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平成29年5月17日判決言渡
平成28年(行ケ)第10229号審決取消請求事件
口頭弁論終結の日平成29年3月27日
判決
原告渡邊機開工業株式会社
原告ニチモウ株式会社
同訴訟代理人弁護士沖田哲義
同道山智成
同神邊健司
同玉岡範久
原告ら訴訟代理人弁理士中尾俊輔
同伊藤高英
被告フルタ電機株式会社
同訴訟代理人弁護士小南明也
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2015-800211号事件について平成28年9月14日
にした審決を取り消す。
第2前提事実(いずれも当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認
められる。)
1特許庁における手続の経緯等
被告は,発明の名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防
止装置」とする特許第3966527号(平成10年6月12日出願,平成1
9年6月8日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。なお,
本件特許については,平成22年2月25日訂正審判がされ(訂正2010-
390006号),同年3月9日,これが確定した。
原告らは,平成27年11月17日,特許庁に対し,本件特許を無効とする
ことを求めて審判請求をした。これに対し,特許庁は,当該請求を無効201
5-800211号事件として審理をした上,平成28年9月14日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(以下「本件審決」とい
う。)。その謄本は,同月27日,原告らに送達された。
原告らは,同年10月27日,本件訴えを提起した。
2特許請求の範囲
本件特許の請求項1~5(上記訂正後のもの。以下同じ。)に係る発明(以
下「本件発明1」のようにいい,また,これらを一括して「本件発明」とい
う。)は,明細書及び図面(いずれも別紙特許審決公報の特許訂正明細書部分
参照。以下,併せて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1~
5に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれ
ぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔
異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生
海苔の共回り防止装置。
【請求項2】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれ
ぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔
異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記生海苔
混合液槽の内底面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置における生海
苔の共回り防止装置。
【請求項3】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれ
ぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔
異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/
又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置に
おける生海苔の共回り防止装置。
【請求項4】
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,この回転板の回転
とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異物排出口をそれ
ぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔
異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシン
グと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物分離除
去装置における生海苔の共回り防止装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4に記載の生海苔異物分離除去装置における生海苔の
共回り防止装置において,
前記突起・板体の突起物を,回転板の回転方向に傾斜する構成とした生
海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,原
告らが,本件発明は特許法(以下「法」という。)29条の2(無効理由1)
により特許を受けることができないものであり,また,本件発明1,3及び4
は法29条2項(無効理由2)により特許を受けることができないものであっ
て,本件特許は,法123条1項2号に該当し,無効とすべきである旨主張し
たのに対し,以下のとおり,本件発明は法29条の2に違反して特許されたも
のではなく,また,本件発明1,3及び4は法29条2項に違反して特許され
たものではなく,いずれも法123条1項2号に該当しないから,本件発明に
係る特許を無効とすることはできない,としたものである。
(1)無効理由1について
ア甲1考案
実願平10-3304号(登録実用新案第3053035号。甲1。
以下「甲1文献」という。)には,以下の考案(以下「甲1考案」とい
う。)が記載されていると認められる。
「混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状
枠板部の内側に回転板を設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部
との間にクリアランスを形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回
転駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底部に異物排
出口を設けた生海苔の異物分離除去装置において,前記環状枠板部の内
周縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアラ
ンスを他の部分よりも広幅とすることによって,クリアランスに詰まる
異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前記回転板によって引
きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけるクリアランスを通
過することができる,生海苔の異物分離除去装置。」
イ本件発明1と甲1考案との対比及び判断
(ア)一致点
「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出
口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を
有する生海苔異物分離除去装置」に関わるものである点。
(イ)相違点
本件発明1は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止装置」
であるのに対し,甲1考案は,「前記環状枠板部の内周縁に所要数の凹
部を形成するとともにこの凹部における」「回転板と前記環状枠板部と
の間」の「クリアランスを他の部分よりも広幅とすることによって,ク
リアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前
記回転板によって引きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけ
るクリアランスを通過することができる」ようにしたものである点。
(ウ)相違点についての検討
本件発明1の「生海苔の共回り防止装置」は,突起・板体の突起物が
選別ケーシングの円周端面に設けられた構成によって,該突起物が,生
海苔混合液がクリアランスに導かれる際に発生した生海苔の共回りを解
消すると共に(防止効果),生海苔の動きを矯正し,効率的にクリアラ
ンスに導く(矯正効果)ことによって,共回りの発生をなくし,クリア
ランスの目詰まりをなくすものである。
これに対し,甲1考案は,環状枠板部の内周縁に所要数の凹部を形成
すると共にこの凹部におけるクリアランスを他の部分よりも広幅とする
ことによって,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付い
ている生海苔が前記回転板によって引きずられ,上記凹部の位置に達し
た際に同凹部におけるクリアランスを通過することができるようにして,
クリアランスの目詰まりを解消するというものである。
そうすると,上記相違点に関し,甲1考案の上記機能が本件発明1の
機能(共回りの発生をなくし,かつクリアランスの目詰まりをなくすこ
と)に当たるとしても,当該機能を果たす具体的な構成が,甲1考案で
は,回転板と環状枠板部との間のクリアランスを他の部分よりも広幅と
する「凹部」であるのに対し,本件発明1では「突起・板体の突起物」
である点で,その形状・構造は異なる。また,当該機能を果たすメカニ
ズムについても,甲1考案は,当該凹部により広幅なクリアランスから
生海苔異物の大部分を占める茎部の付いた生海苔を通過させるものであ
るのに対し,本件発明1は,異物をクリアランスに通過させることによ
るものではない点で異なる。
このように,上記相違点における両者の具体的な構成とそれによるメ
カニズムが異なる以上,上記相違点は,設計上の微差又は単なる設計変
更ではなく,実質的に同一であるともいえない。
よって,甲1考案は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを
防止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記
選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止
装置」を備えていない点で本件発明1と相違するから,本件発明1は,
甲1考案と同一であるとはいえない。
ウ本件発明2~5と甲1考案との対比・判断
上記イを踏まえれば,甲1考案は,本件発明2とは「回転板の回転と
ともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を「突起・板体の突起
物とし,この突起物を,前記生海苔混合液槽の内底面に設ける構成とし
た」「生海苔の共回り防止装置」を備えていない点において,本件発明
