって,遊技者に報知され
る。(【0002】)
ウパチンコ遊技機は,始動入賞口への入賞が保留記憶されている場合,1
回の特図ゲームが終了すると即座に新たな特図ゲームを開始するので,特図ゲーム
における図柄の変動表示が連続して行われる態様となるが,疑似連(始動入賞口へ
の1回の入賞に基づく特図ゲームの中で,全ての図柄の変動表示を仮停止させた後,
全ての図柄を再度変動表示させる再変動表示を1回又は複数回行う態様)で図柄を
変動表示させるものもある。(【0004】)
エ疑似連で図柄を変動させる従来のパチンコ遊技機としては,①例えば,
左中右の3つの図柄のうち左右図柄の仮停止後に右図柄のみ再変動させる(すべら
せる)すべり演出を行った後,3つの図柄をチャンス目(ハズレ図柄のうちの予め
定められた図柄)で仮停止させるものや,②大当たり抽選に当選する確率に応じて
疑似連における再変動表示の回数を決定することで,疑似連における再変動表示の
回数に応じて大当たりとなる信頼度が高くなるようにしたものがあった。(【000
5】)
しかしながら,上記①のパチンコ遊技機は,チャンス目で仮停止させることによ
って,再変動表示が行われることを遊技者に報知するので,全ての図柄が仮停止す
る際にチャンス目が導出されるかどうかに遊技者が注目し,単に再変動表示を行う
のに比べて遊技の興趣を向上させることができるが,それ以外の変動表示の過程に
対しては,遊技者の注目が薄れてしまうという問題があった。また,上記②のパチ
ンコ遊技機は,再変動表示の回数が多くなるほど遊技者の期待感を高めることがで
きるが,全ての図柄が仮停止した後に再変動表示が行われるかどうかに遊技者が注
目するだけで,それ以外の変動表示の過程に対しては,遊技者の注目が薄れてしま
うという問題があった。したがって,いずれのパチンコ遊技機も,一連の変動表示
の過程全体で遊技の興趣を高めるには不十分であった。(【0007】,【0008】)
オ本願発明は,識別情報の変動表示が開始されてから表示結果が導出され
るまでに一旦仮停止させた後に全ての識別情報を再度変動表示させる再変動表示を
実行する再変動態様において,その変動表示の過程にも遊技者を注目させ,遊技の
興趣を向上させることができる遊技機を提供することを目的とするものである。
(【0009】)
カ本願発明は,複数種類の識別情報を変動表示させ,特定表示結果が導出
されたときに遊技者にとって有利な状態に制御する遊技機であって,変動表示の表
示結果が導出されるまでに行われる識別情報の変動表示の態様として,識別情報の
変動表示が開始されてから表示結果が導出されるまでに一旦仮停止させた後に全て
の識別情報を再度変動表示させる再変動表示を所定回実行する再変動態様を選択す
ることが可能な遊技機において,変動表示の態様として再変動態様が選択されたと
きは,仮停止よりも前において,その仮停止の後に識別情報が再度変動表示される
可能性を予告する所定の情報を遊技者に報知するとともに,1回目の仮停止よりも
前においては,所定の情報の報知を制限可能にしたものである。(【0010】)
キ先疑似予告は,疑似連の変動パターンで飾り図柄が仮停止するよりも前
の変動表示中において実行される疑似連予告であり,実行タイミングが早いものと
遅いものとがある。実行タイミングが早い先疑似予告は,例えば,飾り図柄の変動
表示(あるいは仮停止後の変動表示)が開始されるタイミング,あるいは,仮停止
後の変動表示に関してはいまだ飾り図柄が仮停止している間のタイミング(飾り図
柄が仮停止している間に開始される先疑似予告は,更に次の仮停止の後に変動表示
が実行されることを予告する。)で実行開始され,実行タイミングが遅い先疑似予告
は,例えば,飾り図柄の(仮停止後の)変動表示が開始されてから一定期間が経過
した後に実行開始される。(【0121】)
ク後疑似予告は,疑似連の変動パターンで飾り図柄が仮停止したときに,
仮停止の場合以外には出現し得ないハズレの出目であるチャンス目を表示すること
により,仮停止している全ての図柄が再度変動表示した後に,更に飾り図柄の仮停
止及び変動表示を含む再変動表示が実行されることを予告するものである。(【01
25】)
ケ本願発明は,再変動態様が選択されたときは,仮停止される前に所定の
情報を遊技者に報知するので,遊技者に,識別情報の変動表示が再変動態様で行わ
