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平成17年(行ケ)第10785号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年3月6日
判決
                                       
原告株式会社コーセー
                            
訴訟代理人弁理士高野登志雄
同中嶋俊夫
同村田正樹
同山本博人
同松田政広
訴訟復代理人弁理士野中信宏
                                   
被告特許庁長官
   
指定代理人市村節子
同藤正明
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004-2616号事件について平成17年9月27日にした審決を取り
消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記意匠登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これ
を不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,同
審決の取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年12月2日,意匠に係る物品を「包装用容器」とし,その
形態を別添審決写し別紙第一のとおりとする意匠(以下「本願意匠」とい
う。)につき意匠登録出願(意願2002-33309号,以下「本件出願」とい
う。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成16年2月10日,こ
れに対する不服審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2004-2616号事件として審理した結果,平成17年
9月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その審決
謄本は平成17年10月11日原告に送達された。
(2)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要旨は,本願意匠
は,下記意匠(以下「引用意匠」という。その形態は,別添審決写し別紙
第二のとおり。)と,意匠に係る物品が一致し,形態においても類似する
から,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないと
したものである。

特許庁特許情報課が2000年7月14日に受け入れた2000年6月15日発行
の大韓民国意匠商標公報(CD-ROM番号:2000-14)に記載された,意匠
登録第30-0259584(M02)号の包装用容器の意匠(特許庁意匠課公知資
料番号第HH14586943号)
イ上記判断をするに当たり,審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,そ
の共通点と差異点を下記のとおり認定した。

(共通点)
①口部にノズル付きのキャップを螺合した,縦長のボトル型の容器で
あって,容器本体は,螺合されたキャップの直下から,極く浅い傾斜
で肩部が形成され,上面視において肩部先端が,前後に緩やかな凸弧
状に膨出し,左右両側が先尖状の,ラグビーボールの横断面様の横長
の稜部を形成し,この稜部は全体がほぼ横水平をなすもので,これか
ら下方に向けて,横断面が漸次円形に変化する態様の,母線を直線状
とする筒状の胴部を形成し,下端を,前後左右でさほど幅差のない円
形状として閉じたものであり,胴部の正面視が僅かに下窄まり状で,
高さが横幅のおおよそ2倍程度のものとしている点。
②キャップについて,短円筒状のキャップ本体の上部に,これより僅
かに小径の有頂短円筒状で側面にノズルを突出させた押下ヘッドを段
重ね状に表したもので,キャップ本体は,径が容器本体の肩部の横幅
の3分の1強で,周面全体に縦筋を密に表したもので,押下ヘッドの
ノズルは,先端が僅かに屈曲する丸管状のものである点。
(差異点)
(イ)容器本体について,本願意匠は肩部の前後幅が引用意匠より狭
く,胴部を真横からみると下拡がり状であるのに対し,引用意匠は肩
部の前後幅がやや広く,底面が僅かに横長楕円で,胴部を真横からみ