3とは「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」
を「突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/又は選別ケー
シングの円周面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止装置」を備
えていない点において,本件発明4とは「回転板の回転とともに回る生
海苔の共回りを防止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この
突起物を選別ケーシングと回転板で形成されるクリアランスに設ける構
成とした」「生海苔の共回り防止装置」を備えていない点において,本
件発明5とは「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防
止手段」を「突起・板体の突起物とし,前記突起・板体の突起物を,回
転板の回転方向に傾斜する構成とした」「生海苔の共回り防止装置」を
備えていない点において,それぞれ相違する。
よって,本件発明2~5は,甲1考案と同一であるとはいえない。
エ原告らの主張について
原告らは,本件発明における防止手段である突起・板体の突起物に凹
凸が含まれることを前提として,甲1文献に開示されている「凹部23
1,331」(単数及び所要数を含む。)が前記突起物に含まれる凹凸
に相当すると主張する。
本件明細書の記載によれば,本件発明の「防止手段」の実施例として,
「突起・板体・ナイフ等の突起物」及び「切り溝,凹凸,ローレット等
の突起物」が例示されているところ,本件発明において,生海苔混合液
がクリアランスに導かれる際に発生した生海苔の共回りを解消すると共
に(防止効果),生海苔の動きを矯正し,効率的にクリアランスに導く
(矯正効果)ことによって,共回りの発生をなくし,クリアランスの目
詰まりをなくすという機能を果たす構成は「突起・板体の突起物」であ
ることを踏まえれば,本件発明には,上記例示のうち,「ナイフ等の突
起物」及び「切り溝,凹凸,ローレット等の突起物」は含まれないと解
される。もっとも,上記「…凹凸…の突起物」の「凸」部分が,円周端
面等の所定の面から,又はクリアランスに突き出たものであって,上記
防止効果及び矯正効果により,共回りの発生をなくし,クリアランスの
目詰まりをなくすという機能を果たす場合には,上記「…凹凸…の突起
物」の「凸」部分は,本件発明の「突起・板体の突起物」に該当するも
のといえる。
一方,甲1考案においては,目詰まりを解消する機能を果たすのは専
ら回転板と環状枠板部との間のクリアランスを他の部分よりも広幅とす
る「凹部」であるところ,当該「凹部」自体が「突起・板体の突起物」
に該当するものとはいえない。また,複数の凹部の間に凸部と見なされ
る形状が存在するとしても,当該凸部は目詰まりを解消する機能を果た
すものではなく,本件発明の「突起・板体の突起物」の上記機能を果た
すものでもない。
したがって,甲1考案の回転板と環状枠板部との間のクリアランスを
他の部分よりも広幅とする「凹部」が本件発明の「突起・板体の突起物」
に該当するということはできない。
(2)無効理由2について
ア甲4発明
特開平8-140637号公報(甲4。以下「甲4文献」という。)
には,以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「混合液主タンク(90)の底部周端縁に環状枠板部(73,74)の
外周縁を連設し,この環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転
板(81)を略面一の状態で僅かなクリアランス(S)を介して内嵌め
し,この第一回転板(81)を軸心を中心として適宜駆動手段によって
回転可能とするとともに前記タンク(90)の底隅部に異物排出口(7
5,76)を設けた生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具
(70)であって,
前記第一分離除去具(70)は,
第一回転板(81),
第一回転板(81)との間にクリアランス(S)を形成する環状固定
板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部,
環状枠板(73)を連設するための周筒部(72),
異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管
(76),及び,
クリアランス(S)を通過した海苔混合液を混合液連設タンク(61)
に排出するガイド筒(77)
とで構成されている,
生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具。」
イ本件発明1,3及び4と甲4発明との対比
(ア)一致点
「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出
口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を
有する生海苔異物分離除去装置」に関わるものである点。
(イ)本件発明1と甲4発明との相違点A
本件発明1は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止装置」
であるのに対し,甲4発明は「生海苔の異物分離除去装置における第一
分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
(ウ)本件発明3と甲4発明との相違点B
本件発明3は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/
又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防
止装置」であるのに対し,甲4発明は「生海苔の異物分離除去装置にお
ける第一分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
(エ)本件発明4と甲4発明との相違点C
本件発明4は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシン
グと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした」「生海苔の
共回り防止装置」であるのに対し,甲4発明は「生海苔の異物分離除去
装置における第一分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
ウ相違点についての検討
(ア)甲2文献記載の技術的事項
登録実用新案第3017060号公報(甲2。以下「甲2文献」とい
う。)には,以下の技術的事項が記載されている。
「生海苔の異物(ごみ,エビ,アミ糸等)分離装置に関し,生海苔調合
液(生海苔と塩水又は真水とを適宜濃度に調合したもの)から異物を分
離する際に使用されるものに関するものであって,
従来におけるこの種の異物分離装置は,所要数のローラーをスリット
を介して並列に配置し,これらのスリットに,生海苔調合液を通過させ
ることによって,生海苔調合液中の異物を分離除去していたが,かかる
従来の異物分離装置にあっては,スリットの上流側に分離除去された異
物が詰まりやすく,その結果,異物の分離除去の作業能率を向上させに
くいという不都合を有していたため,かかる不都合を解消するために,
所要数の回転ローラーをスリットを介して並列に配置し,これらのスリ
ットに生海苔調合液を通過させることによって,生海苔調合液中の異物
を分離する生海苔の異物分離装置において,回転ローラーの外周面にら
せん溝を形成した。
これにより,分離除去されてスリットの上流側にとどまった異物は,
らせん溝の回転に従ってローラーの軸方向に沿って移動してスリットか
ら除去され,当該スリットは常時空間を確保することができるという作
用効果を奏する。」
(イ)甲3文献記載の技術的事項
特開平8-112091号公報(甲3。以下「甲3文献」という。)
には,以下の技術的事項が記載されている。
「生海苔のゴミ取り装置に関するものであって,
従来,乾燥海苔の製造に当たり,乾燥海苔には,生海苔に混入してい
るゴミが付着している可能性があるため,ゴミ検出装置によりゴミの検
出を行い,ゴミが検出されたものはゴミ取り作業工程に回すようにして
いたが,同工程で,乾燥海苔に付着したゴミを手作業により取り除いて
いたために,手間と労力を要して,作業効率が悪いという問題があった
ため,所要の大きさに切断した生海苔と塩水とを一定の重量割合で調合
する調合部と,同調合部により調合された生海苔と塩水との調合液を吸
い込む吸込流路部と,同吸込流路部に設けて調合液中のゴミをろ過する
ろ過部を具備し,ろ過部には一定の細幅のろ過用スリットを形成した。
そして,所要の大きさに切断した生海苔と塩水とを,生海苔がろ過用
スリット中を通過しやすい程度の重量割合で調合して,同調合液を吸込
流路部に吸い込むことにより,その途中でろ過部のろ過用スリットによ
り調合液中のゴミを確実にろ過することができ,付着ゴミの検出や,手
作業によるごみ取り作業の手間を省くことができるという作用効果を奏
する。」
(ウ)甲16文献記載の技術的事項
特開平8-280362号公報(甲16。以下「甲16文献」とい
う。)には,以下の技術的事項が記載されている。
「採取した生海苔中に混入された小動物,網繊維,合成樹脂フィルム,
甲殻類の殻その他の固形異物を分離除去することを目的とした生海苔の
異物除去方法及び装置に関するものであって,
従来生海苔中に混入された固形異物を除去する為の並列回転ローラの
細隙から生海苔を吸い出す装置においては,ローラ細隙が線状に形成さ
れている為に,その調節がむつかしく,しかもローラの撓みなどを考慮
すれば,細隙が変化しやすく分離効率の向上がむつかしく,かつ生海苔
の特性の変化(例えば初期採取葉と,終期採取葉又は海上の風波の有無,
強弱による海苔葉の硬軟など)に追随してローラ細隙を調節することが
むつかしい問題点があり,また固定細隙の場合には,前記生海苔の特性
に応じて,これを調節することが不可能であり,細隙を広くすると分離
効率が悪く,細隙を狭くすると分離能率が悪くなるなどの問題点があっ
たため,複数の円盤軸が円盤を交叉して並列横架されて分離部を構成し
て,円盤軸の円盤の交叉面細隙から生海苔を吸引し,固形異物と分離で
きるようにした。
そして,円盤軸の円盤の交叉面細隙から生海苔を吸引し,固形異物と
分離できるように構成したので,生海苔と固形物は比較的広い面積の面
細隙で分離され分離効率を向上し,能率を増大する効果がある。」
(エ)本件発明1,3及び4の進歩性について
甲4発明は,環状枠板部と内周縁内に内嵌めされた第一回転板との間
のクリアランスに生海苔を導入しつつ,第一回転板の回転による遠心力
によって,クリアランスよりも環状枠板部側のタンク底隅部に異物を集
積させ,生海苔のみを水と共にクリアランスを通過させるようにしたも