れていることを期待させることができる。また,本願発明は,1回目の仮停止より
も前においては所定の情報の報知を制限可能なので,遊技者の関心を,仮停止の前
に所定の情報が報知されるかどうかということにも向けさせることができ,一連の
変動表示の過程全体で遊技者の注目度を高め,遊技の興趣を向上させることができ
る。(【0012】,【0014】)
コ具体的には,再変動態様が選択されたにもかかわらず,1回目の仮停止
よりも前において所定の情報の報知が制限された(先疑似予告が実行されなかった)
場合,再変動表示が行われることで,変動表示が再変動態様で行われていることを
期待していなかった遊技者に意外性を与えることができ,遊技の興趣を向上させる
ことができる。また,1回目の仮停止よりも前において所定の情報の報知が制限さ
れる(先疑似予告が実行されない)ことがあるから,再変動態様が選択されなかっ
たとしても,再変動表示が行われることを遊技者に期待させることができ,遊技の
興趣を向上させることができる。さらに,再変動態様が選択されたか否かにかかわ
らず,変動表示が初めて停止(仮停止又は最終停止)したときに再度変動表示がさ
れるか否かに遊技者の関心が向けられることになるので,一連の変動表示の過程全
体での遊技者の注目度が高まり,遊技の興趣を向上させることができることになる。
(【0223】)
(2)刊行物発明について
刊行物1の記載によれば,刊行物発明の内容は,次のとおりのものと認められる。
ア刊行物発明は,パチンコ遊技機等の遊技機であって,それぞれ識別可能
な複数種類の識別情報の可変表示を行って表示結果を導出表示する3つ以上の可変
表示部を有する可変表示装置を備え,可変表示の表示結果として特定の識別情報の
組合せが導出表示されたときに遊技者にとって有利な特定遊技状態に制御可能な遊
技機に関するものである。(【0001】)
イ遊技機としては,遊技球などの遊技媒体を発射装置によって遊技領域に
発射し,遊技領域に設けられている入賞口などの入賞領域に遊技媒体が入賞すると,
所定個の賞球が遊技者に払い出されるものがあり,さらに,識別情報を可変表示(変
動)可能な可変表示装置が設けられ,可変表示の表示結果が特定の識別情報の組合
せ(特定表示結果)になると(すなわち,大当たりが発生すると),遊技者にとって
有利な特定遊技状態に制御可能なものがある。(【0002】ないし【0004】)
また,そのような遊技機の中には,可変表示の表示結果が特定表示結果でないと
きに,所定の条件が成立すると,識別情報を再変動させ,さらに,そのような再変
動を複数回繰り返すものもある。再変動を複数回繰り返す遊技機は,再変動の回数
が多いほど大当たりが発生する確率が高くなるように構成され,スピーカから出力
する音声や液晶表示装置に表示する画像の背景態様を再変動の回数に応じて異なら
せることで,現在の再変動の回数(すなわち,大当たりの期待度)を報知している。
(【0005】ないし【0007】)
ウ再変動を複数回繰り返す遊技機は,再変動の回数が多いほど大当たりが
発生する確率が高くなるように構成されるので,遊技者は,再変動が継続されるこ
とを期待する。しかしながら,従来の遊技機は再変動が継続されるか否かを報知し
ないので,遊技者は再変動が継続されるか否かを知ることができず,興趣に欠けて
いた。(【0008】)
エ刊行物発明の目的は,再変動を複数回繰り返す遊技機であって,遊技者
の興趣が向上する遊技機を提供することにある。すなわち,刊行物発明は,全ての
可変表示部の識別情報の可変表示を仮停止させた後,全ての可変表示部の識別情報
の可変表示を開始させる全再変動態様を1回又は複数回行う遊技機に,全ての可変
表示部の識別情報の可変表示が仮停止していないときに(すなわち,識別情報の変
動中に),全再変動態様が実施されるか否かを予告する全再変動継続予告手段を設
けたので,遊技者は再変動が継続されることを認識することができ,興趣の向上を
図ることができる。(【0009】,【0015】)
オこのような場合において,仮停止図柄決定処理では,N(初期値は0で
ある)+1番目の飾り図柄の仮停止の後で,かつ,N+2番目の飾り図柄が仮停止
する前に,擬似連続予告演出を実施するか否かを決定し,抽出した乱数値に基づき,
擬似連続予告演出図柄選択用テーブルによって,擬似連続予告演出を実施すること
