弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人荒井新二、同森和雄、同鮎京眞知子、同横松昌典の上告理由第一につ
いて
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用
することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯する
に足り、その過程に所論の違法はない。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人は、自己の所有するトラックを
D紙業株式会社のE工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運
送業務に従事していた者であるが、(1) 同社の上告人に対する業務の遂行に関す
る指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発
時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示
があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった、(2) 勤
務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められ
ていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示
を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は、出社することな
く、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた、(3) 報酬は、
トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われて
いた、(4) 上告人の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理
費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた、(5) 上告人に
対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の
保険料の控除はされておらず、上告人は、右報酬を事業所得として確定申告をした
というのである。
 右事実関係の下においては、上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自
己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、D紙業は、運送とい
う業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしてい
た以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、
時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、
上告人がD紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないもの
といわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、
上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そ
うであれば、上告人は、専属的にD紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の
運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右
運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に
定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも一割五分低い
額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上
告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労
働者にも該当しないものというべきである。この点に関する原審の判断は、その結
論において是認することができる。
 論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原判決
の結論に影響しない説示部分を論難するに帰し、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    藤   井   正   雄

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