弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 第一 申 立
 抗告代理人は、「原決定を取り消す。相手方の異議申立を却下する。申立費用
は、第一、二審とも相手方のの負担とする。」との裁判を求め、相手方代理人は、
抗告棄却の裁判を求めた。
 第二 当事者の主張
 当事者双方の事実上、法律上の主張は、相手方代理人において、
 「1 仮りに、相手方が、別紙目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)
に対する所有権をもつて抗告人に対抗することができないとしても、右不動産のう
ち家屋については、その所有者であつたAの死亡後、抗告人がAの相続人Bを欺
き、同人不知の間に抵当権設定登記をしたものであるから、その登記は無効であ
る。
 2 なお、抗告人の主張事実中、本件売買予約ならびに売買予約完結の意思表示
による所有権の移転は、抗告人の本件抵当権の実行を妨げるため、相手方とAおよ
びBとの間に、相通じてされた虚偽の意思表示であるとの点は、否認する。
 3 相手方とB間の、本件不動産中、土地に関する売買予約に基く所有権移転請
求権保全の仮登記は、抗告人の抵当権設定登記申請前、現実に、登記簿に記入され
ていたものである。」と述べ、
 抗告代理人において、
 「1 相手方は、競売目的物の所有権は競売債務者たる申立外A、同Bの各所有
に属せず、相手方がこれを有するものなることを理由として、民事訴訟法第五四四
条に定める執行方法に関する異議を申し立てたのであるが、同条は、執行手続につ
いての規定であり、実体上の理由すなわち所有権を主張して競売の排除を求める第
三者は、同法第五四九条にいわゆる第三者異議の訴によるべきで、同法第五四四条
の異議によることはできない。したがつて、相手方の異議申立は不適法として却下
せらるべきである。
 2 仮りに、右1の主張が理由がないとしても、相手方の主張する本件不動産の
売買予約ならびに売買予約完結の意思表示は、すべて抗告人の本件抵当権の実行を
妨げるため、相手方と申立外A、同Bとの間で相通じされた虚偽の意思表示である
から無効であり、したがつて、右の売買予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記
ならびに予約完結による所有権移転の本登記もその原因を欠き、無効である。
 3 仮りに、相手方とA、同B間の売買予約ならびにその完結が真実にされたも
のであるとしても、
 (一) 右売買予約完結の意思表示は、抗告人の本件抵当権設定登記の日、すな
わち昭和二八年八月四日より後の日である昭和二八年一〇月五日にされたのであ
り、しかも、所有権取得の本登記は、昭和二八年一〇月七日および同月九日の両日
にわたつてされているので、相手方において、右抗告人の抵当権設定登記前に、売
買予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記をしていたとしても、売買の効力を仮
登記の日にさかのぼらせることはできず、相手方は、所有権取得の日以後において
のみ、所有権をもつて抗告人に対抗できるだけである。
 (二) また、前記(一)の主張が理由ないものとしても、本件不動産のうち土
地については、相手方の前記売買予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記申請
か、抗告人の本件抵当権設定登記の申請(昭和二八年八月四日函館法務局受付番号
第六、七七九号)前、すなわち昭和二八年七月一七日に受けつけられたにもかかわ
らず(同局受付番号第六、〇九七号)、現実に登記簿に記入されたのは抗告人の前
記抵当権設定登記後の昭和二八年八月一一日(すなわち本件抵当権に基く競売のた
めに、抗告人が登記簿謄本の交付を受けた日)以後であるから、相手方は、本件不
動産のうち、土地に関する限り、その仮登記をもつて、抵当権者たる抗告人に対抗
することかできない。」と述べたほかは、すべて原決定の事実欄記載の主張と同一
であるから、ここにこれを引用する。
 第三 証拠関係
 相手方代理人は甲第一、二号証の各一、二、第三号証の一から一〇、第四号証、
第五号証の一から四、第六号証、第七号証の一から一〇、第八、第九、第一〇号
証、第一一号証の一から七、第一二号証の一から三五、第一三号証の一から一六、
第一四号証の一から二八、第一五号証の一から三、第一六号証の一から一一、第一
