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平成30年5月30日判決言渡
平成30年(行ケ)第10009号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年4月18日
判決
原告株式会社坂上鐵工所
同訴訟代理人弁理士牛木理一
被告特許庁長官
同指定代理人内藤弘樹
温品博康
真鍋伸行
正田毅
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2017-8669号事件について平成29年12月4日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴原告は,平成28年5月25日,意匠に係る物品を「中空鋼管材におけるボ
ルト被套具」とする別紙1本願意匠図面記載の形態の意匠(以下「本願意匠」とい
う。)の出願をした(意願2016-11102号)。
(2)原告は,平成29年5月9日付けで拒絶査定を受けたので,同年6月14日,
これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,これを不服2017-8669号事
件として審理した。
(3)特許庁は,平成29年12月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,
同月15日,原告に送達された。
(4)原告は,平成30年1月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本願意匠は,
下記ア,イの引用例に記載された意匠(以下,それぞれ「引用意匠1」,「引用意匠
2」という。)にみられる公然知られた形状に基づいて当業者が容易に創作できたも
のであり,意匠法3条2項に該当する,というものである。
ア引用例1:実開昭54-32025号公報(別紙2引用意匠1図面。甲1第
2図)
イ引用例2:実開昭63-173408号公報(別紙3引用意匠2図面。甲2
第1図)
3取消事由
本願意匠が意匠法3条2項に該当するとした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1創作容易性の判断について
引用意匠1は,ボルトカバーの意匠であり,引用意匠2は,壁補強用金具の意匠
であって,図面上それぞれその形態を異にするものであるから,本願意匠とは存在
目的が全く異なるものであり,これら2つの意匠から,建築用鋼管材の連結のため
に使用するボルトの取付けを確実にするために,鋼管材内部に取り付けたボルト頭
部の上方部分を被套するようにしておくための部品である本願意匠を容易に創作で
きるとはいえない。
2意匠法3条2項の「公然知られた」について
意匠法3条2項は,出願前に「日本国内又は外国において公然知られた形状,模
様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて」当業者が容易に意匠の創作をするこ
とができたときは,意匠登録をすることができないと規定しているのであり,出願
前に「日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠に基づいて」
当業者が容易に意匠の創作をすることができたときは,意匠登録をすることができ
ないとは規定していない。
「日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの
結合」とは,その形態自体が不特定多数の者にとって現実に知られている状態にあ
ることをいうのであり,単に知られ得る状態にあるだけでは成立しないことである
以上,その形態を記載した頒布刊行物がたとえ公然知られた状態にあったものであ
るとしても,その大冊な公報の内部の1頁に記載されている一図面を,特定の形態
自体が公然知られたものとなったと断定することはできない。
被告が引用した意匠図面が記載されている公開実用新案公報が,実際に一般第三
者によって閲覧されたという具体的事実の証明がなされない限り,「公然知られた」
ことを要件とする意匠法3条2項は適用されるべきではない。
〔被告の主張〕
1創作容易性の判断について
本願意匠の出願前に,当業者が知り得る分野において公然知られた形態の全体又
は一部をモチーフとして,それらの形態に基づいて容易に意匠の創作をすることが
できたときは,意匠法3条2項の規定が適用され,当業者の知り得る範囲内に限っ
ては,公然知られた形態が表れている物品が異なっていても構わない。
本願意匠は,建築用鋼管材において連結するために使用するボルトの被套具であ
るところ,引用意匠1は,建築用鋼管材に取り付けるブラケットに装着するボルト
カバー,引用意匠2は,建築用の壁補強用金具であって,いずれも建物の建設ある
いは建築に関係する物品であり,本願意匠を創作する当業者が知り得る分野に属す
