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平成20年2月21日判決言渡
平成19年(行ケ)第10175号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年1月17日
判決
原告東海光学株式会社
訴訟代理人弁護士高橋譲二
同川崎修一
訴訟代理人弁理士石田喜樹
同園田清隆
被告HOYA株式会社
訴訟代理人弁護士吉澤敬夫
同牧野知彦
訴訟代理人弁理士岩田弘
同新井全
同岡崎信太郎
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80162号事件について平成19年4月12日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成4年9月24日にした特許出願(特願平4−255018
号。以下「原出願1」という。)の一部を分割して平成12年3月29日に
特許出願(特願2000−91821号。以下「原出願2」という。)を
し,更にその一部を分割して,平成15年5月7日に発明の名称を「眼鏡レ
ンズの供給システム」とする発明につき特許出願(特願2003−1288
89号。以下「本件出願」という。)をし,同年12月12日,特許第35
02383号として特許権の設定登録(設定登録時の請求項の数1。以下,
この特許を「本件特許」という。)を受けた。
これに対し原告から本件特許について無効審判請求(無効2005−80
162号)がされ,特許庁は,平成18年2月10日,「特許第35023
83号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以
下「第1次審決」という。)をした。
被告は,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁平成18
年(行ケ)第10121号)を提起した後,同年4月28日,訂正審判請
求(訂正2006−39066号)をした。
知的財産高等裁判所は,同年6月2日,特許法181条2項に基づき,事
件を審判官に差し戻すため,第1次審決を取り消す旨の決定をした。
被告は,差戻し後の無効審判事件について審理が開始された後である同年
12月27日,本件特許に係る特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正の
請求(以下「本件訂正」という。)をした。なお,本件訂正により,特許法
134条の3第4項に基づき,上記訂正審判請求は取り下げられたものとみ
なされた。
そして,特許庁は,平成19年4月12日,「訂正を認める。本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
その謄本は同月18日原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以
下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。下線部は訂正部分であ
る。)。
「【請求項1】ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくとも
ヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと,この発注側コンピュ
ータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを有する,製造側
において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加
工済眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータは,所
定の入力操作により,ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う
機能を有するものであり,前記入力操作とは,所望の眼鏡フレームを3次
元的フレーム形状測定器で測定し,その3次元測定形状データである測定
データから,眼鏡枠周長,眼鏡枠瞳孔間距離,眼鏡枠の縦サイズ横サイ
ズ,及びフレームセンターをそれぞれ計算処理して得た3次元的眼鏡枠形
状情報と,眼鏡枠材質情報とを含む眼鏡フレーム枠情報を入力するステッ
プを有することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。」
3審決の内容
本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,①本件発明は,本件出願の出願日前の他の出願であっ
て,本件出願の出願後に出願公開されたもの(特願平4−54214号)の
願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはい
えない,②本件出願は,原出願1及び原出願2との関係で,分割出願の要件
を満たすので,これを満たさないことを前提に,本件発明は当業者が容易に
発明をすることができたとの請求人(原告)の主張は採用することができな
い,③本件発明は,特開昭59−93420号公報(以下「刊行物4」とい
う。甲4),特開平4−13539号公報(以下「刊行物5」という。甲
5),特開昭58−196407号公報(以下「刊行物6」という。甲6)
に記載された発明,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものではない,というものである。
なお,本件審決は,上記③の判断の前提として,本件発明と刊行物4に記
載された発明(以下「刊行物4発明」という。)とを対比し,以下のとおり
の一致点及び相違点を認定した。
(一致点)
