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平成24年11月29日判決言渡
平成24年(ネ)第10023号製造販売禁止等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成20年(ワ)第12409号)
口頭弁論終結日平成24年9月11日
判決
控訴人シノバ・ソシエテ・アノニム
訴訟代理人弁護士橋口泰典
同達野大輔
同松本慶
補佐人弁理士高橋詔男
同佐伯義文
同渡邉隆
被控訴人株式会社スギノマシン
訴訟代理人弁護士松尾和子
同藤井輝明
同佐竹勝一
同小林正和
訴訟代理人弁理士弟子丸健
同渡邊誠
同鈴木博子
主文
1原判決を次のとおり変更する。
2被控訴人は,別紙物件目録記載の各製品を,製造,販売してはな
らない。
3被控訴人は,前項記載の各製品の販売の申出又は販売のための展
示をしてはならない。
4被控訴人は,第2項記載の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
5被控訴人は,控訴人に対し,400万円及びこれに対する平成2
0年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6控訴人のその余の請求を棄却する。
7訴訟費用は第1審,第2審を通じて,10分し,その1を控訴人
の,その余を被控訴人の負担とする。
8この判決の第2項ないし5項は仮に執行することができる。
9控訴人に対し,本判決に対する上告又は上告受理の申立てのため
の付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1控訴人の請求
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,別紙物件目録記載の各製品を製造,販売してはならない。
3被控訴人は,前項記載の各製品の販売の申出又は販売のための展示をしては
ならない。
4被控訴人は,第2項記載の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
5被控訴人は,控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成20年5月2
7日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
6訴訟費用は,第1審,第2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1原判決で用いられた略語は,本判決でもそのまま用いる。原判決を引用した
部分において,「原告」は「控訴人」に,「被告」は「被控訴人」に読み替える。ま
た,本判決の「物件目録」,「本件明細書の図面」,「乙A1の図面」は,原判決添付
のものと同一である。本判決の別紙1は原判決の別紙3と同一である。
2本件特許権を有する控訴人(原告)は,被控訴人(被告)による被告製品の
製造及び販売が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被控訴人に対し,特許法1
00条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止め並びに被告製品及
びその半製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく弁護士費用
相当額の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成20年5月27日)
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。原判
決は,控訴人の請求を全部棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴した。
3争いのない事実等及び争点は,次のとおり改める他は,原判決の「第2事
案の概要」の「2争いのない事実等」及び「3争点」(原判決2頁21行目から
13頁6行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
(1)原判決4頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「これを受けて,特許庁は,同年12月7日,本件訂正を適法と認めた上で,本
件訂正後の請求項1ないし16に係る発明は,被控訴人の主張する理由及び提出し
た証拠方法によっては無効とすることはできないとして,「訂正を認める。本件審判
の請求は成り立たない。」との審決(以下「第3次審決」という。)をした。被控訴
人は,これを不服として,当裁判所に審決取消訴訟(当裁判所平成24年(行ケ)
第10007号事件)を提起した。(甲40,当裁判所に顕著な事実)」
(2)原判決12頁13行目から19行目までを次のとおり改める。
「被告製品の組立て図は,乙8の1に記載のとおりであり,寸法等の詳細は乙8
の2に記載のとおりである。」
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件各発明の技術的範囲の属否)について
次のとおり付加,訂正する他は,原判決の「1争点1(本件各発明の技術的範囲
の属否)について」(原判決13頁9行目から32頁8行目)記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(1)原判決18頁7行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入し,同8行目冒頭に
「③」とあるのを「④」と改める。
「③被告製品と同視できる液体供給空間を用いた可視化実験の結果(甲45・
46)によっても,被告製品にはせき止め空間がないことが立証されている。」
(2)原判決21頁11行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入し,12行目冒頭
に「(ウ)」とあるのを「(エ)」と改める。
「(ウ)構成要件エないしカを採用することによりノズル損傷を防いだと認められ
ることについて
a本件発明1では,「ノズル壁を損傷しない」との効果に係る構成が,請求項1
中に記載されている。被告製品においては,「ノズル壁を損傷しない」との効果に係
る構成は,以下のとおり,「せき止め空間のない」等によって実現されているといえ
る。
bまず,甲32及び甲35から,グリーンレーザーを用いる被告製品において
も,熱レンズの形成によるノズル損傷の問題があるため熱レンズの形成を抑圧する
必要があることが立証されており,被告製品においても,熱レンズの形成を抑圧す
るための手段が講じられている。
乙17(被告製品の開発担当者の陳述書)によれば,被告製品では,熱レンズの
形成を抑圧するための手段として,「せき止め空間のない」構成,及び,ノズル損傷
を招く熱レンズの形成を抑圧するために「レーザービームのフォーカス円錐先端範
囲(56)における液体の流速が,十分に高く(する)」との構成が採用されている
ことが明らかである。
c本件発明1及び本件訂正発明1は,①液体供給空間がディスク状であること,
②液体供給空間は,ノズルの上面と透明な窓との間に形成されること,③供給され
る液体がノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間なく導かれるように,ノズル
からの窓の高さを設定すること,④液体供給空間内部において,液体がノズル入口
開口に向って周辺から流れるように導かれることとの構成を有する。被告製品も,
かかる具体的構成を有している。本件各発明においても,被告製品においても,フ
ォーカス円錐先端範囲における熱レンズの形成を抑圧し,ノズル壁の損傷を防ぐ,
という課題を有しており,被告製品においても,そのための手段が講じられている。
そして,①ないし④の具体的構成を一体として採用したのは,流体を「せき止め空
間のない」ようにし,「レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,
熱レンズの形成が抑圧される」程度に流速が十分に高くするためであり,それ以外
に理由はない。上記のような構成を採用する理由が他にないにもかかわらず,かか
る構成を一体として採用しているのは,被告製品においても,本件各発明と同様の
課題があり,かつ同様の具体的構成により解決しているからである。
d以上よりすると,被告製品において「せき止め空間のない」構成が採用され,
これにより「フォーカス円錐先端範囲において,レーザービームの一部がノズル壁
を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される」程度に流速が十分に高く
決められたものと認められる。」
(3)原判決27頁13行目に「別紙3」とあるのを「別紙1」と改める(別紙1
は本判決に添付のとおり。)。
2争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について
次のとおり付加,訂正する他は,原判決の「2争点2(本件特許権に基づく権利
行使の制限の成否)について」(原判決32頁10行目から49頁11行目)記載の
とおりであるから,これを引用する。
(1)原判決34頁5行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「本件発明1及び5のノズル壁の「損傷」の基準となるものは存在せず,「損傷」
がいかなる程度のことをいうのか記載がない。したがって,発明の詳細な説明は当
業者が「レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで」との発明の手
段を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件
に違反する。」
(2)原判決36頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入し,同14行目冒
頭に「(オ)」とあるのを「(ク)」と改める。
「(オ)「ノズル入口開口の周り」という記載は不明瞭であること
「ノズル入口開口の周り」を,特許請求の範囲における別の文言である「フォー
カス円錐先端範囲」と同じ概念と捉えることは不自然であるし,また,「その近傍」
との文言も曖昧であって,不明確である。
(カ)ノズル壁の「損傷」の意義が不明確であること
本件発明における「損傷」は,本件明細書を参酌しても,「損傷」の基準となるも
のが存在せず,「損傷」がいかなる程度のことをいうのか不明確である。
(キ)「周辺から流れるように導かれる」(訂正後請求項)という記載は不明確で
あること
本件訂正の後の請求項1,5の「周辺から流れるように導かれる」という用語の
意義は不明確である。」
(3)原判決46頁14行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「d「ノズル入口開口の周り」,「周辺から流れるように導かれる」について
いずれも明確性に欠けるところはない。
「ノズル入口開口の周り」との語は甲25(A教授作成の平成22年6月8日付
け見解書)から明確であるし,「周辺」とは,「ディスク状液体供給空間の内周壁の
近傍」と考えることができるから明確である。
eノズル壁の「損傷」について
ノズル壁の「損傷」とは,層流からなるビームガイドとして機能する液体ビーム
が形成できなくなる程度のノズル壁の損傷を意味するのであるから,ノズル壁の「損
傷」との意味は明確である。」
3争点3(訂正による対抗主張の成否)について
次のとおり付加,訂正する他は,原判決の「3争点3(訂正による対抗主張の成
否)について」(原判決49頁13行目から61頁9行目)記載のとおりであるから,
これを引用する。
原判決55頁10行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入し,同11行目冒頭に
「ウ」とあるのを「エ」と改める。
「ウ本件各訂正発明の技術的範囲を基礎に侵害の有無を判断すべきこと
本件訂正は,第3次審決に対する審決取消訴訟が係属しており,未だ確定してい
ない。もっとも,特許権侵害訴訟係属中に訂正審判請求がされた場合の侵害訴訟に
おける判断については,訂正の目的が明瞭でない記載の釈明である場合には,訂正
後の請求項を前提に判断するべきである。訂正の目的が明瞭でない記載の釈明であ
る場合には,訂正前の請求項では技術的範囲に属さないと判断される場合でも,訂
正後の請求項では技術的範囲に属すると判断される可能性が指摘されている。本件
訂正は,明瞭でない記載の釈明を主たる目的としているから,訂正後の請求項に基
づく判断が要求される。」
4争点4(控訴人の損害額)について
原判決61頁11行目から21行目記載のとおりであるから,これを引用する。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求には,主文の限度で理由があると判断する。その理由
は,次のとおりである。
1争点1(本件各発明の技術的範囲の属否)について
当裁判所は,被告製品又は被告製品を使用する加工方法は,本件発明1,5及び