の(以下「回転板方式」という。)であるところ,この回転板方式を前
提とする発明である点で本件発明1,3及び4と共通するものであるが,
甲4文献自体には,本件発明1,3及び4の課題である共回りについて
の記載はない。また,広告中に単に「目詰まり防止付」との記載がある
ことからは,回転板方式を採用した異物分離除去装置において,上記
「共回り」の現象が生じることまでもが自明であって課題とされていた
とは認められない。
よって,甲4文献に接した当業者において,回転板方式による異物分
離除去装置である甲4発明に上記「共回り」の課題が存在することを認
識し得たとは認められない。
また,甲4発明は,本件発明1,3及び4と同じく,環状枠板部と回
転板との間のクリアランスに生海苔を導入しつつ,異物を回転部材の遠
心力により円周方向に追いやり,生海苔のみがクリアランスを通過する
ようにした回転板方式を前提とするものであるのに対し,甲2,3及び
16文献にそれぞれ記載された異物分離除去装置は,回転板方式とは異
なる分離方式を採用するものであるから,甲4発明と甲2,3及び16
文献に各記載の技術的事項とは,前提とする異物分離除去の解決方式に
係る技術的思想が異なるところ,甲4文献に接した当業者において,甲
4発明につき,クリアランスに異物や生海苔の詰まりが生じるという問
題があるとの課題を想起し得たとしても,前提とする異物分離除去の解
決方式の異なる甲2,3及び16文献に各記載の技術的事項を甲4発明
に適用しようとする動機付けが生じるとはいえない。
仮に,当業者が甲4発明に甲2,3及び16文献に各記載の技術的事
項を適用し得たとしても,これらの技術的事項は本件発明1,3及び4
の「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段」を
「突起・板体の突起物」とした「生海苔の共回り防止装置」に相当する
構成ではないから,本件発明1,3及び4の構成を想到することはでき
ない。
以上より,甲4発明において,本件発明1,3及び4に係る相違点A
~Cの構成を得ることは,当業者にとって容易であるとはいえない。
第3当事者の主張
1原告らの主張
(1)取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)
ア(ア)本件審決によれば,複数の凹部の間に凸部と見なされる形状が存在
し,当該凸部が目詰まりを解消する機能を果たす場合には,当該凹部及
び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当するということができるこ
とになる。
(イ)被告は,甲1考案において固定リング側に設けられている凹部を回
転円板側に設けたものに相当する,鉛直溝を回転円板の外周面に形成
した装置を製造しているところ,この鉛直溝につき生海苔の共回りを
防止する機能を発揮していると認めていると思料される。
また,原告渡邊機開工業株式会社製造に係る生海苔異物除去装置にお
いては,被告製造に係る上記装置と同一構成の鉛直溝が設けられている
と共に,固定リング内周面にも複数の鉛直溝が回転円板と同様に設けら
れているところ,これらの鉛直溝は,その円周方向のエッジ部分にヘタ
リが発生するとクリアランスに目詰まりが発生し,ヘタリを解消すると
クリアランスの目詰まりが解消し,良好な異物除去機能を発揮する。こ
のことから,甲1考案の固定リング側に設けられている凹部に相当する
鉛直溝は,共回りを防止する作用効果,特にエッジ部分による共回りを
防止する作用効果を発揮するということができる。
そうすると,被告は,鉛直溝は生海苔異物除去装置としては不可欠な
共回りを防止する機能を有しており,ひいては甲1考案の凹部も共回り
を防止する機能を有していることを認めていると思料される。
(ウ)現在の海苔生産技術に基づき甲1考案を評価すると,その凹部は共
回り防止機能を果たしていると認定し得る。
このことに鑑みると,甲1考案の凹部については,これを周方向に複
数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が
存在し,当該凸部と凹部が一体となって共回り防止機能を果たすことか
ら,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当することと
なる。
(エ)本件特許の出願時においては,甲1考案につき,根の付いた生海苔
よりも大きさが小さい茎の付いた生海苔をも通過させ,板海苔の品質
を低下させる不都合が存在するとの評価はされておらず,茎部の付い
ている生海苔を海苔製品の原料として使用することも行われていたこ
とから,このような使用を可能とすると共にクリアランスの目詰まり
を防止する凹部を設けることは有用な考案と思料されるところ,甲1
考案の凹部は,クリアランスの目詰まりを防止する機能があることか
ら,共回り防止機能を果たしていると認定し得る。
このことに鑑みると,甲1考案の凹部については,これを周方向に複
数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が
存在し,当該凸部と凹部とが一体となって目詰まりを解消する機能を果
たすことから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当
することとなる。
イ甲1考案の構成の認定の誤り
上記のとおり,鉛直溝及び隣接する鉛直溝間に形成される凸部は本件
発明の「突起・板体の突起物」に該当することから,この鉛直溝に相当
する甲1考案の凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部も,当然に本
件発明の「突起・板体の突起物」に該当することとなる。すなわち,甲
1考案と本件発明は実質的に同一であり,相違点は存在しない。
これに対し,本件審決は,甲1考案の凹部につき,当該凹部のみを認
定し,凹部間に形成されている凸部の存在を認めていない点で,認定に
誤りがある。
ウ甲1考案の機能の認定の誤り
上記のとおり,鉛直溝及び隣接する鉛直溝間に形成される凸部は,生
海苔の共回りを防止する機能を発揮していることから,鉛直溝に相当す
る甲1考案の凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部も,当然に生海
苔の共回りを防止する機能を発揮することとなる。
これに対し,本件審決は,凹部間に形成されている凸部の存在を認め
ていないことから,上記機能を果たすメカニズムにつき本件発明1の
「突起・板体の突起物」と異なるとした点で,認定に誤りがある。
エ以上のとおり,本件審決は,甲1考案の認定につき重大な誤りのあるも
のであり,取り消されるべきである。
(2)取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)
ア本件発明の認定の誤り
原告らが主張する無効理由の対象としての本件発明における突起物の
構成は,本件発明の実施例として記載されている「クリアランスに開口
(対面)している凹部(凹凸部や切り溝)を突起物としている構成」で
あるところ,本件審決は,この構成を無効理由の対象とする判断をして
いない点で,誤りである。
すなわち,本件明細書(段落【0026】)においては,突起物は突
起・板体のみに限定されることはなく,それ以外の切り溝,凹凸,ロー
レットからなる構成物を含むことが開示されているところ,前記凹凸に
は,凸部を複数設けてその間に凹部を設けた凹凸と,凹部を複数設けて
その間に凸部を設けた凹凸とがあり,後者を本件発明の選別ケーシング
の内周面及び回転円板の外周面に適用した構成と,前記切り溝(切り溝
は,凹部を形成することのみで設けられる。)を本件発明の選別ケーシ
ングの内周面及び回転円板の外周面に適用した構成とがある。これらの
構成に係る凹部ないし切り溝は,前記(1)で述べた鉛直溝と同一構成を備
えるものであるから,前記鉛直溝と同様に,「凹部及び隣接する凹部間
に形成される凸部」及び「切り溝及び隣接する切り溝間に形成される凸
部」は,いずれも本件発明の「突起・板体の突起物」に該当する。
したがって,上記各構成に係る「凹部及び隣接する凹部間に形成され
る凸部」ないし「切り溝及び隣接する切り溝間に形成される凸部」を備
えた本件発明(以下「切り溝型本件発明」という。)につき,無効理由
2を論じることには妥当性があるが,本件審決はこの点につき判断をし
ていない。
イ相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り
(ア)本件発明1,3及び4の「回転板の回転とともに回る生海苔の共回
りを防止する防止手段」につき,本件審決の定義するとおり所定面か
ら突出している突起物からなる「突起・板体の突起物」として文字通
り認定した場合に,本件発明1,3及び4に進歩性があることは,原
告らも認める。
しかし,本件審決は,本件発明1,3及び4につき切り溝型本件発明
として甲4発明と比較していない点で誤りがある。
(イ)甲4発明においては,環状のクリアランスを形成する選別ケーシン
グの内周面及び回転板の外周面は共に平坦に形成されており,本件発
明の「突起・板体の突起物」に相当する構造はない。しかし,切り溝
型本件発明においては,環状のクリアランスを形成する選別ケーシン
グの内周面及び回転板の外周面の少なくとも一方には,周方向に複数
の凹部又は切り溝が形成されている。
(ウ)本件特許の出願時において,従来例である甲4発明においては,ク
リアランスに発生する生海苔の目詰まりを防止することが課題であっ
たところ,この課題は,クリアランスに発生する生海苔の共回りを防
止することと実質的に同一である。切り溝型本件発明はその解決を目
的(課題)とするものである。
切り溝型本件発明においてこれを実現(解決)する構成は,環状のク
リアランスを形成する選別ケーシングの内周面及び回転板の外周面の少
なくとも一方に,周方向に複数の凹部又は切り溝を形成することであり,
凹部又は切り溝の大きさは,有用な生海苔は通過可能であり,除去すべ
き異物は通過不可能な大きさに形成される。また,選別ケーシングの内
周面及び回転板の外周面は,周方向に互いに相対移動する。
さらに,切り溝型本件発明においては,クリアランスを広幅とする凹
部又は切り溝部分を有用な生海苔が通過することにより,クリアランス
の目詰まりを防止することができ,クリアランスにおける生海苔の共回
りを防止することができる。
(エ)甲2及び3文献に各記載の技術的事項は,いずれも,切り溝型本件
発明と同様に生海苔中の異物を除去する装置であって,技術分野が同
一であると共に,その構成や作用効果も複数の点で切り溝型本件発明
と同一であることから,甲4発明に容易に適用し得る。
したがって,甲4発明のクリアランス部分に甲2文献記載の技術的事
項(らせん溝からなる凹部)及び甲3文献記載の技術的事項(ろ過用ス
リットの幅を部分的に広げる半円弧状の拡幅部32aからなる凹部)を
適用し,クリアランス部を広幅にする凹部又は切り溝を形成することは,
当業者が容易に想到し得ることである。
