弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求のうち、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分
につき、訴えを却下する。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
(主位的請求)
1原告らと被告との間に雇用関係の存在することを確認する。
2被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙未払賃金等目録①ないし⑦の各原告
に対応する「請求金額」欄記載の金員及びうち同目録の各原告に対応する「基
本給」欄記載の金員に対する平成2年5月21日から、うち同金員に対する同
年6月21日から、うち同金員に対する同年7月21日から、以下同様に、う
ち同金員に対する同年8月以降、前記目録①ないし⑦「未払賃金総額」欄記載
の最終月まで、毎月21日から各支払済みまで、年5分の割合による金員を支
払え。
3被告は、原告28ないし30を除く原告らに対し、それぞれ、別紙未払賃金
等目録①ないし⑦「未払賃金総額」欄記載の最終月の翌月から、毎月20日限
、「」。
り前記目録①ないし⑦の各原告に対応する基本給欄記載の金員を支払え
4被告は、原告らに対し、別紙1記載の謝罪文を交付するとともに、横1.5
メートル、縦2メートルの用紙に見やすく記載して、被告本部所在地入口の見
やすい場所に1か月間掲示せよ。
5被告は、原告1ないし9、18、26、31、32について、札幌市<以下
略>所在の北海道旅客鉄道株式会社に対して、原告10ないし17、19ない
し21、23ないし25、34、35について、福岡市<以下略>所在の九州
旅客鉄道株式会社に対して、原告22、27について、東京都渋谷区<以下略
>所在の東日本旅客鉄道株式会社に対して、原告33について、東京都千代田
区<以下略>所在の日本貨物鉄道株式会社に対して、それぞれ別紙2記載の要
請文を交付して、原告らの採用を要請せよ。
(予備的請求)
6被告は、原告らに対し、別紙原告別損害賠償請求額一覧表①ないし⑦の各原
告に対応する「総請求額」欄記載の金員及びこれに対する昭和62年4月1日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
原告ら又はその被相続人は、いずれも、かつて日本国有鉄道(以下「国鉄」
という)に勤務し、国鉄労働組合(以下「国労」という)に所属していた
。。
者であり、いずれも、国鉄の分割民営化の際、北海道旅客鉄道株式会社(以下
「JR北海道」という、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」と


いう、九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」という、日本貨物鉄道

)。

株式会社(以下「JR貨物」という)への採用を希望したが、昭和62年4

月1日、これらの会社に採用されなかった。
、(「」。

原告ら又はその被相続人は日本国有鉄道改革法以下改革法という
15条により国鉄から移行した日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」とい
う)の職員となった後、平成2年4月1日、日本国有鉄道退職希望職員及び

日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就
職促進法」という)附則2条により同法が失効した際、日本国有鉄道清算事

業団就業規則(以下「事業団就業規則」という)22条4号に基づき事業団

(「」。


(、。

から解雇された以下本件解雇という以上の事実は争いがない
本件は、原告らが、国鉄及び事業団を承継した被告に対し、
①主位的請求として、
a事業団が行った本件解雇は無効であるとして、雇用契約に基づき、雇用
関係存在確認と平成2年5月以降の賃金等の支払(請求の趣旨1項、2項
の一部、3項)を、
b国鉄、事業団又は被告は、原告ら又はその被相続人に対し、国労に所属
することを理由として、不当な処分をするなど不利益取扱いをし、JR北
海道、JR東日本、JR九州及びJR貨物への採用候補者名簿に記載をし
、、、
ないことによって上記各社に採用させず再就職を妨害し本件解雇をし
今日まで放置するなどしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づ
き、慰謝料及び弁護士費用の支払(請求の趣旨2項の一部、名誉回復の

ための謝罪文の交付及び掲示(同4項、JR北海道、JR東日本、JR

九州、JR貨物に対する採用要請(同5項)を、
②予備的請求として、
本件解雇が無効ではないとしても、国鉄は、原告ら又はその被相続人に対
し、国労に所属することを理由として、JR北海道、JR東日本、JR九州
及びJR貨物への採用候補者名簿に記載せず、これにより上記各社に採用さ
せなかったとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、賃金相当額等
の逸失利益、慰謝料及び弁護士費用(慰謝料及び弁護士費用の請求は主位的
請求と共通である)の支払(請求の趣旨6項)を、

求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認定できる事実)
()当事者等
ア原告ら
原告ら(原告28ないし30を除く)及び原告28ないし30の被相

続人である亡P1(以下、原告28ないし30を除く原告らと亡P1を併
せて「原告等」という)は、国鉄に採用され、昭和62年3月31日ま

で、国鉄との間で雇用関係にあったものであり、かつ、国労の組合員であ
ったところ、いずれも、国鉄の分割民営化に伴い、JR北海道、JR東日
本、JR九州、JR貨物への入社を希望したけれども、採用されず、昭和
62年4月1日に、事業団の職員となり、平成2年4月1日、事業団を解
雇されたものである。
原告等はいずれも事業団において再就職促進法1条に規定する再
、、、「
就職の機会の確保及び再就職の援助等に関する特別の措置を総合的かつ計
画的に講」ずるという施策の実施対象者として、事業団理事長により「再
就職を必要とする者として指定(再就職促進法14条1項)された職員

(以下「特別対策対象者」という)であったが、同人らの再就職は、同

法が失効する平成2年4月1日までの間に実現せず、同日付けで、事業団
就業規則22条4号所定の「経営上やむを得ない事由が生じた場合」に該
当するものとして事業団から解雇されている。
、、、()

なお亡P1は平成▲年▲月▲日に死亡し妻であるP2原告28
子であるP3(原告29)及びP4(原告30)が相続した。
イ被告等
被告は、平成15年10月1日に解散した日本国有鉄道建設公団(以下
「鉄建公団」という)の一切の権利義務を、国が承継する資産を除き、

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法に基づき、承継したもの
である。
鉄建公団は、平成10年10月22日に解散した事業団の権利義務のう
ち政府が承継する債務以外の一切の権利義務を、日本国有鉄道清算事業団
法(以下「事業団法」という)及び日本国有鉄道清算事業団の債務等の

処理に関する法律に基づき、承継したものである。
事業団は、昭和62年4月1日、JR北海道、JR東日本、JR九州、
東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社
(以下、それぞれ「JR東海「JR西日本「JR四国」という、
、」
、」
、。

JR貨物(以下、これら7社を総称して「JR各社」という。また、これ
ら7社のうちの不特定の1社ないし数社を「JR」ということがある)

及び新幹線鉄道保有機構等4社(以下、これら11社を総称して「承継法
人」という)による国鉄からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び業務

の承継等の後において、国鉄長期債務その他の債務の償還、国鉄の土地そ
の他の処分等を行うほか、臨時に事業団職員のうち再就職を必要とする者
についての再就職の促進を図るための業務を行うことを目的として、事業
団法に基づいて成立したものである(以下、事業団、鉄建公団、被告を総
称して「被告や事業団」ということがある。


JR北海道、JR東日本、JR九州、JR東海、JR西日本及びJR四
国は、改革法により、国鉄が経営していた旅客鉄道事業を、JR貨物は、
改革法により、国鉄が経営していた貨物鉄道事業を引き継ぐものとして設
立された株式会社である。
ウ国鉄の労働組合
国鉄には、昭和22年6月結成された国労のほか、昭和26年6月に結
成された国鉄動力車労働組合(以下「動労」という、昭和43年10


月に結成された鉄道労働組合(以下「鉄労」という、昭和46年4月


に結成された全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という、昭和49


、、
年3月に結成された真国鉄労働組合等の労働組合が存在していたが動労
鉄労等は、昭和62年2月28日、全国組織として日本鉄道産業労働組合
総連合(以下「鉄産労」という)を結成した。

動労、鉄労、全施労は、昭和61年1月13日、国鉄との間で第1次労
使共同宣言を締結し、国鉄の分割民営化に協力する方針を明確にした。こ
れに対し、国労は、国鉄の分割民営化に反対する方針を堅持し、国鉄との
間で労使共同宣言は締結されなかった。
国労は、昭和61年5月には組合員数が約16万3000人(組織率6
8.3パーセント)と国鉄内で最大規模の労働組合であったが、以後、毎
月約1万人の組合員が脱退したため、その組合員数は昭和62年3月には
約6万1000人(組織率27.9パーセント)まで減少した。
()国鉄改革の決定
ア昭和57年7月30日、臨時行政調査会は、第3次答申において、国鉄
再建を国家的課題とし、公社制度を抜本的に改め、責任ある効率的な経営
を行い得る仕組みを早急に導入するため、分割民営化が必要であるとの方
針を打ち出し、同時に、再建の推進体制として、国鉄再建関係閣僚会議及
び日本国有鉄道再建監理委員会(以下「再建監理委員会」という)を設

置すること並びに公社制度の改革等抜本的対策を講じるまでの間において
も経営改善を図るため緊急対策を講ずべきことを報告した。政府は、この
答申を受けて、昭和57年9月24日、「日本国有鉄道の事業の再建を図
るために当面緊急に講ずべき対策について」を閣議決定し、国鉄の改革に
ついて、職場規律の確立、新規採用の原則停止等の10項目の緊急対策に
取り組むこととした(乙21)

その後、再建監理委員会の設置等について定めた日本国有鉄道の経営す
る事業の再建の推進に関する臨時措置法(以下再建臨時措置法という)
「」。
が成立し、昭和58年6月10日、再建監理委員会が発足した。
イ再建監理委員会は、昭和60年7月26日「国鉄改革に関する意見−

鉄道の未来を拓くために−」において、昭和62年度首の在籍国鉄職員約
27万6000名のうち新会社で新規採用されるべき要員数を21万50
00名とし、その余の国鉄職員約6万1000名については、国鉄におい
て速やかに希望退職募集、派遣(出向、一時休職等の対策を講じるとと

もに、他方、国鉄改革後においても、3年を限度として雇用を継続して対
策を講じることを内容とする最終意見(以下「最終答申」という)を政

府に提出した(乙5)

これを受けた政府は、昭和60年12月13日付け閣議決定「国鉄余剰
人員雇用対策の基本方針について」において「特別対策対象者に対して

雇用を継続し特別対策を講じる期間は、新経営形態移行後3年を限度とす
る」ことを確認した(乙6。

ウ昭和61年12月4日、改革法(国鉄を分割民営化する基本方針等を定
める、事業団法(事業団の組織や業務内容等について定める、再就

)。

職促進法(改革法による施策の実施に伴い再就職を必要とする職員の再就
職の促進を定める、日本旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社


に関する法律、新幹線鉄道保有機構法、鉄道事業法、日本国有鉄道改革法
等施行法、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する
法律の一部を改正する法律(以下、これらの8法を併せて「国鉄改革関連
8法」という)が公布された。

エ改革法、事業団法、再雇用促進法のうち、本件に関する主要な規定は次
のとおりである。
(ア)改革法
改革の実施日
「5条日本国有鉄道の改革は、昭和62年4月1日に実施するもの
とする」

国鉄の事業団への移行
「15条国は、日本国有鉄道が承継法人に事業等を引き継いだとき
は、日本国有鉄道を日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」と
いう)に移行させ、承継法人に承継されない資産、債務等を処

理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職
の促進を図るための業務を行わせるものとする」

職員の再就職の促進のための特別の措置
「17条国は、日本国有鉄道の改革の実施に伴い一時に多数の日本
国有鉄道の職員が再就職を必要とすることになることにかんが
み、これらの者に関し、再就職の機会の確保及び再就職の援助等
のための特別の措置を講ずるものとする」

承継法人の職員の採用
「23条承継法人の設立委員(当該承継法人が第11条第1項の規
定により運輸大臣が指定する法人である場合にあっては、当該承
。「」。
)、、
継法人以下設立委員等というは日本国有鉄道を通じ
その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員
の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとする。
同条2項日本国有鉄道は、前項の規定によりその職員に対し労働
条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となる
、、
ことに関する日本国有鉄道の職員の意思を確認し承継法人別に
その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る同
項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名
簿を作成して設立委員等に提出するものとする。
同条3項前項の名簿に記載された日本国有鉄道の職員のうち、設
立委員等から採用する旨の通知を受けた者であって附則第2項の
規定の施行の際現に日本国有鉄道の職員であるものは、承継法人
の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される。
同条5項承継法人(第11条第1項の規定により運輸大臣が指定
する法人を除く)の職員の採用について、当該承継法人の設立

委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行
為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対
してなされた行為とする」

国鉄の廃止
「附則2次に掲げる法律は、廃止する。
一日本国有鉄道法」
(イ)事業団法
目的
「1条2項日本国有鉄道清算事業団は、前項に定めるもののほか、
臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職
の促進を図るための業務を行うことを目的とする」

事業の範囲
「26条3項事業団は、前2項に規定する業務のほか、第1条第2
項の目的を達成するため、臨時に、その職員のうち再就職を必要
とする者についての再就職の促進のために必要な業務を行う」

(ウ)再就職促進法
目的
「、()
1条この法律は日本国有鉄道改革法昭和61年法律第87号
の規定による日本国有鉄道の改革を確実かつ円滑に遂行するため
の施策の実施に伴い、一時に多数の再就職を必要とする職員が発
生することにかんがみ、これらの者の早期かつ円滑な再就職の促
進を図るため、当該改革前においても日本国有鉄道の職員のうち
再就職を希望する者について再就職の機会の確保等に関する特別
の措置を緊急に講ずるとともに、当該改革後において日本国有鉄
道清算事業団の職員となった者のうち再就職を必要とする者につ
いて再就職の機会の確保及び再就職の援助等に関する特別の措置
を総合的かつ計画的に講じ、もってこれらの者の職業の安定に資
することを目的とする」

