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判決言渡平成20年9月8日
平成19年(ネ)第10085号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地裁平成1
8年(ワ)第15809号)
口頭弁論終結日平成20年7月14日
判決
控訴人ニトマック・イーアール株式会社
控訴人旭栄研磨加工株式会社
両名訴訟代理人弁護士遠藤源太郎
同弁理士佐々木定雄
補佐人弁理士重信和男
同櫻井義宏
同秋庭英樹
被控訴人株式会社ビービーエス金明
訴訟代理人弁護士窪田英一郎
同柿内瑞絵
同乾裕介
同今井優仁
同熊谷大輔
同野口洋高
訴訟代理人弁理士筒井大和
同小塚善高
同筒井章子
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人ニトマック・イーアール株式会社に対し,2500万円
及びこれに対する平成18年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
3被控訴人は,控訴人旭栄研磨加工株式会社に対し,2500万円及びこれに
対する平成18年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
4訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
【以下,略称は原判決の例による。】
1本件は,名称を「円盤状半導体ウェーハ面取部のミラー面取加工方法」とす
る発明(本件発明)について特許権(平成8年7月15日出願,平成15年1
月17日登録,特許第3389014号。以下「本件特許権」という。)を共
有する控訴人(一審原告)らが,半導体ウェーハ外周面取部研磨装置を含む装
置である(製品名)「FINESURFACE」・(型式名)「E−20
0」「E−300」「E−200TYPE−Ⅱ」「E−300TYPE−Ⅱ」
(被告製品)を製造・販売する被控訴人(一審被告)に対し,上記製品を製造
販売する行為は,上記特許権を侵害する等として,平成15年1月17日から
平成16年12月31日までの実施料相当額の損害賠償金各2500万円(合
計5000万円)と遅延損害金の支払を求めた事案である。
2原審における争点は,(1)被告装置の構成及び同装置において使用されてい
る半導体ウェーハの外周面取部の研磨加工方法(被告方法)は本件発明の技術
的範囲に属するか(争点1),(2)被告方法は本件発明と均等か(争点2)等
であったが,原審は,平成19年9月28日,上記争点1及び2をいずれも否
定して,控訴人らの請求を棄却した。そこで,これに不服の控訴人らが本件控
訴を提起した。
3当審における争点も,原審と同様である。
第3当事者の主張
当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中
の「第2事案の概要」「第3争点に関する当事者の主張」記載のとおりで
あるから,これを引用する。
1控訴人らの主張
(1)原判決の誤りについて
ア構成要件Aの「ほぼ全周に押し当てた状態」の解釈の誤り
(ア)原判決は,「構成要件Aの『ほぼ全周において押し当てた状態』と
は,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部の全周のうち円盤状半導体
ウェーハや研磨面上の切欠きや溝の存在,あるいは,円盤状半導体
ウェーハや研磨面自体の一部形状の変化などによって生じた非当接領域
を除いたすべての部分を押し当てた状態を意味するものと解するのが相
当である」と(47頁9行∼13行)し,その根拠として,「(イ)本
件明細書(甲2)には,…研磨剤の流通通路となる『溝6』を研磨面上
に設けることが開示されている。」(46頁11行∼25行)とし,
「これらのことからすれば,上記の『円盤状半導体ウェーハや研磨面に
一部の切欠きが存在』するとの記載は,ウェーハに位置決め用の切欠き
が存在することや,研磨面に研磨剤の流通通路となる溝が存在すること
などを意味するものと解される。」(46頁25行∼47頁2行)とし
た上,「そうすると,本件明細書の上記記載は,上記位置決め用の切欠
きや研磨剤の流通通路である溝が存在したり,あるいは,円盤状半導体
ウェーハや研磨面自体に一部形状の変化が生じたりして,半導体ウェー
ハの外周の面取部の一部が研磨面に接触しない状態が生じたとしても,
このような状態が本件発明の技術的範囲から除外されないことを意味す
るものと解される。」(47頁3行∼8行)とした。
(イ)しかし,原判決の挙げる根拠からは「…円盤状半導体ウェーハや研
磨面自体に一部形状の変化などによって生じた非当接領域を除いたすべ
ての部分を押し当てた状態を意味するものと解するのが相当である」と
の上記解釈が導き出される理由は明らかでない。また,そこにおける
「非当接領域」についてもその定義が明らかでない。
(ウ)加えて,原判決は唐突に本件明細書の「それらの一部形状の変化に
より」なる記載について「あるいは,円盤状半導体ウェーハや研磨面自
体の一部形状の変化」(47頁11行∼12行)が生じたりしてと解釈
しているが,控訴人らが原審において「『ほぼ全周』とは,円盤状半導
体ウェーハや研磨面にそれぞれ一部の切欠きが存在していたり,半導体
ウェーハ自体の一部形状の変化,研磨面自体の一部形状の変化,そして
半導体ウェーハと研磨面の組合せにより生ずる一部形状の変化により,
半導体ウェーハの面取部が研磨面に対して100%全て当接しない状態
が包含されている」と主張した点について判断していない。
(エ)また,原判決は「一部形状の変化」を経時的な変化に限定しようと
したものと解されるが,「一部形状の変化」には,設計上与えられる形
状変化と経時的な形状変化があるところ,本件明細書に記載された「一
部形状の変化」は,設計上与えられる形状変化に限定して解すべきであ
る。
その理由は,「一部形状の変化」を経時的な変化と捉えた場合,加工
時,ウェーハや研磨面に圧力が加わりパッドの磨耗はあっても,其の他
の部材が破損することまで想定しているとは考えられず,当接割合を増
加させる変化の要因はあっても,当接割合が減少することは想定できな
いからである。
(オ)仮に原判決における構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状
態」を,上記判示の捉え方も含めて,被控訴人の計算結果に基づく構成
要件充足性についての考察を行ってみる。この場合,「一部形状の変
化」には,控訴人らの主張する設計上与えられる形状変化(下記a)
と,判決で示された経時的な形状変化(下記b)との双方を以下検討す
る。
a「一部形状の変化」が設計上与えられる形状変化である場合,被告
装置において,ウェーハと研磨面の当接割合が,仮に,被告の計算結
果のように,300mm用被告装置,200mm用被告装置(2.04)
及び200mm用被告装置(4.93)について,それぞれ,32.3
8%,19.20%及び49.98%(被控訴人の計算結果は押圧を
伴った計算結果ではない。)としても,被告装置においては,ウェー
ハの非当接領域は,球面の上部,下部を切り欠いた形状に変えたこ
と,即ち,「研磨面自体の一部形状の変化」によって生じているので
あるから,この非当接領域を除いた場合,「円盤状半導体ウェーハの
外周の面取部のすべての領域を押し当てた状態」となるのであるか
ら,被告装置は構成要件Aを当然に充足していることとなり,上記結
論は矛盾していることは明らかである。
b一方,「一部形状の変化」が経時的な形状変化である場合,被告装
置において,ウェーハと研磨面の当接割合が,仮に,被控訴人の計算
結果のように,300mm用被告装置,200mm用被告装置(2.0
4)及び200mm用被告装置(4.93)について,それぞれ,3
2.38%,19.20%及び49.98%(被控訴人の計算結果は
押圧を伴った計算結果ではない。)としても,被告装置においては,
ウェーハにオーバーハング部ができるようにパッドに押し付けたこ
と,即ち,押し付けによる研磨面自体の一部形状の変化などによって
非当接領域が生じているのであり,この非当接領域を除いた場合,
「円盤状半導体ウェーハの外周の面取部のすべての領域を押し当てた
状態」となるのであるから,被告装置は構成要件Aを当然に充足して
いることとなり,上記結論は矛盾していることは明らかである。
(カ)また原判決は,構成要件Aの「ほぼ全周」の解釈において,控訴人
らの主張に対し,「…抽象的に述べたにすぎず,それだけではそのよう
な目的効果を得るためにとるべき構成を具体的に示したことにはなら
ず,適当でない」(48頁下2行∼49頁1行)としているが,構成と
は「本件発明の構成」が具体的に示されていないということか,それと
も「原告の説明」が具体的でないということか判然としない。少なくと
も控訴人らは,加工時の欠損を防止できる程度の押し付け力で従来技術
で示した片当たり(凸部に当てる)の加工装置よりも加工速度の点で有
利であることを述べており,抽象的に述べたことには当たらない。また
本件発明の明細書および図面には,原判決でも認める「研磨剤の流通通
路となる溝」が示され,この溝が研磨剤の流通通路として多数本(十分
な面積の通路)になることも十分想定され,全周にわたりバランスがと
れていればその当接割合には関係しないことを述べている。
(キ)そうすると,構成要件Aにおける「ほぼ全周」との意義は,本件明
細書(甲2)の段落【0022】に「ミラー面取加工の速度に最も必要
な押し付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハ23に局部的な荷重が
加わらず,加工時の局部欠損を防止できる」(3頁右欄12行∼14
行)との目的効果が得られる程度にウェーハの外周面面取部の周全体の
うちおおかたの部分において押し当てた状態であればよいと解される。
イ対比判断の誤り
(ア)間座につき
a原判決は,「研磨台は支持部材にボルトで頑丈に固定されているた
め,任意に角度を変更することはできない。」(49頁26行∼50
頁2行),「被告装置が,上記角度の設定を任意に選択,変更する機
能を有するなどの事情も認められない。」(50頁8行∼10行)と
した。
研磨台には,ウェーハからの押圧力と相対回転力が常時加わるた
め,研磨台が,間座(支持部材)にボルトで頑丈に固定されていなけ
ればならないのは技術常識であり,そもそもボルトを用いる固定は,
その解体,組立ての自由度を与えるために利用される固定方式であ
り,「任意に角度を変更することはできない。」と結論付けることは
できないから,原判決は誤りである。
bまた原判決は,上記のとおり「被告装置が,上記角度の設定を任意
に選択,変更する機能を有するなどの事情も認められない」とする
が,被控訴人はウェーハをせり出させない装置を,各ウェーハ製造業
者(納入ユーザ)に配布している事実などを考慮すれば,全周を当接
させる場合,せり出させる場合のそれぞれのメリット・デメリットに
基づきいずれの構成をとるかを各ウェーハ製造業者(納入ユーザ)に
選択させていることは明らかであり,各ウェーハ製造業者(納入ユー
ザ)は特段の困難性もなく,予め用意した角度の異なる間座(例え
ば,ウェーハを押し付けた際にせり出しはしているものの,そのせり
だし量が限りなく0となる度角の座間)に変更可能となっており,原
判決における上記判断には客観的理由がない。
(イ)被告装置の解釈につき
原判決の被告装置の解釈(51頁6行∼53頁5行)には誤りがあ
り,被告装置の認定に齟齬がある。
原判決は,被告(被控訴人)がその実施品であると主張するシステム
精工株式会社の特許3445237号の明細書を引用し,オーバーハン
グ部Wa,Wbの有効性を認めた。
しかし,システム精工の特許3445237号は,その明細書(特許
公報,乙2)の図面にあるような誇張された状態のオーバーハング部W
a,Wbが常時存在するかのようなオーバーハング部Wa,Wbの有効
性について述べているのではない。このことは,原判決が引用する「本
発明にあっては,…開始から終了までオーバーハング研磨加工を行った
り,全周研磨加工に加えてオーバーハング加工を行うようにしたので…
段差が形成されることが防止される」(乙2【0016】4頁24行∼
28行)の記載のように,開始から終了までオーバーハング加工を行っ
たり,揺動を加えて全周研磨加工とオーバーハング加工を交互に行うよ
うなオーバーハングを伴うような加工が各実施例に渡り有効であると記
載されているのであり,システム精工の特許3445237号の明細書