10の技術的範囲に属すると判断する。その理由は次のとおりである。
(1)本件発明1について
本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(アないしキは分説記号で
ある。)。
「ア収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービーム
(3)を導く液体ビーム(12)がノズル(43)により形成され,加工すべき加
工片(9)へ向けられるものにおいて,
イレーザービームガイドとして作用する液体ビーム(12)へレーザービーム
(3)を導入するため,
ウレーザービーム(3)がノズル(43)のビーム通路(23)の入口開口(3
0)の所で収束され,
エ液体供給空間(35)へ供給される液体が,ノズル入口開口(30)の周り
においてせき止め空間のないように導かれ,
オそれによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体
の流速が,十分に高く決められるようにし,
カしたがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一
部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧されることを特徴と
する,
キ材料を加工する方法。」
被告製品を使用する加工方法が本件発明1の構成要件アないしウ及びキを充足す
ることは,原判決の「2争いのない事実等」の(4)ウ(原判決12頁)のとおりで
ある。そこで,被告製品を使用する加工方法が,本件発明1の構成要件エないしカ
を充足するか否かについて判断する。
ア本件明細書の記載事項等
(ア)本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある。
a「本発明は,特許請求の範囲第1項の上位概念に記載された装置に関する。
レーザービームは,種々の方法で工業における材料加工-切断,穴あけ,溶接,マ
ーキング及び材料切除-のために利用される。・・・ほぼこれらすべての方法におい
てレーザービームは,加工過程に必要な強度を発生するために,例えばレンズのよ
うな光学要素によって加工すべき材料上に収束される。この強制的なビーム収束に
基づいて,作業は,焦点の場所又はそのすぐ近くの周囲においてしか可能ではない。」
(3頁12行~19行)
b「ドイツ連邦共和国特許出願公開第3643284号明細書によれば,レー
ザービームにより材料を切断する方法が公知であり,ここではこのレーザービーム
は,切断すべき材料に向けられた水ビーム内に結合され,かつこの中において案内
されている。ビームの供給は,ビームガイド(ファイバ)を介して行なわれ,この
ビームガイドの一方の端部は,ノズル内において発生される水ビーム内に突出して
いる。水ビームの直径は,ビームガイドのものより大きい。公知の装置は,水ビー
ムの直径が,決してビームガイドのものより小さくてはいけないという欠点を有す
る。しかし加工場所における大きな強度を維持するために,できるだけ小さなビー
ム直径が必要である。ビーム直径が小さくなるほど,レーザービーム源のわずかな
出力で加工を行なうことができる。」(3頁20行~29行),「ドイツ連邦共和国特
許出願公開第3643284号明細書の装置のその他の欠点は,水ビーム内に突出
したビームガイド端部によって明らかである。すなわちガイド端部の下に死水領域
が生じ,この死水領域は,とりわけ流れ内に妨害を形成し,これら妨害は,水ビー
ムの長さにわたって指数状に増大し,かつ最終的に水ビームの分離水滴を生じる。
それ故にこの装置によって,30mmを越す層状のコンパクトなビーム長さを得る
ことは不可能である。」(3頁30行~35行)
c「この時,ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書において,も
はやビームガイドを直接含まない水ノズルを構成することによって,前記の欠点を
解消することが試みられている。水ビームを形成するノズルの前に,水入口とノズ
ル入口に対して空間を閉じるフォーカスレンズとを有する水空間がある。このフォ
ーカスレンズは,光学系の一部であり,それによりビームガイドから出たビームは,
ノズルのノズル通路内に収束することができる。空間は,水ビームのためにその中
にある水が,擬似的に静止状態に,すなわち緊張解除した状態にあるように構成さ
れている。この時,水ビーム内に結合されたレーザービームのこの第2の構成変形
は,ノズル通路入口の周範囲におけるノズルの壁に管理できない損傷を引起こすこ
とがわかった。」(3頁36行~44行)
d「本発明の課題は,液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによっ
て損傷することなく,レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に
結合することができる装置を提供することにある。」(3頁45行~47行)
e「本発明は,フォーカス光学系によってノズルの範囲に収束したレーザービ
ームが,液体における強度の分布に応じてこの液体を多かれ少なかれ強力に加熱す
ることができるという知識に基づいている。異なった温度,空間的温度勾配を有す
る液体範囲は,空間的に固有の密度分布を有するだけでなく,空間的な屈折率分布
も有する。すなわち空間的な温度勾配を有する液体は,光学的にレンズとして反応
し,かつ収束したレーザービームのフォーカス円錐内において,通常発散レンズと
して反応する。」,「この時,ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書の図
2に示されたように,ノズル通路内において形成される液体(水)ビーム内へのレ
ーザービーム“製図的に最適な”結合は,残念ながら推測したようには作用しない。
すなわちヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書に示された装置におい
て,ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に,熱レンズが生じ,この熱
レンズは,ここに示された焦点の場所を上方へずらし,かつ焦点直径を大幅に増加
する。それによりフォーカス円錐内のレーザービームの一部は,ノズル壁に,とく
にここにおいて利用された液体せき止め空間の方に向いたノズル表面に当たる。こ
の時一方において材料加工のために必要な高い強度によって,この時ノズルの壁が
損傷する。」(以上,3頁48行~4頁12行)
f「ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書により公知の構造にお
いて,さらに液体として水を利用し,かつレーザービームとして,1.064μm
のND:YAGのものを利用することは,不利に作用する。この時,このビームは,
ちょうど水中において無視できない吸収を有する。収束したビームのピラミッド先
端の上側範囲(フォーカス円錐の先端範囲)における水の範囲は,強度分布(軸線
における高い強度及び縁におけるわずかなもの)に相応して加熱され,かつ前に予
想された熱レンズが生じ,この熱レンズは,ノズル壁の,とくにノズル入口の範囲
におけるノズル表面の損傷を引起こし,かつ結局液体ビームを形成するノズルの破
壊を引起こす。」(4頁13行~20行),「水の使用だけが,結合効率を悪化するの
ではなく,ノズル入口前の液体空間の全構造的構成も悪化する。・・・ノズル入口前
においてできるだけ液体の静止状態を達成する努力が試みられた。まさしくこの液
体静止状態は,熱レンズの構成を可能にし,又は強化する。すなわち(すでにわず
かな)吸収によって加熱される液体は,なお強力に加熱されることがなく,それに
よりレンズ効果を減少するようにするため,できるだけ早く運び去るのではなく,
逆に進行する加熱によってなお生じる熱レンズの屈折力の増強が行なわれる。」(4
頁21行~27行)
g「しかし本発明は,別の方法をとる。ここではすべてのことは,できるだけ
熱レンズを生じることがなく,又はその作用を大幅に小さくすることにかけてい
る。」,「本発明において,利用したレーザービームにおいてできるだけ小さな吸収を
有する液体が使用され,すなわちND:YAGレーザーのビームにおいてシリコン
オイルが利用される。」,「さらにノズル装置及びフォーカスユニットを含む加工モジ
ュールの構造的構成は,無視できない小さなビーム吸収の場合にも,熱レンズの効
果が,そもそも生じるかぎり,最小に,したがって無視できる程度に維持されるよ
うに選択されている。」(以上,4頁28行~34行)
h「本発明は,次のことを提案する。すなわち加熱時間をそもそもできるだけ
短く維持するために,液体が,レーザービームのフォーカス円錐の範囲から,とく
にその先端範囲からできるだけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は,わず
かな吸収を有するフォーカス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。」
(4頁35行~38行)
i「前記の条件を達成するために,ヨーロッパ特許出願公開第0515983
号明細書において利用された。液体を静止状態に維持するここに普及された液体せ
き止め空間を有する液体空間は,完全に回避される。ノズルへの液体供給の高さは,
流れの渦形成を減少するために,ほぼノズル通路の直径を有し,又はそれよりわず
かだけ大きい。」(4頁39行~42行),「ノズル入口に対向する壁に,ヨーロッパ
特許出願公開第0515983号明細書におけるようなフォーカスレンズも組込ま
れず,レーザービームを損失なく伝達する窓が組込まれるだけである。ノズル入口
のほぼ真上にあるこの窓だけによって,フォーカス円錐の先端における液体容量を
そもそもできるだけ少なく,かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可
能である。」(4頁43行~47行)
j「提案された装置は,・・・ノズル通路への入口における支障ない流れが保証
されるならば,液体圧力を上昇することができ,かつコンパクトな液体ビーム長さ
は,とりわけ利用した液体とノズル直径に依存する最大値にまで増加する。例えば
水及び150μmのノズル通路直径に対して,80バールの液体圧力の際に150
mmの最大のコンパクトなビーム長さが得られる。・・・コンパクトな液体ビーム長
さとは,“分離水滴”の始まる前の長さのことである。この分離水滴は,周囲空気及
び表面張力によって引起こされる不可避の渦形成に基づいている。」(5頁28行~
36行)
k「レーザービームの最適な結合は,焦点が,ノズル開口の平面内に置かれた
ときに達成される。レーザービームを伝達する窓の,ノズル開口の方に向いた下側
は,100μmのノズル直径の際に200μmないし500μmの距離のところに
あるようにする。それにより熱レンズの形成を助長する液体せき止め空間が避けら
れる。」(6頁6行~9行)
l「次に本発明による装置の例を図面により詳細に説明する。」(7頁7行),「図
1に示された材料加工装置は,ビーム源としてND:YAGレーザー1を有し,こ
のレーザーは,1.064μmの波長を有するレーザービーム3を送出する。ここ
ではレーザー1は,100Wの出力を有する。このレーザービーム3は,フォーカ
スユニット5によって・・・ビームガイド6に結合される。」(7頁15行~20行),
「加工モジュール7の下に,加工すべき,ここでは切断すべき加工片9が配置され
ている。」(7頁25行),「加工モジュール7は,ビームガイド6によって近くに案
内されるレーザービームを平行化するコリメータ21,加工片9上の加工位置24
に向けられた液体ビーム12を形成するノズル通路23を有するノズルブロック4
3,及び図3に拡大して示すように,ノズルブロック43のノズル通路23のノズ
ル軸線31の場所における入口開口30の平面29に平行化されたレーザービーム
27を収束するフォーカスレンズ25を有する。」(7頁32行~36行)
m「ノズル入口開口30の上に,液体供給導管としてディスク状の液体供給空
間35がある。液体供給空間35は,ノズル入口開口30の周囲にせき止め空間と
して作用する液体空間を持たない。」(7頁36行~39行),「液体供給空間35の
高さは,理論的にはノズル通路23の横断面の半分を有するだけでよい。しかしこ
れは,液体の管摩擦損失を減少するため及び渦形成を避けるために,それよりいく
らか大きく選定されている。」(7頁39行~41行),「液体供給空間35をディス
ク状に構成する代わりに,この液体供給空間は,鋭角半角を有する円錐状に製造し
てもよく,その際,角頂点(円錐先端)は,この時ノズル入口開口の上方にあるよ
うにする。」(8頁32行~34行)
n「液体供給空間35の壁内に,ノズル入口開口30の上においてなるべく反
射防止コーティングされた窓36が挿入されており,これを通ってレーザービーム
は,フォーカスレンズ25によってノズル通路23の入口開口30の平面内の収束
することができる。」(7頁41行~44行),「液体ビーム12を形成する“ノズル