再就職促進基本計画
「14条1項国は、日本国有鉄道清算事業団法(昭和61年法律第
90号)附則第2条の規定により日本国有鉄道が清算事業団とな
る日(以下「移行日」という)以後速やかに、清算事業団の職

員のうち清算事業団の理事長が第1条に規定する施策の実施に伴
い再就職を必要とする者として指定した職員(以下「清算事業団
職員」という)の円滑な再就職の促進に関する基本となるべき

計画(以下「再就職促進基本計画」という)を策定しなければ

ならない。
同条3項再就職促進基本計画は、移行日から3年内にすべての清
算事業団職員の再就職が達成されるような内容のものとして定め
られなければならない」

再就職促進法の失効
「、、。

附則2条この法律は昭和65年4月1日限りその効力を失う
なお、再就職促進法には、昭和65年(平成2年)4月1日までに再
就職が達成できなかった事業団職員の扱いについての規定はなかった。
()承継法人の職員採用までの経緯
ア改革法23条に定める設立委員から構成された設立委員会は、国鉄改革
のスケジュール、JR各社の職員の労働条件、採用基準の細部を定め、昭
和61年12月19日、国鉄に提示した。
国鉄改革のスケジュールは、概要、①設立委員は、昭和61年12月、
JR各社の労働条件及び採用基準を決定し、国鉄に通知する、②これを受
けて、国鉄は、同月から昭和62年1月までの間、職員の配属希望調査を
行い、これを集計、分析、調整した上、同年2月、採用候補者名簿を作成
して設立委員に提出する、③設立委員は、同月、職員を選考して採用者を
決定する、④設立委員は、同年3月、JR各社での配属を決定して国鉄に
内示し、国鉄はこれによって配転計画を策定して異動の発令を行う、とさ
れた。
JR各社共通の採用基準は、年齢、健康状態に関するもののほか「国

鉄在職中の勤務の状況からみて、新会社であるJRの社員としてふさわし
い者であること。なお、勤務の状況については、職務に関する知識技能及
、、、
び適性日常の勤務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき
総合的かつ公正に判断すること」というものであった(以下「本件採用基
準」という。


(乙20、21)
イ橋本龍太郎運輸大臣(以下「橋本元大臣」という)は、昭和61年1

2月16日、改革法19条1項に基づき閣議決定を経て「日本国有鉄道

」、
の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め
国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数を21万5000名(うち
、、
JR北海道の職員数1万3000名JR東日本の職員数8万9540名
JR九州の職員数1万5000名)と決定した(乙18)

ウ国鉄は、昭和61年12月24日、本件採用基準に該当しないことが明
白な者を除く職員約23万0400名に対し、承継法人の労働条件、採用
基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を確認するための意思
確認書を配布した(提出期限昭和62年1月7日。

エ国鉄職員のうち22万7600名が、期限までに意思確認書を提出した
が、JR北海道への就職申込総数は2万3710名、JR東日本への就職
申込総数は11万3550名、JR九州への就職申込総数は2万9270
名であった(第2希望以下の希望も含んだ延べ数である。


、、、、、、
原告1ないし918263132はJR北海道への原告22
27はJR東日本への、原告10ないし17、19ないし21、23ない
し25、亡P1(原告28ないし30の被相続人、34、35はJR九

州への、原告33はJR貨物への採用を希望した。
オ人材活用センターの設置
最終答申において指摘された、昭和62年度首の在籍国鉄職員約27万
6000名と、新会社で新規採用されるべき要員数21万5000名との
差約6万1000名の人員対策の一環として、国鉄は、昭和61年以降、
全国に人材活用センターを設置し、増収活動(直営店舗、特別改札、セー
ルス等、経費削減(外注の暫定直営化等、教育訓練(多能化教育、O
))
A教育)を行うこととした(乙70)

その結果、原告等の多くは、人材活用センターに配属された。
()承継法人における職員の採用と原告等の不採用
ア国鉄は、昭和62年1月中旬ころ、本件採用基準の「JR各社の業務に
ふさわしい者」について、昭和58年4月以降、非違行為により停職6か
月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けた者については、明らかに承
継法人の業務にふさわしくないとして、採用候補者名簿に記載しない方針
を定めた。
以後、国鉄は、職員管理調書に基づき、JR各社の職員となるべき者の
具体的な選定作業を行い、JR各社の採用候補者名簿を作成した。
(乙20、21)
イ国鉄は、昭和62年2月7日、JR各社の設立委員会に対し、それぞれ
採用候補者名簿を提出したが、原告等は、いずれも採用候補者名簿には記
載されなかった。
なお、国鉄が提出したJR各社の採用候補者名簿上の職員数は、基本計
画(前記()イ)の予定職員数を9414名下回る20万4126名であ
り、JR北海道及びJR九州は基本計画と同数であったが、JR東日本は
基本計画を5197名下回る8万4343名であった(乙11の1)

ウJR各社の設立委員は、国鉄が提出した採用候補者名簿に記載された職
員を、すべて採用することを決定し、昭和62年2月12日ころ、同年4
(「」
月1日付けで採用するとの通知を採用予定者に通知した以下4月採用
という。その他の職員には採用通知がない旨伝えられた。その後、採


用予定者のうち、計4919名が、採用を辞退した。これによって、同年
4月1日にJR各社に採用された者は19万9207名となった。他方、
JR各社に採用されず、当日、事業団職員となった者(原告等を含む)

は、2万1153名であった(乙10、11の1)

エ欠員が生じたJR北海道及びJR九州は、昭和62年4月、新規採用と
して、それぞれ280名、400名の職員募集を行った。JR各社に採用
されず事業団職員となっていた者のうち、北海道地区から2945名がJ
R北海道に、九州地区から1708名がJR九州に応募し、それぞれ28
1名、411名が採用された(以下「6月採用」という。原告等の中


の相当数もこれに応募したが、いずれも採用はされなかった(乙11の

6)
オ昭和62年6月5日閣議決定では、事業団職員の早期かつ円滑な再就職
の促進を図るべく、承継法人が新たに労働者を雇い入れようとする場合に
は、事業団職員を優先的に雇い入れることや、各省庁等による事業団職員
の優先採用等を定めた「日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進基本計
画について」が決定されたが、原告等は、希望するJR北海道、JR九州
あるいは地元の公的機関には採用されなかった(乙8)

カまた、採用予定者数を下回ったJR東日本、JR東海、JR西日本、J
R四国及びJR貨物は、昭和62年5月から平成2年3月にかけて、4次
にわたり、北海道及び九州地域の事業団職員を対象として、広域追加採用
を募集したが、原告等は、地元JRかこれに準じる公的機関への就職を希
、、。
望するなどしたためこれに応募しなかったか応募後これを取り下げた
(乙11の1ないし4)
()原告等の解雇
アJR各社に採用されなかった原告等は、国鉄の廃止(改革法附則2項)
と事業団への移行(同法15条)により、昭和62年4月1日付けで、事
業団職員となり、特別対策対象者に指定されて、各地域の雇用対策支所に
配属され、再就職促進法に基づき再就職促進対策が図られることとなった
が、原告等の再就職は再就職促進法附則2条によって同法が失効する平成
2年4月1日時点においても決まらなかった。
イ事業団は、平成2年3月9日、各労働組合に対し、同年4月1日をもっ
て再就職促進対策は終了するとして、事業団職員のうち再就職促進法失効
時において事業団に在籍する者の取扱いについて、同年3月19日までに
辞職申請書を提出しない者は、事業団就業規則22条4号により解雇する
旨通知した。
事業団就業規則22条は「事業団は、職員が次の各号の1に該当する場
合は、解雇し、又は降職させることがある。()業務量の減少その他経営
上やむを得ない事由が生じた場合」と規定されていた。
ウ事業団は、平成2年3月20日、原告等に対し、再就職が決まらずかつ
、、、
辞職申請書を提出しないとして解雇予告通知をし同年4月1日付けで
事業団就業規則22条4号に基づき原告等を解雇した。
なお、昭和62年4月1日時点において、再就職が未定であった事業団
職員は7628名であったが、平成2年4月1日時点で、再就職が未定で
あった職員は1047名うち13名は再就職内定者となっていた乙
()。

10)
()国労による不当労働行為救済申立て
ア国労及び国労の各地方本部は、昭和62年、JR各社の共通設立委員を
被申立人として(その後JR各社の設立に伴い被申立人をJR各社に変
更、4月採用においても6月採用においても国労組合員を職員として採

、、
用しなかったのは所属組合による差別の不当労働行為であるなどとして
原告27を除く原告等を含む国労組合員のJR各社への採用取扱い等を求
めて、不当労働行為救済申立てをその管轄する各地方労働委員会に申し立
てたところ、各地方労働委員会は、順次、国労及び国労の各地方本部の申
立てを全面的に認め、採用取扱い等を命じる救済命令を発令した(北海道
()、()、
地労委昭和62年不第6号神奈川地労委昭和62年不第22号
東京地労委昭和62年(不)第12号、宮城地労委昭和62年(不)第4
号、福島地労委昭和62年(不)第7号、静岡地労委昭和62年(不)第
1号、熊本地労委昭和62年(不)第1号、福岡地労委昭和62年(不)
、()、()
第2号鹿児島地労委昭和62年不第1号宮崎地労委昭和62年不
、()、()
第1号佐賀地労委昭和62年不第1号長崎地労委昭和62年不
第5号、大分地労委昭和62年(不)第6号等。原告27については、

救済申立てがされなかった。
JR各社は、これをいずれも不服として、中央労働委員会に再審査申立
てをしたが、中央労働委員会も、概要、JR各社の設立委員からその行う
べき手続の一部を委ねられた国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位に
あったというべきであるところ、承継法人の職員の採用に関する設立委員
の行為については、その効果と責任を承継法人に帰属させることが改革法
23条5項の趣旨であるとした上、国鉄は、承継法人の職員選別に際し、
国労を嫌悪し、その組合員を排除する意思をもって採用候補者名簿を作成
したと認定し、国労組合員に対する救済方法として、JR各社への採用取
扱いのほか、一部の組合員について再選考手続を実施することを内容とす
る救済命令を発令した。原告22を除く原告等(原告27を除く)につ

、、
いては救済方法がいずれも採用取扱いから再選考手続の実施に変更され
原告22の救済申立ては棄却された(中央労働委員会昭和63年(不再)
第68号、69号、同平成元年(不再)第4号、5号、26号、29号、
、、、、、、、
30号36号37号40号53号ないし56号59号91号
112号、同平成2年(不再)第2号、29号等。

(甲17ないし23、47、67ないし70、82、83、96、130、
131、150、160、327、332、乙113)
イ上記命令を不服とするJR各社及び国労は、東京地方裁判所に取消訴訟
を提起した(東京地方裁判所平成6年(行ウ)第8号、同第71号、同東
()、()、
京地方裁判所平成7年行ウ第303号同平成8年行ウ第38号
同第65号、同第122号、同第124号等。

東京地方裁判所は、上記各事件につき、平成10年5月28日、概要、
JR各社の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成は、専ら国鉄の権
限と責任に委ねられており、その過程に不当労働行為があったとしても、
、、
使用者としての責任は国鉄が負うものでありJR各社は責任を負わない
あるいは、設立委員の採用に関する行為は新規採用であるから、採用の自
由の観点からみて、不採用を直ちに不当労働行為ということはできないな
どとして、いずれもJR各社の請求を認容し、国労及び国労の各地方本部
の請求を却下する判決を出した。
原告22に関する不当労働行為救済申立てを棄却した命令に対しても、
同様に取消訴訟が提起されたが、東京地方裁判所、東京高等裁判所ともに
原告22に係る救済申立てを棄却した中央労働委員会の判断を是認してい
る。
(甲15、16、329)
ウ中央労働委員会は、東京地方裁判所平成6年(行ウ)第8号、同第71
号、同平成7年(行ウ)第303号、同平成8年(行ウ)第38号、同第
65号、同第122号、同第124号等事件の判決を不服とし、控訴した
が、控訴はいずれも棄却された。中央労働委員会は、さらに、これに対す
る上告をしたが(最高裁判所平成13年(行ヒ)第56号、96号等、

最高裁判所は、平成15年12月22日、概要、①改革法は、設立委員自
身が不当労働行為を行った場合は別として、専ら国鉄が採用候補者の選定
及び採用候補者名簿の作成にあたり組合差別をしたという場合には、労働
組合法7条の適用上、専ら国鉄、次いで事業団にその責任を負わせること
としたものと解さざるを得ず、このような改革法の規定する法律関係の下
においては、設立委員ひいては承継法人が同条にいう「使用者」として不
当労働行為の責任を負うものではない、②雇入れの拒否は、それが従前の
雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為
の成立を肯定することができる場合にあたるなどの特段の事情がない限
り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いにあたらない、などと
して、上告を棄却した(以下、前記判決を総称して「本件最高裁判決」と
いう。


