弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人三木大一郎の上告理由について。
 被上告人の所論事業の経営が、所論のように道路運送法四条一項に違反しても、
その事業経営の過程において、被上告人が他人と締結するそれぞれの運送契約が私
法上当然無効となるべき筋台のものではなく、被上告人は右契約に基づき相手方に
対し運送賃の支払を請求し得る権利を取得し、右権利に基づき運送賃を受領するこ
とを妨げないものといわなければならない。しからば、原判示の、得べかりし利益
の喪失は、民法四一六条により賠償を受け得る通常生ずべき損害に該ると解するの
が正当である。所論は、右と異なる法律解釈を前提として原判決を非難するもので
あり、前提を欠く主張であつて、原判決は結局正当である。それ故、所論は採るを
得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官入江俊郎の補足意見、裁
判官松田二郎の少数意見あるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官入江俊郎の補足意見は次のとおりである。
 本件において原判決の確定したところによれば、上告人が債務の本旨に従つた履
行をしないため、被上告人は本件自動車を使用することにより得べかりし営業利益
(運送賃)を失つたというのであるから、該損害の賠償を請求し得べきは当然であ
り、当時被上告人が道路運送法四条一項所定の自動車運送事業の免許を受けていな
かつたからといつて、右請求の当否は左右されない。けだし、被上告人が事業経営
の過程で他人と締結する各個の運送契約は、前記法条によつて無効となるものでな
いことはもとより、公序良俗ないし社会の倫理観念に反する不法な行為として無効
となるものでもないから、被上告人が上告人の債務不履行によつて運送契約に基づ
く運送賃取得の機会を失つた以上、賠償されるべき損害の実体は現存するものとい
わなければならない。また、道路運送法四条一項の事業免許制の根本趣旨は、事業
の公共性に鑑み、輸送秩序の維持と不当競争の防止を図ることにあり、事業による
営利自体を直接規整しようとするものではないことをあわせ考えると、被上告人の
損害賠償請求を目して、不法な行為をしたならば得べかりし営業利益の賠償を求め
るものと断ずることはできない。まして、自動車が被上告人の運送事業に使用され
るものとして売買されたことが看取できる本件において、上告人が自己の債務不履
行によつて被上告人をして自動車使用による営業利益を失わせながら、これを賠償
する責任を負わないと解するがごときは、民法四一五条が依拠する損害の公平な負
担という理念に徴し、とうてい首肯することはできない。
 わたくしは以上の趣旨において、上告人の本訴請求を認容した原判決を正当と認
め、多数意見を支持する。
 裁判官松田二郎の少数意見は次のとおりである。
 原判決およびその是認引用する第一審判決によれば、被上告人が昭和三元年一〇
月以前、運輸大臣の免許を受けずして自動車運送事業を営んでいたことが窺われ、
右は道路運送法四条一項に違反することは明らかである。もつとも被上告人が右期
日前に他人と締結したそれぞれの運送契約は、私法上当然無効でない。このように
解することによつて、被上告人が締結した運送契約の効果に動揺を与えることなく、
またその契約の相手方たる第三者がその契約の法令違反を理由として、いわれなく
運送賃の支払義務を免れることを防止しうるのである。私はこの限りにおいて、多
数説に賛成するものである。
 しかしながら、叙上の考えをもつて被上告人が得べかりし利益を請求している本
件を律し得ない。本件における被上告人の主張は次のとおりである。すなわち、被
上告人は自動車運送事業によつて利益を得べかりしところ、上告人の債務不履行の
ため、その得べかりし利益を喪失したので、上告人にその損害賠償を求めるという
のであるが、被上告人の得べかりし利益は道路運送法四条一項に違反し免許を受け
ないで右運送事業を営むことを前提とするものなのである。換言すれば法令違反を
行なつたならばということを前提としての損害賠償の請求である。それは、免許を
受けないで運送事業を営む者の現に締結した運送契約の効力とは、別個の見地より
考察されるべき問題である。
 もつとも前記法条違反行為のごときは公序良俗違反とまでは認められないにせよ、
本来免許を受けずして自動車運送事業は行なうべからざるものであり、従つて免許
を受けない自動車運送事業を営むことを前提とする「得べかりし利益」なるものは、
それ自体法律上認められないのである。しかもかかる無免許のときは、自動車の使
用を禁止されることあるによつて、現実に利益を得ること能わざるに至ることがあ
るのは、言うを俟たないのである。されば被上告人が免許を受けずして行なう自動
車運送事業によつて、必ずしもその主張するがごとき額の利益を得べかりしものと
認められないのみならず、仮に利益を得べかりしものとしても、かかる利益は法の
保護に値しないものといわなければならない。しからば、上告人の論旨は理由があ
り、被上告人の請求を認容した第一審およびこれを是認した原審の判断は失当であ
ること明らかである。
 よつて原判決を破棄し、第一審判決を取消し、被上告人の請求を棄却すべきもの
である。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
 裁判官斎藤朔郎は死亡につき、署名押印することができない。
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎

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