ブロック”43のノズル通路23は,図2に示すように,加工モジュール7の底部
要素47において液体ビーム12のための中心貫通穴45を有するノズルブロック
保持体46内に保持されている。」(8頁5行~7行),「窓36は,挿入体53の中
心切り欠き51内に配置されている。・・・挿入体53は,同軸的に分配された複数
の軸線方向液体通路61a及び61bを有し,これら液体通路の幅は,液体を確実
に液体供給空間35内に移すように選定されている。液体供給空間35の高さは,
挿入体53のねじ込み深さによって調節される。」(8頁10行~18行)
(イ)本件発明1の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明欄の記載を総合
すれば,本件発明1は,①従来,レーザービームを導く液体ビームがノズルにより
形成される材料加工方法及びその方法を実施した装置においては,水ビーム(液体
ビーム)の直径をビームガイドの直径よりも小さくすることができないという欠点
や,ビームガイド端部の下に死水領域が生じるため,水ビームの長さが増大すると,
水ビームの分離水滴を生じて,30mmを超える層状のコンパクトなビーム長さを
得ることができないといった欠点があったことから,ビームガイドを直接含まない
水ノズルを構成することで,これらの欠点を解消することが試みられたが,かかる
従来技術(「ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書」に示された装置)
では,フォーカス光学系によってノズルの範囲に収束したレーザービームが,液体
における強度の分布に応じて液体を多かれ少なかれ強力に加熱し,この空間的な温
度勾配を有する液体範囲が,空間的に固有の密度分布を有するだけでなく,空間的
な屈折率分布も有し,光学的に発散レンズとして反応し(いわゆる熱レンズ効果),
ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に熱レンズが生じ,この熱レンズ
がノズル通路入口の周範囲におけるノズル壁に管理できない損傷を引き起こすとい
う問題があったこと,②本件発明1は,上記問題を解消し,液体ビームを形成する
ノズルをレーザービームによって損傷することなく,レーザービームを材料加工の
ために液体ビーム内に光学的に結合することができる装置を提供することを課題と
し,上記課題を解決するための手段として,「液体供給空間へ供給される液体が,ノ
ズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ,それによりレーザ
ービームのフォーカス円錐先端範囲における液体の流速が十分に高く決められるよ
うにし,したがって,フォーカス円錐先端範囲において,レーザービームの一部が
ノズル壁を損傷しないところまで熱レンズの形成が抑圧される」構成を採用した発
明であると認められる。
イ構成要件エないしカの意義等について
(ア)構成要件エにおける「せき止め空間のない」の意義
a「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」は,本件発明1の技術分
野である流体力学の分野における学術用語ではない(甲21の3頁,乙14の12
頁~13頁)。一般に,「せきとめる」には,「さえぎりとめる。さえぎる。」の意味
があり(広辞苑),流体力学の分野では「せき」とは,「水路を板又は壁でせき止め,
これを越えて水が流れる場合」を意味するが(甲21の資料8(「改訂版流体の力学」)
の64頁),これらを前提としても,特許請求の範囲の記載のみから「せき止め空間」
あるいは「せき止め空間のない」の意義を確定することは困難である。
bそこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照することとする。発明
の詳細な説明には,「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」に関し,①従
来技術である「ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書」(乙A1)に示
された装置においては,「空間」(水入口とノズル入口に対して空間を閉じるフォー
カスレンズとを有する水空間)は,「水ビームのためにその中にある水が,擬似的に
静止状態に・・・構成されている。この時,水ビーム内に結合されたレーザービー
ムのこの第2の構成変形は,ノズル通路入口の周範囲におけるノズルの壁に管理で
きない損傷を引起こすことがわかった。」(前記ア(ア)c),②上記装置においては,
「ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に,熱レンズが生じ,・・・それ
によりフォーカス円錐内のレーザービームの一部は,・・・とくにここにおいて利用
された液体せき止め空間の方に向いたノズル表面に当たる。」(同e),③「ヨーロッ
パ特許出願公開第0515983号明細書において利用された。液体を静止状態に
維持する・・・液体せき止め空間を有する液体空間・・・」(同i),④「本発明」
による装置においては,「加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために,液体
が,レーザービームのフォーカス円錐の範囲から,とくにその先端範囲からできる
だけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は,わずかな吸収を有するフォーカ
ス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。」(同h),「熱レンズの形成
を助長する液体せき止め空間が避けられる。」(同k),「ノズル入口開口30の上に,
液体供給導管としてディスク状の液体供給空間35がある。液体供給空間35は,
ノズル入口開口30の周囲にせき止め空間として作用する液体空間を持たない。」
(同m)との記載がある。
上記①ないし④のとおりの発明の詳細な説明の記載を参照すると,構成要件エに
おける「せき止め空間」(液体せき止め空間)とは,同空間において液体が静止する
ために,透過するレーザービームにより温度が上昇し,これによって発生した熱レ
ンズによってレーザービームの焦点がずれ,ノズル壁の損傷を引き起こす空間を意
味すると解すべきであり,構成要件エの「せき止め空間のない」とは,上記の意味
での空間がないとの意味に解するのが相当である。もっとも,流体空間が一つの連
通空間である場合,空間内で流速は連続的に変化し,流速が完全に零になることは
ないと認められるから,ここでの「静止」とは,流速が完全に零であることを意味
するものではなく,ほぼ零を含むと解すべきである。
(イ)構成要件オにおける「液体の流速が,十分に高く」の意義
構成要件オには「十分に高」いとされる液体の速度については特段の数値限定等
はされておらず,その意義を,特許請求の範囲の記載のみから確定することは困難
である。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると,液体の流速
については,「加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために,液体が,レーザ
ービームのフォーカス円錐の範囲から,とくにその先端範囲からできるだけ迅速に
運び出される。明らかに最善の結果は,わずかな吸収を有するフォーカス円錐にお
ける液体の短い滞在時間の際に達成される。」(前記ア(ア)h),「ノズル入口のほぼ真
上にあるこの窓だけによって,フォーカス円錐の先端における液体容量をそもそも
できるだけ少なく,かつ流速をそもそもできるだけ高く維持することが可能であ
る。」(同i)との記載がある。
これらの記載からすると,「液体の流速が,十分に高く」することは,液体がレー
ザービームによって加熱される時間を短くすることで熱レンズの発生を防止しよう
とするものであるから,「液体の流速が,十分に高く」とは,「フォーカス円錐先端
範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,
熱レンズの形成が抑圧される」(構成要件カ)程度に流速が高いことを意味するもの
と解される。
(ウ)構成要件カにおける「ノズル壁を損傷しないところまで」の意義
構成要件カに「ノズル壁を損傷しないところまで」についても,その意義を特許
請求の範囲の記載のみから確定することは困難である。そこで,本件明細書の発明
の詳細な説明の記載を参照することとする。「予想された熱レンズが生じ,この熱レ
ンズは,ノズル壁の,とくにノズル入口の範囲におけるノズル表面の損傷を引起こ
し,かつ結局液体ビームを形成するノズルの破壊を引起こす。」(前記ア(ア)f)と記
載されていることからして,「ノズル壁を損傷」とは,層流からなるビームガイドと
して機能する液体ビームが形成できなくなる程度のノズル壁の損傷を意味すると解
するのが相当である。
なお,本件発明1を実施した装置においても,装置の継続使用による液体供給空
間内の熱レンズの形成そのものは不可避であり,いずれは熱レンズの形成によって
発散したレーザービームがノズル壁の表面に当たること,あるいは,高圧で供給さ
れる液体の摩擦によって,層流からなるビームガイドとして機能する液体ビームが
形成できなくなる程度のノズル壁の損傷が生じることは明らかである。このように
ノズルに寿命があるとしても,通常の使用の範囲において,熱レンズ現象により,
層流からなるビームガイドとして機能する液体ビームが形成できなくなる程度のノ
ズル壁の損傷が生じていなければ,構成要件カにおける「ノズル壁を損傷しないと
ころまで」との要件を充足するものと解すべきである。
(エ)構成要件エないしカについて
構成要件オの「それにより」,構成要件カの「したがって」との文言を併せて読め
ば,構成要件オの「液体の流速が,十分に高く」するとの構成は,「液体が,ノズル
入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ」ること(構成
要件エ)によってもたらされており,構成要件カの「ノズル壁を損傷しないところ
まで,熱レンズの形成が抑圧される」との効果は,「液体が,ノズル入口開口(30)
の周りにおいてせき止め空間のないように導かれ」(構成要件エ),「液体の流速が,
十分に高く」された(構成要件オ)ことによる必要がある。
ウ被告製品の構成要件エないしカへの充足性について
(ア)以上を前提に,構成要件エないしカの充足性の有無を判断する。
次のとおり,①被告製品においては,グリーンレーザーが使用されているところ,
グリーンレーザーにおいても,流速が十分でなく,水がフォーカス円錐先端範囲内
に長時間滞留している場合には,時間の経過により熱レンズが発生し,ノズル壁が
損傷することがあり,②被告製品においてノズル壁の損傷を防ぐための対応がされ
ることが必要であること等からすると,被告製品の液体貯留室内のフォーカス円錐
先端範囲においては,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,
熱レンズの形成が抑圧される程度に,流速が十分に高いものといえるから,被告製
品は構成要件エないしカを充足すると認められる。
(イ)グリーンレーザーの使用と熱レンズによるノズル壁の損傷との関係につい

a被控訴人は,被告製品では,水に対する吸収率が極端に小さいグリーンレー
ザーを使用しているから,ノズル壁を損傷する程度の熱レンズが形成されることは
ない旨主張する。
b証拠によれば,次の各事実が認められる。
(a)甲32の記載
甲32は,控訴人作成に係る2011年(平成23年)3月29日付け「Impactof
thermallensingonLaser-Microjet」(訳文・「レーザー・マイクロジェットにおけ
る熱レンズ効果」)と題する実験結果報告書であるが,グリーンレーザー(532n
m波長)と熱レンズに関して,次のような内容が記載されている。
①「1はじめに
このレポートは水ジェット誘導レーザーシステム(レーザー・マイクロジェット,あるいはLMJ)におけ
る熱レンズの影響を評価したものである。・・・レーザー・マイクロジェットの基本原理は,レーザービームの
全てのエネルギーを水ジェットに焦点させることである。寄生的な熱レンズ効果によりノズル開口部でのレー
ザースポットが大きくなり,このことによるノズルの寿命が短くなる。本報告はこの現象が1064nmより
水の吸収が少ない532nm波長のレーザーにも成り立っていることを示す。」(訳文1頁1行~10行)
②「2実験的研究-熱的な焦点ずれのノズル寿命への影響
淀み空間のノズル寿命に対する影響を確認するために,以下の二つのチャンバーを用いて実験を行った。
a)高さ(H)25mm,直径25mm,流入口は直径1.5mmで一箇所だけ側壁についている。
b)Synovaの水チャンバー,高さ0.5mm,直径10mm,側方24箇所から均等に直径1mmの
流入口を持つ。
2.1実験装置
以下の実験では全て波長532nm,平均レーザー出力100W,パルス繰り返し周波数10kHzを用い
た。レーザービームはコア径dfが100μmの光ファイバーにカップリングさせた。ファイバー端でのレー