は,オーバーハング部Wa,Wbが常時存在するかのような被告実施品
に特定してオーバーハング部の有効性について言及しているのではない
から,これを引用するのは相当でない。
またシステム精工の特許3445237号の明細書によれば,被告装
置の構成においてオーバーハング部Wa,Wbが0(ゼロ)ないし限り
なく0であるという実施方法を否定するものでもない。
したがってシステム精工の特許3445237号の明細書を引用し,
その他に根拠もなく被告実施品のオーバーハング部Wa,Wbの有効性
を認めた原判決は客観性を欠くものであるととともに,あえてシステム
精工の特許3445237号の明細書を引用するのであれば,揺動を加
えた全周研磨加工,そしてオーバーハング部Wa,Wbが0(ゼロ)と
いう実施,もしくは限りなく0であるという実施,そしてそのオーバー
ハング部Wa,Wbの割合がどのように被告実施品に貢献しているのか
についての総合的な効果の認定をすべきである。
(ウ)計算結果に基づく考察における認定の誤り
a原判決は,当接割合に関する控訴人らの計算について「原告らは,
300mm用被告装置において,研磨パッドの厚みを考慮しない場合で
も,研磨面の高さが5.09mmとなることを前提に計算を行っている
ものの,この前提自体が誤りである(乙9,18,弁論の全趣旨。乙
9,18においては,研磨リングに研磨パッドが貼着された状態にお
ける中段部の高さが計測されている。)」とし(55頁(b)),20
0mm用被告装置(4.93)についても同様な判断を示した(58
頁)。
控訴人らは,研磨パッドの厚みを含む研磨面の高さを前提に計算を
行った(甲15の1∼3)が,計算結果にほとんど差はなかった。ま
た計算結果を追認する上で実際に検乙3(直径200mmのウェーハ
用の研磨ドラム)を研磨リングとして使用する被告装置に関し,
ウェーハ外周の面取部の研磨面への押当て部位を確認する実験を実施
したところ,研磨リングの上段部及び下段部に貼着した研磨パッドに
も当接が確認された(甲16)。
bまた原判決は,その各判断の前提として,「摩耗してないときの当
接割合は,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部のすべての領域を押
し当てた状態であるとは言えない」というが,摩耗を考慮しなくて
も,押し当てることによって,研磨パッドに厚みが減少したことと同
じ現象が生じるのであって,原判決は,控訴人の「押し当て」による
厚みの変化に基づく主張を無視しており,妥当性を欠いている。
cさらに原判決は,「被告装置において,研磨パッドの摩耗及び押圧
状態が,原告らが主張する態様で生じること,原告らの主張する摩耗
及び押圧状態において被告装置が使用されることを認めるに足りる証
拠は何ら存在しない。」(59頁18行∼21行)ともするが,控訴
人らは,甲12,13の1∼6等を提出して,主張立証しているので
あり,上記認定は不当である。
被告装置は,ウェーハを研磨パッドに押し当てて回転させることに
より実施されるものであるから,その計算上,ウェーハの押付け力
量,パッドの厚みと硬軟度の数値が必要である。被控訴人はパッドの
厚み1.3mmを貼着した200mm用被告装置に関する乙13の図
(図番FS200D2)において,押付け力が何㎏であるか明示して
いないが,システム精工株式会社の営業媒体としての甲17(装置販
売用パンフレット,および実験成績)2頁に示された装置仕様テーブ
ルの3行によれば,押付け力は1kg∼15kgまで15倍の強弱差
の仕様が記載されており,これは研磨加工時の押圧力を意味するもの
であるから,控訴人らの採用した押圧力はこの範囲にある。
被控訴人が,この図における押付け力を控訴人に明示しないため,
控訴人は,各様の押当て力の相違による各種パッドの凹み状況を計算
し,実験した上で主張しているのである。その結果は被告装置の使用
により生じる磨耗,押し付けの状態を合理的に推測させるものであ
る。
なお,被控訴人は,被告装置はシステム精工の特許第344523
7号の実施品であると主張しているところであり,当該特許明細書
(乙2)には,半導体ウェーハの外周面の研磨装置において,半導体
ウェーハを研磨面に押し付けると,「研磨パッドの研磨面に半導体
ウェーハの押し付け力によるトラック状溝が発生する」こと(段落【
0005】),即ち,ウェーハの外周部が研磨面に押し付けられて沈
み込むことが記載されている。
そして,被告装置を使用して研磨する場合,半導体ウェーハが,研
磨面に対して押し付けられること(段落【0024】),また,被告
装置を使用して研磨加工する場合に,研磨面が次第に摩耗することが
記載されており(段落【0025】),このような記載からしても,
被告装置においては,研磨加工時においては,半導体ウェーハの外周
面取り部は研磨パッドに所定の割合で沈み込み,かつ,使用に従い研
磨面が摩耗していくことは明らかである。
dまた,原判決は「仮に,被告装置が上記摩耗及び押圧状態で使用さ
れることがあったとしても,研磨パッドがそれほど摩耗していないと
きの当接割合は,…円盤状半導体ウェーハや研磨面自体の一部形状の
変化によって生じた非当接領域を除いて,円盤状半導体ウェーハの外
周の面取部のすべての領域を押し当てた状態であるとは言えないもの
であるから」(59頁22行∼60頁2行)としている上,「仮に,
被告装置が上記摩耗及び押圧状態で使用されることがあったとして
も」(59頁22行∼23行)としながら,控訴人らが主張する「押
圧状態」については,一切言及することなく判断を行っており,妥当
性を欠く。
さらに,原判決は,「そもそも,上記のような当接割合の変化は,
研磨パッドの摩耗による厚みの減少を理由とするものであり,研磨パ
ッドの摩耗いかんによって,当初は構成要件Aを充足せず,本件発明
の技術的範囲に属していなかったものが,後に突如として,本件発明
の技術的範囲に属することになるなどということは不合理であると言
うほかなく,上記構成要件の充足性を判断するにつき,研磨パッドの
摩耗を考慮すること自体が相当でないというべきである。」(60頁
5行∼11行)としている。
そもそも,本件発明は,構成要件A∼Fを備えるところのミラー面
取り加工方法という方法発明である。したがって,被告装置を使用す
る使用方法が,本件発明の方法を実施することとなれば,被告装置を
使用して実施する方法が,使用開始時であろうと,使用の途中の段階
であろうと,その使用の過程において本件発明の要件を充足すれば,
被告装置は本件発明の方法の実施に使用する装置となり,当然に本件
特許を侵害することになる。
しかも,本件発明の構成要件Aには「凹形状をなす研磨面に対し
て,円盤状半導体ウェーハの外周面取部をほぼ全周において押し当て
た状態で,」と「押し当てる」ことが規定されており,円盤状半導体
ウェーハの外周面取部と研磨面との「押し当て」を考慮に入れ,「ほ
ぼ全周」が当接するか否が判断される必要があるところ,原判決はこ
の点について,何ら検討を行っておらず,原判決は不当である。
eまた,原判決は,「原告らの上記計算結果は,本件発明における『
研磨面』に研磨リングの中段部に相当する研磨パッドのみならず,研
磨リングの上段部及び下段部に相当する研磨パッド部分をも含めるこ
とを前提するものであり,この前提自体が誤りというべきである。」
(61頁6行∼9行)とし,その結論として,「ウェーハを当接する
前の状態において,研磨面が球内面形状であることを意味するものと
解される。」(61頁16行∼18行)というのである。しかし上記
認定は,明らかに本件発明の機序を正しく理解していない結果のもの
である。
そもそも本件発明は,ウェーハ面取り部のミラー面取りにかかるプ
ロセス(方法)であり,ウェーハを当接する前の状態における研磨面
が球内面形状に見えるか否かは,本件発明の機序の関与するところで
はない。
そして原判決は,研磨面を球内面形状とする意義について,「円盤
状半導体ウェーハを研磨面に当接するのみで…両者の設定位置を簡素
化することからすれば,」「ウェーハを当接する前の状態において,
研磨面が球内面形状であることを意味するものと解される。」とし,
この解釈において原判決では,「当接するのみで」の当接が押圧力の
かかっていない状態と捉えている。しかし「両者の設定位置を簡素化
する」との記載からも明らかなように,この当接はミラー面取りにか
かるプロセスの工程における設定位置であり,押圧力がかかっている
ことは明らかであり,この点も本件発明の機序を正しく理解していな
い結果のものである。
すなわち,本件発明の構成要件Aには「凹形状をなす研磨面に対し
て,円盤状半導体ウェーハの外周面取部をほぼ全周において押し当て
た状態で,この研磨面と半導体ウェーハとの相対回転を与えることに
より」とあり,円盤状半導体ウェーハの外周面取部が押し当てられる
のは研磨面に対してであり,被告装置において,研磨パッドによって
形成される研磨面が「凹形状をなし」また,「円盤状半導体ウェーハ
の外周面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形
状」(構成要件B)であればよいのである。
要するに,研磨パッドを支持する研磨リングに,「押し当て可能な
曲率半径の球内面形状」を描くような支配的な部分,すなわち押し当
てる結果,初めて出現する,本発明でいう「球内面の中心点」を規定
できる支配的な部分が存在すればよいのである。被告装置において,
円盤状半導体ウェーハの外周面取部を研磨パッドの研磨リングの中段
部に相当する球内面形状の部分(支配的な部分)に押し当てる結果,
それに連続して延びる上段部及び下段部に相当する部分にも当接する
こととなり,被告装置の使用時においては,それら研磨パッドの部分
も当然に研磨リングの中段部で規定される「球内面の中心点」で決ま
る研磨面を形成することとなるのである。単に当接前の研磨面の高さ
と半導体ウェーハ面取部の当接状態に基づいて計算したとしても,被
告装置の半導体ウェーハを研磨面に押し当てた使用状態を反映したも
のとはならず,上記認定は失当である。
f原判決は,また「前記イ(ア)aの(b)記載のとおり,研磨リングの
上段部及び下段部は球内面形状に加工されていないから,これに貼着
された研磨パッドにより形成される面も球内面形状ではない。したが
って,研磨リングの上段部及び下段部に相当する研磨パッド部分は本
件発明における『研磨面』には該当しない」(61頁24行∼62頁
2行)としている。
しかしながら,研磨面は半導体ウェーハが当接し,ウェーハの面取
部が研磨される研磨パッドの面を言うのであって,研磨リングの上段
部及び下段部に相当する部分に半導体ウェーハに当接しない研磨パッ
ドの部分が存在しようと,半導体ウェーハが研磨パッドに押し付けら
れた時に,研磨パッドによって球内面形状の一部をなす研磨面が形成
されていれば,その部分で半導体ウェーハは研磨されるのであるから
本件発明の「研磨面」に該当することは明らかである。すなわち,研
磨面は,円盤状半導体ウェーハ外周面取部が,研磨リングの中段部分
及び中段部分を中心に上,下段部にまたがり貼着された研磨パッドと
当接する部分である。
g原判決は,さらに「被告装置においては,研磨リングの上段部,中
段部,下段部は,一様な曲率半径の球内面形状であるとは認められな
い(別紙被告装置目録第1図(b))から,本件発明の『ウェーハの
外周面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形状
』とはなり得ない。)。」(62頁7行∼11行)としている。
しかし,本件発明の「研磨面」は研磨パッドによって形成されるの
であって,上記研磨リングの上段部,下段部が球内面形状をなすか否
は直接に関係がないことは前述の通りである。原判決が言及する別紙
被告装置目録第1図(b)は,被告装置の概略構成を示すものであっ
て,かかる図面から半導体ウェーハが研磨パッドに押し当てられたと
きの正確な状態が把握できるはずがなく,目録第1図(b)に基づく
上記認定は全く合理性を欠くものである。
システム精工の特許3445237号の「内周研磨面35は球面形
状となっており,」なる表現は,内周研磨面35(研磨パッド表面)
が見た目として球内面形状でなく,かつ「中心点O」も観念できない
ものの,被告装置には内周研磨面35の裏に存在する高い精度の球面
形状が研磨リングの中段部に設けられ,これがウェーハの押圧力に抗
して内周研磨面35(研磨パッド表面)を球内面形状に維持するごと
く支配的に働くことの表現に他ならず,このような本件発明と同様な
機序を有する特許3445237号の発明における「内周研磨面35
は球面形状となっており,」とする表現は,本件発明の「球内面形