に決定された場合に表示する擬似連続予告演出図柄を決定する。(【0334】,【0
353】)
カまた,全再変動継続予告手段が,第1全再変動継続予告手段と第2全再
変動継続予告手段とを含み,第1全再変動継続予告手段による予告が行われた場合
よりも第2全再変動継続予告手段による予告が行われた場合の方が全再変動態様の
実施割合が高くなるようにしたことにより,興趣の向上を図ることができる。この
ような場合において,可変表示装置9において飾り図柄が変動中であって,全て(左
中右)の図柄が仮停止していないときに擬似連続予告演出を行っているが,これに
限定されず,例えば,左図柄が仮停止したときや左右図柄が仮停止した時点で行う
ようにしてもよい。(【0016】,【0479】)
キ刊行物発明は,受信した変動パターンコマンドの内容が擬似連続変動を
伴う変動パターンである場合において,チャンス目で仮停止する変動パターンであ
ると判定されたときは,抽出した乱数値に従って,チャンス目選択用テーブルを用
いて,6種類のチャンス目から1つのチャンス目を決定し,決定されたチャンス目
で仮停止する演出を実行することにより,大当たりとなること又は大当たりとなる
可能性が高いことを遊技者に予告する。チャンス目での仮停止は,複数回繰り返し
行い,仮停止後からの再変動である擬似連続変動を最大4回まで実施し,擬似連続
変動を含む変動パターンでは,擬似連続変動の回数が多いほど大当たりの発生する
割合が高くなる。(【0067】,【0332】,【0334】)
2取消事由に対する判断
(1)相違点1の認定に関する取消事由
ア取消事由3(相違点1の前提となる一致点の認定の誤り)
審決は,「仮停止よりも前において,前記仮停止前情報報知手段により前記所定の
情報を報知することを制限可能な報知制限手段」を一致点として認定したところ,
原告は,刊行物発明は1回目の仮停止より前に擬似連続予告演出図柄を表示させな
いものであるから,仮停止よりも前において,擬似連続予告演出図柄を表示するこ
とを制限可能というものでないことは明らかであるとして,「仮停止前情報報知手
段により所定の情報を報知することを制限可能な報知制限手段」を一致点として認
定すべきであると主張する。
しかしながら,本願発明は,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を報知
することが制限可能であるのに対して,刊行物発明は,2番目以降の仮停止よりも
前において所定の情報を報知することが制限可能であるから,仮停止の回数を特定
しない場合には,本願発明と刊行物発明は,少なくとも仮停止よりも前において,
制限可能とする点において一致するものと認められる。したがって,一致点に係る
審決の判断には誤りはない。もとより,審決は,上記のとおり一致点を認定した上
で,本願発明は,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を報知することが制
限可能であるのに対して,刊行物発明は,2番目以降の仮停止よりも前において所
定の情報を報知することが制限可能である点につき,相違点1として認定している
のであるから,一致点の認定の誤りをいう原告の上記主張は,審決の結論を左右す
るものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ取消事由5(相違点1の認定の誤り)
審決は,「仮停止前情報報知手段による所定の情報の報知を制限可能な報知制限
手段に関して,本願発明は,1回目の仮停止よりも前において所定の情報を報知す
ることを制限可能であるのに対して,刊行物発明は,2番目以降の仮停止よりも前
において所定の情報を報知することを制限可能である点。」を相違点1として認定
するところ,原告は,刊行物発明が1番目の仮停止より前には擬似連続予告演出図
柄を表示させないのに対し,本願発明は1回目の仮停止よりも前において所定の情
報を報知することを制限可能とするのみであり,2回目以降の仮停止よりも前にお
ける所定の情報の報知については格別限定していないのであるから,「刊行物発明
は1番目の仮停止よりも前には所定の情報を報知しない点」についても,相違点と
して認定すべきであると主張する。しかしながら,「刊行物発明は,2番目以降の仮
停止よりも前において所定の情報を報知することを制限可能である点」という相違