ザービーム発散の半角θは0.088radである。・・・収束レンズ後のビームウェストの直径(ds)は下
記の式で計算される。ds=・・・=41.7μm
チャンバーでのビーム拡がり半角は0.16radである。着脱可能なサファイヤ製のノズル開口部が80
μmのノズルを使用した。100気圧の超純水を二種類のチャンバーに供給した。・・・ビームウェストが正確
にノズルオリフィスにアライメントされるように,チャンバーをビームに対して垂直,水平に動かして水ジェ
ットに伝達されるレーザー強度を最適化した。」(訳文1頁25行~2頁12行)
③「2.2結果
上記の実験構成で大きなチャンバーとSYNOVAチャンバーでノズル寿命を測定した。80μmノズルで
はノズル寿命に顕著な違いが認められた。a)大きなチャンバーでは5個の異なる測定したノズルの寿命は最
大で240秒であったが,b)SYNOVAチャンバーではノズル破壊は認められなかった(600秒後に実
験終了)。」(訳文3頁1行~5行)
④「3理論的考察
文献値によると532nm波長では1064nmより相当小さな吸収しか起きない。このことは決まった距
離に対してより小さな強度減少(即ちパワー密度)しかもたらさないことを意味する。しかしながら,熱効果
による焦点ずれは,吸収されるエネルギーに依るものであり減少したエネルギー強度によるものではない。・・・
このことにより水は非常に局所的に加熱され,レーザービーム中に大きな熱勾配を発生する。この考察により
チャンバー全体でのレーザー出力の吸収は小さく,従って平均的な温度上昇が無視できても,レーザービーム
内には局所的な吸収による大きな熱勾配が存在することがわかる。一方,レーザーのエネルギーは吸収係数だ
けではなく,照射の時間にも依存する。吸収されるエネルギーは,連続波であれ,パルスであれ時間と伴に増
加する。」(訳文3頁7行~4頁4行)
⑤「3.4ノズル破壊のメカニズム
・・・また光学系では常に収差があり,レーザーのスポットの周辺領域では強度が増加する。その結果,あ
る量のレーザーのエネルギーは,たとえ理論的なビーム径がノズルよりのはるかに(判決注・「ノズルよりはる
かに」の誤記と認める。)小さくても,ノズルエッジにもたらされる。熱によりビームウェストでビームが拡が
り平坦化するので,ビームの周辺にはよりパワーがもたらされる。
増加した光学パワーがノズルエッジで吸収され,応力が増加する。これらの応力があるパワー以上でパルス
的に周期的に負荷されるとノズルを劣化させると同時に水ジェットを不安定にする。破壊が起こるまでの時間
はノズルオリフィスに対するビームウェストのアライメント(中心あわせ)の正確さに依存する。」(訳文7頁
5行~13行)
⑥「4結論
本報告書の第2節にある実験により,80μmノズルの寿命はチャンバーの構造に大きく依存して変わるこ
とがわかった。大きなチャンバーを使うとノズル寿命が短くなり,SYNOVA特許の淀みのないチャンバー
だと長いノズル寿命が得られる。
解析的な結果では,大きなチャンバーでは532nmにおいても熱レズ効果(判決注・「熱レンズ効果」の誤
記と認める。)が発生しうることを示した。この効果によりノズル開口部でレーザースポットが大きくなりノズ
ル破壊に至る。
以上の計算および実験事実に基づき,淀みのある水チャンバーでは波長に関係なく熱レンズ効果が起こりノ
ズル破壊による短寿命化が起こることは疑いがない。」(訳文7頁14行~21行)
(b)甲35の記載
甲35は,控訴人作成に係る2011年(平成23年)9月1日付け「Impactof
thermallensingonwaterjetguidedlaser」(訳文・「水ジェット誘導レーザーに
おける熱レンズ効果の影響」)と題する実験結果報告書であるが,甲32の実験の追
加実験をした結果として,次のような内容が記載されている。
①「2実験的検証
2.1実験条件
Picture1は,今回の実験に用いた光学系の配置を示すが,これは,前回(判決注・甲32の実験)と同じも
のである。今回も高さ25mm(水の淀み有り),532nmグリーンレーザー,繰り返し周波数は5あるいは
10kHz,水圧100気圧の条件である。選択された80μmノズル口径に対してノズルオリフィスでのビ
ームスポットサイズが50μmになるようにした。この光学系で異なるレーザー出力レベルで2つの実験を行
った。以下のノズルの写真は,実験前後に撮影され,比較結果を示すものである。」(訳文1頁30行~2頁2
行)
②「2.2観察結果
Pictures2と3の実験前後のノズルの顕微鏡写真をみると,熱効果による焦点ボケのノズルへの影響した損
傷を,Picture3のオリフィス境界の左下に明瞭に目視することができる。実験前の整った境界・・・は,実験
後には,荒れて,層流水ジェットを作り出すことはできない。このように水が淀んでいると,熱効果による焦
点ボケを引き起こした。532nmにおける僅か40Wの出力でもノズルを損傷させた。
この結果の後,同じ条件,但し,532nmのレーザーでレーザー出力のみ20Wに下げて実験を行った。
実験前後の結果をPicture4と5にそれぞれ示す。
ここでもまた,Picture5の境界右上に目視できるように,熱効果による焦点ボケによりノズルが損傷を受け
ている。・・・
実験で用いたパラメータのまとめ:
レーザー出力20W及び40W
パルス繰り返し周波数5及び10kHz
レーザー波長532nm
レーザースポット径50μm(ファイバー径150μm,縮小比3:1)
チャンバー高さ25mm(淀み空間有り)
ノズル径80μm
40W,10kHzでのノズル損傷に至る時間:400秒
20W,5kHzでのノズル損傷に至る時間・・・:720s」(訳文2頁3行~3頁18行)
③「・・・高出力のレーザーを(訳注:水中の)ノズルに意図的にアライメントをずらせて照射した場合
を視覚化するための実験を行った。これにより,アライメントをずらせた場合とレーザービームの熱効果によ
る焦点ボケの場合との違いが示される。ここでは,標準的な装置(ここでは示さない)を用いノズルオリフィ
スに対して意図的にずらし,40Wのグリーンレーザーを照射した。明らかに,ノズルは直ぐに損傷を受けた。
実験前後における損傷の激しさを示すノズル写真をPicture6,7にそれぞれ示す。」(訳文3頁20行~4頁
2行)
④「3理論的分析
・・・今回の実験で,レーザーの出力が小さくても,(訳注:水の流れの)淀みのない構造の光と水のカップ
リング・ユニットを使わない限り(訳注:ノズルに対して)損傷をもたらすことが示された。確かに,ある範
囲では,より程度が大きいあるいは小さい淀み空間と都合のよいレーザー出力の組み合わせにより,ノズルの
損傷を回避することは可能かもしれない。それにもかかわらず,水の淀みをなくして動作させることによって
熱効果による焦点ボケを避けることは明確に利点がある。なぜなら,そのことにより如何なる種類のレーザー
光に対しても,パラメーター条件を広くすることができるからである。」(訳文4頁3行,17行~末行)
(c)乙16の記載
乙16は,富山県工業技術センター所長作成に係る平成22年10月28日付け
の試験成績通知書であるが,同センター所長が被控訴人の依頼により被控訴人の工
場で行った「レーザー光の吸収特性試験」の試験結果に関して,次のような内容が
記載されている。
①「1.レーザ光の水に対する吸収試験
1-1.試験方法
試験装置・・・
試験条件:出射レンズユニット集光側焦点距離:100mm
ガラスビーカー容量:50ml(外径:φ46.5mm,高さ:61mm)
水の深さ:36mm
レーザの焦点位置:水面より下方18mm
室温:25℃
レーザ波長(発振周波数):グリーンレーザ532nm(20kHz)YAGレーザ1064nm(20k
Hz)
・・・レーザ吸収試験は,各レーザを上記レーザ出力でガラスビーカー(50ml)中の水(50ml)に
照射して,ガラス容器の表面温度を表面温度計(T型熱電対)で測定した。また,ガラス容器表面の温度は照
射前(0分),3分後,10分後,30分後の温度をデータロガーに記録した。」(1頁)
②「1-2.試験結果
・・・次に,各レーザ照射前(0分),3分,10分,30分後のガラスビーカーの表面温度の測定結果を表
2に示す。」,
「表2ガラスビーカー表面温度の測定結果
グリーンレーザYAGレーザ基本波
経過時間(分)表面温度(℃)
026.226.0
329.430.5
1030.539.0
3033.351.6」
(以上,2頁。ただし,上記②は,乙16の「表2」の罫線等を省略して表記している。)
(d)乙17の記載
乙17は,被控訴人従業員B作成の平成22年11月1日付け陳述書であるが,
前記乙16の試験結果に関して,次のような内容が記載されている。
①「表2(判決注・乙16の「表2」)は,表面温度計によって測定された温度の時間に対する変化を示
しています。表2から明らかなように,ビーカー内の水の温度上昇は,各経過時間において何れもYAGレー
ザーの基本波の方がグリーンレーザーよりも大きく,YAGレーザーの基本波では水温が急激に上昇している
のに対し,グリーンレーザーでは水温が緩やかに上昇しています。この結果から,グリーンレーザーの水によ
る吸収は,YAGレーザー基本波の水による吸収よりも小さく,グリーンレーザーはYAGレーザー基本波よ
りも水に吸収されにくいレーザーであることが確認されました。」(3頁2行~9行)
②「なお,本レーザー光の水に対する吸収試験では,グリーンレーザーを使用した場合にも水の温度は上
昇していますが,実際の被告製品WbMでは,液体供給空間内の水の温度上昇は無視できる程度です。すなわ
ち,WbMでは,液体供給空間内の水は常にノズルから噴射されているので,この試験において温度上昇を観
測している時間よりも遙かに短い時間で新しく流入した水と入れ替わります。このため,実際の被告製品の液
体供給空間内において,この試験で測定されたような温度上昇が発生することはありません。」(3頁10行~
17行)
(e)乙30の記載
乙30は,富山県工業技術センター所長作成の平成23年5月31日付け試験成
績通知書であるが,同センター所長が被控訴人の依頼により被控訴人の工場で被告
製品(WbM4032)を用いて行った「レーザー光の液体貯留室透過試験」の試
験結果について,次のような内容が記載されている。
①「レーザー光の液体貯留室透過試験
1.試験方法
試験装置:レーザー・ウォータージェット複合加工機:(株)スギノマシン製WbM4032・・・
試験条件:ウォータージェットノズル径:φ100μm
水圧:10MPa
使用液体:純水
コリメートレンズ焦点距離:250mm
集光レンズ焦点距離:50mm
液体貯留室高さ:10,15,25mm
試験時温度:室温
レーザー波長(発振周波数):グリーンレーザー532nm(10kHz)
レーザー入力設定値:40W(実測値39.6W)
・・・試験は,液体貯留室(ウォータージェット噴射ノズルの手前で水を留める空間)の内部高さ(H)を
10,15,25mmと変え,それぞれについて5分毎に30分間ウォータージェット透過後のレーザー出力
(W)をレーザーパワーメータにより測定した。また,液体貯留室透過前のレーザー出力も測定した。加えて,
試験開始時(0分経過)と試験終了時(30分経過)でステンレス板(厚さ0.1mm)の加工を行った。」(1
頁)
②「2.試験結果
貯留室高さ(H)が10,15,25mmの場合のウォータージェット透過後のレーザー出力測定結果を表
1に,グラフを図3に示す。」(3頁),「・・・すべての貯留室高さにおいて,ステンレス板(厚さ0.1mm)
をφ10mmの円盤状に切り出した加工ワーク外観を写真2に示す。」(4頁)
(f)乙31の記載
乙31は,被控訴人従業員B作成の平成23年6月1日付け陳述書であるが,前
記乙30の試験結果に関し,次のような内容が記載されている。
①「試験結果は試験成績通知書の表1及び図3に示されています。図3のグラフに示されているように,
高さ10mm,15mm,25mmの何れの液体供給空間においても,実験開始から30分間に亘り,水ジェ
ットにより導光されるレーザーの出力はほぼ一定です。また,実験終了後,ノズル壁の損傷も見られませんで
した。」(2頁9行~13行)
②「試験成績通知書の写真2は,透過試験の前後に加工したステンレス板の写真です。この加工は,厚さ
0.1mmのステンレス板を直径10mmの円形に切り抜くもので,1つの円形の加工時間は約6.5秒でし
た。写真から明らかなように,ステンレス板の加工状態は30分の導光の前後で特に変化はなく,バリ等のな
い良好な切断面が得られています。このことからも,30分の導光によりノズル壁に損傷がないことは明らか
です。」(2頁30行~35行)
c上記(a)ないし(f)の実験の結果等を総合すると,レーザービームを材料加工
のために液体ビーム内に光学的に結合する装置において,レーザービームとしてグ
リーンレーザーを使用する場合においても,液体ビームを形成するノズルの壁を損
傷する程度の熱レンズが液体供給空間に形成されることがあり得ると解される。
その理由は,以下のとおりである。
まず,①甲32によれば,控訴人の製品である「SYNOVAチャンバー」(高さ
0.5mm,直径10mm,側方24箇所から均等に直径1mmの流入口)とこれ
よりも大きなチャンバー(高さ25mm,直径25mm,側壁の一箇所に直径1.
