弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)及び(二)記載のとおりである。
 一、 本件仮処分申請の要旨は、相手方有限会社現代映画社(以下単に現代映画
社という)の製作にかかる映画「エロス十虐殺」(以下単に本件映画という)の公
開上映によつて、抗告人は現に違法にその人格的利益(特に名誉権及びプライバシ
ー権)を侵害され、かつ、将来もこれを侵害される虞があるので、右侵害を排除
し、予防するため、本件映画の公開上映の差し止め(禁止)を求める、というので
ある。
 <要旨第一>現行法は人格的利益の侵害に対する救済として、損害賠償ないし原状
回復を認めることを原則とするけれども、人格的利益と侵害された被害
者は、また、加害者に対して、現に行われている侵害行為の排除を求<要旨第二>
め、或は将来生ずべき侵害の予防を求める請求権をも有するものというべきであ
る。しかし、人格的利益の侵害が、小説、演劇、映画等によつてなされ
たとされる場合には、個人の尊厳及び幸福追求の権利の保護と表現の自由(特に言
論の自由)の保障との関係に鑑み、いかなる場合に右請求権を認むべきかについて
慎重な考慮を要するところである。そうして、一般的には、右請求権の存否は、具
体的事案について、被害者が排除ないし予防の措置がなされないままで放置される
ことによつて蒙る不利益の態様、程度と、侵害者が右の措置によつてその活動の自
由を制約されることによつて受ける不利益のそれとを比較衡量して決すべきであ
る。
 <要旨第三>二、そこで、このような見地に立つて、本件において、果して抗告人
に右の請求権を認めることができるか否かについて判断する。
 本件に現れた疎明により当裁判所が認定した、(ア)抗告人の経歴に関する事
実、(イ)相手方現代映画社が申請外Aの監督の下に本件映画を製作し、これを公
開上映するまでの経緯に関する事実、ならびに、(ウ)本件映画の製作の意図及び
その内容に関する事実は、原決定六丁表末行冒頭から同丁裏二行目末尾までを、
「しているほか、抗告人はa館等においてBに対し打算的言辞を弄したものとして
描かれ、結局抗告人はBとの恋愛関係における敗北者としてCとは対照的に描出さ
れている。」とあらためるほかは、原決定の認定説示と同一であるから、当該部分
(原決定三丁裏八行目から七丁表四行目まで)を引用する。
 右認定の事実によれば、本件映画の中心的素材とされているBをめぐる抗告人、
Cらの恋愛的葛藤、及び、いわゆるD事件は、前記著書等(そのうちには抗告人の
著述にかかるものもある)に記載されており、右は主として昭和三〇年頃から昭和
四〇年頃にかけて刊行された一般的著作物であるから、右事実は現在においても世
上公知のものであるといつて差支えない。しかも、疎明によれば、抗告人は昭和四
〇年三月刊行の「私の履歴書第二三集」においても右事件等の概要を記述している
ことも認められる。一方、右認定の事実によつても、右A及び相手方現代映画社
が、、徒らに抗告人の公開を欲しない私事を暴露し、かつ、事実を歪曲誇張するこ
とによつて、大衆の単なる好奇心に媚びようといつたような低劣不当な意図のもと
に本件映画を監督製作したとは認められないばかりでなく、本件映画自体も右の如
きていのものであるということもできない。
 右の次第であつてみれば、本件映画の公開上映によつて、当然に抗告人がその名
誉、プライバシー等人格的利益を侵害されるとは、たやすく断じ得ないから、現在
抗告人に、本件映画の公開上映を差止めなければならない程度にさしせまつた、し
かも回復不可能な重大な損害が生じているものと認めることはできない。
 従つて、本件において抗告人が第一項記載の請求権を有するものと認めることは
困難である。
 三、 叙上のとおりであるから、結局抗告人の本件仮処分申請は、被保全権利に
ついて疎明がないことに帰着し、しかも、本件において保証を以てこれが疎明にか
えることは相当と認められないから、右申請は更に立入つて判断するまでもなく、
理由がないものと言わざるを得ない。
 してみれば、右申請を却下した原決定は結局相当であつて、本件抗告は理由がな
いからこれを棄却すべく、なお、抗告費用は敗訴の抗告人の負担として、主文のと
おり決定する。
 (裁判長裁判官 岡部行男 裁判官 川上泉 裁判官 大石忠生)
別 紙 (一)
<記載内容は末尾1添付>
別 紙 (二)
<記載内容は末尾2添付>

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