弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人下飯坂潤夫作成名義の控訴趣意書、同
補充書および同弁護人外三名共同作成名義の控訴趣意書(誤記訂正を含む。)、同
補充書に、これらに対する答弁は、検事古谷菊次作成名義の答弁書、同補充書にそ
れぞれ記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用し、これに対して当裁
判所は、つぎのように判断する。
 弁護人下飯坂潤夫外三名の控訴趣意第一中の訴訟手続の法令違反の論旨(同補充
第一の一を含む。)および弁護人下飯坂潤夫の控訴趣意第一(同補充を含む。)に
ついて。
 論旨は、要するに原裁判所が検察官の訴因変更請求を許可し、変更後の訴因につ
き有罪の言渡しをしたことをもつて訴訟手続の法令違反があると主張するものであ
る。
 よつて、まず、論旨指摘の原審訴訟手続の経過につき記録を調べてみるに、本件
公訴事実は、昭和三一年一二月二五日付起訴状によると、「被告株式会社Aは、
(中略)月賦販売の方法によつて繊維製品、家具、皮革製品、電気機具その他の販
売業を営むことを目的とするもの、被告人は、右会社の代表取締役でその業務全般
を統轄処理するものであるが、第一、被告人は、被告会社の前記業務に関し法人税
を逋脱することを企て、Bその他の従業員と意思を通じて、右会社の仕入、売上等
取引の一部を公表決算より脱漏せしめる等経理上の不正処理を行ない、昭和二九年
六月三〇日、東京都世田谷区若林町二七〇番地所在世田谷税務署において、同署々
長に対し、昭和二八年五月一日から同二九年四月三〇日までの間の事業年度におけ
る法人税の確定申告をするに際し、同事業年度における所得金額は、二〇、二三
七、九〇〇円、これに対する税額は八、四九九、九一八円であるのにかかわらず、
ことさらに所得金額を七、八九六、一〇〇円、これに対する税額を三、三一六、三
六〇円と過少に申告し、もつて不正の行為によつて差引き五、一八三、五五八円の
法人税を逋脱し、第二、被告会社は、その業務に関し、被告人において右第一のと
おり法人税を逋脱したものである」というにあり、検察官の本件訴因変更の請求
は、昭和四二年九月一六日付検察官の原裁判所に対する訴因変更請求書の記載によ
ると、右公訴事実中、所得金額「二〇、二三七、九〇〇円」とあるのを、「八一、
二五六、五二一円」に、税額「八、四九九、九一八円」とあるのを、「三四、一二
七、七三〇円」に、差引税額「五、一八三、五五八円」とあるのを、「三〇、八一
一、三七〇円」に各訂正したく訴因変更を請求するというものであり(なお、申告
所得金額「七、八九六、一〇〇円」とあるのを、「七、八九六、一四五円」と訂
正)、これに対し原裁判所は第一〇回(昭和四二年一一月二日)公判期日において
右請求書に基づく訴因変更許可決定を宣告したものであるが、その理由の骨子とす
るところは、右請求は逋脱所得、逋脱税額を拡張するもので、公訴事実の同一性を
害しないものであること、右請求の根拠は主として所得計算方法の変更、なかんづ
く売掛金に関する従前の実現主義基準を発生主義基準に変更することにあり、従つ
て立証関係も大部分は従前の資料を利用するというにあつて、審理経過等からして
も、右許可によりとくに訴訟が著しく遅延するとは認められないこと、本件差戻判
決は売掛金計算に関しいわゆる実現主義を前提とすべきか否かについては何ら触れ
るところがないから、発生主義基準に変更したからといつて、その拘束力に牴触す
ることにはならないし、右各主義の当否は最終的に裁判所が判断することであるか
ら、検察官がその一方を主張することは自由であるというにあることが明らかであ
る。
 そして、論旨は、これに対し、検察官の右訴因変更請求は、なるほど、これを形
式的表面的にみれば、公訴事実中の金額の変更請求に過ぎないもののようにみられ
るけれども、それは右原決定も触れているように、所得計算の原則の変更、すなわ
ち、売掛金計算につき実現主義から発生主義へ基準原則を変更したうえ、発生主義
による計算方式に基づいて金額を変更しようとしているものであり、しかも本件に