「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュ
ータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを有する眼鏡レンズ
の供給システムであって,前記発注側コンピュータは,所定の入力操作によ
り,眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有するものであり,前記入
力操作とは,眼鏡枠瞳孔間距離,眼鏡枠の縦サイズ横サイズ,及びフレーム
センターを含む眼鏡枠形状情報と,眼鏡枠材質情報とを含む眼鏡フレーム枠
情報を入力するステップを有することを特徴とする眼鏡レンズの供給システ
ム。」である点。
(相違点1)
本件発明では,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加
工が行われるのに対し,刊行物4発明では,そのような限定がされていない
点。
(相違点2)
眼鏡レンズの供給システムにより供給される眼鏡レンズが,本件発明で
は,ヤゲン加工済眼鏡レンズであるのに対し,刊行物4発明では,使用する
眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズに留まり,ヤゲン加工済との限
定がない点。
(相違点3)
発注側に設置されたコンピュータが,本件発明では,少なくともヤゲン情
報を送信する機能を備えるのに対して,刊行物4発明では,その限定がされ
ていない点。
(相違点4)
本件発明では,所望の眼鏡フレームを3次元的フレーム形状測定装置で測
定するのに対し,刊行物4発明では,その限定がされていない点。
(相違点5)
発注及び製造の対象となる眼鏡レンズが,本件発明では,ヤゲン加工済眼
鏡レンズであるのに対して,刊行物4発明では,使用する眼鏡枠に最も適し
た肉厚を有する眼鏡レンズに留まり,ヤゲン加工済との限定がない点。
(相違点6)
発注側コンピュータが,所定の入力操作により入力される眼鏡枠形状情報
について,本件発明は,3次元測定形状データである測定データから,眼鏡
枠周長,眼鏡枠瞳孔間距離,眼鏡枠の縦サイズ横サイズ,及びフレームセン
ターをそれぞれ計算処理して得た3次元的眼鏡枠形状情報であるのに対し
て,刊行物4発明は,眼鏡枠瞳孔間距離,眼鏡枠の縦サイズ横サイズ,及び
フレームセンター等の眼鏡枠形状情報である点。
(相違点7)
本件発明の対象は,ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであるのに対
し,刊行物4発明の対象は,使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡
レンズの供給システムである点。
第3当事者の主張
1本件審決の取消事由に関する原告の主張
前記第2の3記載の本件審決の①及び②の判断は争わない。
しかし,本件審決は,本件発明と刊行物4発明との間の相違点1ないし
3,5,7の認定を誤り(取消事由1),更に相違点1ないし3,5ないし
7の容易想到性の判断を誤り(取消事由2),その結果,当業者が容易に本
件発明をすることができたものではないとの誤った判断(前記第2の3記載
の審決の③の判断)をした違法がある。
(1)取消事由1(相違点1ないし3,5,7の認定の誤り)
刊行物4発明は,以下のとおり,本件審決にいう相違点1ないし3,
5,7に係る本件発明の構成をいずれも備えているから,上記各相違点は
一致点と認定すべきであったのに,本件審決が,これらを相違点と認定し
たのは誤りである。
ア刊行物4(甲4)には,「ラボ方式」につき「視力検定医(optometris
t)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方
値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造
工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行い,完成品を視力検定
医へ送付する方式」(2頁左上欄4行∼9行),「本発明」につき「さ
て,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適し
たレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に
依る方法と何ら変るところはない」(3頁左下欄13行∼16行)との
記載がある。
そして,刊行物4の上記記載に接した当業者であれば,刊行物4記載
の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側において手元に眼鏡フレーム
がない状態で,レンズ肉厚の決定のほか,「枠入れ加工」すなわち「ヤ
ゲン加工」を行っていることを読み取ることができる。また,刊行物4
の上記記載は,たとえレンズ肉厚のみに関する記載であったとしても,
当業者が客観的にヤゲン加工に関する記載として把握することも可能で
ある。このように刊行物4には,製造側においてヤゲン加工が行われる
ことについてまで開示ないし示唆されている。
したがって,刊行物4発明は,「製造側において手元に眼鏡フレーム
がない状態でヤゲン加工が行われること」(相違点1に係る本件発明の
構成),「眼鏡レンズの供給システムにより供給される眼鏡レンズがヤ
ゲン加工済眼鏡レンズであること」(相違点2に係る本件発明の構
成),「発注及び製造の対象となる眼鏡レンズがヤゲン加工済眼鏡レン
ズであること」(相違点5に係る本件発明の構成),「発明の対象がヤ
ゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであること」(相違点7に係る本
件発明の構成)のいずれの構成も備えている。