点1に係る上記認定は,「刊行物発明は1番目の仮停止よりも前には所定の情報を
報知しない点」という原告主張に係る上記相違点を当然の前提とするものである。
そうすると,上記アと同様に,原告の上記主張は,審決の相違点1の判断を左右す
るものではない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
ウ取消事由7(相違点1の判断の誤り)
(ア)前記1(2)の認定事実によれば,刊行物発明は,従来の遊技機において
再変動が継続されるか否かを報知しないため,遊技者において再変動が継続するか
否かを知ることができず興趣に欠けていたという課題を解決するために,2回目以
降の飾り図柄の仮停止の前において再変動の発生を予告報知する擬似連続予告演出
の実施を制限可能とするものである。
他方,甲2の1公報及び甲2の2公報によれば,遊技機の技術分野において,1
番目の仮停止よりも前に再変動が発生することを予告報知すること(周知の技術事
項1)は,本願の出願前に当業者に周知であったと認めるのが相当であり,この点
については当事者間に争いがない(平成28年3月28日付け原告準備書面7頁2
行目から4行目まで参照)。そして,周知の技術事項1は,1番目の仮停止よりも前
に再変動の予告報知をするものであるから,遊技者の興趣をより一層向上させると
いう同一の課題を解決しようとする当業者にとっては,2回目以降の仮停止前に擬
似連続予告演出の実施を制限可能とする刊行物発明の構成につき,2回目以降の仮
停止前に限ることなく,1回目の仮停止前にも刊行物発明の上記構成を流用できる
ことを示唆するものと認められる。
そうすると,遊技機の興趣をより一層向上させるという刊行物発明の課題を解決
するために,刊行物発明において,同一の技術分野における周知の技術事項1によ
る示唆に基づき,擬似連続予告演出を制限可能とする構成につき,2回目以降の仮
停止前に限ることなく,1回目の仮停止よりも前にも当該構成を流用することは,
当業者が容易に想到することができたものと認められる。
したがって,審決の相違点1の判断には誤りはない。
(イ)これに対して,原告は,刊行物発明は1番目の仮停止よりも前には所
定の情報を報知しない点を相違点1として認定すべきであるとした上,1番目の仮
停止よりも前には所定の情報を報知しない刊行物発明が「擬似連続変動に伴う再変
動が行われることに関する情報を報知することを制限したり,制限しなかったりす
ることを決定するようにできる」というためには,周知技術として「1番目の仮停
止よりも前に再変動が発生することを予告報知するか否かを決定すること」が認定
される必要があるにもかかわらず,甲2の1公報及び甲2の2公報によっても,「遊
技機の技術分野において,1番目の仮停止よりも前に再変動が発生することを予告
報知すること」が認定されるにとどまり,上記のような周知技術を認定することは
できないから,刊行物発明に対し周知の技術事項1を適用しても,本願発明の相違
点1に係る構成には至らない旨主張する。
しかしながら,上記(ア)のとおり,当業者が,周知の技術事項1による示唆に基づ
き,1回目の仮停止の前に擬似連続予告演出の実施を制限可能とすることは,刊行
物発明において2回目以降の仮停止前で既に採用されている擬似連続予告演出の態
様を単に流用するものであり,当業者が適宜行うことができる設計事項にすぎない。
そうすると,当業者は,相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到できるといえ
る。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2)取消事由6(相違点2の認定の誤り)
ア審決は,相違点2において「刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミン
グで所定の情報を報知し,そのタイミングを第1タイミングと第2タイミングとに
区別している」と認定するところ,原告は,刊行物発明は擬似連続予告演出を同じ
タイミングで行うものであるから,「第1タイミングと第2タイミングとに区別し
ている」という上記認定には,誤りがあると主張する。
そこで検討するに,前記1(2)の認定事実によれば,刊行物発明は,擬似連続予告