つき課税当局の行なつた課税および告発の行政処分、検察官の起訴、第一次第一審
並びに控訴審の審判も実現主義に基づき行なわれていたもので、本件差戻判決の拘
束力の点、さらには関係基本通達の解釈上、当該法人が所得計算につき発生主義、
実現主義のいずれをとるかはその自由であり、そのいずれかが選択された以上、課
税当局がこれを変更することはできないこととされていたこと等に徴すると、右訴
因変更請求は、公訴事実の同一性を害するものであり、かつ、本件のように起訴後
一〇年以上を経過した後になつては、刑訴法一条、憲法三七条の趣旨からしても、
許すべからざるものであるというにあると認められる。
 <要旨>よつて、審按するに、本件公訴事実の本旨とするところは、すでに引用し
たところから明らかなように、被告人並びに被告会社が特定の一事業年度に
おいて実際の所得金額はいくらいくらであつたのに、これを下廻る、これこれの所
得しかなかつたとして虚偽の過少申告をなし正当な法人税額と右申告税額との差額
を逋脱したというにあるのであるから、本件訴因変更請求のように、同一事業年度
における実際の所得金額の増加、ひいて逋脱税額の増加を求めるに過ぎないもの
は、いわゆる公訴事実の同一性を害するものではないと解するのが相当である。も
つとも、本件においては、検察官主張にかかる所得金額、ひいて逋脱税額の増加
は、被告会社の当期分、すなわち、第三期分の所得計算につき従来の方式を変更
し、第一、二期と同様の発生主義に準拠した結果であり、しかもここに至るまでの
経過が所論指摘のとおりであることも明認されるところであるが、記録によれば、
当期の売掛金ないし月賦販売利益の計算方法につき、被告会社が第一、二期につい
ては発生主義に拠つたのに、第三期については、いわゆる現金主義(これが当時の
法人税基本通達二五〇による実現主義に拠つたものと認められないことは、後に触
れるとおりである。)に拠つたものであることについては、本件差戻前の第一次第
一審において検察官が冒頭陳述として主張し、被告人、弁護人側においても、これ
を受け、とくに第三期において発生主義基準を採らなかつたことについて陳弁して
いる形跡が窺われるし、また、記録を調査してみても、本件訴因変更請求により被
告人側の防禦に実質的な不利益を生ぜしめたような形跡も認められないし、かつ、
本件差戻判決の判示自体に照らし、本件訴因変更請求許可決定をすることが右拘束
力に牴触するものともいえず、すすんで右決定後の訴訟の経過に徴してみても、被
告人側が特段の反証活動を強要される結果となり、訴訟を著しく遅延せしめたもの
とも認められないので、結局検察官の本件訴因変更請求を許可した原決定は相当と
認めるのほかなく、これを目して訴訟手続の訴訟法ないし憲法違反であるとする主
張は採用の限りでなく、論旨は、理由がない。
 下飯坂弁護人外三名の控訴趣意第一中、事実誤認、法令適用の誤りの論旨(同補
充第一の二を含む。)について。
 論旨は、被告会社は当期にかかる決算書の貸借対照表中に、月賦未収分商品科目
を設けていること、さらには右科目の期末売掛金を第四期分に計上、申告している
こと等を根拠に、被告人、被告会社においては所得隠匿の意思のなかつたことは明
白であつて逋脱犯は成立しないから、この点において原判決には事実誤認、法令適
用の誤りがあると主張し、とくに、原判決の(逋脱所得計算説明)の二、売掛金の
4、三期末売掛金公表額の項の説示、すなわち、「被告会社は、当期申告におい
て、未収分商品という科目下に、五、三四四万三、三二四円を計上しているが、前
述したとおり、右の未収分商品は、当期発生の売掛金の原価を表示したものであ
る。
 そうすると、被告会社は、発生主義における売掛金、すなわち別紙計算書による
売掛金実際額中、右同額を公表しているとしなければならない」との部分を利益に
援用するものである。
 しかしながら、原判決は、すでに、(逋脱所得計算説明)の二、売掛金1におい
て、被告会社は、当期確定申告において、売掛金としては、表勘定の期首売掛金残
額を計上し、当期発生の売掛金を全く計上しないという、法人税法上許容され得な
い処理方法を採つたものとしたうえ、所論の公表貸借対照表上における未収商品科