た場合,等幅状である点。
(ロ)本願意匠は胴部両側と押下ヘッドの頂面に各一列,小さい楕円が
表されているのに対し,引用意匠は表されていない点。
(ハ)キャップについて,本願意匠は押下ヘッドとキャップ本体との間
に,押下ヘッドより僅かに太径でキャップ本体よりやや小径の段部が
認められるのに対し,引用意匠はこの段部がなく,狭い隙間を介して
押下ヘッドの下部が同径状に区画されている点。
(3)審決の取消事由
しかしながら,審決は,以下のとおり本願意匠と引用意匠の共通点の認定
を誤り,また本願意匠と引用意匠との差異点についての評価判断を誤り,そ
の結果,本願意匠は引用意匠に類似するとの誤った結論に至ったものである
から,違法として取消しを免れない。
ア取消事由1(共通点の認定の誤り,差異点の看過)
(ア)容器本体の肩部形状の認定の誤り
審決は,本願意匠と引用意匠の容器本体の肩部が上面視において「ラ
グビーボールの横断面様の横長の稜部を形成している」点で共通してい
る,と認定した。
しかし,ラグビーボールの横断面の長径は短径の約1.5倍であるとこ
ろ,本願意匠の容器本体肩部の上面視における長径は短径の約1.63倍
で,ラグビーボールより約10%細身の楕円状を呈しているのに対し,引
用意匠の容器本体肩部の上面視における長径は短径の約1.35倍で,ラグ
ビーボールより約11%太めの楕円状を呈している。
このように,ラグビーボールに比し,本願意匠がかなり細身であるの
に対し,引用意匠が逆にかなり太めと云う相違がある以上,両意匠にお
ける容器本体肩部の上面視形状の当該相違は,むしろ本願意匠と引用意
匠の差異点(以下「差異点(a)」という)の一つである。
よって,審決は,共通点を誤って認定し,差異点を看過している。
この点につき,被告は,「ラグビーボールの横断面様」との審決の認
定は,同形の劣弧が向き合った形状を共通点として認定したものである
と主張するが,「同形の劣弧が向き合った形状」を共通点とする認定は
審決に存在せず,被告の主張は審決が認定していない事実に基づく不当
なものである。しかも,被告自身が認めるように,本願意匠と引用意匠
には,ラグビーボールより細身か太めかの差があるのであるから,両者
を「ラグビーボールの横断面様」として共通点とすることができないこ
とは明らかである。
(イ)容器本体の下端形状の認定の誤り
審決は,本願意匠と引用意匠の容器本体の下端が「前後左右でさほど
幅差のない円形状」となっている点で共通している,と認定した。
しかしながら,本願意匠の容器本体の下端が真円状を呈しているのに
対し,引用意匠の容器本体の下端は,長径が短径の約1.1倍,すなわち
約10%長い楕円状を呈している。
そして,真円と楕円が異なる形状である以上,両意匠における容器本
体の下端形状の当該相違は,むしろ本願意匠と引用意匠の差異点(以下
差異点(b)という)の一つである。
よって,審決は,共通点を誤って認定し,差異点を看過している。
(ウ)上記(ア),(イ)の認定の誤りにつき,被告は,「ラグビーボールよ
り細身か太めかの差」及び「底面が真円か楕円かの差」は差異点として
認定した上で判断しており,共通点の認定には誤りがないと主張する。
しかし,別項目で差異点として認めているということは,審決が共通点
とした認定の不当性を自ら認めているのに等しく,被告の主張は論理的
に矛盾している。
イ取消事由2(差異点の判断の誤り)
(ア)差異点(a)及び(b)について
上記アのとおり,本願意匠と引用意匠は,容器本体の肩部形状におい
て相違し(差異点(a)),また,容器本体の下端形状において相違する
(差異点(b))。
かかる差異点があるため,本願意匠の容器本体は,上部から下部に向
って横断面が細身の楕円状から真円状に変化しているが,当該上部の楕
円状の短径は,下部の真円状の直径の約70%に過ぎないため,一見して
厚みのない扁平筒感を与えているのに対し,引用意匠の容器本体は,上
部から下部に向って横断面が全て楕円状であり,しかも当該楕円状の短
径は上部から下部まで全て同一の長さで,本願意匠の上部楕円状より太
めとなっているため,一見して厚みのある円筒感を与えている。
したがって,両意匠を全体として対比した場合,本願意匠の厚みのな
い扁平筒感と,引用意匠の厚みのある円筒感が与える印象の差は,極め
て大きく,両意匠は容器本体の基本的形態において顕著な相違を有して
いる。審決が,差異点の評価判断においてこれを看過したことは明らか
に誤りである。
被告は,この点につき,本願意匠と引用意匠には「厚みのない扁平筒