ウ以上より,切り溝型本件発明は,当業者が甲4発明に甲2及び3文献に
各記載の技術的事項を適用して容易に発明し得たものであるから,無効
とされるべきものである。
2被告の主張
(1)取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について
ア甲1考案の構成につき,本件審決の認定・判断に誤りはない。したがっ
て,その判断の誤りを前提とした相違点の認定及びその点に関する判断
の誤りに関する原告らの主張は失当である。
イ原告らは,本件審決は,甲1考案の凹部につき,当該凹部のみを認定し,
凹部間に形成されている凸部の存在を認めていない点で誤りである旨主
張するところ,原告らのいう凸部とは第一回転板26(又は第二回転板
36)との間でクリアランスCを形成する固定側(環状枠板部を形成す
る第一環状固定板23又は第二環状固定板33)の壁面における凹部2
31(凹部331)以外の部分を指すものと理解されるが,当該部分は,
生海苔混合液が通過し,分離対象となる異物は通過できない部分であっ
て,クリアランスを形成する壁の片側に過ぎない。本件審決の認定・判
断も,その趣旨に基づくものである。
また,原告らは,本件審決に至る審判手続の審理経過において,甲1
考案につき本件審決の認定と大差のない内容の発明が記載されている旨
主張していたのであって,このような原告らの主張は,審理経過での自
らの主張に反するものであり,失当である。
(2)取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)について
ア原告らは,本件発明1,3及び4の「突起・板体の突起物」というクレ
ームの記載に基づいて判断した場合は,本件発明1,3及び4には進歩
性がある旨認めていることから,その余の点を論ずるまでもなく,取消
事由2に関する原告らの主張は失当である。
イ原告らは,本件審決が本件発明の実施例に基づく判断をしていないとし,
「切り溝型本件発明」につきるる主張するけれども,本件発明1,3及
び4のクレームの記載において「回転板の回転とともに回る生海苔の共
回りを防止する防止手段」は「突起・板体の突起物」であり,原告ら主
張のような「凹部(凹凸部や切り溝)を突起物としている構成」ではな
い。この点に関する原告らの主張はクレームの記載に基づかない主張で
あり,失当である。
また,原告らは,本件審決に至る審判手続の審理経過において,審判
体から示された甲4発明の内容や本件発明1,3及び4と甲4発明との
対比に関する暫定的見解を認めていたところ,この暫定的見解は本件審
決の判断と実質的に全く同じであることに鑑みると,本件審決が原告ら
の当審における主張と同様の認定・判断をしなかったことはむしろ当然
のことであって,このような原告らの主張は,審理経過での自らの主張
に反するものであり,失当である。
第4当裁判所の判断
1本件発明
(1)本件発明は,前記(第2の2)のとおりである。
(2)本件明細書の記載
本件明細書には,別紙特許審決公報のとおり,以下の記載がある(甲2
8)。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,生海苔・海水混合液(生海苔混合液)から異物を分離除去
する生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置に関す
る。」(【0001】)
イ従来の技術
「この異物分離機構を備えた生海苔異物分離除去装置としては,特開平
8-140637号の生海苔の異物分離除去装置がある。その構成は,
筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の状態で僅
かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板を軸心を中心として適
宜駆動手段によって回転可能とするとともに,前記筒状混合液タンクに
異物排出口を設けたことにある。この発明は,比重差と遠心力を利用し
て効率よく異物を分離除去できること,回転板が常時回転するので目詰
まりが少ないこと,又は仮りに目詰まりしても,当該目詰まりの解消を
簡易に行えること,等の特徴があると開示されている。」(【000
2】)
ウ発明が解決しようとする課題
「前記生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用す
る生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転すること
から,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアラン
スに吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状
態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,
究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生す
る状況等である。この状況を共回りとする。この共回りが発生すると,
回転板の停止,又は作業の停止となって,結果的に異物分離作業の能率
低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の如く,最悪の
状況となることも考えられる。」(【0003】)
「前記共回りの発生のメカニズムは,本発明者の経験則では,1.生海
苔(原藻)に根,スケール等の原藻異物が存在し,生海苔の厚みが不均
等のとき,2.生海苔が束状,捩じれ,絡み付き等の異常な状態で,生
海苔が展開した状態でない,所謂,生海苔の動きが正常でないとき,3.
生海苔が異物を取り込んでいる状態,生海苔に異物が付着する等の状態
であって,生海苔の厚みが不均等であるとき,等の生海苔の状態と考え
られる。」(【0004】)
エ課題を解決するための手段
「請求項1の発明は,共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目詰
まりを無くすこと,又は効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能
率低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)を図
ることにある。またこの防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置
することを意図する。」(【0005】)
「請求項1は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔
混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別
ケーシングの円周端面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置にお
ける生海苔の共回り防止装置である。」(【0006】)
「請求項2の発明は,請求項1の目的を達成することと,またこの防止
手段を,適切な場所に設置することを意図する。」(【0007】)
「請求項2は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔
混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記生海
苔混合液槽の内底面に設ける構成とした生海苔異物分離除去装置におけ
る生海苔の共回り防止装置である。」(【0008】)
「請求項3の発明は,請求項1の目的を達成することと,またこの防止
手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置することを意図する。」
(【0009】)
「請求項3は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔
混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び
/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした生海苔異物分離除去
装置における生海苔の共回り防止装置である。」(【0010】)
「請求項4の発明は,請求項1の目的を達成することと,またこの防止
手段を,クリアランスへの容易な設置を図ることを意図する。」(【0
011】)
「請求項4は,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔
混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
前記防止手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシ
ングと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした生海苔異物
分離除去装置における生海苔の共回り防止装置である。」(【001
2】)
「請求項5の発明は,請求項1~4の目的を達成することと,またこの
防止手段のクリアランスへの簡易・容易な設置を図ることを意図する。」
(【0013】)
「請求項5は,請求項1~請求項4に記載の生海苔異物分離除去装置に
おける生海苔の共回り防止装置において
前記突起・板体の突起物を,回転板の回転方向に傾斜する構成とした
生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置である。」
(【0014】)
オ発明の実施の形態
「本発明の生海苔混合液槽には,生海苔タンクから順次生海苔混合液が
導入される。この導入された生海苔混合液の生海苔は,回転板とともに
回転しつつ,順次吸込用ポンプにより回転板と選別ケーシングで形成さ
れる異物分離機構のクリアランスに導かれる。この生海苔は,このクリ
アランスを通過して分離処理される。この分離処理された生海苔及び海
水は,選別ケーシングのケーシング内底面より連結口を経由して良質タ
ンクに導かれる。」(【0019】)
「このクリアランスに導かれる際に,生海苔の共回りが発生しても,本
発明では,防止手段に達した段階で解消される(防止効果)。尚,前記
防止手段は,単なる解消に留まらず,生海苔の動きを矯正し,効率的に
クリアランスに導く働きも備えている(矯正効果)。」(【0020】)
「以上のような操作により,生海苔の分離が,極めて効率的にかつトラ
ブルもなく行われることと,当該回転板,又は当該装置の停止等は未然
に防止できる特徴がある。」(【0021】)
カ実施例
「…この異物分離除去装置1は,生海苔混合液をプールする生海苔混合
液槽2と,この生海苔混合液槽2の内底面21に設けた異物分離機構3
と,異物排出口4と,前記異物分離機構3の回転板34を回転する駆動
装置5と,防止手段6を主構成要素とする。」(【0023】)
「生海苔混合液槽2には,生海苔・海水を溜める生海苔タンク10と連