演出を行うタイミングにつき,飾り図柄の仮停止よりも前において,第1擬似連続
予告演出図柄と第2擬似連続予告演出図柄を表示するタイミングを区別するもので
はなく,同一のタイミングでいずれかの擬似連続予告演出を行うものと認められる。
そうすると,刊行物発明が所定の情報を報知するタイミングを「第1タイミングと
第2タイミングとに区別している」とした審決の相違点2の認定には,明らかに誤
りがある。
したがって,本願発明と刊行物発明は「仮停止前情報報知手段により所定の情報
を報知するタイミングを,仮停止よりも早いタイミングとする」点において共通す
るにすぎないから,相違点2は,次のとおり認定するのが相当である。
「仮停止前情報報知手段により所定の情報を報知するタイミングに関して,
本願発明は,所定の情報を報知するタイミングを,所定の第1タイミングと該第
1タイミングよりも遅く仮停止よりも早い第2タイミングとのうちから選択する報
知態様選択手段を備え,報知態様選択手段は,再変動表示が実行されるか否かに応
じて異なる割合により,第1タイミングと第2タイミングとのうちから所定の情報
を報知するタイミングを選択するのに対して,
刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミングで所定の情報を報知し,そのタイミ
ングは,全ての識別情報の仮停止後に再変動表示が実行されるか否かによらず,同
じである点。」
イこれに対し,被告は,本願発明と刊行物発明との対比をする上で表現を
揃えるため,第1擬似連続予告演出図柄を表示するタイミングを「第1タイミング」,
第2擬似連続予告演出図柄を表示するタイミングを「第2タイミング」と,それぞ
れ定義し,第1擬似連続予告演出図柄と第2擬似連続予告演出図柄を区別している
ことを「第1タイミングと第2タイミングとに区別している」と表現したなどと主
張する。
しかしながら,上記アのとおり,「第1タイミングと第2タイミングとに区別して
いる」という表現を採用すれば,当業者において第1タイミングと第2タイミング
が互いに異なるものであると理解するのが自然であるから,審決の上記認定は,表
現が不明瞭であるという域を超えて,誤りであるというほかない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウもっとも,審決は,相違点2の判断においては,後記(3)アのとおり,刊
行物発明に接した当業者が,第1タイミングとそれより遅い第2タイミングのいず
れかを選択可能にすることを容易に想到することができるか否かという点について
も判断していることからすると,審決の相違点2の認定の誤りは,相違点2の判断
にまで影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,取消事由6は,結論において理由がないものと認められる。
(3)相違点2の判断の誤りをいう取消事由
ア取消事由8(周知技術の認定及び適用並びに格別の効果の認定の誤り)
(ア)周知技術の認定について
a証拠(甲3の1,甲3の2)及び弁論の全趣旨によれば,次の各号
に掲げる刊行物(いずれも本願の出願前に公開されたもの)には,それぞれ当該各
号に定める内容が記載されている。
(a)甲3の1公報の内容
パチンコ遊技機等の遊技機に関するものであり,複数種類の識別情報を可変表示
させる可変表示機能を備え,表示結果が予め定められた特定の識別情報の組合せと
なったときに大当たりの状態に制御するものである(【0001】)。従来の遊技機に
おいて,大当たり予告演出を行うタイミングが1つしか定められていない場合,そ
の定められたタイミングで予告がなければ遊技者の期待感が失われてしまうという
課題があった(【0005】)。
このような課題を解決するために,大当たりになることを予告する予告演出を行
うタイミングを,第1タイミング及びそれより遅い第2タイミングから選択可能と
し,大当たりのときは予告演出が第2タイミングで実行されやすい(第1タイミン
グで実行されにくい)ようにし,はずれのときは予告演出が第2タイミングで実行
されにくい(第1タイミングで実行されやすい)ようにするものである(【0085】,
【0117】,【0118】)。このような構成によれば,予告が開始されるタイミン
グによって大当たりの可能性を予測することができるため,上記タイミングによっ