感」と「厚みのある円筒感」の差異があることを認めながら,特定部分
の差異であって全体の印象差を与えるものではないと主張する。しか
し,両意匠を全体として対比すれば,看者に与える美感が異なることは
明らかであり,被告の主張は,かかる美感の差を無視し,特定部位の対
比により全体の印象をことさら矮小化しているものであって不当であ
る。
(イ)差異点(イ)について
審決は,差異点(イ)に係る相違は,共通点が形成する全体のまとまり
を覆すまでのものとは認められない,と判断した。
しかしながら,本願意匠の容器本体は,正面及び背面から見た場合に
は上方から下方に向って徐々に縮小(小径)する一方,右側面及び左側
面から見た場合にはそれとは全く逆に上方から下方に向って徐々に拡開
(大径)する形態であり,容器本体を見る位置によって,その外径ライ
ンが形成する拡開方向が上下全く逆になる基本的形態となっているのに
対し,引用意匠の容器本体は,正面及び背面から見た場合には上方から
下方に向って徐々に縮小(小径)となっているものの,側面から見た場
合には同径のストレートな形態となっており,上方から下方に向って拡
開(大径)する形態となっていないことは明らかである。
してみれば,見る方向によって外径ラインが変化する容器本体(本願
意匠)と何ら変化しない容器本体(引用意匠)とでは,全体として看者
に与える印象に大きな差異が生じることは明らかであり,両意匠はこの
点からしても容器本体の基本的形態において顕著な相違を有している。
したがって,これを類否判断に当たって重視しなかった審決の判断は明
らかに誤りである。
ちなみに,甲4~12から明らかなように,吐出ポンプ付き包装用容器
の分野において,本願意匠のごとく,容器本体の上部から下部に向って
横断面が細身の楕円状から真円状に変化し,かつ当該容器本体が見る位
置によって,その外径ラインが形成する拡開方向が上下全く逆になる基
本的形態は,本件出願前には見られないところであり,これが特に看者
の注意を強く惹きつける本願意匠の要部となっているものである。
被告は,この点につき,乙4~8を挙げて上記基本的形態はごく普通
に見られるものであったと主張するが,乙4~8には上記基本的形態は
何ら開示されておらず,上記基本的形態が本願意匠の要部であることを
否定する根拠とはなし得ない。
(ウ)差異点(ロ)について
審決は,差異点(ロ)に係る本願意匠の形態は,特徴として大きく評価
できず,類否判断に及ぼす影響は微弱である,と判断した。
しかしながら,小突起群が存在する容器本体(本願意匠)と,小突起
群が存在しない容器本体(引用意匠)とでは,前者が明らかに凹凸面感
を与えるのに対し,後者はフラット面感しか与えないのであるから,こ
の全く異なる凹凸面感とフラット面感の差が全体としての印象の差に大
きな影響を及ぼしていることは否定し得ず,おのずと両意匠は容器本体
の具体的形態においても明らかな相違を有している。したがって,これ
を否定した審決の判断は明らかに誤りである。
被告は,当該小突起群は広く本件出願前に見られるところであるから
本願意匠の特徴とすることはできないと主張するが,本件で問題となっ
ているのは本願意匠の創作容易性ではなく引用意匠との類否である。仮
に当該小突起群を設けることが公知であったとしても,その存否によっ
て両意匠が凹凸面感とフラット感という全く相反する美感を看者に与え
るものである以上,類否判断に及ぼす影響が微弱であるということはで
きない。
(エ)以上のとおり,本願意匠と引用意匠とは,容器本体の基本的形態に
おいて顕著な相違を有するとともに,容器本体の具体的形態においても
明らかな相違を有し,それぞれおのずと全く別異の美感を看者に与えて
いるものであるから,両意匠は明らかに非類似の意匠である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)の各事実は認める。同(3)は争う。
3被告の反論
原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおり
いずれも失当である。
(1)取消事由1(共通点の認定の誤り)に対し
ア原告は,審決が,容器本体の肩部が「ラグビーボールの横断面様の横長
の稜部」を形成している点を共通点として認定したのは誤りである,と主
張する。
しかし,審決が「ラグビーボールの横断面様の」と認定したのは,本願
意匠及び引用意匠が,上面視において,前後に緩やかな凸弧状に膨出し,
