弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     二 被上告人の昭和六〇年八月一四日の通常総会における上告人の漁業
権行使を禁止する旨の決議及び被上告人の昭和六一年一月一九日の臨時総会におけ
る上告人を除名する旨の決議がいずれも無効であることを確認する。
     三 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人土田嘉平の上告理由第一点について
 記録によれば、原判決に所論の理由不備、理由齟齬の違法はなく、論旨は採用す
ることができない。
 同第二点について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、水産業協同組合法に基づいて設立された漁業協同組合であり、
上告人は、被上告人の組合員で理事の地位にあった者である。
 2 被上告人は、高知県知事から第二種共同漁業を内容とする五個の共同漁業権
の免許(以下「旧免許」という。)を受けていたが、昭和五八年八月三一日でその
存続期間が満了するため、昭和五七年八月一四日の通常総会の決議に基づき、同年
一一月ころから右五個の共同漁業権に係る漁場と同一の漁場について新たに共同漁
業権の免許を受ける手続を進めていた。右五個のうち四個の共同漁業権に係る漁場
については、D外の組合員が共同漁業権の内容である漁業を営んでおり、右総会に
おいて新たに免許を受けた後も従前と同じ者がそのまま漁業を営むことが承認され
たが、残りの一個の共同漁業権に係る漁場(以下「本件漁場」という。)について
は、その後面に位置する漁場で漁業を営んでいたDとの間で以前に紛争が生じたこ
とがあり、昭和五三年ころ以降は漁業を営む者がいなかった。
 3 旧免許に係る各共同漁業権について被上告人が制定した漁業権行使規則によ
れば、同規則の規定に基づいて別に組織される漁業権管理委員会が漁業を行う者及
び漁業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を定める旨規
定されていたが、現実には漁業権管理委員会は機能しておらず、漁業を行う者の決
定は、希望者が被上告人の理事会に申し込み、理事会の決定を経た上、総会の議決
により行うという方法が採られていた。前記通常総会において、被上告人は、漁業
権管理委員会を漁業権行使規則に従って活動させることにし、五名の管理委員を選
出したが、その際、併せて「漁業権の行使者変更又は漁場変更の件については総会
の議決に基づいて行う」との議決を全員一致で行った。しかし、右総会決議の内容
に沿った漁業権行使規則の変更はされなかった。
 4 被上告人は、昭和五八年七月二三日、高知県知事から第二種共同漁業を内容
とする五個の共同漁業権の免許(共第二五三二号ないし共第二五三六号)を受けた。
そして、同年の通常総会において、右各共同漁業権に係る漁業権行使規則(以下「
本件漁業権行使規則」という。)の制定が議決され、高知県知事の認可を受けたが、
同規則においても、五名の管理委員により構成される漁業権管理委員会が漁業を行
う者及び当該漁業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を
定める旨の規定(七条一項)が置かれたにとどまり、右3の総会決議の内容に沿っ
た規定は置かれなかった。
 5 上告人は、昭和五七年一二月一九日、被上告人の組合長に対し、右免許後の
本件漁場に係る共同漁業権(共第二五三四号。以下「本件漁業権」という。)の行
使を申請した。組合長は、右免許を受けた後、本件漁業権行使規則の規定に従って、
その審議を漁業権管理委員会に付託し、同委員会は、上告人の申請を入れて、本件
漁業権の行使者を上告人とすることに決定した。しかし、上告人が本件漁業権を行
使することを承認する旨の総会の議決はされなかった。
 6 上告人は、昭和五九年四月ころから本件漁場において操業を開始したが、か
ねてから本件漁場における共同漁業権の行使に難色を示していたDらとの間で紛争
が生じ、上告人とDらとの関係が険悪化した。そのため、被上告人の同年の通常総
会において、一部の理事から操業区域を調整した上で上告人の漁業権行使を認める
方向の提案がされ、これを受けて上告人とDとの間で話合いが行われたが、右話合
いは決裂し、上告人はその後も操業を続けた。
 7 被上告人の昭和六〇年八月一四日の通常総会において、上告人が本件漁業権
を行使することを禁止し、上告人に対し同年九月三〇日までに漁具を引き揚げるよ
うに求める旨の決議(以下「本件漁業権行使禁止決議」という。)がされた。これ
を受けて、被上告人は、上告人に対し、同月二一日付け書面により、本件漁業権行
使禁止決議に基づき、本件漁業権の行使は違反操業であるから同月三〇日までに漁
具、漁網を撤去するよう勧告し、さらに、同年一二月九日付けの内容証明郵便によ
り、同月一六日までに漁具を撤去するよう請求した。しかし、上告人は右請求に従
わなかったため、被上告人の昭和六一年一月一九日の臨時総会において、上告人を
除名する旨の決議(以下「本件除名決議」という。)がされた。上告人に対する除
名理由は、(1) 本件漁業権行使規則七条一項に違反し、被上告人の信用を著しく
失わしめた、(2) 役員の忠実義務に違反した行いをした、というものであった。
 二 上告人の本訴請求は、本件漁業権行使禁止決議及び本件除名決議の無効確認
を求めるものであるところ、原審は、次のとおり判示して、本訴請求をいずれも棄
却すべきものとした。
 1 被上告人においては、本件漁業権行使規則が制定された後も、被上告人が免
許を受けた共同漁業権の行使者の決定権限は総会が有していた。総会は、組合員の
総意により組合の意思を決定する最高の機関であり、組合の組織運営等に関する一
切の事項について議決することができるのであるから、共同漁業権の行使者の決定
権限を総会に留保する旨の前記一3の総会決議は有効であり、右決議について県知
事の許可を受けていないからといって、右決議が無効であると解すべき理由はない。
 2 上告人による本件漁業権の行使は、漁業権管理委員会の許可を得たのみでい
まだ総会の承認の議決を経ていない段階において行われたものであるから、被上告