なお、本件最高裁判決の判示事項のうち、①に対しては、改革法は、J
R各社の職員採用について国鉄に設立委員の補助的なものとして権限を付
与したものと解すべきであることを根拠として、採用手続過程において国
鉄に不当労働行為があったときは、設立委員ひいてはJR各社が労働組合
法7条の使用者として責任を負うべきとの、②に対しては、新規採用にお
いて使用者に採用の自由があるものの、営業譲渡等雇主が労働者の従前の
雇用関係と密接な関係があると認められるような事情がある場合には、採
用の自由が制限されることもあるところ、JR各社が行った追加採用につ
、、
いてはこのような場合にあたるから新規の採用であることを理由として
その採用の拒否が労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いにあたら
ないと断ずることはできないとの2名の裁判官による反対意見が付され
た。
()本件訴訟提起と時効援用
ア原告番号1ないし9は平成16年11月30日、原告番号10ないし1
5は平成17年2月28日、原告番号16及び17は同年4月26日、原
告番号18及び19は同年7月12日、原告番号20ないし22は同年1
1月14日、原告番号23ないし30は同年12月22日、原告番号31
ないし35は平成18年1月25日、それぞれ本件訴訟を提起した。その
後、原告らは、同年3月9日、予備的請求に係る遅延損害金に関する請求
を拡張した。
イ被告は、遅くとも平成19年9月20日の第20回口頭弁論までの口頭
弁論期日において、原告らの請求のうち未払賃金請求、損害賠償請求及び
遅延損害金の請求すべてについて消滅時効を援用するとの意思表示をし
た。
3争点
()主位的請求
ア本件解雇は有効か
イ本件解雇が無効である場合、原告らが支払を求めることができる賃金は
いくらか。
ウ国鉄、事業団又は被告は、次のような行為をしたか。また、次のような
行為は不法行為に当たるか。
(ア)国鉄は、昭和58年4月から昭和62年にかけて、原告等に対し、国
労に所属することを理由に、不当な処分や、余剰人員扱い等をし、国労
に所属していてはJR各社に採用されないと喧伝、脅迫し、このような
不利益取扱い、脅迫によって国労の弱体化を図り、国労からの脱退を工
作するなどの行為をした。
(イ)国鉄は、昭和62年、原告等を、国労に所属していることを理由に、
JR北海道、JR東日本、JR九州、JR貨物への採用候補者名簿に記
載しなかった。
(ウ)事業団は、昭和62年4月以降、原告等を雇用対策支所に配属し、劣
悪な労働環境に押し込め、再就職活動を妨害した。
(エ)事業団は、平成2年4月1日付けで、原告等を、解雇した。
(オ)事業団や被告は、原告等をJR各社に就職させる義務を負うにもかか
わらず、今日まで放置した。
エウの行為が不法行為であるとして、損害(慰謝料、弁護士費用)はいく
ら認められるか。不法行為による損害回復措置として謝罪文の掲示やJR
各社への要請文交付、採用要請を求めることができるか。
オ被告が賃金を支払う義務や不法行為による損害賠償義務を負うとして、
その消滅時効の起算点はいつか。原告等が時効中断の措置をとったといえ
るのか。また、被告が時効を援用することが権利濫用となるか。
()予備的請求
ア国鉄は、昭和62年、原告等を、国労に所属していることを理由に、J
R北海道、JR東日本、JR九州、JR貨物への採用候補者名簿に記載し
ないという不法行為を行ったか(主位的請求ウ(イ)と同じ)

イ本件解雇の無効が認められない場合、アの行為が不法行為であるとする
と、損害(賃金相当額の逸失利益等、慰謝料、弁護士費用)はいくら認め
られるか(慰謝料、弁護士費用は、主位的請求エと同じ)

ウ被告が不法行為による損害賠償義務を負うとして、その消滅時効の起算
点はいつか。原告等が時効中断の措置をとったといえるのか。また、被告
が時効を援用することが権利濫用となるか(主位的請求オと同じ。


4争点に対する当事者の主張の要旨
()本件解雇の有効性(争点()ア)について
(原告らの主張)
ア事業団は、平成2年4月1日、再就職促進法が附則2条に基づき失効し
たことを受け、本件解雇に及んだ。しかし、本件解雇は、以下の理由によ
り無効である。
イ法令違憲
国鉄の分割民営化当時の総理大臣であった中曽根康弘(以下「中曽根元
総理」という)が、その目的について「総評を崩壊させようと思ったか

らね。国労が崩壊すれば、総評も崩壊することを明確に意識してやったわ
」、、()
けですと述べているように国鉄改革は勤労者の団結権憲法28条
を侵害する目的で行われたものである。そのため、改革法19条2項3号
は、虚偽の国鉄赤字論を根拠として、国鉄職員の身分保障をはずして職員
数を削減することを可能とし、結果として、原告等の勤労の権利(憲法2
7条1項)を侵害した。
以上のとおり、改革法や再就職促進法は、憲法27条1項、28条に反
、、。
するものであり無効であるからそもそも被告は原告等を解雇できない
ウ運用違憲等
国鉄は、国鉄改革の過程において「組合差別をしない」ことが国会審

議で度重なり確認されていたという立法経緯があったにもかかわらず、原
告等に対し、国労組合員であるということのみを理由として、JR各社へ
の採用候補者名簿に記載しないという不利益取扱いをした。
原告等は、本来公正な人事評価がされていれば採用候補者名簿に記載さ
れたはずであるところ、このような不当労働行為の結果事業団に送りこま
れ、さらには、国労組合員であるが故に、再就職斡旋もされないという不
利益取扱いを受けた。
再就職促進法の趣旨は憲法27条1項及び29条3項に求められるとこ
ろ、事業団は、国鉄の不当労働行為意思を承継した結果、原告等に再就職
斡旋をしないという不当労働行為をしたのであるから、このような場合に
原告等に対して再就職促進法附則2条を運用することは憲法27条1項、
29条3項に反して違憲である。
事業団は、国労や国労組合員に対し、JR各社への採用候補者名簿への
不記載、特別対策対象者への指定、再就職斡旋の懈怠といったあらゆる不
当労働行為をした挙げ句、その原状回復措置をとることすらしないまま、
本件解雇に及んだのだから、原告等に対し再就職促進法附則2条を適用す
ることは、憲法28条に反して違憲である。また、再就職促進法は、採用
候補者名簿の公正な作成や原告等を含む国鉄職員全員の再就職の実現を前
提として3年の時限立法として成立しているところ、事業団が国労組合員
を差別して原告等の再就職斡旋を懈怠した結果、これらの前提は実現しな
かったのであるから、原告等に対し再就職促進法附則2条を適用すること
は憲法28条に反して違憲である。
以上によれば、再就職促進法が失効したこと自体違憲であるから、本件
解雇は無効である。
エ不当労働行為として無効、解雇権濫用等
本件解雇は、一連の不当労働行為の完成行為としてされたものであるか
ら、それ自体不当労働行為として解雇は無効である。また、国鉄による採
用候補者名簿の作成が不当労働行為である以上、原告等を特別対策対象者
に指定したこと自体無効であるから、本件解雇も無効となることは当然で
ある。さらに、再就職促進法は、改革法17条に定めた「再就職の機会の
確保及び再就職の援助等のための特別の措置を講ずる」ための法律にすぎ
ないところ、事業団の目的を「職員の再就職の促進を図るための業務を行
わせる」と定める改革法15条は存続しているのであるから、再就職促進
法が失効したとしても、事業団が原告等を雇用し続け、その再就職の促進
を図ることは当然の責務である。
再就職促進法が時限立法であることを理由とする本件解雇は、期限付雇
用の期限到来による解雇と同様であるが、原告等が期限付雇用とされたの
は不当労働行為の結果によるから、本件解雇は解雇権を濫用するものとし
て無効である。
本件解雇は、整理解雇を3年繰り延べたにすぎない期限付整理解雇にほ
かならないが、本件解雇は整理解雇の4要件を充足していない。
さらに、本件解雇は、事業団への振分けという不当労働行為及び再就職
、、、
斡旋行為の著しい懈怠が存在しまたJR不採用事件の各地労委命令で
不当労働行為の存在が認定され、救済命令が発令されていた中、解雇回避
、。
措置もあり得た中で強行されたものであり解雇権を濫用したものである
オ以上のとおり、本件解雇は無効であるところ、日本国有鉄道事業団の債
務等の処理に関する法律附則2条1項、独立行政法人鉄道建設・運輸施設
整備支援機構法附則2条1項によれば、事業団の権利義務は、一定の例外
を除き、鉄建公団、ひいては被告が承継すると定められているのであるか
、、。
ら被告は原告等と事業団との間で存在した雇用関係を当然に承継する
よって、原告らは、被告との間で、雇用関係が存在することの確認を求
める。
(被告の主張)
ア再就職促進法により、原告等を含む特別対策対象者の事業団における雇
用は3年間の同法有効期限内とされ、同法の失効とともにその雇用が終了
することとされていたことは明らかである。再就職促進法は、特別対策対
象者が3年の期間内に施策の趣旨を理解し、再就職に協力することを合理
的前提としているため、特別対策対象者の平成2年4月1日以降の処遇に
ついて明文の規定を置かなかった。ところが、原告等は、施策の趣旨を理
解せず、事業団からの度重なる再就職斡旋がされたにもかかわらず、再就
職の努力を怠ったため、事業団は、法形式上、再就職促進法の失効に伴い
再就職促進対策を継続し得なくなった原告等と事業団との間における雇用
契約関係を、事業団就業規則22条による解雇手続により終了したもので
ある。このような事態が、事業団就業規則22条4号にいう「経営上やむ
を得ない事由が生じた場合」に該当することは明らかである。
イ原告らは、改革法や再就職促進法が違憲であり無効であるなどと主張す
るが、原告らの違憲の主張は争う。国鉄改革に係る一連の法律を違憲とす
る余地はない。
ウ原告らは、原告等が期限付雇用とされたのは不当労働行為の結果による
から、そのような原告等を解雇することはできないと主張するが、原告等
が採用候補者名簿に記載されなかったのは不当労働行為の結果によるもの
ではない上、原告らのいう不当労働行為が存在したとしても、そのことに
よって原告等を特別対策対象者に指定したことが無効とされる余地もない
から、原告らの主張によっても本件解雇の効力は否定できない。
原告らは、JR不採用事件の各地労委命令で不当労働行為の存在が認定
されていた以上、原告等の解雇回避措置もあり得たとも主張するが、原告
らが主張する各地労委命令は、その後、取消訴訟において取り消され、判
決も確定しているように違法な命令にすぎないし、あくまでも3年を期間
として事業団職員となったにすぎない原告等について解雇回避措置をとる
余地もないから、原告らの主張は理由がない。
原告らは、本件解雇は整理解雇であるとも主張するが、本件解雇は、原
告等特別対策対象者が事業団に雇用を継続し得る期間が3年間を限度とさ
れたことに従った手続として行われたものにすぎないから、これを整理解
雇という余地はない。
エ以上のとおり、本件解雇の無効をいう原告らの主張はいずれも理由がな
い。
()支払を求め得る賃金額(争点()イ)について
(原告らの主張)
原告等の毎月の賃金は、別紙未払賃金等目録①ないし⑦「基本給」欄記載
のとおりであり、毎月末日締め、翌月20日払いとされていた。事業団がし
、、、
た本件解雇は無効であるから事業団を承継した被告は雇用契約に基づき
原告らに対し、解雇日以降の未払賃金を支払う義務を負う。原告等の受け取
るべき賃金の月額は、別紙未払賃金等目録①ないし⑦「基本給」欄記載のと
おりであり、原告らが本件訴訟を提起した日が属する月までの未払賃金の総
額は、同目録「未払賃金総額」欄記載のとおりである。
よって、原告らは、被告に対し、雇用契約に基づき、本件訴訟提起前の未
払賃金として、別紙未払賃金等目録①ないし⑦「未払賃金総額」欄記載の金
員、及び同金員のうち、毎月の賃金である同目録「基本給」欄記載の各金員
に対する毎月の支払日の翌日(毎月21日)から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金、並びに、本件訴訟提起後に支払われるべき賃
金として、本件訴訟を提起した月の翌月以降、毎月20日限り、同目録「基
本給」欄記載の金員を、支払うよう求める(原告28ないし30は、本訴提
起までの賃金とこれに対する遅延損害金の支払だけを求める。


(被告の主張)
原告らの主張は争う。
()不法行為の存在(争点()ウ、()ア)について
(原告らの主張)
ア国鉄及び事業団は、原告等に対し、大別して、以下の5つの不法行為を
行った。これらの不法行為は、当時の中曽根元総理の「国労を潰す」意図
のもとに、いわば国家的不当労働行為として行われた一体のものとして、
原告等の労働基本権と人格権を侵害するものであった。
イ(ア)国鉄が、昭和58年4月から昭和62年にかけて行った不当労働行
為(以下「不法行為①」という)

国鉄は、原告等が国労に所属するということを唯一の理由として、原
告等が分割民営化反対のワッペンを着用したり、赤いタオルを使用した
という些細な行為を取り上げて不当な処分を行った。また、国鉄は、他
組合所属の組合員を広域配転させることにより国労所属組合員を玉突き
人事で職場から追い出すという余剰人員扱いをしたし、国労組合員を人
材活用センターに配転して本務からはずし、駅清掃、ペンキ塗り、ガラ
ス磨きのみを行わせるといった嫌がらせも行うなどして、原告等国労所
属組合員の雇用不安を煽った。
国鉄は、採用候補者の選定及び名簿作成を行うという立場にあること
を利用して、原告等国労組合員に対し、国労に所属していてはJR各社
に採用されないと脅迫を続けた。
国鉄は、昭和61年3月5日、従前の人事評価に用いられていた職員
管理台帳に加え、分割民営化の際の採用候補者選定の資料とするべく、
職員管理調書の作成を指示した。さらに、国鉄は、職員管理調書につい
て、国労を不利益に取り扱うべく、評定期間を動労が分割民営化賛成に
転じた昭和58年4月以降の3年に限定した。
国鉄は、以上の行為により、国労の弱体化や変質を図った上、原告等
に国労から脱退するよう迫り、原告等の団結権を侵害したのであり、国
鉄は、その不法行為責任を免れない。
(イ)国鉄が原告等をJR各社の採用候補者名簿に記載せず、事業団に振り
分けた行為(以下「不法行為②」という)