左右両側が先尖状となっているという形状の共通性を端的に述べたもので
ある。言い換えれば,両意匠ともに,肩部先端が,同形の劣弧が前後に向
き合った形状であることを表現したものである。原告は,ラグビーボール
の具体的な長径と短径の比と対比して,本願意匠は細身のものであるのに
対して引用意匠は太目である点に相違がある旨を主張するが,審決は,か
かる相違を差異点(イ)の評価において検討しているのであるから,審決が
共通点を誤認し差異点を看過した旨の原告の主張は失当である。
イ原告は,審決が,容器の下端が「前後左右でさほど幅差のない円形状」
である点を共通点として認定したのは誤りである,と主張する。
しかし,審決は,幅差が存在すること自体は認めており,これを受け
て,差異点(イ)の評価においても,本願意匠が真円状であるのに対して引
用意匠は楕円状である点に相違があることを認定した上で検討しているの
であるから,審決が共通点を誤認し差異点を看過した旨の原告の主張は失
当である。
(2)取消事由2(差異点の判断の誤り)に対し
ア差異点(a),(b)について
原告は,審決が差異点(a),(b)を看過して類否判断をしたと主張する
が,上記(1)のとおり,審決は差異点(イ)の中に差異点(a),(b)をも含
めて検討しているので,下記イにおいてまとめて反論する。
イ差異点(イ)について
審決は,差異点(イ)の評価において,原告主張の差異点(a),(b)を含
めており,さらに胴部を真横から見た場合に下拡がり状か等幅状かに差異
があること(以下「差異点(c)」という。)をも認めた上で,差異点(a
),(b),(c)は,全体としてみれば,共通点が形成するまとまりを覆す
までのものとは認められない,と判断したものである。
そして,差異点(a),(b)は,いずれも両意匠に共通する構成態様の中
で見られる寸法比率の度合いの差,といった程度のもので,基本的形態に
おける顕著な相違というほどのものではない。また,差異点(c)は,差異
点(a),(b)に由来するものであるが,側面視において下拡がり状とした
本願意匠の構成は,この種のボトル型の容器においてはごく普通に見られ
るもの(乙4~8)である上に,拡がりの度合いもさほど顕著なものでは
ないから,引用意匠との共通性を凌駕するほどのものではない。したがっ
て,審決の判断に誤りはない。
ウ差異点(ロ)について
審決が差異点(ロ)として認定した小さい楕円の列は,本件出願前に制定
されたJIS規格に定義され,広く本願出願前に同種商品において採用さ
れていた触覚記号に相当するから,これをもって本願意匠の特徴とするこ
とはできない。したがって,差異点(ロ)について,審決が,類否判断に及
ぼす影響は微弱であると判断したことに誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告主張の取消事由ごとに審決の適否について判断する。
2取消事由1(共通点の認定の誤り)について
(1)容器本体の肩部形状の認定につき
原告は,審決が,容器本体の肩部が「ラグビーボールの横断面様の横長の
稜部を形成し」(1頁下5行)ていることを共通点の認定に含めたことにつ
いて,本願意匠はラグビーボールより約10%細身の楕円状であるのに対し
て,引用意匠は約11%太めの楕円状であるから,上記共通点の認定は誤りで
あると主張する。
しかしながら,審決での「ラグビーボールの横断面様」との表現は,その
直前の,「上面視において肩部先端が,前後に緩やかな凸弧状に膨出し,左
右両側が先尖状の」(1頁下6~5行)という摘示を受けたものである。そ
して,この文脈によれば,審決は,本願意匠と引用意匠のいずれも,容器本
体の肩部先端を上面視すると,前後に同形で左右に対称の,全体にわたり曲
率をほぼ同じくする円弧状を成しており,左右両側にはこの前後の円弧状の
両端がそのまま突き合わさって形成された尖りが見られることについて,こ
のような形状の一般的な共通性を,「ラグビーボールの横断面様の」(下線
は本判決が付加)として比ゆ的に表現したものであると解される。
そして,原告が指摘する前後幅と左右幅との比率の相違については,審決
は,差異点(イ)の項で,「本願意匠は肩部の前後幅が引用意匠より狭く,…
…引用意匠は肩部の前後幅がやや広く,……」(2頁6~8行)として認定
しているのであるから,差異点の判断において検討されているものである。
したがって,審決が,容器本体の肩部が「ラグビーボールの横断面様の横
長の稜部を形成し」ていることを共通点の認定に含めたことに誤りはなく,
