弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1東京都教育委員会が平成15年9月11日付けで原告に対してした懲戒処分
及び分限処分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,東京都立α養護学校(以下「本件学校」という。)の校長であった原
告が,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)から平成15年9月11日
付けで受けた停職1か月の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)及び東京
都公立学校長を解く旨の分限処分(以下「本件分限処分」といい,本件懲戒処分
と併せて,以下「本件各処分」という。)の取消を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実には証拠等を掲記しない。)
(1)本件学校
本件学校は,昭和46年1月に,隣接する東京都βに在園する学齢児童,
生徒のための施設提携校として創立された知的障害児養護学校であり,昭和
60年からは日野市からの通学生も受け入れている。平成15年度の児童,
生徒数は,小学部68人,中学部29人,高等部72人の合計169人(う
ちβ生は88人),児童,生徒の傷害,疾病の状況(重複あり。)は,知的
障害48人,自閉症47人,てんかん40人,その他37人であった。同年
度の教員数は,校長,教頭3名,教諭77名,養護教諭2名,その他生徒指
導担当等4名の合計87名であった。(甲3)
(2)原告の経歴
原告は,昭和45年4月1日,東京都公立学校教員として採用され,数校
の学校の教員,教頭を経て,平成10年4月1日に東京都公立学校長に任命
され,本件学校に着任し,平成15年3月31日まで在職した。
原告は,同年4月1日付けで東京都立γ養護学校に異動し,同年9月11
日,本件分限処分により東京都公立学校長を解かれ同校教諭となり,本件懲
戒処分による1か月間の停職の後,同年10月12日,東京都立δろう学校
教諭に補された。
(3)本件各処分の発令
ア本件懲戒処分
都教委は,平成15年9月11日,原告の下記①∼③の行為(以下番号
を付し,「懲戒理由①」の例で呼称する。)が地方公務員法32条に違反
するとともに,全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であって教育公務
員としての職の信用を傷つけ,職全体の不名誉となるものであり,同法3
3条に違反するとして,原告に対し,本件懲戒処分をした。
①原告は,平成11年度,平成13年度及び平成14年度の学級編制に
おいて,仮決定を受けた重度・重複学級の一部を編制せず,実際には学
級を減じていたにもかかわらず,仮決定どおりの学級編制を行ったとす
る虚偽の報告を行い,不正に教員の配当を受けた。
②原告は,平成13年度から平成14年度までの本件学校の運動会及び
学習発表会の後の反省会において,勤務時間内であるにもかかわらず,
職員と共に飲酒した。
③原告は,平成14年11月22日,勤務時間内であるにもかかわらず,
職場離脱を行い,職員と共に旅行に参加した。
イ本件分限処分
都教委は,平成15年9月11日,原告の下記①∼⑦の行為(以下番号
を付し,「分限理由①」の例で呼称する。)が,法令,法規を遵守して所
属職員を指導,監督すべき教育管理職としての適格性を欠く行為であり,
同法28条1項3号に該当するとして,原告に対し,本件分限処分をした。
①原告は,平成11∼14年度の学級編制において,都教委に対し虚偽
の報告をするとともに,都教委に届け出た学級編制表と異なる保護者配
布用の学級編制表を所属職員に作成させ,保護者に配布した。
②原告は,本来,重度・重複学級の対象とすべき生徒を普通学級に入れ
るなどし,障害の程度に応じた指導を行わなかった。
③原告は,平成11年度,平成13年度及び平成14年度において,都
教委から仮決定を受けた学級の一部を減じたにもかかわらず,仮決定を
受けた学級数を申請し,不正に教員の配当を受けることを承認した。
④原告は,平成13年度から平成14年度までの間,所属職員から,勤
務時間内に校内で飲酒することについて申出があった際,所属職員を指
導,監督する立場にありながら,これを制止せず承認した。
⑤原告は,平成14年11月22日の職員旅行が勤務時間内に出発する
計画であることについて知った際,所属職員を指導,監督する立場にあ
りながら,これを承認した。
⑥原告は,平成13年度から平成14年度までの間,所属職員を指導・
監督する立場にありながら,勤務時間の不正な調整を承認した。
⑦原告は,所属職員から,平成14年度長期休業中の大学等公開講座等
の研修申請を受けた際,申請内容が当該研修に当たらない内容であった
にもかかわらず,これを承認した。
(4)審査請求
原告は,平成15年11月7日,東京都人事委員会に対し,本件各処分に
ついて審査請求をしたが,同委員会は,平成17年12月19日,これを棄
却する旨の裁決をした。
2争点
(1)本件各処分の理由とされた下記の各事実は存在するか否か。
ア不適正な学級編制等(懲戒理由①,分限理由①∼③)
イ勤務時間内の飲酒及び職員旅行(懲戒理由②,③,分限理由④,⑤)
ウ勤務時間の不正な調整(分限理由⑥)
エ平成14年度長期休業中の研修申請の不適切な承認(分限理由⑦)
(2)本件各処分には裁量権の逸脱濫用があるか。
(3)本件各処分は地方公務員法49条1項に違反するか。
3当事者の主張
(1)不適正な学級編制等(争点(1)ア)について
(被告)
原告は,平成11年度,平成13年度及び平成14年度の本件学校の学級
数について,情緒障害等を有する生徒の指導のため,新たに重度・重複学級
を編制するとの前提で,被告から学級編制に係る仮決定を受けた。しかし,
原告は,その際の申請内容に反し,重度・重複学級の生徒として申請した生
徒を普通学級に恒常的に所属させ,又は普通学級の生徒として申請した生徒
を重度・重複学級に恒常的に所属させたことにより,新たに編制された重度
・重複学級は実態として存在しないこととなった。このようにして,原告は,
仮決定より少ない学級で指導することを決定し,虚偽の学級編制を行うこと
を承認した。それを隠匿するため,各年度の学級編制につき,都教委届出用
の仮決定どおりの学級編制表と,これとは異なる不適正な学級編制表を所属
職員に作成させ,後者を保護者に配布し,被告が各年の5月1日付けで行っ
た児童,生徒数調査において,仮決定どおり学級を編制している旨の虚偽の
回答をした。原告は,仮決定どおり重度・重複学級を編制することを前提に
教員を定数として加配されたのに,決定通知を受けた重度・重複学級を編制
せず,既に定数配置されている普通学級にさらに加えて教員を配置した。そ
して,本来重度・重複学級の対象として指導すべき生徒を普通学級に入れる
等,障害の程度に応じた指導が行われない不適正な状態を生じさせた。
原告は,平成12年度も,前年度同様に,重度・重複学級の生徒として申
請した生徒を普通学級に,普通学級の生徒として申請した生徒を重度・重複
学級に,それぞれ恒常的に所属させ,仮決定と異なる学級で指導することを
決定し,不適正な学級編制を行うことを了承したほか,2種類の学級編制表
を所属職員に作成させて不適正な学級編制表を保護者に配布し,児童,生徒
数調査において虚偽の回答をした。そして,生徒の障害の程度に応じた指導
が行われない不適正な状態を生じさせた。
原告が,平成11年度,平成13年度及び平成14年度の学級編制につき
仮決定を受けた重度・重複学級の一部を編制せず,実際には学級を減じてい
たにもかかわらず,仮決定どおりの学級編制を行ったとする虚偽の報告を行
い,不正に教員の配当を受けた点は,地方公務員法32条,33条に違反す
る。また,不正に教員の配当を受けることを承認したこと,平成11年度∼
平成14年度において,被告に対し虚偽の報告を行い,届出内容と異なる学
級編制表を所属職員に作らせ,保護者に配布し,重度・重複学級の対象とす
べき生徒を普通学級に入れていたことは,管理職としての適格性を欠く。
(原告)
原告は,虐待経験や情緒障害など特に情緒面での課題を持つ生徒の障害の
実態に応じた適切な指導を充実するために,都教委に対して,重度・重複学
級の枠組を利用した「情緒障害児学級」の試行を申請し,平成11年3月,
都教委から同年度の学級数について「情緒障害児学級」の試行として届けた
学級を含む仮決定通知を受けた。それ以降,毎年度,都教委が定めた学級編
制基準が定める要件である①特別な教育課程の編成及び個別指導計画の作成,
②担当教員の明確化,③教室の明確化及び学級の表示を充足させて,仮決定
を受けたとおりの学級編制に基づき,担任とされた教諭が個別指導計画や指
導要録,出席簿を作成し,生徒の状況に応じ,個別指導や集団に合流しての
指導をするなどしつつ,情緒障害児学級による教育を実施した。処分理由に
挙げられた,仮決定を受けたとおりに重度・重複学級を編制せず学級を減じ
ていたという事実はない。本件学校の情緒障害児学級では,試行錯誤を経な
がらも障害の程度に応じた指導が行われ,一定の教育上の効果を挙げており,
都教委もその事実を報告書により把握していた。
学級編制表を2種類作成したのは,情緒障害児の知的障害は軽度であるの
に,重度・重複学級に配置されることによる保護者の誤解と,配置された生
徒が別扱いをされることによる情緒不安定を避けるという教育上も正当な目
的に基づくことである。
(2)勤務時間内の飲酒及び職員旅行(争点(1)イ)について
(被告)
原告は,平成13年5月26日,同年12月8日,平成14年5月25日
及び同年12月7日の午後4時30分ころ,本件学校食堂において,同校教
職員で構成される親睦団体主催の運動会又は学習発表会の反省会が開催され
た際,出席した同校教職員に対し,勤務時間内であるにもかかわらず,主催
者が用意した350mlの缶ビール1本程度の飲酒を認め,自らも飲酒した。
また,原告は,同年11月22日の午後4時30分ころ,勤務時間内である