国鉄は、国労を嫌悪し、これを排除する意図のもとに、恣意的な選定
基準(本件採用基準)を定めた上、これを恣意的に運用し、原告等国労
組合員を採用候補者名簿に記載しなかった。
国鉄が、採用候補者名簿作成にあたり、原告等国労組合員を所属組合
を理由に差別したことは、各組合間の採用率には顕著な差があること、
国労脱退者は、従前の処分歴や役員歴を問わずJRに採用される一方、
国労に残った者はいかに優秀であっても採用候補者名簿に記載されなか
ったこと、国鉄の分割民営化当時の旧国鉄幹部の発言や現場管理者によ
る執拗な国労組合員への脱退工作、国労組合員数の顕著な減少、不採用
となった職員に対し、その理由が一切明らかにされなかったこと、以上
の各事実から明らかである。
また、採用候補者名簿の作成にあたっては、国鉄が定めた「停職処分
6か月以上の処分を受けた者又は停職処分2回以上の処分を受けた者」
との本件採用基準が用いられたが、この基準自体、一部の積極的な組合
活動家を排除するためのもの、違法性が阻却されるべきストライキ等に
対する労働処分を理由とするもの、既に処分を受けた事項について二重
の処分をするもの等として不当なものであるし、その運用も、国労所属
組合員にことさらに不利なものであった。
国鉄が、国労を嫌悪し、これを排除するために、採用候補者名簿作成
にあたり原告等国労組合員を差別したことは明らかであり、国鉄は、当
該行為について不法行為責任を免れない。
(ウ)事業団が、原告等を劣悪な労働環境に押し込め、原告等に自学自習し
、(「」。


かさせずその再就職活動を妨害した行為以下不法行為③という
事業団は、原告等をあえて遠方の雇用対策支所に配属したり、倉庫や
廃屋のような建物に気積空間規制を無視して過剰に人員を収容するな
ど、原告等を劣悪な労働環境に押し込めた。
事業団は、原告等に対し、映画やテレビを見せたり、役に立たない職
業訓練等を行ったり、原告等のように地元JRや公的部門への再就職を
希望する者には資格取得を制限するなどして、原告等の再就職斡旋を放
棄した。被告は、原告等について、あたかも再就職指導や斡旋が頻繁に
行われていたかに主張するが、その回数は水増ししてねつ造されたもの
であるし、その内容も実のあるものではなかった。
また、事業団は、事業団職員の再就職活動の際、職員管理調書を再就
職先の企業に提出し、原告等の再就職を妨害した。
事業団が、原告等を劣悪な労働環境に押し込めて再就職斡旋を放棄し
たばかりか、再就職活動を妨害したことが不法行為に該当することは明
らかであり、事業団は、当該行為について不法行為責任を免れない。
(エ)事業団が平成2年4月1日付けで原告等を解雇した行為以下不
、、(「
法行為④」という)

本件解雇は、前記()解雇の有効性(原告らの主張)記載のとおり無
効であり、これを行った事業団は不法行為責任を免れない。
(オ)被告や事業団が、原告等をJRに就職させるよう要請する義務を負っ
ているにもかかわらず、これを怠り、現在まで放置した行為(以下「不
法行為⑤」という)

原告等については、各地方労働委員会において、現職復帰を命じる救
済命令が出されていたのであるから、事業団は、原告等を安易に解雇す
るのではなく、地元JRへの採用、再就職促進法の期間延長、事業団の
本務職員への暫定的配転等の措置を講じるべき義務を負っていた。そう
であるにもかかわらず、被告や事業団は、その義務を全く履行すること
なく、原告等を現在まで放置し続けているのであるから、被告や事業団
は当該継続的不作為について不法行為責任を免れない。
ウ被告は、国鉄及び事業団の不法行為責任を承継したものであるから、被
告は、上記不法行為につき、原告らに対して不法行為に基づく損害賠償を
する義務がある。
(被告の主張)
ア不法行為①について
国鉄が、昭和58年4月から昭和62年にかけて、原告等に対して、同
人らが国労に所属することの故に、不当な処分をしたり、余剰人員扱いを
したり、嫌がらせを行うなど、不当労働行為をした事実はない。
イ不法行為②について
国鉄の分割民営化は、必要不可避な施策として進められていた。ところ
が、国労は、職場闘争至上主義から、職場規律是正に反抗し、管理者を敵
対する態度を堅持し、余剰人員対策等の諸施策に抵抗した。このような国
労の組合員である原告等が相対的に勤務成績劣位と判断されても、組合所
属による差別ではない。国鉄が原告等を採用候補名簿に記載しなかったこ
とは、正当な人事権の行使であり、不当労働行為、不法行為ではない。
なお、昭和59年4月以降、いずれも非違行為によって、原告22は1
か月間停職と12か月間停職、原告27は3か月間停職と5か月間停職の
処分を受け、他にも、原告1は1か月間10分の1減給、原告21は1か
、、、、、、、、
月間停職原告2ないし46ないし81417182022
27、31、34は、戒告の各処分を受けている。
ウ不法行為③について
事業団は、昭和62年4月1日から平成2年4月1日までの間、特別対
策対象者に対して可能な限りの再就職の斡旋、面談を行い、その就職指導
は平均各人73.3回、就職斡旋は各人平均33.5回行ったほか、JR
追加募集も4次にわたり行われた。原告等が再就職できなかったのは、地
元JRへの再就職に固執した結果であり、事業団が、原告等の再就職斡旋
を放棄したり、再就職を妨害したりした事実はない。
エ不法行為④について
本件解雇は、前記()解雇の有効性(被告の主張)のとおり、無効では
なく、不法行為ではない。
オ不法行為⑤について
再就職促進法の失効の前後を問わず、事業団や被告が原告等を地元JR
に再就職させる法的義務はないから、JRに就職させるよう要請しなかっ
たことが不法行為となることはない。
()不法行為①ないし⑤による損害(慰謝料、弁護士費用)及び損害回復措置
(争点()エ)について
(原告らの主張)
ア原告等は、国鉄、事業団及び被告による不法行為①ないし⑤により、職
を失ったまま10年以上の長きにわたって、不当労働行為の是正を求めて
活動せざるを得なかったのであるから、その間に各原告が被った精神的損
害は2000万円を下ることはないし、当該損害と相当因果関係がある弁
護士費用は200万円である。したがって、原告らは、それぞれ、被告に
対し不法行為に基づく損害賠償の内金請求として別紙未払賃金等目録慰
、「
」、(、、
謝料欄記載のとおり2000万円ただし原告28は1000万円
原告29及び30は各500万円)を支払うよう求める。
イ原告等は、不法行為②ないし⑤により、採用差別を受け、さらに事業団
から解雇されたことで職務不適格者との烙印を押され、名誉権を侵害され
た。このことからすれば、原告らに対しては、民法723条に基づきその
名誉を回復するに必要な処分がされるべきである。名誉回復のための処分
としては、通常、謝罪広告の方法がとられることが多いが、原告らの名誉
侵害が、国鉄や事業団による不当労働行為の結果生じたものであることに
照らせば、不当労働行為事件の方式にならい、原告らに対する謝罪文の交
付及び被告方におけるその掲示並びに原告ら(原告28ないし30を除
く)の地元JRへの採用要請を被告に命じることが相当である。

(被告の主張)
原告らの主張は争う。
()不法行為②による損害(逸失利益(争点()イ)について

(原告らの主張)
ア憲法28条の労働基本権が侵害された場合の救済は「原状回復」が大原
則であり、原告等を「地元JR」に復職させることが本件においてなされ
るべきであるが、本件最高裁判決により、原告等がJR各社に採用取扱い
とならないことが確定した以上、原告等は、国鉄、事業団、鉄建公団を承
継した被告に対し「原状回復」であるJRへの採用取扱いに準じる損害

賠償を請求する権利を有する。
JRへの採用取扱いに準じる損害賠償は、①原告等がJR各社に採用さ
れ、定年まで働いた場合の賃金相当額、②退職金相当額、③死亡に至るま
での年金相当額(原告28ないし30については、亡P1の賃金、死亡時
の退職金相当額及び遺族年金相当額)であり、その詳細は、別紙原告別損
害賠償請求額一覧表及び同表添付の別表2ないし4のとおりである。
イよって、予備的に、本件解雇の無効が認められない場合、原告らは、被
告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用
も含めて、別紙原告別損害賠償請求額一覧表各「総請求額」欄記載の金員
(慰謝料及び弁護士費用は内金請求である)及びこれに対する昭和62

年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を
支払うよう求める。
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
()消滅時効(争点()オ、()ウ)について
(原告らの主張)
ア消滅時効の起算点について
、、、、
(ア)不法行為①②は不法行為⑤にとって先行行為であり不法行為③
④は、不法行為⑤にとって法的評価の根拠となる事実であって、不法行
為①ないし⑤は、一体の不法行為として判断されるべきものである。こ
れらの不法行為は、被告や事業団が、今日に至るまで原告等を地元JR
各社に採用要請しなかったという継続的な不法行為であり、違法行為は
未だ終了していない上、原告等の被害もまた、人材活用センターへの隔
離収容を初めとする黄犬契約類似の行為、差別名簿作成、不採用、事業
団への収容解雇により作出・助長・維持された国労組合員に対する不
、「
適格者」とのレッテル張り、社会内の差別・偏見の存在によって、今日
まで継続的・累積的に発生してきたものであって、その精神的損害を全
体として一体に評価しなければ、損害の適正な算定ができない。
このような場合、損害は先行行為に基づく作為義務違反として一体的
損害と考えられるし、時効も一括して進行すると考えられる。
特に、不法行為⑤は、現在も継続する不法行為であるから、一体の不
法行為である不法行為①ないし⑤に関する消滅時効は、未だ、進行して
いない。
(イ)仮に、不法行為①ないし⑤が一体のものとして判断されず、不法行為
①ないし④について消滅時効が個別に進行するものであるとしても、こ
れらの時効の起算点は本件最高裁判決時であるから、未だ消滅時効は完
成していない。
不法行為の消滅時効の制度の趣旨からすれば、民法724条の「損害
及び加害者を知ったとき」の解釈としては、不法行為の被害者が「権利
の上に眠る者」との非難を浴びる以上、また、被害感情が発生し沈静化
する前提として、①現実に損害賠償請求権を行使し得る場合に、②その
、、
可能な程度に損害賠償義務者が誰か③加害行為が不法行為であること
④それによる損害の発生を知っていることが必要と解される。
これを原告らについてみると、改革法は、不当労働行為の責任を負う
ものを明確にし得ない形で立法されたために、原告らは、採用差別の不
当労働行為について使用者として責任を負うのが国鉄(これを承継した
各法人)なのか、JR各社なのか明確にし得ない状態に置かれ、法律の
素人である原告らは、本件最高裁判決が出されるまで、被告に対する責
任追及など考えも及ばなかった。
本件最高裁判決は、JR各社の不当労働行為の使用者としての責任を
否定したが、それまでは労働委員会と地方裁判所、高等裁判所の間で判
断が分かれ、国鉄とJR各社のいずれが採用差別の責任を負う加害者か
全く不明であったため、原告らが事業団及びその承継法人に損害賠償請
求をなし得る状況にもなかった。
原告らは、本件最高裁判決まで、事業団への配属自体が無効であると
して、被告への地位確認請求と両立困難な主張をしていたのであり、こ
のような状況下において、被告や事業団への地位確認や損害賠償請求を
することは著しく困難であった。
以上によれば、JR各社に採用されていたら得られたであろう賃金、
退職金及び年金相当額の財産的損害並びに慰謝料及び弁護士費用につい
、、
てはJR各社に採用される余地がなくなったという損害が現に確定し
被告を加害者として知り、実際に被告に賠償を求めることが可能となっ
たのは、本件最高裁判決時とされるべきである。
(ウ)以上のとおり、国鉄、事業団及び被告が行った不法行為①ないし⑤に
よる損害賠償請求権の消滅時効は、そもそも進行していないか、その起
算点は平成15年12月22日とされるべきであるから、未だ、原告ら
の損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。
イ時効の中断について
原告等が所属する国労の各地方本部は、前提事実()アのとおり、昭和
62年以降、採用差別について、不当労働行為救済申立てを行い、不法行
為①ないし④の違法性を訴えていた。
不当労働行為救済申立てと不法行為に基づく損害賠償請求訴訟は異なる
ものであるが、団結権侵害行為は私法上も不法行為となるし、その救済に
ついては特定救済という点で共通する手段もあることからすれば、不当労
働行為救済申立ても民法147条の裁判上の請求にあたる。
そして、国鉄はJR各社の設立委員の補助者として原告等に対する共同
()、、
不法行為連帯債務となるを行ったのであるから民法434条により
原告等が所属する国労がJR各社を被申立人として不当労働行為救済申立
てをしたことにより、原告らの被告に対する損害賠償請求権の時効は中断
した。
よって、原告らの損害賠償請求権の消滅時効は完成していない。
ウ被告による時効の援用が権利の濫用にあたることについて
仮に、原告らの損害賠償請求権に係る消滅時効の起算点が、不法行為時
とされるとしても、国鉄当局が改革法23条というJR各社の使用者責任
を問うことを困難にする法律を意図的に立法させたこと、国鉄も事業団も
原告等の不採用の理由を一切明らかにしなかったこと等のほか、原告等の
採用差別という不当労働行為の責任を負う主体が判然としないため、原告
らの損害賠償請求権の行使が事実上制約されてきたこと、原告らが権利の
上に眠ってきたとはいえないし、国鉄時代、事業団時代の不法行為の証拠
、、、
も散逸していないなど時効を完成させるべき理由もないことさらには
国鉄は国策による国営企業であり、時間の経過により責任を逃れさせるこ
とは著しく正義に反すること、以上の事情に照らせば、被告が消滅時効を
援用することは、権利の濫用にあたり許されるべきではない。
よって、被告による消滅時効の援用は認められない。
()、、
エ原告らの被告に対する未払賃金債権主位的請求についても同様に
消滅時効の起算点は本件最高裁判決時とされるべきであり、時効は中断し
ているし、被告による時効の援用は権利の濫用にあたる。
(被告の主張)
ア時効の援用について
原告らは、予備的請求に係る不法行為として、不法行為①ないし⑤を挙
げるが、不法行為①ないし④の不法行為は、遅くとも平成2年4月1日に
は行為が終了し、各行為と同時に、原告らは加害者も損害も知ったもので
ある。本件訴訟は、原告らが不法行為①ないし④の加害者や損害を知って
から3年以上経過してから提起されたものであり、その消滅時効は完成し
ているから、被告は、消滅時効を援用する。
イ消滅時効の起算点について
(ア)原告らが主張する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算
点は、遅くとも平成2年4月1日である。
(イ)不法行為①ないし⑤は加害者、被害者、原告らが主張する加害行為の
いずれの観点からみても独立したものであり、これを一体の不法行為と
してみる余地はない。また、前記()不法行為の存在(被告の主張)オ
のとおり、不法行為⑤は成立し得ないのであるから、仮に原告らが主張
する不法行為を一体の不法行為とみる余地があるとしても、不法行為①
ないし④の消滅時効の起算点は遅くとも平成2年4月1日である。
(ウ)原告らは、不法行為①ないし④の消滅時効の起算点は、本件最高裁判
決時であると主張するが、原告らがJR各社への責任追及をしたのは、
自らが政治運動論又は組合運動論の結果としてJRへの採用を「原状回
復」と定め、それ以外の救済を視野に入れなかったことに帰するものに
すぎず、被告に対し、損害賠償請求をすることの障害は何ら存在しなか
った。
原告らは、本件最高裁判決に至って初めて被告への提訴が可能になっ
たなどとするが、上記判決によって確定されたのは、原告らとして、国
鉄の分割・民営化に伴い新企業体として発足するJR各社に対しては、
国鉄の作成するJRの採用候補者名簿に記載されなかったことによる不
当労働行為責任を問えないということにすぎない。国鉄が不当労働行為
を行ったとすれば、その責任は、国鉄又はこれから移行した事業団が負
うことは何人の目にも明らかであるし、原告らが国鉄又は事業団に対し
て損害賠償請求をすることを妨げる事情は何もなかった。
すなわち、本件最高裁判決によって、JR各社の不当労働行為責任の
有無が明確となる前であっても、国鉄又は事業団に対する損害賠償請求
の訴えは提起可能であったのであるから、不法行為①ないし④の消滅時
効の起算点を本件最高裁判決時とすることには理由がない。
ウ時効中断について
原告等がJR各社を被申立人として不当労働行為救済申立てをしたこと
は、被告や事業団とは法主体を異にする者に対する請求の域を出ず、しか
も、その責任追及は、労働委員会に対する不当労働行為の救済申立てとし
てされていたにすぎないから、これに時効中断の法的効果を認める余地は
ない。
エ時効の援用が権利濫用にあたらないことについて
原告らは、被告が消滅時効を援用することは、権利濫用であると主張す
るが、被告が消滅時効を援用することが権利濫用とされるべき事情は何ら
ない。
特に、不法行為②については、事業団は、原告等を含む特別対策対象者
、「」
に対し再就職斡旋を重ねたにもかかわらず原告等は地元JRへの採用
に拘泥して、これを拒否したために、本件解雇に至ったにすぎないのだか
ら、そもそも、被告や事業団に非はないし、その後も、被告や事業団は、
原告らの損害賠償請求権の行使に関し、何らこれを制約していない。原告
らは、自らを「権利の上に眠る者」ではないし「立証も困難になってい