目の計上に触れて、右は期日未到来売掛金の原価ではなく、当期発生の全売掛金の
原価を表示したものであることが認められるとし、結局、被告会社は脱税の意図の
もとに殊更に通達基準によることが可能な会計処理すらしていなかつたものとして
いるところであり、右認定判示は記録に徴し優に是認するに足りるところである。
 そもそも、論旨も認めるように、当時の法人税基本通達二四九、二五〇によれ
ば、被告会社の営むような割賦販売に対しては、その損益算入につき売買契約の効
力発生日または商品等引渡しの日時が属する事業年度の損益に算入すべきものとす
る原則(いわゆる発生主義)が緩和され、当該事業年度において収入すべき年、月
賦金に対応する売却益を見積り、当該事業年度の益金に算入すること(いわゆる実
現主義)、言葉を換えていえば、期日未到来分の売掛金に関するかぎり、当期の所
得として計上することを要しないとする方法が例外的に認められていたものである
ところ、被告会社が第三期に計上した「月賦未収分商品」とは、いわゆる「割賦基
準における未収商品」すなわち、期日未到来分売掛金の原価ではなく、当期発生の
全売掛金、従つて期日到来分、未到来分の全部を含めたものの原価を意味している
ことが明らかである以上、いわゆる実現主義に準拠したとしても計上することを要
求される期日到来分に対応する売却益を見積り、当該事業年度に計上するという措
置を採らなかつたとの非難を免れ得ないことは当然であり、しかも、かように計上
方法を採つた経緯につき、被告人自ら、昭和三一年一一月二〇日付検察官宛ての上
申書中において、「二十八年度決算期に於てB税理士から二十八年度は二十六、二
十七年度より契約販売高が著しく増加したので、同年度決算は期末決算期日を超え
て翌事業年度に入金する。月賦未収金は之を翌期の売上に計上する会計処理方法に
よるべきであるとのことで、当社としてはその通りに決算書を作成して貰つた次第
であります」と述べ、第三期の利益を翌期に繰り延べ、結局、当期の所得を秘匿す
る、いわゆる逋脱の犯意があつたことを自白しているのであつて、所論指摘の、被
告会社がなした未収商品科目下の公表金額は、前述したとおりのもので、発生主義
ないし実現主義による売掛金としてのそれでない以上、右逋脱の犯意を否定するに
足りる証拠資料となるものではなく、原判決が、右科目下の金額が当期発生の売掛
金の原価を表示したもので、発生主義における売掛金実際額中、右同額を公表して
いるものとしなければならないといつているのも、単に売掛金の数額算出上言及し
たに過ぎないものであり、原判決としては、上記引用のとおり、被告会社に逋脱の
犯意があつたことを認めたうえ、以上のとおり判示したものであることは、全判文
を通読すれば、自ら明らかなところである。そしてまた、被告会社が第三期の未収
収益(期日未到来分)を第四期の所得として申告、納税したことは、原判決も、
(逋脱所得計算説明)の二、売掛金1の第四期において、これを認める趣旨の説示
をしているところであるが、同時に、犯則所得は、逋脱犯成立時において客観的に
確定しているものであることも原判決説示のとおりであつて、犯意の存否に影響を
およぼすことがらでないことはいうまでもないところである。
 なお、すでに述べたとおり、被告会社は、第一、二期においては前記通達二四九
による発生主義によつて売掛金を計上してきたのに、第三期に至つて、突如とし
て、法人税法並びに基本通達の解釈上許容されない、いわゆる現金主義による計上
方法を採用したものである以上、課税ないし検察当局において、被告会社の現金主
義による計上方法を否認して、実際の売掛金を算出するに当つては、被告会社の要
望を容れて実現主義に依拠することはとにかくとして、第一、第二期と同様、発生
主義に依拠することは、すでに被告会社に前示のような逋脱の犯意が認められるも
のである以上、何ら差支えないところというべきであつて、この点に関する原判示
並びに売掛金計算方法も相当として是認することができる。
 これを要するに、原判決には所論のような事実誤認、法令適用の誤りは存しな
い。論旨は理由がない。
 下飯坂弁護人外三名の控訴趣意第二(同補充第二、第三を含む。)について。