て大当たりに対する遊技者の期待感を向上させ,もって遊技の興趣を向上させるこ
とができる(【0008】,【0013】)。
(b)甲3の2公報の内容
パチンコ遊技機等の遊技機に関するものであり,複数種類の識別情報を変動表示
可能な変動表示装置を有し,表示結果が予め定められた特定の表示態様となったと
きに大当たりの状態に制御するものである(【0001】)。従来の遊技機では,変動
表示においてリーチ状態となることを予告報知するリーチ予告と,大当たり状態と
なることを予告報知する大当たり予告があったものの,それぞれの予告報知の種別
に応じて予告報知用のデータを選択処理する必要があり,制御負担の増加を招いて
いた(【0003】,【0005】)。このような実情に鑑み,リーチ予告と大当たり予
告の報知態様において,同一の予告報知態様である特別報知態様を含ませ,その分
データの記憶領域を縮減することによって,制御負担を軽減することが可能な遊技
機を提供するものである(【0006】)。そして,予告報知のタイミングについては,
変動表示の表示結果が大当たりとなるときの方が,大当たりにならないときよりも
遅いタイミングを選択する割合が高くなるように設定されているため,予告報知が
早期に行われなくても遊技者の期待感を低下させないようにすることができる(【0
009】,【0010】)。
大当たり予告は,実行タイミングが異なる複数種類の大当たり予告から選択する
ようにし,予告報知後に実際に大当たりになるときの方が,そのようにならないと
きよりも実行タイミングが遅い予告種類が選択される割合が高くなるように設定す
る(【0065】,【0069】,【0070】)。リーチ予告,確変大当たりとなること
(変動表示の表示結果が確変大当たり図柄の組合せとなること)を予告報知する確
変予告,大当たりの連続的発生を予告する予告演出である連チャン予告にも行うこ
とが可能である(【0056】)。
連チャン予告は,大当たり予告とは異なり,図柄の変動中ではなく,変動表示の
表示結果が大当たり図柄の組合せで確定した後,大当たり遊技状態の第1ラウンド
の開始前までの所定タイミングで実行される(【0066】)。連チャン予告も,大当
たり予告やリーチ予告と同様に,複数のタイミングから選択したタイミングで実行
するようにしてもよい(【0085】)。
b上記aの認定事実によれば,甲3の1公報及び甲3の2公報には,
大当たりの可能性が高いことを報知する予告演出につき,少なくともタイミングの
異なる2種類の予告演出を設けるとともに,大当たりの可能性がより高い予告演出
の方を遅いタイミングで実行することが記載されていることが認められる。
そして,上記各公報は,いずれも遊技機の技術分野におけるものであり,遊技機
の興趣を向上させるという課題を解決するために予告演出手段を利用するものであ
るから,刊行物発明と同一の技術分野に属する上,課題解決手段及び作用効果につ
いても同種のものであるといえる。のみならず,上記各公報のうち,甲3の1公報
の公開日は平成16年10月21日,甲3の2公報の公開日は平成17年3月10
日であって,本願の出願日である平成20年9月30日までに既に3年以上も経過
していることが認められる。
これらの事情を踏まえると,本願の出願前において,刊行物発明の属する技術分
野の当業者にとって,「遊技機の技術分野において,大当たりの可能性が高いことを,
大当たりの信頼度の異なる種類の予告演出を用いて報知するに際して,予告演出の
報知タイミングとして,図柄の変動中の早いタイミングの予告演出と遅いタイミン
グの予告演出の少なくとも2種類のタイミングの予告演出を設け,遊技者の期待感
を持続させ,興趣を向上させるために,大当たりの結果になる場合(大当たり信頼
度が高い場合)には,はずれの結果になる場合(大当たり信頼度が低い場合)より
も高い割合で,遅いタイミングでの予告演出を選択すること」(周知の技術事項2)
は,周知であったと認めるのが相当である。
cこれに対して,原告は,甲3の1公報及び甲3の2公報は,いずれ
も原告出願に係るものであり,当該各公報記載の内容が一般に又は同業他社に知れ
渡っていたとまでいえず,また,本件審判の合議体は,審理中に当該各公報の存在
を把握していたにもかかわらず,本件審判において当該各公報を周知例とする進歩
性欠如の拒絶理由を通知しなかったことからすれば,周知の技術事項2の周知性は