状」なる認識と同じである。
したがって,「被告装置においては,研磨リングの上段部,中段
部,下段部は,一様な曲率半径の球内面形状であるとは認められない
(別紙被告装置目録第1図(b))から,本件発明の「ウェーハの外
周面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形状」
とはなり得ない。)」との結論に至らないのは明らかである。
hカタログが被告装置の概略構造を示すとしても,被告装置が,仮
に,被告が主張するように半導体ウェーハの半分以上を,研磨面の上
下からせり出すようにすることが被告装置の特徴であるのであれば,
被告製品カタログ(甲3の1)のような説明図にはなり得ず,研磨加
工においては半導体ウェーハの全てを押し付けて研磨することを自ら
示しているとみるのが自然である。また,同様に被告装置の使用状態
を示す甲8,14(被控訴人製品を紹介するウェブサイト)につい
て,本件訴訟提起後に被控訴人がウェブサイトより削除した事実から
しても,被控訴人の主張に説得力がなく,これに基づく原判決の判断
(62頁15行∼23行)は妥当とはいえない。
この点に関しては,後記(2)においても敷衍して主張する。
(エ)被告装置の構成要件充足性
控訴人らは,当審において甲15の1ないし3(図面)を提出する。
これは,被控訴人の提出した乙20の図面(図番FS200D2△)に1
基づき,CAD(コンピュータ・エイデッド・デザイン)システムを用
いてウェーハ面取部のミラー面取加工時における押し当て状況を,研磨
パッド(厚さ1.3mm)を貼着した場合につき図面化したものであ
り,研磨面の高さの寸法4.93mmは,研磨パッドの厚みを考慮した
高さである。
これによれば,甲15の1に示されるように,研磨リングの下段部に
貼着された研磨パッドとウェーハの左端部との距離は,0.46mmで
あり,研磨リングの上段部に貼着された研磨パッドとウェーハの右端部
との距離は,0.82mmであり,研磨パッドに対するウェーハの接触
割合は,49.9%である。
また甲15の2は,実際のウェーハ面取部のミラー面取加工に当たり
ウェーハを研磨リング側に近づけ,所定の押圧力で研磨パッドにウェー
ハを沈み込ませた場合における研磨リングの下段部に貼着された研磨パ
ッドとウェーハの左端部との距離,研磨リングの上段部に貼着された研
磨パッドとウェーハの右端部との距離,及び研磨パッドに対するウェー
ハの接触割合を示している。この状態においては,研磨リングの下段部
及び上段部に貼着された研磨パッドにウェーハの左右端部が当接し,研
磨リングの上段部に貼着された研磨パッドとウェーハの右端部との距離
が0.00mm,研磨リングの下段部に貼着された研磨パッドとウェー
ハの左端部との距離が−0.36mm(すなわち0.36mm研磨パッ
ドにウェーハが沈み込む)であり,研磨パッドに対するウェーハの接触
割合は,100%である。上記CAD(コンピュータ・エイデッド・デ
ザイン)システムにより,被控訴人条件を入力し実際の研磨加工をシュ
ミレーションすれば,研磨加工開始時点から研磨リングの下段部に貼着
された研磨パッドに0.36mmウェーハが沈み込み,研磨パッドに対
するウェーハの接触割合は100%となるのである。
以上のとおり,200mm用被告装置にあっては,半導体ウェーハを研
磨面に押しつけて当接したのみで,半導体ウェーハと研磨面の当接割合
はほぼ100%に達しており,本件発明の構成用件Aの「ほぼ全周にお
いて押し当てた状態」の要件を満たし,被告装置が本件発明の構成要件
を充足することは明らかである。
ウ均等の主張
(ア)原判決は,本件発明と被告方法との相違する部分である「研磨面に
対して,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し
当てた状態」との方法を含む構成要件Aは,本件発明の本質的部分であ
ることは明らかであるから,これを充足しない被告方法が本件発明の構
成と均等であるということはできない(63頁12行∼66頁17行)
としたが,その理由を要約すると,本件発明の課題を解決するための手
段として,「研磨面に円盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を
円盤状半導体ウェーハの外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して
支えるようにした」ものであり,このことにより本件発明は格別の作用
効果を奏するものであるから,本件発明の構成要件Aは本件発明の中核
をなす本質部分である,というものである。
しかしながら,下記に述べるように,原判決は本件発明の本質部分の
認定を誤ったものである。
(イ)本件発明と被告装置との相違が,本件発明における本質的部分に係
るものであるかどうかを判断するに当たっては,単に特許請求の範囲に
記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,本件発明をその
出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理
を確定した上で,被告装置の備える解決手段が本件発明における解決手
段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それとも異なる原理に
属するものかという点から判断すべきものである。
(ウ)以下,この判断基準に基づいて本件発明について順次検討する。
a本件発明の出願時における先行技術
(a)ウェーハのミラー面取加工技術
特開平7−314304号公報(発明の名称「ウエハの鏡面加工
装置」,出願人スピードファム株式会社,公開日平成7年12月
5日,乙16)には,回転する円筒状の研磨ドラムの外周面に円板
形のウェーハの面取部の一部を所用の当接力で当接させることによ
り鏡面加工する発明が記載されている。
特開平8−1493号公報(発明の名称「ウェーハ面取部の鏡面
研磨方法および鏡面研磨装置」,出願人信越半導体株式会社ほ
か,公開日平成8年1月9日,乙17)には,円盤状をなす
ウェーハの面取部の端面だけに面接触する第1の研磨部と,ウェー
ハの面取部の傾斜部だけに面接触する第2の研磨部と,ウェーハの
面取部の前記端面および前記傾斜部の間に存在するR部だけに面接
触する第3の研磨部とがそれぞれ独立して設けられた円筒状のバフ
を備え,回転する円筒状のバフの前記第1∼第3の研磨部に,順
次,ウェーハの面取部を押し当て,バフを回転させることにより,
ウェーハの面取部を鏡面研磨する発明が記載されている。
これらの先行技術によれば,本件発明の出願時におけるウェーハ
のミラー面取加工技術においては,円筒状の研磨面にウェーハの面
取部の一部を当接させてミラー面取加工するというものであった。
(b)ウェーハの面取加工技術
特開昭54−40565号公報(発明の名称「ウエハ面取り
法」,出願人株式会社日立製作所,公開日昭和54年3月30
日,乙3)には,従来例として,面取り皿の凹形状研磨面に円盤状
ウェーハの面取部の全周を押し当てた状態でコーナーをラップして
面取りするようにした発明が記載されている。
特開平6−120483号公報(発明の名称「半導体装置の製造
方法」,出願人日本インター株式会社,公開日平成6年4月28
日,甲18)には,ベベリング皿の凹形状研磨面に円盤状シリコン
半導体基板の面取部の全周を押し当てた状態でベベル加工して面取
りするようにした発明が記載されている。
特開昭57−96766号公報(発明の名称「半導体ウエハエツ
ジ研磨装置」,出願人三菱電機株式会社,公開日昭和57年6月
16日,甲19)には,従来例として,ラップ皿の凹形状研磨面に
円盤状半導体ウェーハの面取部の全周を押し当てた状態でエッジを
研磨して面取りするようにした発明が記載されている。
これらの先行技術によれば,本件発明の出願時(平成8年7月1
5日)におけるウェーハの面取加工技術においては,凹形状研磨面
に円盤状半導体ウェーハの面取部の全周を押し当てた状態で円盤状
半導体ウェーハの面取部の面取加工をするというものであった。
b本件発明の出願時の先行技術との対比における本件発明の課題の解
決手段における特徴的原理
(a)本件発明に係るウェーハのミラー面取加工技術は,ウェーハの
面取加工技術に包含されるものであって,ウェーハの面取加工技術
である上記した乙3,及び甲19に記載のラッピング技術あるいは
甲18に記載のベベリング技術と密接に関連するものであり,本件
発明の特許庁における審査においても上記乙3が先行技術として示
されていることからしても,本件発明の先行技術を把握する上で
は,ウェーハのミラー面取加工技術の分野における先行技術のみな
らず,ウェーハの面取加工技術の分野における先行技術をも対象と
すべきものである。
そして,上記したように,ウェーハの面取加工技術の分野におい
ては,本件発明の構成要件Aの「研磨面に対して,円盤状半導体
ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」で面
取加工をすることは本件発明の出願時において周知であったものあ
る。
このように,本件発明の出願時の先行技術と対比した場合,本件
発明の構成要件Aの「研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外
周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態」はウェーハの面取
加工技術の分野において周知であったものであるから,本件発明の
構成要件Aが本件発明の課題の解決手段における特徴的原理とはな
り得ない。
(b)本件発明においては,構成要件Aの末尾が「…であって,」と
表現されているように,構成要件Aは本件発明の前提と位置付けら
れているものであり,本件発明の課題の解決手段における特徴的原
理の部分ではない。
(c)本件発明の特許庁における審査過程における,引用文献1∼3
から本件発明が容易に発明をすることができたものであるという趣
旨の特許庁の拒絶理由通知に対する意見書(乙4)において,本件
特許権者(本件出願人)は次のように反論している。
「(4)新請求項1に係る発明と引用文献1ないし3に記載の発明
との対比
…要するに本発明は,球内面の中心点に円盤状半導体ウェーハ
の回転軸を一致させ,かつ研磨面の回転軸と前記円盤状半導体
ウェーハの回転軸とを不一致とさせ,少なくとも前記研磨面をそ
の回転軸で強制的に回転させる構成になっているため,円盤状半
導体ウェーハの面取部が球内面形状の研磨面に広い面積で平均化
して当接するため,研磨面の寿命が延びることになります。上記
のように本発明は,円盤状半導体ウェーハの外周面取部のほぼ全
周を均等にミラー面加工するものであり,特に円盤状半導体
ウェーハの面取部を,球内面形状の研磨面に広い面積で平均化し
て当接させ,研磨面の寿命を延ばすものであり,引用文献1,
2,3を夫々単に組み合わせてできたものでは,決してありませ
ん。」(3頁10行∼4頁11行)。
この意見書の内容を参酌すると,本件発明の課題の解決手段に
おける特徴的原理は,構成要件BないしDにあることは明白であ
る。
(d)本件発明の明細書(甲2)の段落【0007】の後段には,
「特に本発明にあっては,上記した球内面の中心点に円盤状半導
体ウェーハの回転軸を一致させ,かつ研磨面の回転軸と前記円盤
状半導体ウェーハの回転軸とを不一致とさせ,少なくとも前記研
磨面をその回転軸で強制的に回転させる構成になっているため,
円盤状半導体ウェーハの面取部が球内面形状の研磨面に広い面積
で平均化して当接するため,研磨面の寿命が延びることにな
る。」と記載されており,この明細書の記載からしても,本件発
明の課題の解決手段における特徴的原理は,構成要件Aではな
く,構成要件BないしDにあることは明らかである。
c被告装置の備える解決手段が本件発明における解決手段の原理と
実質的に同一の原理に属するか。
本件発明の課題の解決手段における特徴的原理が,構成要件Bな
いしDにあることは上記したとおりである。これに対し,被告装置
は,本件発明の課題の解決手段における特徴的原理である構成要件
BないしDを備えている。
したがって,被告装置の備える解決手段は,本件発明における解
決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものである。
dまとめ
本件発明と被告装置との相違が構成要件Aにあるとしても,本件
発明における本質的部分は構成要件BないしDにあるから,本件発
明と被告装置との相違は,本件発明における本質的部分にかかわる