のに,貸切バスによる職員旅行の出発を認め,本件学校教諭以下十数名とと
もに,年次有給休暇を取らず職員旅行へ出発した。
原告は,校長として勤務時間割振りの権限に基づき休憩時間を勤務時間の
最後に変更して上記行為をしたのであるが,休憩時間は,労働基準法34条
1項及び学校職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例(平成7年東京都
条例第45号。以下「休日休暇条例」という。)7条1項により,勤務時間
の途中に置かねばならず,容易に勤務時間終了時に休憩時間を接続させるべ
きではない。やむを得ず所定の休憩時間に勤務をさせた場合で,他の時間に
休憩時間を与えられなかったときに限り,勤務時間の終わりに休憩時間を与
えることはあり得るが,上記各日時にそのような事情はなかった。
原告による上記休憩時間の変更は,地方公務員法32条,33条に違反し,
教職員の服務監督権者である校長としての適格性を欠いている。
(原告)
本件学校では,養護学校としての特殊性から,教員は生徒が下校するまで
はもちろん,下校後も授業の準備,書類の作成や会議を行うため,所定の時
間帯に休憩時間が取れず,所定の勤務時間の終わりに休憩を取ることが常態
化している。運動会や学習発表会等の学校行事においては,会場の設営から
片付けまで休憩を取ることができず,原告が所定の休憩時間帯に休憩を与え
ることは不可能であった。
したがって,原告や他の教員らが運動会等当日の勤務時間の終わりに休憩
時間を取得したことは,何ら違法ではなく,全体の奉仕者たるにふさわしく
ない行為でも教育公務員としての職の信用を傷つける行為でもなく,校長と
しての適格性に欠けるものでもない。
(3)勤務時間の不正な調整(争点(1)ウ)について
(被告)
原告は,平成13年4月及び平成14年4月,教職員の労働組合との間で,
勤務時間及びその割振については毎年度始めに話合いによって確認すること,
職員会議,学年会,学部会,分掌会議等が延びた場合の勤務時間の校内運用
についてはその都度交渉することとした職場協約を交わし,職員会議が午後
4時30分過ぎまで行われた際には,超過時間分を後日調整して早退できる
とする不正な勤務時間の調整を承認した。職員会議,学部会等は,年15回
程度開催され,平均して午後5時ころまで延長されており,原告の承認に基
づき,平成14年度に至るまで約半数程度の教員が正規の勤務時間より1時
間早く退勤していた。また,原告は,平成13年度と平成14年度の運動会
に際し,その担当責任者から,当日の準備のために通常より1時間早く出勤
する職員に対して後日1時間の調整を取れるようにしてほしいとの申出を承
認した。さらに,原告は,平成13年と平成14年の6月ころ,10月ころ
及び1月ころに行われた,生徒が実習している企業等との緊急応対に際して,
本件学校高等部進路指導主任から,高等部3年生の担任が毎日交代で午後8
時まで待機するので超過した時間を他の日に調整してほしいとの要請を承認
し,調整を行うよう教頭に指示した。
教員の勤務に関しては,国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給
与等に関する特別措置法(昭和46年法律第77号。平成15年に「公立の
義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」に改正される前
のもの。以下「給特法」という。)を受けて制定された「義務教育諸学校等
の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例」(昭和47年東京都条
例第12号。以下「給特条例」という。)5条2項により,校長が時間外勤
務を命ずることができる場合を,①生徒の実習に関する業務,②学校行事に
関する業務,③職員会議に関する業務,④非常災害等やむを得ない場合に必
要な業務に従事する場合で,臨時又は緊急やむを得ない必要があるときに限
定している(以下,上記①∼④を「限定4項目」という。)。しかし,原告
が勤務時間の調整を承認した上記各業務は,いずれも定期的ないし日常的に
行われているものであり,職員団体との事前の協議により大筋の確認がされ
ていたのであるから,臨時又は緊急やむを得ない場合に該当しない。よって,
原告が,職員会議等の場合に,超過時間分を後日調整して教員を早退させる
等したことは,給特条例上の根拠のない違法な行為であり,管理職として適
格性に欠けるものである。
(原告)
今日,教員の超過勤務が常態化していることが指摘されており,本件学校
でも例外ではなく,その教員は,養護学校としての特殊性から,より過酷な
過労状態にある。しかし,現在の給特法の下においては,いわゆる限定4項
目以外に超過勤務が存在しないという前提で手当のないままに超過勤務を強
いられている。原告は,このような給特法違反,労働基準法違反の超過勤務
を解消するための代償措置として,勤務時間を調整していたのであって,給
特法や労働基準法の趣旨から見ても,校長としての適格性に欠けるものでは
ないし,勤務時間の割振権限は校長にある以上,条例上も何ら問題はない。
(4)平成14年度長期休業中の研修申請の不適切な承認(争点(1)エ)につい

(被告)
教育公務員特例法(平成15年法律第117号による改正前のもの。以下
「教特法」という。)20条2項に基づく研修(以下「承認研修」とい
う。)の取扱いにつき,被告は平成14年6月11日付け教育長通知により
実施細目を示し,①1日4時間以内の研修,②大学等での公開講座等,③教
育委員会があらかじめ指定した研究会等,④東京都教職員研修センターが承
認した「必要な時間内のグループ研修」の4種類と規定している。そのうち
「大学等での公開講座等」について,対象となる講座等は,「国内及び海外
の大学」及び「民間が主催する公開講座等(海外は除く。)」で,その承認
の条件は,当該職員の専門性に直接関係するものであり,学校の教育活動に
役立つ内容(特別活動,部活動にかかわる内容は除く。)と定めている。
原告は,平成14年7月ころ,教員から長期休業中の「大学等の公開講座
等」として申請のあった,知人の農園での農作業実習,陶芸製作の実習,出
身校における部活動の指導及びアスレチック施設での研修について,大学等
の公開講座等の研修として承認した。これらの研修が,上記「大学等での公
開講座等」に該当しないことは明らかであり,上級官庁である被告の通知等
を無視して承認を行った原告には,校長としての適格性がない。
(原告)
教特法上,研修の承認権限は校長にあり,研修内容に制限は課されていな
い。教員は,同法20条2項により研修の権利と機会を保障され,校長は授
業に支障のない限り教員からの申請を承認しなければならない。これに対し,
都教委は,通知により「大学等の公開講座等」等の制限を課しているが,この
ような制限自体が無効である。原告は,本件学校の教育にとって必要な実技
研修であると判断して,知人の農園での農作業実習,陶芸製作の実習,出身
校における部活動の指導及びアスレチック施設での研修を承認したのであっ
て,同法の趣旨に適うものであり,何ら校長としての適格性を疑うべきもの
はない。
(5)裁量権の逸脱濫用(争点(2))について
(原告)
本件各処分は,処分理由に該当する事実を欠いていることに加え,以下の
事情に照らせば,懲戒処分及び分限処分に関して都教委が有する権限を逸脱
濫用してされたものというべきである。
ア本件各処分は,他の類似事例における処分例と比較しても極端に重いも
のであり,平等原則に違反する。
イ被告は,原告に対する十分な弁明の機会を与えないまま,都教委からの
指導や誘導に基づき事故報告書及び事情聴取書を作成し,ずさんな事実調
査のみで本件各処分をした。しかも,被告は,原告に校長としての適格性
についての指導,研修を行う機会も設けることなく本件分限処分をした。
このように,本件各処分は原告に対する適正な手続保障を欠くものである。
ウ本件各処分は,本件学校における性教育を不当に問題視した都議会議員
の質問に端を発したものであり,実際には処分理由に掲げられなかった性
教育の問題を実質的な理由としてされたことは明らかである。平成15年
には,いわゆる「国旗・国歌実施通達」が発せられたことも踏まえれば,
本件各処分は,教育への管理統制を強めるための見せしめという違法不当
な目的でされたことが明らかである。
(被告)
任命権者は,公務員に法定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかど
うか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかについての広範な裁量を
有する。もとより,その裁量は,恣意にわたることができないことは当然で
あるが,懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は,それが社会通
念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと
認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法と
ならないものというべきである。
本件各処分は,他処分との比較においても適切な量定がされており,平等
原則違反の問題はない。原告が挙げる事例は,いずれも本件と事情を異にす
るもので,比較の対象になり得ない。
(6)地方公務員法49条1項違反(争点(3))について
(原告)
本件各処分は,都教委が本件学校で行われていた性教育を不適切な教育と
決めつけ,これを実質的理由としてされたことは明らかである。ところが,
処分理由書には,性教育の問題が一切記載されていない。また,処分理由と
して挙げられた行為の日時,場所,具体的内容等も特定されていない。した
がって,本件各処分は地方公務員法49条1項の要件を欠き違法である。
(被告)
被告は本件学校での性教育の実施に係る不適切な学校教育の管理も非違行
為に該当すると見ているが,本件各処分の理由としては,処分説明書記載の
事実のみで十分と判断したため,処分理由とはしていない。また,処分説明