人の昭和六〇年八月一四日の通常総会において上告人に対し本件漁業権の行使を禁
止し漁具の撤去を求める旨の議決をしたことに違法はなく、本件漁業権行使禁止決
議は有効に成立したものと認められる。
 3 上告人は、被上告人の理事でありながら、総会の承認を得ることなく本件漁
業権を行使するという本件漁業権行使規則違反行為を行い、本件漁業権行使禁止決
議及びその後数度に及ぶ被上告人の同旨の勧告にも従わずに違反操業を続けたとい
うのであり、上告人の右行為は、被上告人の定款三五条一項の「役員は法令、定款、
規約及び総会の決議を遵守し、組合のため忠実にその職務を遂行しなければならな
い」との規定に違反し、定款が除名事由として定める「組合の定款もしくは規約に
違反し、その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき」に該当するも
のであり、その違反は決して軽度なものではないから、上告人の除名は相当であり、
本件除名決議は有効に成立した。
 三 しかしながら、原審の右判断はいずれも是認することができない。その理由
は、次のとおりである。
  漁業法によれば、共同漁業権は、同法一四条八項に規定する適格性を有する漁
業協同組合又は漁業協同組合連合会(以下「漁業協同組合等」という。)に対する
都道府県知事の免許によってのみ設定されるものであり(同法一〇条、一三条一項
一号)、漁業協同組合の組合員(漁業者又は漁業従事者であるものに限る。)であ
って当該漁業協同組合等がその有する共同漁業権ごとに制定する漁業権行使規則で
規定する資格に該当する者のみが当該漁業協同組合等の有する当該共同漁業権の範
囲内において漁業を営む権利を有し(同法八条一項)、漁業権行使規則には、漁業
を営む権利を有する者の資格に関する事項のほか、当該漁業権の内容である漁業に
つき、漁業を営むべき区域及び期間、漁業の方法その他当該漁業を営む権利を有す
る者が当該漁業を営む場合において遵守すべき事項を定める旨規定されている(同
条二項)。また、同法及び水産業協同組合法によれば、漁業権行使規則の制定、変
更及び廃止のためには、総組合員(准組合員を除く。)の半数以上が出席し、その
議決権の三分の二以上の多数による議決を要すること(水産業協同組合法五〇条五
号)に加えて、都道府県知事の認可を受けなければその効力を生じないものとされ
ている(漁業法八条四項、五項)。このように、漁業法が同法八条二項に規定する
事項についての規律は専ら漁業権行使規則の規定によるものとした上で都道府県知
事の認可を同規則の制定、変更及び廃止の効力要件として規定しているのは、共同
漁業権も漁業権の一種として水面の漁業上の総合利用を図り漁業生産力を維持発展
させるという公益的見地から都道府県知事の免許によって設定されるものであるこ
とにかんがみ、同規則の制定、変更及び廃止をすべて漁業協同組合等の自治的手続
にゆだねてしまうのは相当でないとして、公益的見地から都道府県知事に審査権限
を付与する趣旨のものであると解される。
 右に述べた共同漁業権についての法制度にかんがみると、漁業協同組合が、その
有する共同漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者の資格に関する事項その
他の漁業法八条二項に規定する事項について、総会決議により漁業権行使規則の定
めと異なった規律を行うことは、たとえ当該決議が水産業協同組合法五〇条五号に
規定する特別決議の要件を満たすものであったとしても、許されないものと解する
のが相当である。
 四 これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、本件漁業権行使規則
は、五名の管理委員により構成される漁業権管理委員会が漁業を行う者及び当該漁
業を行う者の行使区域、行使期間その他行使の内容たるべき事項を定める旨規定し
ており、右事項についての総会の権限を定めた規定は置かれていないというのであ
るから、前記一3の総会決議が右決定の最終的権限を総会に留保する旨を定めたも
のであるとしても、同規則は、本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者
の決定を専ら同規則に基づいて組織される漁業権管理委員会の権限として規定した
ものと解さざるを得ず、右決議は、同規則と抵触する限度において、その効力を有
しないものというべきである。しかるところ、前記事実関係によれば、漁業権管理
委員会は本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有する者を上告人に決定したと
いうのであるから、右決定につき総会の承認決議を経ていないとしても、上告人は
本件漁業権の内容である漁業を営む権利を有するものといわなければならない。そ
して、本件漁業権行使禁止決議は、上告人が本件漁業権の内容である漁業を営む権
利を有しないことを専らその理由とするものであるから、右決議は、その前提を欠
き、無効と解するほかはない。また、本件除名決議も、上告人が本件漁業権の内容
である漁業を営む権利を有しないにもかかわらず右漁業を営み、本件漁業権行使禁
止決議及びこれを受けた被上告人の勧告、請求に従わなかったことが被上告人の定
款の定める除名事由に該当することを理由とするものであるから、右決議は、除名
事由に該当する事実がないにもかかわらずこれがあるものとしてされたもので、そ
の要件を欠き、無効というべきである。
 右と異なる原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に
影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、その余の点
について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、以上によれば、上告人の
請求をいずれも棄却した第一審判決を取り消して、右請求をいずれも認容すべきで
ある。
よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    山   口       繁

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