ものではない。
原判決は,争点2(被告方法は本件発明と均等か)における本件
発明の本質的部分の認定において,本件発明の奏する作用効果のう
ちの1つに拘泥し,本件発明の出願時の先行技術との対比における
本件発明の課題解決手段における特徴的原理を確定することなく,
本件発明と被告装置との相違が本件発明の本質的部分にかかわるも
のかどうかの判断を行った結果,本件発明の本質的部分の認定を誤
り,均等判断の結論を誤ったものである。
(2)当審における新たな主張
ア被告装置カタログ(甲3の1)の「Chamfer(チャンファー,面取
り)」図に関しての被控訴人の陳述の誤り
被控訴人は,被告物件はシステム精工から第344523号特許(発明
の名称「ワーク外周の研磨方法および研磨装置」,出願日平成12年1
0月27日,登録日平成15年6月27日,乙2)の実施許諾を受けて
実施していると主張し,被告製品の図面として乙7∼15,18∼20を
提出した。加えて被控訴人は,カタログの「Chamfer」図は,被告装置の
概略を簡単に説明することを目的としたものにすぎず,被告装置の構造や
そこで用いられている方法を正確に表現したものでないとも主張した。
しかし,システム精工は平成11年4月30日に特願平11−1234
02号(発明の名称「ワーク外周の研磨方法および研磨装置」,甲20)
(第1特許)を出願し,その後,平成12年10月27日に上記乙2特許
を出願している。ここで,甲21(「ElectronicJournal(エレクトロニ
ックジャーナル)」2006年〔平成18年〕2月号,株式会社電子ジ
ャーナル,90,91頁)には,被控訴人がE−200,E−300を平
成12年1月に発表し販売を開始したことが記載されている。これら各特
許出願時と製品の発表時期を照らし合わせると,E−200,E−300
の販売を開始した時点では,第1特許(甲20)は出願されているもの
の,乙2特許は未だ出願されておらず,この乙2特許が出願されるのはE
−200,E−300の販売開始から9ヵ月後の平成12年10月27日
である。
上記によれば,E−200,E−300の発表前にシステム精工が出願
を完了している特許出願は,第1特許のみであり,E−200,E−30
0は第1特許の当初発明にのみ基づいたウェーハエッジポリッシングマシ
ンであることが窺われ,さらに第1特許の出願当初の発明の要旨が,カタ
ログの「Chamfer」図に一致することからも,同「Chamfer」図は,E−2
00,E−300が現実に有している機序の内容そのものであると認めら
れる。
仮に,被控訴人のE−200,E−300が,システム精工から実施許
諾を受けて実施しているとする乙2特許であるとの主張が真実であるので
あれば,乙2特許は,その特許出願日(平成12年10月27日)前の平
成12年1月に既に被控訴人により発表され,販売されたE−200,E
−300により,公知の状態となっており,特許の無効理由を有すること
になる。すなわちE−200,E−300の販売によりすでに公然知られ
た製品に関する発明を,その後である平成12年10月27日に出願する
など考えられないことからすれば,被控訴人の主張に食い違いが生ずるこ
とになる。
加えて,甲3の2(被告装置カタログ)には,その下側に乙2特許の装
置と思しき研磨リングの写真があり,E−200TYPE−Ⅱ,E−30
0TYPE−Ⅱのみが,システム精工から実施許諾を受けて実施している
とする乙2特許に基づくタイプの製品であると認められる。
このように,被控訴人のカタログの「Chamfer」図に関する陳述内容は
誤りであり,E−200,E−300が,システム精工から実施許諾を受
けて実施している乙2特許の装置であるとする陳述も誤りであることは明
らかである。
イ被告製品カタログ(甲3の1)の「Chamfer」図に関する認定について
の誤り
原判決では「…カタログは,被告装置の概略を簡単に説明することを目
的としたものにすぎず,被告装置の構造やそこで用いられている方法を正
確に表現したものでないことが明らかであるから,上記証拠をもって,被
告方法が,構成要件Aの『ほぼ全周において押し当てた状態』を充足する
ものと認めることはできない。」と認定した(62頁(オ))。
そして被控訴人は,被告装置の概略図であるカタログ(甲3の1)に
「Chamfer」図にはウェーハが傾斜していない状態が表現されているので
あるから,「Chamfer」図はそもそも被告装置の構造を正確に表現したも
のではないと述べている。しかし「Chamfer」図のように研磨面が球面状
に用意されているのは,ウェーハを傾斜させて当接させても傾斜のない状
態と同様のウェーハエッジポリッシングを可能にする為であり,ウェーハ
を傾斜させて広範囲の研磨面を利用しようとする目的以外に研磨面が球面
状である意味は特段なく,また被控訴人も,答弁書および準備書面におけ
る主張で全被告製品においてウェーハを傾斜(2度)させており,この2
度角の傾斜がウェーハエッジポリッシングに極めて有効であることも認め
ているところである。確かに「Chamfer」図ではウェーハが傾斜している
か否か明らかでないが,2度角とは,図に表した場合,殆ど0度角と見分
けがつかない程度の小角度であり,図面上の表現が困難なため,被控訴人
の営業関係者はその傾斜の実態については口頭で客先に説明している蓋然
性が高い。
そうすると「Chamfer」図として表現された「球面状に用意された研磨
面にウェーハをほぼ全周において押し当てた状態」は,実際には図面上表
現困難なウェーハに傾斜(2度)が内在しているのは明らかであり,カタ
ログの「Chamfer」図を単なる被告装置の概略と見るより,販売されてい
るウェーハエッジポリッシングマシンの実態を表していると見る方がより
自然である。
さらに前記甲21には,カタログの「Chamfer」図と同様な図面が示さ
れており(91頁,図2「A/B-CF」),前記「Chamfer」図が繰り返し使
用されている実態から判断すると,上記カタログの内容そのものが,販売
されているウェーハエッジポリッシングマシンの実態を表していると見ら
れるのである。また同誌(甲21)には,カタログの「Chamfer」図が,
その横に特許第3445237号(乙2特許)と表示された状態で掲載さ
れている。この記載によれば,同誌の図2「A/B-CF」には,「ほぼ全周に
おいて押し当てた状態」とウェーハに傾斜を与えるということとが実質的
に示されていることになる。
したがって原判決が「カタログは,被告装置の概略を簡単に説明するこ
とを目的としたものにすぎず,被告装置の構造やそこで用いられている方
法を正確に表現したものでないことは明らかである」として,被控訴人の
カタログの存在意義を一蹴することは,上記アの「Chamfer」図に関する
被控訴人の陳述の誤りを勘案すれば不当な判断であり,被控訴人が描いた
カタログの「Chamfer」図は,販売されているウェーハエッジポリッシン
グマシンの実態を表していると認定して被告装置を特定すべきである。
すなわち,これによれば,ウェーハが研磨面に全周当接している様が描
かれているから,被告装置は本件発明を実施しているということになる。
ウ間接侵害について
(ア)被告製品は商品名を「FINESURFACE」として,その装置の相違に
より形式名を「E−200」,[E−300],[E−200TYPE−Ⅱ
],[E−300TYPE−Ⅱ]と称する4種類の製品であり,被告装置の
研磨リングには,300mm用のウェーハを研磨する研磨面の高さ5.
09mmのもの,200mm用のウェーハを研磨する研磨面の高さ4.
93mmのもの,および2.04mmのものの3種類あることとなって
いる。
上記の4種類の被告製品はいずれも中枢機能として半導体ウェーハ外
周面取部研磨装置(被告装置)を組み込んでいることが明らかになって
いる。
(イ)ところで,被告製品が控訴人らの有する本件特許権を侵害すること
については,原審において控訴人らの主張したところであるが,特に被
告装置が研磨面の高さ4.93mmの研磨リングを使用する装置である
場合においては,本件発明の構成要件Aの「研磨面に対して円盤状半導
体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態で」面取
り加工を行うものであることが明白であるから,他の特許発明の構成要
件及び平成18年法律第55号による改正前の特許法101条3号の充
足とあいまって,本件特許権の文言侵害として,間接侵害に該当する。
また,研磨面の高さの異なる他の研磨リングを使用する他の3種類の
被告製品についても,「ほぼ全周」に関する要件が,本件発明の本質的
部分ではない上,置換可能性,置換容易性,非容易推考性,意識的除外
の最高裁判決の示す均等適用の他の要件の充足に欠ける点はないから,
均等理論の適用により特許権侵害として間接侵害に該当する。
上記の4種類の被告製品が,「エッジポリッシングシステム」とし
て,業界の脚光を浴び,業界シェアの大半を占めているのは,ウェーハ
外周の面取部のミラー面取り加工に関する技術の高さによるものである
が,被告装置は本件特許発明のミラー面取加工方法を実施するための装
置であり,被控訴人から被告装置を購入しているユーザー企業はこれを
ウェーハ面取加工のために使用し,これ以外の用途に用いてはいない。
すなわち,被告装置は本件特許発明の方法の使用にのみ用いられるもの
である。
したがって,被控訴人が被告製品を業として,製造し販売する行為は
上記改正前特許法101条3号に該当する。
(ウ)仮に,被告製品の有する面取加工以外の機能・効用が,面取加工に
単に付随するに留まらず,社会通念上,経済的・商業的・実用的に他用
途として意義を有するものであるとしても,被告製品は,本件特許発明
の面取加工の方法の使用に用いるもので,その発明によるウェーハの研
磨加工時における局部欠損の防止と加工速度の飛躍的上昇,研磨面の延
命という課題の解決に不可欠のものであることは明らかである。
そして,原審で主張したとおり,被控訴人は悪意をもって,業として
被告装置を製造,販売しているのであるから,上記改正前特許法101
条4号にも該当する。
本件は,いずれの被告物件についても,これに組み込まれる被告装置
が実際に半導体装置製造メーカにおいて使用されることは明らかである
から(前記甲21),被告装置の半導体装置メーカにおける使用が本件
発明を直接に侵害することになる以上,被告物件の製造・販売には間接
侵害が成立する。
エ損害についての補足的主張
(ア)控訴人らの代表取締役である本件発明の発明者両名は,平成5年
(1993年)ころから,本件特許に関する研究に着手して試行錯誤を
重ね,ようやく平成8年7月15日出願に至り,平成9年5月8日∼6
月4日に,山梨県甲府市において,複数の業界関係会社を招き本件特許
発明に基づいたウェーハエッジポリッシングマシンの実演を公開し,本
件特許発明に基づいたウェーハエッジポリッシングマシンが,革新的な
研磨構想により,それまでの装置と比べてきわめて高いスループット
(処理速度)を実現できる点等の効用を説明した。
その後,システム精工が平成11年4月30日発明の名称を「ワーク
外周の研磨方法および研磨装置」とする本件発明と全く同じ内容の発明
を含む特許を出願し(第1特許)(甲20),一旦本件特許出願の公開
公報を引用例として拒絶理由通知を受けたのち,主題を全面的に変更
し,特許を受けている。また,平成12年10月27日同名称の発明に
ついて特許出願し(「乙2特許」),平成15年6月27日特許登録を
受け,平成17年5月12日被控訴人に同特許権につき通常実施権登録
している。
そして,前記甲21によれば,被控訴人は2000年(平成12年)
からエッジポリッシング装置業界に本格参入し,現在では,国内外の主
要なシリコンウェーハメーカーに採用され,市場シェアの約80%を獲
得するに至っている。
(イ)本件発明は,凹形状の研磨面に対してウェーハが傾斜(どのような
角度も許容)状態で押圧されその状態でウェーハエッジポリッシングを
実施することにより,ウェーハの研磨加工時における局部欠損の防止と
加工速度の飛躍的上昇,研磨面の延命という課題の解決を初めて実現し
たものであり,これは被控訴人会社が本件特許の実施の結果として世界
中のメーカーから評価されているように,ウェーハ面取加工技術上革新
的な発明なのである。そして将来の半導体ウェーハ産業の拡大も予測さ
れるところから,本件発明の経済的価値は計り知れないほど大きく,被
控訴人はこれを享受している。
これは,被控訴人が中小企業庁の元気なモノ作り中小企業300社の
1として,「シリコンウェーハの端末を高速・高精度に研磨することが
