弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

              主       文
       本件控訴を棄却する。
              理       由
 本件控訴の趣意は,主任弁護人恵木尚及び弁護人田上剛連名作成の控訴趣意書
及び控訴趣意書補充書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,要するに,原判決は,平成13年7月29日施行の第19回参議院議
員通常選挙に際し,参議院広島県選出議員通常選挙に立候補したAの選挙運動者
である被告人が,A候補に当選を得しめる目的をもって,同月17日ころ,広島
県安芸郡a町内のB店において,選挙人Cほか8名に対し,黙示にA候補への投
票を依頼し,その報酬として,1人あたり2570円相当の酒食の供応接待をし
たと認定したが,被告人は,A候補への投票依頼をしたことはなく,投票に関す
る報酬の趣旨はなかったし,受供応者も供応の趣旨を認識していなかったから,
原判決には,事実の誤認がある,というのである。
 そこで,検討すると,関係証拠によれば,原判示の「認定した犯罪事実」中の
上記の事実認定及び「補足説明」の項における説示は,証人及び被告人の供述の
信用性に関する判断を含めて,当裁判所も概ね正当なものとして是認することが
できるから,原判決には所論のいう事実の誤認はない。そして,上記認定判断
は,当審における事実取調べの結果を考慮しても左右されない。以下,所論にか
んがみ,付言する。
1 関係証拠によれば,本件の事実経過は,概ね,以下のとおりであると認めら
れる。
 (1) 被告人は,かき養殖業を営みながら,昭和52年4月ころからa町議会議
員を務めるとともに,D漁業協同組合組合長,E漁業協同組合連合会理事,F漁
業共済組合理事を兼務していた。
 (2) 受供応者とされるC,G,H,I,J,K,L,M,Nら9名は,いずれ
も,被告人と同じa町b地区の住民であり,同級生,組合員,同業者などの知人
や実弟であった。
 (3) 第19回参議院議員通常選挙は,平成13年7月12日公示され,同月2
9日投票が施行された。広島県選出議員の候補者として,O党に所属するAほか
5名が届け出た。
 (4) 被告人は,政党などの政治団体には加入していないが,平成八,九年こ
ろ,P県議会議員の年始の催しに出席したことから,P議員を応援するようにな
り,また,P議員がO党所属のQ衆議院議員を支持していたことから,Q議員へ
の投票を依頼するなどして応援するようになった。そして,被告人は,Q議員と
同じくO党に所属するA候補についても,前回の通常選挙では選挙事務所での出
陣式に出席し,出席者名簿に名前を記入したことがあり,今回も選挙事務所での
出陣式にも出席したが,その後はかきの養殖の仕事が忙しいことなどもあって,
同候補の選挙運動には参加していなかった。
 (5) 選挙公示の数日後,被告人は,P議員の妹から,同月17日に催されるA
候補の個人演説会に出席者を集めるよう頼まれ,同日の夕方までに,自ら,ある
いは,実弟のMを通じて,被告人が車で送迎するなどと言って,Cら9名に対
し,演説会への出席を勧誘した。
 (6) 同日,被告人や上記9名は,被告人の運転する車に分乗するなどして,A
候補の個人演説会の会場であるR小学校体育館に行った。演説会は,午後7時こ
ろから始まり,a町町議会議長,P議員,Q議員などがA候補への投票を呼びか
ける演説をしたが,その際,被告人は,一般席ではなく,他の町議会議員などと
一緒に来賓席において応援演説を聞いていた。
 (7) 午後8時ころ,演説会が終了した後,被告人らが車で帰ろうとしたとこ
ろ,上記9名のうちの1人が「暑かったのう。冷たいのを一杯飲みたいのう。」
などと言った。そして,被告人は,同人らに対し,「皆,疲れているのにすまん
のう。帰りにBで冷たい物でも飲もう。わしがおごるけえ。」などと声をかけ,
被告人の車に分乗するなどして,a町内の飲食店B店に行った。
   なお,被告人らは,捜査段階では,上記の事実に沿った内容の供述をして
いたが,原審の公判廷においては,被告人が自分のおごりで一杯飲もうと誘う趣
旨の発言をしたことはないなどと供述し,捜査段階の供述を変遷させている。し
かしながら,飲食後,上記9名は,飲食代金の額や支払いの確認をしないまま,
