弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Cの弁護人伊坂重昭、同佐藤庄市郎、同松井元一、同原田一英、同秋田康
博の上告趣意第一点について。
 所論は、憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつて、適法
な上告理由にあたらない。なお、輸出許可の効力は、輸出申告書に記載された貨物
と同一か、少なくともこれと同一性の認められる貨物に及ぶだけであつて、それ以
外の貨物には及ばないものと解するのが相当である。これを本件についてみると、
原判決が維持した第一審判決判示第二の事実によれば、輸出申告書に記載された貨
物名は園芸用品であり、現実に輸出された貨物は全く別異の洋食器であつたという
のであるから、被告人らの得た園芸用品に対する輸出許可をもつて本件洋食器に対
する輸出許可があつたものとすることはできない。してみると、本件洋食器の輸出
は、税関の許可なしになされたものであり、関税法一一一条一項の無許可輸出罪を
構成するものというべきである。これと異なる見解に立ち、本件洋食器に対する輸
出許可はあつたが、その許可は被告人らの詐欺的手段に基づく錯誤によつてなされ
たものであるから当然無効であるとした原判決の判断には、法令の解釈を誤つた違
法があるが、原判決は、結局本件において無許可輸出罪が成立するとしているので
あるから、その結論においては正当であるといわなければならない。
 同第二点について。
 所論は、本件洋食器に対する輸出許可があつたことを前提として、判例違反をい
うが、右に判示したとおり、その許可はなかつたものというべきであるから、所論
は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 同第三点について。
 所論は、関税法一一八条二項(昭和四二年法律第一一号による改正前のものをい
う。以下同じ。)によつて追徴を科せられる犯人は、犯罪貨物等の所有者または所
有者であつた者に限られるものと解すべきであるとし、もしもそのような限定がな
いとするならば、右条項は憲法三一条、二九条に違反すると主張する。
 しかし、関税法一一八条二項にいわゆる犯人とは、犯罪貨物等の所有者または占
有者であつたものに限られず、当該犯罪に関与したすべての犯人を含む趣旨であり、
同条項が憲法三一条、二九条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例
(昭和三六年(あ)第八四七号同三九年七月一日決定・刑集一八巻六号二六九頁、
同三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日判決・刑集一八巻六号二九〇頁)の
趣旨とするところであつて、いま、これを変更する必要は認められない。それゆえ、
所論は理由がない。
 被告人A株式会社、同Bの弁護人清野惇の上告趣意について。
 所論は、原判決が、犯罪貨物の所有者でなく所有者であつた者でもない被告人A
株式会社および同Bに対する第一審判決の追徴を是認したのは、憲法三一条に違反
すると主張する。しかし、その理由のないことは、さきに、被告人Cの弁護人伊坂
重昭ほか四名の上告趣意第三点について判示したとおりである。
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、追徴の点につき裁判官城戸芳彦、同田中二郎、同色川幸太郎、同大
隅健一郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官城戸芳彦、同田中二郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎の追徴の点に関する
反対意見は、次のとおりである。
 関税法一一八条二項(昭和四二年法律第一一号による改正前のものをいう。以下
同じ。)所定の追徴は、没収に代わるべき換刑処分または補充処分の性質を有する
ものであり、追徴を科せられるべき犯人は、犯罪貨物等の所有者または所有者であ
つた者に限られると解するのが相当である。したがつて、これと異なる解釈に出た
多数意見には賛成することができない。
 関税法一一八条二項によると、没収に関する同条一項の規定を受けて、「前項の
規定により没収すべき犯罪貨物等を没収することができない場合又は同項第二号の
規定により犯罪貨物等を没収しない場合においては、その没収することができない
もの又は没収しないものの犯罪が行われた時の価格に相当する金額を犯人から追徴
する」とあるだけで、そこでいう犯人の意義および範囲について、何ら限定的な字