七号証の一から六、第一八号証の一から五、第一九号証の一から三、第二〇号証の
一から五、第二一号証の一から四九、第二二号証の一から一五、第二三号証の一か
ら一〇および第二四号証を提出し、原審証人C、D、当審証人B、E、F、C、D
の各証言、原審における検審の結果、当審における相手方G本人尋問の結果(第
一、二回)を援用し、乙第三号証の一、二は、登記官吏作成部分の成立を認め、そ
の他の部分の成立は知らない、爾余の乙号各証は、成立を認めると述べた。
 抗告代理人は、乙第一号証、第二号証の一から八、第三号証の一、二を提出し、
原審証人H、I、当審証人J、K、L、Hの各証言、原審における検証の結果、当
審における抗告会社代表者M尋問の結果を援用し、甲第三号証の一から一〇、第四
号証、第七号証の一から一〇、第八、第九号証の各成立ならびに、第二号証の一、
二、第五号証の一から四中、登記官吏作成部分の成立は、いずれもこれを認める
が、甲第二号証の一、二、第五号証の一から四のその他の部分および爾余の甲号各
証の成立は、いずれも知らないと述べた。
 第四 判 断
 (抗告人の抵当権実行に基く競売開始決定ならびに相手方の異議申立)
 一 本件記録をみるに、抗告人が申立外AおよびBを連帯債務者として、昭和二
八年七月二四日、百十六万四千五百二円五十銭を、弁済期同年九月三日、利息の定
めなく、弁済期後は日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う約定で貸与し、その
担保として右申立外人等各所有の本件不動産に対して抵当権を設定したとして、同
年八月四日、函館地方法務局受付番号第六、七七九号(土地、建物とも同番号受
付)をもつて抵当権設定登記を了したうえ、同年九月八日、函館地方裁判所に対し
て、右抵当権実行による本件不動産競売の申立をし(同庁同年(ケ)第九七号事
件)、同裁判所が、同月一七日、競売開始決定をしたことおよび右決定に対し、相
手方において、本件不動産は競売債務者A、同Bの所有に属せず、相手方がこれを
買い受けて、その所有権を取得したものであることを理由として、異議申立をした
ことが明らかである。
 (執行方法に関する異議によるべきでないとの主張について)
 二 抗告人は、抵当権の実行による競売においては、競売目的物の所有権が競売
債務者になく、自己がこれを有することを主張して競売手続を排除せんとする第三
者は、民事訴訟法第五四九条にいわゆる第三者異議の訴によるべきで、同法第五四
四条に規定された執行方法に関する異議によることを得ないと主張する。
 おもうに、競売法による競売手続については、その性質に反しない限り民事訴訟
法の規定が準用されるのであるが、債務名義を必要としない競売法による競売にお
いては、競売の申立が実体上理由ありゃ否やも裁判所の判断を受くべきものであつ
て、競売に関する手続上のかしはもとより、競売の申立が実体上理由ないことに基
いても、いわゆる執行方法に関する異議(同法第五四四条)を申し立て得るものと
解せられ、このことは、<要旨>第三者が競売手続について不服を申し立てる場合も
別異に解すべき理由はないから、任意競売の目的物につき所有権を主張する
第三者は、競売開始決定に対し執行方法に関する異議を申し立てることができるも
のと解すべきである。したがつて、抗告人の右主張は理由がない。
 (相手方とA等との間の本件不動産売買契約の成立について)
 三 よつて、進んで異議の当否について判断するに、
 相手方が本件不動産について、申立外A、同Bと、昭和二九年五月末日に代金を
決定してこれを買い受ける旨の売買予約をしたとして、昭和二八年七月一七日、建
物については函館法務局受付第六、〇九六号、土地については同局受付第六、〇九
七号をもつて各所有権移転登記請求権保全の仮登記をしたことおよび昭和二八年一
〇月七日、九日の両日にわたり、売買予約完結による所有権移転の本登記をしたこ
とは、当事者間に争いがない。
 しかして、当審証人Bの証言によつて成立を認め得る甲第一、第二号証の各一、
二、成立に争いのない甲第四号証、当審における相手方本人G(第二回)の供述に
よつて成立を認め得る甲第一一号証の一から七、第一二号証の一から一六、第一四
号証の一から二八、第一五号証の一から三、第一六号証の一から一一、第一七号証
の一から六、第一八号証の一から五、第一九号証の一から三、第二〇号証の一から
五、第二一号証の一から四九、第二二号証の一から一五、第二三号証の一から一〇
