弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中百三十日を右本刑に算入する。
     本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
     原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は末尾に添えた各書面記載のとおりである。
 弁護人内水主一の控訴の趣意第一点及び弁護人人見福松の控訴の趣意第六点につ
いて、
 記録に徴すると、所論の予備的訴因の追加と題する書面が原審公判廷で検察官に
よつて朗読された形跡がな<要旨第一>いことは所論のとおりである。しかし、記録
を調べてみると、右書面の謄本は昭和二十六年六月二十九日被告人に、
同月三十日弁護人Aに、それぞれ送達されたことが明らかであり、また、原審第六
回公判調書には、検察官は昭和二十六年六月二十五日附予備的訴因の追加と題する
書面に基き、訴因及び罰条を予備的に追加することを許されたい旨を述べ、裁判官
は検察官の右請人を許可する旨を宣し、且つ、右追加の部分を被告人に告げ、被告
人及び弁護人に対し、右被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねたと
ころ、被告人はB証人の証言によつても明らかでありますとおり私の行為は背任で
もありませんと陳べ、主任弁護人は被告人が述べたほかには別にありませんと述べ
たとの記載がある。してみれば、右書面が公判廷において、検察官によつて朗読さ
れなかつたことは、刑事訴訟法第三百七十九条にいわゆる訴訟手続に法令の違反が
ある場合にあたるけれども、右書面の謄本が被告人及び弁護人にそれぞれ送達され
たのみならず、該書面の内容が同公判廷において裁判官から訴訟関係人に告知せら
れたことは前説明のとおりであり、予備的に追加された訴因及び罰条の内容は被告
人及び弁護人において充分了知していたものと認むべきてあるから、かかる瑕疵
は、被告人の防禦権に何等実質的な不利益を及ぼしたものとはいいがたくこれをも
つて、判決に影響を及ぼすものと為すことを得ない。次に、記録に徴すると、本件
審判の対象となつている事実は起訴状記載の横領の公訴事実と前記予備的訴因の追
加と題する書面記載の背任の事実との二つてあることが明らかであるところ、二つ
以上の訴因がある場合において、その一方と他方とが予備的又は択一的の関係にあ
るとき、裁判所がそのいずれか一方について有罪の判決をすれば、該判決はその反
面において爾余の訴因を排斥した趣旨をも表明しているものと解し得られるから、
本件において、原審が予備的訴因てある前記背任の点について、有罪の判決をした
上、その判決の主文及び理由中に前記横領の点についての判断を示さなかつたの
は、まことに当然のことといわなければならない。従つて、原判決には何等各所論
の違法はなく、論旨は理由がない。
 弁護人人見福松の控訴趣意に対する第三補充陳述の二について。
 <要旨第二>しかし、本件起訴状及び東京地方検察庁検察官検事C作成の昭和二十
六年六月二十五目附予備的訴因の追加と題する書面をみると、前者には
公訴事実として、被告人はDから同人所有にかかる渋谷区ab丁目c番地所在の土
地百四十五坪二合六勺を担保に金融斡旋の依頼を受け、その関係書類を預かり、昭
和二十四年九月二十五日右土地を担保として本部定親から金十万円を借り受けるこ
ととなり、同日右関係書類を使用し右土地を担保として同人から現金八万五千円を
借り受けたが、該金員を前記Dに交付せず、即時これを擅に着服して横領したとの
旨の記載があり、一方後者には、被告人は昭和二十四年七月頃Dから同人所有の東
京都渋谷区ab丁目c番地所在土地百四十五坪を担保としてE株式会社より金五十
万円を内金十五万円位は諸費用及び被告人報酬に充て得る約定にて借入方依頼を受
けてこれを承諾し、右土地の関係書類を預つたが、右約定を誠実に履行すべき任務
に背き、自己の利益を図る目的で同年九月二十五日頃本部定親との間に前記書類を
使用して右土地を譲渡担保に同人から一ケ月の期限で金十万円を借り受ける契約を
為し、同人から現金八万円を受け取り、これを自己の用途に費消し、もつてDに対
し、同年十二月二十七日頃右土地の所有権を失わしめて損害を加えたとの旨の記載
がある。そして、右のごとき二つ以上の訴因について基本的事実関係が同一である
かどうかは、その各訴因を構成する犯罪の構成要件に属する重要な事実がある程度
重なり合つているかどうかによつてこれを決すべきものと考えられるのであつて、
本件起訴状に記載されている横領の訴因を構成するその構成要件に属する重要な事
実と前記予備的訴因の追加と題する書画に記載されている背任の訴因を構成するそ
の構成要件に属する重要な事実とは多少矛盾するところがあるけれども、相当程度
重なり合つていることは、右各事実を互に比較対照すれば容易にこれを観取するこ
とができるから、右両者はその基本的事実が同一であると認むべきである。それ
故、原審の訴訟手続には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

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