弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人A及び同Bを各懲役弐年に
     被告人C、同D及び同Eを各懲役壱年六月に処する。
     各被告人に対し本裁判確定の日から壱年間右刑の執行を猶余する。
     訴訟費用は全部被告人等の連帯負担とする。
         理    由
 控訴理由は記録に綴つてある各被告人の弁護人小西寿賀一名義及び弁護人佐伯千
仭外二名名義、被告人Cの弁護人鈴木正一名義の各控訴趣意書記載の通りであるか
ら、これを引用し、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。
 弁護人小西寿賀一並に佐伯千仭外二名の論旨各第一点について、
 原審第三回公判調書の記載によれば、証人Fの尋問供述に先ち原審裁判所は裁判
官全員一致で公の秩序善良の風俗を害する虞ありと決し、審判の公開を停止する旨
の決定を言渡し、傍聴人を退廷せしめ同証人の尋問供述終了後公開禁止解除決定を
言渡し傍聴人を入廷せしめたことが認められ、又検察官よりなした右証人の申請理
由尋問事項よりすれば同証人の尋問供述が直ちに公の秩序善良の風俗に反すること
もないようにも思はれ、その尋問の最初より公開を禁止したのはいささか早計の憾
がないでもないが、更につぶさに本件公訴事実の内容、証人がその被害者であるこ
と、尋問事項も右公訴事実に関連したものであること等に徴すれば、証人に対する
尋問供述が自ら公秩良俗に反するに至ることあるは訴訟上経験するところであるか
ら、証人尋問の冒頭より原審が裁判官一致の意見を以て公の秩序善良の風俗に反す
る虞ありとしたことにあへて違法はない。現に同証人に対する尋問調書の記載によ
れば、検祭官は冒頭より証人は本件悪戯をせられたことがあるかと発問し、裁判長
も亦公訴事実の内容につき尋問している次第であるから、原審が最初より公開を禁
止したことを違憲の処置であるとすることはできない。よつて本論旨は理由がな
い。
 弁護人佐伯千仭外二名の論旨第二点について。
 原判決は第一事実に於て「交互に陰部に手指を挿入し、更に被告人Cは同女の陰
毛約十本位を右手で引き抜き或は引きちぎり、因て同女の健康状態に不良の変更を
加へ約二日間病臥を要したる傷害を蒙らせ」と認定しているが、これに照応する起
訴状記載の公訴事実では「交互に陰部に手指を挿入して猥褻行為をなしたる上、被
告人Cに於て陰毛約十本位を右手を以て引き抜き、因て同女をして陰毛脱去による
身体の安全性を害して傷害を与へ」となつていること所論の通りである。然らば原
判決も起訴状も共に、陰毛脱去により健康状態に不良の変更を加へたことを法律上
傷害を与へたものとしているのであつて、原判決が「約二日間病臥を要した」とし
たのは、右傷害の程度を表示したもので、右傷害の外に更に約二日間の病臥を要し
た傷害を認定した趣旨でないことは判文自体によりて明白である。かくの如く傷害
の程度は起訴状に記載かない場合でも、裁判所は訴因の変更追加を命ずることなく
して、これを認定判示し得べきものである。論旨は主として原判示を正解しないこ
とに基くものであつて理由がない。
 同論旨第三点について。
 原判決第一事実に於て陰毛脱去による傷害を認定していることは前点で認定した
通りであり、且被告人等が共謀の上判示所為に及び、判示Fの陰毛約十本位を引き
抜き或は引きちぎつたことは、原判決挙示の証拠によりて認定し得るところであ
る。しかし原判決は右陰毛約十本位の内引き抜いたのが何本で引きちぎつたのが何
本であるかはこれを確定していないけれども、引用の証拠によれば、陰毛の一端に
毛根が附着していて引き抜いたものと認められるものが数本あつたことはこれを認
められる。
 而して刑法にいわゆる傷害とは、人の体躯の生活機能を毀損することをいひ、身
体に於ける生理状態を不良に変更する一切の場合を汎称するものであるところ、陰
毛の毛根部分を残し毛幹部分のみを截取するいわゆる単に引きちぎるだけでは生理
状態に不良の変更がないから傷害とはいえない。(大審院明治四十五年六月二十日
判決、十八輯八九六頁、抄録五十二巻五八七頁、大審院刑事判例要旨集刑法四八九
頁)。
 <要旨>しかしこれと異なり、陰毛の毛根の部分から脱取してなすいわゆる引き抜
く場合は傷害となるものと解すべきものである。けだし人の毛髪の毛根部分
は毛嚢に包まれて深く皮膚の真皮内にはいり込み、下端の乳頭は膨大して毛球をな
し内腔を有し、血管、神経を容れているのであるから、これを引き抜くときはこの
血管神経を破壊し表皮を損傷すること明らかで、これ身体に於ける生理状態を不良