書記載の各事実は十分に特定されている。
第3当裁判所の判断
1不適正な学級編制等(争点(1)ア)について
(1)認定事実
前記争いのない事実等に加え,証拠(括弧内に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる(争いのない事実には証
拠等を掲記しない。以下,認定事実の記載箇所においては同様である)。
ア重度・重複学級について(乙3∼5,原告本人)
東京都立盲・ろう・養護学校においては,普通学級のほかに,重度・重
複学級の設置が認められている。これは,重度の障害を有する児童,生徒
又は重度か軽度かを問わず複数の障害を有する児童,生徒を措置するため
の学級で,ある児童,生徒を重度・重複学級に措置しようとする場合は,
校長からの申請に基づき,教育庁において当該児童,生徒を措置対象児と
するための認定が必要である。措置対象児と認定された児童,生徒は,必
ず全員を重度・重複学級に措置しなければならない上,原則として3年間
は普通学級への変更が認められず,普通学級又は訪問学級に措置変更する
ためには,校長の申請により認定の取消を受けなければならない。
イ学級編制について(甲15,21,26,乙2∼5)
公立の特殊教育諸学校(学校教育法(平成18年法律第80号による改
正前のもの)71条に規定する盲学校,聾学校又は養護学校で小学部又は
中学部を置くものをいう。)における学級編制について,公立義務教育諸
学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律3条3項は,小学部又
は中学部の1学級の児童又は生徒数の基準を6人,文部科学大臣が定める
心身の故障を2以上併せ有する児童又は生徒で編制する場合には3人を標
準として都道府県教育委員会が定めることとしている。これに基づき,都
教委は,普通学級の児童又は生徒数の標準を6人,重度・重複学級の児童
又は生徒数の標準を3人と定めている。
東京都立盲・ろう・養護学校では,年度当初の学校運営のため,前年度
中に学級規模の見込みに基づき都教委から仮決定を受け,その後,5月1
日現在の児童,生徒数を報告し,これに基づき都教委から正式な学級規模
の決定を受けている。
被告教育庁学務部長は,毎年1月ころ,翌年度の東京都立盲・ろう・養
護学校に係る学級編制事務について各校長あて通知を発している。その中
では,学級編制が教育課程の編成等学校運営の基本となるものであり,義
務教育費国庫負担金等算定の基礎となるものであることから,関係法令等
に基づき適正に行われなければならないとされ,学級編制上の留意点とし
て,「指導要録,出席簿等の記載,学級担任の決定等は,必ず決定学級の
とおりとし,学級編制と整合性を欠くことのないようにすること」等が挙
げられている。そして,同通知書の別紙「養護学校(知的障害)における
重度・重複学級の設置についての都教育委員会の考え方」には,重度・重
複学級については,①普通学級とは別に特別な教育課程を編成し,児童,
生徒の個別指導計画を作成し,教育課程の実施に当たっては,決定した学
級を基本とし,児童,生徒の実態を踏まえ,個別による指導,小集団によ
る指導を中心に,必要に応じて,普通学級との合同の学習時間を設定する
など,一人一人の児童,生徒の障害や発達段階に応じた適切な授業の形態
を工夫すること,②障害の特性を十分に把握し,個人に応じた継続的な指
導の徹底を図るため,対象児童,生徒ともに,担当する教員を明らかにし
ておくこと,③学級は,教育活動を行う基本的な集団であり,又措置され
た児童,生徒が十分な指導を受けることができるように教育環境を整え,
教室を明確にし,学級を明示することを求めている。
ウ平成11年度の学級編制に至る経緯(甲9,44,47,52,53,
84,乙33,原告本人)
本件学校では,平成10年度の中学部の生徒の中に,極度の情緒不安と,
暴力,授業妨害,離脱等の問題行動のある3名の生徒(P1,P2,P
3)がおり,同生徒ら及び他の生徒の安全確保や情緒の安定化を図るため,
教員らが個別的指導をしていた。そのような対応の中で,原告は,これら
3名の生徒に対する個別的指導が極めて有効であると認識した。
平成11年度には,本件学校小学部から中学部に2名の情緒不安定と問
題行動を有する児童(P4,P5)が進学することとなっており,前年度
に問題を生じた上記3名の生徒を加えた5名の生徒に対する個別的指導の
態勢をどのように確保するかが問題となった。原告は,この問題につき中
学部主任のP6教諭の説明を聞き,その解決のため,都教委に対して中学
部の現状と来年度に予想される状況を説明することをP7教頭に指示した。
当初,P6教諭は,5名の生徒のうち,教員や他の生徒に対する暴力等,
最も情緒不安定と問題行動が顕著なP1につき,個別指導,少人数指導を
確保するための教員の増員を求めていた。P7教頭は,被告の就学相談室
のP8指導主事と協議する中で,教員の加配は極めて難しいものの,現行
の制度として存在する重度・重複学級の制度を活用して,新たに情緒障害
児学級を試行する方向性が示された。
これを受けて,P7教頭は,P6教諭に「情緒障害児学級の試行につい
て」と題する資料を作成させて都教委に提出した。その中では,教育の内
容として,個別指導を基本とした情緒安定のための取り組み,対人関係の
向上や集団性を理解する学習,集団参加の力を高める学習(学年集団,発
達段階別の学習グループ等へ合流しての学習)及び認知発達を促す学習の
4項目が挙げられている。また,同資料では,情緒障害児学級への措置に
より教育効果を期待し得る生徒が5名在籍していることから,試行にあた
り,学級の生徒数は当面3名(P4,P5,P1)を基本とするが,この
3名を固定的に考えるのではなく,P2,P3を加えた5名の範囲内で流
動性を持たせた学級運営を行い,上記3名についても,情緒障害児学級を
ベースにしつつ,学習内容,本人の情緒の安定の状況を総合的に判断しな
がら,個別指導,情緒障害児学級での学級指導,学年,知的発達段階別の
グループへの合流による集団指導など,様々な形態での学習を計画化する
方針が示されている。また,同資料に添付された週時程表の例では,毎日
行われる朝の会,帰りの会のほか,掃除(週1時間),ホームルーム(週
1時間),養護訓練(週6時間),生活(週3時間)の計11時間の指導
は情緒障害児学級で行われるが,体育(週3時間),美術(週2時間),
音楽(週2時間),作業(週4時間),クラブ(週2時間)及び集会(週
1時間)の計14時間の指導は,学年,発達段階別グループ等の集団と合
同で行うこととされている。
この資料に基づき,都教委は,重度・重複学級1学級を活用しての情緒
障害児学級の試行を認め,平成11年3月24日ころ,平成11年度の学
級編制につき仮決定(小学部15学級,中学部12学級,高等部13学級,
計40学級)をし,中学部1,2年生合同の重度・重複学級の生徒として
申請のあった生徒3名(P4,P5,P1)を措置対象児として認定した
(以下,本件学校において情緒障害児に対する個別指導,少人数指導を目
的に設置された重度・重複学級を「情緒障害児学級」という。)。
エ平成11年度の情緒障害児学級の運営状況(甲10,16∼18,32,
44,46,47,50,52,53,83,84,証人P9,原告本
人)
平成11年度の情緒障害児学級は中学部1・2年E組とされ,P4,P
5,P1の3名の生徒と,担任としてP6教諭及びP10教諭が配置され
た。原告は,P6教諭及びP10教諭に各生徒の出席簿及び指導要録を作
成させたが,普通学級である中学部2年B組に配置された2名の生徒(P
2,P3)についても,上記方針どおり,流動性を持たせた学級運営の中
で,状況に応じて情緒障害児学級を利用した個別指導等を行うこととした。
ところが,上記5名の生徒はいずれも個別指導が必要な状況で,情緒障
害児学級の生徒3名で行うこととされていた朝の会も成立しない状況であ
ったため,やむなく,朝の会は1名ずつ個別に行っていた。特に,P1,
P2の情緒障害は重く,完全な個別指導を必要とする状況であったため,
結果的に,P6教諭はP1に対する個別指導を,P10教諭はP2に対す
る個別指導をそれぞれ主に担当し,他の生徒に対しては,担任以外の教員
らが必要に応じて個別的対応を行った。情緒障害児学級の生徒は,状態が
良い時には普通学級に合流して指導を受けることがあり,その際には,P
4は1年A組,P5は1年B組,P1は2年A組に合流することととされ,
P6教諭やP10教諭が付き添って指導したり,より状態の良いときには
受入れ先の担任が指導することもあった。
同年度における情緒障害児学級の試行は,普通学級との合同での学習に
なお困難が多い等計画どおりに進まない面はあったものの,生徒と教員と
の信頼関係を築くことができる等一定の成果を挙げた。このため,原告は,
担当教員の意見や学校内での議論を踏まえ,翌年度も情緒障害児学級の試
行を継続することを都教委に対し要望することとした。同年度末に,本件
学校は,同年度の情緒障害児学級における指導の経過をまとめ,個別事例
としてP1とP2に対する指導経過を参考資料として添付した報告書を作
成し,原告はこれを決裁の上,都教委に提出した。そのころ,被告の就学
相談室のP8指導主事が本件学校を訪問し試行の成果を確認している。
オ平成12年度の情緒障害児学級の運営状況(甲11,17,19,20,
32,46,47,52,53,84,原告本人)
都教委は,平成12年度も,前年度に引き続き,本件学校中学部に情緒
障害児学級を1学級編制することを認め,前年度の中学部1・2年E組を
2・3年E組として,前年度同様に,P4,P5,P1を生徒として配置
し,P2,P3に加え,新たに入学,転入した情緒障害児であるP11
(平成13年4月にP12と改姓),P13,P14の計8名を情緒障害
児学級の措置対象とした。担任には,P10教諭及びP15教諭が配置さ
れ,前年度同様,生徒3名の出席簿及び指導要録を作成した。
平成12年度の情緒障害児学級においては,前年度の成果を生かし,教
員と生徒との1対1の個別指導ではなく,3∼4名の小集団を設定し,そ