る物品のものと認められるものであるから,原告の主張は当を得ない。
2意匠法3条2項の「公然知られた」について
意匠法3条2項所定の「公然知られた」形状に当たるというためには,現実に不
特定の者に知られたという事実が必要であることは,争わない。
しかし,公報の発行は,特許庁が,意匠権を含め産業財産権の発生等を広く国民
に知らしめる行為,すなわち,「公示」の目的をもってされるものであるから,公報
発行の目的とする公示効果によって,当該公報に記載された意匠は,その公報が発
行されたときから,現実に不特定の者に知られるに至ったものと解すべきである。
引用意匠1及び引用意匠2に係る公報は,「ボルト」の技術分野における公開実用
新案公報であることから,出願人企業における知的財産関係部署及び技術開発関係
部署,同業他社における関係部署をはじめ,「ボルト」を部品として使用する一般機
械分野等の企業や同分野に係る出願を扱う弁理士事務所等において,広く情報収集
や情報分析のために使用されているものと強く推認され,本願出願前において,不
特定多数の者により公然知られているものと同視できるものである。
公報は,意匠の創作活動を行う者にとっても,出願する者にとっても重要な情報
源であり,公知情報の収集活動に広く利用されるものであって,物品の分野や公開
情報の新旧を問わず,常に不特定多数の者によって閲覧されているものと考えるの
が相当である。
公報は,日本全国の閲覧所において不特定多数の者によって閲覧されている上,
平成11年3月からは,インターネットを通じて産業財産権情報を提供する「特許
電子図書館(IPDL)」サービスが開始し,平成27年3月からは,IPDLに代
わり「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」の提供を開始しており,
J-PlatPatでは,明治以降発行された1億件を超える我が国の特許,実用
新案,意匠及び商標の公報類はもとより諸外国の公報等も居ながらに閲覧が可能と
なったことからも,公報に記載の内容は全て公然知られたものといえる。
引用意匠1は昭和54年公開,引用意匠は昭和63年公開の公開実用新案公報で
あり,両引用意匠とも,公開から本件意匠登録出願時までに十分な年月が経過して
いる上,平成11年からはIPDL,平成27年からは,J-PlatPatによ
り,インターネット等を通じても公開されているのであるから,両引用意匠の公報
発行日から本願意匠出願時まで,不特定多数の者により公然知られている蓋然性が
高いものである。
よって,公報記載の引用意匠1及び引用意匠2を公然知られた形状として引用し
た本件審決に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願意匠の創作容易性について
(1)引用意匠1及び引用意匠2の公知性について
ア意匠法3条2項は,公然知られた形状等に基づいて容易に意匠の創作をする
ことができたときは,意匠登録を受けることができない旨を規定している。公然「知
られた」との文言や,同条1項が,刊行物に記載された意匠(同条1項2号)と区別
して「公然知られた意匠」(同条1項1号)を規定していることと対比すれば,「公然
知られた」というためには,意匠登録出願前に,日本国内又は外国において,現実に
不特定又は多数の者に知られたという事実が必要であると解すべきである。
イ引用意匠1は,昭和54年に公開された公開実用新案公報に記載された意匠
であり,引用意匠2は,昭和63年に公開された公開実用新案公報に記載された意
匠である。したがって,引用意匠1の記載された公報は,本願意匠の登録出願時ま
でに37年が,引用意匠2の記載された公報は,同じく28年が,それぞれ経過し
ている。
特許庁発行の公報は,閲覧・頒布等によりその内容を周知する目的のものであり,
多数の公共機関に対し交付され,これらの機関の多くにおいて一般の閲覧に供され
ている。引用意匠1の記載された公報が発行された翌年の昭和55年当初における
交付先施設数は225か所で,このうち,一般の公開に供している地方閲覧所は1
15か所であり,昭和54年の一般地方閲覧所の公報類の閲覧者数は23万387
9人である(乙1の1・2)。引用意匠2の記載された公報が発行された昭和63年
末における交付先施設数は195か所で,このうち,一般の公開に供している地方
閲覧所は102か所であり,同年の一般地方閲覧所の公報類の閲覧者数は16万8
709人である(乙2)。
さらに,特許庁では,平成11年3月にインターネットを通じて産業財産権情報
を無料で提供する「特許電子図書館(IPDL)」サービスを開始した。また,その
後,その運営の移管を受けた独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)に
おいて,平成27年3月から「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」