5mmの流入口)について,波長532nmのグリーンレーザーを用いて,液体を
超純水とし,平均レーザー出力100W,パルス繰り返し周波数10kHz,水圧
100気圧,ノズル直径80μm,収束レンズ後のビームウェストの直径41.7
μmの条件で,ノズル寿命を測定する実験を行ったところ,大きなチャンバーでは,
ノズル破壊に至るまで最大で240秒であったのに対し,「SYNOVAチャンバ
ー」では,600秒後の実験終了時までにノズル破壊が認められなかったこと(前
記(a)),②甲35によれば,甲32と同様の「大きなチャンバー」について,平均
レーザー出力を甲32の100Wよりも低い40W又は20Wに設定し,平均レー
ザー出力が40Wの場合はパルス繰り返し周波数10kHz,平均レーザー出力が
20Wの場合はパルス繰り返し周波数5kHzとし,それ以外の条件は甲32の実
験と同様の条件(ただし,レーザースポット径は50μm)で,グリーンレーザー
を用いた実験を行ったところ,平均レーザー出力が40Wの条件の場合はノズル損
傷に至る時間が400秒,平均レーザー出力が20Wの条件の場合はノズル損傷に
至る時間が720秒であり,さらに,平均レーザー出力が40Wの条件の場合に意
図的にノズルのアラインメントを意図的にずらして照射したところ,ノズルはすぐ
に損傷を受けたこと(前記(b)),③甲35におけるアラインメントを意図的にずら
して照射した場合のノズルの損傷の写真(Picture6,7)と,平均レーザー出力
が20Wと40Wの場合のノズルの損傷の写真(Picture3ないし5)とを比較す
ると,両者の損傷の状況は相当異なり,後者の損傷がレーザーのアラインメントが
ずれたことによるものとは認め難いことが認められる。
以上の事実を総合すると,少なくとも,甲32にいう「大きなチャンバー」(高さ
25mm,直径25mm,流入口は直径1.5mmで一箇所だけ側壁についている。)
においては,グリーンレーザーを使用した場合であっても,ノズル壁を損傷する程
度の熱レンズが形成されることがあり得ると解するのが合理的である。
この点に対し,乙30には,グリーンレーザーを使用する被告製品において,液
体を純水とし,その液体貯留室の高さを10,15,25mmと変えた上で,レー
ザービーム照射開始時(0分経過)と照射開始後30分経過時におけるステンレス
板(厚さ0.1mm)の加工を行う試験を行い,その加工ワークの外観を「写真2」
を示して比較した旨の記載(前記(e))があり,被控訴人従業員のBは,乙31で,
上記加工ワークの外観において,照射開始時と照射開始後30分経過時の両者共に,
バリ等のない良好な切断面が得られていることから,照射開始後30分経過しても,
ノズルに損傷が生じなかったとの見解を述べている(前記(f))。
しかし,甲32及び35の各実験と乙30の試験を対比すると,甲32及び35
の各実験では直径80μmのノズルが使用されているのに対し,乙30の試験では
直径100μmのノズルが使用されていること,甲32及び35の各実験ではビー
ムスポット径(ビームウエスト径)が明らかにされている(41.7μm,50μ
m)のに対し,乙30の試験ではこれが明らかにされていないこと,甲32及び3
5の各実験では超純水を使用するのに対して,乙30の実験では純水を使用するこ
となどに照らすならば,甲32及び35の各実験と乙30の試験では,実施条件が
同一でなく,乙30の試験結果から,直ちに,甲32及び35の各実験結果に基づ
く評価を否定することはできない。のみならず,乙30からは,加工ワークの切断
面の状況の詳細までは判然とせず,レーザービームの照射開始後30分経過時まで
の間に,乙30の加工ワークの切断が不可能になるほどには,ノズル壁の損傷が生
じなかったといえたとしても,ノズル壁に何らかの影響が生じている可能性までを
否定することはできない。そうすると,乙30の試験結果は上記認定を妨げるもの
ではない。
d以上によれば,レーザービームとしてグリーンレーザーを使用した場合であ
っても,液体供給空間内にノズル壁を損傷する程度の熱レンズが形成されることが
あり得るものと認められる。
(ウ)熱レンズの形成が抑圧される程度に,流速が十分に高いものといえることに
ついて
前記イのとおり,構成要件エの「せき止め空間のない」とは,液体が静止するた
めに,透過するレーザービームにより温度が上昇し,これによって発生した熱レン
ズによってレーザービームの焦点がずれ,ノズル壁の損傷を引き起こす空間がない
ことを意味する。また,構成要件オの「液体の流速が,十分に高く」とは,上記「せ
き止め空間のない」との構成を採用することによって,「フォーカス円錐先端範囲に
おいて,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形
成が抑圧される」程度に流速が高いことを意味する。
ところで,ノズル壁の損傷防止に影響を与えるファクターとしては,熱レンズの
形成が抑圧されること以外にも,①使用するレーザービームの種類(液体による吸
収率の違い),②ノズル径がレーザースポットサイズよりも相当程度大きいこと,③
ノズルの耐久性が高いこと,④レーザー出力,使用する液体の種類・純度,⑤液体
供給空間に液体を供給する圧力,⑥液体供給空間の高さ等のさまざまなファクター
が考えられる(甲2,32,35,甲A5,乙16,17,30ないし32,弁論
の全趣旨)。もっとも,被控訴人は,前記①に関してグリーンレーザーを使用するこ
とを主張する点を除いては,これら他のファクターを具体的に主張・立証するもの
ではない。
そして,①前記(イ)のとおりレーザービームとしてグリーンレーザーを使用した場
合であっても,液体供給空間内にノズル壁を損傷する程度の熱レンズが形成される
ことがあり得ること,②被告製品では,前記(1)イ(ウ)の意味でのノズル壁の損傷が
防がれていること,③乙7では,液体貯留室の高さは「2~40mmの間で適宜設
定する」(【0046】),「液体貯留室の高さHを低くして液体貯留室内における流速
を大きくし熱レンズを抑制」(【0071】)するとされているところ,被告製品(乙
7記載の発明の実施例であるとされる。)では,液体貯留室の高さは,乙7で開示さ
れた範囲の下限近くに設定され(乙8の1,8の2),このことは,流速を高める目
的でされていると認められること(甲42),④ノズル径やレーザースポットサイズ
は,加工形状,製造限界等から,その選択の余地は,必ずしも多くないと認められ
ること(甲42)を総合するならば,被告製品は,「ノズル入口開口(30)の周り
においてせき止め空間のないように導かれ(る)」(構成要件エ)との構成が採用さ
れ,そのことによって「フォーカス円錐先端範囲において,レーザービームの一部
がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される」程度(構成要
件カ)に「流速が,十分に高く」(構成要件オ)したとの構成が採用されていると解
するのが自然である。
(エ)以上によれば,被告製品を使用する加工方法は本件発明1の構成要件エない
しカをいずれも充足する。
エ小括
被告製品を使用する加工方法は,本件発明1の技術的範囲に属する。
(2)本件発明5及び10について
ア構成要件ク,ケ,サないしスについて
前記(1)のとおり,被告製品は,本件発明1の方法を実施する装置であり,「レー
ザービームを送出するレーザー,及び液体ビームを形成するノズル通路を備えたノ
ズルとビームガイドとしての液体ビームへレーザービームを導入する光学要素とを
有する加工モジュール」によるもの(乙8の1,8の2,弁論の全趣旨)であるか
ら,本件発明5の構成要件クを充足する。
被告製品が構成要件ケ及びスを充足することは,原判決の「2争いのない事実
等」の(4)ウ(原判決12頁)のとおりである。
構成要件サ及びシはそれぞれ構成要件オ及びカと共通するから,前記(1)のとおり,
被告製品は,構成要件サ及びシを充足する。
イ構成要件コについて
(ア)「ディスク」とは,「①円盤。円板。②レコード。音盤。また,コンパクト・
ディスク。③フロッピー・ディスク,ハードディスクなどの略。」を意味する(広辞
苑)。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「液体供給空間35をディスク
状に構成する代わりに,この液体供給空間は,鋭角半角を有する円錐状に製造して
もよく,その際,角頂点(円錐先端)は,この時ノズル入口開口の上方にあるよう
にする。」(前記(1)ア(ア)m)との記載がある。
これらを前提とすると,構成要件コにおける「ディスク状に従って」とは,液体
供給空間が円盤状である(なお,円錐状を含まない。)と理解することができる。
この点について,被控訴人は,「ディスク状」とは,直径が高さ(厚さ)に対して,
オーダー(桁)が異なる程度(数十倍以上)に大きい形状を呈するものに限定され
ると主張するが,以下のとおり,同主張を採用することはできない。
(イ)被告製品の液体貯留室は,逆円錐台形状ではあるものの,扁平な形状であっ
て(乙8の1,8の2),円盤状であると認めることができる。なお,乙14の資料
7の図5で被告製品のシミュレーションに用いられた液体貯留室は,逆円錐台形状
の上辺の直径が21mm,下辺の直径が16mm,高さが4mmであって,上下辺
は,高さの4倍ないし5倍強の大きさがあるのであるから,これを前提としても,
「ディスク状に従って」を充足するといえる。
(ウ)被告製品は,構成要件コのその他の構成も充足する(乙8の1,8の2)。
ウ小括
以上によれば,被告製品は,構成要件クないしスをいずれも充足するから,本件
発明5の技術的範囲に属するものと認めることができる。
また,構成要件セを充足することも認められる(原判決の「2争いのない事実
等」の(4)ウ)から,被告製品は,本件発明10の技術的範囲に含まれる。
2争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)及び争点3(訂正によ
る対抗主張の成否)について
控訴人が本件訂正をしており,第3次審決に対する審決取消訴訟においても,本
件訂正の適法性については争点とされていないことに鑑みて,本件各訂正発明に係
る特許が被控訴人主張の無効理由によって無効とされるべきかを検討する。当裁判
所は,本件各訂正発明に係る特許には被控訴人主張の無効理由はなく,また,被告
製品又は被告製品を使用する加工方法は本件各訂正発明の技術的範囲に属するから,
訂正による対抗主張は成立し(争点3),本件特許権に基づく権利行使の制限がされ
ることはない(争点2)と判断する。その理由の詳細は次のとおりである。
(1)無効理由1(実施可能要件違反)について
ア被控訴人は,熱レンズの形成を抑圧するという本件各発明の効果は,使用す
るレーザービームの種類(波長),レーザーの出力(ワット数),使用する液体の種
類,液体供給空間の構造,液体供給空間に液体を供給する圧力,液体の流速等の実
施条件を適切に組み合せることによって初めて得られるものであるところ,本件明
細書には,上記効果を得るために必要な実施条件の一部が個別に記載されてはいる
ものの,それらの各実施条件をいかに組み合せるべきかについての記載は一切なく,
当業者が本件明細書を参照しても本件各訂正発明を容易に実施できない旨を主張す
る。
イこの点,前記1(1)ウ(ウ)のとおり,ノズル壁の損傷に至る熱レンズの形成は,
液体供給空間内のレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(の領域)における液
体の流速のみならず,使用するレーザービームの種類(液体による吸収率の違い),
レーザー出力,使用する液体の種類・純度,液体供給空間に液体を供給する圧力,
液体供給空間の高さ等の諸条件に依存するものと考えられる。
本件訂正においては,液体供給空間の高さについて,液体供給空間の形状を「デ
ィスク状」として,形状面からの限定がされている。加工対象及び加工態様によっ
て,レーザーの種類,レーザーの出力,ノズル径,液体を供給する圧力等は,ほぼ
決まると認められるから(甲42),このような観点から,加工条件に応じてノズル
入口開口の周りにおいて「せき止め空間」がないように液体供給空間の高さを含む
「液体供給空間」の構造を選択することができ,各要素の選択に関する予測可能性
について,実施可能な程度に確保されていると解することができる。そして,本件
明細書には,「ND:YAGレーザー」の基本波である「1.064μmの波長を有
するレーザービーム3」(7頁15行)が開示されているほか,液体としては,水,
シリコンオイル及びコロイド状の溶液も開示され(8頁30行~31行),液体の圧
力の例示としては,「10バール」(6頁48行),「80バール」(5頁31行),「1
00バール」(6頁50行)及び「1000バール」(7頁3行)が記載されている
ことを総合するならば,当業者であれば,明細書の記載に基づいて過度の試行錯誤
なく実施可能であると考えられる。
この点,被控訴人は,乙16,17を根拠として,液体供給空間の高さを変化さ