可能な装置を開発した。この装置は世界中のメーカーから高い評価を受
け,その世界シェアは90%を超えている。」と紹介されていることか
らも窺われる(中小企業庁のホームページ,甲23)。そして,被告製
品における本件特許発明の寄与度は,製品中に占める特許発明に係る部
分である被告装置の物理的な割合だけでなく,被告製品における本件発
明の果たす効果の割合の検討が重要であるということができる。
2被控訴人の主張
(1)控訴人らは,①原判決は本件発明の構成要件Aの「ほぼ全周において押
し当てた状態」の意義の解釈を誤っている,②原判決は本件特許発明と被告
装置との対比に関する判断を誤っている,③原判決は均等論に関する判断を
誤っている,④甲3の1に記載されている「FINESURFACEE
−200/300」(以下「E−200/300」という。)に内蔵される
被告装置において使用されている円盤状半導体ウェーハの外周面取部の研磨
加工方法(被告方法)はシステム精工の特許(乙2特許)に係る特許発明を
実施したものであるとの被控訴人の主張は虚偽である等と主張するが,いず
れも失当である。
(2)構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」の意義
ア構成要件Aに関する本件明細書(甲2)中の「一部形状の変化」の解釈
(ア)原判決は,本件明細書(甲2)に「ほぼ全周とは,円盤状半導体
ウェーハや研磨面に一部の切欠きが存在していたり,それらの一部形状
の変化により100%全て当接しなければならないものではないことを
意味している。」(段落【0007】)と記載されていること,本件明
細書の実施例には「図2に示されるように所定間隔で溝6が上方に延び
ており,これは後述する研磨剤の流通通路となる」(段落【0013
】)として,研磨面上に設けることが開示されていること等を理由に,
構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」とは,「円盤状半導
体ウェーハの外周の面取部の全周のうち円盤状半導体ウェーハや研磨面
上の切欠きや溝の存在,あるいは,円盤状半導体ウェーハや研磨面自体
の一部形状の変化などによって生じた非当接領域を除いたすべての部分
を押し当てた状態を意味するもの」(47頁10行∼13行)と判示し
た。
かかる判示に対し控訴人らは種々論難しているが,要するに,構成要
件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」の意義を解釈する前提とな
る本件明細書中の「一部形状の変化」という文言について,「設計上与
えられる形状変化」なる概念と「経時的な形状変化」なる概念とを用い
た上で,「一部形状の変化」とは前者のみを指すものと解釈すべきであ
り,したがって,そのような「設計上与えられる形状変化」がなされて
いても構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」には変わらな
いということを,控訴人らは主張していると思われる。
(イ)しかし,本件明細書における「一部形状の変化」という文言を普通
に解釈すれば,円盤状半導体ウェーハまたは研磨面が何らかの理由によ
り形状が変化したことを指すと解釈するのが自然であって,いかに強引
に解釈しても,「一部形状の変化」を,ウェーハの外周面取部が全周に
おいては研磨面と当接しないような設計をされた研磨面等の形状を指す
と解釈することは,あり得ない。
しかも,本件明細書に記載されている本件発明の実施例や発明の詳細
な説明にも,研磨面に施された研磨剤の流通通路等を除いて,ウェーハ
の外周の面取部が全周においては研磨面と当接しないように設計されて
いる構成は,まったく挙げられていないばかりか,示唆すらもされてい
ない。
また,控訴人らの主張するような解釈を前提とすると,ウェーハの外
周面取部が全周において研磨面と当接しないような形状にて設計された
研磨面,例えば,ウェーハの外周面取部と研磨面との当接割合がほぼ0
%にしかならないように設計された研磨面であったとしても,それは
「設計上与えられる形状変化」にすぎない以上「一部形状の変化」に含
まれることになって,結局,構成要件Aの「ほぼ全周において押し当て
た状態」に該当することになってしまう。
このような解釈が,構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状
態」という文言の通常の意味を超える解釈であるばかりか,上記のよう
に同文言を無意味なものとし本件特許の特許請求の範囲を不当に拡張す
るような解釈であることから,控訴人らの主張は妥当でない。
(ウ)したがって,本件明細書の「一部形状の変化」という文言を,「設
計上与えられる形状変化」なる概念のみを指すものと解釈すべきであ
るとする控訴人らの主張は誤りであり,それを前提とする控訴人らに
よる構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」の解釈も誤り
である。
イ構成要件Aの「ほぼ全周」の解釈
本件発明の目的効果が,加工時の局部欠損を防止できること等にあるか
ら,本件特許発明の構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」と
は,かかる目的効果を得られる程度にウェーハの外周面取部の周全体のう
ちのおおかたの部分において押し当てた状態であれば良いとの控訴人らの
原審における主張に対し,原判決は,かかる主張は,本件特許発明の目的
効果を得られる構成であることを抽象的に述べたにすぎず,それだけでは
そのような目的効果を得るためにとるべき構成を具体的に示したことには
ならないとして,かかる控訴人らの原審における主張を退けた。
上記のような原判決の判断は正当であるが,控訴人らは,「ほぼ全周」
の解釈について,全周にわたりバランスがとれていれば当接割合とは関係
がないなどと主張する。
かかる主張の趣旨は必ずしも明確でないが,少なくとも,その趣旨がど
うであれ,研磨面の形状,研磨面とウェーハの当接割合等に関し,具体的
にいかなる構成を採れば上記のような目的効果が得られるのか,本件明細
書の記載からはまったく不明である。また,バランスがとれていれば当接
割合に関係なく「ほぼ全周」に当たるというのであれば,ウェーハの外周
面取部が研磨面と10%しか当接していなくても,バランスがとれていれ
さえすればこれが「ほぼ全周」に該当すると解釈することになるところ,
かかる解釈が「ほぼ全周」という文言の意味からあまりにかけ離れ不適当
であることは明らかである。
したがって,構成要件Aの「ほぼ全周」の解釈としては,控訴人らが主
張するような上記解釈は採り得ないことには変わりなく,上記控訴人らの
主張は失当である。
(3)本件特許発明と被告装置との対比判断
ア被告装置における間座
控訴人らは,研磨面の回転軸とウェーハの回転軸との角度を定める間座
に,研磨台がボルトで固定されていることから,かかる角度を任意に変更
することができないとする原判決の判示に対し,控訴人らは,ボルトを用
いる固定は,解体・組立の自由度を与えるための設計であると主張する。
しかし,間座をボルトで研磨台に固定しているのは,上記角度を任意に
変更できないようにするためであることはいうまでもないが,それにもか
かわらず任意に角度を変更できるとするのであれば,いかなる方法がある
のか疑問である。
したがって,上記控訴人らの主張は誤りである。
イ被告装置の解釈
原判決が,被告装置においてウェーハが研磨面からせり出す構成を採っ
ていることの有効性に関し,乙2特許の明細書の記載に即して判断してい
ることに対して,控訴人らは,乙2特許の明細書には,ウェーハの研磨
中,ウェーハが研磨面から常時せり出している構成のみが記載されている
わけではないとして,このことを前提とした主張を展開する。
控訴人らの主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,乙2特許の明細書に
ウェーハが研磨面から常時せり出している構成のみが記載されているわけ
ではないとしても,ただそれだけに止まることであり,それ以上に,被告
装置においてウェーハが研磨面から常時せり出している構成が採られてい
ることを否定する根拠とはならないはずである。控訴人らの主張は失当で
ある。
ウ当接割合の計算
(ア)ウェーハと研磨面との位置関係図(甲15の1∼3)
控訴人らは,研磨台に研磨パッドを貼着した場合に研磨面の高さが
4.93mmとなる研磨リングを被告装置に使用した場合における,
ウェーハと研磨面との当接割合が100%,つまり,ウェーハの外周面
取部が全周において研磨面と接触する旨主張し,その証拠として甲15
の1∼3を提出する。
しかし甲15の3に記載されている図2を検討すると,ウェーハの両
端が接触しているのは,上段,中段,下段と3段に分かれている研磨面
の上段,下段である。ここで,研磨リングの上段・下段は球内面形状で
はなく,その部分に貼着されている研磨面も当然球内面形状をなしてい
ない。
とすれば,仮に甲15に記載されているような態様にてウェーハと研
磨面とが当接しているとしても,ウェーハが球内面形状をなしていない
研磨面にも当接してしまっている以上,上記使用が,「研磨面」は「円
盤状半導体ウェーハの外周面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲
率半径の球内面形状であ」るという本件発明の構成要件を充足しないの
は明らかである。
なお,上記の本件発明の構成要件の研磨面が球内面形状をなすとは,
具体的にはウェーハが当接する前の研磨面が球内面形状をなしているこ
とを指し,甲15の3に記載されている図のうちウェーハが研磨パッド
に沈み込んでいる状態は明らかに含まないというべきである。
さらにいえば,そもそも,被告装置において,甲15の3に記載され
ている態様でウェーハを研磨パッドに沈み込ませて研磨することはあり
えない。なぜなら,かかる状態でウェーハを研磨すると,ウェーハの外
周面取部のみならず,本来研磨すべきではないウェーハの研磨パッドに
沈み込んだ部分までもが研磨されてしまい,ウェーハとして使用するこ
とができなくなり,研磨の目的が達成されなくなるからである。
したがって,研磨面の高さが4.93mmとなる研磨リングを用いた
場合,被告装置において,ウェーハの外周面取部が研磨面と全周におい
て当接する旨の上記控訴人らの主張は誤りである。
(イ)控訴人ら作成に係る実験報告書(甲16)
控訴人らは,研磨面の高さが4.93mmとなる研磨リングを用いた
場合,ウェーハの外周面取部が全周において研磨面と接触することが,
実験により示されたとして,実験報告書(甲16)を提出する。
しかし,ウェーハは,研磨リングの上段・下段に貼着された球内面形
状をなしていない研磨面にも接触しているところ,前述したのと同様,
かかる態様による使用が,「研磨面」は「円盤状半導体ウェーハの外周
面取部をほぼ全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形状であ」
るという本件発明の構成要件を充足しないのは明らかである。
そもそも,同実験報告書に記載されているような実験が,実際に被告
装置におけるウェーハの研磨の条件,たとえば,研磨リングの中段の曲
率半径が214mmとなっているか,研磨パッドが実際に被告装置にお
いて使用されるものなのか等といったような様々な条件が不明であり,
この一事からしても上記実験報告書の証拠価値はないに等しい。
(ウ)研磨パッドの磨耗,ウェーハの押圧状態に関する控訴人らの主張
ウェーハが研磨される際,研磨パッドの磨耗及び押圧状態が控訴人ら
の主張するような態様にて,被告装置が使用されているとは認めるに足
りる証拠は何ら存在しない旨,原判決において判示されていることに対
し,控訴人らは,原審において甲12,13の1∼6等に基づく主張・
立証をしているとして,かかる原判決の判示を不当であると主張し,ま
た,新たに甲17(ウエハ研磨装置メーカ向け営業媒体)を提出する。
しかし,甲13の3,13の6の図1−2によると,ウェーハが接触
しているのは,球内面形状をなしていない研磨面の上段および下段部分
である。
したがって,甲15について主張したのと同様,甲13に示される状
態での被告装置の使用が,ウェーハの外周面取部が全周において研磨面
と接触するという本件発明の構成要件を充足しないことは明らかであ
り,甲13を根拠として原判決を不当であるとする控訴人らの主張は失
当というほかない。
また,控訴人らによる甲12,13の1∼6等に基づく主張・立証そ