 論旨は、要するに本件差戻判決は、法人税逋脱犯の罪となるべき事実を構成する
実際の所得金額を確定するには、その前提として当該事業年度の総益金および総損
金の内容をなす個々の益金または損金、すなわち、純資産の増加または減少の原因
となるべき各個の具体的事実を証拠により認定する必要があるとしたうえ、第一次
第一審判決は検察官主張にかかる修正貸借対照表上の資産および負債に属する各勘
定科目につきこれを証拠によらないで認定した違法がある旨判示していることから
すれば、原審は右法律的判断に拘束され、右判断に従つて判決すべきであるのにか
かわらず、原審は右判示の趣旨を誤り解し、結局において、逋脱犯を認定するに
は、益金、損金または資産、負債を構成する各勘定科目の数額を証拠により認定す
べき旨判示したものであると解すべきであるとし、各勘定科目、とくに現金、売掛
金、棚卸商品等にかかる具体的事実を証拠によつて認定することなく、その各数額
を何らかの証拠による、単なる推計によつて算出しているに過ぎないものであるか
ら、原判決には、本件差戻判決の拘束力に背反するという、訴訟手続の法令違反が
あるのみならず、法人税逋脱犯を構成する事実の認定につき法人税法の解釈、適用
を誤つたものであり、とくに本件逋脱犯における構成要件該当事実の一つである売
掛金勘定の具体的事実が証拠によつて確実に認定されていない以上、その余の勘定
科目に属する具体的事実の立証の有無を問題とするまでもなく被告人は無罪である
旨主張するものと解される。
 しかしながら、所論指摘の本件差戻判決中の関係部分並びに右にかかる原判決の
判示部分を仔細に吟味、検討するに、所論は、右両者の趣旨とするところを正解し
ない結果による独自の見解を出でないものであつて、採用に値しないものといわざ
るを得ない。すなわち、本件差戻判決の判示をみるに、立論の出発点として、「法
人税法の定めによれば、法人税の課税標準たる法人の各事業年度の所得は、その当
該事業年度の総益金から総損金を控除した金額によるとされ、具体的には各事業年
度の総益金及び総損金の内容を構成する個々の益金又は損金、換言すれば純資産の
増加又は減少の原因となるべき一切の事実を法人の貸借対照表ないし損益計算書を
通して把握」すべきであるとしていることからみると、右判示は、法人税法違反の
逋脱犯の罪となるべき事実を構成する実際の所得金額を確定するには、貸借対照表
ないし損益計算書の借方、貸方の全勘定科目の内容を、それぞれの科目につき確定
する必要があるとの当然の事理を明らかにしたにとどまるものと解するのが相当で
あつて(このことは、原判決もとくに指摘しているとおり、本件差戻判決が、第一
次第一審判決の認定中、被告会社が八〇〇万円の架空借入工作をしたことだけか
ら、同額の逋脱所得があつたと認定した点を捉えて、証拠による認定をしない違法
があるとしていることからも優に窺い知ることができる。)、右見解に立つかぎ
り、本件差戻判決のいう「個々の益金又は損金、すなわち、純資産の増加又は減少
の原因となるべき各個の具体的事実」が、所論のいうように、つねに「法人の貸借
対照表の各勘定科目に示されている各個の益金又は損金の具体的内容、金額、帰属
等の具体的事実」を指すものであり、従つて売掛金についていえば、期首期末の具
体的事実、すなわち、販売月日、販売品目、数量、金額、相手方等の具体的内容が
売掛債権ごとに証拠により明らかにせられなければならないとする趣旨までも含む
ものなどとはとうてい解することはできないところである。所論の趣旨における具
体的事実が会計学上のいわゆる取引事実を意味するとすれば、原判決もとくに説示
しているように、逋脱所得の認定は損益計算法によるほかないこととなるが、法人
税を逋脱するため、会社が正しい経理をせず、帳簿も伝票も完備していないような
情況のもとにおいて、損益計算法のみにより実際所得が計算され得るなどというこ
とは、およそ考えられないところであつて、原判決も説示するように、会社が売上
を除外する等、経理の実態を秘匿する場合には、財産増減法によらざるを得ないこ
とは当然であり、しかもこの方法によつても実際所得の最少限度を算出、確定する
ものであるかぎり、被告人側に何ら不利益を与えるものではないし、右計算の過程