せた場合,レーザーの入力の増大に伴う出力の変化は,線形となる場合もあれば,
突然に,非線形的かつ特異的な挙動を示す場合もあり,熱レンズの形成は予測が困
難な程度に特異的に起こり得るとも主張する。しかし,被控訴人の指摘する証拠(例
えば,乙16の図4,5)は,水ジェット(液体ビーム)へのレーザー光の導光試
験における水ジェット入射前レーザーの出力と同入射後の出力との関係から,熱レ
ンズ現象の発生に関与する要因の一つについて検証をしたものと理解できる。その
試験結果(乙16の図4,5)は,使用するレーザーと液体の種類に応じて定まる
エネルギー吸収の程度が高い場合(YAGレーザー基本波)であれば,出力の低い
範囲では入射後のレーザー出力が順次増加するものの,出力の高い範囲では,水が
レーザーのエネルギーを吸収することによる熱的影響(熱レンズ)から,レーザー
が拡散し,その分出力が漸次低下していることが認められる。反対に,エネルギー
吸収の程度が低い場合(グリーンレーザー)では,YAGレーザー基本波での出力
が低い範囲での挙動と同様の挙動が,試験した出力の範囲内全域において認められ
る。このような乙16の図4,5に見られる挙動は,熱レンズ現象発生の機序に照
らして,何ら特異なものではなく,相当程度予測できる範囲のものといえる。した
がって,本件各訂正発明を実施するに当たって,熱レンズの形成を予測することが
困難であるとも,特異的な挙動を示す場合があるとも認められず,被控訴人の当該
主張は採用できない。
ウ被控訴人は,「損傷」が,どのような程度か不明であるとして,実施可能要件
違反を主張する。しかし,「損傷」の意義は前記1(1)イ(ウ)のとおりであり,被控訴
人の主張は採用の限りではない。
エ以上によれば,本件訂正後の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満
たす。
(2)無効理由2(特許請求の範囲の記載不備)について
ア被控訴人は,本件訂正発明1,5及び9の特許請求の範囲の記載は,「特許を
受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載したものとはい
えないから,本件各訂正発明には,旧特許法36条5項2号に規定する要件を満た
していない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)があると主
張する。
イしかし,被控訴人の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本件明細書の【図2】,【図3】及び本件明細書に「同軸的に分配され
た複数の軸線方向液体通路61a及び61b」から液体供給空間35に流れ込む旨
の記載(8頁15行~16行)を参照すれば,①「せき止め空間」,「せき止め空間
のない」,「液体の流速が,十分に高く」の意義については,前記1(1)イのとおりで
あり,「フォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高く」とは,
フォーカス円錐先端範囲の全体において,前記のとおりに液体の流速を十分に高く
するとの趣旨であると理解され,また,②「ノズル入口開口の周り」とは,フォー
カス円錐先端範囲及びその近傍と理解され,「周辺」とは,「ディスク状液体供給空
間内の内周壁の近傍」であるとの趣旨であると合理的に理解することができる。以
上のとおりであり,本件各訂正発明1,5及び9に係る特許請求の範囲の記載には,
被控訴人の主張に係る不備はない。
(3)無効理由3(乙A1に基づく新規性欠如)及び無効理由4(乙A1を主引例
とする進歩性欠如)について
ア被控訴人は,本件各訂正発明は,乙A1に記載されている発明であるか,乙
A1に記載された発明と周知技術によって容易に想到することができた発明である
旨を主張する。
イ各文献の記載内容
(ア)本件各訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(ア’
ないしキ’は分説記号である。)。発明の詳細な説明の記載は,前記第4,1(1)ア(ア)
記載のとおりである(本件訂正は特許請求の範囲の記載のみに係るものである(甲
18)。)。
「ア’収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービー
ム(3)を導く液体ビーム(12)がノズル(43)により形成され,加工すべき
加工片(9)へ向けられるものにおいて,前記ノズル(43)の上面と,前記ノズ
ル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な
窓(36)の下面との間には,前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供
給するディスク状液体供給空間(35)が形成され,前記ノズル(43)は,ノズ
ル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し,
イ’レーザービームガイドとして作用する液体ビーム(12)へレーザービー
ム(3)を導入するため,
ウ’前記レーザービーム(3)がノズル(43)のノズル通路(23)の前記
ノズル入口開口(30)の所で収束され,
エ’前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が,前記ノズル入
口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)から
の前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記
ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ,
オ’それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液
体の流速が,十分に高く決められるようにし,
カ’したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの
一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧されることを特徴
とする,
キ’材料を加工する方法。」
(イ)乙A1(ヨーロッパ特許第0515983A1号公報,以下訳文による。)
には,次のとおりの記載がある。
「特許請求の範囲
1.材料アブレーション装置,特に歯科用ハンドピース(1)において,
ボディー(4)および作業ヘッド(5)を画定するケース(2)と,コヒーレント光ビーム(10)を作業
表面まで伝播および案内する光学的手段(6,16,22,32;50,52,66)であって,光軸(18)
を画定し,コヒーレント光発生源(12)に接続されるようになっている光学的手段と,
加圧流体を前記作業ヘッド(5)まで供給し,加圧液状流体発生源(26)に接続されるようになっている
配管手段(24,30;62)と,
前記配管手段(24,30;62)の下流側の前記作業ヘッド(5)内に位置し,液状流体噴流(32)を
形成するためにこれらの手段に通じているノズル(20;64)を備え,前記ノズル(20;64)の管路(4
4)が前記光軸(18)とほぼ一直線になり,前記配管手段が,前記ノズル(20;64)のすぐ上流側に位
置し前記加圧液状流体を受け入れるようになっている少なくとも1つの体積(46;60)を備えるチャンバ
ー(30;62)を含み,コヒーレント光ビーム(10)が前記ノズル(20;64)の管路(44)に入る
前にこのコヒーレント光ビームが前記体積(46;60)を横断し,前記液状流体が,加圧された状態で前記
体積(46;60)内および前記ノズル(20;64)の管路(44)内に供給されること,ならびにこのノ
ズルにより発生した前記液状流体噴流(32)が,前記コヒーレント光ビーム(10)の光学的伝播および案
内手段となることを特徴とする装置。
2.前記光学的伝播および案内手段が,
基本的に,グリップボディーとなる前記ボディー(4)の領域内の前記ケース(2)の内部に位置する光フ
ァイバー(6)であって,端面(8)が前記作業ヘッド(5)の領域内に位置する光ファイバー(6)と,
光ファイバー(6)の前記端面(8)の下流側であって前記ノズル(20)の上流側の前記作業ヘッド(5)
の領域内に位置し,焦点がノズル(20)の前記管路(44)の内部に位置するよう前記コヒーレント光ビー
ム(10)の焦点を合せるのに使用される前記コヒーレント光ビーム(10)の合焦手段(22)
を備えることを特徴とする,請求項1に記載の装置。」(原文11欄27行~12欄33行。訳文10頁1行
~28行)
「本発明は材料アブレーション装置に関し,より詳細には,コヒーレント光ビームを使用する歯科用ハンド
ピースに関する。そのような装置はまた,コヒーレント光ビームにより処理された表面に到達する液状流体噴
流を形成させるための手段も備える。」(原文1欄1行~7行。訳文1頁12~14行)
「ノズルのすぐ上流側に位置する体積は,膨張チャンバーとなるチャンバー内に含まれる。この膨張チャン
バーにより,加圧状態で供給される流体の準よどみが確保される。」(原文4欄5~9行。訳文3頁31~32
行)」
「このハンドピース1は,グリップボディー4ならびに作業ヘッド5を有するケース2を備える。ケース2
の内部には,コヒーレント光ビーム10を光ファイバー6の端部8まで伝播および案内するための手段となる
光ファイバーが設置される。光ファイバー6は,コヒーレント光ビーム10のフレキシブル伝播案内手段14
によりコヒーレント光発生源12に接続されるようになっている。フレキシブル手段14は光ファイバー6の
延長部により形成されるのが好ましく,そうすることにより2つの伝播案内手段間での接続を回避することが
できる。コヒーレント光発生源12はたとえば,パルスモードで供給されマルチモードまたは基本モードTE
M00で動作するNd:YAGタイプのレーザーで構成される。もちろん他の種類のレーザーも使用すること
ができる。」(原文6欄11~28行。訳文5頁20~28行)
「したがってチャンバー30により加圧液状流体の準停留が確保され,その後,この流体はノズル20の管
略に入り,液状流体の層流噴流32が形成される。チャンバー30は,ノズル20と最後尾合焦レンズ34の
間に位置する体積を画定し,このレンズは,コヒーレント光ビーム10がチャンバー30内に入ることができ
るよう,合焦光学部22とチャンバーの間に透明なウインドウ36を画定する。こうすることにより,最後尾
合焦レンズ34から出たコヒーレント光ビーム10は,膨張チャンバー30内にある加圧液状流体内を直接伝
播する。したがって合焦光学部22を出たところの界面は,レンズ-液状流体界面である。このようにビーム
10は加圧液状流体内をノズル20の管路の入口まで伝播し,次に液状流体の層流噴流32と結合される。す
るとこの層流噴流32はコヒーレント光ビーム10用の光導波路となる。」(原文7欄32~52行。訳文6頁
26~35行)
「管路24によって供給される加圧液状流体は膨張チャンバー30に到達し,このチャンバー内で順定常状
態に保たれる。チャンバー30からはこの液状流体はノズル20の管路44を通過し,液状流体の層流噴流3
2を形成する。」(原文8欄31~36行。訳文7頁19~21行)
「ノズル20のレベルにおいて光エネルギーの大きな損失を防止し,特に乱流のリスクを制限するためには,
長さが比較的短い管路が有利であり,この管路がコヒーレント光ビーム10の光軸18に完壁に一致している
ことが最も重要である。液状流体噴流32内においてコヒーレント光ビーム10の最良の結合が得られるよう
にするために,焦点がノズル20の管路44の内部に位置しかつコヒーレント光ビーム10の包絡線45がノ
ズル20の管路44の壁に触れないようにして,コヒーレント光ビーム10が合焦される。したがってそのよ
うな特性を保証する合焦光学部が設けられる。」(原文8欄58行~9欄15行。訳文7頁33~8頁5行)
「加圧液状流体中を伝播するコヒーレント光ビーム10にとって高品質な光路を保証するために,膨張チャ
ンバー30の内部にある自由体積46は,最後尾の合焦レンズ34とノズル20の管路44の入口の間を通る
コヒーレント光ビームが通過する体積の全部は少なくとも包含する。次に,管路44の入口側に収束するコヒ
ーレント光ビーム10は界面を通過することなく管路44に入るが,この管路44自体は完全に自由である。」
(原文9欄29~40行。訳文8頁12行~17行)」
「したがって自由体積46内にある液状流体自体も加圧されており,これにより液状流体の均質性が増加し,
したがってこの自由体積46の内部のコヒーレント光ビーム10のための光路の品質が向上する。
上で記載した種々の適切な手段により発生する液状流体噴流32は,ノズル20の管路24の入口から少な
くとも1cm程度の距離までは完全に層流である。」(原文9欄46~56行。訳文8頁20~26行)
(ウ)乙20のA13(特開昭50-118121号公報)には,次の記載がある。
