弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人宇野要三郎の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決は同一の事実に対し二個の相容れざる認定をしたものであるから、
その理由にそごがありかつ重大なる事実誤認があると主張するものであつて、刑訴
四〇五条の上告理由に当らない。なお原判決は、「商法四九一条にいわゆる預合と
は、株式会社の発起人又は取締役が、株金払込を仮装するために、払込を取り扱う
金融機関の役職員と通謀してなす偽装行為をいうものと解するのが相当である」が、
本件においては、「被告人両名が原判示A株式会社の発起人として、真実株式引受
人全員から株金の払込がなかつたのにかかわらず、設立登記を完了する方便として、
他人から金借し、形式上株金の払込があつたように仮装して、株式会社B銀行C支
店に払い込み、株式払込金保管証明書の交付を受けた上、その設立登記手続を完了
するや直ちに該金員の払戻を受けて貸主に返済している」のであつて、従つて被告
人両名に株金払込を仮装する目的のあつたことは明らかであるけれども、被告人等
と払込取扱機関たる前示銀行支店の役職員との間に通謀のあつた事実は記録上これ
を肯認する資料を発見することができない」と判示して、第一審判決が本件公訴事
実中商法四九一条違反の点につき無罪の言渡をしたことを相当であると肯認してい
る。右原判示の趣旨は、所論の「預合」も「見せ金」もともに、株金払込を仮装す
る目的でなされる行為ではあるが、前者の場合には払込取扱機関の役職員との通謀
を必要とするけれども、本件ではその通謀が認められないから「預合」の罪は成立
しないというに帰し、従つて原判決の事実認定および理由には、なんらの矛盾もな
いことが明らかであつて、所論非難は全て失当である。
 同第二点について。
 所論は、事実誤認または単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由
に当らない。なお原判決は、所論主張のように、単に、他人から金借して払込をし
たものであることを理由として仮装の払込であるとか、或は、登記完了直後に払込
金全額の払戻を受けた事実のみを捉えて株金払込が違法であると断じたものでない
ことは、前記第一点において引用の原判示に照らし明らかである。所論は原判示に
添わない主張であつて失当である。
 同第三点について。
 所論は、証拠の価値判断の非難、採証法則違背の主張であつて刑訴四〇五条の上
告理由に当らない。
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 所論は刑訴法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、
控訴審が第一審判決を量刑不当として破棄自判するに当つては、第一審判決の確定
した事実に対し法令の適用を示せば足り、控訴審として改めて事実を認定する必要
がないのであるから、所論のように証拠を挙示する必要はない。昭和三〇年一二月
一日第一小法廷決定刑集九巻一三号二五七七頁、昭和二九年四月一三日第三小法廷
判決刑集八巻四号四六二頁各参照。
 同第二点について。
 所論は、要するに被告人が本件所為につき原審相被告人Dと共謀した事実はない
との事実誤認とこれを前提とする刑法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理
由に当らない。
 同第三点について。
 所論は違憲をいうが、その実質は事実誤認と単なる法令違反の主張であつて、刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。
 弁護人小中公毅の上告趣意第一点について。
 所論は、事実誤認と単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当
らない。
 同第二点について。
 所論は判例違反を主張するが、原判決の認定に添わない事実関係を前提とするも
のであるから、既にその前提において失当であつて、上告適法の理由とならない。
 よつて刑訴四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
 公判出席検察官 斎藤三郎
  昭和三五年三月二五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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