において、いわゆる直接証拠のみならず、間接証拠が用いられることがあるとして
も、いわゆる論理法則、経験法則に反しないかぎり、訴訟法上、かような採証方法
が許されないとするいわれは存しない。
 以上の見地に立つて、原判決中の本件各勘定科目の数額の認定につき、本件記録
並びに証拠物を精査のうえ検討してみるに、何ら訴訟法違反その他の違法を見出す
ことはできない。論旨は理由がない。
 下飯坂弁護人外三名の控訴趣意第三について。
 論旨は、要するに原判決は期末資産については、これ以下ではない、すなわち、
最少限、期首資産については、これ以上ではない、すなわち、最大限の証明がなさ
れることによつて、財産増減法による最少限の逋脱所得の証明が可能であるとして
いるが、右理論によれば、当期である第三期の期首資産を最大限に証明すること
は、同時に前期である第二期の期末資産を最大限に証明したことになり、とくに原
判決のいう、期末資産の最少限の証明ということとは全く相反した証明方法に転化
せざるを得ないので、原判決理由には理由の不備ないし理由のくいちがいがあると
の趣旨を主張するものであるが、第三期の期首資産を最大限に証明するといつて
も、それはあくまでも証拠に基づくものである以上客観的には何ら被告人側の不利
となる筋合のものではなく、要するに原判決の右判示部分は財産増減法による逋脱
所得の確定について当然のことを説示したに止まるものであり、所論は畢竟言葉の
論理を操つる独自の所論という外はなく、採用の限りでない。
 下飯坂弁護人外三名の控訴趣意第四(同補充第四を含む。)について。
 論旨は、要するに原判決は被告会社に法人税逋脱の事実がないのに逋脱があると
の予断のもとに、本来検察官に属する挙証責任を被告人に転換したうえ、被告会社
の当期である第三期の資産増額は、専ら被告人個人および有限会社C、同Aからの
持込み資産によるものであつて、被告会社の当期の事業取得によつて発生したもの
ではないのに、右事実を看過し、被告会社の当期、期末、期首における売掛金、在
庫商品等の主要資産勘定科目の金額につき、証拠によらず、杜撰な推計計算を行な
い、その結果算出された増差額の大部分は売掛金の計算基準を実現主義から発生主
義に変更することによつて生じたもので、いわゆる通脱犯意を欠く売掛金増差額で
あるのに、右推計計算による、実際所得金額と申告所得金額との差額のすべてを逋
脱所得と認定した点において、判決に影響をおよぼすことの明らかな法令違反、事
実誤認があるとする趣旨の主張をするものである。
 しかしながら、原判決中の別紙修正貸借対照表および別紙逋脱所得計算書、税額
計算書の各記載を、挙示にかかる各関係証拠と対比、検討してみるに、すべて肯認
するに足りるものであることにかんがみれば、原判示の犯罪事実が証拠に基づくも
のであることは明白であつで、被告人側に有罪の予断をもち、挙証責任を転換して
不利益な事実認定をしたものでないことは勿論であり、また、原審において検察官
の訴因変更請求が許可され、本件売掛金の計算方法につき実現主義基準から発生主
義基準に変更されたことによる増差額につき被告人側に逋脱の犯意がないといえな
いことについては、すでに弁護人らの控訴趣意第二に対し説明したとおりであるの
で(被告人は、第一次第一審公判においても、その審理において、数額の点は別と
して、逋脱の事実そのものは認めている。)、論旨はとうてい採用の限りでない。
以下においては、論旨の根拠とする事由中重要なもののみにつき説明を加えてお
く。
 (一) 持込み資産について。
 所論は、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の二、において、いわゆる持込
み資産についての弁護人の主張を、数千万円の現金を被告人が自宅押入れの中に長
期間保管すること自体不自然であるのみならず、被告人が捜査当時においてかよう
な事情を供述していないことを勘案すれば、被告人の右主張にそう上申書の記載は
措信できないとして排斥した点を事実誤認であると主張するものであるが、関係各
証拠を仔細に吟味、検討してみても、原判決の右結論は、優に肯認するに足りるも