「本発明は,・・・特に燃料用の噴出ノズルに関する。・・・本発明の目的は,・・・様々な燃料で内燃機関を
運転し得るようにした,噴出ノズルを提供することである。」(1頁左下欄下3行~右下欄11行)
「本発明は・・・次のように構成されている。旋回室が本質的に,ノズル体における環状の凹部とここに取
付けられたカバープレートから形成され,カバープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面
と共に円板状の間隙を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙を介して旋回室と通じてお
り,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成されている。
公知の構造の場合にはノズルの最も狭い位置が噴出孔であったが,本発明によりこれは噴出孔の前に配設さ
れる。これにより,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴出比が得られる。
本発明の有利な構成によれば,ノズル体の芯部に,出口開口部と整列していてしかも流れ方向において円板
状間隙の後方で且つ出口開口部の前方に配設された孔が設けられている。孔により形成された鋭い縁部は良好
な噴霧に寄与する。
本発明のさらに他の構成により,ノズル体の芯部に存する孔が貫通孔として構成され且つ逆行路を形成する
ようにすれば都合が良い。」(1頁右下欄12行~2頁左上欄14行)
「第4図に示すように受入室11と旋回室12との間には接線方向の旋回路13が形成されており,前記旋
回室12は内方の環状溝7とカバープレート8とにより形成されている。
旋回室12により囲まれたノズル本体5の芯部14における端面と,カバープレート8とにより円板状の間
隙15が形成され,該間隙の周面は,カバープレート8における出口開口部9断面よりも何倍も小さく形成さ
れている。
さらにカバープレートを芯部14の端面に弾性的に当て,したがって円板状の間隙15を実際上零に等しい
ように対接させ,そして相当する噴出圧力が生じた際に初めにわずかだけ広げるように構成することができ
る。」(同2頁右上欄9行~左下欄2行)
(エ)乙20のA14文献(特開平6-42432号公報)には,次の記載がある。
「【産業上の利用分野】本発明は,ノズル本体が流入通路と,それに接続された,渦流室の方へ向いている接
線方向の渦流通路と,ノズルコア内に設けられた中央の戻し通路とを備え,渦流室が実質的にノズル本体の出
口側の端面に形成された環状の溝と,このノズル本体の端面に固定された,中央の出口を有する被覆板とによ
って形成され,この被覆板がノズルコアと共に,円板状の隙間を形成し,この隙間が一方では渦流室を被覆板
の出口に接続し,他方では渦流室を戻し通路に接続し,出口の横断面積が円板状隙間の外周面積の数倍の大き
さであり,被覆板がノズル本体を取り囲むノズルケーシングのつばに載っている,液状媒体,特に燃料のため
の噴射ノズルに関する。」(段落【0001】)
「【従来の技術】このような噴射ノズルはドイツ連邦共和国特許第2407856号明細書によって知られて
おり,0.05~10kg/hの噴出量に適することが実証されている。環境を汚さないようにする要求や燃焼装置やエ
ンジンの経済性に対する要求が高まって来ており,噴出量をきわめて少ない量に低減する必要がある。この場
合,噴射流を非常に正確に形成することが非常に重要である。これは非常に正確な製作を前提条件として必要
とする。」(段落【0002】)
「被覆板とそれに固定されたノズル本体を単に挿入するだけでは,誤差が異なるときに噴射状態が非常に乱
れ,特に噴射流の形が乱れ,そしてノズルの組み立て分解時に新たな誤差を生じることが判った。良好な噴射
状態とするためには,噴射通路と出口とをきわめて正確に一直線上に並べることと,噴射流の偏向を回避する
ために渦流室に対して出口をきわめて正確にセンタリングすることが必要である。」(段落【0003】)
「【発明が解決しようとする課題】本発明の根底をなす課題は,公知の噴射ノズルの噴射精度を改善すること
である。」(段落【0004】)
「【課題を解決するための手段】この課題は冒頭に述べた種類の噴射ノズルにおいて本発明に従い,被覆板の
直径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を形状補完的に収容するた
めの中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも浅いことによって解決される。これにより,被覆板
が渦流室の中心にきわめて正確に保持され,それによって出口が渦流室の中心に配置されないことによる噴射
流の偏向が回避される。」(段落【0005】)
「噴射媒体は高圧で渦流室に達し,この渦流室内で強い渦流を生じる。そして,噴射媒体は渦流室によって
囲まれたノズルコアと被覆板との間の円板状の隙間を高圧で流れて,非常に加速されてあらゆる側から被覆板
の出口内に直接達し,ここで噴霧が行われる。」(段落【0006】)
「図1は,液状媒体,例えば燃料のための噴射ノズルの下側部分を示している。この噴射ノズルは中央の穴
2を有するノズルケーシング1を備えている。この穴の出口側の端部はつば3によって直径が縮小している。」
(段落「【0012】)
「ノズル本体4の下側端面5は更に,中央の窪み11を有する。この窪みは被覆板12の厚さの一部を形状
補完的に収容する働きをする。被覆板は前述の溝6,7を被覆し,溝7によって包囲されたノズルコア14の
端面13と共に,円板状の隙間15を形成する。この隙間の外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断
面積よりもはるかに小さい。更に,被覆板12は溝6と共に収容室を形成し,かつ溝7と共に噴射媒体用渦流
室18を形成する。」(段落【0015】)
「数μの厚さである被覆板12は好ましくは弾性材料,例えばばね鋼からなり,ノズルコア14の端面13
に次のように接触している。すなわち,静止位置で円板状の隙間15の厚さが零であり,適当な噴射圧力のと
きに初めてほんの少し大きくなるように接触している。」(段落【0016】)
「被覆板12の出口16はそのノズルコア14側に,窪み22を備えている。この窪みの深さは被覆板12
の厚さの主要な部分を占めている。この窪みは,大きな加速を受けて円板状隙間15を通って来る噴射物のた
めに,この噴射物があらゆる側から異なる速度および量で渦流室に流れるときにも,静め室を形成する。これ
によって,噴射物が出口16の横断面積全体にわたって均一に分配された圧力で流出することにより,噴霧流
が変形したり偏向することが回避される。」(段落【0020】)
「図2に更に示すように,ノズルケーシング1のつば3は円錐形の窪みを有する。この窪みは円錐形の噴出
口23を形成している。この噴出口の開放角度βは100°よりも大きい。」(段落【0021】)
「この構造により,噴霧流の円錐形の境界層24上で空気が吸い込まれる。この空気は噴出口23の壁に沿
って出口16まで移動し,妨害する噴射物フィルムの堆積を防止する。この噴射物フィルムは噴射流を偏向し,
流出口を変更する。この構造は同時に噴射ノズルの自己清掃を生じる。」(段落【0022】)
(オ)乙A4(特開昭60-193452号公報)には,「ウォータージェット型
レーザー治療装置」において,「レーザー光(10)としては,水による吸収の少な
い波長を選択する必要があり,可視域から近赤外領域の波長が適している」(2頁左
下欄5~7行)として,レーザー光は水による吸収の少ない波長を選択する必要が
ある旨が記載されている。
ウ新規性について
(ア)前記イ(イ)によれば,乙A1には次の内容の発明(以下「乙A1発明」とい
う。)が記載されていると認められる。
「合焦されるレーザービームによる材料アブレーション方法であって,レーザー
ビーム10を導く液状流体噴流32がノズル20により形成され,加工すべき材料
へ向けられるものにおいて,
前記ノズル20の上面と,前記ノズル20の上方に配置されるとともに前記レー
ザービーム10に対して透明なウインドウ36の下面との間には,前記液状流体噴
流32を形成するための液体を供給するチャンバー30が形成され,
前記ノズル20は,ノズル通路のノズル入口開口を有し,
レーザービームガイドとして作用する液状流体噴流32へレーザービーム10を
導入するため,
レーザービーム10がノズル20の管路44の入口開口の所で合焦され,
チャンバー30内に加圧液状流体の準停留,順定常状態が確保される,材料アブ
レーション方法。」
(イ)乙A1発明と本件訂正発明1とを対比すると,次の一致点及び相違点が存在
すると認められる。
a一致点
「収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービームを導
く液体ビームがノズルにより形成され,加工すべき加工片へ向けられるものにおい
て,
前記ノズルの上面と,前記ノズルの上方に配置されるとともに前記レーザービー
ムに対して透明な窓の下面との間には,前記液体ビームを形成するための液体を供
給する液体供給空間が形成され,
前記ノズルは,ノズル通路のノズル入口開口を有し,
レーザービームガイドとして作用する液体ビームへレーザービームを導入するた
め,
前記レーザービームがノズルのノズル通路の前記ノズル入口開口の所で収束され,
液体供給空間へ液体が供給される,
材料を加工する方法。」
b相違点1
「『液体供給空間』について,本件訂正発明1は『ディスク状』であるが,乙A1
発明はそのようなものではない点。」
c相違点2
「液体供給空間への液体の供給について,本件訂正発明1は,『ディスク状液体供
給空間(35)へ供給される液体が,ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき
止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した
前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって
周辺から流れるように導かれ,それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範
囲(56)における液体の流速が,十分に高く決められるようにし,したがってフ
ォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷
しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される』ものであるが,乙A1発明は,
『チャンバー30内に加圧液状流体の準停留,順定常状態が確保される』ものであ
り,『熱レンズの形成が抑圧される』か不明である点。」
(ウ)以上のとおり,本件訂正発明1と乙A1発明との間には,前記の相違点1及
び相違点2が存在し,実質的にも異なる作用効果を奏するから,本件訂正発明1は
新規性を有し,同様に,本件訂正発明5及び9も新規性を有すると認められる。
なお,被控訴人は,乙A2(日本洗浄協会「産業洗浄」昭和57年9月10日発
行)及び乙A3(Cほか「医療用赤外中空ファイバの開発」日立電線No.24(2
005-1))を前提とするならば,相違点に係る構成は乙A1に実質的に開示され
ているとの趣旨を主張するものとも解される。しかし,前者には,ノズルからの噴
射水量とノズル口径及び噴射圧力の関係が記載され,後者には,各種レーザーの水
に対する吸収係数がレーザーの波長により大幅に異なることが記載されているにす
ぎないから,これによって相違点に係る構成が乙A1に実質的に記載されていると
認めることはできない。
エ進歩性について
(ア)被控訴人は,相違点1に係る構成は,乙20のA14及び乙20のA15に
記載されているとおり周知であり,また,相違点2に係る構成は,ノズル損傷の原
因たる熱レンズ現象を抑制するため流体が滞留しないように,ディスク状として周
辺から流体を供給する構成を採用することは容易であると主張する。
しかし,被控訴人の上記主張は,いずれも採用することはできない。すなわち,
(イ)相違点1について
本件訂正発明1は,収束されるレーザービームによる材料加工方法であってレー
ザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けら
れる加工方法における「ディスク状」の「液体供給空間」を対象とする発明である。
これに対し,乙20のA13は,前記イ(ウ)のとおり,内燃機関に用いられる燃料用
の噴出ノズルに関し,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴
出比を得ることを課題とするものであり,本件訂正発明1とは技術分野及び解決機
序において相違する。また,乙20のA13は,前記課題を解決するために,カバ
ープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面と共に円板状の間隙