また,刊行物4(甲4)には,眼鏡枠に関する情報を把握してレンズ
製造工場に伝える点が明示されていること(2頁右下欄2行∼3頁左上
欄15行)を考え合わせると,ヤゲン加工に係る構成を備えた刊行物4
発明においても,当然ヤゲン情報(としての眼鏡枠の形状情報等)が発
注側コンピュータによって製造側に送信されているといえるから,「発
注側に設置されたコンピュータが少なくともヤゲン情報を送信する機能
を備えること」の構成(相違点3に係る本件発明の構成)を備えてい
る。
イ以上によれば,本件審決がした相違点1ないし3,5,7の認定は,
いずれも誤りである。
(2)相違点1ないし3,5ないし7の容易想到性の判断の誤り(取消事由
2)
ア相違点6の容易想到性
本件審決は,相違点6につき,「刊行物6には,眼鏡フレームに合致
するレンズを加工する際に,眼鏡フレーム枠の周長,本件発明でいう「
眼鏡枠周長」の情報が有用であることが開示されている」(審決書35
頁末行∼36頁2行)としながら,刊行物4発明がレンズ製造工場で枠
入れ加工(ヤゲン加工)しないことを前提として,「刊行物6に記載さ
れた技術思想又は発明を刊行物4発明に適用する動機付けがない」(同
36頁11行∼12行)ので,相違点6に係る本件発明の構成(「発注
側コンピュータが,所定の入力操作により入力される眼鏡枠形状情報
は,3次元測定形状データである測定データから,眼鏡枠周長,眼鏡枠
瞳孔間距離,眼鏡枠の縦サイズ横サイズ,及びフレームセンターをそれ
ぞれ計算処理して得た3次元的眼鏡枠形状情報であること」)は,「当
業者が容易に想到し得るとすることはできない。」(同36頁13行∼
14行)と判断した。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物4発明がレンズ製造工場でヤゲン加
工を行わないとする本件審決の認定は誤りであり,この誤った認定を前
提にした,本件審決の相違点6の容易想到性の判断も誤りである。
イ相違点1ないし3,5ないし7の容易想到性
本件審決は,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件発明の構成
は,「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」と判断した
が(審決書34頁28行∼29行,35頁12行∼13行,36頁13
行∼14行),以下のとおり誤りである。
(ア)本件審決は,「なお,刊行物5(特開平4−13539号公報)
には,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コン
ピュータからの眼鏡枠形状データに基づいて,レンズの形状加工する
点が記載されているが,レンズのヤゲン加工まで行う点は明記されて
いない。」(審決書34頁21行∼24行)と認定したが,以下のと
おり誤りである。
すなわち,刊行物5(甲5)には,「玉摺機の構成は,前記した特
願昭60−115079号に開示のそれと同様の構成を有しているの
で説明は省略する。」(4頁左上欄20行∼右上欄3行)との記載が
あり,上記記載部分に引用された特願昭60−115079号に係る
公開特許公報である特開昭61−274859号公報(本件審判の参
考資料9・本訴甲14)には,ヤゲン加工に関する事項が多数開示さ
れている(1頁左欄4行∼10行,2頁左下欄3行∼6行等)。
したがって,刊行物5には,製造側において手元に眼鏡フレームが
ない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいて
ヤゲン加工まで行う技術が記載されているといえる。この技術が刊行
物5に明記されていないとの本件審決の上記認定は誤りである。
(イ)そして,仮に刊行物4に製造側において手元に眼鏡フレームがな
い状態でヤゲン加工まで行う技術が開示されていないとしても,当業
者であれば,刊行物4に,刊行物5記載の上記(ア)の技術を適用し
て,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件発明の各構成を容易に
想到し得たものである。
したがって,本件発明の上記各構成は「当業者が容易に想到し得る
とすることはできない」との本件審決の判断は誤りである。
2被告の反論
()取消事由1に対し1
刊行物4(甲4)には,レンズ製造工場は,眼鏡店から伝えられた眼鏡
枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう所
定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造する役割を担う
にとどまり,供給されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工を行うの
は,眼鏡店であることを前提とした発明のみが記載されており,本件発明
のような「製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が
行われるヤゲン加工済眼鏡レンズ供給システム」が開示ないし示唆されて
いるとはいえない。この点は,本件特許の関連特許に関する審決取消訴訟
の判決(知財高裁平成19年1月31日判決・平成18年(行ケ)第10
124号事件)が認定するとおりであり,これと同様の本件審決の認定に
誤りはない。
したがって,相違点1ないし3,5,7についての本件審決の認定の誤
りをいう原告の主張は,理由がない。
()取消事由2に対し2
ア相違点6の容易想到性に対し
刊行物6(甲6)は,眼鏡枠周長の専用測定装置であるが,本件発明
のように,3次元の枠形状データに基づいて,この3次元の座標値から
眼鏡枠周長を測定するのではなく,3次元の枠形状が2次元サイズに投
影され縮小された状態での周長を測定するものにすぎず,その機能は2