共通点の認定の誤りに起因する差異点の看過があるとの原告の主張も理由が
ない。
(2)容器本体の下端形状の認定につき
原告は,審決が,容器下端が「前後左右でさほど幅差のない円形状」
(1頁下2行)であることを共通点に含めた点に対し,本願意匠の容器下端
は真円状であるのに対し,引用意匠は長径が短径より約10%長い楕円状であ
るから,両者の形状には相違があり,共通点ではなく差異点として認定すべ
きであったと主張する。
しかしながら,両者の形状に原告主張の相違があることについても,審決
は,差異点(イ)の認定において,「引用意匠は……,底面が僅かに横長楕円
で」(2頁7~8行)として認定している。また,上記共通点の認定におい
ても,「前後左右でさほど幅差のない円形状」(下線は本判決が付加)と表
記していることは,引用意匠の容器下端が横長楕円状であることを認識した
上でのものであると解される。
そして,引用意匠が横長楕円状であるとはいっても,長径が短径よりわず
か約10%長いというのにすぎない。意匠の把握は,物品の形状を視覚を通じ
て普通に観察することによってなされるべきものであるところ,本願意匠及
び引用意匠を普通に観察すれば,その容器下端の形状としては,容器肩部に
見られる尖りが解消されて両側部分が円周状の緩やかな凸弧状をなし,か
つ,容器肩部に見られる長径(左右幅)と短径(前後幅)との相違が解消さ
れて真円又はこれに近い形状のものとなっていることが看取されるというべ
きである。そして,審決は,容器肩部から容器下端に至る造形の流れとし
て,このような本願意匠及び引用意匠に共通する形状を,「肩部先端が,…
…ラグビーボールの横断面様の横長の稜部を形成し,………これから下方に
向けて,横断面が漸次円形に変化する態様の,………筒状の胴部を形成し,
下端を,前後左右でさほど幅差のない円形状として閉じた」(1頁下6~2
行)と表現しているのであり,かかる共通点の認定に誤りはない。また,上
記のとおり,引用意匠の容器下端の形状が厳密にいえば横長楕円状であるこ
とは,審決の差異点(イ)の検討において考慮されているのであるから,共通
点の認定を誤った結果差異点を看過した,ということもできない。
したがって,審決が,容器下端が「前後左右でさほど幅差のない円形状」
であることを共通点の認定に含めたことに誤りはない。
(3)上記(1),(2)のとおり,審決の共通点の認定に誤りがあるとする原告の
主張にはいずれも理由がないから,共通点の認定の誤りに起因する差異点の
看過があるとの原告の主張にも理由がない。
3取消事由2(差異点の評価判断の誤り)について
(1)差異点(イ)につき
ア差異点(a),(b)について
(ア)原告は,容器の肩部が細身か太めかの相違(差異点(a)),容器の
下端形状が真円状か楕円状かの相違(差異点(b))が,本願意匠と引用
意匠との間に「一見して厚みのない扁平筒感」か「一見して厚みのある
円筒感」の印象差を与えており,基本的形態に顕著な相違があるといえ
るもので,これを適正に評価していない点において審決は誤りであると
主張する。
しかしながら,以下のとおり,原告の上記主張は採用することができ
ない。
(イ)確かに,両意匠の平面図を並べて比較すれば,本願意匠は引用意匠
より肩部の前後幅が狭く,肩部の厚みに差がある。しかし,本願意匠も
引用意匠と同様,肩部先端は,キャップ下端から前後方向に張り出し,
ほぼ水平な環状の明瞭な稜部を形成しており,当該稜部はラグビーボー
ルの横断面様の形状を呈しているから,肩部の前後幅がキャップ径に比
べて広く,厚みがあることがまず看取できる。この種の包装用容器・瓶
においては,肩部がキャップ径に対して前後方向にほとんど張り出して
いない扁平な形態も普通にみられるものであるから(意匠登録第852130
号〔乙2〕,同第522569号〔乙4〕,同第899671号〔乙5〕,同第
570262号〔乙7〕参照),これらの例と比較すれば,本願意匠が「厚み
のない扁平筒感」を与えるものということはできない。
そして,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察すれば,容器の肩部
が,「前後に緩やかな凸弧状に膨出し,左右両側が先尖状の,ラグビー
ボールの横断面様の横長の稜部」,すなわち同形の劣弧が前後に向き合
った形状の稜部を,ほぼ横水平に形成していることが基本形態としてま
ず看取でき,本願意匠と引用意匠との間にみられる肩部の前後幅(厚
