弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士鍛治利一名義の上告理由第一点、同三浦強一、同秦野楠雄の上
告理由第二点の第一、第四点、同秦野楠雄の上告理由第一点について。
 原判決が「本件山林は、訴外Dが養父Eの隠居に因る家督相続によりその所有権
を取得したものであるところ、上告人(被控訴人、原告)の父Fが上告人を代理し
て昭和二二年一月一一日代金五万円でDから買受け同月二八日その所有権登記をし
たものであるが、その買受を契機として右相続について養親子間に紛争を生じ、そ
の所有権が訴訟を以て争われる形勢となつたので、Fは、Dが敗訴した場合には、
被上告人が本件山林を追奪されるかも知れないと心配し、かつて裁判所書記をして
いた訴外Gに相談した上、本件山林を更に第三者に移転する気になり、同年四月一
一日頃被上告人の代理人として控訴人(被上告人、被告)に対しこれを右買値と同
値の五万円で好意的に売渡し、代金支払については、将来被上告人に現金ができた
ときに支払を受けることの了解の下にその支払時期の定めもしないで、Fが当事者
双方の代理をし登記費用もFにおいて支払つて所有権登記手続をし且つ本件山林を
被上告人に引き渡したものであつて、本件売買は真実になされたもので通謀虚偽表
示とはいえない」旨判示したこと、竝びに右動機目的等認定の資料として第一審の
証人Gの証言全部を無条件に採用したことは、所論のとおりである。
 そして、右原判決の確定したところによれば、本件当事者間における本件山林の
売買並びに登記の動機目的は、FにおいてDが敗訴した場合における本件山林の追
奪を恐れGに相談の上第三者に移転するにあつたこと明白であり、また、前記証人
Gの証言によれば、右の動機目的は名義を被上告人に仮託しただけであつて、真実
の売買並びに登記をするためでなかつたことを看取するに難くはないのである。さ
れば、かかる動機目的に出た本件売買が真実であつて、通謀虚偽表示でないといい
うるには、その代金額、支払時期、登記手続の方法、費用の負担、その目的物の引
渡等について、吾人をして首肯せしめるに足りる特段の事情あることを判示しなけ
ればならないこというまでもないのである。けだし、真実の売買にあつては通常利
益を得て転売するか又は特に現金獲得の必要ある等を普通とし、その登記手続のご
ときも当事者双方出頭の上登記料も買い主において負担すべく、また、目的物の引
渡も代金と引換に行うを経験則上普通とするからである。しかるに、原判決は、単
に被上告人はF及びその子上告人と極めて親しい親族であつて、Fの依頼によつて
安い給料で牛船の運転に従事していたので、本件山林を買値と同値の五万円で好意
的に売り渡し、代金支払については将来被上告人に現金ができたときに支払を受け
ることの了解の下にその支払の時期の定めもしないで、Fが当事者双方の代理をし、
登記費用もFにおいて支払つて所有権移転登記手続をし且つ本件山林を被上告人に
引渡したものであつて、本件売買は真実になされたもので通謀虚偽表示とはいえな
いと判示したに過ぎないのである。しかし、前記のごとき動機目的に出た本件売買
並びに登記が判示のごとく単に親しい親族であるというだけで真実のものと解する
ことはできない。むしろその故に仮託したものとも解することができるのである。
また、判示のごとき安い給料で牛船の運転に従事していたとしても、その計算関係
を明らかにしないで買値と同値でしかも判示のごとく支払時期の定めもしないで本
件山林を買受より約三ケ月目に急いで真実売買し且つこれが引渡をなすがごときは
経験則上たやすく首肯することができない。されば、右の点において原判決には理
由不備の違法あるばかりでなく、却つて、証人Gの証言の趣旨に反して動機目的と
売買との間に理由のそごを生ぜしめたものというべく、所論はその理由があつて、
原判決は、爾余の論旨につき判断を与えるまでもなく破棄を免れない。
 よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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