次元周長測定装置であるから,刊行物6には,本件発明でいう「眼鏡枠
周長」の情報が有用であることが開示されているとはいえない。
また,前記()のとおり,刊行物4に,本件発明のような「製造側にお1
いて手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工
済眼鏡レンズ供給システム」が開示ないし示唆されているとはいえな
い。したがって,相違点6の容易想到性についての本件審決の判断の誤
りをいう原告の主張は失当である。
イ相違点1ないし3,5ないし7の容易想到性に対し
原告は,刊行物5(甲5)にレンズ製造側でヤゲン加工を行う発明が
記載されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,刊行物5には,単に別の公知例(甲14)が記載されてい
るにすぎず,刊行物5自体に上記発明が記載されているわけではない。
したがって,刊行物5に,「レンズのヤゲン加工まで行う点は明記され
ていない」とした本件審決の認定に誤りはない。
また,仮に刊行物5に原告が主張するような技術内容が記載されてい
るとしても,刊行物4発明は「レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えら
れた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚と
なるよう所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造す
るにとどまり,製造されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工は,眼
鏡店,すなわち「発注側」において行うことが予定されている」発明で
あること,刊行物4(甲4)には,枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)
を眼鏡店から奪う形となる技術を導入することを否定する記載(2頁左
下欄12行∼16行)すら存在することに照らすならば,刊行物4発明
に,原告が主張する刊行物5の技術内容を組み合わせることには,阻害
事由があるといえる。
ウ以上によれば,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件発明の構成
は「当業者が容易に想到し得るとすることはできない」との本件審決の
判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1ないし3,5,7の認定の誤り)について
(1)原告は,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側において
ヤゲン加工までが行われることを根拠に,刊行物4発明は,相違点1ない
し3,5,7に係る本件発明の構成をいずれも備えているので,本件審決
の上記各相違点の認定に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア原告は,刊行物4(甲4)には,「視力検定医(optometrist)が,レ
ンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置
情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於
いてレンズの製造から枠入れ加工まで行い,完成品を視力検定医へ送付
する方式で・・・ラボ方式と呼ばれている。」(2頁左上欄4行∼10
行),及び「本発明」(刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システム)に
ついて「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠
に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来の
ラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」(3頁左下欄13行∼1
6行)との記載があることから,刊行物4の上記記載に接した当業者で
あれば,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側におい
て手元に眼鏡フレームがない状態で,レンズ肉厚の決定のほか,「枠入
れ加工」すなわち「ヤゲン加工」を行っていることを理解し,把握する
ことができると主張する。
イしかし,原告の上記主張は,失当である。
(ア)刊行物4(甲4)には,以下の記載がある。
a特許請求の範囲として,「(1)レンズの処方値と,レンズの種類
と,使用する眼鏡枠の種類と形状についての情報と及び該眼鏡枠内
に於けるレンズ処方値の位置情報とを眼鏡店頭に於いて把握し,レ
ンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場ではその情報を基に該眼鏡枠
に適したレンズ肉厚を決定し,該レンズを製造,供給する眼鏡レン
ズの供給方法。」(1頁左下欄5行∼13行)
b「本発明は眼鏡レンズの供給方法に関し,各々の眼鏡装用者の使
用する眼鏡枠の種類及び形状に対し,最適な肉厚を有する眼鏡レン
ズを提供することを目的とする。現在,世界各国に於いて,眼鏡レ
ンズを供給する方式は大別して2つの方式に分類される。1つは眼
鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場,若しくはレンズ問
屋に伝え,縁摺り加工をしていない生地のレンズを入手し,眼鏡店
に於いて使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し,完成させる方式で,