の中で生徒に対する個別的対応が取れる態勢で指導が行われた。また,生
徒の突発的行動に対応するため担任が授業に入る体制を取りながら,比較
的大きな集団への参加を進め,前年度と比較し,学年集団の中で学習に参
加することのできる場面が増えた。
カ平成13年度の情緒障害児学級の運営状況(甲11,12,19,21
∼25,30,32,46,47,51∼53,83,84,証人P9,
原告本人)
P1,P2,P3は,平成13年度に中学部から高等部に進学したが,
いずれも情緒障害児学級での指導の成果が現れていた。特に最も情緒不安
定と問題行動が顕著だったP1は,普通学級の集団への適応が大きく改善
したため,高等部では普通学級に措置された。措置対象であったP2,P
3もまた,高等部では普通学級に措置された。
中学部では,前年度の情緒障害児学級の生徒であったP4,P5,措置
対象であったP14,P12,P13に加え,新たに情緒障害等に対する
配慮を要するP16,P17が入学,転入することが見込まれたため,本
件学校は,平成13年度において,前年度までの実績を踏まえ,中学部に
情緒障害児学級を従来の1学級のほかに1学級増設することを都教委に申
請した。都教委は,この申請を認め,中学部1・2年E組と3年D組の2
学級が情緒障害児学級として編制された。中学部1・2年E組は,P16,
P13,P12の3名の生徒に対し,担任としてP18教諭とP19教諭
が配置され,3年D組には,P4,P5,P14の3名の生徒に対し,担
任としてP20教諭とP21教諭が配置された。各担任は,上記各生徒の
出席簿及び指導要録を作成した。P17は普通学級である1年A組に配置
され,情緒障害児学級の措置対象として状況に応じ個別的対応を受けた。
同年度の情緒障害児学級においては,生徒として配置された6名に対し,
担任が個別指導を行いつつ,状態を見ながら同学年の普通学級や学年集団
への参加を図った。集団指導の際には,P4,P14は3年A組に,P5
は3年B組に,P16は1年A組に,P13,P12は2年A組に合流す
ることとされた。しかし,上記6名の生徒の中には,普通学級での授業に
際し,他の生徒との葛藤を生じ授業への参加が困難になり,担任による個
別指導によらざるを得ない場面が頻発する者もあった。
キ平成14年度の情緒障害児学級の運営状況(甲26∼32,46,47,
51∼53,83,84,乙22,26,証人P9,原告本人)
平成14年度は,前年度の3年D組の3名の生徒が高等部に進学するこ
ととなったが,登校に困難が伴う上に他の生徒に対する攻撃が頻繁に見ら
れたP14をはじめ,いずれも普通学級に措置するには問題があったため,
本件学校では,中学部1学級のほか,高等部にも1学級の情緒障害児学級
を編制し,前年度同様の情緒障害児学級による指導を継続したいと考えた。
ただし,高等部では,情緒障害児学級に措置することについて生徒の保護
者に対する説明を行い,その同意を得る方針をとることとした。これに基
づき,前年度中学部3年D組に配置されたP4,P5,P14の保護者に
説明の上,同意を求めたところ,P5,P14については同意が得られた
が,P4については同意が得られなかった。原告は,情緒障害児学級が1
学級減り,教員を確保することができなくなるのを避けたいと考え,P4
については普通学級に配置する一方,P5,P14のほか,従前から情緒
障害児学級の生徒同様の個別的対応を行ってきたP22を加えた3名を高
等部の情緒障害児学級の生徒とすることとし,都教委に申請したところ,
申請が容れられ,中学部2・3年E組及び高等部1年E組が情緒障害児学
級として編制された。中学部2・3年E組にはP16,P13,P12が,
高等部1年E組にはP22,P5,P14が生徒として配置された。また,
中学部2・3年E組の担任にはP18教諭及びP19教諭が,高等部1年
E組の担任にはP23教諭及びP24教諭が配置され,各学級の生徒の出
席簿及び指導要録を作成した。
ク学級編制表と教室について(甲16,19,22,27,44,46,
47,51∼53,83,84,乙22,26,証人P9,原告本人)
情緒障害児学級に措置された生徒には,情緒障害の程度が重い反面,知
的障害の程度は軽く,認識力も高いという特徴があった。そのため,情緒
障害児学級の試行に当たっては,措置対象生徒が他の生徒と別扱いをされ
ていることによる情緒不安定の増幅が懸念されたほか,保護者からも,重
度・重複障害ではないのに重度・重複学級に措置されたとの反発を受ける
ことが予想された。原告は,担当教員や中学部などの意見を踏まえ,都教
委への届出用として情緒障害児学級の記載された学級編制表を作成すると
ともに,保護者配布用として,情緒障害児学級が記載されておらず,同学
級の生徒が集団指導を受ける際に合流する普通学級の生徒として記載され,
各配置された担任は,いずれも各普通学級の担任欄に記載されている内容
の学級編制表の2種類を作成することとし,平成11年度∼平成14年度
の間,毎年この方針を継続した。
平成13年度から本件学校の教頭となったP25(以下「P25教頭」
という。)は,着任当初,原告から2種類の学級編制表を示され,情緒障
害児学級設置の経緯につき説明を受けた。その際,原告は,情緒障害児学
級の存在については,いろいろと難しい問題があり,措置対象の生徒及び
その保護者に対し説明していないが,以前,被告に届け出た学級編制表が
保護者に漏れて困ったことがあるので,これが保護者に漏れないよう十分
に気を付け,教員に対しても限定して配布するよう指示した。P25教頭
は,こうした事情を保護者や学務部に知らせていないことは問題であると
進言した。しかし,原告は,2種類の学級編制表を作成する措置は教育上
の配慮によるもので,教育庁学務部には知らせていないのはまずいことで
あるが,仕方がない旨説明した。
本件学校では,必要な教室数に対して設置すべき教室数が不足していた
ため,いくつかの学級では1つの教室をパーティションで区切って2つの
教室としていたが,情緒障害児学級は,情緒障害という生徒の実態から,
パーティションで区切った教室を使うことはできず,平成11年度以降,
毎年度,教材室,更衣室,生徒会室等を転用して教室にあてた。転用に当
たっては,教室内にホワイトボード,3名の生徒用の机とロッカー代わり
の籠を設置した。また,本件学校では,各教室にクラス名と配置された生
徒と担任の名前が記載された表示が設けられていたが,情緒障害児学級の
教室には,生徒に対する配慮から,クラス名のみを表示した。なお,原告
及びP25教頭の各供述(甲47,51,53)中には,教室の表示をし
ていなかった旨の供述があるが,原告,P6教諭及びP9教諭の供述(甲
50,83,84)をも併せて解釈すると,その意味するところは,生徒
名と担任名が記載された普通学級同様の教室の表示は行わなかったという
趣旨であると解され,上記認定と齟齬するものではない。
情緒障害児学級では,生徒の情緒障害により,他の生徒と同じ教室で授
業を受けることが困難な者も多かった上,状況に応じて普通学級の集団に
合流して指導を受けることもあったため,情緒障害児学級に割り当てられ
た教室で複数の生徒が指導を受ける場面は少なかったが,生徒の状況の良
いときには,割り当てられた教室において複数の生徒で朝の会,帰りの会
などが行われた。
ケ毎年度の児童,生徒数調査(乙33∼36,証人P26,原告本人)
都教委は,前述のとおり,盲・ろう・養護学校の学級編制について前年
度中に仮決定をした上で,毎年5月1日現在の児童,生徒数調査を行い,
その際の各学校からの報告に基づき当該年度の学級編制について本決定を
していたが,本件学校は,平成11年度∼平成14年度の間,毎年の児童,
生徒数調査の報告に際し,情緒障害児学級を含め,仮決定どおりに学級を
編制しているという報告をし,これに情緒障害児学級の各生徒ごとに個別
の指導目標を掲げ,指導内容を記載した個別指導計画書を添付していた。
(2)検討
ア懲戒理由①について
被告は,懲戒理由①「原告は,平成11年度,平成13年度及び平成1
4年度の学級編制において,仮決定を受けた重度・重複学級の一部を編制
せず,実際には学級を減じていたにもかかわらず,仮決定どおりの学級編
制を行ったとする虚偽の報告を行い,不正に教員の配当を受けた。」の具
体的な内容として,各年度で情緒障害児学級に措置することとされていた
生徒が普通学級に恒常的に所属させられたり,逆に普通学級の生徒が情緒
障害児学級に恒常的に所属させられるなどした結果,情緒障害児学級は実
態として存在しない状態になったと主張する。
上記の「情緒障害児学級が実態として存在しない状態」の具体的な内容
を検討すると,上記認定事実のとおり,被告教育庁が発出している通知に
は,学級編制にあたっては,指導要録,出席簿等の記載,学級担任の決定
等を必ず決定学級のとおりとし,学級編制と整合性を欠くことのないよう
にすること等が留意点として挙げられ,養護学校における重度・重複学級
の設置について,特別な教育課程の編成と個別指導計画の作成,担当教員,
教室の明確化,学級の明示が求められている。
この点について,上記認定事実のとおり,本件学校では,平成11年度
∼平成14年度のどの年度においても,情緒障害児学級が編制され,それ
ぞれに配置された生徒に対する担任が決せられ,個別指導を基本としつつ
普通学級等他の集団への合流を図る等の特別の教育課程を編成しており,
個別指導計画も毎年作成し,情緒障害児学級の生徒として決定された生徒
の指導要録及び出席簿は,毎年,各生徒の所属する情緒障害児学級の担任
として決定された教諭が作成していたことが認められる。また,教室の明
確化と学級の明示に関していえば,上記認定事実のとおり,情緒障害児学
級の教室は,本件学校の事情により教材室等を転用したものの特定の部屋
が充てられ,必要な備品が設置され,教室には,生徒への配慮により生徒
名は表示されていなかったもののクラス名の表示はされていたことが認め
られる。
以上からすると,本件学校の情緒障害児学級は,被告の言を借りれば,
学級の設置に必要な条件を形式的には充たしており,被告の発出した通知
に照らして,情緒障害児学級が実態として存在しない状態にあることを基