ない」とするが、原告らは、被告や事業団との関係では、何らの請求もす
ることなく、長期間を徒過したものにすぎないから、まさに「権利の上に
眠る者」であるし、原告らが訴訟提起を怠った結果、関係資料も散逸した
のであるから、立証も現状では困難になっている。
原告らは、不法行為の直接の当事者である国鉄が、改革法23条という
JR各社の使用者性を問うことを困難にする法律を意図的に立法させたと
主張するが、原告らの主張は、所詮、改革法23条の解釈を誤ったことの
責任を他に転嫁する不当なものにほかならない。
以上によれば、被告による消滅時効の援用が権利濫用とされる余地はな
い。
オ本件解雇の無効を前提とする賃金支払請求についても、本訴提起から2
年以上前に支払日が到来したものについては既に消滅時効が完成している
から、被告は消滅時効を援用する。
賃金債権についても、時効は中断していないし、時効の援用が権利濫用
とされる余地はない。
第3当裁判所の判断
1本件解雇の有効性(争点()ア)について
()原告等は、再就職促進法附則2条により平成2年4月1日に再就職促進法
が失効したことを受け、事業団就業規則22条4号の「経営上やむを得ない
事由が生じた場合」に該当するとして、同日付けで事業団を解雇されたもの
である(前提事実()ア。
1)
原告らは、①本件解雇の前提となっている国鉄改革関連8法は、国労の解
体や国労組合員の雇用を奪う目的で作られたものであり、憲法27条1項、
28条に反する、②国鉄による不当労働行為によって事業団職員とさせられ
た上、再就職促進法が事業団に義務づけた3年間の再就職支援が行われなか
った原告等に対して、再就職促進法附則2条を適用し、再就職促進法を失効
させることは、憲法27条1項、28条、29条3項に反する、③本件解雇
には合理性や相当性もないなどとして、本件解雇が無効であると主張するの
で、以下、順次検討する。
()法令違憲について
原告らは、国鉄改革関連8法が憲法27条1項、28条に反する違憲な法
律であると主張する。
しかし、そもそも、憲法27条1項は、国家に対して国民に労働の機会や
そのような機会を得られない労働者の生活を保障する政治的義務を課したも
のにすぎないことに照らせば、国鉄改革関連8法が、憲法27条1項に違反
。、、
しているとする余地はないまた国鉄改革関連8法の内容についてみても
承継法人の職員となる意思を有する者で、採用候補者として選定された者の
、()、
うち採用通知を受けた者は承継法人の職員とする改革法23条一方で
採用候補者として選定されず、採用通知を受けなかった者は、事業団職員と
して、国鉄との間の雇用を継続する(改革法15条)とした上、特別対策対
象者については、3年の間、再就職のための準備をさせると定めている(事
業団法26条3項、再就職促進法1条、14条3項)のであり、国鉄改革関
連8法は、法が定めた制度として、国鉄の職員であった者に対する労働の機
会を保障するに足りないものとはいえないから(このことは、弁論の全趣旨
によれば、特別対策対象者の労働条件は、JR各社に採用された者と同等の
ものでなかったと認められることに左右されるものではない、国鉄改革


関連8法が憲法27条1項の趣旨に反するということもできない。
、。
次に国鉄改革関連8法が国労組合員の団結権を侵害するものか検討する
証拠(甲13、226)によれば、雑誌「○○」平成8年12月30日号
や、雑誌「○○」平成17年12月号に、中曽根元総理がインタビューを受
け、国鉄改革を振り返り「総評を崩壊させようと思ったからね。国労が崩

壊すれば、総評も崩壊するということを明確に意識してやったわけです、

「、。、
国鉄民営化は国鉄労組を崩壊させました国鉄労組の崩壊は総評の崩壊
つまり社会党崩壊につながります。だから、国鉄改革は、日本の基盤に大き
。。

な変革を与えたんですよもちろん私はそれを認識して実行に移しました
と発言している記事が掲載されていることが認められ、中曽根元総理が上記
記事に記載されたような趣旨の発言をした事実が認められる。これらの発言
に照らせば、中曽根元総理が、国鉄改革が国労崩壊につながることをも意識
して国鉄改革に臨んだことは明らかである。しかし、他方で、証拠(甲14
1、287、454(添付疎甲415)及び弁論の全趣旨によれば、国鉄

改革関連8法が審議された第107回国会日本国有鉄道改革に関する特別委
員会において、橋本元大臣が「新たな会社の職員は、国鉄職員の中から新

会社の設立委員が提示する採用の基準に従い新規に採用される仕組みとなっ
ておるところでありまして、その際、所属組合等による差別があってはなら
ないと思います。残る職員は、清算事業団において各種の措置を講じて、3
年以内に計画的に全員の再就職を図る仕組みとなっておるところでありまし
て、この場合においても所属組合等による差別があってはもちろんならない
でありましょう「あくまでもこの基準というものは設立委員などがお決



めになるものでありますけれども、私はその内容について、所属する労働組
合によって差別が行われるようなものであってはならないと思います」と

答弁しているほか第107回国会日本国有鉄道改革に関する特別委員会参
、(
議院)において、昭和61年11月28日「各旅客鉄道株式会社等におけ

る職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよ
う配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合等による差別等が
行われることのないよう特段の留意をすること」との附帯決議がされている
と認められるように、国鉄改革関連8法が、国労や国労組合員を初めとして
いかなる労働組合に対しても不利益取扱いをしないことを前提として制定さ
。、、
れたことは明らかである現に国鉄改革関連8法の各条文の内容をみても
特に国労や国労組合員に対する差別意図を窺わせる条文も存在しない。
原告らは、上記附帯決議において「組合活動等による差別」との文言が

入れられなかったことや、国鉄による採用候補者の選定や採用候補者名簿作
成が設立委員の行為の代行であり準委任であることが明文化されなかったこ
とに、国労や国労組合員をJR各社から排除しようとする意図が窺えると主
張するが、原告らが主張する事実のみから、国鉄改革関連8法が国労の団結
権を侵害する法律であると認めることはできない。
以上によれば、国鉄改革関連8法自体が、国労の団結権を侵害するもので
あるともいえない。
したがって、国鉄改革関連8法が憲法に違反する法律であり、これらの法
律に基づいて行われた本件解雇が無効であるとの原告らの主張は採用できな
い。
()適用違憲について
ア再就職促進法附則2条は、施行から3年を経過した平成2年4月1日に
再就職促進法が失効することを定めるところ(前提事実()ア、原告ら
5)
は、国鉄の採用差別の結果、事業団職員とされた上、事業団において十分
な再就職斡旋を受けなかった原告らに対する関係では、再就職促進法附則
2条を適用して、再就職促進法を失効させることは、憲法27条1項、2
8条、29条3項を侵害する結果となるものであり、適用違憲である旨主
張する。
イ国鉄改革関連8法につき憲法27条1項違反が問題となる余地がないこ
とは既に説示のとおりである。
ウ原告らは、再就職促進法附則2条を原告等に適用することが憲法28条
違反となることの根拠として、事業団は、国鉄や事業団がした不当労働行
為の結果、当該不当労働行為に対する原状回復義務を負っていたにもかか
わらず、これを行わないでいたのだし、再就職促進法は、原告等全員の再
就職の実現を前提としていたのに対し、事業団は、原告等に対し再就職の
斡旋をしないという不当労働行為を行い、その結果、原告等の再就職も実
現しなかったのであるから、原告等に再就職促進法附則2条を適用するこ
とは、不当労働行為の不利益を著しく増大させるものとして、憲法28条
違反となる旨主張する。
、、、
しかし再建監理委員会の最終答申及びこれを受けた改革法事業団法
再就職促進法の各規定(前提事実()イないしエ)のとおり、承継法人に
採用されなかった者は、段階的な措置として、臨時に、国鉄から移行する
事業団の職員となるが、この措置は国鉄改革の日から3年間とし、3年以
内に再就職を図るものとして、その間は地位を保障した上で再就職の支援
、、
をすることにし3年後に再就職促進法は失効するとされたものであって
法律の失効を定める再就職促進法附則2条は、規定自体に、これを適用し
た場合に、憲法28条(労働者の団結権の保障)に抵触することになるよ
うな内容は含まない。原告らの主張は、結局、再就職促進法が失効するま
での3年の間に原告等は国労組合員であることの故に再就職斡旋がされな
かったいう不当労働行為(団結権侵害行為)があったことを述べているも
のというべきであり、このような場合、労働委員会に対して救済申立てを
して不当労働行為の是正措置を求めるか、事業団が再就職斡旋をしなかっ
たことが不法行為であるとして損害賠償請求をすることは可能であるけれ
ども、上記のような不当労働行為があったからといって、原告等に対する
関係で再就職促進法附則2条を適用することが憲法28条違反となると解
する余地はない。
なお、原告らは憲法28条を根拠として不当労働行為を是正することを
求め得るような主張をしているが、憲法28条から、直接に、団結権を侵
害した行為を救済する措置として、原告らが主張するような原状回復義務
を当然に導き得るものではない。したがって、憲法28条に基づく原状回
復義務を根拠として、再就職促進法附則2条を原告らに適用することが憲
法28条違反となると解する余地もない。このことは、団結権及び団体交
渉権の保護に関する条約(ILO98号条約)1条1項が「労働者は、雇
用に関する反組合的な差別待遇に対して十分な保護を受ける」と定めてい
ることに左右されるものではない。
また、事業団が、原告等が国労組合員であることのみを理由として、再
就職斡旋を懈怠したのであれば、当該不作為が不当労働行為とされるべき
ことは当然であるとしても、そのような事実があったからといって、直ち
に、原告等との関係で再就職促進法附則2条の適用が憲法28条により制
限されるものとも解されない。
以上によれば、再就職促進法附則2条が原告等に適用されたことが憲法
28条違反となるとはいえない。
エ再就職促進法附則2条が憲法29条3項違反になるかについてみても、
再就職促進法附則2条の趣旨、目的は前記のとおりであり、同条の規定自
体には、これを適用した場合に、憲法29条3項(私有財産は、正当な補
償の下に、これを公共のために用ひることができる)に抵触するような