否定されるべきである旨主張する。
しかしながら,上記各公報が原告出願に係るものであるという事情は,当該各公
報記載の内容の公知性を否定する合理的理由となるものではなく,また,上記bの
とおり,甲3の1公報及び甲3の2公報の各記載内容は刊行物発明と技術分野を同
一とする上に課題解決手段及び作用効果も同種のものであって,しかも当該各公報
が本願の出願日の約3年以上前に既に公開されていたなどという事情を踏まえると,
本件審判の審理の経緯も,周知の技術事項2に係る周知性に係る事実認定を左右す
るものではない。
したがって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。
(イ)周知技術の適用について
a前記1(2)及び上記(ア)の認定事実によれば,刊行物発明と周知の技
術事項2は,パチンコ遊技機等の遊技機に関するものであり,複数種類の識別情報
を変動表示することができる変動表示装置を有し,表示結果が予め定められた特定
の表示態様となったときに大当たりの状態に制御するものであって,同一の遊技機
に関するものである。そして,刊行物発明と周知の技術事項2は,遊技機の興趣を
向上させるという同一の課題を解決するために予告演出手段を利用するものである
から,その作用効果についても同種のものであるといえる。さらに,刊行物発明と
周知の技術事項2は,いずれも大当たりの可能性を示唆する予告演出の態様を課題
解決手段とする点において共通するものであって,その確率に応じて予告演出の内
容を異なるものとする点においても共通するものである。
のみならず,前記1(2)キの認定事実によれば,刊行物発明の擬似連続予告演出は,
擬似連続変動の回数が多いほど大当たりの発生する割合が高くなるように設定され
ており,擬似連続予告演出は,大当たりになる可能性が高い状態になることを予告
するものといえる。そして,前記(ア)a(b)の認定事実によれば,甲3の2公報には,
大当たり予告のほかにも,確変大当たり予告,大当たりの連続的発生を予告する連
チャン予告,大当たりになる可能性が高い状態になるリーチ予告にも,周知の技術
事項2を適用することが可能であると記載されているのであるから,甲3の2公報
には,擬似連続予告演出についても,同様に周知の技術事項2を適用し得ることが
示唆されているといえる。
これらの事情の下においては,当業者は,甲3の2公報に記載された示唆に基づ
き,刊行物発明における第1擬似連続予告演出図柄(擬似連続変動が継続する信頼
度が50%)と第2擬似連続予告演出図柄(擬似連続変動が継続する信頼度が10
0%)に対して周知の技術事項2を適用し,擬似連続変動を行う場合は,第2擬似
連続予告演出図柄による擬似連続予告演出について高い割合で遅いタイミングを選
択するのに対し,擬似連続変動を行わない場合は,第1擬似連続予告演出図柄によ
る擬似連続予告演出について高い割合で早いタイミングを選択する構成を採用する
ことによって,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することができたもの
と認められる。
bこれに対して,原告は,仮に周知の技術事項2が当業者に周知であ
ったとしても,周知の技術事項2は大当たりの可能性を予告する大当たり予告に関
する技術事項であり,仮停止の後に識別情報が再度変動表示される可能性を予告す
る擬似連続予告とは演出の内容が相違し,また,刊行物発明には再変動表示が実行
されるか否かについての所定の情報を異なるタイミングで報知するという発想がな
いから,周知の技術事項2を適用する動機付けがなく,当業者は刊行物発明に対し
周知の技術事項2を適用することを容易に想到することはできないなどと主張する。
しかしながら,上記(ア)a(b)とおり,甲3の2公報には,周知の技術事項2は大
当たり予告に限るものではなく,確変大当たり予告,大当たりの連続的発生を予告
する連チャン予告,大当たりになる可能性が高い状態になるリーチ予告にも,広く
適用可能であることが示唆されているのであるから,擬似連続変動が行われること
により,大当たりになる可能性が高い状態になることを予告する擬似連続予告演出
にも,適用可能であることが十分に示唆されているものといえる。また,刊行物発
明には擬似連続予告演出を異なるタイミングで行う発想がないとしても,刊行物発