礎付ける事情は見当たらないということができる。
被告は,本件学校においては,平成11年度∼平成14年度に情緒障害
児学級に措置することとされていた生徒が普通学級に恒常的に所属させら
れることにより,情緒障害児学級は実態として存在しない状態になったと
主張する。しかし,上記認定事実のとおり,本件学校の情緒障害児学級に
おいては,情緒障害の状態に即して措置対象の生徒が選定され,生徒の状
態が悪い時には,担任が当該生徒に対する個別指導を行う場面が多かった
ものの,生徒の状態が良い時には,積極的に普通学級等他の集団に合流し
て指導を受け,また,朝の会や帰りの会は,生徒の状態によっては個別的
にしか行えない場面もあったものの,状態が許す限りは,情緒障害児学級
に割り当てられた教室で行っていたことが認められる。この事実から,情
緒障害児学級に配置された生徒が「恒常的に」普通学級に配置されていた
とは評価し難い。被告の上記主張の直接の根拠としては,第1に,本件学
校においては,都教委提出用と保護者配布用の2種類の学級編制表がある
ことを挙げることができるが,上記認定事実のとおり,この措置は,原告
が,生徒や保護者への配慮という観点から行っていたと認められるのであ
って,このような措置の是非については議論の余地があるとしても,少な
くとも,上記事情は,被告の主張する事実を根拠付けるものではない。第
2に,学級編制に関して,原告はP25教頭に問題性を指摘され,それを
否定しなかったという事情も存するが,上記認定事実のとおり,P25教
頭は,2種類の学級編制表を作成したこと等について,それが教育上の配
慮であることを前提として原告とやり取りをしたのであって,情緒障害児
学級が「学級の実態」を欠くことまでをも問題視した指摘をしたわけでは
ない。第3に,原告の作成名義の事故報告書(乙24)や,被告教育庁人
事部による原告に対する事情聴取書(乙25)に,原告が学級編制に係る
不正を自認する内容が含まれていることを指摘することができ,これらの
供述の記載中には,「重度・重複学級の生徒を普通学級に分散し,恒常的
に指導した」「重度・重複学級が実際には存在しない状態となった」「学
務部に対し,当初届け出た申請の学級数で報告書を提出し,虚偽の報告を
した」「私は人を確保したいと気持があり,教員からもその要望があり,
そのために学級数を多くする必要があった」「学級編制の届出と違う学級
編制について,私はまずいことであるという認識はあったが,これを了承
した。認識が甘かったと思っている」との記述があるが,これらはいずれ
も具体的な事実を認めているものというよりは,被告の主張する結論に係
る評価を認めているものである。何が学級の実態であり,何が虚偽の報告
になるのかに関する具体的な事実を詰めることなく,その評価部分を自認
しているに過ぎない上記各記述をもって,直ちに被告主張の上記事実を認
めることはできない。
さらに,被告は,本件学校では,個別指導や教育的な視点による柔軟な
対応の名の下に,決定した学級を基本とせず,決定学級を逸脱して教育課
程を実施し,特別な教育課程を編成していたとしても,計画上の情緒障害
児学級として指導を行う時間帯が実際にはほとんどなかったから,適正に
編成されていたとはいえないとか,情緒障害児学級の生徒それぞれに個別
指導計画が作成され,担任として届け出られた教諭が当該生徒を指導して
いたとしても,それら生徒の中には,普通学級に所属させられ担任教諭の
指導を受けられないなど,措置対象としての特別な指導を受けていなかっ
た生徒が存在する以上,適正に個別指導計画が作成,運用され,担当教員
が明確化されていたとは言えないなどと主張する。しかし,上記認定事実
によれば,被告は,養護学校における重度・重複学級の設置に関し,決定
した学級を基本として教育課程を実施すべきであるとしながらも,児童,
生徒の実態を踏まえ,個別による指導,小集団による指導を中心に,必要
に応じて,普通学級との合同の学習時間を設定するなど,一人一人の児童,
生徒の障害や発達段階に応じた適切な授業の形態を工夫することをも求め
ている。その上,原告が当初の段階で,本件学校における情緒障害児への
個別的な対応のために教諭の数を確保すべく都教委と協議を行い,その示
唆に沿った形で,養護学校における重度・重複学級という枠組みを使用し
て情緒障害児学級の計画を立案して,これを被告にも提出し,その中では,
措置対象生徒として指定された3名に加えて同様の問題を有する他の生徒
を加えた5名の範囲内で流動性を持たせた学級運営を行うことや,学習内
容や生徒本人の状況を踏まえて当該学級以外の集団へ合流して指導するこ
と等を計画することが明記され,週時程表の例でも,朝の会と帰りの会の
ほかは週11時間を情緒障害児学級での指導に充てるが,週14時間は他
集団と合同での指導を行うことが明記されている。被告はこの計画を了解
して,平成11年度の原告が提案する情緒障害児学級の設置を認める仮決
定をしており,同年度の1年間の試行の成果を指導主事が訪問して確認し,
毎年度の児童,生徒数調査の際に提出されていた個別指導計画書等によっ
て,学級設置後の状況も把握した上で,本件学校の要望に従い,平成13
年度以降は情緒障害児学級を2クラス配置したという事情が存するのであ
る。また,情緒障害児学級設置における指導の最終目標は,対象となる生
徒を普通学級など他の集団から恒常的に隔離しておくことではなく,最終
的には普通学級への合流を可能にすることであったことは明白である。し
たがって,上記認定事実を前提にすれば,情緒障害児学級において,生徒
の状況に即して,時に情緒障害児学級の担任が特定の生徒の個別指導に当
たり,その間に他の生徒は普通学級など他の集団に合流して別の教諭の指
導を受ける等の場面が生じることは,所与の前提であったのであり,被告
としても,本件学校における情緒障害児学級がこのような流動的な学級運
営をすることを,重度・重複学級の一つの在り方として許容していたもの
と評価することができる。そうだとすれば,本件学校における情緒障害児
学級については,単に対象となっている生徒が他の集団とともに担任以外
の教員から指導を受ける時間が長いからといって,特別な教育課程を編成
していたことにはならないとか,他の普通学級の生徒をも含めた流動的な
学級運営をしている等の事実から直ちに,これを許容することができず,
学級の実態がないというように評価することはできない。したがって,被
告の上記各主張を採用する余地は存しない。
以上の検討によれば,本件学校において,情緒障害児学級を仮決定どお
りに編制していなかったとか,学級を減じていたと評価する根拠はないし,
その結果,原告の被告に対する学級編制の報告が虚偽であったことも,不
正な教員の配当を受けたこともまた,根拠を失うことになる。したがって,
被告主張の懲戒理由①の事実を認めることはできない。
イ分限理由①∼③について
以上の結論を前提とすれば,「原告が平成11年∼平成14年度の学級
編制において,都教委に対し虚偽の報告をするとともに,都教委に届け出
た学級編制表と異なる保護者配布用の学級編制表を所属職員に作成させ,
保護者に配布したこと(分限理由①)」のうち,「都教委に届け出た学級
編制表と異なる保護者配布用の学級編制表を所属職員に作成させ,保護者
に配布した」という点のみは外形的事実として認めることができるが,分
限理由①中のその余の事実を認めることはできない。また,以上の判断を
前提とすれば,「原告は,本来,重度・重複学級の対象とすべき生徒を普
通学級に入れるなどし,障害の程度に応じた指導を行わなかったこと(分
限理由②)」も,「原告が,平成11年度,平成13年度及び平成14年
度において,都教委から仮決定を受けた学級の一部を減じたにもかかわら
ず,仮決定を受けた学級数を申請し,不正に教員の配当を受けることを承
認したこと(分限理由③)」も,これを認めるに足りる証拠がない。
2勤務時間内の飲酒及び職員旅行(争点(1)イ)について
(1)認定事実
前記争いのない事実等に加え,証拠(括弧内に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア東京都立学校の教職員の勤務時間の割振り及び休憩時間については,東
京都教育委員会の権限委任等に関する規則2条及び「教育長の権限に属す
る事務の一部委任について」(39教人勤発50号)により,各校長に委
任されているところ,本件学校においては,原告の校長在任中,教職員の
勤務時間は午前8時30分∼午後5時15分の間と定められ,休憩時間は,
校長及び事務職員は午後0時15分∼午後1時の間,教員については午後
4時15分∼午後5時の間(木曜日のみ午後3時30分∼午後4時15
分)と定められていた。(乙27,28)
被告は,平成12年12月,休日休暇条例及び同条例施行規則の改正案
に関して学校関係職員団体との間で話合いを行った際,東京都公立学校教
職員組合からの「勤務時間の終わりに休憩時間が付与される結果になった
としても良いと,考えるかどうか。」との質問に対し,「休憩時間は,原
則として勤務時間中に取得させるべきものである。しかしながら,まれに,
やむを得ず所定の休憩時間に勤務をさせた場合で,他の時間に休憩時間を
与えられなかったときに限り,勤務時間の終わりに休憩時間を与えること
はやむを得ない。」と回答した。この内容は,被告教育庁人事部勤労課か
ら,原告を含む各学校管理職に対して「労務ニュース」により通知された。
(甲35∼37,46)
イ本件学校では,平成13年5月26日及び平成14年5月25日に,運
動会が開催された。
これらの運動会の開会時刻は午前9時30分であったが,スピーカー等
の放送設備,テント10張程度,種目で使用する用具類等,運動会に必要
な設備の設営及び撤収は,いずれも運動会当日に行うことになっており,
その準備には1時間程度の時間を要した。また,児童,生徒は午前8時5
0分に登校するため,教員は同時刻には児童,生徒を出迎える必要があっ
た。そのため,多くの教員は,所定始業時刻である午前8時30分より3
0分∼1時間早く出勤して,会場の設営作業に従事した。運動会の実施中