順次,帰宅し,被告人が,当然のことのように飲食代金全額を1人で支払う旨店
主に告げていることなどに照らすと,被告人らの原審の公判供述はたやすく信用
できない。
 (8) 被告人らは,B店において,生ビール,焼酎,つまみなどを飲食した。飲
食後,被告人は,自分が飲食代金合計2万5700円を支払うと店主に告げて帰
り,同月27日ころ,被告人の妻が代金全額を支払った。
 (9) 被告人は,投票日後の同月30日,本件飲食について警察が捜査している
ことを聞き及び,同日及び翌日にかけて,妻と手分けして,飲食代金は割り勘に
するなどと言って,上記9名から1人あたり2570円を徴収した。
 (10) 被告人は,同人らを送迎する際,同人らに対し,A候補への投票を要請
する発言をしたことはないし,B店の店内においても,被告人らのほかにも,カ
ラオケなどに興じる客が何名かおり,被告人が,投票依頼などをしたことはな
い。
2 なお,捜査状況報告書(原審検第2号証)には,一般の客を装った警察官ら
は,B店の店内において,被告人らのうちの1人が,ほかの女性客から,「今日
は,何の寄り合いね。」と聞かれ,いったんは返答を渋ったが,「Aさんの分じ
ゃろ。」と質問され,「ほうよ,ほうよ。わしらがせんにゃ誰もするもんがおら
んけぇ。Sさんがすりゃええんじゃが,あの人がせんけぇ,わしらがするんよ。
この9月には,Tさんのもあるけえ,やったげんにゃいけんのじゃ。」などと話
していたことを聴取したとの記載がある。そして,当審における証人U及び証人
Mの各供述によれば,MがB店において他の客との会話でA候補の個人演説会に
行ってきたなどと話をしたことはうかがわれるものの,他方,U及びMは,いず
れも,趣味としているカラオケの話となり,カラオケ大会に参加しないかとか,
カラオケグループのSさんが大会に出たらいいなどと話したことはあるが,A候
補への応援などについて会話をしたことはないなどと供述しており,Uと一緒に
B店で飲食していたVの警察官調書(原審検第12号証)によれば,MがUや自
分がいるテーブルでカラオケの話をしたことや,店内では,Sらの女性グループ
がカラオケをしていたことも認められる。そうすると,捜査状況報告書の上記会
話聴取部分の記載が,一連のつながりのある会話としてなされたものかどうかは
疑わしく,全体がA候補の選挙応援などに関する趣旨でなされたものと断定する
ことはできない(上記捜査状況報告書の記載部分を裏付ける十分な捜査はなされ
ていない。)のであり,B店の店内における飲食の際,被告人らの間で,A候補
への投票や応援について何らかの会話がなされたと認めるに足りる証拠はない。
したがって,原判決が上記の捜査状況報告書中の会話部分を受供応者の供応の趣
旨の認識を推認させる根拠としたのは相当でなく,この点に関する弁護人の所論
は理由がある。
3 これらの事実関係によると,被告人は,本件飲食の際や演説会への送迎の際
にも,受供応者とされる9名に対し,言葉に出して,A候補への投票を要請する
などしたことはないし,被告人らが,本件飲食の際,A候補の個人演説会のこと
など,参議院選挙について何らかの会話をしたことを認めるに足りる証拠はな
い。また,本件飲食は,被告人が当初から予定していたものではなく,被告人が
個人演説会への出席を勧誘した者のうちの1人が一杯飲みたいなどと言ったこと
がきっかけとなり,被告人が同人らを飲食に誘うこととなったものである。そう
すると,被告人が,検察官調書(原審検第37号証)において,「特に,私が参
加を呼びかけたメンバーは,私の頼みで,わざわざ暑い中,仕事の手を休めて来
てもらったわけですから,その労をねぎらわなくてはならないと思い,みんなに
酒でもごちそうしなければならないと思いました。」などと供述し,自分の頼み
で演説会に出席してくれた労をねぎらいたいとの気持ちとなったというのも,十
分に首肯できるものである。
  しかしながら,他方で,被告人は,長年にわたりa町議員として政治活動を
していたものであり,A候補が所属する政党の衆議院議員の選挙運動をしたこと
があるほか,A候補についても,今回の通常選挙を含め,選挙事務所の出陣式に
出席するなどして,その選挙応援をしていた。そして,本件当日は選挙期間中で
あるところ,被告人は,応援している県議会議員の妹から,A候補の個人演説会
への出席者を集めるよう依頼され,これに応じて,知り合いら9名を誘って,被