日本,東南アジア,ヨーロッパ等で主に用いられており,アンカッ
ト方式と呼ばれている。他の1つは,・・・ラボ方式と呼ばれてい
る。」(1頁右下欄11行∼2頁左上欄10行)
c「少なくともラボ方式に於いては,使用する眼鏡枠の種類や形状
について,レンズ製造工場側が把握しており,その眼鏡枠に最も適
した厚みを有する眼鏡レンズを準備しうる点に於いて,アンカット
方式と決定的に異なる。・・・ラボ方式では・・・使用する眼鏡枠
の種類や形状について,レンズ工場側が把握しており,各々の眼鏡
枠に対し,最も適した厚みを有する眼鏡レンズを製造することが出
来る。」(2頁左上欄16行∼左下欄9行)
d「ところが,ラボ方式に於いては,高価なフレームの輸送という
工程がある為,破損や遺失による大きなリスクを伴なうという欠点
がある。又,例えば現在の日本国内の様にアンカット方式が主流で
ある市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼
鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪
う形となり,容認され難いであろう。」(2頁左下欄9行∼16
行)
e「この点に鑑み,本発明は従来には無かった全く新しい発想に依
り,アンカット方式が主流の市場にあってもラボ方式の長所を有
し,前述の欠点を全て除去した全く新しい眼鏡レンズ供給方法を提
供しようとするものである。」(2頁左下欄17行∼右下欄1行)
f「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠
に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従
来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない。即ち,眼鏡枠内
に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値と
なるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与え
る表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨することにより,所望のレ
ンズが得られるのである。」(3頁左下欄13行∼右下欄1行)
(イ)他方,刊行物4の他の箇所の記載をみても,刊行物4記載の眼鏡
レンズの供給システムにおいて,眼鏡店からレンズ製造工場に対し「
ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状に係る情報が伝えられたり,レン
ズ製造工場で枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)が行われることにつ
いての具体的な記載や,これらを示唆する記載もない。
(ウ)以上を総合すると,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システ
ム(「本発明」)は,「現在の日本国内の様にアンカット方式が主流
である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼
鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う
形となり,容認され難い」という明確な思想に基づいて,レンズ製造
工場において,レンズの製造から枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)
まで行ってヤゲン加工済みの眼鏡レンズを製造するラボ方式そのもの
を採用するのではなく,ラボ方式の長所の一つである「使用する眼鏡
枠に最も適したレンズ肉厚」を有する眼鏡レンズを製造することを採
り入れることを目的とした発明であると理解できる。すなわち,レン
ズ製造工場では,眼鏡店から伝えられたレンズの処方値,レンズの種
類,使用する眼鏡枠の種類・形状等の情報に基づいて「眼鏡枠内に於
いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるよ
うなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形
状にレンズを荒摺,砂掛,研磨すること」までを実施し,眼鏡店にお
いて大きな比重を占めている枠入れ加工工程を眼鏡店から奪うことが
ないよう,形枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)は行わないものと解
するのが自然である。
ウ上記イの認定に照らすならば,刊行物4に接した当業者が,刊行物4
記載の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側において手元に眼鏡フレ
ームがない状態で,「枠入れ加工」すなわち「ヤゲン加工」を行ってい
ると理解し,把握することができるとの原告の主張は,採用することが
できない。
(2)以上によれば,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側に
おいてヤゲン加工までが行われることを前提に,本件審決の相違点1ない
し3,5,7についての認定の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠く
ものであって,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点1ないし3,5ないし7の容易想到性の判断の誤り)
について
(1)相違点6の容易想到性の有無
原告は,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側において