明と周知の技術事項2は,技術分野,課題解決手段及び作用効果において共通する
ほか,上記の示唆まで認められることを踏まえると,当業者は,同一の遊技機にお
いて興趣をより一層向上させるという課題を解決するために,周知の技術事項2を
適用して,相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものと認
めるのが相当である。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)格別の効果の認定について
原告は,相違点2に係る本願発明の構成については,再変動表示中に再変動表示
が連続して実行されるか否かに興味を抱いた遊技者が,所定の情報の報知タイミン
グを注視することになるため,単なる大当たり予告やリーチ予告とは異なる興趣を
遊技者に対して与えるという格別な効果を奏するものであって,当該効果は,当業
者が刊行物発明に周知の技術事項2を適用しても予測できないものであると主張す
る。
しかしながら,周知の技術事項2は,予告演出を行うタイミングが1つに限られ
る場合にそのタイミングで予告演出がないときは,遊技者の期待感が失われてしま
うという課題を解決するものであり,予告演出を行うタイミングを複数にすること
によって,遊技者が予告演出の有無だけでなく,そのタイミングにも注視すること
によって興趣の向上という効果を奏するものである。そして,刊行物発明に周知の
技術事項2を適用しても,遊技者は,第1擬似連続予告演出図柄又は第2擬似連続
予告演出図柄による擬似連続予告演出の有無だけでなく,そのタイミングも注視す
るようになるから,その結果,上記に原告が主張する効果を奏することは明らかで
ある。そうすると,本願発明の効果は,刊行物発明及び周知の技術事項2から十分
に予測し得る範囲内のものにすぎず,格別な効果を奏するものとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ取消事由9
審決は,刊行物発明の全変動継続予告手段に周知の技術事項2を適用する動機付
けが認められると判断するところ,原告は,周知の技術事項2の周知性には疑問が
ある上,審決の判断は,刊行物発明において所定の情報を報知するタイミングが第
1タイミングと第2タイミングとに区別されているという誤った認定を前提とする
ものであるから,上記判断には誤りがあると主張する。
しかしながら,前記ア(ア)のとおり,周知の技術事項2は本願の出願前に当業者に
周知であったことが認められ,また,前記(2)のとおり,審決の上記認定には誤りが
あるものの,その認定の誤りは,相違点2の判断にまで影響を及ぼすものではない。
そうすると,前記ア(イ)のとおり,相違点2の動機付けについての審決の判断は,結
論において誤りはなく,原告の上記各主張は,いずれも前提を欠くものである。
したがって,原告の上記各主張は,いずれも採用することができない。
ウ取消事由10
審決は,相違点2につき,「刊行物発明は,仮停止よりも早いタイミングで所定の
情報を報知し,そのタイミングを第1タイミングと第2タイミングとに区別してい
るが,第1タイミングと第2タイミングとを,全ての識別情報の仮停止後に再変動
表示が実行されるか否かに応じて,異なる割合により選択することは特定されてい
ない点。」と認定するところ,原告は,相違点2の審決の判断は誤った認定を前提と
するものであるから,相違点2に係る審決の判断には誤りがあると主張する。
しかしながら,上記イのとおり,審決の上記認定には誤りがあるものの,その認
定の誤りは,相違点2の判断にまで影響を及ぼすものではないから,相違点2の審
決の判断には誤りはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4)その他
その他に事情として整理された取消事由などを含めて改めて十分検討しても,審
決の認定及び判断の誤りを導くに足りず,いずれも上記判断を左右するものではな
い。
第6結論
以上によれば,原告の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中島基至
裁判官
岡田慎吾

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