内容は含まれていないから、再就職促進法が失効し、原告等が解雇された
のだとしても、憲法29条3項違反の問題は生じないというべきである。
オ以上によれば、再就職促進法附則2条を原告等に適用することが違憲で
あるとの原告らの主張は、いずれも理由がない。
()解雇権濫用等について
ア本件解雇は、再就職促進法附則2条に基づいて平成2年4月1日に再就
職促進法が失効したことにより、事業団就業規則22条4号所定「経営上
やむを得ない事由が生じた」ものとしてされたものである。
イ国鉄の職員であった者のうち、承継法人に採用されなかった者の扱い、
再就職の支援に関する改革法、事業団法及び再就職促進法の定めは、前提
事実()エのとおりである。
以上の規定から明らかなように、改革法は、承継法人を設立して国鉄の
事業等を引き継がせ、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだときは、国鉄
を事業団に移行させて、承継法人に承継されない資産、債務等を処理する
ための業務等を行わせるほか、承継法人の採用候補者名簿に記載されず、
事業団職員となった者の再就職の促進を図るための業務を行わせることと
したものである。すなわち、改革法は、承継法人の採用候補者名簿に記載
されなかった国鉄の職員については、国鉄が事業団に移行するのに伴い事
業団の職員とし、事業団との間に雇用契約関係を存続させることとしてい
るが、この措置は、事業団の職員となった者について再就職促進法により
移行日から3年内に再就職を図るものとしてその間に再就職の準備をさせ
ることとしたものであり、雇用契約関係終了に向けての準備期間を置くこ
とを目的としたものである。
もっとも、前提事実()エ(ウ)のとおり、再就職促進法は、平成2年4月
1日時点において、なお、再就職が未定である特別対策対象者の地位に関
する規定を置いていない。これは、同法が、失効日までに特別対策対象者
全員の再就職が実現することを念頭において立法されたからであると解さ
れるが、他方で、同法が、再就職のための特別の措置を行う期間を3年間
と限定し、当該期間を、事業団と職員との間の雇用契約関係終了に向けて
の準備期間としたものであることに照らせば、同法が、平成2年4月1日
以後に、事業団と再就職が決まっていない特別対策対象者との間の雇用契
約関係を存続させることを予定していないことは明らかである。
そうである以上、原告等については、事業団就業規則22条4号所定の
「経営上やむを得ない事由」が生じたといえることは明らかであるから、
本件解雇には理由がある。
ウこれに対し、原告らは以下の主張をするので、順次検討する。
(ア)原告らは、第1に、①本件解雇は、国労組合員をJR各社から排除す
る目的で行われた一連の不当労働行為(事業団への「振分け」行為、再
就職斡旋行為の懈怠、原告等に対する救済命令を無視し解雇回避措置も
とらずに行われた本件解雇の強行)の完成行為として行われたものであ
り無効である、②原告等が採用候補者名簿に記載されず、事業団職員と
なり、特別対策対象者と指定されたのは、国鉄による不当労働行為の結
果であり、原告等が特別対策対象者とされたことは無効であるから、本
件解雇も無効であると、主張する。
しかしながら、本件解雇は、前記ア、イのとおり、再就職促進法が3
年の期間を経過して失効し、事業団と事業団職員(特別対策対象者)と
の間の雇用関係終了に向けた準備期間が終了したことを受けて、平成2
年3月31日時点において再就職先が決まっていない特別対策対象者全
員に対して行われたものであって、本件解雇自体についてみれば、これ
を不当労働行為とする余地はない。仮に、事業団への「振分け」行為、
採用候補者名簿不記載、再就職斡旋の行為等において、原告等が国労に
所属することを理由とする不利益な取扱いが存在したとしても、これら
各行為が不当労働行為に当たるとして労働委員会による救済命令が発出
され、また、不利益取扱いが不法行為として損害賠償請求が認められる
可能性があるだけであって、これらの行為が不当労働行為であることに
より、本件解雇が無効となることはないというほかない。
原告らは、不当労働行為に対する救済方法は原状回復が基本である以
上、その損害回復を金銭賠償にとどめることは許されないとして、採用
候補者の選定や採用候補者名簿作成の過程等に不当労働行為が存在した
、、
以上本件解雇も無効と判断されるべきである旨主張するようであるが
前記のとおり、本件解雇は再就職促進法が定める雇用期間終了までの準
備期間が終了したことを受けて行われたものであり、本件解雇が不当労
働行為となるわけではないし、不法行為に対する民法上の救済方法とし
ては金銭賠償が原則とされており(722条1項、417条、その例

外は名誉毀損に対する原状回復(723条)以外に認められていないの
、、、
であるからこれを行政上の救済措置の側面からみるのであれば格別
不当労働行為に対する私法上の救済方法として「原状回復」が基本とさ
れるべきとの原告らの主張を採用する余地はない(その意味において、
被告や事業団に原告らを「地元JRに採用するよう要請する義務」が生
じたと解する余地もない。


したがって、前記①、②の原告らの主張は採用できない。
(イ)原告らは、第2に、本件解雇は、整理解雇にほかならないが、その要
件を充たさないから無効である、あるいは、期限付雇用の解雇であり解
雇権を濫用したものであるから無効であると主張する。
しかしながら、本件解雇は、前記のとおり、雇用契約関係終了に向け
た準備期間が終了したことを受けて行われたものであり、整理解雇や期
限付雇用の解雇とみる余地はない。再就職促進法が3年間の時限立法と
された趣旨は、特別対策対象者について、事業団との雇用契約関係終了
に向けた準備期間を置くことを目的とするものである以上、事業団がそ
の期間が終了した原告等の雇用を継続する理由はないから、本件解雇が
解雇権の濫用と認める余地もない。原告らは、期限付雇用の終了には社
会的に合理的な理由が必要と解すべきと主張するが、原告等と事業団と
の間の雇用を終了するに際し、そのような理由が必要とされるべき理由
はない。
(ウ)原告らは、第3に、原告等の再就職が実現しなかった以上、再就職促
進法が時限立法とされた前提も実現していないことに帰するから、再就
職促進法が失効したことを理由に原告等を解雇することができないと主
張する。
確かに、再就職促進法14条3項は、国が策定する再就職促進基本計
画は、移行日から3年以内にすべての事業団職員の再就職が達成される
ような内容のものとして定められなければならないと規定しているし、
証拠甲158によれば国鉄改革関連8法の審議過程において全
()、、

力を挙げて、全員が第二の職場を得られるように努力をいたします、


「例えば健康のぐあいであるとかそのほかの欠格条件があるという場合
はこれはやむを得ませんが、そうでない方に関しましては一人といえど
も心配をかけないような体制をつくり上げるために、政府も責任を持っ
て全力を注ぐ決心でおります」との答弁が中曽根元総理や橋本元大臣

から行われ、国鉄職員全員の雇用を確保すべく政府が最大限の努力を払
うことが再三強調されていたことが認められる。このような事実によれ
ば、再就職促進法が、平成2年4月1日までに特別対策対象者全員が再
就職することを念頭において立法されたことは明らかである。
しかしながら、再就職促進法は、雇用契約関係終了に向けての準備期
間として3年間の期間を置くこととして時限立法とされたものであり、
3年経過後の再就職促進業務延長について規定は全くないのであって、
3年経過後に事業団が再就職促進業務を行うことを予定していないこと
は明らかである。そうだとすれば、特別対策対象者全員の再就職が実現
しなかったからといって、再就職促進法が失効しないとか、あるいは、
事業団が再就職促進業務を継続すべきと解する余地はない。
原告らは、再就職促進法附則3条、4条、6条は、特別対策対象者全
員の再就職が3年以内に果たせない場合に、再就職促進法が延長される
ことを予定していると主張する。しかし、同法附則4条は、失効日以前
に開始された同法24条1項4号ないし7号の業務については、その業
務が終了するまでの間、同法の失効後も効力を有する旨を規定するもの
にすぎないから(7号の「前各号に掲げるもののほか、清算事業団職員
の再就職の援助等のために必要な業務」に1号ないし3号所定の再就職
促進のための特別措置が含まれないことはその規定の形式上明らかであ
る、同法の失効日以後、事業団が、再就職未定者に対する再就職の


ための就職指導、斡旋等の特別対策に係る業務に関する同法24条1項
1号ないし3号の業務を行えることを規定するものでないことは明らか
である。また、そうである以上、同法附則3条が規定する失効日の属す
る事業年度に係る実施計画の内容は、同法附則4条において同法失効後
も有効な業務の範囲に属するものに限定されることも明らかである。同
法附則6条は、同法の失効に伴い必要な経過措置を政令で定める旨規定
するが、これが、上記の範囲で行われることは、その規定内容から明白
であり、これを別異に解する余地はない。このことは、事業団の業務の
1つにつき「再就職の促進を図るための業務を行わせる」と定める改革
法15条自体が失効していないことにより左右されるものではない。
また、証拠(甲81)によれば、写真週刊誌に橋本元大臣及び国鉄改
革推進本部長代理三塚博が、P5国鉄総裁、運輸省国鉄再建総括審議官
P6ら立合の下、参議院議員P7及び同P8との間で、昭和61年11
月28日付けで「清算事業団の職員については、三年以内に全員の再就
職が図られるよう最大限努力する。再就職先が未定の者は、更に二年以
内に再就職が図られるように努力する」との念書が取り交わされたと

する記事があり、橋本元大臣や三塚博は取材に対して上記念書に署名し
たことを認めている事実が認められるが、同念書に事業団と原告等との
雇用契約関係を延長する効果があるとは解されない。
、、、、、
なお原告らは再就職促進法附則3条4条や上記念書の存在は
再就職促進法附則2条を合憲限定解釈する根拠となるとも主張するが、
再就職促進法附則2条を違憲とする余地がないことは既に説示のとおり
である。
したがって、前記③の原告らの主張も採用できない。
()以上によれば、本件解雇は有効と認められるから、本件解雇が無効であ
ることを理由とする原告らの請求(主位的請求の請求の趣旨1項、2項(不
法行為に基づく損害賠償請求を除く、3項)はいずれも理由がない。


なお、原告ら(原告28ないし30を除く)は、請求の趣旨3項におい

て、本件解雇が無効であるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求として、
その終期を定めないで毎月の賃金を請求するが、そのうち本判決確定の日以
後の賃金を求める部分は将来請求であり民事訴訟法135条に定めるあ
、、「
らかじめその請求をする必要」があるとは認められないから、訴えの利益を
欠くものであり、訴えを却下すべきである。
2不法行為の存在(争点()ウ、()ア)及び消滅時効(争点()オ、()ウ)に
ついて
()不法行為①ないし⑤のうち、不法行為④(事業団による本件解雇)につい
ては、本件解雇が無効なものであるといえないことは既に説示のとおりであ
るから、不法行為が成立する余地はない。不法行為⑤(JR各社に就職させ
る義務違反)については、事業団や被告は、原告等をJR各社に就職させる
べき一般的義務を負うものではないし、仮に不法行為①ないし④が不法行為
と認められ、あるいは国鉄や事業団が国労に対する不当労働行為をしていた
と認められるとしても、そのような事実のみから、原告等をJR各社に就職
させるよう要請する被告や事業団の法律上の義務を導き得るとは解されない
から、被告や事業団にそのような義務があることを前提とした不法行為⑤が
成立する余地はない。
不法行為①(国鉄による不当処分等)及び②(国鉄による採用候補者名簿
不記載等)については、その行為の完了時は、遅くとも昭和62年3月31
日であり、不法行為③(事業団による就職妨害等)については、その行為の
完了時は平成2年4月1日であり、本件訴訟提起時に既に3年以上が経過し
ている。本件不法行為①ないし③について、各加害行為があった時又はそれ
から間もない時に原告等が損害及び加害者を知ったとすれば、時効の中断が
ない限り、不法行為の消滅時効期間が経過していることになる。被告は、こ
れらの不法行為について、消滅時効を援用しているので、以下では、まず、
不法行為①ないし③について、消滅時効により消滅したと認められるか(消
滅時効期間の経過、時効の中断の有無、時効の援用が濫用か)を検討する。
なお、原告らは、不法行為①ないし⑤は、一体の不法行為であり、消滅時
効も一括して進行すると主張するが、これらの不法行為は、加害行為の時期
や態様が異なる上、加害者も異なっているのであるから、これを一体として
みるのは困難であり、原告らの主張は採用できない。
()不法行為①及び③の時効期間の経過
原告らは、国鉄は、昭和58年4月から昭和62年にかけて、原告等が国
労に所属することを唯一の理由として、些細なことで不当な労働処分を行っ
たり、原告等を余剰人員扱いして不当な配転等を行った(不法行為①、あ