ヤゲン加工までが行われるものであるにもかかわらず,本件審決が,刊行
物4発明がレンズ製造工場で枠入れ加工(ヤゲン加工)しないことを前提
として,刊行物6に記載された技術思想又は発明を刊行物4発明に適用す
る動機付けがないとして,相違点6に係る本件発明の構成(「発注側コン
ピュータが,所定の入力操作により入力される眼鏡枠形状情報は,3次元
測定形状データである測定データから,眼鏡枠周長,眼鏡枠瞳孔間距離,
眼鏡枠の縦サイズ横サイズ,及びフレームセンターをそれぞれ計算処理し
て得た3次元的眼鏡枠形状情報であること」)は,当業者が容易に想到し
得たものではないと判断したのは誤りである旨主張する。
しかし,前記1(1)のとおり,刊行物4発明がレンズ製造工場でヤゲン加
工を行うものではないとした本件審決の認定に誤りはなく,相違点6の容
易想到性についての本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提
において失当である。
(2)相違点1ないし3,5ないし7の容易想到性の有無
原告は,刊行物5には,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態
で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工ま
で行う技術が記載されているから,この技術が刊行物5に明記されていな
いとの本件審決の認定は誤りであり,刊行物4に,刊行物5記載の上記技
術を適用して,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件発明の各構成を
容易に想到し得たといえるから,当業者が本件発明の上記各構成を容易に
想到し得たものではないとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
アまず,そもそも,刊行物5における「玉摺機の構成は,前記した特願
昭60−115079号に開示のそれと同様の構成を有している」との
記載及び特願昭60−115079号に係る特開昭61−274859
号公報(甲14)の記載により,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工システ
ムで使用される製造側(加工センター)の玉摺機においてヤゲン加工が
可能であることを示唆していると判断できるか否かにかかわらず,本件
発明は,刊行物4発明に刊行物5の記載事項を組み合わせることによっ
て容易に発明をすることができるとはいえない。
すなわち,前記1(1)イ(ウ)認定のとおり,刊行物4発明は,「現在の
日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導
入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めてい
る工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難い」という明確
な思想に基づいて,レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられたレンズ
の処方値,レンズの種類,使用する眼鏡枠の種類・形状等の情報によ
り「眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所
定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を
与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨すること」までを実施し,
眼鏡店において大きな比重を占めている枠入れ加工工程を眼鏡店から奪
うことがないよう,形枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)は行わない発
明であるから,仮に上記のような示唆が認められたとしても,当業者
が,刊行物4発明において製造側でヤゲン加工まで行う構成を採用しよ
うとするものとは考え難く,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件
発明の各構成を容易に想到し得たものとは認められない。
イのみならず,刊行物5に,製造側において手元に眼鏡フレームがない
状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン
加工まで行う技術が記載されていることを前提とする原告の主張も,以
下のとおり,その前提を欠くので採用することができない。
(ア)刊行物5(甲5)の記載
刊行物5(甲5)には,次のような記載がある。
a「(発明が解決しようとする課題)・・・近年,眼鏡店のチェー
ン化が進み,各眼鏡店舗には眼鏡フレーム形状測定装置のみを設置
し,複数台の玉摺機を1つの加工センターに配置して,これらをコ
ンピュータと公衆通信回線網で接続するネットワーク化が要求され
るようになった。このネットワーク化においては,以下の問題点が
ある。
①各眼鏡店舗に設置された眼鏡フレーム形状測定装置にはそれ固有
の測定誤差がある。
②加工センターに配置された複数の玉摺機にもそれぞれ固有の加工
誤差がある。
③ある眼鏡店舗の眼鏡フレーム形状測定装置で測定した眼鏡フレー
ムの測定データがコンピュータと公衆通信回線網で転送接続される
玉摺機は,常に特定の1台とは限らず,変化する。
そして,これらの誤差等の発生に対応して,個々の眼鏡フレーム
形状測定装置の測定誤差や玉摺機の加工誤差を知り,眼鏡フレーム
形状測定装置や玉摺機を常に誤差のないようにメンテナンス管理す
ることは,眼鏡店舗数の増加に伴う眼鏡フレーム形状測定装置や玉
摺機の増加となり現実問題として経営上成り立たない程の出費とな
