弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人池本美郎の上告理由のうち、地方公務員法二八条四項、一六条二号が
憲法一三条、一四条一項に違反し、香川県職員退職手当条例(昭和二九年香川県条
例第三八号。以下「条例」という。)六条一項二号が憲法一三条、一四条一項、二
九条一項に違反する旨をいう点について
 地方公務員法二八条四項、一六条二号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公
務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれ
るのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそ
れがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住
民の信頼を確保することを目的としているものである。地方公務員は、全体の奉仕
者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法一五条二項、地方公務員
法三〇条)、また、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉とな
るような行為をしてはならない義務がある(同法三三条)など、その地位の特殊性
や職務の公共性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の
実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照ら
せば、地方公務員法二八条四項、一六条二号の前記目的には合理性があり、地方公
務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別
したものとはいえず、右各規定は憲法一三条、一四条一項に違反するものではな
い。このことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三一年(あ)第六三五号同三三
年三月一二日判決・刑集一二巻三号五〇一頁、最高裁昭和三七年(オ)第一四七二
号同三九年五月二七日判決・民集一八巻四号六七六頁)の趣旨に徴して明らかであ
る(最高裁昭和六二年(行ツ)第一一九号平成元年一月一七日第三小法廷判決・裁
判集民事一五六号一頁参照)。
 また、禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法二八条四項の規定により失職
した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例六条一項二号は、禁錮
以上の刑に処せられた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般
に対する住民の信頼を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだ
けの公務への貢献を行わなかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないも
のとすることにより、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に
対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。前記のような地方
公務員の地位の特殊性や職務の公共性、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制
度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに
加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が地方公務員が退職した場合にその
勤続を報償する趣旨を有するものであることに照らせば、条例六条一項二号の前記
目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制限は右目的に照らして必要か
つ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差
別したものとはいえないから、同号が憲法一三条、一四条一項、二九条一項に違反
するものでないことは、当裁判所の前記各大法廷判決の趣旨に徴して明らかであ
る。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用するこ
とができない。
 その余の上告理由について
 右上告理由は、違憲をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張す
るものであって、民訴法三一二条一項又は二項に規定する事由に該当しない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷
利廣)

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