通する生海苔供給管11が開口しており,この生海苔供給管11には供
給用のポンプ12が設けられている。また分離処理された生海苔・海水
をプールする良質タンク13を設ける。」(【0024】)
「異物分離機構3は,分離した生海苔・海水を吸い込む連結口31,及
び逆洗用の噴射口32を有する選別ケーシング33と,この選別ケーシ
ング33に寸法差部Aを設けるにようにして当該選別ケーシング33の
噴射口32の上方に設けられた回転板34と,この回転板34の円周面
34aと前記選別ケーシング33の円周面33aとで形成されるクリア
ランスSと,で構成されている。前記寸法差部Aは,選別ケーシング3
3の円周端面33bと回転板34の円周端面34bとの間で形成する。」
(【0025】)
「防止手段6は,一例として寸法差部Aに設ける。図3,図4の例では,
選別ケーシング33の円周端面33bに突起・板体・ナイフ等の突起物
を1ケ所又は数ヶ所設ける。また図5の例は,生海苔混合液槽2の内底
面21に1ケ所又は数ヶ所設ける。さらに他の図6の例は,回転板34
の円周面34a及び/又は選別ケーシング33の円周面33a(一点鎖
線で示す。)に切り溝,凹凸,ローレット等の突起物を1ケ所又は数ヶ
所,或いは全周に設ける。また図7の例は,選別ケーシング33(枠板)
の円周面33a(内周端面)に回転板34の円周端面34bが内嵌めさ
れた構成のクリアランスSでは,このクリアランスSに突起・板体・ナ
イフ等の突起物の防止手段6を設ける。また図8の例では,回転板34
の回転方向に傾斜した突起・板体・ナイフ等の突起物の防止手段6を1
ケ所又は数ヶ所設ける。」(【0026】)
キ発明の効果
「請求項1の発明は,…共回りの発生を無くし,かつクリアランスの目
詰まりを無くすこと,又は効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の
能率低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)が
図れること,またこの防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置で
きること等の特徴がある。」(【0029】)
「請求項2の発明は,…請求項1の目的を達成できることと,またこの
防止手段を,適切な場所に設置できること等の特徴を有する。」(【0
030】)
「請求項3の発明は,…請求項1の目的を達成できることと,またこの
防止手段を,簡易かつ確実に適切な場所に設置できること等の特徴を有
する。」(【0031】)
「請求項4の発明は,…請求項1の目的を達成できることと,またこの
防止手段を,クリアランスへの容易な設置が図れること等の特徴を有す
る。」(【0032】)
「請求項5の発明は,…請求項1~4の目的を達成できることと,また
この防止手段のクリアランスへの簡易・容易な設置できること等の特徴
を有する。」(【0033】)
(3)上記(1)及び(2)によれば,本件発明の概要は,以下のとおりであると認め
られる。
ア本件発明は,生海苔・海水混合液(生海苔混合液)から異物を分離除去
する生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置に関する
(【0001】)。
従来,筒状混合液タンクの環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の
状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし,この回転板につき軸心を
中心として適宜駆動手段によって回転可能とすると共に,前記筒状混合
液タンクに異物排出口を設けた生海苔異物分離除去装置(甲4発明)が
ある。この発明は,比重差と遠心力を利用して効率よく異物を分離除去
できること,回転板が常時回転するので目詰まりが少ないこと,又は仮
に目詰まりしてもその解消を簡易に行い得ることなどの特徴があると開
示されている(【0002】)。
しかし,この生海苔異物分離除去装置(又は回転板とクリアランスを
利用する生海苔異物分離除去装置)においては,この回転板を高速回転
することから,生海苔及び異物が回転板と共に回転し,クリアランスに
吸い込まれない現象,又は生海苔等がクリアランスに喰い込んだ状態で
回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象が生じ,究
極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する
(共回り)。この共回りが発生すると,回転板の停止又は作業の停止に
つながり,結果的に異物分離作業の能率低下,当該装置の停止,海苔加
工システム全体の停止等のような最悪の状況に至ることも考えられる
(【0003】)。
イ本件発明は,従来の生海苔異物分離除去装置(甲4発明)の有する上記
問題点に鑑み,共回りの発生をなくし,かつクリアランスの目詰まりを
なくすこと,又は効率的・連続的な異物分離を図ることなどを目的とし
て(【0005】,【0007】,【0009】,【0011】,【0
013】),「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,こ
の回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並び
に異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔
混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置」において(【0006】,
【0008】,【0010】,【0012】),本件発明1では,前記
防止手段を,突起・板体の突起物とし,これを前記選別ケーシングの円
周端面に設ける構成とし(【0006】),本件発明2では,前記防止
手段を,突起・板体の突起物とし,この突起物を,生海苔混合液槽の内
底面に設ける構成とし(【0008】),本件発明3では,前記防止手
段を,突起・板体の突起物とし,これを回転板及び/又は選別ケーシン
グの円周面に設ける構成とし(【0010】),本件発明4では,前記
防止手段を,突起・板体の突起物とし,これを選別ケーシングと回転板
で形成されるクリアランスに設ける構成とする(【0012】)。また,
本件発明5では,本件発明1~4の生海苔異物分離除去装置における生
海苔の共回り防止装置において,突起・板体の突起物を,回転板の回転
方向に傾斜する構成としたものである(【0014】)。
ウ本件発明によれば,生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,
回転板の回転と共に回る生海苔の共回りを防止する防止手段,並びに異
物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合
液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,共回りの発生をなくし,
かつクリアランスの目詰まりをなくすこと,又は効率的・連続的な異物
分離(異物分離作業の能率低下,当該装置の停止,海苔加工システム全
体の停止等の回避)を図ることができること,この防止手段を簡易かつ
確実に適切な場所に設置し得ること,この防止手段につきクリアランス
への簡易・容易な設置ができること等の効果を奏する(【0029】~
【0033】)。
2取消事由1(無効理由1についての判断の誤り)について
(1)甲1考案
ア甲1文献には,以下の記載がある。
(ア)実用新案登録請求の範囲
「混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状
枠板部の内側に回転板を設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部
との間にクリアランスを形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回
転駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底部に異物排
出口を設けた生海苔の異物分離除去装置において,前記環状枠板部の内
周縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアラ
ンスを他の部分よりも広幅としたことを特徴とする生海苔の異物分離除
去装置。」(【請求項1】)
(イ)産業上の利用分野
「この考案は生海苔の異物(ゴミ,エビ,アミ糸等,以下同じ)分離除
去装置に関し,生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃度に調合したも
の)から異物を分離する際に使用されるものである。」(【0001】)
(ウ)従来の技術
「従来におけるこの種の異物分離除去装置にあっては,混合液タンクの
底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内側に回
転板を設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部との間にクリアラ
ンスを形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回転駆動手段によっ
て回転可能とするとともに前記タンクの底部に異物排出口を設けた,回
転板を回転させることによって,生海苔よりも比重の大きい異物を遠心
力によって前記クリアランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底部
に集積し,生海苔のみを水とともに前記クリアランスを通過して下方に
流している結果,前記クリアランスには異物が詰まりにくく,よって,
洗浄装置等を別途に設ける必要がなく,装置の維持がしやすいとともに
取扱いが簡易になり,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させ
ることができるものであった(特開平8-140637号)。」(【0
002】)
(エ)考案が解決しようとする課題
「しかしながら,かかる従来の異物分離除去装置にあっても,前記クリ
アランスに異物の詰まる場合が稀に生じ,よって,この詰まった異物を
除去しなければならないという不都合を有した。」(【0003】)
「この考案の課題はかかる不都合を解消することである。
考案者は,前記クリアランスに詰まった異物は,茎部の付いている生
海苔…が大部分であること,および,このような生海苔異物も海苔製品
の原料として使用不可能でないということに着目し,鋭意研究した結果,
本考案を完成した。」(【0004】)
(オ)課題を解決するための手段
「この考案に係る生海苔の異物分離除去装置においては,混合液タンク
の底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内側に