み)の差は,かかる基本形態の中でみられる寸法差であるにとどまり,
全体としては共通する構成態様の中における二次的な寸法比率の違いに
すぎないというべきである。しかも,容器の肩部がラグビーボールの横
断面様の横長の稜部を形成している包装用容器の意匠において,長径
(左右幅)と短径(前後幅)との寸法比率には様々のものがあり,本願
意匠の寸法比率自体も本件出願前から普通にみられる程度のものである
と認められる(意匠登録第522569号〔乙4〕,同第899671号〔乙5〕,
同第1057108号〔乙6〕,同第1051498号〔甲11〕参照)。そうすると,
原告が差異点(a)及び(b)に係る形態によってもたらされると主張する
本願意匠の「厚みのない扁平筒感」は,本願意匠独自の特徴であるとい
うことはできず,この点における引用意匠との相違は,両意匠に別異の
美感を生じさせるほどの顕著な相違とはいえない。
また,底面(容器下端)の形状が,本願意匠では真円状であり引用意
匠では楕円状であるとの相違(差異点(b))も,引用意匠における楕円
の長径と短径との比が1.1倍程度にすぎないところからすれば,容器を
逆さまにして底面形状に着目することによって初めて認識できる程度の
微差にとどまるといわざるを得ない。さらに,容器下端の形状が真円状
である形態も,ボトル型の包装用容器の意匠において本件出願前から普
通に見られるものであると認められる(意匠登録第522569号〔乙4〕,
同第869526号〔甲6〕参照)。そうすると,差異点(b)は,それ自体と
しても,本願意匠独自の特徴であるということはできない。
以上のとおり,差異点(a),(b)は,本願意匠と引用意匠とに共通す
る基本的形態(「ラグビーボールの横断面様」,「前後左右でさほど幅
差のない円形状」)の中における,寸法比率の微差にすぎず,原告の主
張するような「基本的形態における顕著な相違」であるということはで
きない。そうすると,差異点(a),(b)に係る差異は,格別看者の注意
を引くものではなく,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものにと
どまるということになる。
イ差異点(c)につき
(ア)側面視において,本願意匠は上方から下方に向かって徐々に拡開す
る形態であるのに対して,引用意匠は同径のストレートな形態であると
の相違(差異点(c))について,原告は,差異点(c)も,基本的形態に
おける顕著な相違であって,これによってもたらされる本願意匠の基本
的形態(見る位置によってその外径ラインが形成する拡開方向が上下全
く逆になる形態)は本願意匠の要部であるにもかかわらず,審決が,引
用意匠との「共通点が形成する全体のまとまりを覆すまでのものとは認
められず,結局これに吸収される程度の差異といわざるを得ない」(2
頁下から16行~14行)と判断したのは誤りであると主張する。
しかしながら,以下のとおり,原告の上記主張も採用することができ
ない。
(イ)本願意匠の差異点(c)に係る形状,すなわち,容器の前面・後面の
中央の縦方向のライン(母線)が下方に向けて拡開する形状は,包装用
容器・瓶においては,本件出願前に普通に見られるものであると認めら
れる(意匠登録第1022869号〔乙1〕,同第852130号〔乙2〕,特開平
7-101442の図2〔乙3〕参照)。また,原告は,本願意匠において,
正面視は下窄まり状である一方で,側面視は逆に下拡がり状となってい
るという組み合わせが特徴的であって,かかる基本的形態は本件出願前
には見られないものであり,特に看者の注意を強く惹きつける本願意匠
の要部となっていると主張する。しかし,ボトル型の包装用容器におい
て,正面視が下窄まり状で側面視が下拡がり状である形態も,本件出願
前から普通に見られるものであると認められ(意匠登録第522569号〔乙
4〕,同第899671号〔乙5〕,同第1057108号〔乙6〕,同第570262号
〔乙7〕参照),特に新たな特徴とはいえない。
そして,視覚の上でも,本願意匠の正面・背面の中央における母線の
傾斜角度は顕著なものでなく,この種の容器において普通にみられる程
度のものにすぎないと認められ(意匠登録第1022869号〔乙1〕,同第
852130号〔乙2〕,特開平7-101442号〔乙3〕の図2,意匠登録第
522569号〔乙4〕,同第899671号〔乙5〕参照),引用意匠の正面・背
面の中央の母線が鉛直状であるのと比較しても,両者間の相違はさほど
大きいものでない。他方,本願意匠と引用意匠を全体としてみれば,容