は,教員は会の進行や昼食時の児童,生徒の介助等の必要があり,昼食時
間を含め休憩をとることはできず,児童,生徒の下校指導や保護者への対
応が完了する午後3時30分ころから会場の撤収作業を開始し,午後4時
30分ころに作業が終了した。(甲46,51∼53)
両運動会とも,会場撤収作業終了後の午後4時30分ころ,本件学校食
堂において,教職員で構成される親睦団体菜々穂会が主催する運動会の反
省会が開催され,その際,原告は,出席した教職員に対し,主催者が用意
した350ml入りの缶ビール1本程度の飲酒を認めるとともに,自らも飲
酒した。原告は,教員らが運動会の後片付けのため,所定の午後4時15
分から休憩時間に入ることができず,自身も所定の時間に休憩をとること
ができなかったと考え,所定より休憩時間を15分後にずらし,午後4時
30分∼午後5時15分の間とする措置をとり,休憩時間の終了後は勤務
時間の終了後となることから,休憩時間の自由利用の原則に照らし,飲酒
をすることも許容されると考えていた。(甲47,53)
ウ本件学校では,平成13年12月8日と平成14年12月7日に,学習
発表会が開催された。
学習発表会は,体育館で各学年や学部の舞台発表とあわせて,特別教室
を使って1年間の学習の成果の発表や美術,作業等の作品の展示等を行う。
舞台発表は,遅くとも午前9時30分には始まり,運動会の場合と同様,
昼食時間を含め休憩時間を取ることができなかった。教員らは,児童,生
徒の下校指導が午後3時30分ころに終了した後に,舞台照明設備,放送
設備,舞台発表で使用した道具等の撤収作業を開始し,概ね1時間程度を
かけて作業を終えた。(甲46,51,52)
両学習発表会ともに,その撤収作業が終了した後の午後4時30分ころ,
本件学校食堂において,菜々穂会が主催する学習発表会の反省会が開催さ
れ,その際,原告は,出席した教職員に対し,主催者が用意した350ml
入りの缶ビール1本程度の飲酒を認めるとともに,自らも飲酒した。原告
は,教員らが学習発表会の後片付けのため,所定の午後4時15分から休
憩時間に入ることができず,自身も所定の時間に休憩をとることができな
かったと考え,所定より休憩時間を15分後にずらし,午後4時30分∼
午後5時15分の間とする措置をとり,休憩時間の終了後は勤務時間の終
了後となることから,休憩時間の自由利用の原則に照らし,飲酒をするこ
とも許容されると考えていた。(甲47,53)
エ本件学校では,平成14年11月22日に,職員旅行会が開催された。
この旅行会は,菜々穂会の主催で行われ,同年10月18日には案内が
原告を含む本件学校の教職員に配布された。この案内には,当日の予定と
して,本件学校を午後4時ころに出発する計画が記載されていた。また,
同年11月15日に菜々穂会の旅行担当が作成した案内では,「学校出発
16時30分厳守(各部には会議の調整をお願いしてあります。)」と記
載されている。(乙10)
旅行会当日の同月22日は,各教員は学習発表会の準備や会議で忙しく,
結局,原告ら教職員は,予定より遅い午後4時49分に本件学校をバスで
出発した。原告は,自身を含め教職員らが所定の時間に休憩をとることが
できなかったと考え,休憩時間を午後4時30分∼午後5時15分の間と
する措置をとり,休憩時間の終了後は勤務時間の終了後となることから,
休憩時間の自由利用の原則に照らし,旅行に出発することも許容されると
考えていた。(甲47,53,乙11)
(2)検討
被告主張の懲戒理由②及び分限理由④(反省会での飲酒関係)並びに懲戒
理由③及び分限理由⑤(職員旅行関係)の各事実が認められるかを検討する。
これらの点について,原告は,いずれの機会においても,原告が校長とし
ての権限に基づき教職員の休憩時間を午後4時30分∼午後5時15分の間
にずらす措置をとっていたから,飲酒,旅行への出発とも勤務時間内に行わ
れた行為ではなく,問題がない旨主張する。
労働基準法34条1項によれば,休憩時間は,労働時間の途中に与えられ
なければならないものと規定され,休日休暇条例7条1項も,教育委員会は
勤務時間が6時間を超える場合には45分の休憩時間を勤務時間の途中に置
かなければならないと規定する。上記認定事実のとおり,教職員の勤務時間
や休憩時間については校長に割振りの権限が委任されているものの,その権
限の行使も,上記の労働基準法や条例の趣旨に反してはならないのは当然で
ある。もっとも,休憩時間を与えないことは避けなければならないから,所
定の時間帯に休憩時間を与えることができず,かつ,他の勤務時間中の時間
帯に代替の休憩時間を与えることもできないような緊急の事態が発生した場
合には,やむを得ず,勤務時間の終わりに休憩時間を与えることも許される
べきであり,上記認定事実のとおり,被告も職員団体も,また,原告も上記
の原則を了知していたものと認めることができる。
そこで,平成13年度と平成14年度の運動会及び学習発表会並びに平成
14年の職員旅行当日において,本件学校の教職員に対し所定の時間帯であ
る午後4時15分∼午後5時の間の休憩時間を与えることができなかったの
か,また,原告自身,所定の時間帯である午後0時15分∼午後1時の間に
休憩時間をとることができなかったのかを検討することになる。
原告は,本件学校のような養護学校において,特に運動会等の学校行事を
行う場合には,所定の時間帯に休憩時間を付与することは現実的に不可能で,
両年度の運動会及び学習発表会当日も同様であり,また,本件学校では児童,
生徒の下校後も,会議などの業務が多く,午後4時15分から休憩時間とす
ることは現実的に困難であったと主張する。
しかし,上記認定事実によれば,運動会や学習発表会後の反省会は,午後
4時30分ころには開始されていたのであるから,同時刻ころには,全員で
はないとしても多数の教職員が作業を終え,反省会に参加し得る状況になっ
ていたものと推認される。そうだとすると,仮に原告が主張するように,教
職員らが午後4時15分までに撤収作業を終えることは困難であったとして
も,いったん所定の午後5時まで休憩時間を与え,その後,午後5時から作
業を再開することによって,勤務時間である午後5時15分までに撤収作業
を終えることは可能であったと推認するのが相当である。
職員旅行当日についても,上記認定事実によれば,教職員らは,出発時刻
午後4時30分を厳守するよう案内されており,全員が揃わなかったとして
も,そのころには参加する多くの教職員が既に出発準備の整った状態にあっ
たと推認される。そうだとすると,午後4時15分までに全員が業務を切り
上げることが困難であったとしても,いったん所定の午後5時まで休憩時間
を与え,その後,午後5時から業務を再開することによって,勤務時間であ
る午後5時15分までに業務を終えることは可能であったと推認するのが相
当である。また,上記認定事実のとおり,そもそも,旅行の企画当初の時点
で出発時刻は午後4時ころとされていたのであるから,菜々穂会の旅行担当
も,旅行当日の午後4時に業務を切り上げることは不可能でないと考えてい
たことは明らかである。このことも考慮すれば,旅行当日に午後4時15分
から休憩に入ることができなかったとは認め難い。
また,原告本人の休憩時間についてみても,原告は校長の立場にあるのだ
から,教員らと異なる午後0時15分∼午後1時を休憩時間として設定して
いるのであり,他の教員と同様に昼食時間帯もずっと業務から手を離すこと
ができなかったとは,到底認め難い。
以上によれば,平成13年度と平成14年度の運動会及び学習発表会並び
に平成14年の職員旅行当日において,本件学校の全教職員について一律に
労働基準法や休日休暇条例の趣旨に反する取扱いをしなければならないとい
うだけの状況にあったとは認め難い。
そうすると,上記各日の午後4時30分ころからの飲酒や旅行への出発を
認め,自らも加わったという行為が,いずれも勤務時間中に行われたとみな
されるのは,やむを得ないものである。したがって,懲戒理由②,③及び分
限理由④,⑤の各事実はいずれも認めることができるというべきである。
3勤務時間の不正な調整(争点(1)ウ)について
(1)認定事実
前記争いのない事実等に加え,証拠(括弧内に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア教育職員の勤務については,厳格な時間管理を前提とする時間外勤務手
当制度になじまないという職務と勤務態様の特殊性に鑑み,その職務を勤
務時間の内外を問わず包括的に評価し給与に反映させる必要があるため,
給特法10条は,労働基準法37条の適用を除外する一方で,教職調整額
として給与月額の100分の4を支給することとしている。その上で,給
特法11条は,教育職員に対し時間外勤務を命ずることができる場合を,
国立の義務教育諸学校の例により条例で定められた場合に限定している。
同法を受けて制定された給特条例5条2項は,教育職員に対し時間外勤務
を命ずることができる場合を,限定4項目に従事する場合で,臨時又は緊
急やむを得ない必要があるときに限定している。
また,給特条例の解釈運用につき被告が発した通知である「義務教育諸
学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例等の制定につい
て」(46教人勤発第281号の2。以下「給特通知」という。)中に,
上記の「臨時又は緊急やむを得ない場合」として,①生徒の実習に関する
業務は,農業実習における天候急変時の作物管理,家畜の出産等及び水産
自習を指し,②学校行事に関する業務については,修学旅行的行事(修学
旅行,移動教室等)で宿泊を伴うものに限り,③教職員会議に関する業務
は,緊急事態の場合に必要なものに限るなど,時間外勤務をさせる場合を
限定しており,これらの業務に関して時間外勤務をさせた場合には,超過
勤務した時間分だけ後日早退させるという勤務時間の調整措置を行うべき
であることが示されている。
イ原告は,平成10年4月15日,本件学校の校長室において,東京都障
害児学校教職員組合α養護学校分会の代表4名と話合いを行い,同分会代
表から,勤務時間の割振り及び勤務時間については毎年度初めに話合いに
