弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     ただし、この裁判が確定した日から三年間右の刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人遊田多聞、同吉江知養、同出射義夫、同倉田雅充、同三宅秀明の上告趣意
第一点は、憲法三一条違反および憲法の前文違反を主張するが、実質は単なる法令
違反の主張であり、同第二点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いず
れも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかし職権により調査すると、原判決は、被告人に対し名誉毀損の罪責のみを認
め、被告人に対する公職選挙法違反の点は罪とならないとした第一審判決を破棄し、
みずから、
『被告人は、昭和三十三年三月下旬頃「元外務大臣A氏夫人・般若苑マダム物語」
と題する小冊子十万部を自ら執筆発行するに当り、その筆者名を「B」発行所名を
実在しない「C出版社」と各表示し、A夫人Dに関し、同誌上の
 (一)第十六頁から第十九頁にかけ「祗園祭りの夜」、「東京へ、十六才で結婚
生活」との見出の下に、Dは、十五才の夏その郷里長野県下高井郡a町の祗園祭の
夜一人の異性と結ばれ恋愛遊戯に余念がなかつたが、その年の暮に東京に居住する
Eとの縁談が持ち出されると東京への魅力の前に恋人もすてて十六才の新春Eに嫁
いだ旨、
 (二)第二十一頁から第二十七頁にかけ「破局、転機」、「邪恋に走る」、「二
児も棄てて」との見出の下に、Dは、大正九年の夏の夜隣家の二階に住む自動車運
転手Fと知り合い、夫Eの留守中Fの運転する自動車でドライブしたことを機縁と
し同人と結ばれ、夫Eの眼を忍んでFの住む二階に足しげく通い、遂には公然と通
うに至つたが、夫Eにその不貞を知られ、同年秋二児も棄てて夫Eのもとを飛び出
し、Fと同棲するに至つた旨、
 (三)第四十八頁から第五十頁にかけ「ヤミ料亭Gの繁栄」との見出の下に、料
亭G経営当時のことに関し、Dは、ほれたふりをして客を百パーセント利用する位
のことは朝めし前のことで、深夜Dが客の部屋にしのび行く姿を見た女中もあると
さえいわれ、お色気戦術はDの特技中の特技である旨、
 又A、同Dに関し、
 (四)第三十五頁から第四十二頁にかけ「車中、Aを知る」、「老いらくの恋、
花ひらく」との見出の下に、Dは、昭和十五年七月帰郷の途次信越線車中で前外務
大臣Aと知り合つたが、その一ケ月後Dの経営する赤坂のHにAの訪問を受けた日
を一線にしてAと急速に離れがたい関係に結ばれ、Aは事実上の夫の座につき、D
は爾後夫Fを完全に無視し相手にしなくなつた旨、
 とそれぞれ故らに事実の一部を誇張歪曲して一般に公表を差控えるべきDの男性
遍歴及びAとDとの結ばれた経緯につき暴露的記述をなすとともに
 (五)第五十五頁から第五十六頁にかけ「Aを世の中に出すために」との見出の
下に、昭和二十八年、昭和三十年の各衆議院議員選挙及び昭和三十年の東京都知事
選挙に際してのA立候補の主役は、典型的な事大主義者で大臣や知事という「地位」
に無条件のあこがれを持ち、どうすればAを大臣にさせ、都知事にすることができ
るかのみに腐心しているDであつて、Aは単にDのタクトに踊るピエロにすぎない
旨、の悪意に満ちた論評を加えること等によつて、Aを過度に誹謗した記事を掲載
したうえ、右小冊子は既に昭和三十三年三月二十日印刷、製本を完了したのに拘ら
ず、当時これを発売する等のことなく、昭和三十四年四月二十三日施行の東京都知
事選挙に際し、同選挙に立候補すべき決意を固めていたAの当選を阻止すべく、故
らに右選挙の告示日に近接した同年三月十二日頃以降の時期を選び、東京都内の右
選挙の選挙人多数に対し、右小冊子多数を販売或は郵送して同人等にこれを頒布閲
覧せしめた』との昭和三四年七月一日付訴因罰条追加請求書記載の事実を引用して
原判決判示事実を認定し、被告人の所為は、名誉毀損の罪を構成するとともに、選
挙の自由を妨害した罪をも構成し、一個の行為で二個の罪名に触れるものとして、
刑法二三〇条一項のほか、昭和三七年法律第一一二号による改正前の公職選挙法(
以下単に公職選挙法という。)二二五条二号の規定をも適用して、被告人に対し懲
役一年二月執行猶予三年の刑を言い渡し、その理由として、公職選挙法二二五条二
号にいう「選挙の自由」には、「選挙運動の自由」と「投票の自由」のほかに、投
票の不可欠の前提条件であるいわゆる「判断の自由」も含まれていると解すべきで
あるとするのである。
 しかし、公職選挙法が、新聞紙、雑誌、放送による報道評論の公正を確保するた