回転板を設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部との間にクリア
ランスを形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回転駆動手段によ
って回転可能とするとともに前記タンクの底部に異物排出口を設けた生
海苔の異物分離除去装置において,前記環状枠板部の内周縁に所要数の
凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアランスを他の部分
よりも広幅としたため,前記クリアランスに詰まった生海苔異物は前記
回転板によって引きずられ前記凹部の位置に達した際に,前記凹部にお
けるクリアランスを通過することができるものである。」(【000
5】)
(カ)考案の効果
「この考案に係る生海苔の異物分離除去装置は,混合液タンクの底部周
端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内側に回転板を
設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部との間にクリアランスを
形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回転駆動手段によって回転
可能とするとともに前記タンクの底部に異物排出口を設けた生海苔の異
物分離除去装置において,前記環状枠板部の内周縁に所要数の凹部を形
成するとともにこの凹部における前記クリアランスを他の部分よりも広
幅としたため,前記クリアランスに詰まった生海苔異物は前記回転板に
よって引きずられ前記凹部の位置に達した際に,前記凹部におけるクリ
アランスを通過することができるものである。」(【0023】)
「よって,この異物分離除去装置を使用すれば,前記生海苔異物は前記
クリアランスに詰まることはないため生海苔の異物分離除去作業の作業
能率を向上させることができるとともに従来不要としていた所謂生海苔
異物を海苔製品の原料として使用できるため海苔製品の歩留りを従来よ
りも向上させることができる。」(【0024】)
イ上記各記載によれば,甲1文献には,以下のとおりの甲1考案が記載さ
れていると認められ,この点で,本件審決の認定に誤りはない。
「混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状
枠板部の内側に回転板を設置するとともにこの回転板と前記環状枠板部
との間にクリアランスを形成し,前記回転板を軸心を中心として適宜回
転駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底部に異物排
出口を設けた生海苔の異物分離除去装置において,前記環状枠板部の内
周縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアラ
ンスを他の部分よりも広幅とすることによって,クリアランスに詰まる
異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前記回転板によって引
きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけるクリアランスを通
過することができる,生海苔の異物分離除去装置。」
(2)本件発明1と甲1考案との対比及び判断
ア(ア)前記第2の2,第4の1及び2(1)に基づき,本件発明1と甲1考案
とを対比すると,甲1考案の「混合液タンク」及び「生海苔の異物分離
除去装置」は,その機能からみて,本件発明1の「生海苔・海水混合液
が供給される生海苔混合液槽」及び「生海苔異物分離除去装置」に相当
する。また,甲1考案の「環状枠板部」は,混合液タンクの底板と環状
固定板を含む構成であり,生海苔を排出する開口が設けられることがそ
の構造上明らかであるところ,これは,本件発明1の「生海苔排出口を
有する選別ケーシング」に相当する。
(イ)そうすると,本件発明1と甲1考案とは,以下の点で一致及び相違
するものといってよく,この点で,本件審決の認定に誤りはない。
[一致点]
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出
口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を
有する生海苔異物分離除去装置に関わるものである点。
[相違点]
本件発明1は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止装置」
であるのに対し,甲1考案は,「前記環状枠板部の内周縁に所要数の凹
部を形成するとともにこの凹部における」「回転板と前記環状枠板部と
の間」の「クリアランスを他の部分よりも広幅とすることによって,ク
リアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前
記回転板によって引きずられ前記凹部の位置に達した際に同凹部におけ
るクリアランスを通過することができる」ようにしたものである点。
イ相違点について
(ア)前記のとおり,本件発明1は,従来の生海苔異物分離除去装置(甲
4発明)の問題,すなわち,「回転板を高速回転することから,生海
苔及び異物が回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込
まれない現象,又は,生海苔等がクリアランスに喰込んだ状態で回転
板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象が生じ,究極
的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する」
状況等である「共回り」が発生すると,「回転板の停止又は作業の停
止となって,結果的に異物分離作業の能率低下,当該装置の停止,海
苔加工システム全体の停止等のごとく,最悪の状況となることも考え
られる」という問題に鑑み,共回りの発生をなくし,かつクリアラン
スの目詰まりをなくすこと,又は効率的・連続的な異物分離を図るこ
と等を目的として,「生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回
転板,この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止
手段,並びに異物排出口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給
される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置」において,
防止手段を突起・板体の突起物とし,これを選別ケーシングの円周端
面に設ける構成としたものである。そして,本件発明1は,このよう
な構成により,共回りの発生をなくし,かつクリアランスの目詰まり
をなくすこと,又は,効率的・連続的な異物分離(異物分離作業の能
率低下,当該装置の停止,海苔加工システム全体の停止等の回避)を
実現し得ること,この防止手段を簡易かつ確実に適切な場所に設置で
きること等の効果を奏する,というものである。
そうすると,本件発明1の「生海苔の共回り防止装置」は,突起・板
体の突起物を選別ケーシングの円周端面に設ける構成とすることにより,
該突起物が,生海苔混合液がクリアランスに導かれる際に発生した生海
苔の共回りを解消する(防止効果)と共に,生海苔の動きを矯正し,効
率的にクリアランスに導く(矯正効果)効果をもたらし,これによって,
共回りの発生をなくし,クリアランスの目詰まりをなくすものであると
いうことができる。
(イ)これに対し,甲1考案は,環状枠板部の内周縁に所要数の凹部を形
成すると共にこの凹部におけるクリアランスを他の部分よりも広幅と
し,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生
海苔が,回転板によって引きずられて上記凹部の位置に達した際に,
同凹部におけるクリアランスを通過することができるようにすること
によって,クリアランスの目詰まりを解消するというものである。
(ウ)前記相違点に係る甲1考案の機能については,本件発明1における
「共回り」と共通する状況が念頭に置かれているものと見ることはで
きる。
しかし,その機能を果たす具体的な構成及びメカニズムは,両者にお
いて異なる。すなわち,甲1考案は,環状枠板部の内周縁に所要数の凹
部を形成し,この凹部におけるクリアランスを他の部分よりも広幅とす
る構成とし,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いて
いる生海苔がこのクリアランスを通過し得るようにすることで,クリア
ランスの目詰まりを解消するものである。他方,本件発明1は,「共回
り」の防止手段を突起・板体の突起物とする構成とすることにより,
「クリアランスに導かれる際に,生海苔の共回りが発生しても,本発明
では,防止手段に達した段階で解消される(防止効果)。尚,前記防止
手段は,単なる解消に留まらず,生海苔の動きを矯正し,効率的にクリ
アランスに導く働きも備えている(矯正効果)」(本件明細書段落【0
020】)ようにしたものであるところ,甲1考案はこのような防止手
段を備えるものではない。
ウしたがって,本件発明1は,甲1考案と同一であるとはいえない。
(3)本件発明2~5と甲1考案との対比・判断
ア上記(2)と同様に,甲1考案は,以下の点で,本件発明2~5とそれぞ
れ相違する。
(ア)本件発明2とは,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防
止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記
生海苔混合液槽の内底面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止
装置」を備えていない点。
(イ)本件発明3とは,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防
止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板
及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」「生海苔の
共回り防止装置」を備えていない点。
(ウ)本件発明4とは,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防
止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケ
ーシングと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした」
「生海苔の共回り防止装置」を備えていない点。
(エ)本件発明5とは,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防