る。その上,このメンテナンス管理を怠ると,・・・レンズの眼鏡
フレームに対する加工精度は全く保証できないものとなる。」(2
頁左下欄12行∼3頁左上欄7行)
b「(課題を解決するための手段及び作用)この課題を解決する
ために,本発明の眼鏡レンズ加工システムは,複数の眼鏡フレーム
形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュータから構成された眼鏡レ
ンズ加工システムであって,前記コンピュータは,前記複数の眼鏡
フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差量と前記複数の玉摺
機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手段と,眼鏡フレー
ム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを当該形状データ
を測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前記測定誤差量
と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し加工データ
を得るための演算手段とを有することを特徴とするものである。し
かも,前記眼鏡フレーム形状測定手段は各々少なくとも1台毎に複
数の眼鏡店舗に設けられ,前記コンピュータと前記複数の玉摺機は
加工センターに設けられ,前記各々の眼鏡フレーム形状測定手段と
前記コンピュータは公衆通信回線網を介して前記形状データの授受
が行われるように構成されている。」(3頁左上欄10行∼右上欄
11行)
c「[第1実施例]
(1)加工システム・・・玉摺機の構成は,前記した特願昭60−1
15079号に開示のそれと同様の構成を有しているので説明は省
略する。・・・
①フレームリーダFRの誤差量測定各店舗OS∼OSは,各々そのFR11n
で第2図に示す基準フレームFを測定し,そのデータ(ρ,θ)1ii
を加工センターMCへ転送する。この基準フレームには,金属板Pに
フレームのレンズ枠形状Fの基準孔Hを打ち抜いたものが用いられ1
ている(第2図(a)参照)。なお,この基準フレームとしては,
N箇所の基準動径データ(ρ,θ)[i=0,1,2,…N](第20ii
図(b)参照)が所定角度毎に正確に形成されたものを予め用意し
ておく。・・・例えば,店舗OSのフレームリーダFRの測定誤差量11
を求める場合には,上述の基準フレームの動径データを店舗OSのフ1
レームリーダFRにより基準動径データ(ρ,θ)[i=0,1,2,10ii
…N]に対応して測定し,フレームリーダFRによる新たな測定動径1
データ(ρ,θ)[i=0,1,2,…N]を得る。フレームリーダFR1ii
の測定データは,パソコンPCを介して,VAN等の公衆通信回線網NW11
kkで加工センターMCのパソコンPCに転送される。このパソコンPC
は,測定して転送された測定動径データ・・・と既知の基準動径デ
ータ・・・とから,各動径角θ毎にρとρとの差fを演算し110iii
て,・・・得る。また,パソコンPCは,求めた差f∼fを基k101N
11に,平均測定誤差量Fを・・・演算する。この平均測定誤差量F
を,フレームリーダFRの固有の測定誤差量として加工センターMCの1
記憶手段であるメモリ1に記憶させる。同様に,店舗OS∼OSにお2n
いても,各店舗OS∼OSのフレームリーダFR∼FRで同様に基準フ22nn
レームを測定し,各々の測定誤差量F∼FをパソコンPCで演算させ2Nk
て記憶手段であるメモリ1に記憶させる。・・・
②玉摺機LEの加工誤差量の測定・・・上述した基準フレームの基準i
動径データ・・・は,基準レンズデータにも一致するので,この基
準動径データを予め加工センターMCのパソコンPCに基準レンズデーk
タ(ρ,θ)[i=0,1,2,…N]としても記憶させておく。・・0ii
・例えば,加工センターMCの玉摺機LEの加工誤差量を求める場合に1
は,上述の基準レンズデータ・・・を基に玉摺機LEでレンズをフレ1
ーム形状に加工し,この加工されたレンズの動径を基準レンズデー
タ・・・に対応させてノギス等の測定治具で測定することにより,
加工されたレンズの測定動径(ρ,θ)[i=0,1,2,…N]を1′ii
得る。この測定により得られた測定動径(ρ,θ)[i=0,1,21′ii
,…N]はパソコンPCに入力される。このパソコンPCは,入力さkk
れた測定動径データ・・・と既知の基準レンズデータ(ρ,θ)0ii
・・・とから,各動径角θ毎にρとρとの差Kを演算して・110′iii
・・得る。また,パソコンPCは,求めた差K∼Kを基に,平均加k101N
111工誤差量Lを・・・演算する。この平均加工誤差量Lを,玉摺機LE
の固有の加工誤差量として加工センターMCの記憶手段であるメモリ
2に記憶させる。同様に,玉摺機LE∼LEにおいても,同様な加工2N
誤差量L∼LをパソコンPCで演算させてメモリ2に記憶させる。2Nk
(2)加工シーケンス・・・各店舗OSにおけるフレームの選択からレ
ンズ加工までの手順を,・・・説明する。・・・
ステップ10(S−10)店舗OSでは,備え付けのフレームリーダFR2
で顧客の選択した眼鏡フレームを測定する。2
ステップ11(S−11)このフレームリーダFRで測定された眼鏡フ2
レームの測定データ(ρ,θ)及び店舗OSの識別信号を,店舗O22ii
Sに備え付けのパソコンPCと公衆通信回線網NWを介して,加工セン22
ターMCのパソコンPCへ転送する。k
ステップ12(S−12)パソコンPCは,店舗OSから転送されてきk2
た識別信号から,送られてきた測定データが店舗OSのフレームリー2
ダFRで測定されたことを認識して,メモリ1からフレームリーダFR2
の測定誤差量Fを読み取り,CPU10に入力する。22