告人の運転する車に乗せるなどして,同人らと共に,特定の候補者への投票依頼
を目的とする個人演説会に参加し,しかも,一般の聴衆者の席ではなく,選挙運
動者らが同席する来賓席において個人演説会に参加していたのであるから,上記
9名に対し,直接的ではないにしても,A候補への投票に結びつくことを期待し
て,個人演説会に勧誘したものであり,同人らから,被告人自身がA候補を応援
支持していると理解されることを十分に分かっていたというべきである。被告人
は,他の者が言い出したとはいえ,被告人が個人演説会に誘った9名全員を対象
として,個人演説会の終了後,これに引き続いて,自分の費用で飲食することを
申し出て,居酒屋において1人あたり2570円相当の飲食物の供応接待をして
いる。被告人は,居酒屋では,同人らに対し,直接的にはA候補への投票依頼を
していないが,これはほかにも客がいたとの事情があったからと考えられる。ま
た,今回の飲食に,特定の候補者の個人演説会に参加したことに対する慰労以外
の目的や趣旨があったわけではないから,こうした慰労そのものが,特定の候補
者への投票を促すことにつながることは明らかである。そうすると,被告人が自
分の費用で受供応者らを接待したのは,主として,個人演説会に出席したことへ
の慰労であるが,副次的に投票依頼の趣旨を含む行為であるといわざるを得な
い。そして,選挙期間中における,このような供応が特定の候補者への投票を働
きかける趣旨を含んでいることは,受供応者をして容易に理解させるに足りるも
のであるということができる。また,被告人が,本件発覚後,受供応者らから,
急遽,飲食代金を徴収しているのも,これを裏付けるものである。
  そうすると,本件の飲食物の提供が,A候補への投票を依頼したことへの報
酬の趣旨であったとの捜査段階における被告人及び受供応者らの供述は,本件供
応接待の経緯とも合致し,十分に信用できる。
4 所論は,原判決が,Iら受供応者らの公判供述は,検察官調書における供述
と比べて信用できないと説示しているのは不当である,というのである。
  しかしながら,Iらの公判供述は,被告人がA候補の個人演説会への出席を
依頼しているのに,被告人がA候補の応援をしているとは思わなかった,個人演
説会で演説者が「頼みます。」と言っているのに,その趣旨については投票を依
頼するものであるとは思わなかった,B店に行く以前に,B店に行こうという話
が出たことはなく,何も話がないまま,B店に行ったなどというものであって,
原判決が説示しているとおり,これらの供述は不自然といわざるを得ない。受供
応者らは,本件犯行を争っている被告人と親しい関係にあり,被告人の面前で
は,被告人にとって不利になる事実を供述できない状況にあることが,上記のよ
うに不自然な供述をした重要な原因であるとうかがわれる。他方,Iらの検察官
調書は,上記の事実経過とも,よく符合しており,十分に信用できる。
  また,所論は,被告人は,早く釈放してもらうために警察官の要求する内容
に合わせて供述したものであり,被告人の捜査段階の自白には任意性がないし,
被告人は,具体的な投票依頼もしていないから,供応の認識はなく,捜査段階の
自白には信用性はない,というのである。
  しかしながら,被告人の捜査段階での供述調書をみると,被告人が受供応者
らに対し投票の依頼を言葉に出したことはない,本件飲食は演説会に出席してく
れた人への慰労が主目的であり,投票依頼は副次的な目的であるなどと被告人の
言い分や有利な内容も記載されているのであって,原判決が指摘するとおり,そ
の任意性には疑いがないうえ,上記説示のとおり,本件飲食の経緯ともよく合っ
ており,不自然,不合理な点はなく,十分に信用できる。
  そのほか,弁護人がいろいろと主張するところを全て検討しても,原判決の
上記事実認定は正当であって,事実の誤認はない。
  論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり
判決する。
  平成15年11月20日
    広島高等裁判所第一部
          裁判長裁判官   久   保   眞   人
             裁判官   芦   高       源
             裁判官   島   田       一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