よって確認すること,職員会議,学年会,分掌会議等が延びた場合の勤務
時間の校内運用についてはその都度交渉することとした職場協約を受け取
り,職員会議が午後4時15分過ぎまで行われた際には超過時間分を後日
調整して早退することができるとする勤務時間の調整を承認した。
原告は,以後,平成15年まで,毎年4月中旬ころに職員団体の代表と
上記同様の話合いを行い,同旨の職場協約を受け取り,同様の勤務時間の
調整を承認した。
ウ原告は,給特条例により,教員に対し時間外勤務をさせることができる
場合が限定4項目に従事する場合で臨時又は緊急やむを得ない必要がある
ときに限定されていることは知りつつ,限定4項目に該当しないが学校運
営上又は児童,生徒指導上どうしても必要な超過勤務を教員に命ずる場合
には,校長として教職員の健康を保持,増進する観点から,限定4項目に
係る回復措置に準じた勤務時間の調整を裁量として行っていた。具体的に
は,①職員会議等で学校運営上延期することができない議題の討議がされ
た場合,②年間3回,1回につき2週間行われる高等部生徒の現場進路実
習期間における高等部の担当教員の輪番による居残り当番(生徒の実習先
企業等との緊急応対のため),③運動会の準備のため当日の朝通常より1
時間早く出勤する教員について,それぞれ限定4項目における調整措置に
準じる形で,超過勤務した時間分だけ後日早退させるという勤務時間の調
整を行った。職員会議等は午後4時15分過ぎまで行われることがほとん
どであり,その終了時に教員から調整時間について確認の質問があった場
合には,平成11年度までは分単位で調整時間を認め,平成12年度以降
は超過時間が30分以内の場合は調整をせず,30分を超えた場合に1時
間の調整時間を認めた。(甲47,51,53,乙13)
(2)検討
被告主張の分限理由⑤の事実が認められるかを検討する。この点について,
原告は,上記調整措置は,いずれも原告が校長としての権限に基づき,教職
員の健康を保持,増進するためのものであり,不正ではないと主張する。
上述のとおり,給特条例は,教員に対し教職調整額を支給する一方で,時
間外勤務を命ずることができる事項を限定4項目に従事する場合で臨時又は
緊急やむを得ない必要があるときに限定している。そして,原告が本件学校
の校長として教職員の勤務時間等に一定の権限を与えられていたとはいえ,
その権限が法令や条例により認められた範囲に限られるのは当然であって,
法令及び条例上の根拠もなく,勤務時間の調整と称して教職員の早退を認め
るという権限を有していないことは明らかである。
本件で問題となっている職員会議等,現場進路実習期間の居残り当番,運
動会準備のための早出出勤による超過勤務は,いずれも,本件学校で定期的,
日常的に行われている業務であって,上記認定事実によれば,職員会議等が
延びたことに基づく調整はほとんど会議の度に行われていたことからすると,
給特条例によって時間外勤務を命ずることができる「臨時又は緊急やむを得
ない必要があるとき」に該当しないことは明らかである。また,給特通知が
上記文言の解釈例として挙げている前記(1)アの①∼③に照らしても,上記
各業務が上記の場合に該当するとは認め難い。
そうすると,原告が行った調整措置は,本件学校の校長として与えられた
権限の範囲を超えて条例上の根拠なくとられたものと認めざるを得ない。
原告は,給特法や給特条例の定めにかかわらず,今日の我が国で教員の超
過勤務が過酷な実態にあること,中でも本件学校のような養護学校ではその
傾向が顕著で,本件学校でも限定4項目以外の超過勤務が常態化していたこ
とを主張する。しかし,給特法や給特条例を度外視して,法令上も条例上も
根拠のない措置を執る権限が各校長に発生すると解する余地はない。
原告は,学校職員の特殊勤務手当に関する条例(平成9年東京都条例第2
1号)15条の教員特殊業務手当が,「修学旅行等若しくは対外運動競技等
の引率指導業務」「部活動の指導業務」「入学試験等の業務」を対象として
支給される旨規定されていることを挙げ,やむを得ない学校行事に関する業
務,教職員会議に関する業務が緊急又は臨時の業務とみなされているとも主
張する。しかし,同条例は,給特条例の定める時間外勤務とは別の観点から,
一定の業務につき手当を支給することを定めているもので,原告に勤務時間
の調整の権限を付与するものではないし,また調整措置の対象となった各業
務が給特条例上時間外勤務を命ずることができる業務であったことを裏付け
る事情にもならない。
原告は,教員の超過勤務に関する他府県の取組みに照らし,原告の行った
調整措置の必要不可欠性,適法性を主張する。しかし,原告の行った調整措
置が許容されるものか否かは,現に被告において存在する条例等の枠組の中
で判断しなければならないのは当然である。
原告は,被告と教職員組合3団体との間で昭和47年3月31日に交わさ
れた「確認書」(甲82)の3項(2)で,時間外勤務・休日勤務は限定4項
目に限るものとする一方,続く3項(3)で,「その他の時間外勤務について
も,原則として短縮措置により,調整するものとする。」としている点を指
摘し,本件で問題となっている職員会議等,運動会,高等部3年の現場実習
における学校待機による時間外勤務についての調整措置も許容されてきた扱
いである旨主張する。しかし,上記確認書3項(3)の前段には,「前項の場
合で,修学旅行的行事で泊を伴うもの,及び非常災害等における深夜にわた
る業務を行なつた場合は代休措置等を講ずるものとし,」との記載が存在す
るから,これを併せ読めば,「その他の時間外勤務」が限定4項目以外の時
間外勤務を指しているとは解し難い。
以上のとおり,原告の主張はいずれも採用することができないのであり,
原告が行った勤務時間の調整措置は,条例上の根拠を欠く違法なものである
から,これを不正な調整とみなし得るのは当然であるというほかない。
したがって,分限理由⑥の事実は,これを認めることができる。
4平成14年度長期休業中の研修申請の不適切な承認(争点(1)エ)について
(1)認定事実
前記争いのない事実等に加え,証拠(括弧内に掲記したもの)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア教特法20条1項は,教育公務員には,研修を受ける機会が与えられな
ければならない旨を,同条2項は,教員は授業に支障のない限り本属長の
承認を受けて勤務場所を離れて研修を行うことができる旨を規定している
(承認研修)。
平成13年度までは,被告の発出した「教育公務員特例法第20条2項
に基づく研修の事務取扱いについて(通達)」(41教人職246号。以
下「41年通達」という。)及び「長期休業日中における教育公務員特例
法第20条2項に基づく研修の事務取扱いについて(通知)」(62教人
職55号)により,「教員の職務,特に,児童,生徒に対する教育活動と
の関連を明らかにできるものであること。」が承認の要件とされ,承認は
校長の権限として行うものとされていた。(甲42)
その後,被告は,平成14年6月11日,「長期休業日中における教育
公務員特例法第20条2項の規定に基づく研修の事務取扱いについて(通
知)」(14教人職231号)を発出して,上記62教人職55号通知を
廃止するとともに,「長期休業日中における教育公務員特例法第20条2
項の規定に基づく研修の事務取扱い実施細目について(通知)」(14教
人職232号。以下「14年通知」という。)で,承認研修の種類として,
①1日4時間以内の研修,②大学等での公開講座等,③教育委員会があら
かじめ指定した研究会等,④東京都教職員研修センターが承認した「必要
な時間内のグループ研修」を規定した。そのうち,②の「大学等の公開講
座等」の対象となる講座等として,「国内及び海外の大学」「民間が主催
する公開講座等(海外を除く)」の2つが挙げられ,承認の条件として,
「当該教員の専門性に直接関係するものであり,学校の教育活動に役立つ
内容であること。特別活動,部活動にかかわる内容は除く。」とされてい
る。(甲40)
イ原告は,平成14年6月11日付けの通知の発出を受けて,承認研修に
ついて,教特法20条2項の規定や,41年通達及び同通達に関して,従
来の各学校で行われてきた承認研修をいささかも制限しようとするもので
はない旨の被告教育庁人事部長と教職員組合幹部との間の確認事項との整
合性を図る必要があると考えた。原告は同月19日の職員会議で,全教員
に対し「『大学等の公開講座等』について,研修が学校の教育活動に役立
ち,申請した教員の専門性を高めると校長が判断した場合には,可能な限
り承認研修として認めていきたい。」と発言した。(甲43,47)
ウ本件学校で園芸班を担当する教諭Aは,平成14年7月18日,神奈川
県で畑を所有する知人から農作業の援助の依頼を受け,承諾した。Aは,
同月19日,原告に対し,当該知人の農作業の援助を通じて,夏物野菜の
育て方,土壌改良の仕方,完全有機栽培の方法,畝の作り方や間隔,種ま
きの仕方を学ぶことを研修内容として,同月22日∼同年8月30日のう
ち22日間の各全日を利用して,「大学等の公開講座等」として承認研修
を行う旨の申請をした。(乙15,25)
本件学校で美術・図工を担当する教諭Bは,平成12年度から本件学校
で陶芸の授業を行ってきたが,本件学校に設置された電気窯による焼成で
は釉の発色に冴えがないとの問題点を感じ,炎を使った窯と同様の仕上が
りを得る方策を見つけたいと考えた。Bは,平成14年7月18日,原告
に対し,長野県の陶芸窯において灯油窯の構造,一連の工程を含めた陶芸
焼成を研究し,実技研修を通じて会得することを研修内容とし,同年8月
5日∼30日のうち15日間の各全日を利用して,「大学等の公開講座
等」として承認研修を行う旨の申請をした。(甲67,乙16,25)
本件学校で体育を担当する教諭Cは,同年12月25日,原告に対し,
「専門教科を全国大会に向けて強化する指導から学ぶ」「高等学校全国大
会より専門教科について学ぶ」ことを研修課題として,同月26日,27
日,平成15年1月6日,7日の4日間全日を利用して,全国高等学校バ
スケットボール選抜優勝大会に出場する自身の出身高校のバスケットボー