のもの自体,控訴人らの都合の良い仮定に基づくものであり,何ら検討
に値しないものである。さらにいえば,甲17は,被控訴人ではないシ
ステム精工の装置に関する資料であるにすぎず,被告装置の内容を示し
ている資料か不明である。
したがって,この点からしても,甲13等に基づく控訴人らの上記主
張は誤りである。
(エ)当接割合の変化
仮に,実際に,被告装置が控訴人らの主張するような研磨パッドの磨
耗および押圧状態で使用されることがあったとしても,その磨耗のいか
んによって,当初はウェーハの外周面取部がその全周において接すると
いう構成要件Aが充足されず本件特許発明の技術的範囲に属していなか
ったものが,後に突如として本件特許発明の技術的範囲に属することに
なるのは不合理であると原判決が判示したのに対し,控訴人らは,被告
装置を使用した「後の段階」においては,被告方法が本件発明の技術的
範囲に属し,本件特許権の侵害を構成する旨主張する。
そもそも控訴人らが主張するような研磨パッドの磨耗および押圧状態
で被告装置が使用されることについて,控訴人らは何ら主張・立証して
いないに等しく,また,仮に,控訴人らが主張するような態様において
被告装置が使用されたとしても,それが,ウェーハの外周面取部が全周
において研磨面と接触するという本件発明の構成要件を充足しないこと
は明らかであるから,控訴人らの上記主張は前提を欠くものである。
仮にこの点はおくとしても,原判決の判示するとおり,被告装置の研
磨パッドが磨耗していない状態においては本件特許の構成要件が充足さ
れていないにもかかわらず,その後,仮に,研磨パッドの磨耗が進むこ
とにより,ウェーハの外周面取部が全周において研磨面に当接するとし
ても,何故に,被告装置の使用が本件発明の構成要件を充足することに
なるといえるのか不可解である。
万が一,被控訴人の顧客において研磨パッドがある程度磨耗した状態
で被告装置が使用された場合を指して,被告装置の使用が本件発明の構
成要件を充足すると評価されても,このような被告装置の製造・販売
は,本件特許権の間接侵害には該当しない。
なぜなら,少なくとも研磨パッドがそれほど磨耗していない場合にお
いては,被告装置は,その本来の用途を果たすウェーハの外周面取部の
一部を研磨面の上下段からせり出させる方法でウェーハを研磨するもの
である以上,被告装置の製造,販売は,前記改正前特許法101条3号
の「その方法の使用にのみ用いる物の生産,譲渡」といえないからであ
る。
また,本件発明の構成要件を充足するような方法でウェーハを研磨す
る装置を製造するのであれば,最初から,つまり,研磨パッドを貼着し
たばかりの状態においてウェーハの外周面取部がその全周において研磨
面と当接するような装置を製造すれば足り,被告装置のようにウェーハ
の外周面取部が全周において研磨面と接触するわけではなく,ウェーハ
が研磨面からせり出している装置を製造する必要はない以上,被告装置
の製造・販売は,上記改正前特許法101条4号の「その方法の使用に
用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」とは
到底いえないからである。この点について,仮に,控訴人らが主張する
ような研磨パッドの磨耗状態において被告装置が使用される場合でも,
本来研磨すべきではないウェーハの外周面取部以外の部分も研磨してし
まうことになって,被告装置の使用目的が達成されなくなるから,なお
さら,被告装置の製造・販売は,「その方法の使用に用いる物…であっ
てその発明による課題の解決に不可欠なもの」とはいえないのである。
(オ)研磨面の球内面形状の意義
原判決が,研磨面が球内面形状をなすという本件発明の構成要件は,
ウェーハが当接する前の状態において,研磨面が球内面形状であること
を意味すると判示していることに対し,控訴人らは,ウェーハを研磨面
に押し当てた状態において判断すべきであると主張する。
しかし,本件発明における研磨面を球内面形状とする技術的意義が,
ウェーハを研磨面に当接させるのみでウェーハの全周が研磨面に当たる
ようにし両者の位置設定を簡素化することにもあることからすれば,研
磨面は,ウェーハが当接する前から球内面形状をなしていなければなら
ない。
また,本件発明の実施例として本件明細書に列挙されている図中に示
される研磨面には,ウェーハが研磨パッドに沈み込んでいる状態が一切
記載されていない。
さらにいえば,本件明細書には,本件特許発明の実施例の説明とし
て,「研磨面の形状が球面であると,セット時もしくはミラー面取研磨
中に,円盤状半導体ウェーハ23の位置がずれたとしても,面取部のミ
ラー面取加工には影響がな(い)」という説明がなされている(甲
2)。仮に控訴人らが主張するとおり,ウェーハが研磨パッドに沈み込
んでいる状態で被告装置が使用されていたとしても,この場合,ウェー
ハの位置がずれたら,それこそ,ウェーハの研磨パッドへの沈み込みの
程度,ひいてはウェーハの外周面取部の研磨面の接触状態が直ちに変わ
ってしまうのであるから,「面取部のミラー面取加工には影響がな
(い)」とはいえない。
したがって,ウェーハを研磨面に押し当てた状態にて,研磨面が球内
面形状をなすという本件発明の構成要件を充足するか判断すべきである
とする控訴人らの主張は誤りである。
(カ)被告装置の図および同装置を紹介するウェブサイト(甲3の1,
8,14)
控訴人らは,被告装置を説明したカタログ(甲3の1)および被告装
置を紹介するウェブサイト上の動画をプリントアウトしたもの(甲8,
14)を根拠に,被告装置においては,ウェーハの外周面取部が全周に
おいて研磨面に接触しているはずであると主張しているものと思われ
る。
しかし,甲3の1に示される図は模式図にすぎず被告装置の構造を正
確に示したものではない。このことは,被告装置においてはウェーハの
回転軸と研磨面の回転軸とが一致していないにもかかわらず(この点は
控訴人らも争わない。),同図には,それらの軸が一致して記載されて
いることからも明らかである。この点,控訴人らは,被告装置における
両軸のなす角度は2度であるところ,このような小さな角度を図面上で
表現することは困難であったから表現されなかったにすぎない,それゆ
え,やはり同図は被告装置の実態を示すものであることには変わりない
と主張するが,憶測に基づく主張にすぎず,検討に値しない。
また,甲8,14にいたっては,ウェーハと研磨面との接触状態がど
のようなものかということすらも視認できない。
したがって,被告装置を紹介するカタログに記載された図等を根拠と
する上記控訴人らの主張は誤りである。
(4)均等論
ア原判決は,本件特許発明の本質的部分は,研磨面にウェーハを押し当て
ようとする力をウェーハの外周面取部のほぼ全域を使用して支えるように
したことにあるのであるから,この点において相違する被告装置は,均等
論によっても,本件特許発明の技術的範囲に属しないとした。かかる原判
決の判示は正当であるところ,同判示について,控訴人らは,本件発明の
本質的部分に係る部分は,本件発明の課題の解決手段における特徴的原理
を確定した上で判断すべきであるとして,上記原判決は本件特許発明の本
質的部分の認定を誤ったと縷々主張する。
イまず,控訴人らは,本件発明の出願時よりも以前に,従来技術として,
ウェーハの面取部を研磨面に当接させてミラー面取加工する技術,ウェー
ハの面取部を全周において研磨面に押し付けて面取加工する技術が存在し
たことを理由に,本件特許発明の構成要件は本件特許発明の出願時に周知
であったから,ウェーハの外周面取部をほぼ全周において研磨面に押し付
けた状態で研磨するという本件特許発明の構成要件Aは,本件発明の課題
解決手段における特徴的原理とはなり得ないと主張する。
しかし,控訴人らの主張は,本件特許発明の構成要件Aに相当するよう
な技術が本件特許発明の出願前に存在したことを理由(正確に言えば,控
訴人らは,構成要件Aそのものを構成要件とする従来技術を挙げてすらい
ない。)に,短絡的に,構成要件Aは本件特許発明の特徴的原理ではない
としているのであって,誤りである。
すなわち,発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏
するものであることに照らせば,対象製品との相違が特許発明における本
質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては,単に特許請
求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではないところ,
控訴人らは,本件発明が種々の構成要件によって作用効果が得られること
を無視し,本件特許発明の構成の一部である構成要件Aのみに該当する部
分を形式的に殊更に取り上げて,上記主張を展開するという過ちを犯して
いる。
ウまた,控訴人らは,本件特許請求の範囲において,構成要件Aの末尾が
「…であって」と表現されていることを理由に,構成要件Aを本件発明の
本質的部分になり得ないと主張するところ,およそ,特許請求の範囲の形
式的な表現のみで特許発明の本質的部分を判断し得ない以上,かかる控訴
人らの主張は誤りである。
エそして控訴人らは,本件特許に係る平成14年11月15日付け意見書
(乙4)の記載,本件明細書の記載の一部のみを取り出して,本件特許発
明の本質的部分は構成要件Aではなくして構成要件BないしDにあると主
張する。
しかし,本件発明の構成要件Aに係る部分(ウェーハの外周の面取部を
ほぼ全周において押し当てた状態)を除いた,構成要件BないしDのみで
は,ウェーハの回転軸と研磨面との関係等をいうのみで,研磨面とウェー
ハとの位置関係を何ら特定しておらず,ウェーハの外周面取部のごく一部
(例えば,全周の10%)しか研磨面に当接しない構成まで含まれること
になる。そうであるところ,かかる場合にまで,本件発明の「研磨面に円
盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を円盤状半導体ウェーハの外
周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えるようにしたもので,ミ
ラー面取加工の速度に最も必要な押し付け力を高めても,円盤状半導体
ウェーハに局部的な荷重が加わらず,加工時の局部欠損を防止でき,延い
ては円盤状半導体ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を飛躍的に高め
る」(甲2段落【0035】)という作用効果は得られない。
さらにいえば,ウェーハの外周の面取部をほぼ全周において押し当てた
状態という構成要件Aに係る部分を除いた,構成要件BないしDでは,実
際に,ウェーハの外周面取部を研磨することはできない。
すなわち,本件発明においては,「少なくとも前記研磨面をその回転軸
で強制的に回転させるようにした」を構成要件としているところ(構成要
件E),ウェーハは回転させず研磨面のみを回転させた場合,本件特許発
明から,ウェーハの外周面取部を全周において研磨面に押し当てるという
部分を除くと,回転しないウェーハの外周面取部の中に,研磨面のみの回
転中,常に研磨面に接していない箇所が生じる結果,ウェーハを研磨し得
なくなるのである。
したがって,本件発明の本質的部分は構成要件Aではなくして構成要件
BないしDであるとした控訴人らの主張は誤りである。
(5)被告装置の使用と乙2特許に係る特許発明の実施
控訴人らは,新たに甲20,21を挙げつつ,被告装置の使用が乙2特許
に係る特許発明を実施するものであるとの被控訴人の主張は虚偽であると縷
々主張する。
かかる控訴人らの主張は,おそらく,被告装置を内蔵するE−200/3
00は乙2特許の出願前に販売されたところ,被告装置が乙2特許に係る特
許発明を実施したものであれば,乙2特許はE−200/300の販売によ
り公知の状態になってしまい無効理由を有することになってしまうところ,
そのような,公知の状態となった製品に関する特許発明を,その製品発売後
に出願することはあり得ないという点に集約されると思われる。
しかし,ある特許の出願前に,同特許に係る特許発明を実施することは十
分にあり得ることであり,それを否定することを前提に展開された上記控訴
人らの主張は論理の飛躍も甚だしいといわざるを得ない。
そもそも,乙2特許に係る特許発明は,E−200/300という製品の
内部において使用されるものであるから,当該製品を破壊しない限り,その
発明の内容を知ることはできない。とすればE−200/300が乙2特許
の出願前に販売されていたとしても,乙2特許は,その発明が公知・公用
(特許法29条1項1,2号)になったとして新規性を喪失することはない