ならびに第二四号証に、当審証人B、E、Fの各証言および当審における相手方本
人G(第一、二回)の各供述を合せ考えると、右AならびにBは、昭和二八年七月
一〇日、相手方との間に、本件土地、建物をその代金額は昭和二九年五月末日まで
に確定することとして売買する旨の予約を締結し、前記のように昭和二八年七月一
七日各所有権移転請求権保全の仮登記をし、本件競売開始決定後である昭和二八年
一〇月五日、右AならびにBと相手方G間に成立した函館簡易裁判所における調停
事件(同庁昭和二八年(ノ)第一二四号、本登記手続請求調停事件)において、代
金を合計百四十七万五千円と確定して売買予約を完結し昭和二八年一〇月七日、本
件不動産のうち別紙目録記載の一の(八)を除く土地、建物について、同月九日、
別紙記載一の(ン)の土地について所有権移転の本登記をしたことが認められる。
 当審証人Kの証言ならびに当審における抗告会社代表者Mの供述中、右認定に反
する部分はにわかに措信し難く、他にこれをくつがえすに足りる証拠はない。
 (通謀虚偽表示の主張について)
 四 抗告人は、仮りに相手方とA、同B間に本件不動産の売買予約ならびにその
完結の意思表示があつたとしても、それは抗告人の抵当権実行を妨げるためにされ
た通謀虚偽表示であるからいずれも無効であり、従って右の各行為を原因とする所
有権移転請求権保全の仮登記ならびにその本登記も無効であると主張するが、当審
証人Kおよび当審における抗告会社代表者Mの供述中この点に関する部分は、前掲
甲号各証ならびに当審証人B、E、Fの各証言ならびに当審における本人Gの各供
述(第一、二回)に照らして措信し難く、他に右売買予約ならびに予約完結の意思
表示が通謀虚偽表示であることを認めるに足りる証拠がないから、抗告人の右主張
は採るを得ない。
 (本件仮登記の効力)
 五 抗告人はまた、相手方が本件不動産(土地、建物の双方。)についてした所
有権移転請求権保全の仮登記は、抗告人がした抵当権設定登記前に登記されたとし
ても、その本登記は、右抵当権設定の登記後に登記されたのであるから、相手方は
その所有権をもつて抗告人に対抗できないと主張するが、仮登記は、後日本登記が
されると既往にさかのぼつてその本登記の順位を仮登記の順位によらしめることを
目的とし、仮登記のときに本登記があつたと同一の効力を有するものであるから、
仮登記権利者たる相手方は、仮登記後、その本登記前に設定の登記ある抵当権者た
る抗告人に対し、当該不動産に対する所有権をもつて対抗することができるのは当
然であり、抗告人の右主張も理由がない。 (土地に関する仮登記の登記簿記入の
時期)
 六 抗告人は、さらに、本件不動産のうち土地については、相手方の仮登記は、
抗告人のした抵当権設定登記前に申請されたのにかかわらず、現実に登記簿に記入
されたのは抗告人の右抵当権設定登記後であるから、相手方は、土地に関する限り
仮登記に基く本登記により、自己の所有権をもつて抗告人に対抗することができな
いと主張し、原審ならびに当審における証人H(司法書士であり、抗告会社の監査
役でもあつた。)も、抗告人主張の事実に副う証言をしているけれども、その証言
は、後記各証拠に照らしてみると、たやすく措信することはできない。すなわち、
原審証人Iの証言ならびに当審証人C、同Dの各証言を合せ考えると、相手方主張
の本件不動産に対する仮登記は、家屋はもとより土地についても、抗告人の抵当権
設定登記申請当時には、すでに現実に登記簿に記入されていたことがうかがえるの
であつて、他にこの認定をくつがえし、抗告人主張の事実を認めるに足りる証拠は
ない。それゆえ、この点に関する抗告人の主張も採用することができない。
 (む す び)
 七 以上のとおり、抗告人の抵当権は、相手方の主張する所有権に対抗すること
ができないものであるから、右抵当権に基く本件競売の申立は不適法であり、却下
を免れない。
 しからば、本件不動産競売開始決定に対する相手方の異議申立を認容した原決定
は相当であるので、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条を適
用して、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人 裁判官 岡成人)
 (別紙目録省略)

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