に変更し、生活機能を毀損するものというべきであるからである。
 然らば原判決が陰毛を引き抜き健康状態に不良の変更を加えたことを認定してい
る以上、これを以て傷害と断定したことに誤はない。しかし原判決はこの傷害の程
度を前示の通り約二日間病臥を要したものと認定して居り、この認定の証拠として
は論旨摘録の如く証人Fの原審の証言(記録第二四一頁)、同人の検察官に対する
第一回供述調書(同第一一九頁)によつたものと思はれる。
 これによれば被害者Fは本件被害後二日位寝込んだことは認められるが、これが
本件陰毛引き抜きによる傷害に基因したものとにわかに断定することはできない。
けだし陰毛数本の引き抜きによりては特別の事情のない限り、二日の病臥を必要と
するものでないことは医学上顕著な事実であるところ、Fは若干痛みがあり頭痛か
したと供述しているが、この痛みや頭痛が陰毛引き抜きに基く特別の事情によるも
のであることについては何等供述していない。Fの右供述を始め記録に徴してみて
も、右特別の事情のあつたことはこれを認められないからである。然らば原判決が
傷害の程度を約二日間病臥を要したものと認定した点については事実を誤認したも
のといわなければならないが、これは傷害の程度に関するものであつて、しかも右
程度の誤認は判決に影響を及ぼさないものであるから、この誤認は原判決破棄の理
由とするに足らない。
 次に被告人等が交互にFの陰部に手指を挿入したことは引用の証拠によりて認め
られ、記録によりても、この点に誤認はない。
 更に又原判示第二事実殊に被告人A及びBの両名が犯意を共通して判示の如を暴
行をしたことに基因して判示傷害を与えた事実は引用の証拠によりてこれを認め得
べく、記録に徴してもこの認定に誤があるとは思はれない。
 よつて本論旨はすべて理由がない。
 弁護人鈴木正一の論旨第一点について。
 原判示第一の犯行が料亭一室に於ける酒席で行はれ、被害者はその料亭の仲居
で、被告人等と平素眠懇であつて、酒席で猥褻な言葉を交はす間柄であり、本件犯
行当時料亭の女将もこれを問題にしていなかつたことを始め、本件犯行が酒席の悪
戯の程度を超えたものであつたことは所論の通りであるけれども、判示所為は婦女
の自由身体に障害を与へ、公秩良俗に反するもので、刑法所定の犯罪を構成するこ
と勿論であつて、違法性を阻却し罪とならないものということはできない。所論は
独自の見解に基くもので採用できない。
 同論旨第二、三点について。
 本論旨の理由のないこと佐伯千仭外二名の論旨第三点について説示するところと
同一である。
 弁護人小西寿賀一の論旨第二点、佐伯千仭外二名の論旨第四点、鈴木正一の論旨
第四点について。 本論旨はすべて原判決の量刑不当を主張するものであるから、
所論を考慮し、記録を精査して明らかな本件は被告人等がいずれも相当飲酒の上の
犯行なること、犯行の態様、被害者との示和の状況、被告人等の経歴性行等各般の
事情を参酌するときは、被告人等に対して実刑を科するよりは、今回に限り相当期
間刑の執行を猶予し、本件の如き行為の不法なることを感銘し、将来の行動につき
自肅自戒せしむる方が刑政の大目的に合致するものと思われるから、実刑を科した
原判決は重きに失し、本論旨は理由がある。
 故に刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十一条により原判決を破棄し、同
法第四百条但書により直ちに判決するに、
 原判決が証拠により認定した判示事実(但弁護人佐伯千仭外二名の論旨第三点に
対する判断について説示した通り判示第一事実中「約二日間病臥を要し」とある部
分を除く)に法律を適用するに、被告人等の各所為は刑法第百八十一条第百七十六
条前段第六十条に該当するところ、いずれも有期懲役刑を選択し、尚被告人A、同
Bの以上の所為は刑法第四十五条前段の併合罪だから刑法第四十七条第十条第十四
条により犯情の重い判示第二の罪の刑に加重し、且被告人全部につき犯情宥恕すべ
きものがあるから刑法第六十六条第七十一条第六十八条第三号により減軽した刑期
範囲内に於て、被告人A、同Bを各懲役二年に、他の三名を各懲役一年六月に処
し、尚前説示の事由により、刑法第二十五条第一項を適用し、被告人等に対し一年
間右刑の執行を猶予し、原審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文第百
八十二条により被告人等の連帯負担とする。
 よつて主文の通りの判決をしたのである。
 (裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