のであって,無効理由(特許法123条1項2号)を有することにはならな
い。
したがって,被告装置の使用が乙2特許に係る特許発明を実施するもので
あるとの被控訴人の主張は虚偽であると上記主張は,誤りかつ不当である。
(6)間接侵害および損害額について
間接侵害の成否および損害額の点に関する控訴人らの主張は明らかに失当
であり,被控訴人としては更なる反論を必要としない。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの被控訴人に対する本訴請求は棄却すべきものと判断
する。その理由は,以下のとおり付加するほか,原判決記載のとおりであるか
らこれを引用する。
2構成要件Aの「ほぼ全周において押し当てた状態」について
(1)本件明細書(特許公報,甲2)には,以下の記載がある(下線は本判決
で付記)。
a特許請求の範囲
【請求項1】凹形状をなす研磨面に対して,円盤状半導体ウェーハの外
周の面取部をほぼ全周において押し当てた状態で,この研磨面と円盤状
半導体ウェーハとの相対的回転を与えることにより,円盤状半導体
ウェーハの外周の面取部のミラー面取加工を行うようにしたミラー面取
加工方法であって,
前記凹形状をなす研磨面が,円盤状半導体ウェーハの外周面取部をほぼ
全周において押し当て可能な曲率半径の球内面形状であり,この球内面
の中心点に円盤状半導体ウェーハの回転軸を一致させ,かつ研磨面の回
転軸と前記円盤状半導体ウェーハの回転軸とを不一致とさせ,少なくと
も前記研磨面をその回転軸で強制的に回転させるようにしたことを特徴
とする円盤状半導体ウェーハ面取部のミラー面取加工方法。
b発明の詳細な説明
・「【発明が解決しようとする課題】このため,図7,図8に示される
ように回転ドラム01の研磨布06に対して円盤状の半導体ウェーハ0
3の面取部07が上下に線接触(厳密には研磨布06の弾力で所定の面
積で接触)状態でミラー面取加工が行われるため,円盤状の半導体
ウェーハ03の片面の面取部07をミラー面取加工するには時間がかか
ってしまう。そこで例えば加圧用ウェイト04を重くし半導体ウェーハ
03を回転ドラム01に強く押し付けることにより,加圧時間は短縮で
きるのであるが,半導体ウェーハ03は薄い肉厚でかつ脆性が高いた
め,吸着チャック02の外周に位置する半導体ウェーハ03端部に過度
な集中荷重が加わると,一部が欠損することになるため,ミラー面取加
工速度を高めることには限界がある。」(段落【0005】)
・「本発明は,上記問題点に着目してなされたもので,硬脆材である円
盤状の半導体ウェーハの外周欠損の可能性を低減させつつ,この面取部
を極めて短時間にミラー面取加工できる方法を提供することを目的とし
ている。」(段落【0006】)
・「…この特徴を有する本発明のミラー面取加工方法によれば,研磨面
に円盤状半導体ウェーハを押し当てようとする力を円盤状半導体ウェー
ハの外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えるようにしたも
ので,ミラー面取加工の速度に最も必要な押し付け力を高めても,円盤
状半導体ウェーハに局部的な荷重が加わらず,加工時の局部欠損を防止
でき,延いては円盤状半導体ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を
飛躍的に高めるものである。この場合,ほぼ全周とは,円盤状半導体
ウェーハや研磨面に一部の切欠きが存在していたり,それらの一部形状
の変化により100%全て当接しなければならないものではないことを
意味している。…」(段落【0007】)
・「図1∼図3において第1の実施の態様を説明すると,1はベッド台
であり,このベッド台1の下方から延びる軸受2から軸受を介して回転
軸3が上方に延設され,この回転軸3の上端には凹状をなす研磨面を構
成するボウル状の研磨台4が固定されている。さらにこの研磨台4の凹
部内面は所定高さの点Pを中心とした球面であり,その凹部内面には例
えば不織布等の研磨パッド5が固定されている。詳しくは図2に示され
るように所定間隔で溝6が上方に延びており,これは後述する研磨剤の
流通通路となるが,この溝6によらずとも研磨剤はウェーハ23の研磨
に用いられながら研磨台4の回転による遠心力により研磨台4の縁から
排出されるようにしてもよい。」(段落【0013】)
・「また,研磨パッド5に円盤状半導体ウェーハ23を押し当てようと
する力が円盤状半導体ウェーハ23の外周部に位置する面取部のほぼ全
域を使用して支えられるため,ミラー面取加工の速度に最も必要な押し
付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハ23に局部的な荷重が加わら
ず,加工時の局部欠損を防止できる。また,延いては円盤状半導体
ウェーハの面取部のミラー面取加工速度を飛躍的に高めることになる。
さらに,研磨面の形状が球面であると,セット時もしくはミラー面取研
磨中に,円盤状半導体ウェーハ23の位置がずれたとしても,面取部の
ミラー面取加工には影響がなく,常時面取部の傾斜角を維持した優れた
ミラー面取加工が可能となる。」(段落【0022】)
c図面
【図2】
(2)上記によれば,本件発明は,硬脆材である半導体ウェーハの面取加工に
際しての外周欠損の可能性を低減し,かつ極めて短時間に面取加工を行う方
法を提供することを目的としている(段落【0006】)。そして,構成要
件Aの面取部を「ほぼ全周」において押し当てるとの意味については,発明
の詳細な説明にその記載があり,これによればウェーハや研磨面に一部の切
欠きが存在していたり,それらの一部形状の変化により100%全て当接し
なければならないものではないとしている(段落【0007】の下線部
分)。このうち研磨面の一部の切欠きについては,研磨面は本来「凹形状」
であるところ(段落【0007】),研磨台から排出される研磨剤の流通経
路となる研磨面上の溝6を設けることについての記載が発明の詳細な説明中
にあり(段落【0013】),また図面(図2)には,上記研磨面上に設け
られた複数の溝6が記載され,この溝6はウェーハとは当接しない様子が看
て取れる。
一方,ウェーハの切欠きに関しては本件明細書に具体的な記載はないもの
の,上記のとおり本件発明がウェーハの面取加工に際しての局部欠損を防止
し,加工速度を高めることを目的として研磨面にウェーハを押しつけるとし
ていること,ウェーハの形状を「円盤状」としていること(段落【0007
】),及び円盤状のウェーハの位置決めのためその一部に切欠きを設けるこ
とが周知であったと認められること(甲3の1,甲9,甲24の1,2,弁論の
全趣旨)等からすると,「ほぼ全周において押し当てた状態」とは,ウェー
ハの位置決め用や研磨面上の研磨剤の流通経路となる溝等に例示される切欠
き,すなわち円盤状(ウェーハ)や凹形状(研磨面)の形態と比した場合に
一部形状の変化と表現することのできる,ウェーハや研磨面に設けられた切
欠きや溝等の存在により,ウェーハと研磨面が当接しないこととなる部分を
除いた部分については全周にわたり当接することを意味すると解すべきであ
る。そうすると,被告装置のように研磨を行う際にあらかじめウェーハの周
と研磨面とが当接しない部分が設けられるものはこれには含まれないと解さ
れる。
(3)控訴人らの主張に対する判断
ア(ア)控訴人らは,「ほぼ全周において押し当てた状態」との意味は,本
件明細書(甲2)の段落【0022】に「ミラー面取加工の速度に最も
必要な押し付け力を高めても,円盤状半導体ウェーハ23に局部的な荷
重が加わらず,加工時の局部欠損を防止できる」との目的効果が得られ
る程度にウェーハの外周面面取部の周全体のうちおおかたの部分におい
て押し当てた状態であればよいと主張する。
(イ)しかし,「ほぼ全周」の意義については,上記のとおり発明の詳細
な説明(段落【0007】下線部分)に明確な記載があり,その解釈に
ついては上記(2)で既に検討したとおりである。しかし,控訴人らの主
張する,加工時の欠損を防止するとの目的を達成できる程度にウェーハ
の周全体のうちのおおかたの部分において押し当てた状態であればよい
とする点については,本件明細書(甲2)には記載も示唆もされていな
い。
なるほど本件明細書の段落【0022】には控訴人ら指摘の記載があ
り,これはウェーハの欠損を防止できるとの本件発明の効果について言
及している。しかし,控訴人ら主張の「おおかたの部分」において押し
当てた状態であればよいとすることと関連する記載はないのみならず,
かえって控訴人ら指摘箇所の前の部分には「円盤状半導体ウェーハ23
の外周部に位置する面取部のほぼ全域を使用して支えられるため」(段
落【0022】,本件明細書3頁右欄10行∼12行)と記載されてい
るところからすれば,控訴人ら指摘の記載も結局ウェーハのほぼ全周を
当接させることを前提としたものと解される。控訴人らの主張は根拠を
欠くというほかない。
(ウ)加えて,控訴人らによる特許庁長官宛て平成14年7月15日受付
け「早期審査に関する事情説明書」(乙21)には,「本発明は凹形状
をなす半球面の研磨面を使用することによりウェハ外周部をほぼ全周に
おいて研磨することができる。従来技術の大部分がウェハ外周の一点に
のみ加圧をかけ研磨する方法に対し,本発明は外周全体を同時に研磨す
ることに有用性を見出したものである。…ウェハ外周部の研磨につい
て,本発明と先行技術文献2,3とを比較すると,この文献2及び文献
3の面取り装置ではウェハ外周部の狭い範囲にしか加圧がかけられず,
本発明はウェハ外周部全体に加圧できるために外周部の欠損を防止する
ことができ,研磨加工時間の短縮が可能となる。…上述の技術は,先行
技術文献には見出せないものであるから,進歩性を有する。」との記載
がある。
これによれば,控訴人らは,本件特許権の審査段階において,本件発
明はウェーハの外周全体を加圧・研磨するものであることを明確にして
いたものであり,控訴人らの本件訴訟における上記「おおかたの部分に
おいて当接すればよい」旨の主張は上記審査段階における主張とも矛盾
するものである。
(エ)以上の検討によれば,「ほぼ全周において押し当てた状態」との意
味につき「おおかたの部分において当接すればよい」とする控訴人らの
主張は,採用できないというべきである。
イまた控訴人らは,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明に記載された
上記「一部形状の変化」(段落【0007】)には,「半導体ウェーハと
研磨面の組合せにより生じる一部形状の変化」が含まれるから,これによ
れば被告方法は本件発明の構成要件Aを充足するとも主張するが,上記
(2)のとおり,一部形状の変化はウェーハ及び研磨面自体に生じた形状変
化をいうと解すべきであり,ウェーハと研磨面との組合せによりこれらの
一部分が当接しないこととなる場合はこれに含まれるものではない。
したがって,控訴人らの主張する「組合せによる一部形状の変化」につ
いては本件明細書(甲2)には何らの記載も示唆もされておらず,明細書
に基づかない主張であって根拠を欠く。
ウまた控訴人らは,一部形状の変化には経時的な変化と設計上与えられる
形状変化とが考えられるところ,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明
に記載された「一部形状の変化」(段落【0007】)とは,経時的変化
を除く設計上与えられる形状変化と解すべきであり,被告装置における
ウェーハの非当接領域は,球面の上部と下部を切り欠くという研磨面自体
の一部形状の変化によって生じているから,被告方法は本件発明の構成要
件Aを充足するとも主張する。
しかし,一部形状の変化につき本件明細書に例示されている溝6(段落
【0013】)が研磨面の一部に細い溝として示されている(上記【図2
】参照)ことに鑑みると,研磨面の上部と下部を切り欠くことまで,本来
凹形状とされている研磨面自体の一部形状の変化に示唆されているとする
には飛躍がある。したがって,控訴人らの主張は採用することができな
い。
エさらに控訴人らは,本件発明は従来技術に比し欠損防止の程度の押し付
け力でも加工速度の点で有利であり,また研磨面の溝が多数本になること
も想定されるから,全周にわたりバランスがとれていれば当接割合には関
係なく「ほぼ全周」との要件を満たすとも主張するが,上記のとおり「ほ
ぼ全周」の意味については発明の詳細な説明(段落【0007】)に記載
され,その解釈については上記(2)のとおりであって,全周にわたりバラ
ンスがとれていればウェーハと研磨面との当接割合に関係ないとする主張