ル部の指導をすることを内容とする研修を「大学等の公開講座等」として
行う旨の申請をした。(乙17,25)
本件学校で小学部低学年の体育を担当する教諭Dは,平成8年に本件学
校に着任した際,裏山の自然を活かしてアスレチックを手作りし,小学部
の児童の体育教育の一環として実践していた。Dは,アスレチックの安全
性を確保するとともに,その授業に物語性を持たせて,児童の興味と関心
を高めたいと考え,平成14年12月25日,原告に対し,3学期の体育
授業計画のため文献研究及びアスレチック等の施設訪問,実技研修を研修
課題として,町田市内の山林とアスレチックの設置された公園及び図書館
において,同月26日,27日の2日間全日を利用して,文献研究及びア
スレチック施設の訪問と教材,教具に関する研究をすることを内容とする
研修を「大学等の公開講座等」として行う旨の申請をした。(甲66,乙
18)
エ原告は,上記4教諭からの申請について,いずれも各教諭の専門や担当
教科に関係する内容であり,長期休業中でなければ研修が困難であると思
われたことから,教特法及び関係通達,通知等に照らし,承認研修として
認めることができると判断し,教頭に対し,いずれの申請も「大学等の公
開講座等」として承認するよう指示し,上記4教諭は,承認を受けて申請
どおりに各研修を行った。(甲47,49,51,53,66,67,乙
15,25,26,原告本人)
(2)検討
被告主張の分限理由⑦の事実が認められるか検討する。
原告は,教特法により教員には研修の権利と機会が保障されており,本属
長は,同法20条2項に基づき,授業への支障が認められない限り教員から
の申請を承認する義務を負うとし,被告が14年通知により校長である原告
の研修承認の権限を制約することは,そもそも違法であると主張する。しか
し,公立学校の教員は,地方公務員として職務専念義務を負うところ(地方
公務員法35条),教特法20条2項は,その例外として,教員の職務専念
義務を免除し,勤務場所を離れて研修を行うことを許容する規定である。そ
して,教特法は,公務員の地位にある教員に対する服務に関する規律でもあ
ること(同法1条)に鑑みれば,同法20条2項は,教員の研修と校務の運
営との調和を図る趣旨に立つものと解される。そうすると,同条項に基づく
本属長の承認は,当該研修による授業への支障の有無についての判断のみな
らず,当該研修が公務員として負う職務専念義務を免除してまで行うに値す
るものかどうか等,諸般の事情に対する総合考慮を踏まえて行うべきものと
解するのが相当である。したがって,同条項に基づき,本属長には教員の申
請した研修の内容等,諸般の事情を総合考慮して承認の是非を判断する裁量
権が付与されており,その判断に基づいてこれを承認しないことも許される
と解すべきであり,授業への支障がないという一事から承認しなければなら
ないとは言い得ない。
さらに,地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条8号に基づき,
研修に関することについて管理執行する職務権限を有する教育委員会が,教
特法20条2項に基づく承認をする際の判断指針を通達や通知等の形で発出
することもまた許容されるものである。そして,被告が発出した14年通知
は,公務員としての職務専念義務を免除してまで行わせるに値する研修の類
型を掲げるものとして合理性を有するものであるから,同通知に反する承認
を行った本属長に対し懲戒処分や分限処分を科すことも,許容され得るとい
うことができるのであり,原告の上記主張は,採用することができない。
上記認定の,原告が「大学等の公開講座等」として承認した4種類の研修
は,いずれも本件学校の教育課程及び各教員の専門性と関連を有するものと
認めることができるが,上記認定事実のとおり,14年通知は,「大学等の
公開講座等」として承認することが許容されるのは,「国内及び海外の大
学」「民間が主催する公開講座等(海外を除く)」という判断指針を示して
おり,上記の4種類の研修は,いずれも上記の判断指針によるものとは全く
異質の研修機会であり,客観的には私的な活動との見分けがつきにくい内容
であって,多分に教諭個人の人間関係に依拠したものや,14年通知で除外
対象とされている「部活動にかかわる内容」に該当するものも含まれている。
そうすると,原告が「大学等の公開講座等」として承認した前記4種類の
研修は,いずれも14年通知にいう「大学等の公開講座等」には該当せず,
原告の承認は同通知を逸脱していたと認めるのが相当である。
以上によれば,分限理由⑦の事実は認められる。
5本件各処分の裁量権の逸脱濫用(争点(2))について
(1)本件懲戒処分について
公務員につき懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分
を行うときにいかなる処分を選ぶかは,懲戒権者の裁量に任されているもの
と解すべきである。もとより,その裁量は,恣意にわたってはならないこと
は当然であるが,懲戒権者がその裁量権の行使としてした懲戒処分は,それ
が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫
用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,
違法とならないものというべきであり,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量
権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。
本件懲戒処分についてみると,上記各判断のとおり,同処分が懲戒理由と
した事実のうち,懲戒理由①を認めるだけの根拠はなく,懲戒理由②及び③
の事実が認められるのみである。そして,証拠(甲52,乙33,証人P2
6)によれば,本件懲戒処分にあたって,都教委は,懲戒理由の中でも①が
最も違法性が高いという判断のもと,平成9年度に都立高校で発生した学級
編制に係る虚偽報告による懲戒処分の先例を参考に,懲戒理由①については
減給10分の1,3か月の処分,懲戒理由②,③についてはそれぞれ戒告処
分が相当であると判断し,以上を総合して停職1か月の処分量定に至ったこ
とが認められる。そうすると,本件懲戒処分は,根拠のない懲戒理由①が,
その処分理由の中で最も違法性が高く重い処分に値すると判断された結果発
せられたものであると認めることができる。
以上からすれば,本件懲戒処分は,懲戒理由②,③の事実が認められるこ
とを考慮しても,社会観念に照らして重きに失し,社会観念上著しく妥当を
欠き,裁量権を濫用して発せられた行政処分であるというほかない。
(2)本件分限処分について
地方公務員法28条に基づく分限制度は,公務の能率の維持及びその適正
な運営の確保の目的から同条に定めるような処分権限を任命権者に認めると
ともに,他方,公務員の身分保障の見地からその処分権限を発動し得る場合
を限定したものである。このような分限制度の趣旨,目的に照らし,同条に
掲げる処分事由が被処分者の行動,態度,性格,状態等に関する一定の評価
を内容として定められていることを考慮すると,分限処分については,任命
権者にある程度の裁量権は認められるけれども,もとよりその純然たる自由
裁量に委ねられているものではなく,分限制度の目的と関係のない目的や動
機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん,処分事由の有
無の判断についても恣意にわたることを許されず,考慮すべき事項を考慮せ
ず,考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか,また,その判断が合理
性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは,裁量
権の行使を誤ったものとして違法とされるべきである。
本件分限処分についてみると,その処分理由のうち,上記判断のとおり,
本件懲戒処分にあたり最も違法性が高く重い処分に値すると判断された懲戒
理由①に対応する分限理由①∼③のうち,「都教委に届け出た学級編制表と
異なる保護者配布用の学級編制表を所属職員に作成させ,保護者に配布し
た」という点以外はすべて根拠がないことになる。本件懲戒処分の場合と同
様,処分者である都教委は,本件分限処分の理由の中でも,これら学級編制
に関する点が最も違法性が高く,原告の校長としての適格性を強く疑わせる
事実であると判断したことは明白である。さらに,証拠(甲54)によれば,
原告と同時に懲戒処分や文書訓告措置を受けた盲・ろう・養護学校の校長及
び教頭35名の中には,原告同様,勤務時間内の校内飲酒,勤務時間内の職
場離脱,不正な調整給の承認といった処分理由が認められている者も複数存
在するが,分限処分を受けたのは原告のみである。
以上からすると,本件分限処分は,その重要な要素である分限理由①∼③
に関して根拠のない事実を前提とした都教委が,考慮すべきでない事項を考
慮して判断した結果として発せられたというべきである。また,原告と同時
に処分を受けた他の事例と比較すれば,分限理由④∼⑦が認められることを
考慮しても,校長から教員への降任という本件分限処分は重きに失し,合理
性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるというほかな
い。したがって,本件分限処分は,都教委がその裁量権の行使を誤った結果
発せられた違法な行政処分であるというべきである。
6結論
以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,本件各処分は違法であっ
て,原告の請求はいずれも理由があるから,これを認容することとする。
東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官渡邉弘
裁判官福島政幸
裁判官別所卓郎

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