15を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙15を介して旋
回室と通じ,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成することを中核
的解決手段としているものであって,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大
きく構成されていることに鑑みれば,「円板状の間隙15」のみを独立した空間と捉
えるのは不自然であり,むしろ,出口開口部と一体の空間,そして,好ましくはさ
らに出口開口部と整列して形成される孔も含めた一体の空間として課題を解決する
ものである。さらに,「円板状の間隙15」を実際上「零」に等しいように対接させ
る態様もあり得るものとされており,もはや「ディスク状」の形状の空間を備えて
いるものとはいえないというべきである。
また,乙20のA14に記載された発明は,前記イ(エ)のとおり,燃焼装置やエン
ジンに用いられ,燃料のような液状媒体のための噴出ノズルに関し,噴射精度を改
善するというものであり,本件訂正発明1とは技術分野及び課題解決の機序におい
て相違する。しかも,乙20のA14は,前記課題を解決するために,被覆板の直
径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を
形状補完的に収容するための中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも
浅く構成することを中核的解決手段としているものであって,円板状の隙間15の
外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断面積よりもはるかに小さく構成さ
れていることに鑑みれば,「円板状の隙間15」のみを独立した空間と捉えるのは不
自然であり,むしろ,出口と一体の空間として所要の機序を備えるものである。さ
らに,乙20のA14では,静止位置で「円板状の隙間15」の厚さが「零」であ
り,適当な噴射圧力のときに初めてほんの少し大きくなるように接触する態様もあ
り得るものとされていることに照らすならば,「ディスク状」の形状の空間を備えて
いるものとはいえない。
以上によれば,本件訂正発明1の「ディスク状」「液体供給空間」が乙20のA1
3や乙20のA14から周知ということはできない。
(ウ)相違点2について
乙24(被控訴人従業員B作成の陳述書)によれば,YAGレーザー基本波が水
を熱し,その屈折率を変えることを観察することができることまでは認められ,ま
た,乙19のA9(「JournalofAppliedPhysicsVol.36,No.36pp.3-8」),乙2
0のA16(特開平6-112575号公報),乙20のA17(特開平6-596
2号公報)によれば,本件特許の優先日(平成6年5月30日)当時,レーザービ
ームの加熱による熱レンズ現象と呼ばれる物理的現象が生じることについては,一
般的に知られていた事項と認められる。しかし,上記各証拠は,熱レンズ現象があ
る旨を示すにとどまり,流れのある液体に関して熱レンズ現象の発生や消失に関し,
これを利用,制御するなどの手段が知られていたことを示すものではない。
乙A1発明は,液体を「準停留状態」にすることによって所定の課題を解決する
発明と認められるから,同発明を起点として,「準停留状態」と異なる「液体がよど
むことなく流れる」との構成に想到することが容易であるとはいえない。
以上よりすれば,相違点2に係る構成が,当業者において容易に想到することが
できたとは認められないというほかない。
(4)本件各訂正発明の技術的範囲に属することについて
被告製品を使用する加工方法が,本件訂正発明1の構成要件ア’ないしウ’及び
キ’を充足することは,原判決の「2争いのない事実等」の(4)ウ(原判決12頁)
のとおりである。構成要件オ’及びカ’は,それぞれ構成要件オ及びカと同一の内
容であり,前記1(1)のとおり,被告製品を使用する加工方法は,構成要件オ’及び
カ’を充足する。構成要件エ’は,構成要件エに,液体供給空間が「ディスク状」
であるとの限定及び液体が「ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるよ
うに導かれ」るとの限定を付加するものである。被告製品の液体供給空間の形状が
「ディスク状」であることについては,前記1(2)イのとおりであり,分配流路21,
連絡流路22の外周面及び液体貯蔵室23の外周面を伝ってノズル入り口開口に向
かって液体が流れるように導かれている(乙8の1,8の2)から,被告製品は,
構成要件エ’を充足する。よって,被告製品は,本件訂正発明1の技術的範囲に属
する。
被告製品は,本件訂正発明5の構成要件ケ’及びス’を充足することは,原判決
の「2争いのない事実等」の(4)ウ(原判決12頁)のとおりである。また,被告
製品は,上記のとおり本件訂正発明1の方法を実施する装置であり,構成要件ク’
を充足する(乙8の1,8の2,弁論の全趣旨)。構成要件コ’は,構成要件エ’と
共通であるから上記のとおり充足する。構成要件サ’及びシ’も,構成要件サ及び
シと共通であり,前記1(2)アのとおり,それぞれ充足する。よって,被告製品は,
本件訂正発明5の技術的範囲に属する。
被告製品は,本件訂正発明9の構成要件セ’を充足することは,争いがない(原
判決の「2争いのない事実等」の(4)ウ)。被告製品は,構成要件ソ’も充足する。
以上によれば,被告製品及び被告製品を使用する加工方法は,本件訂正発明1,
5及び9の技術的範囲に属する。
(5)小括
以上によれば,本件各訂正発明には被控訴人主張に係る無効理由はなく,被告製
品及び被告製品を使用する加工方法は,本件訂正発明1,5及び9の技術的範囲に
属する。したがって,本件各発明が特許無効審判により無効にされるべきものであ
るとしても(争点2),本件各訂正発明には無効理由はないことからすれば,本件訂
正によって無効理由は解消されていると認められ,かつ,被告製品及び被告製品を
使用する加工方法は本件訂正発明1,5及び9の技術的範囲に属するから,いずれ
にしても,訂正による対抗主張は成立しており(争点3),結局,本件特許権の行使
が特許法104条の3第1項に基づいて制限されるものではない。
3争点4(控訴人の損害額)について
本件の争点,本件の難易度・複雑性,本判決に至るまでの係属期間等,本件に現
れた一切の事情を考慮すれば,弁護士費用としては400万円(及びこれに対する
訴状送達の日の翌日(平成20年5月27日)から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金)を相当と認める。
4その他について
(1)被控訴人は,被告製品を設計変更したので,「控訴人のいう物件目録記載の
装置・方法を製造販売していない」とも主張する。被控訴人が本件特許権の侵害を
争っていること及び被控訴人が被告製品の製造能力を有すること等を総合するなら
ば,本件において,仮に被控訴人が設計変更をした事実があったとしても,その事
実のみによっては,本件特許権を侵害するおそれがなくなったとまではいえない。
(2)本件訴訟では原審で秘密保持命令が発令されているが,秘密保持命令に係る
手続に関し,以下の2点について付言する。
ア第1に,控訴人は,その代表者等において秘密記載文書(乙8の1・8の2)
を閲覧できなかったことについて問題がある旨主張する。
しかし,秘密記載文書については,閲覧等の制限(民事訴訟法92条1項)など
秘密保護の規定が存するものの,「当事者」(当事者の法定代理人を含む。)に関する
限り,秘密保持命令の発令に至るまでの協議の過程で,当該当事者が営業秘密の開
示を受けないことが合意されていたような特段の事情が存在する場合を除き,その
閲覧(同法91条1項)が制限されることはない。そこで,特許法は,特許法10
5条の6第1項所定の「当事者」(民事訴訟法92条1項の「当事者」と同義と解さ
れる。)から秘密記載部分の閲覧請求がされた場合に,その者が秘密保持命令を受け
ていない者であるときは,秘密保護を要する当事者のために,所定の期間を設けて
秘密保持命令を申し立てる機会を付与している(同条2項参照)。本件においても,
控訴人代表者は控訴人の法定代理人であると解されるから,かかる特段の事情がな
い限り秘密記載文書の閲読が許されるのであり,控訴人の指摘は当たらない。
イ第2に,本件訴訟では,準備書面等に,秘密記載文書の写しが添付されてい
る。しかし,このような営業秘密に関する安易な取扱いは,秘密漏洩を防止するた
めの記録管理をいたずらに煩雑にさせ,また,漏洩の危険性を著しく高めることに
なる。準備書面等に営業秘密の内容に言及する場合には,営業秘密の内容を準備書
面等に転記するような方法を避けた,秘密記載文書(原本)における掲載箇所(開
始頁及び行と終了頁及び行、図面の番号)の特定にとどめるなどの工夫をすること
により,営業秘密が拡散することのないよう,配慮をすべきである。
5結論
被控訴人はその他縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。以上によれば,
控訴人の請求は主文第2項ないし第5項の限度で認容され,その余の請求は理由が
ないから棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治
(別紙)物件目録
製品名ウオータービームマシン
製品番号WbM4032,WbM3025
(別紙)本件明細書の図面
【図1】
【図2】【図3】
(別紙)乙A1の図面
【図1】
【図2】
【図3】,【図4】,【図5】
(別紙)乙20のA13の図面
【図4】
【図5】
(別紙)乙20のA14の図面
【図1】
【図2】
(別紙1)被告製品の概要
1全体構成
被告製品は,噴流液柱内に導かれたレーザー光により熱影響の少ない加工を目
的とする加工装置である。
全体構成は,別添模式図1に示すとおり,主要構成はグリーンレーザー発振器
1と,高圧水を噴射するノズル7及びそのノズル7上流側に隣接して設けられ高
圧水をノズル7に供給する液体貯留空間を備えた加工ヘッド6と,レーザー光1
1をノズル7に導くための光学装置2と,ノズル7に高圧水を供給する液体供給
手段3と,からなる。
2各構成部分の説明
(1)加工ヘッド部の構成(別添模式図2参照)
略円筒形状に形成されたハウジング5と,ハウジング5内の上部に収容され
た光学装置2と,光学装置2の下方に配設された液体貯留空間と,下方に配設
されたノズル7と,からなる。
ア光学部の構成(別添模式図2-1参照)
光ファイバ10に結合された光学装置2は,ハウジング5の頂部から放射
されたレーザー光11を平行光に変換するコリメートレンズ12と,コリメ
ートレンズ12で変換された平行光をノズル7の入口開口部に集光する集
光レンズ13と,液体貯留空間の上方に隣接して配設されレーザー光11を
導入するウインド14と,からなる。
イノズル部の構成(別添模式図2-2参照)
ノズル7は,いわゆるオリフィスノズルを使用している。また,ノズル径
は40~200μmのものが使われる。
ウ配管流路(層流形成流路)の構成
液体貯留空間は,液体供給手段3から供給された噴流液体である高圧水を
貯留してノズル7に供給する液体貯留室23を備えている。
液体貯留室23は,ノズルの軸線G方向下流側が上流側よりも縮径された
逆円錐台形状として形成されている。
また,連絡流路22の外周面と液体貯留室23の外周面とは,段差がなく
同一面上に連続するように延設されている。また,外周面に沿う方向は,ノ
ズル7の軸線G方向に対して内側(ノズル7側)に傾斜している。
かかる構成により,分配流路21に貯留された高圧水は連絡流路22から
液体貯留室23の外周面の傾斜を伝わるように導入されることで,流体の流
れが整えられ,液体貯留室23に貯留されノズル7に高圧水が供給される。
(2)ポンプ
高圧水ポンプは,サーボ駆動式のポンプを採用し,ポンプの吐出圧力を検出
して吐出圧力が一定となるようにフィードバック制御を行なうことで,サーボ
モータとボールねじにより一定の流速で水を押し出すように構成されている。
このような構成により,安定した高圧水の流れを発生して液体貯留室23に
送り出すことができる。
高圧水ポンプの仕様としては(甲8)発生圧力2~50MPa,最大流量0.
5L/minのタイプが使用され,高圧水ポンプで発生した高圧水は高圧ホースを
通して加工ヘッド6に供給される。
(3)レーザー発振器
本装置で典型的に用いられているグリーンレーザー(532nm)を得るた
めの通常のレーザー発振器1を使用している。
レーザー発振器1は(甲8記載のとおり)LD励起パルスレーザーを使用。
この場合,平均出力20~100W,パルス周波数5~20kHzの仕様となる。
レーザー光11は,レーザー発振器1から光ファイバ10を通して加工ヘッ
ド6に導かれる。
(別添)模式図


2-1
2-2

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