止する防止手段」を「突起・板体の突起物とし,前記突起・板体の突
起物を,回転板の回転方向に傾斜する構成とした」「生海苔の共回り
防止装置」を備えていない点。
イ上記(2)と同様に,本件発明2~5は,いずれも,「生海苔の共回りを
防止する」防止手段を突起・板体の突起物とすることで,「クリアラン
スに導かれる際に,生海苔の共回りが発生しても,本発明では,防止手
段に達した段階で解消される(防止効果)。尚,前記防止手段は,単な
る解消に留まらず,生海苔の動きを矯正し,効率的にクリアランスに導
く働きも備えている(矯正効果)」(本件明細書段落【0020】)よ
うにしたものであるが,甲1考案はこのような防止手段を備えるもので
はない。
ウしたがって,本件発明2~5は,甲1考案と同一であるとはいえない。
(4)小括
以上より,本件発明は,甲1考案と同一であるということはできないか
ら,法29条の2の規定に違反して特許されたものではなく,本件特許は法
123条1項2号に該当しない。
したがって,無効理由1に関する本件審決の判断に誤りはなく,取消事
由1は理由がない。
(5)原告らの主張について
ア原告らは,鉛直溝及び隣接する鉛直溝間に形成される凸部は本件発明の
「突起・板体の突起物」に該当するところ,甲1考案の凹部(鉛直溝)
及び隣接する凹部(鉛直溝)間に形成される凸部は,本件発明の「突
起・板体の突起物」と同一の構成及び機能を有し,これに該当する旨主
張する。この原告らの主張は,本件審決の「甲1考案において…複数の
凹部の間に凸部とみなされる形状が存在するとしても,当該凸部は目づ
まりを解消する機能を果たすものでもない」との判断部分を受け,複数
の凹部間の凸部が目詰まりを解消する機能を果たす場合には,当該凹部
及び凸部自体が本件発明の「突起・板状の突起物」に該当することにな
るとの理解を前提とする。
イ(ア)しかし,本件審決の上記判断の記載部分は,本件発明における「…
凹凸…の突起物」の凸部との対比の文脈において,仮に甲1考案の複数
の凹部の間に凸部と見なされる形状が存在するとしても,当該凸部が目
詰まりを解消する機能を果たすものではなく,本件発明の「突起・板体
の突起物」の機能を果たすものでもないとして,当該凸部が本件発明の
「突起・板体の突起物」に当たらないことを確認的に記載したに過ぎず,
これをもって原告らの主張が前提とする上記理解を示したものとはいえ
ない。
(イ)また,甲1考案は,第一又は第二環状固定板の凹部以外の箇所(原
告ら主張に係る複数の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所)では,
対向する壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランス
の幅狭部を形成することで,異物を含んだ生海苔混合液から,異物を
含まない生海苔のみを水と共に通過させるようにしつつ,このクリア
ランスの幅狭部に生海苔異物が詰まった場合は,この詰まった生海苔
異物が回転板に引きずられてクリアランス内を移動し,前記凹部の位
置に達した際に,当該凹部とこれに対向する第一又は第二回転板の外
周縁との間に形成される広幅のクリアランスを通過させることで(段
落【0020】),目詰まりを解消しようとするものである。すなわ
ち,甲1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は,対向する
壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランスの幅狭部
を形成することにより,本件発明が従来技術とする回転板方式の生海
苔異物分離除去装置(甲4発明)の異物除去の機能と同じく,異物を
含まない生海苔のみを通過させる機能を果たす部位と見られる。
そうすると,甲1考案における複数の凹部の間の凸部と見なされる形
状の箇所は,突起・板体の突起物からなる防止手段ではなく,本件発明
4及び本件明細書における「クリアランス」を形成する一方の壁に相当
するものである。甲1考案において,生海苔異物による目詰まりが生じ
ることがないようにする機能は,専ら環状枠板部の内周縁の凹部におい
て対向する壁との間の隙間が他の部分よりも広幅となっていることによ
り生じるものである。
このように,甲1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は,
目詰まりを解消する機能を果たすものではないから,本件発明の「突
起・板体の突起物」に該当するということはできない。
その他原告らがるる指摘する点を考慮しても,この点に関する原告ら
の主張は失当である。
3取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)について
(1)本件発明について
ア本件発明は,前記1のとおりである。
イこれに対し,原告らは,取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)
の主張の前提として,「凹部及び隣接する凹部間に形成される凸部」な
いし「切り溝及び隣接する切り溝間に形成される凸部」は,本件発明の
「突起・板体の突起物」にいずれも該当するもの(「切り溝型本件発
明」)である旨主張する。
しかし,甲1考案の場合(前記2(5))と同様に,「凹部及び隣接する
凹部間に形成される凸部」ないし「切り溝及び隣接する切り溝間に形成
される凸部」は,対向する壁との間にクリアランスの幅狭部を形成する
ことにより,本件発明が従来技術とする回転板方式の生海苔異物分離除
去装置(甲4発明)の異物除去の機能と同じく,異物を含まない生海苔
のみを通過させる機能を果たす部位と見られるのであり,本件発明の
「突起・板体の突起物」に該当するということはできない。
そもそも,本件発明では,防止手段を「突起・板体の突起物」とする
旨規定され,「突起・板体の突起物」以外のものが防止手段に含まれな
いことが明確に理解されるところ,「突起」とは,「ある部分が周囲よ
り高く突き出ていること。また,そのもの。でっぱり」を意味する語で
あるから,「突起・板体の突起物」とは,所定の面もしくはクリアラン
スに突き出たもの,又は所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの
であって,板状のものであると解される。これに対し,単なる「凹部」
又は「切り溝」は,所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの,又
は所定の面もしくはクリアランスに突き出たものであって,板状のもの
のいずれにも当たらないことは明らかである。
そうすると,上記の「凹部」又は「切り溝」自体を防止手段と考えよ
うとしたとしても,これらは突起・板体の突起物に該当しないから,結
局,本件発明の「防止手段」に含まれない。
したがって,原告らの主張する「切り溝型本件発明」は,本件発明に
含まれるということはできないことから,これが本件発明に含まれるこ
とを前提として無効理由2があるとする原告らの主張は,そもそもその
前提において失当である。
(2)ア甲4文献には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を
連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅
かなクリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心と
して適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅
部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。
【請求項2】前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従っ
て下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去
装置。
【請求項3】筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連
設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かな
クリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として適
宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物
排出口を設け,更に,前記第一回転板の下方に第二回転板を軸心を同じ
くして回転可能に設置し,この第二回転板の周縁部を前記第一回転板と
前記環状枠板部内周縁との間のクリアランスの下方に配置し,この第二
回転板を前記クリアランスを通過する生海苔と水との混合液の通過速度
以上の周速度で回転させることを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。
【請求項4】前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従っ
て下がり傾斜にさせるとともに前記第二回転板の周縁部の表面を回転中
心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項
3の生海苔の異物分離除去装置。」
(イ)産業上の利用分野
「この発明は生海苔の異物(ゴミ,エビ,アミ糸等,以下同じ)分離除
去装置に関し,生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃度に調合したも
の)から異物を分離する際に使用されるものである。」(【0001】)
(ウ)従来の技術
「従来におけるこの種の異物分離除去装置は,分離ドラムの周壁に所要
数の分離孔を設け,前記分離ドラムを軸心を中心として回転させながら
このドラム内に生海苔混合液を供給し,前記分離孔を通過させることに
よって,前記生海苔混合液中の異物を分離除去していた(特開平6-1
21660号)。」(【0002】)
(エ)発明が解決しようとする課題
「…かかる従来の異物分離除去装置にあっては,生海苔混合液中の異物
をこの分離孔の周縁に引っ掛けて排出口に流れるのを防止するものであ
るため,当該分離孔の周縁に異物が蓄積し,目詰まりが発生する結果,
当該分離除去を能率良く行うためには,目詰まり噴射水によって洗浄す
るという洗浄装置を別途に設けなければならないという不都合を有した
(特開平6-121660号)。」(【0003】)
(オ)課題を解決するための手段
「前記課題を達成するために,この発明に係る生海苔の異物分離除去装
置においては,筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を
連設し,この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅か