ステップ13(S−13)パソコンPCは,例えば,加工センターMC内k
の玉摺機LE∼LEのなかから現在使用されていない玉摺機LEを選択11m
する。
ステップ14(S−14)パソコンPCは,選択した玉摺機LEの加工k1
誤差量Lをメモリ2から読み出してCPU10に入力する。1
ステップ15(S−15)パソコンPCのCPU10は,店舗OSから転送さk2
れてきたフレームの測定データ(ρ,θ)と,メモリ1から読み2ii
出したフレームリーダFR固有の測定誤差量Fと,メモリ2から読み22
出した玉摺機LE固有の加工誤差量Lとから,加工データ(ρ,θ112i
)を・・・求める。・・・i
ステップ16(S−16)ステップ15で求められた加工データ・・・
に基づき,顧客の注文したレンズを玉摺機LEで加工する。」(4頁1
左上欄4行∼5頁右下欄14行)
d「(発明の効果)この発明は,・・・個々の眼鏡フレーム形状
測定装置の測定誤差や玉摺機の加工誤差を簡易に知ることができる
ことから,眼鏡フレーム形状測定装置や玉摺機を常に誤差のないよ
うにメンテナンス管理することが簡易に可能となる。」(6頁左下
欄1行∼12行)
(イ)刊行物5記載に基づく眼鏡レンズ加工システムの内容
上記(ア)の記載によれば,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工システム
は,①複数の眼鏡フレーム形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュー
タから構成された眼鏡レンズ加工システムであって,前記コンピュー
タは,前記複数の眼鏡フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差
量と前記複数の玉摺機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手
段と,眼鏡フレーム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを
当該形状データを測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前
記測定誤差量と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し
加工データを得るための演算手段とを有することを特徴とし,眼鏡フ
レーム形状測定手段は複数の眼鏡店舗に設けられ,複数の玉摺機及び
前記コンピュータは加工センターに設けられ,各眼鏡フレーム形状測
定手段と前記コンピュータとの間で公衆通信回線網を介して眼鏡フレ
ームの形状データの授受が行われるように構成されており,②加工セ
ンターに設けられた玉摺機において,前記コンピュータによって求め
られた,眼鏡フレーム形状測定装置の測定誤差と玉摺機の加工誤差を
補正した加工データに基づき,レンズを加工するものであることを理
解することができる。
しかし,刊行物5(甲5)には,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工シ
ステムにおいて,眼鏡店舗に設けられた眼鏡フレーム形状測定手段で
測定される眼鏡フレームの形状データとしては,「動径(ρ,θ)ii
[i=0,1,2,…N]」が記載されているにとどまり,眼鏡フレーム
の「ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状を測定することについての具
体的な記載はない。
また,刊行物5には,加工センターに設けられた玉摺機について「
玉摺機の構成は,前記した特願昭60−115079号に開示のそれ
と同様の構成を有している」(前記(ア)c)との記載があるものの,
加工センターに設けられた前記コンピュータが,ヤゲン形状に係る測
定誤差と玉摺機の加工誤差を補正して加工データを求めたり,その加
工データに基づき,玉摺機でヤゲン加工まで行うことについて具体的
な記載はない。
そうすると,刊行物5の上記記載部分に引用された特願昭60−1
15079号に係る特開昭61−274859号公報(甲14)に,
ヤゲン加工に関する事項が多数開示されているからといって,刊行物
5に,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コン
ピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う眼鏡
レンズ加工システムが記載されていると解することはできない。
(ウ)判断
以上の認定に照らすならば,製造側において手元に眼鏡フレームが
ない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいて
ヤゲン加工まで行う技術(眼鏡レンズ加工システム)が刊行物5に記
載されているとはいえないから,これと同旨の本件審決の認定に誤り
はない。
したがって,この点について本件審決の認定に誤りがあることを前
提に,刊行物4に,刊行物5記載の上記技術を適用して,相違点1な
いし3,5ないし7に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たとの
原告の主張は,その前提において失当である。
(3)小括
以上のとおり,相違点1ないし3,5ないし7に係る本件発明の各構成
を容易に想到し得たものではないとした本件審決の判断の誤りをいう原告
の主張は,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に本件審決
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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