弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は各被告人の弁護人儀同保名義の控訴趣意書に記載されていると
おりであるから、これを引用する。これに対する当裁判所の判断は次のとおりであ
る。
 一、 論旨第一点、審理不尽理由不備の主張について
 所論は、原判決は原判示第一の一、1の事実につき、本件パークロルエチレンが
労働基準法六三条二項、四項に基く女子年少者労働基準規則八条三三号の列挙する
鉛、塩素等に準ずる「有害なもの」に該当することを専門的資料に基き認定すべき
であるのに、そのことなく当然明白なものとして認定している点において審理不尽
であり、理由不備であると主張する。しかし原判決が証拠として挙示する労働省労
働衛生研究所長A名義の労働基準監督官Bに対する「鑑定嘱託に対する回答」によ
れば、被告会社の洗浄装置内の加熱槽、冷却槽より採取した洗剤液及び未使用の同
液がいずれも四塩化エチレン(別称テトラクロルエチレン或いはパークロルエチレ
ン)であることを明示し、昭和三五年一〇月一三日労働省令第二四号有機溶剤中毒
予防規則は労働基準法を実施するため同規則を次のように定めるとして、定義条文
第一条に有機溶剤とは常温及び常圧のもとにおいて揮発性の液体であり、かつ他の
物質を溶かす性質を有するもののうち別表第一ないし第三に掲げるもの及びこれら
のもののみの混合物をいうと規定し、別表第二中に四塩化エチレン(テトラクロル
エチレン、パークロルエチレン)を掲げているのである。そして有機溶剤による中
毒事故の発生を未然に防止するための同規則第三二条は使用者に対し指定された有
機溶剤に係る有機溶剤業務を常時行う屋内作業場について、その内部の空気中にお
ける当該有機溶剤の濃度を定期的に測定した結果及びその結果に基いて有機溶剤の
中毒の予防措置を講じた場合にはその措置の概要を記録し三年間保存すべきことを
義務付けているのである。このことは、本件洗剤四塩化エチレン(パークロルェチ
レン)を含め有機溶剤は厳重な管理下に置かなければこれを取扱う者が中毒を起す
虞れのあることを認めているからに外ならず、女子年少者労働基準規則八条三三号
にいう鉛、塩素等に準ずる「有害なもの」に該当すること明らかというべきであ
る。この点の原判決の認定を審理不尽による理由不備と論ずる所論は採用できな
い。
 二、 論旨第二点ないし第四点法令の解釈、適用の誤りの主張について
 所論は、被告人等は被告会社において使用していた洗剤クレハパークロが女子年
少者労働基準規則八条三三号のガスを発散する有害なものに当るパークロルエチレ
ンであることを知らなかつたのであるから、事実の錯誤により原判示犯罪の故意を
阻却し、犯罪の成立を認め得ないのに、原判決がこれを認定したことは刑法三八条
二項の解釈を誤りその結果労働基準法を誤つて適用したものであると主張する。
 記録によれば被告人等はいずれもパークロ或いはクレハパークロと呼んでいた洗
剤がパークロルエチレンであることを本件Cの事故死に至るまで知らなかつたと弁
じているが、被告会社に本件洗剤を納品したD商事株式会社のEは原審証人として
被告会社に対しクレハパークロのパンフレット、Fより出されているパークロニユ
ースを送付しており、担当者に対しパークロの有害性に関し説明していると供述
し、記録編綴のパンフレットによればクレハパークロの品質、物性、使用方法、取
扱上の注意を詳細に記載し、商品名クレハパークロの実質がパークロルエチレンで
あることを明確に説明しているのである。したがつて、被告会社の代表取締役とし
て、その業務経営担当の最高責任者たる被告人Gおよび本件洗剤を使用する金属チ
ユーブ洗滌作業所を担当所管する同会社製造第二課長たる被告人Hの両名が、その
日常「パークロ」或は「クレハパークロ」と呼んでいた右金属洗滌用の洗剤が、前
記パークロニユースやクレハパークロに関するパンフレット等に解説されているパ
ークロルエチレンであることを諒知していたと推認し得る根拠は十分であるのみな
らず、本件労働基準法違反罪の犯意としては、右金属チューブ洗滌作業所において
使用するクレハパークロと称する洗剤が「有害なガス等を発散するもの」であるこ
との認識を有すれば、右「有害なガス等を発散するもの」の化学薬品名が「パーク
ロルエチレン」であることを知悉する必要はないのである。すなわち、被告会社の
金属洗滌作業所において使用していた通称「パークロ」或は「クレハパークロ」な
る洗剤の正規の学名が「パークロルエチレン」であることを知ることは、本件違反
罪の犯意の成立するためには必ずしも必要はないのである。所論は、原判決が「ク
レハパークロ」が「パークロルエチレン」と全く別個のものであるとの通念が存在
しないとの理由により、被告人等は右両者が同一であることを認識していたとし
て、立証責任の判断を誤つた、と主張するのであるが、右両者同一の認識は本件違
反罪の犯意成立のために必要ではないのであるから、原判決の右非違をとらえて、
事実錯誤を主張する論拠とすることはできない。
 被告人両名は、いずれも検察官に対し「本件金属洗滌作業所に発散するガスを吸
引すれば麻酔状態に陥り、本件洗剤が有害ガスを発散するものであることは判つて
いた」趣旨の供述を繰り返えしながら、公判廷においては「麻酔性のあることは判
つていたが有害とは思はなかつた」と供述し犯意を否認している。そして「麻酔性
はあるが有害とは思はなかつた、と言うが、どう言うものがそれでは有害なのか」
と反問されて「例えば猫いらずのようなもの」と答えているのである。有害の意義
をそのように高度のものに固定して定義づけれ<要旨>ば、被告人らの公判廷におけ
る「有害とは思はなかつた」という供述も、首肯し得ないではない。しかし労 旨>働基準法が、成年労働者の作業所に許容し、ひとり年少労働者の作業所に禁じて
いる「有害ガス」の意味は、一度で取り返えしのつかないような結果を招来する高
度の危険性を有するものでないことは明らかである。
 新鮮な空気を吸えば比較的容易に回復はするが、換気を不十分にして長時間吸引
してはならない。短時間で回復し、それだけなら目に見えた障害は起らないが、そ
れでもそれを長期的、多数回にわたつて繰り返えすと健康状態に支障を来すおそれ
がある。作業所の換気につとめて留意し、長時間ガスを吸引しないようにという注
意が、本件「クレハパークロ」についても無視してはならないものとされ、被告人
両名は、自らの経験もあつて以上の有害性は十分に心得ていたことは記録上明認し
得るところである。被告人両名が検察官に供述しているところは右の有害性につい
ての認識をありのままに表明したもので、被告人らの本件違反罪の犯意を認定する
に十分である。
 被告人らは右のような有害ガスを発散する本件金属洗滌作業所において十八歳未
満の年少者を稼働させてはならないといら労働基準法ないし女子年少者労働基準規
則の禁止規定の存在を知らなかつたことは記録上肯認し得るが、これは刑法第三八
条第三項による法律の不知に当り犯意を阻却しない。本件違反罪は法定犯であるか
ら、犯意あるとするには単に事実の認識のみでは足りず、更にその行為が法令によ
り禁止されているものであることの認識がなければならないと主張する論旨も採用
することはできない。
 以上のとおり本件各控訴はいずれもその理由がないので、刑事訴訟法三九六条、
三七八条、三八〇条によりこれを棄却すべく主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 関谷六郎 裁判官 寺内冬樹 裁判官 中島卓児)

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