句が存しないのであるから、右の字句のみからいえば、解釈上、犯罪貨物等の所有
者または所有者であつた者以外の一切の共犯者も、そこにいう犯人に含まれるとい
う多数意見のような見解が生れる余地が全くないとはいえない。しかし、この多数
意見は、没収に代わる追徴の本質に対する理解を欠く誤りに基づくものと思われる。
 おもうに、没収は、犯罪に関係のある物件の所有権を剥奪して、これを国に帰属
させることを目的とした附加刑であり、主刑に附加してこれを科することによつて
科刑の目的を全うしようとするものである。すなわち、関税法一一八条一項に、密
輸出入等の関税法違反に対し、主刑に附加して附加刑として、犯罪貨物等を没収す
ることにしているのは、主として、懲役・罰金等の主刑を科しただけで、依然、犯
罪貨物等の保有を許容するときは、関税法違反を抑圧することが困難で、科刑の目
的を完全に達成することができないために、犯罪の手段を奪いまたは利得の保有を
禁ずることによつて、重ねて関税法違反を犯すことがないようにし、もつて関税法
秩序を維持しようとするものである。没収は、かような性質をもつものであるから、
主刑とは異なつて、共犯者のすべてについてこれを科することなく、犯罪貨物等の
所有者または所有者であつた者についてのみ、これを科し得べきものとしているの
であつて、また、それで十分に目的を達成し得るわけである。
 ところで、追徴は、没収を科すべき場合であることを当然の前提とし、本来、没
収すべき犯罪貨物等が法定の事由によつて没収不能の場合に、これに代え、いわゆ
る換刑処分または補充処分として科せられるものであることは、法文上、明らかで
ある。それは、没収されるべき犯罪貨物等の所有者または所有者であつた者が得た
利益を剥奪することによつて、犯罪によつて利得させるようなことがないようにし、
または、犯罪貨物等の滅失毀損もしくは第三者への移転譲渡等によつて不当に没収
を免れさせるようなことがないようにするためである。追徴は、この意味において、
没収に代わる換刑処分または補充処分である点に、その本質および機能が認められ
なければならない。したがつて、元来、没収を科せられるべきでない者に対して、
追徴を科するということは、追徴の右の本質および機能を正解しない誤りに基づく
ものといわなければならない。
 また、関税法一一八条二項が、単に「犯人」といつているからといつて、没収を
科せられるべき者と追徴を科せられるべき者との均衡を無視して、没収を科せられ
るべきでない犯人に対してまで追徴を科し得べきことを定めたものと解すべき合理
的根拠は、とうてい見出すことができない。すなわち、犯罪貨物等の没収が可能な
場合であれば、犯罪貨物等の所有者でない者は、その没収処分によつて何ら経済上
の実害を受けないものであるのにかかわらず、偶然の事情のために没収が不能とな
つた場合には、没収に代わる措置として、犯罪貨物等の所有者でない者も、ひとし
く追徴を科せられることとなり、没収可能の場合に比し、著しい不均衡が生ずるこ
とになるのであつて、このような不均衡を肯認すべき合理的根拠は全く見出しがた
い。
 これらの点を考慮すると、関税法一一八条二項により、追徴を科せられるべき犯
人は、当然、没収を科せられるべきであつた犯人を意味するものと、限定的に解釈
するのが、法律の趣旨・目的に合し、合理的であるのみでなく、追徴の本質にもそ
う解釈といわなくてはならない。
 ところで、本件においては、被告人らが本件犯罪貨物の所有者でなく、また、所
有者であつた者でもないことは、原判決の確定するところであるから、かりに犯罪
貨物の没収が可能な場合であれば、被告人らは、経済上、何らの実害を受けること
がなかつたはずである。然るに、たまたま、没収が不能になつたからといつて、こ
れに追徴を科することは、著しく不均衡であり、不合理である。これは、多数意見
が追徴の刑罰的性格のみを強調した従来の大法廷判決の多数意見に追随し、法文上
の「犯人」の字句に捉われ、追徴の本質および機能についての正しい理解を欠くこ
とに基づくものにほかならない。
 以上の理由によつて、被告人らに対し、無許可輸出の罪に係る貨物の犯罪当時の
価格に相当する金額の追徴を命じた第一審判決を支持した原判決は違法であり、破
棄を免れない。
  昭和四五年一〇月二一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
 裁判官 松田二郎は、退官のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    石   田   和   外

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