のであつて、所論にいう、当時銀行預金がなかつたという事実も、そのことから直
ちに、所論主張のように莫大な額の現金がそのままの状態で保管されていたという
ことにはならないし、また、所論のいうように、Dら三名の者の各不動産購入の事
実があつたとしても、そのことのみをもつてその資金が持込み現金で支払われたと
の結論を導くことができるものともいうことはできない。
 (二) 委託品について。
 所論は、同じく原判示の「三、委託品について」の項につき、被告会社の棚卸表
中には「委」の符合が付されているもののほかにも、委託品であつて右符合が付さ
れていないものも多数混入しており、しかもその額は三、六〇〇万円程度である旨
の主張が排斥ざれたことを非難するものであるが、右主張にかかる原審証人Eの証
言内容を他の関係証拠と対比のうえ、仔細に吟味、検討してみるに、右証言を措信
できないとする原判断に誤りがあるとは認められず(なお、原判決が「委」の符合
が付されている商品については、これらをすべて委託品として除外したうえでの認
定をしていることは証拠上明らかである。)、その他関係証拠に徴しても、原判決
にはこの点に関する事実誤認は勿論、その他の違法があるとはいえない。
 (三) Dおよび被告人の供述について。
 所論は、Dの経歴、能力等からみて、その捜査官等に対する供述や上申書は信用
性のないものであり、被告人は右Dに示唆されて捜査官等に迎合する供述をしたも
のであつて、これまた信用性がない旨主張するものであるが、所論指摘の右両名に
かかる各供述内容を、他の関係証拠と対比しつつ、仔細に吟味、検討してみても、
任意性、信用性に欠けるものがあるとは、とうてい認められないところである。
 (四) 棚卸商品について。
 所論は、原判決の認定した棚卸高は誤りであるとして、(1)原判決は昭和二九
年七月三一日現在の棚卸表によつて逆算したというが、一部には七月三一日ではな
く、八月一日、八月五日現在の棚卸表を用いている、(2)前記のように委託品
三、六〇〇万円が混入している、(3)七三一日現在の棚卸表には、立川、追浜店
の在庫表がない、(4)担当の国税査察官が本件査察当時から約二〇日間位を費し
て実施した棚卸による昭和三〇年一月三日現在の在庫高が判つている以上、これを
用いて逆算すべきであるのにこれを用いていない、(5)企業比較、経費分析の結
果に基づき、経験則にも合致し、蓋然性も高い、弁護人側の算定した在庫量と比較
すると、原判決の棚卸高は実際よりも四、〇〇〇万円以上も多額であるなどと主張
するものである。
 しかしながら、右(2)の委託品の問題についてはすでに述べたとおりであり、
右(1)、(3)については、横須賀店の棚卸計算につき「二九年八月五日現在
調」と表記された在庫調記録を用いたこと、立川、追浜両店分の棚卸表がないため
推計計算を行なつたことは、原判文自体に徴し明白なところであるが、同時に、原
判決がなしたところの、これらの在庫表を主体として逆算計算した、期首期末の棚
卸高が是認するに足りる推計計算の結果による合理的なものであることも、十分に
納得のゆくところであるので、所論は結局採用できない。
 また、(4)については、国税査察官が本件発覚後実施した自らの棚卸結果を採
用せず、被告会社側において本件申告時により近接した時期において実施していた
それを採用したからといつて、不当視できないことは勿論であり、(5)について
は、商品回転率あるいは商品売場面積等に依拠して縷々主張するところがあるけれ
ども、その由つて立つ根拠数字が原審に顕われた関係証拠資料との対比上、たやす
く納得し得ないものがあるといわざるを得ない以上、とうてい採用の限りでない。
 その他弁護人の各所論に徴し、本件記録並びに証拠物を精査のうえ、再思三考し
てみても、原判決には何ら事実誤認、法令違反は存しない。
 以上の次第で、論旨はすべて理由がない。
 よつて、本件各控訴はいずれも理由がないから、刑訴法三九六条により、これを
棄却することとし、主文のように判決をする。
 (裁判長判事 栗本一夫 判事 石田一郎 判事 藤井一雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