るいは、事業団は、原告等を劣悪な労働環境に押し込めた上、就職斡旋を怠
り、再就職を妨害した(不法行為③)と主張する。
原告らの主張によれば、不法行為①が行われた時点は昭和58年4月から
、、
昭和62年にかけてであるが原告らが主張する不法行為の態様からすれば
不法行為が行われたという時点で損害が発生したことや加害者が国鉄である
ことは、損害を受けたと主張する原告等には明確であるし、その損害賠償義
務が存在するとすれば、当該義務を負うのは、国鉄であり、国鉄改革後は、
改革法15条により「承継法人に承継されない資産、債務等」の一切を承継
した事業団であることも明確である。このことに加え、本件全証拠によって
も、不法行為①について、原告等が不法行為時に損害や加害者を知り得なか
った特別の事情も認められないことも併せて考慮すれば、不法行為①に関す
る消滅時効は各不法行為の時点から進行すると解するのが相当である。
不法行為③が行われた時点は、遅くとも平成2年4月1日と解されるとこ
ろ、不法行為③についても、原告らが主張する不法行為の態様からすれば、
不法行為が行われたという時点で損害が発生したことや加害者が事業団であ
ることは、損害を受けたと主張する原告等には明確というほかないし、不法
行為③についても、証拠上、原告等が不法行為時に損害や加害者を知り得な
かった特別の事情は認められない。原告らは、不法行為③の中でも、特に6
月採用について行われた不当労働行為に関する損害賠償請求権の消滅時効の
起算点は本件最高裁判決時とされるべきと主張するが、仮に、事業団がJR
各社の6月採用に関し、原告等に対し就職妨害等何らかの不法行為を行った
とすれば、当該不法行為の加害者や損害は一見して明白である上、そのこと
により発生すると考えられる損害をJR各社に請求する根拠は何らないので
あるから、本件最高裁判決時まで加害者や損害を認識することが事実上困難
になるとは解しがたい。また、JR各社に採用されなかったことについて、
原告等が救済申立てをしていたこと等をもって本件最高裁判決時まで加害者
や損害を知らなかったとはいえないことは、後記の不法行為②について説示
するとおりである。そうすると、不法行為③についても、消滅時効は、各不
法行為の時点から進行すると解するのが相当である。
したがって、不法行為①及び③については、3年の消滅時効期間が経過し
ている。
()不法行為②の時効期間の経過
ア原告らは、国鉄は、原告等が国労に所属していることを唯一の理由とし
て、JR各社の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成過程で原告等
を対象外とし、事業団に振り分けた(不法行為②)と主張する。
不法行為②の行為は、前記のとおり、原告等がJR各社に採用されなか
った昭和62年4月1日までに完了している。
イそこで、まず、原告らが不法行為②の加害者を知った時がいつであるか
について検討する。
不法行為②において問題とされる行為は、採用候補者選定や採用候補者
名簿作成といった行為であるところ、改革法23条2項は「日本国有鉄

道は、前項の規定によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示さ
れたときは、承継法人の職員となることに関する日本国有鉄道の職員の意
思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当
該承継法人に係る同項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定
し、その名簿を作成して設立委員等に提出するものとする」と定めてい

る(前提事実()エ)のであり、採用候補者の選定や採用候補者名簿の作
成を行う主体が国鉄であることは法文上明らかである。証拠(乙100)
によれば、国労が昭和62年4月以前にJR各社の共通設立委員が国労組
合員をJR各社に採用しなかったことが不当労働行為であるとして各地方
労働委員会に申立てをした救済申立事件の審理においても、国鉄が、実際
に採用候補者選定や採用候補者名簿作成を行い、この過程で採用候補者に
選定されなかった職員は承継法人に採用されなかったという事実は、当然
の前提にされていたことが認められる。そうすると、原告等に対しては、
昭和62年2月12日付けでされた採用通知がなく、JR各社への同年4
()、
月1日付け採用もされなかった前提事実()アないしウのであるから
原告等は、遅くとも昭和62年4月1日までには、国鉄が原告等を採用候
補者に選定せず、採用候補者名簿に記載しなかったことを知ったものと認
められる。
改革法15条によれば「承継法人に承継されない資産、債務等」は事業
団が承継することも明らかであるから、国鉄が加害者としての責任を負う
とすれば、その責任を事業団が承継することは、一義的に明らかというほ
かない。
これに対し、原告らは、不法行為②に関する加害者は、採用差別に係る
不当労働行為の責任はJR各社ではなく国鉄を承継した事業団にあると判
断した本件最高裁判決まで明らかではなく、損害賠償請求権を行使するこ
とができなかったとして、不法行為②の消滅時効の起算点は本件最高裁判
決時とされるべきである旨主張する(なお、原告27についてはそもそも
不当労働行為救済申立ての対象とすらなっていないのであるから、同人に
関しては、消滅時効の起算点を本件最高裁判決時とすべき前提を欠くとい
うべきであるが、この点はひとまず措く。


原告らが主張するように、設立委員やJR各社が労働組合法7条にいう
「使用者」といえるか否か、採用候補者選定や採用候補者名簿作成の過程
で行われた不当労働行為について不当労働行為救済命令の対象となり得る
かどうかについては、本件最高裁判決において反対意見が付されているよ
うに(前提事実()ウ、労働組合法や改革法の解釈上、争いがあり得る
6)
ところであるが、他方で、採用候補者選定や採用候補者名簿作成を行った
国鉄については、その行為の過程で所属組合による差別行為を行ったとす
れば、当該行為について不法行為に基づく損害賠償責任を負うことが否定
される余地はおよそない。このことは、国鉄が設立委員の補助者として採
用候補者選定や採用候補者名簿の作成を行ったか否かにより左右される事
柄でもない。そして、当該不法行為について、設立委員やJR各社がいか
なる態様であれ加担したといえるのであれば、設立委員やJR各社に対す
る不法行為に基づく損害賠償請求権の行使も可能となるが、その場合であ
っても、国鉄ないしその債務を承継した事業団が負うべき責任と、設立委
員やJR各社の負うべき責任とは二者択一とされるものではなく、併存し
て行使可能な権利なのであるから、本件最高裁判決が出されるまで、採用
候補者選定や採用候補者名簿作成に係る不当労働行為の加害者が国鉄ない
し事業団であることを知らなかったとは到底いえない。
、、
以上のとおりであるから原告等は遅くとも昭和62年4月1日までに
不法行為②の加害者を知ったと認められる。
ウ次に、原告等が不法行為②に係る損害を知った時がいつであるかについ
て検討する。
前記のとおり、不法行為②は、原告等がJR各社に採用されなかった昭
和62年4月1日に完了し、これにより、原告等とJR各社との間には雇
用関係は生じていないのであるから、一般的には、原告等がJR各社の採
、、
用候補者に選定されなかったことに伴う損害は採用をされなかった時に
経済的損害、精神的損害ともに発生し、同時に、原告等は損害を知ったと
考えられる。
これに対し、原告らは、まず、請求する損害のうち、定年までの賃金相
当額、退職金相当額及び死亡に至るまでの年金相当額については、本件最
高裁判決により、原告等がJR各社に採用されないことが確定したことに
より発生した損害であり本件最高裁判決時に損害を知ったと主張する原
、(
告27については、加害者を知った時と同様の問題があるが、この点は措
く。


本件最高裁判決において、JRの採用候補者に選定されず、採用候補者
名簿に記載されなかった国労組合員について、JRに採用したものと扱う
よう命じるのが相当であったと判断されたとすれば、原告等についても、
昭和62年4月1日以降、JRにおける労働者としての地位が確認される
ことになるのであるから、その場合には、同日以後の賃金相当損害金、退
職金相当損害金、死亡するまでの年金相当損害金については、以後、およ
そ損害と観念することができなくなるという考え方は成り立つ。
しかし、そうであるからといって、本件最高裁判決まで、当該損害が発
生していなかったとか、原告らが当該損害の発生を知らなかったといえる
ものではない。
原告らが不法行為②において問題とする国鉄の行為は採用候補者選定及
び採用候補者名簿作成の過程の採用差別行為であり、当該行為の結果とし
て生じる具体的損害は、昭和62年4月1日付けで原告等がJR各社に採
用されなかったことによるものである。原告等が採用されなかったことに
よる損害として観念する余地があるのは、慰謝料を除けば、逸失利益とし
ての賃金相当損害金、退職金相当損害金、年金相当損害金であるが、これ
らの損害は、採用されなかったことと同時に発生する損害であって、法律
に詳しくない一般人にとっても容易に認識し、想定することができる。現
にJR各社に採用されなかった者には、JR各社から賃金が支給されず、
これが将来も継続することは明らかであって、損害は現実に発生し、JR
各社に採用されなかった者は損害が発生していることを認識しているとい
うほかない。原告等がJR各社に採用されなかったことについて不当労働
行為救済申立てをし、その結果によっては、原告等がJR各社に採用され
る可能性が残されていたとしても、その間、原告等がJR各社の社員とし
ての具体的身分を取得しているのではなく(原告等に対する採用取扱い等
の救済命令の存在のみによって、原告等がJR各社の社員としての身分を
取得するものではない、賃金が支払われない状態には何ら変わりはな


いのだから、前記救済申立ての帰趨が定まらない間は、前記損害が発生し
、。
ていないあるいは損害を知らなかったということができるものではない
次に、原告らは、慰謝料についても、精神的苦痛は本件最高裁判決時ま
で確定していなかったのであり、本件最高裁判決時に損害を知った旨主張
する(原告27については、前記と同様の問題がある。


原告らが主張する精神的苦痛は、原告等がJR各社の採用候補者に選定
、、
されなかったことによりJR各社に採用されるという期待権が侵害され
昭和62年4月1日以降、国鉄の鉄道事業を承継したJR各社で勤務する
ことができず、事業団の雇用対策支所等に配属されたことによる苦痛、さ
らに、平成2年4月1日には、本件解雇が行われ、国鉄との雇用関係を承
継した事業団との雇用関係も終了したことによる苦痛というものである。
そうだとすると、仮に原告らの上記主張が認められるとしても、上記のよ
うな精神的苦痛は、JR各社に採用されなかったことによって始まるので
、、
あるから昭和62年4月1日に発生したものであることは明らかであり
損害が精神的苦痛である以上、その発生と同時に損害を知ったことも明ら
かである(本件解雇により職を失ったことについては、新たな損害が発生
したとみることもできるが、そうだとしても、平成2年4月1日に損害が
発生し、損害を知ったことになる。ただし、損害として認められるには、
本件解雇により職を失ったことが、採用候補者に選定されなかったことと
因果関係のある損害と認められる場合に限られるのは当然である。


原告等はJR各社に採用されなかったのであるから、その時以降、原告
等がJR各社の職員として勤務することができない状態が継続することは
当然である。不採用になった日の後、新たな精神的苦痛が日々、継続的に
発生しているということはできない。
また、平成15年12月22日の本件最高裁判決によって、JR各社の
不当労働行為は認められず、原告等がJR各社に採用されるものではない
ことが確定したものであるが、昭和62年4月1日以降は、本件最高裁判
決の前においても、原告等がJR各社との雇用関係がない状態は継続して
、、(、
いたのであって本件最高裁判決によってこの状態は変わらない仮に
本件最高裁判決によって原告等に対する救済命令が認められたとしても、

)、
本件最高裁判決時までの精神的苦痛が消滅するわけではないのだから
本件最高裁判決により、不法行為②に係る精神的苦痛が新たに発生したと
か、これが拡大したと認めることはできない。本件最高裁判決によって、
原告等がJR各社に採用される期待を完全に失ったとしても、すでに発生
していた精神的損害について、その一部の回復がされることがないことが
確定したものであって、新たに精神的苦痛が発生したり、これが拡大した
りしたものとはいえない。仮に本件最高裁判決により何らかの精神的苦痛
を受けたとしても、このような損害は被告や事業団の行為により生じたも
のとはいえない以上、当該損害について、被告や事業団が損害賠償義務を
負うべき理由はない。
以上によれば、不法行為②に係る損害は、遅くとも昭和62年4月1日
に(あるいは、どんなに遅くとも平成2年4月1日に)発生し、原告等は
同時にその損害の発生を知ったと認められる。
エ加害者及び損害を知っていたとしても、損害賠償請求権を行使すること
ができない特別の事情があるときは、実質的に加害者及び損害を知ったと
はいえず、消滅時効が進行すると解すべきではない。そこで、次に、原告
らが、不法行為②に係る損害賠償請求権を事実上行使し得る状態にあった
か検討する。
証拠(乙78の1、95、96の1・2、97の1・2、98、114
の1、原告8、18各本人)によれば、①国労組合員の中には、停職処分
6か月の処分を受けたことを理由に採用候補者に選定されなかったことを
受け、直ちに、採用候補者名簿に記載されなかったことは不当労働行為で
あり、不法行為であるとして、事業団を被告とする損害賠償請求訴訟(未
払賃金相当額を損害として主張した)を提起した者も存在すること、②

国労の地方本部の中には、国労組合員の多数がJR各社に採用されなかっ
たことを受け、昭和62年3月ころ、事業団に対する損害賠償請求を検討
していた地方本部も存在していたこと、③平成4年11月ころには、国労
組合員に対して事業団が提訴した建物明渡請求訴訟において、国労組合員
である被告ら(原告6、8、18、26、31は同訴訟における被告であ
った)が、採用差別が国鉄の不当労働行為であることが明らかである以