なクリアランスを介して内嵌めし,この第一回転板を軸心を中心として
適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異
物排出口を設けたものである。」(【0005】)
(カ)作用
「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されて
いるため,第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海
苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板
部とのクリアランスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積
する結果,生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に
流れるものである。このとき,第一回転板は回転しているため,前記ク
リアランスには生海苔が詰まりにくいものである。」(【0009】)
(キ)発明の効果
「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置においては,筒状混合液タ
ンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠板部の内
周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌
めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可
能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたため,第一
回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の
大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアラ
ンスよりも環状枠板部側,即ち,タンクの底隅部に集積する結果,生海
苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものであ
る。このとき,第一回転板は回転しているため,前記クリアランスには
生海苔が詰まりにくいものである。」(【0028】)
「よって,この異物分離除去装置を使用すれば,異物が前記クリアラン
スに詰まりにくいため,従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設け
る必要がない結果,装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易になり,
この結果,生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることがで
きる。」(【0029】)
イ上記各記載によれば,甲4文献には,以下のとおりの甲4発明が記載さ
れていると認められるところ,これは,本件審決の認定と異ならない。
「混合液主タンク(90)の底部周端縁に環状枠板部(73,74)の
外周縁を連設し,この環状枠板部(73,74)の内周縁内に第一回転
板(81)を略面一の状態で僅かなクリアランス(S)を介して内嵌め
し,この第一回転板(81)を軸心を中心として適宜駆動手段によって
回転可能とするとともに前記タンク(90)の底隅部に異物排出口(7
5,76)を設けた生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具
(70)であって,
前記第一分離除去具(70)は,
第一回転板(81),
第一回転板(81)との間にクリアランス(S)を形成する環状固定
板(74)と環状枠板(73)で構成される環状枠板部,
環状枠板(73)を連設するための周筒部(72),
異物を排出するための管状の排出路(75)及びそれに続く排出管
(76),及び,
クリアランス(S)を通過した海苔混合液を混合液連設タンク(61)
に排出するガイド筒(77)
とで構成されている,
生海苔の異物分離除去装置における第一分離除去具。」
ウ本件発明1,3及び4と甲4発明との対比
上記ア及びイ並びに前記1によれば,本件発明1,3及び4と甲4発
明とは,以下の点で一致及び相違するものといってよく,この点で本件
審決の認定に誤りはない。
[一致点]
生海苔排出口を有する選別ケーシング,及び回転板,並びに異物排出
口をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を
有する生海苔異物分離除去装置に関わるものである点。
[相違点A](本件発明1につき)
本件発明1は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を,前記選別ケ
ーシングの円周端面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防止装置」
であるのに対して,甲4発明は「生海苔の異物分離除去装置における第
一分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
[相違点B](本件発明3につき)
本件発明3は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を回転板及び/
又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」「生海苔の共回り防
止装置」であるのに対して,甲4発明は「生海苔の異物分離除去装置に
おける第一分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
[相違点C](本件発明4につき)
本件発明4は,「回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止す
る防止手段」を「突起・板体の突起物とし,この突起物を選別ケーシン
グと回転板で形成されるクリアランスに設ける構成とした」「生海苔の
共回り防止装置」であるのに対して,甲4発明は「生海苔の異物分離除
去装置における第一分離除去具」であって,かかる防止装置でない点。
エ相違点A~Cについて
(ア)上記ア及びイのとおり,甲4発明は,従来の異物分離除去装置(特
開平6-121660号)が,分離ドラムの周壁に所要数の分離孔を
設け,生海苔混合液を回転する分離ドラム内に供給し,分離孔を通過
させることによって,生海苔混合液中の異物を分離ドラムの分離孔の
周縁に引っ掛けて排出口に流れるのを防止するという方式(以下「従
来方式」という。)であったため,分離孔の周縁に異物が蓄積し,目
詰まりが発生するという課題を有するものであったことから,かかる
課題を解決するために,環状枠板部とその内周縁内に内嵌めされた第
一回転板との間のクリアランスに生海苔を導入しつつ,第一回転板の
回転による遠心力によって,クリアランスよりも環状枠板部側のタン
ク底隅部に異物を集積させ,生海苔のみを水とともにクリアランスを
通過させるようにしたもの(回転板方式)であり,この回転板方式を
採用することで,異物がクリアランスに詰まりにくく,従来の異物分
離除去装置のように,目詰まり洗浄装置等を別途設けることを不要と
したものである。
これに対し,本件発明1,3及び4は,甲4発明を従来技術と位置づ
け(本件明細書段落【0002】),回転板方式による異物分離除去装
置である甲4発明に「共回り」の課題があることを見いだし,その課題
を解決するために,回転板方式による異物分離除去装置において,回転
板の回転と共に回る生海苔の共回りを防止する防止手段を設けたもので
ある。
このように,甲4発明は,回転板方式を前提とする発明である点で本
件発明1,3及び4と共通するものであるが,甲4自体には,本件発明
1,3及び4の課題である「共回り」についての記載はない。なお,甲
4発明を利用した装置に係る「海苔タイムス」掲載の広告(甲9~14)
には,「シンワ式原草海苔異物除去洗浄機CFW-36型」との記
載と共に,「特長」欄に「⑦目づまり防止付。」との記載があるが,そ
の目詰まりの原因をうかがわせる記載はなく,回転板方式を採用した異
物分離除去装置において共回りの現象を生じることは記載されていない。
そして,回転板方式による異物分離除去装置に「共回り」の課題が存
在することが技術常識であったと認めるに足りる証拠もないから,甲4
文献に接した当業者において,共回りの課題が存在することを認識し得
たとは認められない。
(イ)また,甲4発明は,本件発明1,3及び4と同じく回転板方式を前
提とするものであるのに対し,甲2,3及び16文献にそれぞれ記載
された異物分離除去装置(なお,各文献記載の技術的事項は,本件審
決の認定するとおりといってよい。)は,回転板方式とは異なる分離
方式を採用するものである。
このように,甲4発明と甲2,3及び16文献に各記載の技術的事項
とは,前提とする異物分離除去の解決方式に係る技術的思想が異なるた
め,甲4文献に接した当業者において,甲2,3及び16文献に各記載
の技術的事項を甲4発明に適用しようとする動機付けが生じるとはいえ
ず,また,これらの技術的事項を甲4発明にいかに適用するのかを想起
することも困難であるから,仮にこれらを適用しようとしたとしても,
本件発明1,3及び4の構成を想到することはできないと見られる。
そうすると,甲4発明において,本件発明1,3及び4に係る相違点
A~Cの構成を得ることは,当業者にとって容易であるということはで
きない。
(ウ)さらに,本件発明1,3及び4は,「防止手段」を突起・板体の突
起物とすることで,「このクリアランスに導かれる際に,生海苔の共
回りが発生しても,本発明では,防止手段に達した段階で解消される
(防止効果)。尚,前記防止手段は,単なる解消に留まらず,生海苔
の動きを矯正し,効率的にクリアランスに導く働きも備えている(矯
正効果)」(本件明細書段落【0020】)ようにしたという顕著な
作用効果を奏するものである。
オ小括
以上より,本件発明1,3及び4は,甲4発明並びに甲2,甲3及び
甲16文献に各記載の技術的事項等に基づき,本件特許の出願前に当業
者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3)よって,本件発明1,3及び4は,法29条2項の規定に違反して特許
されたものではなく,その特許は法123条1項2号に該当しないから,本
件発明1,3及び4についての特許は,無効理由2により無効とすることは
できない。この点に関する本件審決の認定・判断に誤りはない。
4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
杉浦正樹
裁判官
寺田利彦

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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