の提供を開始している。J-PlatPatでは,明治以降発行された1億件を超
える公報類や諸外国で発行された公報を蓄積しており,文献番号,各種分類,キー
ワード等により検索することが可能である(乙3)。
ウ以上の事実を総合すると,引用意匠1及び引用意匠2の記載された公報が,
いずれも,本願意匠の登録出願時まで長期にわたって公然知られ得る状態にあって,
現実に不特定又は多数の者の閲覧に供されたことが認められる。そして,これらの
事実によれば,これら公報に記載された引用意匠1及び引用意匠2に係る形状が,
現実に不特定又は多数の者に知られた事実を,優に推認することができる。
(2)創作容易性について
本願意匠は,意匠に係る物品を「中空鋼管材におけるボルト被套具」とし,その形
状は,正面視をハット状,平面視を横長長方形の板状としたものである。
引用意匠1は,建築構成材や建築構造材に固定される横長長方形板状の支持具の
表面に現れるボルトの頭部を,支持具全体を被覆して保護するボルトカバーに係る
意匠であり,横長長方形板の左側端部を内側にコ字状に屈曲させ,右側端部をL字
状に屈曲させた形状のものである(甲1)。
引用意匠2は,壁等の補強用金具に係る意匠であり,全体形状を,正面視をハッ
ト状に形成した横長長方形板とし,底面中央の凹陥部に他部材を抱持して両端部を
固着したものである(甲2)。
引用例1によれば,引用意匠1のボルトカバー(7)は,固定板(1)の係止リブ
(8a)(8b)に形合するように,その端部の形状が形成されているものであり,
端部の形状は,ボルトカバーを取り付ける箇所等に応じて,当業者が任意に選択で
きるものと解される。そうすると,建築部材の分野における当業者であれば,引用
意匠1のボルトカバーに,引用意匠2の形状を適用して,ボルトカバーの端部の形
状を変更し,正面視をハット状,平面視を横長長方形の板状とすることは,容易に
なし得ることであるから,本願意匠は,当業者が,引用意匠1に,引用意匠2を適用
して,容易に創作することができたものと認められる。
(3)原告の主張について
ア原告は,引用意匠1は,ボルトカバーの意匠であり,引用意匠2は,壁補強用
金具の意匠であって,図面上それぞれその形態を異にするものであるから,本願意
匠とは存在目的が全く異なるものであり,これら2つの意匠から,建築用鋼管材の
連結のために使用するボルトの取付けを確実にするために,鋼管材内部に取り付け
たボルト頭部の上方部分を被套するようにしておくための部品である本願意匠を容
易に創作できるとはいえない旨主張する。
しかしながら,意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフを基
準として,当業者が容易に創作することができた意匠か否かを問題とするものであ
る。引用意匠1はボルトカバーの意匠であり,引用意匠2は壁補強用金具の意匠で
あって,同じ建築部材の範ちゅうに属するものである。上記の範ちゅうの分野にお
ける当業者にとって,引用意匠1と引用意匠2が形態を異にするものであることや,
引用意匠と本願意匠の存在目的が異なることをもって,容易創作性が否定されると
解すべき理由はない。
イ原告は,大冊な公報の内部の1頁に記載されている一図面について,「特定の
形態自体が公然知られたもの」となったと断定することはできないと主張する。
しかし,J-PlatPatを利用すれば,Fターム分類体系等を利用して体系
的な技術情報を入手することが可能であるから(乙3),公報が大冊であることは,
不特定又は多数の者の閲覧に供されたとの推認を妨げるものではない。
ウまた,原告は,被告が引用した意匠図面が記載されている公開実用新案公報
が,実際に一般第三者によって閲覧されたという具体的事実の証明がされない限り,
意匠法3条2項は適用されるべきではないなどと主張する。
しかし,公報内の具体的な図面が知られていることや,引用図面が記載された公
報が実際に第三者によって閲覧されたことの証明までなくても,本件において,引
用意匠1及び引用意匠2の記載された公報が,いずれも,現実に不特定多数の者の
閲覧に供され,これら公報に記載された引用意匠1及び引用意匠2に係る形状が公
然知られたものとなっていた事実を推認できることは,前記(1)のとおりである。
エ以上のとおり,原告の主張はいずれも採用できない。
(4)小括
以上によれば,本願意匠は,引用意匠1及び引用意匠2の公然知られた形状に基
づいて当業者が容易に創作できたものであり,意匠法3条2項に該当する。
2結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官高部眞規子
裁判官古河謙一
裁判官関根澄子
別紙1本願意匠図面
別紙2引用意匠1図面
別紙3引用意匠2図面

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