上、国鉄が移行した法人そのものである事業団に、当該不当労働行為につ
、、
いての責任があることは明らかであるとの主張をしていたこと④国労は
平成10年10月には、事業団法の失効に伴い事業団が解散したことを受
け、その権利義務を承継した鉄建公団に対し「この間の国鉄及び清算事

業団による一連の不当労働行為及び不当な解雇によって被った損害の賠償
を請求する権利を有している」と通知していること、以上の各事実が認

められる。なお、上記③の点に関し、原告18は、建物明渡請求訴訟にお
ける主張は訴訟代理人に委任していたため、上記③の主張に係る認識は有
していなかった旨供述するが、訴訟代理人の主張はあくまでも依頼者の主
張を代理するものであって、訴訟代理人の個人的な認識を主張するもので
はないことは明らかである上、この訴訟も国労が組織として取り組んでい
たと推認され、原告18がこの訴訟に無関心であったとは考えられないか
ら、前記供述はおよそ採用しがたい。
このように、国労の中には、不法行為②の結果が発生する前から、事業
団に対する損害賠償を提起した国労組合員や、訴訟提起を検討した地方本
部もあるのであるし、実際に原告等の一部も、平成4年11月の時点にお
いて、事業団に対し、不法行為②に係る損害賠償責任を負うべきであると
の見解を表明していたことに照らせば、原告等が不法行為②について事業
団に損害賠償請求をし得る立場にあることを想定することは容易であった
というほかなく、原告等が事業団に対し損害賠償請求をすることが事実上
できなかったとは認められない。
原告らは、賃金相当損害金、退職金相当損害金、年金相当損害金といっ
た損害については、本件最高裁判決時まで事実上行使できない状態にあっ
たとも主張するが、これらの損害は、性質上、原告等の不採用と同時に容
易に想定することができる損害であって、不法行為②に係る慰謝料請求と
同時に請求することが容易に可能な損害であるのだから、やはり、これら
の損害についても、原告等が事実上行使することができない状態にあった
とはいえない。
また、原告等の多くが採用差別を不当労働行為であるとしてJR各社へ
の採用等を求めていたとしても、それと同時に採用差別について損害賠償
請求を事業団に提起することは、何ら原告等の行動と矛盾する行動ではな
く、原告等にそのような権利行使を期待することがおよそ困難であるとも
解されない。
オ以上によれば、原告等は、原告等がJR各社に採用されなかった昭和6
2年4月1日の時点(どんなに遅くとも平成2年4月1日の時点)におい
て、加害者及び損害を知ったものであり、事業団に対する損害賠償請求が
事実上不可能であったとは認められないから、不法行為②についての消滅
時効は昭和62年4月1日(どんなに遅くとも平成2年4月1日)から進
行する。
()時効中断について
原告らは、不法行為①ないし③についての損害賠償請求権に係る消滅時効
は、原告等が所属する国労の各地方本部が採用差別等について不当労働行為
救済申立てを行ったことにより、中断したと主張する。
しかし、労働委員会に対する不当労働行為救済申立ては、民法147条に
いう裁判上の請求でない以上、国労の各地方本部が行った不当労働行為救済
申立てにより、不法行為①ないし③について消滅時効が中断すると解すべき
理由はない。
()権利濫用について
ア以上によれば、不法行為①ないし③の消滅時効は、昭和62年4月1日
(又は平成2年4月1日)から進行し、時効が中断したともいえない。そ
して、本件訴訟が提起されたのは、不法行為①ないし③に係る消滅時効の
起算点から既に3年以上が経過してからであるから、不法行為①ないし③
についての消滅時効は完成している。
これに対し、原告らは、①国鉄当局が改革法23条を作成し、JR各社
に対する採用差別に係る責任を追及することを困難としたこと、②原告等
が採用差別に係る責任追及先を判断することは困難であったこと、③いわ
ゆる「4党合意」の成立過程において和解金を支払うとされていた鉄建公
団が、その後に消滅時効を援用することは許されるべきではないこと、④
国営企業労働委員会では採用差別に係る国鉄の責任が否定される一方で、
労働委員会ではJR各社の責任が肯定されたため、原告等の損害賠償請求
権の行使が事実上制約されてきたこと、⑤原告等は、本件訴訟提起に至る
まで、一貫して不当労働行為救済を求めて闘争し続けており、権利の上に
眠る者ではないこと、⑥国鉄や事業団がした不当労働行為に係る証拠も散
逸していないこと、⑦国策による国営企業である国鉄がした採用差別に係
る救済は、被告や国鉄の責務であり、単に時間が経過したとの一事をもっ
て被告がその責任を免れるとするのは著しく正義に反すること⑧原告等の
受けた被害が極めて大きいこと、等の理由を挙げて、被告による消滅時効
の援用は権利の濫用として認められるべきではない旨主張する。
そこで、以下において、被告による消滅時効の援用が権利の濫用にあた
るか検討する。
イ改革法や労働組合法の解釈上、採用候補者選定や採用候補者名簿作成の
過程における不当労働行為の基本的な責任がJR各社と事業団のいずれに
帰属するかについては、必ずしも明らかではなく、特にJR各社が責任を
、、
負うか否かは一義的に明確ではないとしても実際に採用候補者を選定し
その名簿を作成した国鉄がその過程で組合差別をしたとすれば、そのこと
に係る不法行為責任を国鉄が負うことは明らかであって、被告や事業団が
国鉄の責任を承継することは改革法上一義的に明らかであるし、実際に、
原告等が所属する国労もそのことを認識していたことは既に説示のとおり
であるから、国鉄が改革法により不法行為②に係る損害賠償請求権の責任
の帰属主体の判断を困難にしたとか、原告等がその責任追及先を判断でき
なかったということはできない。すなわち、事業団や被告が原告等の権利
行使を阻害したとか、原告等において損害賠償請求の行使先が判然としな
かったなどの事情はない。また、不法行為①及び③についての加害者は不
法行為の性質上一義的に明確であって、その責任の帰属主体の判断が困難
との事情はおよそない。
証拠(甲24、84)及び弁論の全趣旨によれば、JR不採用問題につ
いてJR各社に法的責任がないことを国労が認めることや、国労に対する
解決金を支払うようJR各社に働きかけることなどを内容とする自民党、
公明党、保守党及び社民党間の「JR不採用問題の打開について」との合
意(4党合意。平成12年5月30日調印)の成立過程において、平成1
0年5月ころから6月ころにかけて、運輸省主導の下、JR不採用問題に
ついてJR各社に責任がないことを国労が認め、JR各社発足時における
国鉄改革関連の訴訟を取り下げることなどを前提として、別途、国労と鉄
建公団との間の裁判上の金銭和解を考えるとする「国労とJR各社の話合
い開始について」との作成名義人の記載がない書面が作成されたと認めら
れる。そして、このような書面を作成するにあたり運輸省が鉄建公団に何
の連絡もしていないとは考えにくいことに照らせば、鉄建公団が同文書の
作成に同意していた蓋然性は高いというべきであるが、同文書は作成名義
人の記載もなく、明確な合意文書として作成されたものではない上、鉄建
公団が行うとされる金銭和解も抽象的な可能性として記載されているもの
にすぎないのであるから、鉄建公団が、同書面において、国鉄が行った何
らかの不当労働行為等について損害賠償義務があることを認めたとみる余
地はない。原告らは、損害賠償義務を認めることを前提とした交渉が継続
していた間は時効が中断していたと考えるべきであるし、原告等を翻弄し
続けてきた鉄建公団を承継した被告が消滅時効の援用をすることは許され
ないと主張するが、前記交渉において鉄建公団が損害賠償義務を負うこと
を明確に承諾していたものでもない以上、当該交渉が時効の中断事由とな
るとはいえないし(その交渉が開始された時期も、原告らの主張によって
も平成9年末ごろからと、消滅時効が完成した後であるから、当該交渉に
よって時効が中断することもない、当該交渉によって、鉄建公団が原


告等を翻弄したといえるものでもない。
原告等が所属する国労が本件最高裁判決時に至るまで不法行為①ないし
③についてJR各社の不当労働行為であると主張し続けていたことは事実
であることからすれば、原告らがその主張する損害を回復すべき手段をと
っていたことは確かであるし、また、原告らの主張に係る証拠も国鉄によ
る不当労働行為の有無につき、認定がおよそ不可能な程にまで散逸してい
。、、、
ると認めることもできないしかし原告等や国労は既に説示のとおり
不法行為①ないし③の損害賠償義務を被告が承継することを認識し、これ
を行使することが事実上可能な状態にありながら、JR各社に対する不当
労働行為救済申立てをするのみで、被告や事業団に対する法的措置をとら
なかったために、消滅時効が完成したのであるから、原告らが主張する不
、、
法行為が認められるとすればその賠償義務を負うべき被告との関係では
原告らは権利を行使しなかったというほかないし、民法の解釈上、不法行
為に関する立証が可能であるからといって、直ちに消滅時効を援用するこ
とが権利の濫用として許されないとすることもできない。
ウ原告らは、不法行為①ないし③が国営企業である国鉄や事業団により行
われたものであること、不法行為①ないし③が国家が関与して行われた不
当労働行為であり、加害行為の態様が悪質であったこと、原告らが受けた
被害が甚大であることを理由に、被告による消滅時効の援用が許されるべ
きではないとも主張する。
不法行為②について、原告らの主張するとおり、国鉄が原告等が国労に
所属していることを唯一の理由としてJR各社の採用候補者に選定せず、
採用候補者名簿に記載しなかったのだったとすれば、組織的でかつ大規模
な不当労働行為であるといえる。昭和62年にJR各社の採用が行われた
当時、国労は、国鉄の分割民営化に反対する方針を堅持し、労使共同宣言
を締結して国鉄に協力する方針を明確にしている他の労働組合と異なっ
て、国鉄と対立を続けていたことも事実である(前提事実()ウ。
1)
そして、JR各社への採用をめぐる不当労働行為については、地方労働
委員会や中央労働委員会が国労のJR各社に対する申立てを認めて救済命
令を発出し、本件最高裁判決においても5名の裁判官のうち2名がJR各
社の責任を認める少数意見を述べている(前提事実())のであって、原
告等がJR各社を相手方として救済申立てを行ったことは、全く誤った選
択であったとはいえない。とくに、原告等がJR各社との雇用を求めてい
た以上、国鉄の業務のうち、鉄道にかかわる業務を引き継いだJR各社を
救済申立ての相手方としたことは、理解できることである。
しかし、不法行為①、③については、上記の救済申立てとは直接の関係
はないし、不法行為があったとすれば、その後間もない時期に損害賠償請
求権を行使することに何らの支障や不都合は認められない。不法行為②に
ついても、前記()エのとおり、原告等が被告に対して損害賠償請求権を
行使することが事実上できなかったとは認められず、採用候補者の選定に
関し、事業団に対する損害賠償請求等を行わず、JR各社を相手方とする
救済申立てをしたのは、原告等による選択の結果という面を否定すること
ができない。救済申立ての結論が出るまで他の手段を並行して行使するこ
とをしなかった点についても、救済申立てを行った原告等の選択の結果と
いうことができる。
他方で、原告等のようにJRの採用候補者に選定されなかった者は、J
R各社への採用の期待権を侵害されたとしても、それによってただちに職
を失ったわけではなく、昭和62年4月1日以降、3年間は事業団職員と
して再就職の準備期間を持つことができたといえる(JR各社に採用され
なかった者は2万1000人以上であったところ、3年間の間に2万人以
上が再就職等をしているのであり、特別対策対象者にとって、一般的に、
事業団における3年間が全く無意味であったとは考えられない。仮に


原告等を採用候補者に選定しなかったことが国労を差別したことによる不
当労働行為であったとしても、国鉄の職員全員が、希望するJR各社に必
ず採用されるわけではなかったのだから、採用候補者の選定が公正に行わ
れたのであっても、原告等は必ずJR各社に採用されたとはいえない。
このような事情が存する下では、加害行為の主体が国営企業である国鉄
や事業団であったことや、仮に加害行為の態様が悪質であったとしても、
不当労働行為に対する損害賠償請求権について、時効による消滅を認める
ことが、著しく正義に反する、あるいは著しく不当であるということはで
、。、
きず消滅時効の援用が権利濫用であるとは認められない本件において
原告等が訴え提起や時効中断の措置をとることを被告や事業団が妨害した
など、原告等が期間内に権利を行使しなかったことが被告や事業団の責任
によるものであるといった事情が存在する場合であれば、その消滅時効の
、、
援用が権利濫用とされるべきことは当然であるが本件全証拠によっても
そのような事情は認められないのであるから、被告による消滅時効の援用
が権利濫用とされるべき理由はない。
エ以上によれば、被告による消滅時効の援用が権利を濫用したものとはい
えない。
()以上のとおり、不法行為④、⑤はいずれも認められないし、不法行為①な
いし③については、それが認められるとしても、消滅時効は完成しており、
被告による消滅時効の援用も権利の濫用とは認められないから、原告らの損
害賠償請求は、いずれも理由がない。
原告らは、不法行為に基づく損害賠償請求とともに損害回復措置として、
、。
謝罪文の交付・掲示やJR北海道JR九州等への採用の要請も求めている
不法行為に基づいてこのような請求をすることができるかどうかは疑問であ
るが、いずれにせよ、前記のとおり、不法行為に基づく損害賠償請求権は時
効により消滅しているのであるから、謝罪文の掲示やJRへの採用要請等を
請求をすることはできない。
第4結論
以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官蓮井俊治
裁判官本多幸嗣

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