め、同法一四八条一項但書(罰則二三五条の二)、一五一条の三(罰則二三五条の
三)を設け、いわゆる報道機関が、選挙に関し、虚偽の事項を記載、放送し、また
は事実を歪曲して記載、放送して選挙の公正を害することを禁じ、また、二三五条
によつて、公職の候補者(本件行為当時の同条には「公職の候補者となろうとする
者」の文言はなかつた。)に関する虚偽事項の公表を禁止する等、選挙人の候補者
に対する公正な判断を誤らしめないようにするための一連の規定を設けていること
にかんがみれば、原判決のいわゆる「判断の自由」なるものは、これらの規定によ
つて保護しようとしているものと解される。一方、公職選挙法二二五条の規定を見
ると、同条一号は「……暴行若しくは威力を加え又はこれを拐引したとき」、二号
は「交通若しくは集会の便を妨げ、又は演説を妨害し、……」、三号は「……特殊
の利害関係を利用して……威迫したとき」とそれぞれ規定していて、いずれも選挙
運動および投票に関する行為それ自体を直接妨害するような行為を例示しているこ
と、更には、法定刑の面でも、選挙の自由を妨害する罪(二二五条)が四年以下の
懲役もしくは禁錮、買収饗応罪(二二一条)が原則として三年以下の懲役もしくは
禁錮、文書等により選挙の公正を害する罪(二三五条、同条の二、三)が二年以下
の禁錮となつていて、右三者の中で選挙の自由を妨害する罪が最も重く、いわゆる
選挙の公正を害する罪が最も軽くその刑を定められていることにかんがみれば、同
法二二五条二号にいう「偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害する」行
為とは、選挙運動および投票に関する行為それ自体を直接妨害するような行為をい
い、単に選挙人の候補者に対する判断の自由を妨げるだけの行為は、これにあたら
ないものと解するのが相当である。もしも、原判決のいうように、何らかの不正の
方法をもつて選挙人の判断の自由を妨げる行為が同号にあたるとするならば、選挙
人を買収する行為はとりも直さず選挙人の公正な判断を誤らしめる行為であるから、
これについては常に同法二二一条の買収の罪とともに二二五条二号の罪が成立し、
しかも両者は一所為数法の関係にあつて、後者の罪の刑のほうが重いから、後者の
罪の刑によつて処断すべきことになるという不合理な結論を承認せざるをえないで
あろう。
 ところで、本件誹謗文書の頒布行為は、前記文書の内容に照らし、選挙人の候補
者に対する判断の自由を妨げる行為とはいいうるが、選挙運動および投票に関する
行為それ自体を直接妨害するような行為とはいえないから、同法二二五条二号にい
わゆる選挙の自由を妨害する行為にあたらず、したがつて、原審としては、公職選
挙法違反の点は罪とならないとした第一審判決の判断を正当として維持すべきもの
であつた。
 しかるに、原審は、前記のように、本件冊子の頒布行為が名誉毀損罪のほか公職
選挙法二二五条二号の罪をも構成するものとして、第一審判決を破棄し、被告人に
対し第一審判決の宣告刑より重い刑を言い渡したのであるから、右は法令の解釈適
用を誤つたもので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同法四一三条但書により、
原判決が確定した事実(ただし、原判決が付加した「すると同時に、右不正の方法
によつて選挙人の選挙の自由を妨害」の部分は、原審の法律判断を記したにすぎな
いものであるから、これを除く。)に法律を適用すると、被告人の所為は刑法二三
〇条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択
し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、諸般の情状にかんがみ同法二五
条を適用して、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとし、
訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により全部被告人の負担とする。なお、本件公
訴事実中公職選挙法違反の点は、前記の理由により罪とならないが、有罪とされた
名誉毀損の罪と一所為数法の関係にあるものとして公訴が提起されているので、特
に主文において無罪の言渡しをしない。
 よつて、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 本田正義公判出席
  昭和四四年二月六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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