については,本件明細書の裏付けを欠き,到底採用することができないと
いうべきである。
(4)構成要件Aについての被告方法との対比についての判断
ア上記の検討によれば,本件発明の構成要件Aの「ほぼ全周において押し
当てた状態」については,ウェーハや研磨面に設けられた切欠きや溝等の
存在により,ウェーハと研磨面が当接しないこととなる部分を除いた部分
については全周にわたり当接することを意味すると解されるところ,被告
方法ではこれら切欠きや溝等によらず,あらかじめ円盤状ウェーハと凹面
状の研磨面とが当接しない領域が存在することから,この要件を満たさな
いことになる(原判決49頁3行∼63頁10行に記載のとおり)。
イ(ア)控訴人らは,原判決が「研磨台は支持部材にボルトで頑丈に固定さ
れているため,任意に角度を変更することはできない。」(49頁下1
行∼50頁2行),「被告装置が,上記角度の設定を任意に選択,変更
する機能を有するなどの事情も認められない。」(50頁8行∼10
行)とした点は誤りであり,研磨台の固定する間座の角度を変えること
は可能であると主張する。
なるほど,間座の角度自体は間座を交換するなどにより変更をするこ
とは可能であるが,間座の傾斜につき証拠上明らか(乙9,10,12
∼14)となっている傾斜2度以外の間座が被告装置において用いられ
ていることを窺わせる証拠も存しないから,控訴人らの主張は採用する
ことができない。
(イ)また控訴人らは,原判決には被告装置の解釈についての誤りがある
とし,被控訴人が許諾を受け実施しているとするシステム精工の特許
(特許第3445237号,以下「システム精工特許」という。特許公
報〔乙2〕)の明細書の記載を引用してオーバーハング部を設けること
の意義を認定したのは誤りであり,もしこれを引用するのであれば,全
周研磨加工,オーバーハング部をゼロとする実施等の総合的な効果をも
認定すべきであると主張する。
しかし,システム精工特許は発明の名称を「ワーク外周の研磨方法お
よび研磨装置」とし,被控訴人はこの特許権についてシステム精工から
許諾を受けて実施しているとするところ,原判決(51頁6行∼53頁
5行)は,被告装置においてウェーハの外周の面取部の一部を研磨面2
4の大径部26及び小径部27からそれぞれせり出すようにするとの
オーバーハング部を設けこととした意義について,システム精工特許の
明細書には明確な記載があることを根拠にその記載を引用したものであ
って,被告装置についての誤った解釈を前提としたものではなく,その
認定も相当である。
そして,システム精工特許について全周研磨加工,オーバーハング部
をゼロとする実施等について検討する必要性は認められないから,控訴
人らの主張は採用することができない。
(ウ)また控訴人らは,被告装置につき,計算結果に基づく認定に誤りが
あると縷々主張し,その具体的な内容としては,①原告(控訴人)らの
計算につき被告装置の研磨パッドの厚みを含まない研磨面の高さを前提
に計算を行ったところ原判決はこれを前提を欠くものとして排斥した
が,当審において研磨パッドの厚みを含むものとして計算した甲15の
1∼3(図面),甲16(実験報告書)によれば,被告装置における
ウェーハの当接状況は明らかである,②原判決は,研磨による研磨面の
摩耗及びウェーハの押し付け力を考慮しておらず不当である,③被告製
品カタログ(甲3の1)によれば被告装置はウェーハの全周を研磨面に
押しつけていることが明らかであり,これを排斥した原判決は不当であ
る,とするものである。
このうち,上記③の被告製品のカタログについては,控訴人らの当審
における主張において敷衍して主張するとするので,下記4において判
断する。
(エ)aそこでまず上記①の控訴人らの提出する甲15の1∼3,甲16
につき検討するに,控訴人らは,本件発明の「研磨面」は,半導体
ウェーハが当接し,ウェーハの面取部が研磨される研磨パッドの面を
いうとした上で,被控訴人の研磨リングに研磨パッド(厚さ1.3m
m)が貼着された状態における中段部の高さを前提に再度計算すると
して,当審において甲15の1∼3(いずれも2007年〔平成19
年〕10月22日,秋庭英樹作成。乙20〔図番FS200D2△〕1
をもとにCADを用いて作成したものとする)を提出し,うち甲15
の2にはウェーハが100%当接する様が示されているから,被告方
法は構成要件Aを充足すると主張する。
bそれらの内容は,甲15の1は「図1押付け力無し図(研磨パッ
ド厚1.3mm)」とし,接触割合を49.9%であるところ,甲1
5の2は「図2押し付け力有り図(研磨パッド厚1.3mm)」で
は研磨リングの中断に当接する部分のみならず,上段・下段に当接す
る部分も含めると接触割合が100%であるとするものである。
cまた甲16は「押当て部位に関する実験報告書」(平成19年11
月20日付け,丙ら作成)であり,被控訴人の提出した検乙3(直径
200mmのウェーハ用の研磨ドラム)に関する図面である上記乙2
0に基づきこの検乙3と同一のものを作成してこれを研磨リングとし
て使用した場合の押し当て部位を明らかにすることを目的としたもの
であるとするところ,そこには以下の記載がある。
「五実験の実施
1丙が,ハサミを使用して研磨パッドを研磨リングの形状に合
わせて19枚に切り離し,研磨リングの中断部を中心に,上段部,
下段部にまたがる状態で,裏面に接着剤を付けた研磨パッドを貼着
した。

3丙が,ウエーハの下面外周に全周に亘って押し当て部位確認
用の白色塗料を塗布し,このウエーハを下方の研磨パッドに向けて
押し当てたところ,研磨パッドに向けて押し当てたところ,研磨パ
ッドの全周に亘って白色塗料が付着し…ウエーハ外周が全周に亘り
研磨パッドに接触した状態が確認できた。押し当て部位は,研磨パ
ッドに付着した白色塗料の痕跡から,上段部,下段部に貼着した研
磨パッドの範囲に及んでいることが判明したので,同範囲を明示す
ることにした…。尚,ウエーハ及び研磨リングに周方向の回転運動
は与えていない。」
d上記b,cによれば,甲15の1∼3,甲16のいずれも,研磨リ
ングの中段のみならず,上段,下段を含めてウェーハが当接する割合
が100%であるとするものである。
この点に関して控訴人らは,当審において,構成要件Aの「ほぼ全
周において押し当てた状態」に関しては,研磨リングの上段・下段が
ウェーハを当接する前の状態において球内面形状でなくても,そこに
貼着された研磨パッドにウェーハが沈み込み,甲15の2に示される
態様でウェーハと研磨面が当接している場合には,上記構成要件Aを
充足するとも主張する。
eしかし,被告装置における研磨面は,原判決61頁10行∼62頁
11行記載のとおり,研磨リングの上段及び下段の部分を含まない,
研磨リングの中段の部分のみを指すものである。また被告装置の研磨
リングについては,その中段部分のみR319.5(乙9,18),
R268.3(乙10,19),R214(乙13,20)等の当該
部分が球内面形状であることが証拠上示されているものの,研磨リン
グの上段部分,下段部分が球内面形状であると認めるべき証拠はな
く,控訴人らの主張は前提を欠くというべきである。
また,控訴人らは,研磨面自体が球内面形状でなくとも研磨パッド
へのウェーハの沈み込みにより甲15の2に示される態様で当接する
場合には構成要件Aを充足するとも主張するが,本件発明の特許請求
の範囲には,研磨面について「凹形状をなす研磨面が…球内面形状で
あり」とあるとおり,当接する研磨面自体が球内面形状である必要が
あるというべきであり,控訴人らの主張は裏付けを欠くものである。
加えて控訴人らの主張は,原審の第2回弁論準備手続期日(平成1
8年11月24日)において,「本件特許の請求項に言う『凹形状を
なす研磨面』とは,字義通り凹んだ形状の研磨面のことであり,『球
内面の中心』とは研磨面が完全に外接する球面の中心のことであ
る。」(上記手続調書)と主張していたことと矛盾し,採用すること
ができない。
(オ)次に控訴人らが,原判決は研磨面の研磨による摩耗,ウェーハの押
し付け力による影響を適切に考慮しておらず,これらによれば被告装置
は本件発明の構成要件Aを充足する旨主張する点(上記②)について
は,原判決の説示するとおり,被告装置はウェーハの面取部を「ほぼ全
周において押し当てた状態」で面取加工をするように設計されたものと
はいえないし,また使用による研磨パッドの摩耗等を考慮すること自体
が相当でない(59頁18行∼60頁11行)。
加えて,被告装置において研磨面のパッドの摩耗や押し付け力につい
て,控訴人らの主張のとおり行われているとの証拠はなく,当審におい
て控訴人らの提出する甲17(システム精工のメーカ向け営業媒体,平
成11年11月以降のものとする)においても,「装置仕様」の欄に
「外周チャンファー部」として「押し付け力1Kg∼15Kg」との
記載はあるものの,システム精工の装置についての可能な押し付け力の
範囲を示すのみで,被告装置の実際の押し付け力を示すものとはいえな
いから,控訴人らの主張は採用することができない。
(カ)さらに控訴人らは,前記甲15の1∼3(図面)によれば被告方法
は構成要件Aを充足するとも主張するが,上記のとおり甲15の1∼3
は被告方法が構成要件Aを充足することについての適切な証拠とはいえ
ず,他に被告方法が本件発明の構成要件Aを充足する旨の適切な証拠も
ないから,被告方法は本件発明の構成要件Aを充足するとはいえない。
3均等侵害の主張について
控訴人らは,本件発明における課題解決の特徴的原理は構成要件Aを除いた
BないしDにあり,仮に被告方法が本件発明の構成要件Aを充足しない場合で
あっても,被告方法は本件発明と均等なものとして本件特許を侵害すると主張
し,当審において,甲18(特開平6−120483号公報,発明の名称「半
導体装置の製造方法」,出願人日本インター株式会社,公開日平成6年4月
28日),甲19(特開昭57−96766号公報,発明の名称「半導体ウエ
ハエツジ研磨装置」,出願人三菱電機株式会社,公開日昭和57年6月16
日)を,凹形上研磨面に円盤状半導体ウェーハの面取部の全周を押し当てた状
態で面取加工する技術は周知であったことに関する追加の書証として提出す
る。
しかし,「研磨面に対し,円盤状半導体ウェーハの外周の面取部をほぼ全周
において押し当てた状態」との方法を含む構成要件Aは,本件発明の本質的部
分であることは明らかであって,その理由は原判決63頁11行∼66頁17
行の記載のとおりであるほか,控訴人らの主張は上記「早期審査に関する事情
説明書」(乙21)において,「従来技術の大部分がウェハ外周の一点にのみ
加圧をかけ研磨する方法に対し,本発明は外周全体を同時に研磨することに有
用性を見出したものである。…本発明はウェハ外周部全体に加圧できるために
外周部の欠損を防止することができ,研磨加工時間の短縮が可能となる。…上
述の技術は,先行技術文献には見出せないものであるから,進歩性を有す
る。」等としていたこととも矛盾するものであって,採用することができな
い。
4その他の控訴人らの主張について
控訴人らは,甲3の1のカタログ(訳文は甲24の1)には半導体ウェーハ
が球内面形状の研磨面に当接する様が描かれており,これは当審において提出
する甲21(「ElectronicJournal(エレクトロニックジャーナル)」200
6年〔平成18年〕2月号,株式会社電子ジャーナル,90,91頁)にも同
様の記載があること,甲8,14のとおり被告装置における研磨状況を示す画
像をウエブサイトから削除したことは被告装置においてはウェーハが研磨面の
全周に当接することを示唆するものでもある旨主張する。
しかし,上記甲3の1,甲21(A/B-CF)に示された「チャンファ」の
図は,本来存在するウェーハと研磨面との角度の差(傾き)すら表現されてい
ない極めて概略的な図であり,甲8のウエブサイトの記載についても同様に概
略的なものである。これらをもって被告装置のウェーハの研磨方法がこれらカ
タログ等に正確に記載されているとするには飛躍があり,これらが被控訴人の
E−200,E−300等に使用された研磨方法であるとする主張も推測にす
ぎないというべきである。控訴人らの主張は採用することができない。
5結論
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく控訴人
らの被控訴人に対する本訴請求は理由がなく,これと結論を同じくする原判
決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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