器肩部をラグビーボールの横断面様の横水平の稜部とし,容器下端をほ
ぼ真円に近いものとし,その間の胴部周面を特別の凹凸構成や面取りの
ない母線を直線状とする平坦状な筒状とした点において,両意匠の間に
は強い共通性が認められるのであるから,母線の傾斜角の相違に係る差
異点(c)は,この共通性を打ち消して両意匠に別異の美感を生ぜしめる
ほどの相違とはいえない。
(ウ)原告は,差異点(c)について,本願意匠では見る方向によって外径
ラインが変化するのに対し,引用意匠では変化しないとしている。しか
し,引用意匠においても,左右両側面の母線は下方向に向けて縮閉する
傾斜を有しているのに対し,正面・背面の中央の母線は鉛直状であるか
ら,その間の周面では,構造上,母線の傾斜角度が漸次変化しており,
引用意匠においても,見る方向によって外径ラインが変化するというこ
とができる。
したがって,見る方向による外形ラインの変化の有無においても,本
願意匠と引用意匠が基本的形態において顕著な相違を有しているという
ことはできない。両意匠の相違は,見る方向によって外径ラインが変化
するという共通の特徴の中で,特定箇所のライン,即ち,正面・背面の
中央の母線の傾斜角度の差にとどまる,というべきである。
ウ以上のとおり,差異点(イ)に係る審決の判断が誤りであるとする原告の
主張は,原告が差異点(a),(b)として主張した点も含めて,いずれも理
由がなく,審決が差異点(イ)について,「全体としてみれば,キャップを
含めての両意匠の全体に亘る前記共通点が形成する全体のまとまりを覆す
までのものとは認められず,結局これに吸収される程度の差異といわざる
を得ない。」(2頁下17~14行)とした判断に誤りはない。
(2)差異点(ロ)について
原告は,胴部両側に表された小さい楕円の列,即ち「小突起群」の有無
が,本願意匠の「凹凸面感」と引用意匠の「フラット面感」という印象の相
違を与えており,これは具体的形態における明らかな相違であるから,その
類否判断に与える影響は微弱であるとした審決の判断は誤りであると主張す
る。
しかしながら,差異点(ロ)に係る小さい楕円の列は,本件出願当時,包装
用容器において普通に見られる形態処理であると認められる。すなわち,平
成12年10月31日日本規格協会発行の「JISS0021:2000高齢者・障害者配
慮設計指針-包装・容器」(乙9)には,「シャンプーとリンスの識別には
先に使用するシャンプーの容器にだけぎざぎざ状の触覚記号を付ける」(2
頁)と記載され,「図4」として,容器の胴部側面に小さい楕円の列を設け
たものが図示されており(3頁),「4.2.3シャンプー/リンスの識別」
の項に「最初の製品は1991年から市販された」(7頁)との記載もある。ま
た,包装用容器の胴部側面に小突起群を設ける例は,実開平7-28058号の
図2(乙10),特開2001-10683号の図2(乙11),意匠登録第984604号
(乙12),同第957388号(乙13),同第958398号(乙14)のように,本件出
願前に普通にみられるところである。このように,本願意匠の小突起群は,
包装用容器においてありふれた形状であると認められるから,看者の格別な
注意を引きつけ,特別な美感を与えるものとはいえない。
そして,形態全体に及ぼす影響の面から検討しても,図面上は実線で明確
に表現されているものの,実際は表面が僅かに小さく隆起する程度にすぎな
いのであるから,審決が,「楕円も極小さく,また凸状であるとしても極低
く,形態全体への影響が弱く,また………特徴としても大きく評価できず,
類否判断に及ぼす影響は微弱である。」(2頁下14~10行)とした判断に誤
りはない。
よって,差異点(ロ)に係る原告の主張も採用することはできない。
(3)以上のとおり,本願意匠と引用意匠の差異点は,いずれも,看者に与え
る美感の点では微細な差異を生じるにとどまるものか,あるいは,本願意匠
の出願前に普通にみられるありふれた態様のものにすぎないものである。そ
うすると,結局,本願意匠には,引用意匠と比較したとき,審決の認定した
基本的構成態様の共通点に由来する全体的な美感の共通性をしのぐに足る,
看者の注目を引くほどの特徴は見いだせないといわざるを得ない。
4結語
以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

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